英国には、ボランティア組織をまとめる全国ボランティア組織協議会(National
Council for Voluntary Organisations:NCVO)という組織があるのですが、NCVOが最近行った調査によると、英国人の54%が定期的にチャリティにお金を寄付しており、平均の寄付金額は1週間で2・50ポンド(約500円)だそうです。いまの英国人の平均可処分所得は週給で約500ポンド(約10万円)。つまり寄付額は所得の20分の1以下ということになる。The
Observer紙の5月25日付けのサイトに掲載されたロンドンKing's
CollegeのAlison
Wolf教授のエッセイによると、これは「お話にならない(derisory)」額ということになる。
NCVOの調査では、回答者の88%が、いまの英国には格差がある(there
was a social divide in the UK)としており、63%が格差は今後5年間でさらに拡大するだろうとしている。にもかかわらず、コミュニティ活動に参加したいとか、貧困者を助けたいという人は6%しかいない。Wolf教授は、「昔はこうじゃなかった」(It
didn't used to be like this)と嘆いています。
現代の英国でチャリティが衰退している理由として、教授は二つの要因を挙げています。一つは組織的宗教の衰退(decline
in organised religion)、もう一つは女性の生活が変わった(transformation
in the lives of women)です。
「組織的宗教の衰退」とは要するに教会の衰退ということです。かつての英国では貧者救済のような活動は、政府から独立した教会の活動として行われていたのですが、教会へ行く人の数が減るなどして、Wolf教授の表現によると「最近の英国には宗教心がない(Modern
Britain doesn't do God)」ということで、チャリティ衰退の一因になっている。
Wolf教授のエッセイで、私が特に面白いと感じたのは、女性の生活の変化とチャリティ衰退の因果関係の部分です。教授によると、保育所の開設、成人学級の主宰、貧困家庭への食料提供等々、かつてチャリティの主体はミドルクラス(金持ち)の家庭夫人だった。夫人たちがそれらの活動に献身したのには「慈善精神」(benevolence)も勿論あるけれど、「退屈しのぎ」(boredom)という理由もあったのだそうです。
昔の家庭夫人たちにとって、他人に慈善を行うことは義務(duty)でもあったけれど「仕事」(vocation)でもあった。この場合の「仕事」は専門知識を要するような「職業」(profession)というよりも、もっと素朴に世の中と繋がる活動という意味です。その頃の女性には、企業の重役、政治家、大学教授などのようなprofessionの場で活躍するような機会がなかった。そのような世界からは閉め出されていたわけです。そこで有能な女性たちがエネルギーを注いだのがチャリティというわけです。
しかし現代の英国では、宗教組織の影響力が薄れるとともに、女性も職業人になってしまって、弱者救済という活動はチャリティよりも国家の仕事ということになってしまった。
我々は人口の半分(女性のこと)の能力を浪費することをしなくなったが故に、さまざまな制約はあるにしても、かつてない規模で助けと安定を提供する福祉国家を持つことが可能になった。が、その過程において、我々の先輩たちが知っているような意味でのチャリティは死につつあるのかもしれない。Because
we no longer waste the talents of half the population, we can
afford a welfare state that, for all its limitations, offers help
and security on an unprecedented scale. But charity, as our ancestors
knew it, may be dying in the process.
とWolf教授は結んでいます。
政府のチャリティ委員会(Charity Commission)に登録されているチャリティ組織は約167,000件ですが、ここでいう「チャリティ」には、スポーツクラブ、アマチュアコーラス、ナショナルトラストのような「趣味」の集まりのような組織も入っている。そうでなくて、貧困救済などように普通にいう「慈善団体」の大きなものは、事実上政府の請負機関のようになってしまっている、と教授は言っています。
Wolf教授のエッセイは、かなり長いもので、上に紹介したのはほとんど「さわり」だけです。原文はここをクリックすると出ています。
▼英国のチャリティ活動のルーツが、ミドルクラスの夫人たちの「退屈しのぎ」にあるという指摘は面白いですね。貧乏人たちのおっかさんたちではなかった。つまりボランティア活動は、階級社会の産物であったので、階級がなくなりつつある現代の英国においては、チャリティやボランティアも衰退する・・・非常に単純化して言うと、こういうことですよね。確かに(私の感じでは)チャリティ活動には、どこか弱者を見下す(同情も見下しの一種です)雰囲気が漂います。それは、「アフリカを救え!」と叫ぶロック歌手にもつきまといます。ダイアナ妃の慈善活動も・・・。ミドルクラスっぽいんだよな。恥ずかしくないんでしょうか?
▼TBSラジオのリスナー参加番組を聴いていたら、中国やミャンマーでの災害をきっかけに『あなたは募金というものをしたことがありますか?』というアンケート+ディスカッションをやっていました。結果は「募金をしたことがある」と言う人が152人、「ない」と言う人は167人だった。否定的な回答をした人の多くが「自分の寄付したお金がどのように使われるのかが不明だから」ということを理由に挙げていました。
▼私自身も、いわゆる募金なるものは殆どしたことがない。でもそれは、どことなく恥ずかしくて億劫なだけで、「自分のお金がどのように使われるのか明確でない」というように「筋のとおった」理由があるわけではない。「慈善」をうたう活動に募金をしないってことに、理屈をつけるのはみっともないから止めたほうがいいと思います。黙って通り過ぎなさい・・・。
▼とはいえ、毎年のように子供たちが駅で金切り声を張り上げて「赤い羽根の共同募金、お願いしま〜す!」と叫ぶのは何とかなりません?それからテレビの24時間チャリティ番組とかいうのも、いい加減にしてくれません?私はこれが始まるとチャンネルを回してしまうのだから、特に被害があるわけではない。でも、もう少し静かにやってもらいたいのであります。
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