The
Economistの2月23日号(アジア・太平洋版)のトップにJapainという記事が出ています。iの文字を入れるとpain(痛み)ということになるという言葉遊びでありますが、イントロが「世界第二の経済大国が、未だにどうしようもない状態にある。政治に問題があるのだ(The
world's second-biggest economy is still in a funk, and politics
is the problem)」となっている。Japainの訳は、「日本の痛み」ではなく、私なら「日本という痛み」とでもするかもな。世界にとっての「痛み」なのですが、別の言い方をすると「お荷物・日本」ともなる。
日本は貿易や競争の面で大きな改革を必要としており、それなしには経済は立ち直らないだろう(Japan
needs a swathe of reforms to trade and competition without which
the economy will continue to disappoint)というのが、この記事の基本的なメッセージなのですが、その改革を阻んでいるのが政治家だというわけです。おおざっぱに言うと、ここでいう改革とは、あの小泉さんが推進したもろもろの改革のことです。
The Economistによると、日本の憲法は衆議院と参議院が対立する政党によって支配される状態(ねじれ状態)は想定していなかった。インド洋の給油法案を通すのに、福田さんは4ヶ月もかかったりしているというわけですが、問題は憲法がどうのこうのということだけではない。
日本は、かつてのような「一党国家」ではないが、ライバル政党が政権交代をするという競争的な民主主義でもない、という妙な状態に置かれている(Japan
is at an uncomfortable point: no longer a one-party state, yet
still far from being a competitive democracy with rival parties
alternating in power.)
ということですが、自民党も民主党も「矛盾」を抱え込んだままでいる。古い勢力と新しい勢力が混在している。自民党には改革派もいるけれど昔ながらの保守勢力(派閥・官僚・建設業界・農業等など)もいるし、民主党には昔ながらの社会主義者もいる。民主党の小沢一郎代表は「昔は改革的な要素を有していたけれど、今では昔の自民党のボスのようだ」(the
DPJ's leader, Ichiro Ozawa, who used to have a reformist streak,
now sounds like an old-style LDP boss)とThe Economistは言っている。両党が抱える矛盾を解消し、それぞれの言行不一致に気付かせるためには選挙、それも「一連の選挙」がイチバン効き目があるだろう、と言っています。
The Economistはまた、福田さんと小沢さんが、昨年11月に検討した「大連立」(grand coalition)について、「民主党の指導層が賢明にも反対して挫折させた」(DPJ
leadership, rightly, balked)として、
大連立というやり方は、実際には、日本を一党国家の状態に逆戻りさせたであろう。経済の改革ではなく、気前のいいばらまき政治の状態である(in
effect, it would have taken Japan back towards being a one-party
state, distributing largesse rather than reforming the economy)
と決め付けています。が、The Economistは「希望の芽もある」として、改革派の政治家・学者・産業人によって立ち上げられた「選択」というグループの動きを挙げています。「選択」は使われない高速道路や渡れない橋によって、自分の選挙区を窒息させるような政治家には投票しないように呼びかけている、というわけです。
政治家の多くは、総選挙は混乱を深めるだけだと言う。それは破綻した制度にあぐらをかいて太ってきた古い政治階級の言うことだ。日本の選挙民は事態をきちんとさせることを始めるだけの機会を必要としているのだ。もし混乱を選ばなければならないというのであれば、それもいいではないか。(Many
politicians say a general election would only add to the chaos.
That is the argument of a political class grown fat on a broken
system. Voters need a chance to start putting it right. If choice
is chaos, bring it on)
というのが結論のようです。
▼先日、ラジオを聴いていたらリスナー参加の討論をやっていて、話題が「半年経っても機能不全と言われる"ねじれ国会"・・・衆参の勢力が逆転した"ねじれ"状態は解消すべきだと思いますか?」というものでありました。リスナー・アンケートの結果として「解消すべき」が77人、「そうは思わない」が228人という結果であったそうです。圧倒的多数が「ねじれオーケー」と言っているわけですが、これ、私は非常に健全であると思いますね。
▼詳しくは知らないけれど、アメリカの場合、大統領(ホワイトハウス)と議会の意見が対立することがありますね。両方とも選挙で選ばれているのだから、どちらも「国民の声」の代表であるわけ。衆参と同じです。で、意見が異なると、お互いに相手を説得しようと言葉を使って努力する。時には大統領が拒否権を行使したりもする。
▼はっきりしていることは、対立すると議論が始まるから、いろいろなことを考えたりする機会が生まれるということですよね。「ねじれオーケー」が健全な感覚だと思うのは、それが理由です。その反対が「大連立」というアイデアですね。議論嫌いの発想です。
その昔、英国にケインズという経済学者がいました。第二次世界大戦後の英国経済の立て直しの際に政府のアドバイザーをつとめたことがある人です。私は経済学のことなど、なんにも知らないのですが、非常におおざっぱに言って、「経済不況になったときに、政府が市場に介入して経済政策によって有効需要を作るべきだ」というアイデアであると理解しています。
間違っていたらごめんなさいという他はないけれど、いま日本で問題になっている「道路」もそうですね。どこかの町だか村だかに道路を作るとうい場合、道路が必要というよりも道路工事が必要としか思えないケースもあるわけですね。道路は不必要かもしれないけれど、道路工事をやれば建設会社にはお金が入る。建設会社の社員の給料が上がれば、いろいろなモノを買うだろう。そうすればその町の景気がよくなる・・・言うまでもなく、道路建設のお金は税金です。つまりケインズ経済というわけ。違います?
ここでケインズ経済学のハナシをしようというのではありません。Le Monde Diplomatique(LMD)の最近のウェブサイトを見ていたら、アメリカのChalmers
Johnsonという人が、「アメリカ経済は軍事ケインズ主義だ」という趣旨のエッセイを掲載しており、非常に面白いと思うと同時に暗澹たる気持ちになってしまったので、それを紹介させて貰いたいわけであります。原文(英語)はメチャクチャ長いものなので、とても全部は紹介できません。ほんのエッセンスだけ紹介しますが、それでもかなり長くなってしまう。原文はここをクリックすると読むことができます。
このエッセイは次のような書き出しになっています。
アメリカ経済における異常さは、サブプライムローンとか住宅バブルとか経済不況云々という事柄だけでは説明ができない。60年間におよぶ資源配分の誤りと借金経済によって、国の経済の基盤を産軍複合体の維持ということに置いてきた異常さによって説明できる。(there
is an enormous anomaly in the US economy above and beyond the
subprime mortgage crisis, the housing bubble and the prospect
of recession: 60 years of misallocation of resources, and borrowings,
to the establishment and maintenance of a military-industrial
complex as the basis of the nation’s economic life)
軍事予算にとてつもないお金をつぎ込むことで、資本主義経済を永遠に支え続けることができると信じている・・・これがJohnsonのいわゆる「軍事ケインズ主義」(military
Keynesianism)です。アメリカの軍事予算がどのくらいすごいかを示すために、筆者は世界各国の国防予算トップ10を紹介しています。
アメリカ(2008会計年度)
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6230億ドル(62兆円)
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中国(2004年度)
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650億ドル(6兆2000億円) |
ロシア
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500億ドル(5兆円) |
フランス(2005年度)
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450億ドル(4兆5000億円) |
英国
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428億ドル(4兆2800億円) |
日本(2007年度)
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417億5000万ドル(4兆1700億円) |
ドイツ(2003年度)
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351億ドル(3兆5100億円) |
イタリア(2003年度)
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282億ドル(2兆8200億円) |
韓国(2003年度)
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211億ドル(2兆1100億円) |
インド(2005年度推定)
|
190億ドル(1兆9000億円) |
この中のアメリカの国防予算にはイラクとアフガニスタンにおける戦費(補正予算に入る)は含まれていないのですが、それでも全世界の国々の軍事予算を全部併せてたものよりも大きいのだそうです。Johnsonは、アメリカがイラク、アフガニスタン戦争で使うお金だけでも、ロシアと中国の予算を併せたものよりも大きく、イラクとアフガニスタンの戦費も入れた2008年度の軍事費は、史上初めて1兆ドルを超えるものとしている。
Chalmers Johnsonはアメリカの軍事ケインズ主義の本質は「永遠の戦時経済」(permanent war economy)の体制を維持し、軍事関連の「生産」(output)を通常の経済生産と同じように見なそうとすることにあるとしています。軍事関連の生産は、実際には普通の意味での生産や消費には全く結びつかないのに、です。
このような戦時経済的な発想は、いまに始まったことではない。1930年代に大恐慌に見舞われたアメリカが経済的に立ち直ったのは、第二次世界大戦がもたらした戦争生産ブームのお陰だった。戦争が終わって平和が訪れた時に、政策担当者たちは、再び恐慌が訪れるのではないかという恐怖に駆られた。間もなくソ連の原爆実験があり、中国で共産党政権ができ、中・東欧諸国がソ連の支配下に入る・・・という状況下で、アメリカは冷戦に備える基本戦略を作った。1950年にトルーマン大統領が署名した「第68国家安全保障会議報告:National
Security Council Report 68 (NSC-68)」と呼ばれるもので、結論の部分が次ぎのように書かれている。
第二次世界大戦の経験から得た最も重要な教訓の一つは、アメリカ経済が完全な効率性というレベルに近づくと、民間消費とは別の目的のために巨大な資源を提供すると同時に、高い生活水準を維持することができるということである(One
of the most significant lessons of our World War II experience
was that the American economy, when it operates at a level approaching
full efficiency, can provide enormous resources for purposes other
than civilian consumption while simultaneously providing a high
standard of living)
へたくそな訳でありますが、要するにアメリカの経済は国民が高い生活水準を維持する一方で、軍事のためのお金をも費やすことができる。それだけすごい経済力だ、と謳ったわけです。そしてソ連の軍事力に対抗して巨大な兵器産業の育成が始まるのですが、それによって雇用が生まれ、恐慌に見舞われるという恐れも払拭することができた。国防省のリードで、大型航空機、原子力潜水艦、核弾頭、大陸間弾道弾、偵察衛星などを生産する新しい産業分野が生まれた。産軍複合体の誕生です。1961年2月6日、アイゼンハワー大統領は、離任演説の中で、
巨大な軍事体制と大きな兵器産業の連結という事態はアメリカにとっては新しい経験である(The
conjunction of an immense military establishment and a large arms
industry is new in the American experience)
と述べたそうですが、Chalmers Johnsonはこれをアンゼンハワーによるアメリカへの警告だったとしています。
Chalmers Johnsonは、1990年の時点で、アメリカ国防省関連の兵器・装備などの工場生産による金額は、アメリカの全製造業が生む金額の83%にまで達したと述べています。また2007年5月1日に、ワシントンにあるCenter
for Economic and Policy Researchという研究所が発表した報告書の中で、Dean Bakerという経済学者が次のように述べている。
戦争や軍事のための支出が増えることは、経済にとって好ましいことだと考えられることが多いが、実際には、軍事支出によって資源の生産的な利用(投資や消費)を妨げ、経済成長を鈍化させ、雇用を減らす結果をもたらすことが、殆どの経済モデルによって明らかになっている。It
is often believed that wars and military spending increases are
good for the economy. In fact, most economic models show that
military spending diverts resources from productive uses, such
as consumption and investment, and ultimately slows economic growth
and reduces employment.
Thomas E Woods Jrという歴史家によると、1950年〜60年代のアメリカでは、研究者の3分の1から3分の2が軍事部門の研究に従事するようになっていた。Chalmers
Johnsonは「人材の軍事部門への偏重がなかったらアメリカの技術革新がどうなっていたかは、いまとなっては分からない」としながら、次の点を指摘しています。
家電製品や自動車の分野におけるデザインや品質の点で、日本がアメリカを追い越しつつあることに、アメリカ人が気付いたのは1960年代のことである。It
was during the 1960s that we first began to notice Japan was outpacing
us in the design and quality of a range of consumer goods, including
household electronics and automobiles.
▼この部分は私の記憶に残っています。私がアメリカという国と直に接したのは60年代後半のこと。その頃すでにアメリカ人にとって、オートバイといえばカワサキ、ホンダ、ヤマハだった。ハーレイデイビッドソンではなくなっていた。日本車もわずかながら出始めていたし、テレビやラジオもそうだった。
▼日本製品は、「安かろう悪かろう」→「安いけど質は悪くない」→「質が高い」という風にイメージが変わってきた。何故アメリカのメーカーが、日本企業に負けてしまったのか?私はてっきり、金持ちになったアメリカ人が怠惰になったから、という説明が為されたものでした。確かにそのような部分もあったのであろうけれど、Chalmers
Johnsonのいう、産業の軍事偏重傾向も大きかったということなのでありましょう。
余りにも異常すぎる軍事ケインズ主義の例として、Chalmers Johnsonは原爆や核兵器の開発を挙げています。1940年代から96年までの約半世紀、アメリカが核爆弾の開発・実験・配備に使ったお金は5兆8000億ドル。67年の時点で、32,500発の原爆・水爆を発射できる状態で所有していた。一度も使われることがなかったわけですが、アメリカは使用してはならないもののためにこれだけのお金を費やした。核兵器はアメリカの秘密兵器であるのみならず、雇用を生み出す、隠れた経済兵器(secret
economic weapon)でもあったわけです。
Chalmers Johnsonによると、2006年現在でアメリカには9960個の核爆弾があるそうで、まともな使い道(sane
use)などない。そんなことのために費やされた何兆ドルものお金を、教育や福祉などに使っていれば・・・というわけです。
では、このような異常な状態を逆転することはできるのか?Chalmers Johnsonは、軍事ケインズ主義がアメリカにもたらしたダメージのある部分は修復不可能であるけれど、ブッシュ政権が2003年に打ち出した富裕層のための減税政策を中止し、海外800箇所にもある米軍基地を廃止し、国防予算を雇用創出ために使うのではなく、真の国防のためにのみ使う・・・などを行うことだと言っています。
これらのことを行えば、かろうじて生き延びることはできるかもしれない。が、やらなければおそらく国家的な破綻と長期の経済不況に直面することになるであろう。If
we do these things we have a chance of squeaking by. If we don’t,
we face probable national insolvency and a long depression.
▼上の表の国防予算の数字を各国の人口数で割ると、アメリカ人は一人当たり約2000ドル(20万円)の軍事費を負担していることになり、英国は713ドル、韓国が437ドル、ロシアが350ドル、日本は347ドル、中国が49ドル、インドは18ドルってことになる。アメリカの2000ドルはすごいけれど、英国人もけっこう負担しているわけですな。
▼これだけのお金を別の目的で使ったら・・・などとは言わないけれど、それにしてもアメリカの軍事費というのはとてつもない額でありますね。それが雇用を確保しているというのは、確かにまともではない。日本の「道路」どころではない。
▼日本の道路に関連付けて言うと、アメリカで軍事ケインズ主義がまかり通る一つの理由として、Chalmers
Johnsonは政治家の存在を挙げています。選挙区に軍事関連の職場が多いような議員によるロビー活動です。日本で言うと「族議員」ですね。
▼いまからちょうど20年前の1988年、Paul Kennedyという歴史家が書いたThe
Rise and Fall of the Great Powersという本が話題になりましたよね。邦題は『大国の興亡』だったかな?この本のメッセージは、歴史上、国家というものは経済力をつけると軍事力も持つことになるけれど、いずれはその軍事面での優位性を保持するための経済コストがかさんで、経済基盤の弱体につながるということだったと記憶しています。大英帝国も、そうやって衰えていったのですからね。
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