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むささびの鳴き声 美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2010年3月14日
このむささびジャーナルは英国からお送りします。尤もインターネットの世の中で、日本で読もうが、英国で読もうが、The TimesBBCのサイトは同じこと。それらを主なネタにしているむささびジャーナルは、どこで作ろうがほとんど関係のないことではあるのですが・・・。
目次

1)「政治とカネ」がキャメロンの頭痛のタネ
2)英米「特別関係」がおかしくなっている?
3)自民党が完敗した理由
4)英国の二大政党制はいつまでもつのか?
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声

1)「政治とカネ」がキャメロンの頭痛のタネ
Lord Ashcroftという人をめぐる英国における「政治とカネ」の話題は、日本でも報道されましたっけ?全くの国内ニュースなので報道されなかったとしても大して不思議ではないけれど、政権奪取をめざす保守党にとっては有難くない話題ではある。

Lord Ashcroftは会社をいくつも経営している金持ちであるばかりでなく、保守党に対して個人としては最高額の献金を行っている。それだけではない。現在は党の副幹事長(deputy chairman)であり、間もなく行われる選挙においては「激戦区」(marginal seats)と呼ばれる選挙区における選挙運動を取り仕切っているという人でもある。

この人、国籍的には旧英国植民地である中南米のBelizeという国と英国の二重国籍(dual nationality)者なのでありますが、どちらかというとBelizeで暮らす方が多かった。問題になっているのは彼の税制上の立場です。彼の立場はnon-domicile(略してnon-dom)というものなのですが、英国発ニュースダイジェストという日本語サイトによると、non-domは、「現在は英国に住んでいても定住する意思のない人」という意味らしい。non-domの場合、英国内で仕事をして得た収入には税金がかかるけれど、海外におけるビジネスについては税金がかからないという立場であります。

ただ、いまから10年ほど前に自身の希望がかなって保守党の上院(House of Lords)議員になるにあたって、William Hague党首(当時)に対して、「これからは英国の永住権(permanent residence)を持って暮らす」ということを文書で約束した。"永住権をとる"ということは税制上のnon-domという立場を捨てて、収入のすべてに対して税金を払うという意味である・・・と解釈されたのですが、最近になって相変わらずnon-domの資格で海外で得た収入については税金を免れていることが分かってしまった。The Economistの記事よると、William Hagueに文書を提出したあとで、政府(ブレアの労働党)と「会話(dialogue)」を持ち、その結果として永住権(permanent residence)ではなく、長期滞在者(long-term residence)ということにしてもらった。これだと相変わらずnon-domとして、海外におけるビジネスについては英国政府に税金を払う必要がなくなる。

non-domという立場そのものが悪いわけではない。労働党や自民党にもnon-domでありながら献金をしている金持ちはいる。さらに少なくと現在の制度ではnon-domでも上院議員になれる(これについては規則が変わろうとしているのですが・・・)。ただLord Ashcroftの保守党に対する献金額が2006年から3年間で760万ポンド(約12億円)と群を抜いて大きいので目立ってしまい、法スレスレで脱税行為でもしていたかのように報道されてしまっているわけです。

Lord Ashcroftは2005年の選挙で保守党がブレアの労働党に再度敗北を喫したあとで、世論調査による報告書を作成、その中で「選挙民は党の政策よりもイメージで保守党を嫌っている」(voters were repelled by the party’s image rather than its policies)と指摘した。これは党内改革派にとっては心強い報告書となり、改革派の一人であるキャメロンが党首に選ばれるきっかけにもなった。

(今回の問題で)イチバン頭が痛いのはキャメロン氏であろう。彼はLord Ashcroftについて何を知っていたのか?そしてそれはいつ知ったのか?というのは大きな疑問だ。しかしもっと興味深いのは、いつもなら冷酷で知られるキャメロンが、このトゲ(Ashcroftのこと)についてはかくも長い間、寛大な態度をとってきたのは何故なのだろう、ということであろう。
The real headache is for Mr Cameron. What he knew and when about Lord Ashcroft is a big question, but perhaps a less interesting one than why the normally ruthless Tory leader has tolerated this thorn in his side for so long.

とThe Economistは言っています。

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2)英米「特別関係」がおかしくなっている?

日本のメディアで報道されたかどうか知らないけれど、2月中旬にロンドンのアメリカ大使館で開かれることになっていた、あるセミナーが開催直前に延期されたことが英米の「特別な関係」(special relations)の終わりの始まりを暗示するものではないかと言われています。延期されたセミナーは「特別な関係:英米の防衛情報に関する公式協力の60周年」(A special relationship: 60 years of formal UK/US defence intelligence co-operation)というタイトルの催しで、これまで英米の間で行われてきた軍事情報を共有するという、60年間にわたる「特別な関係」の祝賀行事として行われるはずだった。

それが延期された背景には、英国の在留権を有するBinyam Mohamedというエチオピア人がテロリスト容疑で捕まって、CIA(米国中央情報局)の担当官によって拷問を受けたということがある。Binyam Mohamedという人は、アメリカのGuantanamo Bay収容所に入れられていたのですが、拷問そのものが行われたのは、9・11後の2002年、パキスタンとされている。

その後この人は、収容所から釈放されたのですが、自分が受けた拷問については英国政府も知っていたはずだとして、自分の拷問についてアメリカのCIAから英国の諜報機関であるMI5に手渡されたはずの文書を公開するように、英国の控訴院に訴えていた。そして控訴院が政府に対して問題の文書を公開するように命ずる判決を下した。

公開された文書によると、Binyam MohamedはCIAによって「少なくとも残虐、非人間的かつ(容疑者の)品位をおとしめるような(could readily be contended to be at the very least cruel, inhuman and degrading)」取扱いが米国当局によって行われたと書かれている。

この文書の公開については、ミリバンド外相が「米英の情報交換関係を危機に陥れ、英国の安全を脅かすことになる」(publication of these paragraphs would jeopardise the Anglo-American intelligence relationship and threaten national security)と猛反対していた。

で、最初に触れたロンドンのアメリカ大使館で予定されていたセミナーは、Binyam Mohamed事件がきっかけでこの分野で米英関係について疑問を呈する世論が高まっており、挙行するのは賢明ではないという両国関係者の判断で「延期」となったものです。このセミナーは両国の防衛関係者、学者、学生ら約100名が招かれていた、とChannel 4テレビは伝えています。

これまで英米関係は「特別な関係」(special relationship)ということが、特に英国サイドで言われてきています。これは例えば両国間の文化的なつながりとか首脳同士が仲が良いなどということで言われてきているけれど、BBCのワシントン特派員であるJonathan Bealeによると、英米関係のバックボーンはスパイ分野における協力関係にあるのだそうです。

ブッシュ前大統領がイラク攻撃の正当化に利用したのは、英国の諜報機関からの情報だった。現在でもイランやパキスタンの情勢については両国のスパイが密接な連絡を取り合っている。そういう関係なので、CIAから英国の機関に渡った情報が公開されると英米の特別な関係にひびが入ることになると言われているのですが、Beale記者は、「冷戦時代にも似たようなことがあったけれど、特に英米関係にひびが入ることはなかった」として、今回の事件でもそれほどの影響はないだろうとしています。

一方、2002年から2007年までの5年間、英国のMI5(Military Intgelligence 5)という機関の長官を務めたBaroness Mannigham-Bullerが、最近、貴族院(House of Lords)の議員たちを対象にした講演会で、アメリカの情報機関が拷問を行っているということは、引退してから初めて知らされたと発言したことがBBCのサイトで伝えられています。彼女によると

アメリカ人は、自分たちのやっていることを我々のような人間に知られたくないのです。
The Americans were very keen that people like us did not discover what they were doing.

と述べており、自分が長官であったころに捕虜の拷問についてアメリカ政府に「抗議」(protests)したことがあると語っています。この件について英国外務省では「捕虜の取り扱いについてアメリカ政府に送った抗議文の詳細は現段階では見つかっていない(Foreign Office could not, at this stage, find any details of protests lodged by the British government with the US over the treatment of detainees)と言っています。

▼MI5の前長官が「英国がアメリカに抗議した」という発言について外務省の担当者が、その種の抗議文は「いまのところ(at this stage)」と見つかっていないというのは、いかにも「いずれは見つかる」と言っているように思えますね。

▼ところでMI5はスパイ組織と言っても、どちらかというと国内のテロ防止のような仕事が多い。この組織のサイトは何やらスパイ組織であることを喜んで宣伝しているようんな雰囲気であります。また国際的なスパイ機関としてはMI6というのがある。こちらのサイトを見ると、MI6はニックネームで、本当の名前はSecret Intelligence Service (SIS)というのである、とうたっている。でも秘密情報機関のサイトがトップページでWELCOMEと言っているのも妙な気がしますね。それから人事募集も宣伝しています。

▼それにしても、アメリカ大使館のセミナーのタイトルにある「英米の防衛情報に関する公式協力の60周年」って何のことなのか?公式というからには条約のようなものでもあるのかと思ってネットを調べてみたら、第二次世界大戦直後の1948年から1950年にかけて結ばれたBurns/Templer Agreementsという一連の合意文書があった。Will Kaufmanという人が書いたBritain and the Americasという本によると、1950年に結ばれたものが特に重要で、「両国の情報関係者は"あらゆる機密情報を全面的かつフランクに交換し合う"ために努力すること」(the two intelligenec communities would pool their efforts in "a full and frank interchange of all classified information and intelligence")」という文章があるのだそうです。

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3)自民党が完敗した理由


菅原琢さんという人(東大先端科学技術研究センター特任准教授)が書いた『世論の曲解:なぜ自民党は大敗したのか』(光文新書)という本は、最近読んだ中でも抜群に難解というか読みにくいものでありました。なにせ最初から最後まで表・グラフの数字的解説なので、心底アタマが痛くなってしまう。ただサブタイトルの「なぜ自民党は大敗したのか」という問いかけに対する彼なりの答えには一応うなずけるものがありました。すなわち2005年に小泉さんがやった「郵政解散」における自民党の大勝の意味を自民党自身が全く分かっていなかったし、分かろうとしなかったことが、その後の凋落につながっているということです。

小泉さんが首相・自民党総裁の座を退いた後、安倍晋三さんが引き継いだのですよね。そして小泉・自民党の大勝から2年後の2007年の参議院選挙で完璧に負けてしまった。そして2009年の衆議院選挙では麻生太郎さんが、立ち直り不可能とさえ思われるような敗北を喫してしまった。このあたりの事情を菅原さんは世論調査だの選挙民の投票行動だのにまつわる数字のみを通して語っています。

まずなぜ2005年に小泉・自民党はあそこまで完璧に勝利したのか?それは、それまでの自民党の支持基盤とされた農村部ではなく、都市部における若年・中年層の有権者の票をかっさらってしまったからです。小泉さんの掲げた郵政民営化に代表される構造改革路線が都市部の有権者に受けたということです。「自民党をぶっ壊す」路線に対する支持がものすごかった。しかも(ご記憶ですよね)あの選挙のテレビ報道は、もっぱら小泉さんが自民党内の反対勢力に対抗して送りこんだ「刺客」と古い自民党政治家の争いを面白おかしく伝えたのですよね。おかげで民主党を始めとする野党は蚊帳の外に置かれてしまった。みんな野党よりも「変わる自民党」に期待したのですよね。

それが安倍・自民党になった途端に「郵政造反組」の政治家の復党を許してしまった。要するに逆戻りしてしまった。安倍さん個人がなぜ逆戻り路線を走ったのかはともかく、この人が首相になったあたりから「小泉改革」に対する批判がメディアの間で言われるようになった。「改革の行き過ぎで地方が疲弊した」という言い方が流行るようになった。菅原さんはこのような現象のことを「逆小泉効果」と呼んで、次のように言っています。

小泉の政治手法への怒り、構造改革路線への恨み、マス・メディアへの嘆きなどを含みつつ、さまざまな論者がこの(2005年の)選挙を指して日本の民主主義への危惧を表明している。そしてそこには言外に、この選挙を生み出した人々への---つまりわれわれ有権者への---軽蔑した眼差しが感じられるのは、気のせいだろうか?

▼このコメントには私も賛成です。地方や農村が疲弊していたのは、小泉さん以前からのことであり、必ずしも小泉改革が原因でそうなったのではない。それと「小泉ブーム」に絡めて、小泉という特殊性格の政治家に踊らされた有権者がアホだからというニュアンスの主張にも賛成できない。それまでの自民党にほとほと嫌気がさしていた「都市部の若年・中年層」の中には「疲弊した農村」を出てきた人たちだって結構いたはずです。

▼さらにいちゃもんをつけさせてもらうと「小泉ブーム」を批判する日本のインテリに限って、アメリカにおける「オバマ・ブーム」には何も文句を言わない。両方とも、それまでの政治のやり方を拒否した人たちの意思の表れであるという点では同じなのに、です。

2005年の選挙で自民党が小泉を担ぎ、小泉が改革路線を進んだことの意味は何か?菅原さんによると、

都市部の若年・中年層の有権者の支持を獲得することで、農村依存で衰退が必然の運命にあった自民党に勢いを取り戻すことにあった。

このように考えると、2007年の参議院選挙で安倍・自民党が大敗したのは、「小泉改革の負の部分」のせいではなく、安倍さんが小泉改革とは逆の方向に走ろうとしていたからだ、ということになる。さらに安倍さんは単に古い自民党を復活させただけでなく、「戦後レジームからの脱却」などという「国民が興味関心もないことを声高に叫び続けた」だけだから、菅原さんに言わせると「支持に結びつかないのは当然である」ということになる。

最後に2009年の衆議院選挙での自民党の完敗の背景は何か?基本的には、安倍・福田・麻生の自民党の逆コ-ス路線のおかげで、小泉さんが郵政選挙で獲得した都市部の若年・中年有権者がそのまま民主党に流れたということなのですが、菅原さんによると、自民党が最も頼りにしていた農村選挙区においてさえも票が減り、民主党候補者の票は増えていた。つまり「自民党を強力に支えていた農村の選挙構造が融解していた」ということなのだそうであります。

昨年の衆議院選挙で民主党が勝って政権交代が起こったときに、自民党のある人たちは、それが「自民党に対する国民によるお灸」であると言っていた。つまり自分たちがしっかりすれば、いずれは政権に復活できると言う人がいたわけです。政治の振り子現象が起きるということです。

しかし菅原さんによると、そのようなことが起きるためには、自民党から逃げ始めた農村票と小泉さんが引きつけた「都市部の若年・中年層」の支持を「一緒に一挙に獲得する」必要がある。しかもいまの自民党は、昨年の選挙で「民主党が手加減してくれたおかげで」農村部に基盤を置く長老議員だらけになっている。となると、自民党の頼みの綱は民主党の失政を待つということです。二大政党制というのが、政権党がどこかで失敗するのを待って、満を持して野党が政権を奪還するという制度であるのだから、

(自民党が)本来の政党の役割を果たせばよいだけのことである。それが自民党にできるかどうかは、ともかくとして。

というのが菅原さんの結論であります。つまり今の自民党ではほとんど無理ということのようです。

▼最初にも言ったとおり、この本は私のような一有権者(政治学のアマチュア)には実に読みにくいけれど、自民党の凋落が小泉改革を逆行させたからだという基本的なメッセージについては、そのとおりだと思います。小泉改革をさらに徹底するべきであったのに、特に金融危機以後は、メディアも含めて、小泉改革が諸悪の根源のように語ることが流行のようになってしまった。私は昨年の選挙では民主党に投票はしたのですが、亀井静香さんのような人と組むことには大いに抵抗があります。

▼『世論の曲解』について、私が不満に思うのは、2005年に小泉さんを熱狂的に支持した「都市部の若年・中年層」が期待した「改革」とは何だったのか?ということについて、いまいち語られていないように思えるということです。私に関して言うと(小泉・自民党に投票したわけではないけれど)「官から民へ」という小泉改革のメッセージには大いに共感を覚えました。あのときは小泉・自民党を支持したけれど、2009年の選挙では民主党に投票したという人たちが、鳩山さんに対してどの程度「官から民へ」を期待しているのか?

▼私の感覚的な意見にすぎないけれど、小泉改革を逆行させ、いままた(私に言わせると)殆どどうでもいいような「カネと政治」というテーマを担ぎ出している人たちが意識的・無意識的に待望しているのは「官の復活」なのではないかと思ったりしているのです。「政治家なんかにこの国を任せておけない」と考えている人たちです。必ずしも官僚だけではない。政治家(つまり選挙で選ばれた人たち)に任せることに不安を覚える人たちは、メディアの間にもいるだろうし、普通の人たちの中にもいるはずです。

▼先日もラジオを聴いていたら、ある通信社の政治ジャーナリストが小沢さんについて「選挙で選ばれたからって何をやってもいいというわけではない」と言っていた。「この人、何を考えているのだろう」と私は思いました。民主主義による政治というのは、基本的に「選挙で選ばれたのだから何をやってもいい」システムのことを言うのです。だから選挙が大事なのです。おそらくこのジャーナリストが言いたいのは「選挙民なんてアホだから」ということなのであろうと思いますが・・・。自民党が復活したければ、この種の人たちからの支持を頼りに「民から官へ」をスローガンにするというのもアイデアかもしれない。

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4)英国の二大政党制はいつまでもつのか?
何度も申し上げますが、今年は英国の総選挙の年です。遅くとも6月3日までに選挙行われるのですが、最近のメディアを見ていると、5月の第一金曜日、つまり5月6日が投票日というのがもっぱらの噂であります。ブラウンの労働党が勝てば1997年以来、4回の選挙に連続勝利することになる。キャメロンの保守党が勝つと、ジョン・メージャー以来、13年ぶりに保守党政権が誕生ということになる。

これまでの世論調査では、デイビッド・キャメロン率いる保守党が労働党を10ポイントもリードして圧倒的に有利とされていたのが、最近ではこれが2ポンドにまで下がったりして、必ずしも保守党有利とは言えない数字が出ています。尤もFinancial Times (FT) のGeoffrey Wheatcroftという政治記者によると、そのようなことは「選挙が近づくと普通に起こること(usually happens when an election approaches)」なのだそうで、キャメロン有利は動かないと言っております。

何はともあれ、前回(2005年)の選挙の結果として現在の下院の議席数がどうなっているのか押さえておきましょう。議席数のカッコ内は全議席数に占める党の議席の割合、得票数のカッコ内は全投票数に占める党の獲得票数の割合です。

議席数 得票数
労働党 
Labour
356 (55.2%) 9,562,122 (35.3%)
保守党 
Conservative
198 (30.7%) 8,772,598 (32.3%)
自民党 
Liberal Democrat
62 (9.6%) 5,981,874 (22.1%)
スコットランド愛国党 
SNP
6 (0.9%) 412,267 (1.5%)
北アイルランド民主党 
Democratic Unionist
9 (1.4%) 241,856 (0.9%)
ウエ-ルズ党 
Plaid Cymru
3 (0.5%) 174,838 (0.6%)
シンフェイン党 
Sinn Fein
5 (0.8%) 174,530 (0.6%)
北アイルランドユニオニスト
Ulster Unionist
1 (0.2%) 127,414 (0.5%)
社会民主労働党 
SDLP
3 (0.5%) 125,626 (0.5%)
独立党 
Independent
1 (0.2%) 122,000 (0.5%)
尊敬党 
Respect
1 (0.2%) 68,094 (0.3%)
健康問題党 
Health Concern
1 (0.2%) 18,739 (0.1%)
        合計議席:646 総投票数 27,110,727

ご覧のとおり、国会における議席数だけ見ると労働党が55・2%で過半数を占めていますが、世論調査における労働党と保守党の支持率が縮まっているということで、最近ささやかれているのがhung parliament、つまりどの政党も議会の絶対多数をとれない状況が生まれるのではないかということです。例えば、保守党が労働党と同じ議席を獲得するためには、選挙における得票総数で労働党を10パーセントほどリードしなければならず、5パーセント程度のリードでは労働党の議席数の方が上回るのではないかと言われているし、これが2パーセントの差ということになると、むしろ労働党の方が絶対多数党になるかもしれないという人もいる。

英国は完全小選挙区制なので、全部で646ある選挙区のそれぞれでイチバン多く票を獲得した候補者が議員になる。日本のように比例代表制が併用されているわけではない。そのような選挙では、党の得票総数の差と獲得議席数の差が全く合わないというケースが多い。上の表を見ても分かるとおり、2005年の選挙で労働党が獲得した票数は全投票数の35.3%にすぎないのに、国会における議席数では55.2%と過半数を占めている。それにひきかえ第三政党と言われる自民党は、約600万票も獲得しているのに、議席数は62で、全体のわずか9.6%にすぎない。

いまから55年前(1955年)の選挙では保守党の獲得議席数は344、労働党は277。保守党がかなりリードしたように見えるけれど、得票数で見ると両党の差はたったの3・1%にすぎなかった。同じようなことが1970年の選挙(保守党:330議席・労働党:287議席)でも起こった。さらに面白いのは、1951年の選挙で保守党は321議席、労働党が295議席だった。その後13年間にわたって保守党政権が続いたのですが、その間保守党の得票数は常に労働党より少なかったということがある。

Wheatcroftによると、最近の英国の政治では、一つの党が議席数で絶対多数(つまり野党の合計議席数を上回る)を占めるということが例外(exception)であって、普通(rule)ではない。これはいわゆる2大政党による支配が明確に衰退している(sharp decline of two-party dominance)ということを表している。1955年の選挙における保守・労働の「2大政党」が獲得した票は全体の96・3%に達しており、文字通り「2大政党」であったのですが、50年後の2005年の選挙における両党併せた票数は全体の67・3%にまで減っているというわけです。第三政党である自民党(かつての自由党)が台頭すると同時に、ウェールズやスコットランドにおける地域色の強い政党もそれなりに当選者を出したりしているということがある。

得票数と議席数が合わないもう一つの理由としてWheatcroft記者は「選挙区の線引きが英国における人口動態が合っていない(boundary changes have not kept up with the demographic shifts)」ということを挙げています。過去約30年、英国では都市部から郊外へ人が移り住むという傾向が極めて顕著で、都市部の人口(選挙民)が減っている。労働党の支持層は都市部に多い。つまり都市部の選挙区では、郊外におけるよりも少ない得票数で当選することができる。さらに労働党は投票率の低い地域で勝つ傾向がある。

Wheatcroft記者は、2005年の選挙についてGlasgow CentralとDorset Westという選挙区における結果を例として挙げています。Glasgow Centralはスコットランドの典型的な都市部であり、Dorset Westはイングランドの田園地帯として知られています。

選挙民数 投票率 労働党 保守党
Glasgow 64,053 43.77% 13,518(48.21%) 1,757(6.27%)
Dorset 69,764 76.29% 4,121(7.74%) 24,763(46.53%)

おわかりですよね。選挙民の数では大して違わないけれど投票率がまるで違う。Glasgow Centralでは10人にほぼ4人しか投票しなかったのに、Dorset Westではほぼ8人が投票しており、労働党は13,518票で当選し、保守党は24,763票でようやく当選というわけです。約1万票の差がある。

これまで完全小選挙区制(first-past-the-post)は、自民党のような第三政党にとって不利であるだけでなく、選挙民の意思が議会に反映されないということが指摘されている一方で、この制度こそが政党に強いリーダーシップと政治の安定をもたらすという主張も行われている。Financial TimesのGeoffrey Wheatcroft記者は「いまの制度は第二政党にとっても不利に働く可能性があるし、第一政党だってあぶないことがはっきりしている(What is striking is that it can now disadvantage the second party--or even the first)」と言っています。

また元政治学者でいまは労働党議員のTony WrightはBritish Politicsという本の中で、分権政策で生まれたスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの議会による政治は二大政党制ではなく、多党制というやり方で行われており、これまでの英国政治ではイチバン嫌われていた「連立政府」による政治(coalition politics)が行われている、と指摘しています。

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5)どうでも英和辞書

A~Zの総合索引はこちら
centenarian:健康百寿

centenarianというのは、年齢が100才の人のことをいうのですが、ネットで検索してみたら「センテナリアン」というカタカナ英語になっているのでありますね。訳して健康百寿。知りませんでした。あるサイトでは「センテナリアン事業」なるものが紹介されており「楽しく、美しく、元気で長生きしましょうという呼びかけです」として、具体的には「禁煙禁酒などの節制から、食事にも十分に気を使った上で毎日のエクセサイズを欠かさず、体重と体脂肪をコントロールし、長寿健康を目指した生活を送っていく」ことを促進しているのだそうです。

で、Daily Telegraph紙によると、イングランドのCheltenhamという町に住むLorna Gobeyさんがこのほど100才の誕生日を迎えたのですが、

I never thought I'd make it to 100, but I have. I'm quite amazed really.
まさか100まで生きようなんて考えたことなかったけれど、生きてしまったのよね。自分でもびっくりだわ。ホントよ。

とコメントしております。Daily Telegraphによると、この人は「一日にタバコ20本吸ってギネスビールのウィスキー割りを一杯やること」(she smokes 20 cigarettes a day and regularly enjoys a glass of Guinness with a whisky chaser)が日課だそうです。初めてタバコを吸ったのは1940年、30才のときだそうで、計算するとこれまでに50万本吸ったことになる。

100才の誕生日は、地元のパブでギネス+ウィスキーで乾杯してからどんちゃん騒ぎを楽しんだそうでありますが、孫27人、ひ孫55人、やしゃご12人(合計:94人)もいるのだとか。すっげぇ、「健康百寿」にもいろいろあるんだ!!


myth:神話

沢山の人が信じているけれど実際には間違っているようなハナシのことを「神話」と言いますね。全然どうでもいい(としか思えない)mythとして「金魚の記憶力」というのがある。Daily Telegraph(この新聞は動物関連のハナシを掲載するのが好きですね)によると、これまでのmythは金魚の記憶力は2~3秒しかもたないというものだったけれど、最近の実験によると少なくとも24時間はもつということが分かったのであります。水槽の片隅だけに電気ショックが働くような仕掛けをしたところ、ひとたびショックを感じた金魚は24時間以内には同じ場所で泳ぐことがなかったというわけでございます。

PDSA(People's Dispensary for Sick Animals)というペット愛護組織が実験したのだそうですが、これ以外にも「イヌが尻尾を振るのは必ずしもハッピーだからとは限らない」とか「ネコに牛乳ばかり与えるのは危険」などというのもある。尤もだなと私が思ったのは、「イヌは必要以上にモノを食べない」というmythで、これは間違いらしいですね。ワンちゃんというのは、オオカミと同じpack animal(群れ動物)で、この種の動物の習性で「いま食べておかないと、次にいつ食べ物にありつくか分からない」という一種の恐怖心がある。だから止めないといつまでも食べ続けて肥満犬になったりするそうなのです。気をつけた方がいい・・・というけれど、むささび(私のこと)にも似たような習性がある。だからやたらにモノをあげないでください。


matches:マッチ

最近ほとんど見かけなくなってしまったマッチですが、英国ではまだ売っているんですね。右の写真で単3の乾電池と一緒に写っているマッチはBryant and Mayというメーカーの製品でextra longというだけあって長さが10センチもある。しかも箱には英国女王のご用達商品であるというロゴまで入っているのであります。マッチの王室ご用達なんてあるんですね。スーパーで買うと60ペニー(70~80円)です。日本ではそもそも売っていませんよね。昔は駅の売店で10円だか5円だかで売っていたけれど。世界で最初のマッチはJohn Walkerという英国の薬剤師が1827年に「摩擦の光」(Friction Lights)という名前で作ったのだそうです。それから40年後の1865年にBryant and May社が大量生産するようになった。

extra longのマッチの主なる用途はバーベキューの着火ですが、日本には「チャッカマン」という細長いライターのような商品が売られている。妻の美耶子によると英国では見かけないとのことで、昔ながらのマッチが売られているわけですが、はっきり言って危険ですよね。

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6)むささびの鳴き声

▼最初のイントロでも申し上げたとおり、このむささびジャーナルは英国からお送りします。私の居場所でありますが、ロンドンのヒースロー空港からバスで西へ1時間半ほど行くと大学町のオックスフォードに到着します。そこからローカル・バスに乗り換えて40~50分ほど北へ走るとWitneyという町に着く。そこからさらにローカルなバスに乗って東の方へ20分ほど走るとFinstockという村に到着します。そこが私の居場所であります。

Finstock村は人口約700人というコミュニティで、お店らしきものとしては郵便局と雑貨屋さんが一緒になったようなものが一つとパブが2軒あるだけでございます。パブの名前は一つはThe Crownで、もう一つはPlough Innといいます。Ploughは畑を耕すことを言うのだから、このパブも何十年も前には農業関係で旅をする人のための旅籠の役割を果たしていたのかもしれない。いまはファミレス風のパブとなっている。

▼左の写真の手前にあるコテッジの一角に私と妻の美耶子が住んでいます。「住宅」というよりも何やら朽ち果てた長屋という見てくれでありますね。建築後350年という住宅だから、朽ち果てるのも仕方ない。この家はlisted houseと言って、勝手に取り壊したり、外装を変えたりすることが禁止されている。一種の保護文化財ですな。個人の所有物なのに、です。

▼近所の専門家によると、昔はパン屋だったのではないかとのことであります。備え付けの暖炉の片隅に、明らかにパンを焼いたと思われるカマドのようなものが残っている。われわれの「長屋」は築後350年ですが、背後の丘の上に見える住宅は1970年代に建てられたものだそうであります。壁といい、屋根といい、あちらの方が少しはしゃんとしている。

▼英国の田舎に行くと、建てられてから300年も400年も経つ家が使われていることに感銘を覚えたりしますよね。とにかく古い建物を残すことに関しては英国の人たちはほとんど異常なほどに執念を燃やす。古くなったからと言って勝手に建て替えたりしようとするとお役所の許可がおりない。なけなしのサラリーからローンを払い続けたマイホームも、30年もすると住宅そのものは無価値と言われたりする日本とは大違いでありますね。

▼ただ、古さへのこだわりにも限界というものがあるようですね。住宅の外観を変えるようなことはほとんど許されないとなると、例えば窓を二重サッシにすることはできないし、屋根の上に太陽熱の湯沸かしシステムを置くなんてとんでもない。冬でも隙間風は我慢しなければならないし、暖房用のガス代が高いのも仕方ない。でも、ここからクルマでさして遠くないところに、新しい住宅団地があり、隙間風も入らないし、暖炉だって、この家のように住宅内で焚き火しているのと大して変わらない(けむいわりには暖かくない)のとは違うものがあるに違いない。というわけで、英国政府自体が「エコタウン」などという構想を打ち出しているのだから、私が暮らしている「築350年」との矛盾は間もなく表面化するのではないか?と勝手に考えたりしています。

▼最後に問題をひとつ。左の写真は、この家のバスルームにある洗面用の水道の蛇口です。さて、水やお湯を出すとき、皆さんなら水道の取っ手を手前に捻りますか?それともあちらへ捻りますか?私は無意識に手前に捻る(つまり取っ手が水平についていた場合は時計と逆回り)のですが、なぜかこの水道は反対に捻らないと水が出ない。国によっていろいろあるから・・・という理屈は英国では成り立たない。この家の台所にある水道の蛇口は、私が身につけた習慣と同じ捻り方でオーケーなのであります。同じ家の中なのに水道の捻り方が異なるなんぞは、にくいですな。
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