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美耶子の言い分
023 犬達皆吾が師

主人の実家に吉川英治直筆の「我以外皆吾が師」という書が鴨居にかかっていた。結婚する前に主人本人からだったか、主人の両親からだったか忘れたが、その書を見て主人は学生時代に「我以外皆吾が弟子」と言ったと聞いたことがある。こういうことを本心ともジョークとも取れるような感じでサラリと言うところが、春海二郎独特のセンスだと思う。そしてそのことを特に主人の母は「なかなか見所のある息子」と評価していたのを覚えている。

私なら迷わず、「ワンちゃん皆吾が師」と言いたい。(私は「イヌ」という言葉を使うのに非常に抵抗があるので「ワンちゃん」という言葉を使うことを許して貰いたい)。 つい最近我が家の四つ子のワンちゃん達は13歳になった。人間でいうと70歳ぐらいらしい。つまり我々より年上になったわけである。この子達を取り上げた「産婆」として私は、実に感無量である。今でも生まれ出て来たばかりの時のそれぞれの様子がくっきりと目に浮かぶ。

この子達の母親のHanna(黒柴)は5歳のときにこの子達を産んだのだが、その時の出産の一部始終は私の座右の銘(?)「ワンちゃん皆吾が師」を決定的なものにした。初めての出産に彼女はうろたえることもなく、しかし少し不安そうな様子で、全てを起こるがままに、あるがままに受け入れた。その態度は見事だった。昨今、人間の若妻が出産には大騒ぎををして、やれ夫に立ち会ってもらわないととか、手を握っていてもらわないと、とか言うのを聞くと「甘えるのもいい加減にしろ!!一人で立ち向かえ!」とつい怒鳴りたくなってしまう。

そのHannaは11歳8ヶ月で1997年に亡くなったのだが、その時もすべてを起こるがままに、あるがままに受け容れるという態度だった。自宅での3ヶ月の闘病生活を傍で見てきたことで、本当にいろいろと教えられる事が多かった。今でもそれを思うと涙が出て止まらなくなる。(実は今も泣きがら書いている、、、。)

その子供達が母親より長生きをして、13歳になった。四つ子だから皆同じ年齢なのだが、人間と同じで歳のとり方も人によって違うようだ。四番目に、つまり最後に母親の胎内から出てきたRuthは一番下の妹でイチバン若い(尤もたったの5時間程度)筈なのだが、このところ少し老人性の痴呆ぎみで、庭に出て戻ってきた後、いつも自分の居る場所(自分の定位置)が何処だったか一瞬忘れてしまうようで、ウロウロ(徘徊)している事がよくある。若い時の写真と比べるとさすがに皆、歳をとった顔になったが、彼らは彼等流の「歳のとり方」をこれから教えてくれるにちがいないと私は確信している。