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むささびの鳴き声 |
美耶子の言い分 |
どうでも英和辞書 |
green alliance |
2010年5月9日 |
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イングランドは春爛漫。英国の空には日本の空にはない表情がある。雲が多いということ。「雲ひとつない晴天」というのがない。青空が気持ちのいい日はあるけれど、必ず雲があって、それがいつ雨を降らせるか分からない。英国の人たちが雨の中を傘もささずに歩くのは分かりますね。いちいち雨を気にしていたらキリがない。 |
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目次
1)選挙は終わっても「政局」が終わらない!
2)選挙は古いメディアの世界!?
3)数字で振り返る「労働党の英国」
4)フィンランドの英語授業:バイリンガルが当たり前の国
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
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1)選挙は終わっても「政局」が終わらない! |
5月6日(木曜日)に行われた英国の選挙については、日本のメディアでも詳しく報道されていると思いますが、この際、「むささび」なりに総括しておくことにします。まず主要3党の選挙結果は次のようになっています。
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獲得議席数 |
得票数(%) |
保守党(Conservative) |
306(+97) |
10,706,647(+3.8=36.1%) |
労働党(Labour) |
258(-91) |
8,604,358(-6.2=29.0%) |
自民党(Lib-Dem) |
57(-5) |
6,827,938(+1.0=23.0%) |
英国下院の議席数は650だから、過半数の326議席を獲得した党が政権を担うはずであったのですが、イチバン多かった保守党もそれに届かず、いわゆるhung
parliament(どの党も過半数に達しない宙ぶらりん状態の議会)となっており、この記事を書いている時点(5月8日朝)では、保守党と自民党による連立もしくは議会協力についての話し合いが続いています。BBCのサイトには「午前7時50分」の「生中継」として
今日は奇妙な日になりそうです。つまり主要3党による妥協や極秘交渉の一日になるということであります。We
have a strange day ahead of us of deals and behind-doors negotiations between
the three biggest parties.
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と書かれている。
もう一つまとめておくと、今回の選挙では上の主要3党が621議席を占めており、「その他」の主なところとしては、北アイルランド民主党(Democratic
Unionist Party:8議席)、スコットランド党(Scottish National Party:6)、北アイルランド・シンフェイン党(Sinn
Fein:5)などがあります。また今回は緑の党(Green)が英国では初めて議員を送り出して注目されています。極右のBritish National
Partyは議席こそゼロだったけれど、前回よりも+1.2増の約56万票を獲得していることも事実です。
5月6日(木曜日)夜10時に投票が締め切られて以来、BBCなどはほとんど選挙以外に報道していないという状況ですが、このむささびジャーナルをお送りする時点でも、おそらくゴタゴタは続いていると思います。つまり保守党がLib-Demとの間で、一種の連立政権的なものを作ることで合意するのか、労働党がLib-Demと組んで政府を作るのか?あるいは保守党が、議席の過半数を持たないまま、単独の少数派政権(minority
government)を作ることも可能ではある。すべてはLib-Demの動き次第です。選挙前は大躍進が云々されたLib-Demも、蓋を開けてみれば5議席減の57議席しか獲得できず、支持者はがっくりしていたのですが、いまや「キングメーカー」としてのLib-Demが脚光を浴びているわけです。
そのLib-Demが選挙の際に最も強く訴えたのが選挙制度の改革です。これまでの完全小選挙区制(First
Past the Post)ではなく、比例代表制(Proportional
Representation)の導入です。保守党は現在の選挙制度を守るという立場なのですが、キャメロン党首がLib-Demに対して「保守党とLib-Demが協力して、すべての党が参加する選挙制度改革委員会を設立してはどうか」と呼びかけたりしている。
▼このあたり、苦しくなると「XX委員会を作って検討を・・・」という日本のやり方と似ていなくもない。保守党が比例代表制をそのままのむということは考えられないけれど、キャメロンのいわゆる「強力かつ安定している政府(strong
and stable
government)」ためには、なんらかの妥協が必要になることは間違いない。 |
一方のブラウンさんもLib-Demに対して「選挙制度改革をやろう」と呼びかけたりしている。ブラウンの場合は、昨年末の時点で選挙制度改革のための国民投票を約束したりしているので、キャメロンよりはLib-Demに近いと言えるけれど、必ずしも比例代表制を推進しているわけではないし、労働党内部にもこれに反対する声は根強い。そもそもブラウンさんの場合、Lib-Demと組んだとしても議席数は315なのだから、ほかの党も巻き込まないとstrong
and stable
governmentは作れない。
ただ、労働党のある議員がテレビで言っていたとおり、Lib-Demはどちらかというと「進歩的な政治」(progressive
politics)を推進してきていると目されている。たとえば今回の選挙ではGuardianのような、これまでは労働党寄りだった新聞がLib-Dem支持を表明したりしている。つまり自民・労働(Lib/Lab)協力の方が合っているとも言える。両党が連立しても議席数が過半数には達しないけれど、獲得票数を合計するとLib/Lab連合が保守党よりも500万票も上回る。またLib-Demの幹部がBBCに対して「労働党との連合関係を望む(would
prefer alliance with Labour)」と発言したりしているということもある。
以上、書いてきたらBBCの政治記者(Nick
Robinson)がLib Demの幹部と話をした結果として
私のカンにすぎないけれど、保守党とLib
Demの協力はあり得ると思う。ただそれは連立というかたちではない。それは両党ともに受け容れがたい。協力があり得ると思うのは、両党のリーダーともに、あまり近いうちに再び選挙をすることは避けたいという点で利害が一致するからだ。My
hunch is that a Tory/Lib Dem arrangement can be formed, but not a coalition
which both parties would find too hard to stomach. The reason is that both
parties leadership's have a shared interest in avoiding an early second
election. |
と語っているブログにお目にかかりました。これ以上付き合っていても何もないと思うので、止めておきます。とにかく新政権ができるまではブラウン政権が続くわけで、BBCのサイトによると、新政権発足については締切日などはないのだそうです。ただ、カギとなるのは5月25日で、この日は女王が政府による政策について議会で演説をする日なのだそうです。
▼5月6日(木曜日)に投票が行われたのですが、夜の10時からBBCの選挙特番が始まった。私も2時間ほど見ていたのですが、番組開始と同時にBBCの出口調査(Exit
Poll)の結果が発表された。まず唖然としたのがLib-Demの不振。これにはBBCもびっくりしておりました。
▼実は選挙前に私が考えていたことの一つに「二度あることは三度ある」というのがあります。信じられないようなことが繰り返し起こるということですよね。私が考えていたのは、アメリカで黒人大統領が誕生したことが「考えられないこと第一弾:Unthinkable
Part One」、次に日本で政権交代が起こったことが「第二弾:Unthinkable Part
Two」、そして英国の選挙。英国人と話をするたびに、この選挙でUnthinkableが起こるとするとそれは何か?ということを話題にしていた。私は「二大政党制の終焉」(collapse
of the two party
politics)なのではないかと・・・。
▼私の想像は半分当たっていましたね。つまり労働党と保守党がオタオタしている状況が生まれたという意味では当たっていた。でもLib-Demがここまで不振とは想像していなかった。議席数減もさることながら、得票数そのものだって殆ど前回と変わらない。私はもう少し伸びるのかと思っていたのです。ただ労働党と保守党がオタオタしている状況について、あるテレビのコメンテイターが「我々は政治的な不確実性に慣れていない」(We
are not used to political uncertainty)」と語っていたのが印象的だった。
▼いずれにしても私の「二度あることは・・・」の根拠は、いま世界中で「それまでのやり方(status quo)」に対する拒否反応が起こっており、それが黒人大統領とか自民党の凋落というかたちで現れたということだということですが、その底に流れているのは人々の怒りとかフラストレーションです。「いい加減にしろ!」という感覚です。私が読み違っていたのは、英国人にはそれほどの怒りはなかったということかもしれないですね。英国人が、飼いならされていて、おとなしい人々であるということなのか、変化を嫌う保守的な人々ということなのか、この際ますます知っておきたくなってしまった・・・。 |
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2)選挙は古いメディアの世界!? |
このむささびジャーナルが出るころには、英国の総選挙が終わって誰が次なる首相であるかも(おそらく)分かっていると思います。議会がいわゆるhung Parliament(議席の過半数を占める党がない状態)になっているのかどうかも・・・。
結果はともかくとして4月22日付のThe Economistに出ていたMedia and politics(メディアと政治)という記事は、インターネット時代の選挙と言われながらも、英国では伝統的なメディアの力が大きいと伝えている。いまの英国の一面を語っていて非常に面白い。
今回の選挙で画期的であったのが、英国の選挙史上初となったテレビによる党首討論会の開催だった。ゴードン・ブラウン(労働党)、デイビッド・キャメロン(保守党)、ニック・クレッグ(自民党)の3党首が3回討論会を行ったのですが、第一回の4月15日のもの(民間放送のITVが放映)は940万人の英国人が見たとされており視聴率は37%。The Economistによると、これは2008年のアメリカ大統領選挙における最初の民主・共和党候補者(オバマとマケイン)討論会の視聴率よりも高かったのだそうです。
そしてこの討論会直後の世論調査で人気抜群であったのが自民党のクレッグ党首であったわけです。私自身はこの討論会を見ていないのですが、クレッグ党首のパフォーマンスがよほど良かったのか、放映したITVの調査によると、クレッグ:43%、ブラウン:20%、キャメロン:26%という支持率だった。このテレビ討論が「選挙戦を変えてしまった」(transformed the race)とさえいえる影響力であったわけで、それは「伝統的なメディアの勝利」(a triumph for old media)とも言える、とThe Economistは言っている。
インターネット時代の選挙だからメール、ブログ、Twitter等々の「ニューメディア」が活躍すると思いきや、選挙民の79%がネットによる選挙運動を見たことがないと言っているのだそうで、政治家の方がネットを駆使していないとも言える。さらにGet Electedという選挙コンサルタント組織が行った、激戦区と目される100選挙区で行った調査によると、Twitterを使っていた候補者は45%にすぎず、これを使っている候補者のTwitterへの参加者の数は平均すると614人。各選挙区の平均有権者数が7万人であることを考えると、いま流行りのTwitterもほとんど活躍していないということになる。
インターネットに比べると、伝統的なメディアはどちらかというと高齢の視聴者や読者に傾いている。上に挙げたテレビ討論会の視聴者の47%が55歳以上だったという調査結果が出ているし、新聞の読者もDaily MailやDaily Telegraphの読者の4割近くが65歳以上となっている。商品広告などの場合は、高齢者よりも若年層に読まれているメディアを使う傾向があり、そのことが新聞の広告収入の減少につながっているわけですが、選挙となると事情は全く異なる。候補者が訴えたいのは高齢選挙民である(an aged audience is precisely what politicians want)とThe Economistは言います。なぜなら若者よりも高齢者の方が投票所に行く可能性が高いからです。
もちろんテレビ討論がTwitterやメールの世界でさらに討論されるということはあるし、新聞がこれを分析・評論するということもある。いわゆるニューメディアは、支持する政党を決めている人々をさらに勇気づけるという意味では効果があるだろう。しかし重要な選挙民への接近ということを考えるならば、古いメディアが相変わらずベストであるということに間違いない。
Of course, the television debates have been refracted through tweets and e-mails, just as they have been dissected by newspapers. New media are handy for firing up committed supporters, too. But when it comes to reaching the voters who matter, the old technologies are still the best. |
とThe Economistは結論しています。
▼ちょっと極端に言うと、新聞・テレビ世代の年寄りは選挙ともなると律儀に投票に行くけれど、ネット世代の若者はそれほど政治への参加を考えていないということですね。だから政治家がブログだのTwitterだのを使っていろいろと訴えても票(特に浮動票)の獲得にはつながらないということです。
▼テレビの党首討論は私も一つだけ見たのですが、会場(バーミンガム大学の講堂のようなところ)に普通の人たちが約100人程度いる前で、誰でも知っているBBCのコメンテーターの司会で始まった。まずは3党首が適当に冒頭発言(それぞれ2~3分)をやり、そのあとで会場からの質問を受ける形で討論を行った。質問者はあらかじめ決まっていて、司会者に促されて自分で質問を読みあげる。3党首がそれぞれ答えたあとで、お互いに弱点を突いて議論をする。質問一つにつき、10分程度費やしたですかね。私の記憶では6~7人ほどが質問をしたように思います。
▼時間帯が夜の8時半から10時のゴールデンタイムで、司会者も国民的な尊敬を集めているような人物というわけで、党首討論そのものが、紅白歌合戦のように国民的な番組という雰囲気だったわけです。日本でも選挙の際は、日本記者クラブ主催の党首討論がありますよね。英国との違いは、会場で党首に質問をするのがジャーナリストであることで、党首討論会兼記者会見という形であるということですね。それと時間帯が昼間で、夜のゴールデンタイムの生中継など考えられない。
▼それから政党といっても上に挙げた3つだけではありませんね。Scotland National Partyとか極右のBritish National
Party等々いろいろあります。Green Partyは、この種のone-issue partyとしては初めて議員を当選させたことで目立った。でも今回のテレビ討論会に参加したのは主要3党の党首だけだった。 |
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3)数字で振り返る「労働党の英国」 |
最近、The Prospectという雑誌に掲載されたHow Britain has changed since 1997という記事は、1997年から13年続いた労働党政権下で英国がどのように変わったのかということをいろいろな統計で語っています。所詮数字だから生身の人々の感覚そのものとは違いますが、英国という国のこれまでを鳥瞰図的に見る分には面白い。この際、遊び半分で「増えたもの」と「減ったもの」に分けて、しかも「むささび」の勝手気ままにリストアップしてみました。
増えたもの①:総人口 5830万→6140万
つまり97~08年の12年間で310万人の人口増ということです。増え方がはんぱでない。5%ですからね。日本の人口が10年そこらで500万も600万も増えるなんて考えられます?但し、この間の英国籍を持たない移民(non-British
immigration)の出入国の数字を見ると、入国者が540万、出国者が230万人となっている。差し引き310万人の入国者増となる。つまり移民の増加ということも言えるわけです。労働党政権の13年間で正式に永住権を与えられた外国生まれの人は全部で160万人だそうです。ちなみに、全人口に占める外国人の割合は97年が3%だったのに対して09年では7%にまで増えている。倍以上です。いまの英国における最大の政治問題が移民対策であるゆえんです。
人口関連では次のような数字もあります。
85才以上の人口:1・8%(105万人)→2・2%(134万人) |
65才以上の人口:15・9%→16・2% |
16才以下の人口:21・8%→20・0% |
平均寿命:79・4才→81・6才(女性)74・2才→77・4才(男性) |
英国もまた高齢化社会を迎えているということですが、人口1000人あたりの出生者数を見ると、97年が12・3人であったのが現在は12・9人というぐあいに増加しています。
増えたもの②:所得 1万7000ポンド→2万5000ポンド
これは統計的にいう「中間部分の給与年額」(median wage)の数字だから、ちょうど中くらいの人たちのサラリーがこれだけ増えたってことですよね。円に換算しても意味はないかもしれないけれど、年収220万円のサラリーが13年で357万円になったということです。如何に景気が良かったかということですよね。
不動産の平均価値は6万2000ポンドから16万4000ポンドに増えている。住宅価格は昔は年収の3・7倍だったのが、いまでは6・5倍にまで上がっている。労働党政権なのに不思議な気がするのは所得格差の広がりです。最貧層1%と最富裕層1%の所得を比べると、1997年では18・1倍だったのに08年では26・6倍にまで広がっている。
増えたもの③:教育予算 489億ポンド→808億ポンド
ブレア政権が生まれたときのスローガンがEducation, education, educationだったのだから、増えるのも当然でありますが、それにしてもすごい力の入れようだった。公立校の生徒一人当たりに費やされた予算が3,303ポンド→6,750ポンドと大いに増えている。が、ちょっと不思議な気がするのは、公立校の教師の数が40万人→44万人と大して増えていないのに、補助教員(teaching assistants)の数だけは6万人→18万人と3倍も増えているというのは何なんでしょうか?
そもそもなぜそれほど教育に力を入れたのかというと、これからの英国を考えると、モノづくりよりもサービス産業で生きて行かなければならない。例えばコンピュータ関連のソフト開発とか。それがこの13年間でどの程度成果を上げたのかはThe Prospectの数字には出ていないけれど、科学技術系の大学生の数が39万から54万人に増えているのは頼もしい?
増えたもの④:その他
- 国内総生産(GDP):9950億ポンド→1兆2640億ポンド
- 国民一人当たりのGDP:17,064ポンド→20,474ポンド
- 支持政党なしという人:16%→25%
- 携帯電話の普及率 17%→93%
- スーパー最大手TESCOの店舗数:568→2306
- 肥満率:男17%→24・1% 女19・7%→24・9%
- 開業医の年収:4万4000ポンド→11万ポンド
- プロ・サッカー選手の年収:20万ポンド→140万ポンド
- 刑務所収容者数:6万1000人→8万5000人
- 拳銃所持(犯罪)件数:23,625件→30,895件
- レイプ件数:7,636件→13,133件
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減ったもの①:増税で公共サービスを増やせという意見 62%→19%
病院のような公共サービスのための支出についていうと、労働党政権(97年~2010年)では年平均4%の割合で増加している。その前の保守党政権(79年~97年)では0・7%に過ぎなかったことを考えると、この約10年間で、いかに公共サービスへの支出が増えたかが分かります。当然、政府の借金が増えて問題になっている。「増税してもいいから公共サービスを増やせ」という人が減るのも当然ですね。なにせGDPに占める政府支出は38・2%(3220億ポンド)から47・6%(6710億ポンド)に、GDP比の政府の借金は42・5%から62・0%にまで増えているのですから。
60才を超えると、バス無料乗車パスがもらえて全国どこへでもタダで行ける、年間一人当たり250ポンドの冬季燃料補助費がもらえる、75才以上の人の家庭からはテレビの視聴料はとらない・・・確かに日本人の私などが見ると「うらやましい」と思うような公共サービスがある。しかし、それらがいずれも税金で賄われるということ、一つ一つの公共サービスにお役人がかかわるという当たり前のことを考えると、素直に羨ましいとは言えないような気もします。私が話をした英国人の年寄りの中にも「バスの無料乗車パスなんて要らない」という人がいました。
減ったもの②:郵便局の数 19,000→11,500
英国の郵便局は、いま政府が100%出資するRoyal Mailという企業が経営しています。完全民営化の話が出ては消え、出ては消えしているわけですが、そうしているうちにも郵便局の数は13年前の半分にまで減少しようとしています。私(むささび)が暮らしている田舎の村(人口700人)にも郵便局が一軒だけあるのですが、月曜~金曜の午前9時から午後1時までしか営業していない。地元新聞によると、郵便局長さん(女性)がもらう給料は1時間わずか6ポンド。生活感覚からすると時給600円。彼女も間もなく定年退職するわけですが、その後を継ぐ人がいるのかどうか、まことに心もとないのだそうです。
この郵便局は村の「なんでも屋」(Village Shop)の中にあるのですが、Village Shopたるや町のスーパーに比較すると何も売っていないの同じくらい商品が少ない。ただ、この店は単なるお店ではなく、村人がやって来て何となく「あぶらを売る」ところという機能がある。コンビニとはちょっと違う。とはいえ、クルマで15分も行けば大手のスーパーがあるのだから、みんなそこへ買い物に行く。つまり郵便局もなんでも屋も、いつまでもつのか、という運命にある。
減ったもの③:社交クラブの数 21,130→9,450
社交クラブと言っても、お金持ちが集まる「会員制クラブ」というような洒落たものではなくて、地元の有志が集まって将棋クラブを作ったりする、あの手のクラブです。その数が急激に減ったということは、近所づきあいが減ったということでもある。実はパブの軒数も60,000軒→53,466軒と減っている。
1997年に登場したブレア・労働党政権の下で行われた画期的な出来事の一つが地方分権で、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドにそれぞれ「独立」の議会ができた。さらにサッチャー保守党によっては廃止されたロンドン市議会が復活、選挙で選ばれたロンドン市長も復活した。これだけ見ると、英国の「地方」が力をつけたように見える。しかしパブなどの軒数減少を見ると、実は人々の生活における地方色とか地元感覚のようなものが消えているということが言えます。その一方でTESCOのような全国チェーンのスーパーが盛んになっているのだから、政治はともかくライフスタイルの点では「地方」が消えつつあるということです。
減ったもの④:その他
- 新聞の読者数:13年で25%
- 同性愛は許せないという意見:53%→36%
- 公営プールの数:720→570
- 公共図書館:3,066→2,870
- 病院の待機患者数:120万人→60万人
- 病院の待機期間:13週間→4週間
- 犯罪件数:167万→107万
- 交通事故死者数:3,578人→2,583人
- 12か月以上失業している人:77万2000人→66万3000人
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▼「増えたもの」には入れませんでしたが、この13年間で「英国はますます住みにくい国になりつつある」(Britain is becoming a worse place to live)と考えている人は40%から71%にまで増えているという数字もあります。
▼英国にいながらもいまいちよく分からないのが、労働党の何がダメだったから選挙で勝てなかったのかということです。確かに労働党政権下でアフガニスタン戦争やイラク戦争が起こり、しかもロクな結果になっていないのは確かであり、そのことについて英国人が納得していないことも事実です。さらに問題になっている財政赤字が労働党による放漫財政によるものだと批判されていることも事実です。
▼しかし、これらの数字に見る限りでは、人々の暮らしがそれほど悪くなっているとも思えない。財政赤字がどうだのこうだのというより、自分たちの暮らしがよくなればそれでいいんでない?という感覚ではないってこと?英国の皆さんがそれほど理性的とは(悪いけど)とても思えない。 |
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4)フィンランドの英語授業:バイリンガルが当たり前の国 |
前回紹介した、ヘルシンキの小学校における英語授業の見学についてもう少し書かせてもらいます。
Riita Tuominen先生によると、そもそもフィンランドは「バイリンガルの国」です。つまり公用語がフィンランド語とスウェーデン語の二つあるということで、生徒によっては家庭ではスウェーデン語を使っている子供もいる。このあたりは、私などは実感がつかめないので、想像するしかないけれど「バイリンガルが当たり前」ということはあり得るのですね。フィンランドで目にする印刷物や道案内の看板などが、すべてフィンランド語とスウェーデンの二言語併記になっているのもそれなりの現実があるということなのでありましょう。
それからこの小学校では3年生の英語クラスは1週間に3回ですが、英語をとることは義務ではない。他の外国語でも構わないのですが、大体において子供たちは英語をとりたがる。なぜなら、テレビの外国語番組というと英語が多く、しかも吹き替えは一切なし。徹底的に字幕を使っている。さらにコンピュータ・ゲームの類もすべて英語の世界です。それと親の希望ももちろんある。どうせ外国語をやるのなら英語をやっておく方が将来の役に立つということです。
他の外国語に比べて英語教育が盛んになるもう一つの理由としてTuominen先生が挙げていたのが教材の面白さです。先生によると、フランス語などに比べると英語教材の方がはるかに種類が多くて面白い。出版社としてもビッグビジネスになっている。教材が面白いから英語熱が盛んになるのか、英語熱が盛んだから教材が面白くなるのか・・・タマゴとニワトリの関係のようですが、要するに英語を取る子供の方が多いという現象に変わりはない。
Riita Tuominen先生のクラスでは、生徒全員に英語の名前が与えられていた。JohnだのMargaretだのKevinだのという具合です。私の知っているフィンランド人の名前(ファーストネーム)の例をあげるとKatja, Liisa, Heli, Seppo, Aarne, Heikki, Mikkoなどとなる。英米もフィンランドもキリスト教文化の国なので、似たような名前もあるけれど、私の知っている人たちの名前と一般的な英語の名前とは少し違う。生徒に英語の名前を与えるというのは、どうってことないようでいて、実は非常に面白いアイデアだと思います。つまりその時間だけはEnglish speakerになりきる手段の一つってことです。劇を演じるようなもので、私が生徒なら喜ぶはずです。どうせ授業が終わったら「ジロちゃん」に戻るのですが、GeorgeとかJeffreyとか呼ばれるのだからオモロイじゃありませんか。
英語のことを離れて、教師という仕事について少しだけ話を聞きました。OECDの国際比較でフィンランドの教育は常にトップレベルにあることの背景について質問すると「私たちは私たちなりのやり方で授業をやっているというだけで、それとOECDの国際比較がどのように関係するのかは分からない」としながらも、フィンランドでは全国どこへ行っても教育の質と基準は全く同じであるということを強みとして挙げておりました。ヘルシンキでもラップランドのような「へき地」でも教師の質、教育の中身は全く同じであるということです。
「塾のようなものはあるのか?」と質問したのですが、最初は何のことか分からないという感じだった。要するに学校以外の学校みたいなところで、学校の授業についていけない子供やいい学校に上がりたい子供たちが通うところだと説明すると、「そのようなものは全くない」とのことでした。
OECDの国際比較における好成績の背景の一つとして、授業の進め方については教師の自主性に任されているのが大きいのではないかと言っていました。Tuominen先生がこの小学校で教え始めてから15年になります。その前は中学校で英語を教えていたのだそうです。いずれにしても15年やって、子供たちの親からの信頼も深くなっているので、仕事はやりやすい。子供たちへの躾(dicipline)も結構厳しいのだそうであります。
最近のフィンランドでは、教育熱心な両親が増えていて、学校に対して意見を言う親も多いのですが、「教師と親の交流が深まるので、それはいいことだと思う」というのがTuominen先生の言葉でありました。それは建前というもので、「実際にはmonster parentsみたいな人たちが増えて困っているんじゃありません?」と聞いてみたかったのですが止めました。余計なお世話といいうものですからね。
▼余談ですが、ヘルシンキのコンビニなどではマンガを売っております。著者が日本人で、正真正銘、日本のマンガです。しかし言葉はフィンランド語でありました。もちろん英国の本屋に行くと日本のマンガの英語版を売っているので、フィンランド人の英語力からすれば英語だって読めるのかもしれない。でもどちらが売れるかとなると、それはフィンランド語に決まっているということですよね。それにしてもあえてフィンランド語に翻訳・印刷してでも商売になるほど売れるのですよね。日本のマンガの何がそんなに面白いのか?フィンランド人に聞けばよかった。
▼フィンランドはもともとバイリンガルの国であるということは、英語やフランス語も入れると3ヶ国語・4ヶ国語という人もたくさんいるってことになる。ホテルの近くのレストランで食事をしたときに、英語があまりにも上手なウェイトレスに「ほかにどの外国語ができるのか?」と聞いてみたら「大学ではスペイン語をやったけれど、それ以来使っていないので、まったくダメ」とのことでありました。そういうことなのですよね。
▼日本では小学校から英語を教えることについて議論がいろいろありましたよね。私はどちらかというと反対であったし、いまでも両手を挙げて賛成というわけではない。ただ、反対論を言う人の中に「子供たちにはまず日本語をきちんと教えるべきだ」という意見が多かったように思うけれど、私はその理屈には疑問を持っています。「外国語は中学生になってからの方がいい」という意見の根拠は何なのか?小学校から英語を教えたら日本語力が落ちるけれど、中学生からなら大丈夫だというのですか?フィンランドの子供たちが幼いころから英語の授業を受けることで、フィンランド語の能力が落ちたりしたことがあるのか?フィンランドという国にとって不利なことでもあったのか?
▼私が「小学校から英語」に反対するのは、「子供たちに国際社会で生きていける力をつけさせる」という発想が気持ち悪いからであり、英語の授業を追加することで削られる課目が出るのではないかということです。私の被害妄想かもしれないけれど、削られる課目は音楽・体育・家庭科・図工あたりではないか。だとしたら絶対に許せないと思います。それなら英語は中学からでもよろしいのでは? |
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5)どうでも英和辞書 |
gaffe: 失言、ドジ
gaffeは「失言する」「ドジを踏む」などの意味ですが、主に公的な発言で物議をかもしたり、発言した本人が大恥をかくような場合に使われる。making
gaffeという使い方が多いようですが、その例としてThe Timesの記事に出ていた次のような表現があります。
Gordon Brown committed the first major gaffe of the election campaign today... |
「選挙運動を行っていたブラウン首相が本日、最初の大きな失言をやらかしてしまった・・・」という意味ですね。どんな失言だったのかというと、Rochdaleという町で遊説したブラウンさんに地元の選挙民(女性)が歩み寄っていろいろと詰問したことについて、ブラウンがあとになってその女性のことをbigoted woman(がんこ女)と呼んだこと。これが「失言」という意味でのgaffe。もう一つの「ドジを踏む」という意味でのgaffeは、その失言のことがばれてしまったということ。
なぜばれてしまったのかというと、この女性との会話の直前に行ったラジオ局とのインタビューの際にジャケットに装着したマイクをはずすのを忘れたままクルマに乗りこみ、付き人と会話を始めてしまった。その中でbigoted woman発言をやったのが、放送局のテープに録音されてしまったというドジを踏んだからであります。車内での付き人との会話がThe Timesに掲載されている。
That was a disaster... You should never have put me with that woman. Whose
idea was that? ひどかったな、あれは。あんな女を近づけちゃダメだぜ。誰の考えだったんだよ。 |
に始まって「あの女性は何と言ったのですか?」と質問する付き人に対する答えは
Everything. She's just a bigoted woman, said she used to be a Labour voter.
It's ridiculous. 言いたい放題さ。ただのガンコ女のくせに、昔は労働党支持だったなどと言いやがってさ・・・めちゃくちゃだよ。 |
という具合い。どちらが「めちゃくちゃ」なのか分からないけれど、The Timesの記事によると、66才になるこの女性は本当に昔からの労働党支持者で、ブラウンさんのbigoted
woman発言について
My family have voted Labour all their lives - my father even sung Red Flag, but now I am ashamed of saying I'm Labour. アタシの家は昔から労働党なの。父親なんか「赤旗」まで歌っていたのよ。でもこうなると労働党支持だなんて恥ずかしくて言えないわよ。 |
と怒りのコメントを発表しています。
このgaffeについては、その日のニュースというニュースがいっせいに取り上げていて、ついにブラウンさんはその女性の自宅を訪問して陳謝したわけですが、それらの報道を見ていて、なんでこんなことに大騒ぎをするのか?と不思議な気がしたですね。bigoted
womanというのは失礼には違いないけれど、人間、口がすべるってことはあるじゃないのよさ。それより、ブラウンさんのスーツにマイクが着いたままになっていることに付き人が気がつかなかったことこそ最大のgaffeですよね。
polling station:投票所
英国の選挙の投票は、村の公民館(Village Hall)とか学校、図書館のような公共の建物を投票所にして行われることは日本も同じ。
ところでこの選挙では、投票所へ行ったのに投票できない人が出て問題になった。選挙管理委員会の決まりによると、午後10時までに投票用紙を渡された人だけが投票することができるのですが、自民党のClegg党首の地元であるシェフィールドなど少なくとも7つの投票所で、投票するために列を作っていた人々が締め切り時間の午後10時がきたという理由で投票所への立ち入りを拒まれた。中には警官が出て混乱を収拾したところも。信じられないことにLiverpoolの投票所では、有権者が予想以上に殺到して、締切の10時ごろになって投票用紙がたりなくなってしまったらしい。
中には締切間際に沢山の希望者が列を作ってしまって、投票用紙を配布しているうちに10時がきてしまったというケースもあったわけですが、断られた方は"I’m disgusted!"とカンカンに怒っている。選挙管理委員会では投票所によっては不手際があったことを認めて謝罪のコメントを発表しているのですが、果たしてこれが謝ってすむことなのか・・・。投票のやり直しという可能性があるという報道もあります。
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6)むささびの鳴き声 |
▼BBCの選挙報道についてですが、選挙当日の午後10時から始まってどのくらい続いたのでしょうか?私自身は2時間ほど見て寝てしまったのですが、妻の美耶子によると朝5時に起きてテレビをつけたらまだやっていたそうです。それからさらに延々と続いて、午後の4時ごろにいったん終了したように思います。総合司会はDavid Dimblebyで、Nick Robinson、Jeremy Paxman、Andrew Marrらのそうそうたるメンバーが総出演。出だしはいきなりロンドンのビッグ・ベンの塔を背景にした壮大なる出口調査の報告画面、それに続いて各界のcelebritiesが続々登場して、今回の選挙にかける意気込みのようなものを語る・・・というかたちだった。
▼文章では表現不可能なのですが、ひと言でいうとめちゃくちゃ派手な番組という印象だったですね。途中、民放のITVにも回してみたのですが、BBCと比較すると極めて地味な雰囲気であったわけです。私から見ると、どう考えてもBBCはやりすぎだった。大みそかの紅白歌合戦を想像してください。考えすぎかもしれないけれど、選挙そのものがBBCのイベントのような感覚に陥ってしまった。次々に登場するBBCの政治記者と政治家の話を聞いていて、あまりにも二人の距離が近すぎる気がした。お互いによく知っている友だち同士という雰囲気なのです。
▼日本でもテレビの政治番組で、司会者の政治ジャーナリストが、政治家に向かって「アンタのことはよく知っているから聞くんだけど・・・」などと馴れ馴れしい口を言うのを見るのは不愉快ではありませんか?BBCの番組を見ていて同じような気分になってしまった。ほかの番組についても言えるのだけれど、この国におけるBBCの存在は少し大きすぎると思います。どこを見てもBBCなのでありますね。最近になって、ウェブサイトを始めとする各種のオペレーションを縮小する方針を打ち出しているけれど、当然ですね。
▼今回もお付き合いをいただきありがとうございました。
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