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むささびの鳴き声
012 むささびは庶民がきらい
小泉首相が北朝鮮を再訪問する直前、羽田空港で立ち話風インタビューをやって「日朝関係の正常化をめざす・・・」という趣旨の抱負を述べていた。そのことについてあるテレビ局のコメンテイターが「何故人質を取り返しに行ってきます、と言わないのだ」と不満を述べていた。

そして帰ってみたら連れて帰れたのは5人だけということで、翌日(日曜日)のニュース番組(といっても私自身は3つしか見なかったけれど)はいずれも拉致被害者家族を出演させて、小泉さんに対する「怒りのメッセージ」を伝えていた。

「一国の首相たるもの情けない。金正日にしてやられた」というニュアンスの発言が圧倒的で、中には「こんな首相はもう辞めてもらいたい」という家族もいた。私の見た番組にはいずれも内閣副長官という人も出演していて、殆ど気の毒なほどに批判・非難の集中砲火を浴びていた。 これだけあしざまに言われれば、小泉さんの支持率もさぞやがた落ちであろうと思っていたら、翌日(月曜日)の新聞の世論調査は私の予想に全く反して首相の訪朝を「評価する」」という意見が67%にも達していた。

この調査結果に意外感を抱いたのは私だけではないと見えて、後日の新聞には、この世論調査結果に対して読者からの「批判」がかなりの数あったという記事が出ていた。 世論調査を非難? あるテレビ局のコメンテーターなどは「これらの調査結果は世論を反映していない」とまで言っていたのだそうだ。奇妙な話ではある。世論調査の結果は「意見」ではなくて客観的な数字なのであるから「批判」の対象としては向いていない。

そのコメンテーターは世論調査が、様々なニュースや報道番組が放送される(つまり拉致家族による小泉批判のメッセージが放送される)前に行われたのではないかと発言していたそうである。この人によると「これだけの番組を見れば誰だって小泉なんか支持するはずがない」と考えていたようなのである。

拉致被害者家族による小泉さんに対する「怒りの」記者会見だのインタビューだのをテレビで見ていて私は余りいい気持ちがしなかった。何故いい気持ちがしなかったのか・・・そのあたりが自分でも気になって仕方がない。自分なりに納得のいく説明をしてみよう。

実際の話、最近では拉致家族に対する風当たりの方が強くなっていて「言いすぎだ」とか「むしろ感謝すべきだ」という類の手紙やらメールが被害者たちのところに届いているのだそうだ。しかし自分の名誉のために言っておくと、私の「嫌な気分」は被害者たちに向けられたものではない。それは家族らにインタビューをするテレビ番組のキャスターと呼ばれる人たち対するものなのではないかと思うのだ。

それぞれ一様に「こんな成果しかなくて全く不満ですよね、そうでしょ?でしょ?」というわけで、恰も自分たちが拉致家族という「弱きもの」の代弁者・正義の味方であるかのような雰囲気である。そのように振舞うことで彼らは、自分たちこそが視聴者の「庶民・国民感覚」のようなものを代表しているのだと勝手に思い込んでいる。「政治家はだらしない、信用できない。俺たち庶民をバカにしている」という妙な「庶民」感覚である。

考えてみると日本のマスコミで、政治家が褒められることは殆どない。大体が「国民の苦しみなど全く分かっていない"永田町"の住人たち」というような言い方で蔑まれる。まるで政治家のことを悪く言うことがマスコミ人としての義務であるかのようである。で、たまに街頭インタビューなどされると「政治家なんてどれも同じじゃないですか?」という妙に冷めた意見が多かったりする。 私の嫌な気持ちは、拉致家族の怒りの声を代弁し、小泉はダメだというメッセージを繰り返すマスコミのセレブリティたちに向けられているようである。家族の声を代表しているかのように振る舞いながら、実は視聴者を満足させるために家族の怒りを利用して番組を作っているにすぎない人たちである。

さらに言うと、そのような番組を見て、拉致家族に対して批判の言葉を投げつける人たちの無神経さ加減もかなり許しがたい。この人たちは、以前にイラクで人質になった若者たちの家族に対して「自業自得だ」という言葉を投げていた人たちと酷似している。自分たちは家族の苦痛や不安とは無縁の場所にいながら、分かったような批判をする。「政府のやることに口出しするな」と言う姿勢も何故か似ている。

自分の親兄弟が拉致されたわけではないのだから、被害者家族の苦痛など分かるべくもない。分からないのだから、せめて黙っていて欲しいのだ。分かったような顔をしないで貰いたいのである。

最近、英国で行われた「職業別信頼度調査」なる世論調査によると、サンプルとして挙げられた13の職業人のうち政治家はビリから2番目で、信用度は100点満点の20点となっている。政治家が信用・尊敬されていないという点では、英国も日本も似た者同士のようである。

信用度最低はマスコミ で、先の英国における「職業別信頼度調査」においてビリから2番目が政治家なら一番ビリ(つまり最も信用されていない)は何だったかというと、「ジャーナリスト」で、信用度18ポイントであった。

つまり英国では(ジャーナリストによってこき下ろされる)政治家のさらに下にくるのがジャーナリストだという奇妙な結果となっている。おそらく日本でもこの種のアンケートは行われていると思うけれど、日本の新聞やテレビで、メディアに対する信頼度(人気度ではない)はどの程度なのであろう。是非知ってみたい。

庶民への評価 ところで英国の信用度調査の項目には「庶民」(ordinary people)というのもあったけれど、これに対する信用度は53ポイントであった。13項目中の第7位である。これを高いと見るのか、低いと見るべきなのかは分からないけれど、調査対象がordinary peopleであることを考えると、英国の庶民たちは自分たちのことを結構醒めた目で見ているとも言える。半分だけ信用する・・・如何にも英国らしい真ん中主義ではある。

日本の世論調査では「普通の人たち」はどの程度の信用度を獲得しているのだろうか。北朝鮮の拉致家族やイラクの人質家族に対して非難めいた言葉を浴びせているのは、まぎれもなく「普通の人たち」なのだ。彼らが自分たちのことをどの程度信用しているのだろうか。気になる。が、私を嫌な気分にさせているのが、この種の普通の人たちであることは間違いない。