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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
musasabi journal
第138号 2008年6月8日

   

138回目のむささびジャーナルです。道楽とはいえよく続きますね。我ながらあきれ返りますね。道楽ついでに、今回から新しいコラムを設けてしまいました。題して「むささびJの、どうでも英和辞典」。遊んでやってくらはい。


目次

1)五輪の国別メダル獲得数を再検討する
2)親の飲みすぎを子供が見ている・・・
3)日本のウイスキーがスコッチを追い抜くとき・・・
4)階級社会が生んだチャリティ活動?
5)むささびJの、どうでも英和辞典
6)むささびの鳴き声

1) 五輪の国別メダル獲得数を再検討する


チベット問題だの四川省大地震だので大揺れの北京五輪がもうすぐですね。日本がいくつメダルを獲得するか、興味あります?私(むささび)は正直言って余り興味ありません。メダルをとるのはそれぞれの選手であって、国ではありませんからね。 が、最近のThe Economist(ネット版)に出ていた数字はちょっと面白いと思いましたね。国別のメダル数の比較なのですが、単純な国別個数比較だけでなく、それぞれの国の人口を考慮に入れた比較をしているところが面白い。

まずは、人口とは無関係に獲得したメダル数のトップ10は:

アメリカ 103
ロシア 92
中国 63
オーストラリア 49
ドイツ 48
日本 37
フランス 33
イタリア 32
韓国 30
英国 30

次にThe Economistは、アテネ五輪に参加したすべての国の人口100万人あたりに換算したメダル数を計算しています。そのトップ10は・・・:

 
実際の
メダル数
人口100万単位
のメダル数
人口
バハマ諸島
6・6
33万
オーストラリア
49
2・3
2700万
キューバ
27
2・3
1700万
エストニア
2・2
130万
スロベニア
200万
ジャマイカ
1・7
280万
ラトビア
1・7
230万
ハンガリー
17
1・7
1000万
ブルガリア
12
1・6
730万
ベラルーシュ
15
1・5
1000万

最初の表に出てくる国は、いずれも「大国」とか「先進国」と呼ばれるところですが、下の表に出て来るのは、はオーストラリアを唯一の例外として、どれも「島国」か「小国」です。Small is beautifulというわけですね。おそらく、これらの「小国」にとって、オリンピックでメダリストを輩出することが、人々の愛国心を高めるだけでなく、国際社会における地位確保のための重要な役割を果たすということもあるのでしょうね。

ちなみに最初の表に出て来る国のメダル数を「人口100万人あたり」に換算してみると、日本とアメリカは0・3個、英国は0・5個ときて。中国は一桁違って0・04個となる。それにしても画期的にすごいのはバハマ諸島ですね。人口30万とちょっとの国なのに、2つもメダル(うち1つは金メダル)を獲得しているってんですからタイヘンなものではありませんか。

▼私の場合、はっきり言って五輪そのものに余り興味がないのです。へそ曲がりぶるわけではなく、です。だからテレビのレポーターのような人が「日本、やりましたねぇ!」などと言いながら満面の笑みを浮かべるのを見ると、居心地が悪くて仕方ない。まるで「日本人なら喜んで当たり前」とでも言うように騒がないで欲しいわけ、うるさいから。

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2) 親の飲みすぎを子供が見ている・・・


英国における最近の社会問題の一つが、若年層のアルコール摂取。飲み過ぎ(binge drinking)です。最近、Life Educationという教育関係のNPOが、9〜11才の子供たち1500人を対象に行ったアンケート調査によると、「大人が一晩でワインを5杯以上、ビールを5パイント以上飲むのは普通のこと」と答えた子供が4分の1を上回ったのだそうです。つまり自分の親が飲むのを毎晩見ているってことですね。

で、大人は何故酒を飲むのか?という問いに対して、60%以上の子供たちが「憂さ晴らし」(to forget about their problems)と答え、半数以上が「かっこいいから」(trying to be cool)と答えたのだそうです。

NHS(国民保健サービス)の定義では、男の成人が一日にワイン5杯以上、ビール3・5パイント以上、女性がワイン4杯以上飲めば「飲み過ぎ」とされるのだそうで、Life Educationの関係者は「大人が子供たちの模範にならなければならないのだから、アルコールの飲み過ぎは健康生活には良くないことを分からせるべきだ」(We need to look at what role models we wish to provide and to make sure children understand that a healthy life does not involve excessive drinking)と言っています。

BBCのサイトによると、先月、アルコール摂取が原因で病院に担ぎ込まれた子供はイングランドだけで160人にのぼっており、これは96年の数字に比べると50%の増加だそうです。

▼1パイントは0.56826125リットル。大きいサイズの缶ビールは500mlだから、5パイントということは、大きいサイズの缶ビールを5杯以上ってことになりますね。私はアルコールに弱く、英国へ行っても「半パイント」のビールがようやく飲めるという感じだった。1パイントなんてとんでもない。で、バカにされましたね。

▼でも一晩で5パイントのビールを飲む大人について「憂さ晴らしをしているのだ」と子供たちに見られているというのは、なんだか哀しいな。いろいろとグチを言いながら飲んでいるのかも・・・

  • だからさ・・・オレは何もさ、サエグサ(課長)のことをどうのこうの言ってるんじゃねえんだよ。だけどさ、アイツがさ、オレのことをさ、いろいろ言いやがるからさ、だからオレだってハラ立つじゃねえか。え?そうだろ?よお、そうだろっつうんだよ!何が、オレ?いつオレが酔っ払ったよぉ!酔っ払ってねえっつうの!バーロー!だろ?だろ!?

▼でも、酔っぱらうまでビールを飲みますかねぇ。酔っぱらう前におなかがダブダブになってトイレに行きたくなってどうしようもないと思うんだけど・・・。


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3) 日本のウイスキーがスコッチを追い抜くとき・・・


4月27日付けのSunday TimesのサイトにScotland loses the "best whisky in the world" title to Japanという見出しの記事が出ていました。スコットランドがウイスキー世界一の座を日本に譲り渡す・・・ということで、何かと思ったら、北海道余市町にあるニッカ・ウヰスキーの工場で作られたYoichi 20というシングルモルト・ウイスキーが、Whisky Magazine(この業界ではバイブルとされるような権威がある専門誌だとか)主催のコンテストで世界一の評価を受けたという記事だった。

  • イングリッシュワイン同様、日本のウイスキーはこれまで偽者扱いされ、ジョークの対象となってきた。が、ついに日本のウイスキーは、スコットランドのライバルを押しのけて世界一の評価を得ることで、悪口を押しつぶしてしまったのだ。Like English wine, it has suffered from the taint of inauthenticity and has been the butt of condescending jokes. But now Japanese whisky has scotched its critics by being voted the best in the world, ahead of its Scottish rivals.)

とかなり興奮気味の記事であります。「押しつぶす」という部分にはscotchという、普段殆ど使わないような英語?で言葉遊びまでやっている。

このコンテストは16人の専門家が、世界から集まった200種類以上のウイスキーを試飲して決めたものですが、それぞれのウイスキーの銘柄や原産国などを一切知らせないblind tastingというやり方のコンペだったのだから、ホンモノでないと勝てないですよね。

▼人から聞いたことの受け売りですが「シングルモルト」とは「ブレンドしていない単一蒸溜所のモルトウイスキー」のことだから、それが世界一ということは、ニッカの「余市蒸溜所」が”世界一”の評価を得たということになるんだそうであります。

審査委員長をつとめたDave Broomという評論家によると、Yoichi 20の成功には二つの理由があるそうです。一つは日本の気候。夏冬の寒暖の差が非常に激しく、それがウイスキーの熟成にいい影響を与えるのだとか。面白いのはもう一つの理由で、ニッカでは「石炭で熱する蒸留器」(coal-fired pot stills)のような「伝統的」な技術が使われている。これはもうスコットランドからは消えてしまった技術なのだそうです。

実は今回のコンペでは、サントリーのHibikiというウイスキーも「ブレンデッド」部門で優勝しており、「歴史に残る日本のダブル勝利(historic double for Japanese whiskies)」ですが、日本のウイスキーを余り真面目に考えてこなかったスコットランドのメーカーにしてみれば大変な驚きであるわけです。Whisky Magazineの編集長などは

  • これによってスコットランドのメーカーも坐り直して、日本のメーカーが画期的なものを作っているということに目を向けてくれればいいのだが(Hopefully, this will make people sit up and realise that the Japanese are producing some phenomenal stuff)

と言っています。

ちなみにYoichi 20の英国での価格は150ポンド(約3万円)だそうです。Sunday Timesの記事には30件ほど読者からの書き込みがあったのですが、やっかみ、称賛などいろいろです。

  • だから日本人には気をつけろとスコットランドのやつらには言ってきたんだ。いい気になるなってこと。1942年のシンガポール(の陥落)を忘れないほうがいい(I've been warning Scots of this for several years. Complacency; Singapore, 1942)。
    →第二次世界大戦にまで遡りますかねぇ・・・
  • 日本のウイスキーなんてものはない。いんちきで、コーヒーで味付けした、バイアグラ風の「酒」はウイスキーではない!スコッチ以外はウイスキーではない!There is no such think as Japanese whisky. Sexed-up, coffee-stained, viagratized sake is NOT whisky! If it's not Scotch...it's not whisky!
    →この人、あきらかに酔っ払ってますね。
  • 日本へ旅行した友だちが買ってきてくれたYoichiを飲むまでは、信用していなかったのであるが・・・一言でいうと驚くべきウイスキーってことになる。よくやった、ニッカ。この際、30年ものもリリースしてくれや・・・是非試してみたい。I was quite skeptical myself until I tried a bottle of Yoichi a few weeks ago that a friend brought back from a business trip in Japan.. In a nutshell, it truly is a stunning whiskey. Damned well done Nikka. Now release a 30 year and lets see how it really performs.
    →この人はよほど気に入ったと見えますな。
  • ボルドーワインがカリフォルニアワインに負けたと思ったら、今度はスコッチが日本のシングルモルトにやられた。この世の終わりだな。この際、本物のスコッチ・ウイスキーを買って、悲しみを飲み干そう。First it was the great Bordeaux wines outdone by the California wines. Now it is Scots whisky outdone by Japanese single malts. It is the end of the world. I'm going to buy a bottle of real Scots whisky and drown my sorrow.
    →これはパリの人から。湿っぽいんだよな、アンタの酒は・・・。
  • ニッカのウイスキーはす〜ばらしい。Yoichi 20にもいつか是非お目にかかりたい。Nikka-whisky is veeery good and I am looking forward to meet Yoichi 20yo someday.
    →フィンランドのタンペレ(大学町)のMikko Manninenという、いかにもフィンランド風の名前の人から。veeeryというからには、相当気に入っているんですね。ひょっとすると1本150ポンドでも買うかも?

    ▼私自身は、余りウイスキーは飲まないというか、飲めないのでありますが、それでも「ジョニ黒」などの名前は高価なウイスキーの代表格として聞いたことがある。確かにスコットランドのウイスキー・メーカーにとってはショックだったでしょうね。余市のウイスキー工場は、その昔、スコットランドでウイスキー作りを学んだ人が作ったのですから、教え子に追い越されたようなものですね。そのせいではないとは思うけれど、このニュースはThe Sctosman(エディンバラ)だのThe Herald(グラズゴー)のような代表的なスコットランドの新聞には出ていなかったようであります。私の見落としでしょうか?それとも新聞社が、わざと無視したのでしょうか!?

    ▼このニュースは余市という町にとっても嬉しいハナシのはずですね。何もしなくてもYoichiの名前が外国に知られるのですからね。タダでPRをやってもらっているのと同じ。個人的なハナシですが、余市の駅前に徳島屋という旅館があって、私はそこに泊まったことがある。そのことはここに書いてあります。この旅館にはもう一度泊まってみたい!

    ▼Yoichiとは関係ありませんが、インドの国産ウイスキーで"Peter Scot"という名前のものがあるんですね。この名前がスコットランド産と紛らわしいというので、英国のスコッチ・ウイスキー協会が提訴していたのですが、最近になってインドの最高裁が、違法ではないという判決を下したというニュースがありました。Peter ScotはKhoday Indiaという飲料メーカーが作っているのですが、1974年に商標登録を済ませてある。The Economistによると、インドは世界最大のウイスキー消費国であるにもかかわらず、輸入ウイスキーはたったの1%にすぎないのだとか。何せ外国ウイスキーへの関税が150%と高いので、インドへ輸出するのもタイヘンなのだそうであります。

4) 階級社会が生んだチャリティ活動?


英国には、ボランティア組織をまとめる全国ボランティア組織協議会(National Council for Voluntary Organisations:NCVO)という組織があるのですが、NCVOが最近行った調査によると、英国人の54%が定期的にチャリティにお金を寄付しており、平均の寄付金額は1週間で2・50ポンド(約500円)だそうです。いまの英国人の平均可処分所得は週給で約500ポンド(約10万円)。つまり寄付額は所得の20分の1以下ということになる。The Observer紙の5月25日付けのサイトに掲載されたロンドンKing's CollegeAlison Wolf教授のエッセイによると、これは「お話にならない(derisory)」額ということになる。

NCVOの調査では、回答者の88%が、いまの英国には格差がある(there was a social divide in the UK)としており、63%が格差は今後5年間でさらに拡大するだろうとしている。にもかかわらず、コミュニティ活動に参加したいとか、貧困者を助けたいという人は6%しかいない。Wolf教授は、「昔はこうじゃなかった」(It didn't used to be like this)と嘆いています。

現代の英国でチャリティが衰退している理由として、教授は二つの要因を挙げています。一つは組織的宗教の衰退(decline in organised religion)、もう一つは女性の生活が変わった(transformation in the lives of women)です。

「組織的宗教の衰退」とは要するに教会の衰退ということです。かつての英国では貧者救済のような活動は、政府から独立した教会の活動として行われていたのですが、教会へ行く人の数が減るなどして、Wolf教授の表現によると「最近の英国には宗教心がない(Modern Britain doesn't do God)」ということで、チャリティ衰退の一因になっている。

Wolf教授のエッセイで、私が特に面白いと感じたのは、女性の生活の変化とチャリティ衰退の因果関係の部分です。教授によると、保育所の開設、成人学級の主宰、貧困家庭への食料提供等々、かつてチャリティの主体はミドルクラス(金持ち)の家庭夫人だった。夫人たちがそれらの活動に献身したのには「慈善精神」(benevolence)も勿論あるけれど、「退屈しのぎ」(boredom)という理由もあったのだそうです。

昔の家庭夫人たちにとって、他人に慈善を行うことは義務(duty)でもあったけれど「仕事」(vocation)でもあった。この場合の「仕事」は専門知識を要するような「職業」(profession)というよりも、もっと素朴に世の中と繋がる活動という意味です。その頃の女性には、企業の重役、政治家、大学教授などのようなprofessionの場で活躍するような機会がなかった。そのような世界からは閉め出されていたわけです。そこで有能な女性たちがエネルギーを注いだのがチャリティというわけです。

しかし現代の英国では、宗教組織の影響力が薄れるとともに、女性も職業人になってしまって、弱者救済という活動はチャリティよりも国家の仕事ということになってしまった。

我々は人口の半分(女性のこと)の能力を浪費することをしなくなったが故に、さまざまな制約はあるにしても、かつてない規模で助けと安定を提供する福祉国家を持つことが可能になった。が、その過程において、我々の先輩たちが知っているような意味でのチャリティは死につつあるのかもしれない。Because we no longer waste the talents of half the population, we can afford a welfare state that, for all its limitations, offers help and security on an unprecedented scale. But charity, as our ancestors knew it, may be dying in the process.

とWolf教授は結んでいます。

政府のチャリティ委員会(Charity Commission)に登録されているチャリティ組織は約167,000件ですが、ここでいう「チャリティ」には、スポーツクラブ、アマチュアコーラス、ナショナルトラストのような「趣味」の集まりのような組織も入っている。そうでなくて、貧困救済などように普通にいう「慈善団体」の大きなものは、事実上政府の請負機関のようになってしまっている、と教授は言っています。

Wolf教授のエッセイは、かなり長いもので、上に紹介したのはほとんど「さわり」だけです。原文はここをクリックすると出ています。

▼英国のチャリティ活動のルーツが、ミドルクラスの夫人たちの「退屈しのぎ」にあるという指摘は面白いですね。貧乏人たちのおっかさんたちではなかった。つまりボランティア活動は、階級社会の産物であったので、階級がなくなりつつある現代の英国においては、チャリティやボランティアも衰退する・・・非常に単純化して言うと、こういうことですよね。確かに(私の感じでは)チャリティ活動には、どこか弱者を見下す(同情も見下しの一種です)雰囲気が漂います。それは、「アフリカを救え!」と叫ぶロック歌手にもつきまといます。ダイアナ妃の慈善活動も・・・。ミドルクラスっぽいんだよな。恥ずかしくないんでしょうか?

▼TBSラジオのリスナー参加番組を聴いていたら、中国やミャンマーでの災害をきっかけに『あなたは募金というものをしたことがありますか?』というアンケート+ディスカッションをやっていました。結果は「募金をしたことがある」と言う人が152人、「ない」と言う人は167人だった。否定的な回答をした人の多くが「自分の寄付したお金がどのように使われるのかが不明だから」ということを理由に挙げていました。

▼私自身も、いわゆる募金なるものは殆どしたことがない。でもそれは、どことなく恥ずかしくて億劫なだけで、「自分のお金がどのように使われるのか明確でない」というように「筋のとおった」理由があるわけではない。「慈善」をうたう活動に募金をしないってことに、理屈をつけるのはみっともないから止めたほうがいいと思います。黙って通り過ぎなさい・・・。

▼とはいえ、毎年のように子供たちが駅で金切り声を張り上げて「赤い羽根の共同募金、お願いしま〜す!」と叫ぶのは何とかなりません?それからテレビの24時間チャリティ番組とかいうのも、いい加減にしてくれません?私はこれが始まるとチャンネルを回してしまうのだから、特に被害があるわけではない。でも、もう少し静かにやってもらいたいのであります。

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5)むささびJの、どうでも英和辞典:a-c

むささびジャーナル全体がそうですが、この新コラムも「道楽」です。私が勝手に面白いと思っている英語の単語や言い回しを取り上げて個人的にブツブツ言わせてもらいます。ハナシのタネにはなるかもしれません。 まずはaからcまで。


alternative
代替物のこと。単語の意味だけを暗記するのって退屈ですよね。alternative(代替物)などという非日常的な言葉だとなおさらイヤになる。石油とか石炭とか原子力のような「主流」(main stream)エネルギー源に対して、風力とか地熱のようなものを使って発電するような場合、これらのエネルギー源をalternative energyと言う・・・と、これも言葉としてはとっつきにくい。

ひょっとすると分かりやすいかもしれないと思うのがTINAというサッチャー元英国首相の発言ですね。本当の発言はThere Is No Alternativeというものだった。4つの単語の頭文字を並べるとTINA(ティーナ)ってことになる。 彼女が首相になった当座は英国もひどい経済状況に陥っていた。それこれも(サッチャーさんに言わせると)「労働党と労働組合が悪い」ということになり「英国をストライキ病から救うには荒療治しかない」というわけで、民営化だの規制緩和だのを断行した。お陰で当初は失業率が高くなり、町にはホームレスが続出した。そうなると「首相、アンタの政策はやりすぎだ。血も涙もない・・・」という声が閣僚や保守党員の間からも出てきた。 そこでサッチャーさんが言い放ったのがThere is no alternative...訳すと「他にやりようがない=これっきゃない」ということで、もっと言うと「文句あっか!?」という意味でもある。alternativeという英語は、ひょっとするとno alternativeというふうに憶えた方が使えるかもしれない。


boat
Don't worry. We are all in the same boat(心配するな、オレたち、みんな同じ船に乗ってるんだから)という言い回しは、如何にもBritish Englishという感じがしますね。7つの海を支配した大英帝国を想わせる。意味としては「苦労をともにしている」ということで、仲間意識を再確認するためのフレーズであります。私がその昔、あるところで「私、何も知りません。よろしくお願いします」(I know really nothing. You must teach me a lot)と言ったら、Don't worry. We are all in the same boatというリアクションがあった。言った人は英国人でした。なぜかアタマに残る言い回しです。 でも私、そのときは意味が分からなかったので、分かったような顔をしてニヤニヤ笑ってごまかしてしまった。

辞書を見ると、boatにはいろいろあるんですね。miss the boat(好機を逸する)、rock the boat(無用の波風を立てる)、burn your boats(背水の陣をしく)等々。日本で非常に使われる「世間をお騒がせする」というのは、英訳するとrock the boatってことになるのかな・・・ちょっと違う気がするなぁ。


community
日本語でいう「国際社会」は英語に訳すと普通はinternational communityという言葉が使われます。international societyとは言わない。communityは元来「共同体」、つまり利害関係が同じ人々が集った集合体ということで、「社会」(society)よりも人間の息遣いのようなものが聞こえてきます。 が、私はというと、コミュニティという言葉は余り好きでない。私個人の好き嫌いなど、実際どうでもいいのですが、コミュニティという言葉に、何か息苦しさ(人間同士が近すぎることからくる気詰まり感覚)のようなものを感じてしまう。利害は一致しないし、人間的にも嫌なヤツらとも、肩身の狭い思いをしながら、一緒に暮らすのがこの世の中というものであって、societyという言葉のほうがピンとくる。「国際社会」が一致団結して・・・とか言われると特に眉に唾を付けたくなってしまう。

ところで私の娘さんが最近、スコットランドのダンスなるものを習い始めているのですが、その習得場所が池袋の百貨店が主宰する「コミュニティ・カレッジ」なんだとか。これ、どういうつもりのネーミングなのでありましょうか!? communityという言葉はまた、トニー・ブレアが英国の首相であったころの考え方の基礎を成すものの一つでもあったですね。彼が1999年にシカゴで行ったDoctrine of the International Community(国際社会という原則)という演説は、ある国で人権侵害が行われている場合、従来のように「国内問題」として、外国は干渉するべきでないという考え方は改めるべきで、それがはっきりしている場合は、国際社会(international community)は、積極的に関与すべきなのだ、と訴えたものです。サダム・フセインのイラクあたりがその典型というわけです。

 
6)むささびの鳴き声


▼ちょっと前のことですが、NHKラジオのニュースを聴いていたら、東京・江東区のマンションで若い女性が行方不明になっており、同じマンションに住む「派遣社員の男」が容疑者になっている・・・と言っておりました。翌朝のどの新聞にも同じように書かれていた。この場合、なぜ単に「同じマンションに住む男」ではなく「派遣社員の男」と報道されるのでありましょうか?

▼同じ日のニュースとして、長崎市長を殺害した「元暴力団の男」に死刑判決というのがあった。「暴力団」と殺人はつながりがあるし、そもそも暴力団という存在そのものが本当なら許されないはずのものなのだから、死刑判決の報道で「元暴力団の男」という表現が使われても、さしたる違和感を(私は)覚えない。あるいは「裁判官がストーカー行為」とか「大学教授がセクハラ」それに、「防衛省事務次官が接待ゴルフ」というような場合、それぞれの職業や社会的な地位と犯罪行為を対照的(「・・・ともあろう者が」とか)なのでニュースになるということもあると思います。だから構わないと思う。

▼しかし殺人容疑者が派遣社員や新聞配達員(そんな事件ありましたよね)であった場合、立場を利用したわけでもないし、「・・・ともあろう者が」ということでもない。なのに、何故わざわざ職業や身分を表す言葉を入れるのでしょうか?同じ立場や職業にある人が、その報道に接して、多少なりとも身がすくむような想いをするかもしれない・・・ということは、記者や編集者の考慮の外にあるのですかね。確か奈良県で新聞配達員が何かの犯罪を犯したことがあり、そのときはご丁寧にも「XX新聞の配達員」という呼ばれ方だった。

▼さらに新聞記事で不思議だったのは、行方不明の女性については「会社員」となっており、容疑者については「派遣社員」となっていたということです。「会社員」と「派遣社員」、別の呼び方をしなければならないほど違う人たちなのでしょうか?記者や編集者のアタマでは、派遣社員は「会社員」ではないってことですかね。

▼最近ではあまり見ないような気はするけれど「住所不定・無職」というのも警察の書類みたいでイヤですね。警官やお役人にそれを期待はしないけれど、せめてメディアの人たち(言葉を使うことを職業にしている)は、一人の人間を表現するのに、このような能のない言葉は使わないで欲しい。そもそも、その人がどのような職業・企業・身分に属するのかを言わないと気がすまないという感覚は本当に情けないと思います。

▼駐日英国大使のフライさんが、日本記者クラブで会見を行いました。長年の外交官生活でしたが、洞爺湖サミットを最後に引退するのだそうです。会見で、フライさんの言ったことが、とても印象に残っています。「海が荒れているときは、海の真ん中へ行くほうが安全」というのです。この場合の荒海とはいわゆるグローバライゼーションのことです。昔はダメの見本みたいに言われた英国の経済が15年も好調を続けている(と言われている)一つの理由が、外国の企業や資本を大いに歓迎したということにある。英国のGDPに占める外国資本の割合は40%を超えている。日本は3%だそうです。

▼日本は閉鎖的ということは、30年も前から言われており、30年前の日本を知っているフライさんに言わせると、何にも変わっていないということです。昔、彼が私のボスだったから言うわけではないけれど、日本と日本人が変化をイヤがり、「余りにも慎重すぎる」というフライさんの観察は当たっているといわざるを得ませんね。

▼フライさんは、歴代の駐日大使の中でも、日本語の上手さという点ではダントツだったのでは?私個人の体験からすると、特に日本人の日本語を実に見事に理解していた。私もフライさん相手には、英語を話す気にはなれなかったです。

▼暑かったり、寒かったり、妙な天気がつづきますね。長々とお付き合いをいただき有難うございました。