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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
musasabi journal
第144号 2008年8月31日

   

言ってみても始まらないけれど、もう8月が終わります。今年の夏は結局、40℃を超えた町はなかったってことですね。暑かったけれど、昨年ほどではなかった。その代わり、メチャクチャな雨と雷ですね。

目次

1) 「鼻つまみ」?の英国人観光客


8月24日付けのInternational Herald Tribune (IHT) が、Maliaというギリシャのリゾート地からの報告として、この町を訪れる英国人観光客の芳しくない振る舞いが問題になっている、と伝えています。

何が芳しくないのかというと、特に若い観光客が酒を飲みまくって道路にゲロを吐きまくるは、大声で歌ったり、怒鳴ったり、ケンカしたり、ハダカで歩き回ったり・・・要するにメチャクチャのやり放題。かつてのサッカー・フーリガンのような鼻つまみとなっている。Maliaの市長さんによると「こんなのは英国人だけ。ドイツ人もフランス人もやらない」(It is only the British people - not the Germans or the French)と言っております。

IHTの記事が伝える鼻つまみ的振る舞いの例を挙げると、シェフィールドから来た10代の男が酒を暴飲して死亡、10人以上の英国人女性グループが大挙して「セックス・コンテスト」なる催しに参加して売春罪で逮捕。ギリシャからマンチェスターへ帰る飛行機の中で、英国人女性が二人、酒に酔って「新鮮な空気が吸いたい」と大暴れして、乗務員をウォッカのビンで殴ると同時に飛行機の非常口を開けようとした。お陰で飛行機はフランクフルトに緊急着陸を余儀なくされ、女性二人はもちろん逮捕・・・数え上げればきりがない状態で、市長さんも「英国政府がなんとかした方がいい。英国の面汚しだ(The government of Britain has to do something. These people are giving a bad name to their country)と言っている。

どうしてそんなことになるのか?IHTの記事によると、英国の旅行社が企画する安いパッケージツアーが「飲んで騒いで、楽しくやろう!」ということをセールスしたりしており、それをお目当てに参加する若者があとを絶たないということが理由の一つとしてあげられる。

さらにメディアにも責任があるようで、雑誌で「若い女性のセックス旅行」などという企画で、行き先としてMaliaが取り上げられたりすることもある。ウェール出身で、この町でバーと貸オートバイ屋をやっているフィッシャーさんは「メディアが誇張して取り上げるから、ここへ来れば大騒ぎができると思ってやってくる若者が増える」と文句を言っている。

英国外務省の報告によると、2006〜2007年の1年間、ギリシャを旅行中に病院に担ぎ込まれた英国人は602人、28人がレイプされているし、スペインでは1591人が死亡、2032人が逮捕されている、という信じがたい数字になっております。アテネの英国領事館も若い英国人観光客向けに「ほどほどに飲もう」という趣旨の情けないキャンペーンまでやっているのだそうであります。

でも、何故英国人がそうなるのか?地元のクラブで働いている、ある英国人は「英国の文化でしょう。リラックスができなくて、酔っ払って自分がなりたいような人間になろうとする」(It's because of British culture - no one can relax, so they become inebriated to be the people they want to be)と分析したりしている。要するに英国にいるときは、おとなしくしていてストレスがたまっているので、それをギリシャで発散させようってことのようであります。

IHTによると、このような「英国人フーリガン輸出」に辟易しているのは、ギリシャではMalia以外にFaliraki, Kavos、Laganas、スペインではMagalufとIbiza、キプロスではAyia Napaなどのリゾーチがあるとのことです。

▼「旅の恥はかき捨て」という諺は日本製ですよね。私の和英辞書にはThere is no need to worry about manners while travelingというのが、英語の諺として載っているけれど、これは単なる日本語の翻訳ですよね。「旅先は知る人もいないし、長く滞在するわけでもないから、恥をかいてもその場限りのこと」ということのようですが、この感覚は欧米人には分かるのでしょうか!?

▼それにしても、いつもはリラックスできないから、酒を飲むとフーリガンやって発散したくなるというのも情けないハナシです。飛行機で女性二人が酔っ払ってビンで人を殴る図なんてえのは、怖ろしいというよりも哀しくありません?「何を考えてんだ、このアマ!」なんて言わない方がいい。ナイフで刺されるかもしれない。

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2)金メダル量産はメージャーさんのお陰だ


日本については、はっきり言って大したことなかった北京五輪でありますが、英国にとってはウハウハのメダルラッシュでありました。金メダル19・銀13・銅15個で合計47個、アメリカ、中国、ロシアについで何と世界第4位であります。日本は金9・銀6・銅10で合計25個で、金の数では8位ですが、メダル数では11位なんだそうですね。

英国は五輪が始まって以来全て出場しているのでありますが、47というのは歴代2位。第一位はというと、1908年のロンドン大会で、これは開催国ということもあって、金56・銀39・銅39の合計146というメチャクチャな数だった。最近ではアテネが30個、シドニーが28個ときて、情けない思いをしたのがアトランタ(1996年)で、メダル数はわずか15個(金1・銀8・銅6)だった。

ところで、今回の五輪における英国の活躍ぶりで意外な(?)な脚光を浴びているのが、あのジョン・メージャー元首相のようであります。彼が首相であった1994年に始められた全国宝くじ(National Lottery)からの寄付金なしには、北京の成功はなかったという人もいる。アトランタの惨状で議論になったのが、選手の育成資金が足りないということだった。しかし税金から出すという雰囲気ではなかった。というわけで、目をつけられたのが宝くじの売上金だった。

北京五輪の選手育成のための資金として宝くじから与えられたお金は総額で1億9000万ポンド((約380億円)。ということは、金メダル1個あたり約1000万ポンド、メダル一般に直すと1個あたり500万ポンドということになる。メージャー様々というわけですが、宝くじの売上金は教会の屋根の修繕、サッカーグラウンドの手入れ、社会福祉活動の支援などに使われているわけですが、経済紙のFinancial Timesなどは「金メダルを買うこともできる」などと言っています。

ところで、Yahoo!UKのニュースによると、宝くじからの資金を最も有効に使ったのは自転車競技だそうで、宝くじの売り上げから与えられた資金総額は1749万ポンドで、獲得したメダル数は金8・銀4・銅2で合計14個。ということはメダル1個あたりのお値段(宝くじからの資金)はメダル全体だと125万ポンド、金だけに限ると219万ポンドということになる。

で、そのメージャーさん(Sir John Major)ですが、北京五輪の開催中は毎朝6時起きでテレビにかじりついていたそうであります。彼が作った宝くじのお陰でメダルが増えたことについては、


私はいつも思っているのですが、我々にとって人生で二つ大切なものがある。スポーツと芸術だ。でもお金もちだけがスポーツと芸術を楽しめるというのはよくない。I have always taken the view that there are two things in life that for most of us are important: sport and arts. I don't think they should be available only to people who can pay.

と、相変わらずあまり画期的とは思えないコメントをラジオで語っているのですが、2012年のロンドン五輪の施設建設のために宝くじの売上金を使おうという動きについては批判的で、

地方の若い人々のためのスポーツ施設建設に使われるべきだ。施設がないと若者はスポーツをやらない。あらゆる進歩のルーツはお金であるし、今後も進歩は続かなければならない。Without the facilities at local level for young people, they're not going to be drawn into the sport. Money is the root of all progress and it needs to be continued.

と言っております。

▼それにしても自転車競技だけで14個もメダルを獲るというのは凄いですね。Keirin(競輪)でも英国は金と銀を獲得したのだそうですね。発祥国の日本はどうなっとるんでしょうか!?The Economistによると、何故か英国のメダルは「坐る競技」(sitting-down sports)に集中しているんだそうです。つまり自転車、ボート、ヨットです。

▼日本の場合、「星野ジャパン」だの「反町ジャパン」だのと、監督さんの名前をチーム名にしているケースが多いようですが、英国の場合はTeam GB (Great Britain)で統一していたようです。

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3) テロリストは軍隊では負かせない


8月16日付のThe Economist(ネット版)に「テロ・グループを負かすのに、軍隊がいちばんいい方法なのか?」(Is military force the best means to defeat terrorist groups?)という記事が出ていました。アメリカのRAND Corporationという研究所が最近発表した報告書の内容を紹介するものなのですが、テロ・グループに対処するには、軍隊よりも警察力の方が効果的なのではないか?ということを問題にしています。

RANDが1968年〜2006年の約20年間でテロ事件を起こした650のグループ(日本のオウム真理教も含まれる)がたどった足跡を調べたものなのですが、それによると、テロ・グループが非常に大がかりで、軍隊のように特定の地域を占領したりしているような場合は軍事力の方が効果的といえる。例えばスリランカのタミールの虎(Liberation Tigers of Tamil Eelam)とか、南米コロンビアのFARCというテロ・グループなどがそれにあたる。いずれも政府軍が出動して打ち負かしたのだそうです。

ところが、これまでにテロ事件を起こしたグループの圧倒的多数が、実際には構成員100人以下という規模で、それらについては軍事力は余り効果的とはいえない、と報告書を言っている。1995年に米オクラホマ・シティでビル爆破事件を起こしたグループとか、同じ年のオウム真理教などがそれにあたる。このようなグループが軍事力によって壊滅に追い込まれたのは、全体のわずか7%にすぎないのだそうです。

このようなグループの場合は、警察による捜査や情報活動の方がより効果的とされています。報告書はさらに、調査した約650のグループのうち、解散してしまった268グループの43%がテロ集団から政治団体へ衣替えし、40%が警察によって解散に追い込まれたのだそうです。

RAND Corporationでは、あのアルカイダについてさえも「テロリズムは戦争では解決しない(There is no battleground solution to terrorism))」と言っており、アメリカの対テロ政策についてもWar on terror(テロとの戦争)ではなくCounter-terrorism mission(反テロ活動)という言葉を使った方がいいと言っております。

▼RAND Corporationといえば、アメリカ国防省とのつながりが強いthink-tankとして知られていますよね。その組織が、アメリカ政府の対テロ対策を見直した方がいいと言っている、ということは、ブッシュ政権のやってきたWar on terrorが如何に徒労であったかを示すものともいえますね。

▼むささびジャーナルでも紹介したことがあるけれど、2001年10月31日付けのGuardianが、オックスフォード大学の軍事史の専門家であるMichael Howard教授の言葉を伝える記事を掲載しています。英米によるアフガニスタン爆撃についてのもので、爆撃は「ガン細胞を除去するために松明(たいまつ)を使うのと同じ(trying to eradicate cancer cells with a blow torch)」と批判しています。教授が言うのは、アルカイダのようなテロリストを負かすには警察力しかないということだった。Guardianの記事はここをクリックすると読めますが、私、この記事を読んだとき「そうだよな」と納得したことを憶えています。オウム真理教を撲滅するのに自衛隊は使わないもんな。

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4) グルジア戦争とロシア


BBCのサイトにグルジア・ロシア戦争についてのQ&A(基礎知識)が出ていました。

  • グルジアという国(人口約500万)には南オセチアとアブハジアという"自治州"があり、1990年代からグルジアからの独立を求めていた。特に2004年に、国の再統一を約束して、親米路線のサーカシビリ氏がグルジア大統領に選ばれてから緊張が高まったが、この8月までは戦闘にまではいたらずにやってきた。
  • この夏、グルジア軍と南オセチア軍の衝突があり、8月7日にグルジアが南オセチアを空と陸から攻撃、南オセチア首都のTskhinvaliを管理下においた。と同時にロシアが南オセチアに軍隊を送り込み、グルジア本土も攻撃した。ロシア軍の攻撃が、グルジア軍による南オセチア攻撃の先だったのか後であったのかは、実ははっきりしていない。
  • 南オセチアの人口約7万のうち、半数以上がロシア政府発行のパスポートを持っていると言われており、ロシア政府も今回の軍事活動は、南オセチアにいる「ロシア人」の保護を目的としたものだと主張している。
  • 南オセチアは、ソ連の崩壊後の1991-92年にグルジアからの独立を求めており、独立宣言まで発表しているが、これを認めた国はない。アブハジアも同じこと。
  • なぜオセチア人はグルジアから独立したがっているのか?そもそもオセチア人という民族は、ドン川の南に広がるロシア平原に源を発する民族だった。13世紀に蒙古族がコーカサス地方に侵攻、グルジアとの国境沿いに住み着くようになって、オセチア人たちは追い出されてしまった。南オセチア人は、ロシア連邦の中の独立共和国である北オセチアとの統合を求めている。

BBCの解説によると、ざっと上記のようであるのですが、8月16日付けのThe Economistは「両方(ロシアとグルジア)悪いけど、事態はロシアの計画どおりに進んでいると言える(Both sides are to blame for the Russian-Georgian war, but it ran according to a Russian plan)という趣旨の解説記事を載せています。

この記事によると、いまここで起こっていることは、ロシアが言うように、南オセチアやアブハジアの独立とか、西側のメディアが言うように、ロシアが西側よりのサーカシビリ政権を倒そうとしているとかいうことではない。これはロシアがグルジアを相手に西側諸国との「代理戦争」(proxy war)を戦っているのであり、その背景にあるのはロシアのナショナリズムなのだそうであります。

ロシアのナショナリズムとは何かというと、冷戦に敗れて以来ロシアが蒙ってきた「屈辱」(humiliation)に対する仕返しであり、西側諸国がユーゴスラビアやイラクで行ってきた軍事行動に対する仕返しでもある。「アンタらがやるんならオレたちだってやるさ(If you can do it, so can we)というわけです。

またこの争いは、ロシアが欧米諸国やNATOに対して、「これ以上踏み込んだら許さないぞ」という意思表示のための戦いでもあるし、プーチン首相のサーカシビリ大統領に対する個人的な憎しみも一つの要因ではある(Mr Putin’s personal hatred of Mr Saakashvili)とThe Economistは言っています。

で、これからどうなるのかということについて、いちばん損をするのはロシア人自身であろう(the people who are likely in the end to pay the biggest price for the attack on Georgia are the Russians)として、The Economistは次のように結論しています。

グルジア戦争によってロシアはこれまで以上に孤立を深めるであろう。最悪の場合は、すでに道義的な基盤が弱くなっているロシアの国内社会がより腐食し、ますます抑圧的かつナショナリスティックになっていくだろう。ロシアは、これまでにも権威主義、愛国主義、大組織中心主義の方向へ進んできているが、このグルジアとの戦争によって、さらに崖っぷちまで追い込まれることはあり得ることである。(The war in Georgia will make Russia more isolated. Worst of all, it will further corrode the already weak moral fabric of Russian society, making it more aggressive and nationalistic. The country has been heading in the direction of an authoritarian, nationalistic, corporatist state for some time. The war with Georgia could tip it over the edge.)

▼駐日ロシア臨時代理大使という人が東京で記者会見をやって「我々はロシア国籍のオセット人を守るため、国連憲章51条で認められた自衛権をやむを得ず行使した」と語ったそうです(毎日新聞8月28日)。この"ロシア国籍のオセット人"というのが、The Economistの言う「ロシアのパスポート」を貰った人たちなのでしょうね。こうなると是非知ってみたいのが、2000年にプーチン政府がオセット人にパスポートを発行するにいたった経緯ですね。昔、日本軍が中国に出かけて行った理由の一つが「中国在留の日本人の保護」だったのではなかったっけ?

▼この問題が、グルジアだの南オセチアだのというよりも、ロシアという国の指導部が、どのような世界観とか人間観を持っており、どのようなことをやるのかということの問題であるというのは確かですよね。そこで我田引水のPRになりますが、日本記者クラブのウェブサイトにはロシア関連の講演録がいくつか掲載されています。いずれもグルジア戦争の前に行われたものですが、ロシアという国をどのように考えたらいいのかについて語っています。都甲岳洋・前駐ロシア日本大使、和田春樹・東大名誉教授、木村汎・北大名誉教授という3人の講演で、それぞれ別に行われたものです。詳細はクリックして読んでもらうとして、それぞれの講演の中から、私が面白いと思った部分だけ抜き出してみます。

都甲大使:
2006 年の時点で、多くのロシア人は、EU、欧州、すべての西側陣営をロシアの潜在的脅威と感じるようになっていた。ロシア自体の成長能力は低かったので、より強い西側諸国が究極的にはロシアの経済と産業を簒奪し、植民地化し、ロシアを2 級の従属国家とみなすようになり、特に米国文化の浸透は、ロシア人のアイデンテティと固有の文化、伝統の喪失に繋がるのとの観念が強まった。このことが恐怖感の背景にあった。ソ連が破局を迎えた結果、ロシア人は奴隷ではないが最も劣悪な民族で、ソ連の歴史は犯罪と貧困の歴史であったとの自虐的歴史観にさいなまれた。そして、これから脱却する方法として、西側に対する不信感と国内での外国人への敵愾心の増長がみられた。

木村教授:
米大統領候補のオバマの選挙スローガンは「チェンジ(変革)」ですが、ロシアのほとんどの人々が望んでいるのは「チェンジ」ではなくて、「コンティニュイティー(継続)」です。アメリカ人はいまのイラク戦争その他の状態があまりに悪いので、この閉塞状態から脱却してくれる望みをオバマにかけている。それをオバマが吸い取っている。これに対して、プーチンとメドベージェフの双頭体制は、その逆です。いま、ゴルバチョフ、エリツィンの時代の混乱がようやくおさまってきたのでほっとしてきている。このステータスクオ(現状維持)はまだ8年しか続いていないわけです。それを12年も15年も続けてほしい。メドベージェフにこう期待しているわけですね。

和田教授:
ロシアは、たしかに矛盾の国ですが、矛盾というものは激しくなったり、弱まったりするものです。対立はやはり克服される方向に向かいます。矛盾の様相が、より理性的な、人間的なものになっていく、というふうにもいえます。それがロシアにとっての進歩だと考えられます。それで、もしプーチンの体制が強い権力という方向に歯どめなく前進していくようなことだとしますと、自由を求める人々の運動が再び起こってくるということは避けられないことです。ですから、ここでいかに対立、矛盾というものを理性的に克服していけるか、そのための努力がなされるかということが、プーチン、メドヴェージェフの帝国の問題であろうと思う次第です。

▼それからグルジアのサーカシビリ大統領が昨年、日本記者クラブで行った記者会見のテキストを読むと、彼のNATO加盟への情熱が伺えます。

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5)シュワルナゼのメッセージ「この戦争は避けられたはず」

ドイツの雑誌、Spiegelのサイト(英語版)を見ていたら、ロシアとグルジアの戦争についてシュワルナゼ氏がインタビューをしていました。昔のソ連の外相であり、サーカシビリ前のグルジアの大統領でもあった人です。インタビュー記事の見出しは「この戦争は避けられた(This War Could Have Been Avoided)」で、イントロは次のように書かれています。

グルジアとロシアが戦争にいたったについては、両者ともに誤りを犯したが、最も決定的な誤りの一つを犯したのはNATOである。Both sides made mistakes in the lead up to the war between Georgia and Russia. But NATO, he says, made one of the decisive errors.

要約するのも大変だし、インタビュー自体それほど長いものではないので、この際、全文を訳してみました。原文(英語)はここをクリックすると読めます。

Spiegel現在の危機はどうすれば克服できるのか?

Shevardnadze:私はメドベージェフとプーチンの二人に手紙を送り、ロシア軍を撤退させるように要請した。その手紙の中で、私はグルジアとロシアは隣国として常に特別な関係にあったということ、両政府ともに昔の良好な関係を取り戻す責任があるはずではないか、と伝えた。

Q: ロシアはグルジアのNATO加盟を阻止したいわけです。

A:ロシアにしてみれば、グルジアがNATOに加盟するのは嬉しいことではないだろう。しかし西側にはグルジアを支援する権利があるし、どの国も好きなように同盟関係を持つことはできる。ロシアにだってそれを止めることはできないはずだ。グルジアはNATOに加盟しなければならない。

Q:グルジアはロシアという強大で難しい隣国とどのように付き合うべきなのか?

A:私はプーチンとは常にいい関係を保ってきた。彼とは長い付き合いであり、尊敬もしている。アブハジアで難民問題があったときも、彼と仕事をしたし、彼も協力的だった。私は、グリジアとアメリカの関係についてもオープンな態度で、アメリカ人がグルジアの国境警備隊を訓練していることやグルジア軍に助言を与えているとも伝えた。彼は「ロシアも同じことができる」と言っていた。だから私は「アメリカはロシアよりも資金を持っているのだ」と伝えたのだ。我々はロシアとアメリカの両方と仕事をしていたのだ。それは簡単なことではないが、やればできる。

Q:あなたの後任者であるサーカシビリ大統領は、ロシアの行動に抗議して数日前にCISを脱退した。それは正しいことだったのか?

A:(グルジアが)ロシアとの関係を断絶するというのは明らかに間違っている。小国には同盟が必要だ。それは東西南北どこでも同じだ。

  • CISというのは、(ウィキペディアをそのまま引用すると)旧ソビエト連邦の12カ国で形成された緩やかな国家連合体(コモンウェルス)。トルクメニスタン、ウクライナ、モルドバが事実上の準加盟国(或いは加盟国としての任務の拒否)になったため、現在の正式加盟国は8ヶ国。ベラルーシの首都ミンスクに本部が置かれている。グルジアはつい最近これを脱退。

Q:この戦争の原因は?

A:グルジアの大統領が悪いという人が多い。それはある意味では間違っているが、真実を突いている部分もある。彼が違法行為をしたということで非難するのはおかしい。グルジア軍をTskhinvali(南オセチアの首都)へ送り込んだこと自体は合法だ。しかしやらない方がよかったのだ。それをやると決めたのなら、ロシア軍が通過したロキ・トンネルの封鎖をするべきだった。それをしなかったことは、戦術上の誤りだといえる。おそらくサーカシビリは物事を最後まで考え抜くということをしなかったのだろう。まさかロシア軍がゴリ、ポティ、セナキ、場合によっては(首都の)トビリシなどを占領するとは思ったいなかったのだ。私なら彼がやったようにTskhinvaliには入ったりはしなかっただろう。

Q:しかしロシアは挑発行為をしたのでは?この紛争はそもそも平和的に解決することは可能だったのか?

A:我々は過去10年間にわたってアブハジア、南オセチアの両自治州との紛争を平和に解決したいと言い続けてきたのだし、アブハジア、南オセチアの人々も説得することができたのだ。全部とは言わないが、非常に多くの人々を、だ。平和的な解決の道を諦めてはいけなかったのだ。いずれにしても両自治州との紛争はいつかは解決するだろう。が、いまやこの戦争によって、両自治州との紛争解決は10年(少なくとも10年)は遅れてしまった。

Q:これは東西の新たな冷戦の始まりなのか?

A:ことグルジアに関する限り、これ以上事態が難しくなることはないだろう。西側は4月のNATO首脳会議で、グルジアのNATO加盟のための行動計画(Membership Action Plan: MAP)を拒否してしまった。これは決定的な誤りだった。西側の意図とは裏腹に、ロシアはそれに勇気づけられたのだ。グルジア加盟のためのMAPを妨害(ブロック)したのはドイツとフランスだ。同じフランスとドイツがいまグルジアのためにNATOの扉を開こうとしている。それをもっと早くやってくれていれば、この戦争は避けられたのだ。

Q: この戦争を起こしたロシアの意図は何だったのだと思うか?

A:ロシアは自分たちと自分たちの利益が無視されていると感じている。またある意味ではこれはプーチンとサーカシビリの個人的な関係の問題でもある。お互いに口汚くののしり合ったりしたのだから。とてもプロのやることではない。政治家は、個人攻撃にはきわめて不寛容になることもあるものだ。しかしロシア側も過ちを犯しているのだ。例えばサーカシビリは辞任すべきだとか、彼の後任となら交渉する気があると言ったりしている。それによってサーカシビリの立場がより強くなってしまったのだ。グルジアでは野党の力が非常に強いが、(ロシアの発言で)サーカシビリは、その野党の支持さえ得てしまっているではないか。

Q: サーカシビリ大統領の政治生命は?

A: 大統領は能力のある男であり、(この戦争で)多くのことを学んだはずだ。しかしグルジアには諺がある。「間違いから学ぶことはある。しかし間違いは避けた方がいい」という諺だ。

▼つまり、サーカシビリは、特に南オセチアとアルハジアとの関係を悪化させたのが失敗だった。はっきり言って大統領としては失格だ、とシュワルナゼさんは言っているのですよね。ただ、グルジアはNATOに加盟すべきだという点では、サーカシビリ大統領と同じであり、グルジアの加盟を拒否するかのような振る舞いをしたNATOは、サーカシビリ以上に誤ったことをしてしまった、ということですね。でも、サーカシビリ大統領は、選挙でシュワルナゼさんに勝ったのですからね。アホであれ何であれ、グルジアの人々の支持を得て大統領になったということは認めるべきですね。大統領へのなり方が不正だったとか、クーデターまがいのことをやったとかいうのならハナシは別ですが。

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6)むささびJの、どうでも英和辞典:s-u

society:社会
認知症が伝えられる、あのマーガレット・サッチャー(83才)が首相であった頃に語った有名な言葉の一つにThere is no such thing as society(この世に社会などというものはない)というのがあります。1987年にWoman's Ownという女性誌とのインタビューで社会福祉政策についての考え方を披瀝する中で語ったもので、彼女としては「自分の面倒は自分で見なさい。社会をあてにしてはいけません」と、自助努力を促すつもりであったことが一つと、もう一つは「助けるのも助けられるのも、生身の人間であって、"社会"などという抽象的なものではない」という"インテリ嫌い"的な意味合いで使ったのに「弱者切り捨ての血も涙もない首相」というふうに言われてしまった(と彼女は文句を言っています)。

現在の保守党党首のDavid Cameronは、サッチャーさんが「社会なんてない」発言をしたときは21歳、あの発言から18年後の2005年に党首に就任したのですが、就任早々言ったのが「社会というものはある(There is such thing as society)」ということだった。彼が率いる保守党が、サッチャーさんのそれよりも弱者に優しいということを言いたかった。ということは、彼女の否定にもかかわらず、no such thing as societyは、やはり「弱者切り捨て」コメントと思われているってことですね。


the:定冠詞

「英国」を英語でいうとUnited Kingdomですね。アメリカはUnited States。昔、英国大使館というところで仕事をしていたときに、ある予備校の先生から電話がかかってきて「United Kingdomという国の名前は、正式にはtheを付けるべきなのでしょうか?」という質問をされたことがあります。私の答えは「さあ・・・」でした。よく分からないし、考えたこともないから。

例えば国際会議などの風景を見ると、英国の代表席の前に名札が立っていてUnited Kingdomとなっている。theはついていない。しかし英国政府発行の印刷物などを読むと、文中に出てくるときはthe United Kingdomとなっている。要するにtheという冠詞(article)の使い方がよく分からないので困るのであります、私は。

で、Oxford University Pressが出しているPractical Usage of Englishという本を見てみたら「冠詞の使い方は、英文法の中でも最も難しいものであり、いっさい冠詞を使わなくても意味は通じることが多い」としたうえで「でも、できれば正しい使い方を覚えた方がいいだろう」となっておりました。このように気楽に言ってくれると有り難い。それほど気にすんな、ということですからね。

この本によるとUnited Kingdomの前にはtheつけるのが普通であり、それはthe United Statesも同じことなのだそうです。この場合、theKingdom(王国)とかStates(州)のような一般名詞を「特定」(specify)しているからなのだと言っている。少しだけ分かった。つまりtheは、国名の一部ではないけれど、文章中で使うときは慣例的にtheをつけるってことですな。付けなくても分かるし、付けていないから「間違いだ!」とやるのは、ちょっとアホみたいということでもある。


united:結合・連合・統一
世界の国名でunitedという言葉使われているのは、United Kingdom(英国)、United States(アメリカ)とUnited Arab Emirates(アラブ首長国連邦)の三つだけのようです。昔、本多勝一というジャーナリストが、United Statesの和訳が「合衆国」というのは間違いで、「合州国」が正しいと主張し、小田実さんなども合州国と称していたように記憶しています。

それからUnited Kingdomは、正式にはUnited Kingdom of Great Britain and Northern Irelandというわけで、日本語は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」(外務省のサイト)となるらしい。なぜ「らしい」と言うのかというと、この訳が正しいのかどうか(私には)よく分からないからです。私は「グレートブリテン連合王国及び北アイルランド」が正解なのでは?と思っているわけ。

国連(国際連合)はUnited Nationsですね。なるほど・・・「国家連合」とか「国々連合」いう方が原文には忠実だったんですね。いろいろなnationsが、皆の幸せのためにuniteした・・・けれど、元々は独立した国の集まりだから、いつ解体しても不思議はない。「国際」(international)とやられると、個々の国の集まりというニュアンスが薄まりますね。

 

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7)むささびの鳴き声


▼アフガニスタンで日本のNPOの活動家が殺されるという事件が起こってしまった。昨年(2007年)10月に日本記者クラブで、そのNPOである「ペシャワール会」の中村哲さんの話を聞きました。話のテキストは、ここをクリックすると読めますが、一個所だけ抜き書きします。

「日本というと、まず彼ら(アフガニスタン人)が思い起こすのは、広島、長崎。これは単に原子爆弾でやられてかわいそうに、ということだけではなくて、その後、日本は見事に経済的に復興して、あの廃墟から立ち直った。彼らはよく知っているのです。羽ぶりのいい国というのは必ず戦争をする。しかし、日本だけはこの50 年間、一度も兵を外国に出したことがない。平和な国・日本という美しい誤解? これによって対日感情のよさは支えられておったわけであります。それが6年前のアフガン空爆あたりから、180 度変わりつつあるということは、皆さんにお伝えする価値があるのではないかと思います」

▼中村さんのこのトークを読みながら、何故か日本の平和憲法を想ってしまった。またエモーショナルと言われることを覚悟して言っておくと、国民栄誉賞は北京五輪の金メダリストではなく、殺されたペシャワール会の人にあげるべきなのでは?とも考えてしまったわけです(拒否されるかもしれないけれど)。

▼それなのに、ですよ、日本の官房長官は「尊い犠牲が出てしまったが、そうであればあるほどテロとの戦いに引き続き関与していくことの重要性を日本の国民のみなさんは感じたのではないか」(日経新聞8月28日夕刊)と言っております。つまりアメリカらの軍事活動を支援しましょうってことです。この人、アタマの中に何が入っているんですかね?スパゲッティ・ミートソース!?

▼北京五輪なんて、あったんですか?というくらい遠い出来事になってしまった(と感じるのは私だけかもしれ ない)。のちのちのむささびジャーナルを自分で読み返すこともあるかもしれないから、このオリンピックについ ても一応書いておきます。

▼いくら何でも、NHKはやりすぎだったのではありませんか?マスメディア社会の怖ろしいところは、報道さ れない出来事は「起こっていない」という錯覚に支配されるということですよね。北京五輪の期間中、グル ジア・ロシア戦争もなし、世界経済の危機もなし、アフガニスタンも問題なしだったわけです。オリンピック中 継をやるなとは言わないし、深刻なニュースの方が明るい話題よりも価値があるなどと言うつもりも全くないけ れど、何ごとにもバランスということが大切なのではありませんか?「適度」ってやつ。あそこまでオリンピックに時間を割くこと はなかったのではありませんか?

▼8月25日(北京五輪閉幕の翌日)、テレビでスポーツニュースを見ていたら、横浜ベイスターズのあの村田が4番 打者として実に溌剌と、ヒットだの二塁打だのを連発しておりました。そう、北京でオドオドしていたあの村田 でありますよ。

▼星野ジャパンが、なぜあれほどの惨敗だったのか?いろいろな人がいろいろなことを言っていますが、けが人 や故障持ちを選手として連れて行った、監督のドジもあるけれど、イチバンの犯人は日の丸でしょうね。「日の 丸を背負っているという自覚を持って・・・」とかいう、あれ。あのお陰で野球が暗くなってしまった。 野球は暗くては勝てないのよ。

▼ラジオを聴いていたら、ある野球評論家が今回の「星野ジャパン」の成績について「使命感はダメなんだよな」と言っておりました。そうなんです。「日の丸を背負って」とか何とか、星野という人もたいそうなことばかり言って、選手を「 使命感」でガチガチにしてしまった。だから負けたのであります。

▼その評論家に言わせると、使命感ではなくて「名誉心」なら勝てるかもしれないのだそうであります。ソフトボールの女性たちは、どうし ても勝てなかったアメリカに勝つことが、名誉であり挑戦だった。日の丸なんかどうでもよかった。だから勝っ たのであります。

▼ところで、星野ジャパンに、わが西武ライオンズのGG佐藤という選手がおり、外野でフライをポロリ・ポロ リと落とすエラーを連発したそうですね。私、「ジー・ジー」になり代わりまして、心よりお詫び申し上げます。も、も、も、申し わけございません!許してやってつかあさい。いいヤツなんですよ。あれもこれもみ〜んな、日の丸が悪いのですから。

 

むささびジャーナルへのメッセージ

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