外国人に日本語の動詞を教えるとき、「現在形」とか「過去形」とかいう用語は使わず、何故か「マス形」とか「タ形」とかいう言い方で教えることになっている。 例えば、「行く」という動詞については、「マス形」は「行きます」、「タ形」は「行った」。それから「行く」は「辞書形(または普通形)」、「行って」は「テ形」、「行かない」は「ナイ形」、「行ける」は「可能形」という具合である。 実際に動詞について教えてみて、無意識に、と言うより英文法を学んだ影響かもしれないと思うのだが、我々は「タ形」は過去形だと思い込んでいるふしがあることに気付いた。
「えっ?そうじゃないの?」という人に、次のような例文を紹介してみよう。★休みの日はテレビを見たり、散歩に行ったりします。この文の中の「見る」とか「行く」は過去の動作ではなく、習慣として日常そんなことをして過ごすことを並べて言っているわけで、「休みの日はテレビを見ることもあるし、散歩に行くこともある」とか「テレビを見るなり、散歩に行くなりします」という意味である。因みに、文法書によると★印のような文の時制は、途中の動詞ではなく文末で示されると説明してあった。だからこの文のタ形の動詞は過去時制ではない、と。
外国人にタ形を教えるときには、気を付けないと後で「何故この場合過去のことじゃないのに過去形を使うのか?」と質問されてしまうことがある。普通の日本人が外国人に「<見る>と<見た>はどう違うのか」と聞かれたらおそらく十中八九<見る>は現在形で<見た>は過去形だ、と答えてしまうのではないか。我々がすっかり過去形だと思い込んでいたものが、実はそうとは限らないんだということに気付かされるというのは母国語のことだけに新鮮な驚きがある。
「行ったり来たり」とか「晴れたり曇ったり」とかの表現のように、ある状態や行為を繰り返すときの様子を表したり、他にもあるという含みで例を挙げるときに用いたり、はっきり言わないことで表現をやわらかくするような効果もあるので、若い人のくだけた話し言葉にも最近使われるようになったそうである。★「ちゃっかりご馳走してもらったりして、、、」などのように。 つまり、タ形は必ずしも過去形ではないので、外国人には敢えて「タ形」という言い方を使うことで<例外>を少なくし、質問された時の逃げ道にしているのかなと考えていたら、外国人に教える日本語文法書に、もう一枚上手の逃げ道(?)が出ていた。なんと、「タリ形」などという別枠まで用意されていた。
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