メディア王のルパート・マードックは、強力なイスラエル贔屓で知られています。この人に最近買収されたアメリカの経済紙、Wall Street
Journalの場合、もともとイスラエルよりの論調だから、マードックがオーナーになっても変わらない。
が、保守派のオピニオン・マガジンThe Spectatorによると、マードック傘下にある英国の新聞はちょっと事情が変わるかも・・・と言っています。The
Times, The Sunday Times, The Sun そしてNews of the World、いずれもマードック傘下にあり、イスラエル寄りなのですが、これらの新聞の経営はマードックの息子のジェームズに任されることになっている。この息子というのがパレスチナ寄りとされているというわけです。
ジェームズがパレスチナ寄りであるというウワサの根拠としてThe Spectatorは、ブレア首相の報道官をつとめたAlastair
Campbellの回想録に出て来るあるシーンを挙げています。2002年1月のことなのですが、ブレア首相の官邸で夕食会があって、そこにルパート・マードックが二人の息子(兄がラハラン、弟がジェームズ)と参加した。
席上、兄のラハランが、中東和平に関連してイスラエル寄りの発言をしたところ、弟のジェームズが「なにアホなこと言っとるんじゃ(You’re
‘talking f****** nonsense)」と噛み付いた。さらに父親のルパートが「パレスチナ人の問題って何なのか?」と口を挟んだところ、ジェームズが
問題ちゅうのはな、パレスチナ人は家を追い出されてどこへも行く場所がないっちゅうこっちゃ(it
was that they were kicked out of their f****** homes and had nowhere
to f****** live)
と怒鳴り返した。f******というのが入ると、どうしても日本語的には「この、どアホ!」というニュアンスになる。
ジェームズは、あろうことか首相主催の夕食会で、怒鳴り散らしてしまったことを詫びたことは詫びたのですが、パレスチナよりの考え方そのものについては、一切謝らなかった、とCampbellは記しています。
英国にあるマードック系の新聞が、パレスチナ寄りになるということは、タイヘンなシフトということになるし、イスラエル系のロビー活動にとっては重大な関心事(a
matter for grave concern among the pro-Israeli lobby)となる。が、彼らにとってちょっとした慰めは、The
TimesのJames Harding編集長がユダヤ人であることだろう、とThe Spectatorは書いているのですが、それでも経営者がパレスチナ寄りになるということで「マードック傘下の新聞の奴隷的イスラエル支持の時代は終わりそうだ」(the
days of Murdoch's London papers' slavish support for Israel would
seem to be over)と結論しています。
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英国のブラウン労働党政権を悩ませている問題の一つに、政治献金にからむ「スキャンダル」があります。
不動産会社を経営するDavid Abrahamsという人が、労働党に60万ポンド(約1億5000万円)の献金をしたのですが、その際、自分の名前を伏せて、別の人間の名前で献金したことが選挙法違反だというわけです。さらに労働党のJon
Mandelsohnという選挙資金担当者が、その献金の仕方が違法であることを知りながら金を受け取り、しかも黙っていたという責任を問われています。
政治献金にまつわる疑惑といえば、ブレアさんが首相であったころにビジネスマンのLord Levyという人物が、選挙資金を寄付したことの謝礼として、貴族院議員の資格を与えられたのではないかということが問題になった。結局、この人は罪にはならなかったのですが・・・。
Abrahams、Mandelsohn、Levyの3人に共通するのが、3人ともユダヤ人であるということで、メディアの中には、スキャンダルの背後には「ユダヤ人の陰謀」(Jewish
conspiracy)があるのではないか、というニュアンスの記事を掲載するところが出てきている。
Jewish Chronicleというユダヤ人向けの新聞は、このスキャンダルによって「ユダヤ人叩き」が起こるのではないかと心配するコメントを載せています。例えばAndrew
Dismoreというユダヤ系国会議員は、
誰もがユダヤ人の利益との関連性やユダヤの陰謀の証拠を探し回っており、マスコミはそれを発見しようと、一枚一枚、石をはがすようなことをやっている(People
are looking for links to Jewish interests and evidence of a Jewish
conspiracy. The press are turning every stone to find one.)
として、「今回の献金問題も、ユダヤ人が絡んでいなければ、これほどの大々的な報道にはならなかったはずだ」(the
case would have received such intensive coverage if it did not involve
Jews)と言っている。
ではどのような報道を称して「ユダヤ人叩き」というのかというと、例えばDaily Telegraphのサイト(11月30日)は「本当の資金提供者を捜せ」(Hunt
for the Real Donor)という見出しの記事とともに、Abrahams氏が、元駐英イスラエル大使と握手している写真を掲載している。記事ではこの元大使が、マネーロンダリングの疑いを持たれたこともある人物であり、現在は中東和平のための特使をつとめるブレア氏のアドバイザーにもなっていると紹介されている。
もっとそれらしいのは、The Independentが12月3日付けのサイトに掲載した寄稿文で、労働党イスラエル友の会(Labour
Friends of Israel: LFI)という組織によるロビー活動に触れて、この友の会の活動は「後ろ暗い(shadowy)」ところがあり、彼らの「舞台裏での影響力行使」(back-room
influence)は薄気味悪いとしています。この組織はイスラエル政府の意見を伝えるための組織であり、英国の中東政策を陰で形成するのに一役買っているとしている。ちなみに保守党にもConservative
Friends of Israelという「友の会」があるらしい。
今年、イスラエルがレバノンを爆撃したときに、ブレア首相がイスラエル寄りの姿勢をとったのは、首相と「友の会」の特別な関係が理由の一つである(Tony
Blair's abject performance during the last Israeli assault on
Lebanon was partly the result of the special relationship he had
with LFI)
とまで言っている。この筆者は「モーゼの怒りを買いたくはないが」(I have no wish to
bring the wrath of Moses upon)とか「反ユダヤと非難されることを覚悟で言うと」(I can already
hear the accusations of anti-Semitism)のように、如何にも「ユダヤの陰謀」をほのめかすようなトーンで記事を書いている。
政治献金スキャンダルにユダヤ人が絡んでいることについては、12月8日付けのThe Economistの政治コラムBagehotが「献金スキャンダルが語る英国のユダヤ人と移民たち」(What
the funding scandal really tells us about Britain, its Jews and
immigrants in general)という記事で取り上げて解説しています。
英国は対ユダヤ人の偏見も少なく、英国で暮らすユダヤ人たちは、ユダヤ人であることを隠す必要もなく、英国は最もユダヤ人でありやすい(one
of the best places to be Jewish)であるとしながらも、彼らには英国社会に対する「漠然としてはいても強い感覚」(a
vague but powerful sense)というものがあるとしています。すなわち:
英国には内輪の聖域、目に見えない主賓席のようなものがある。そこではうわべだけは歓迎されているように見えても、新参者は、生まれや出身階級が故に実際には歓迎されることがない。(there
is somewhere an inner sanctum of Britishness, an elusive top table,
to which, by reason of birth and class, the newcomer is not invited,
ostensibly welcomed though he may be)
英国社会ではトップテーブル(主賓席)につくために、ユダヤ人を含めた「新参者」は、巨額の寄付をしたり、目立つような慈善活動をしたりという涙ぐましい努力をしなければならない。彼らは英国社会で認められるために、トップの人たちと付き合いがあることを誇示する必要があるとも感じているというわけで、The
Economistは問題のAbrahams氏が若いころに、両親とバッキンガム宮殿のパーティに呼ばれたときの写真を紹介、「この写真が多くのことを物語っている」としています。
英国におけるユダヤ人の歴史ですが、BBCのサイトによると、最初に到着したのは11世紀の初め、1066年にウィリアム征服王(William
the Conqueror)が,ヨーロッパ大陸からイングランドへやってきてここを制圧したときに、ユダヤ人を連れて来たことに端を発しているのだそうです。何故ユダヤ人を連れて来たのかというと、彼らが商人であり、銀行業に秀でていたということだった。当時のイングランドでは、キリスト教徒は利子を取って金を貸すことを禁止されていたのだそうです。
が、金儲けが上手であることがキリスト教徒たちのねたみを呼び、社会的な迫害にさらされるようになり、13世紀の終わりごろになって、当時のキングがユダヤ人追放を決めるに及んで、多数のユダヤ人が大陸へ脱出した。17世紀になって、清教徒革命の指導者であるオリバー・クロムウェルがユダヤ人の帰国を認めたことで、再びイングランドへやって来てユダヤ教を実践することを許された。英国最初のユダヤ教の集会所(シナゴーグ)が開設されたのが1656年のこと。昨年(2006年)、イングランド各地で「ユダヤ人の復帰350周年祝賀行事」が行われたのだそうです。
▼英国の有名人にはユダヤ人もいます。私でも聞いたことがある名前を挙げると、Benjamin
Disraeliは、1874年に英国初のユダヤ人首相なった人ですね。 Lionel
de Rothchildは、1847年にユダヤ人としては初めて国会議員に選ばれたのに、宣誓式でキリスト教との「連帯」を拒否したために国会には入れなかった。ロスチャイルド家は19世紀の初め、ナポレオン戦争の資金を提供した銀行家として有名です。
Yehudi Menuhinは最も有名なバイオリニストです。
▼となると知ってみたくなるのが、世界的に見た有名ユダヤ人ですね。Famous
Jewsというサイトによると、心理学者のフロイド、相対性理論のアインシュタイン、哲学のカール・マルクス、スピノザ、革命家のトロツキー、原爆開発のロバート・オッペンハイマー、ワシントン・ポストの社主(だったと思う)キャサリン・グラハムなどときて、俳優のところを見たら、ケリー・グラント、ハリソン・フォード、ポール・ニューマン、ダスティン・ホフマンらの名前がありました。
▼ナザレのイエス(Jesus
of Nazareth:イエス・キリスト) については「イスラエルがローマ人に占領されていた時代の預言者であり教師:Prophet
and teacher of Roman-occupied Israel)という説明が出ておりました。
▼私、正直言って、ユダヤ人のことには関心も知識もゼロなので、特に日本人が「ユダヤ人の陰謀」などと言うのを聞くと違和感を覚えます。それにしても「有名人」リストには驚きですね。「キラ星のごとく」とは、こういうのを言うのでありましょうか?
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