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むささびの鳴き声
046 フランスのメディアと政治

12月1日付けの英国のThe Independent紙のサイトに、あるフランスの新聞社の幹部が「どちらかというと些細な名誉毀損(a relatively trivial libel case)」を理由に暴力的(brutal)なやり方で逮捕されたというニュースが出ていました。Liberationという新聞社の幹部で、「些細な名誉毀損」というのが何を指すのか、詳しく出ていないのですが、2年前にこの新聞社のサイトに掲載された「読者からのコメント」が改ざんされたということのようです。それから「暴力的な逮捕」というのは、早朝、それも日の出前に、しかもこの幹部の子供たちが見ている前で、警察にののしられて手錠までかけられたことを言っている。

この逮捕劇について、サルコジ大統領が所属するUnion pour un Mouvement Populaire(国民運動連合)のスポークスマンも含めた政治家からは「やりすぎ」との声が上がっており、警察のやり方を調査すべきだとの声が上がっている。またこの事件は「フランスのマスコミの財政的・政治的な立場についての調査と検討」(discussions and investigations on the financial and political status of the press in France)を行おうというキャンペーンを始めたばかりのサルコジ大統領にとって、まことに「かっこ悪い」(embarrassing)ものになっている、とThe Independentは言っている。

フランスについては言語の関係で殆ど何も知らない私が、The Independentの小さな記事に興味を持ったのは、つい最近、あるフランス人から教えてもらったフランス人とメディアの関係についての世論調査の結果があります。Le Nouvel Observateurという雑誌のサイト(英訳)に出ていたもので、フランス人の63%が「ジャーナリストは政治的な圧力から独立していない」(journalists are not independant enough from political pressure)と考えており、60%が「ジャーナリストは金銭の圧力にも弱い」(not independant enough from money pressure)と思っているとのことであります。

私、フランスのジャーナリズムについての知識はゼロというわけでBBCのサイトを調べてみたら、フランスの新聞の主なものとして次ぎのようなものが挙げられていました。

Le Monde:最も権威があるとされる全国紙
Liberation:1973年にサルトルらが作った左派系の全国紙
Le Figaro:どちらかというと右派系の全国紙
Ouest France:イチバンよく売れている日刊紙

つまりこのほど「暴力的な逮捕」の犠牲になったのは、あのサルトルが作った新聞の幹部であったということですね。The Independentによると、フランスでは名誉毀損の疑いがある記事掲載をした場合、記者よりも新聞発行主が逮捕されるのだそうですが、新聞社運営するウェブサイトにおける読者のコメントについてまで、新聞社幹部が責任を持つべきなのかどうかは未だはっきりしていないとのことです。ただ、今回の「名誉毀損」の訴えは、ネット・ビジネスをやっているXavier Nielという人物から起こされたものだそうです。この人、かつて2度ほどこの新聞社を名誉毀損で訴えて負けた経歴がある人だそうです。

▼この逮捕事件はともかく、フランスにおけるジャーナリストと政治(家)の関係ですが、私がお付き合いをいただいている、フランスの事情通ジャーナリスト(日本人)によると「一部の著名ジャーナリストを除いて、ジャーナリストは政治家や大企業経営者に癒着し、彼らの代弁をし、その見返りにさまざまな便宜(カネやバカンスの別荘提供など)を受けていると一般に見られている」ことがあるそうです。「一般に見られている」ということと、実際にそうだ、というのでは違うけれど、「見られている」というのはまずいですよね。

▼この事情通によると、フランスの新聞の場合、客観報道よりも「ジャーナリストの意見開陳の場であるケースが多い」のだそうです。だから、非常に面白くて目から鱗が落ちることもあるけれど、「くだらない意見開陳」も少なくないとのことです。この人は、新聞に関してはアングロサクソン系の方が客観的で、フランスについての報道さえも、そちらの方が参考になることがあるとのことです。

▼別のフランスに詳しい人(日本人ではない)によると、フランスでは政治家とジャーナリストが夫婦であることが結構多いとのことです。私が尊敬して止まなかった英国人ジャーナリスト、Anthony Sampsonによると、英国では著名ジャーナリスト同士が結婚することが多いのだそうです。どうでもいいことかもしれないけれど。