5)シュワルナゼのメッセージ「この戦争は避けられたはず」
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ドイツの雑誌、Spiegelのサイト(英語版)を見ていたら、ロシアとグルジアの戦争についてシュワルナゼ氏がインタビューをしていました。昔のソ連の外相であり、サーカシビリ前のグルジアの大統領でもあった人です。インタビュー記事の見出しは「この戦争は避けられた(This
War Could Have Been Avoided)」で、イントロは次のように書かれています。
グルジアとロシアが戦争にいたったについては、両者ともに誤りを犯したが、最も決定的な誤りの一つを犯したのはNATOである。Both
sides made mistakes in the lead up to the war between Georgia
and Russia. But NATO, he says, made one of the decisive errors.
要約するのも大変だし、インタビュー自体それほど長いものではないので、この際、全文を訳してみました。原文(英語)はここをクリックすると読めます。
Spiegel:現在の危機はどうすれば克服できるのか?
Shevardnadze:私はメドベージェフとプーチンの二人に手紙を送り、ロシア軍を撤退させるように要請した。その手紙の中で、私はグルジアとロシアは隣国として常に特別な関係にあったということ、両政府ともに昔の良好な関係を取り戻す責任があるはずではないか、と伝えた。
Q: ロシアはグルジアのNATO加盟を阻止したいわけです。
A:ロシアにしてみれば、グルジアがNATOに加盟するのは嬉しいことではないだろう。しかし西側にはグルジアを支援する権利があるし、どの国も好きなように同盟関係を持つことはできる。ロシアにだってそれを止めることはできないはずだ。グルジアはNATOに加盟しなければならない。
Q:グルジアはロシアという強大で難しい隣国とどのように付き合うべきなのか?
A:私はプーチンとは常にいい関係を保ってきた。彼とは長い付き合いであり、尊敬もしている。アブハジアで難民問題があったときも、彼と仕事をしたし、彼も協力的だった。私は、グリジアとアメリカの関係についてもオープンな態度で、アメリカ人がグルジアの国境警備隊を訓練していることやグルジア軍に助言を与えているとも伝えた。彼は「ロシアも同じことができる」と言っていた。だから私は「アメリカはロシアよりも資金を持っているのだ」と伝えたのだ。我々はロシアとアメリカの両方と仕事をしていたのだ。それは簡単なことではないが、やればできる。
Q:あなたの後任者であるサーカシビリ大統領は、ロシアの行動に抗議して数日前にCISを脱退した。それは正しいことだったのか?
A:(グルジアが)ロシアとの関係を断絶するというのは明らかに間違っている。小国には同盟が必要だ。それは東西南北どこでも同じだ。
- CISというのは、(ウィキペディアをそのまま引用すると)旧ソビエト連邦の12カ国で形成された緩やかな国家連合体(コモンウェルス)。トルクメニスタン、ウクライナ、モルドバが事実上の準加盟国(或いは加盟国としての任務の拒否)になったため、現在の正式加盟国は8ヶ国。ベラルーシの首都ミンスクに本部が置かれている。グルジアはつい最近これを脱退。
Q:この戦争の原因は?
A:グルジアの大統領が悪いという人が多い。それはある意味では間違っているが、真実を突いている部分もある。彼が違法行為をしたということで非難するのはおかしい。グルジア軍をTskhinvali(南オセチアの首都)へ送り込んだこと自体は合法だ。しかしやらない方がよかったのだ。それをやると決めたのなら、ロシア軍が通過したロキ・トンネルの封鎖をするべきだった。それをしなかったことは、戦術上の誤りだといえる。おそらくサーカシビリは物事を最後まで考え抜くということをしなかったのだろう。まさかロシア軍がゴリ、ポティ、セナキ、場合によっては(首都の)トビリシなどを占領するとは思ったいなかったのだ。私なら彼がやったようにTskhinvaliには入ったりはしなかっただろう。
Q:しかしロシアは挑発行為をしたのでは?この紛争はそもそも平和的に解決することは可能だったのか?
A:我々は過去10年間にわたってアブハジア、南オセチアの両自治州との紛争を平和に解決したいと言い続けてきたのだし、アブハジア、南オセチアの人々も説得することができたのだ。全部とは言わないが、非常に多くの人々を、だ。平和的な解決の道を諦めてはいけなかったのだ。いずれにしても両自治州との紛争はいつかは解決するだろう。が、いまやこの戦争によって、両自治州との紛争解決は10年(少なくとも10年)は遅れてしまった。
Q:これは東西の新たな冷戦の始まりなのか?
A:ことグルジアに関する限り、これ以上事態が難しくなることはないだろう。西側は4月のNATO首脳会議で、グルジアのNATO加盟のための行動計画(Membership
Action Plan: MAP)を拒否してしまった。これは決定的な誤りだった。西側の意図とは裏腹に、ロシアはそれに勇気づけられたのだ。グルジア加盟のためのMAPを妨害(ブロック)したのはドイツとフランスだ。同じフランスとドイツがいまグルジアのためにNATOの扉を開こうとしている。それをもっと早くやってくれていれば、この戦争は避けられたのだ。
Q: この戦争を起こしたロシアの意図は何だったのだと思うか?
A:ロシアは自分たちと自分たちの利益が無視されていると感じている。またある意味ではこれはプーチンとサーカシビリの個人的な関係の問題でもある。お互いに口汚くののしり合ったりしたのだから。とてもプロのやることではない。政治家は、個人攻撃にはきわめて不寛容になることもあるものだ。しかしロシア側も過ちを犯しているのだ。例えばサーカシビリは辞任すべきだとか、彼の後任となら交渉する気があると言ったりしている。それによってサーカシビリの立場がより強くなってしまったのだ。グルジアでは野党の力が非常に強いが、(ロシアの発言で)サーカシビリは、その野党の支持さえ得てしまっているではないか。
Q: サーカシビリ大統領の政治生命は?
A: 大統領は能力のある男であり、(この戦争で)多くのことを学んだはずだ。しかしグルジアには諺がある。「間違いから学ぶことはある。しかし間違いは避けた方がいい」という諺だ。
▼つまり、サーカシビリは、特に南オセチアとアルハジアとの関係を悪化させたのが失敗だった。はっきり言って大統領としては失格だ、とシュワルナゼさんは言っているのですよね。ただ、グルジアはNATOに加盟すべきだという点では、サーカシビリ大統領と同じであり、グルジアの加盟を拒否するかのような振る舞いをしたNATOは、サーカシビリ以上に誤ったことをしてしまった、ということですね。でも、サーカシビリ大統領は、選挙でシュワルナゼさんに勝ったのですからね。アホであれ何であれ、グルジアの人々の支持を得て大統領になったということは認めるべきですね。大統領へのなり方が不正だったとか、クーデターまがいのことをやったとかいうのならハナシは別ですが。
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