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むささびの鳴き声
018 「伝統的な日本の公共意識」って何?

新聞や雑誌を何気なく読んでいると、思わぬところで思考を刺激される記事に出会うことがあります。インターネットには、この「何気なく」というのがないのですよね。最初から目的意識ギンギラギンという感じでコンピュータの画面に見入るわけです。疲れます、はっきり言って。

で、最近出会った刺激的な記事は、毎日新聞の11月21日付けの2面の下に出ていた「発信箱」というコラムの「暴走する『自由』」というものでした。書いたのは「編集局」の山田孝男という人でした。

約700字という極めて短い記事なのですが、京都におけるブッシュ・小泉会談に関連付けて、「自由」を連発するブッシュさんとこれを「無条件に支持して日本の安全と繁栄を守ると胸を張った」小泉さんへの批判という趣旨になっています。

山田さんは、ブッシュや小泉のいう「繁栄」は「20世紀後半にモンスター化した欲望充足型の資本主義に基づいている」として、現代の「自由な」日本では貧富の差が拡大し、人々の慎みは奪われ、利己心のみがはびこって争いを呼び、「警察による監視が強まってゆく」と書いています。まさに「暴走する自由」というわけです。

そして今の日本(とりわけ小泉さん)に必要なのは「日米同盟への忠誠度ではなく、米国化する社会と伝統的な日本の公共意識の調和だと思うが、首相は複雑な話には関心がない」と結論しています。

このエッセイを読んで、私が面白いと思ってしまったのは二つあります。一つは「暴走する自由」が警察の監視を強める、という指摘です。正直言って、私は「最近の風潮は情けない・・・昔はよかった」という言い方にはついて行けないものを感じるのですが、「欲望充足型の資本主義」が警察権力をはびこらせるというのは考えたことがなかったわけ。山田さんの指摘はその意味で面白いと思ったわけであります。

それよりももっと面白いと思ったのは、「米国化する社会と伝統的な日本の公共意識の調和」という部分です。山田さんは、小泉さんが「複雑な話には関心がない」と嘆いていますが、この部分は私にも「複雑」であります。ここで言う「米国化」は要するに「良くも悪くも個人の自由が全て」という姿勢のことと勝手に解釈するとして、「伝統的な日本の公共意識」って何?

話は変わりますが、今から約25年前に英国でマーガレット・サッチャーという人が首相になりました。その当時流行った言葉としてThere is nothing wrong with greedというのがあります。greedは「金銭的な欲望」という意味ですよね。ちょっと乱暴な言い方をすると、彼女は「欲望充足型の資本主義のどこが悪いってのさ」と主張したようなものであります。

彼女が推進した民営化だの合理化だの規制緩和だのによって、失業は急増するは、所得格差は広がるは・・・といういろいろな問題が生まれたのですが、その代わり英国人は、欲望追求の自由も得たわけです。毎日新聞の山田さんのいう「暴走する自由」が英国にやって来たわけです。

この間のことはもっと詳しく説明したいのですが、簡潔できるような知識も技術もないので、決めて大ざっぱに言わせてもらうと、サッチャー登場前の英国は、労働党政権下で経済が停滞してメチャクチャな状態であったのです。「それもこれも左翼社会主義のせいだ」というわけで、サッチャーさんが推進したのが、今の小泉さんと同じ、民営化、規制緩和、政府の財政支出の大幅削減等などでした。

それから25年後の今、サッチャーさんと同じ経済政策を続けるブレア政権の英国は少なくとも表面的には繁栄しています。町はきれいになったし、ホームレスもいなくなった。昨年オックスフォード大学のサマーコースで、ある教授が「サッチャーの登場でgood old Britainは無くなったのだ」と言いました。「で、人々は幸福なのですか?」という私の問いに対する答えがhappy but uncomfortableというものでありました。You can't buy happiness by moneyとも言っていたので、物質的には豊かになりながらも、精神的には必ずしも満ち足りていないということを言いたかったのだろうと思います。

で、毎日新聞・山田さんの記事です。25年前、英国ではサッチャーの登場で、それまでの「安定」した英国が消えて不安定な社会が出現した。でも25年後にはこうなっている。オックスフォードの先生はhappy but uncomfortableと言ったけれど、これはuncomfortable but happy (気持ち的には満ち足りていないかもしれないが、物質的には豊か。その意味ではハッピー)と言い換えることもできる。

現在、日本人は「自民党をぶっ壊す!」と叫んだ首相を支持した。「自民党をぶっ壊す!」ということは、good old Japanをぶっ壊すという意味でもあります。しかるに、最近の雑誌などを読んでいると、自民党の派閥政治だって「(現在の)独裁よりはよかった」という人だっているのだから、小泉前のgood old Japanをノスタルジアという意味だけではなくて積極的に評価する人だっているのですよね。

毎日新聞の山田さんという記者のいわゆる「伝統的な日本の公共意識」というのは、「ぶっ壊される前の自民党」が支配していた、「あの日本」のことを言うのでありましょうか?非常に気になる。 違うとすれば、それはどのようなものなのでしょうか?もっと気になる。