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2010年6月20日 |
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ワールドカップで日本がオランダに敗れたゲームを見ていたら、中継アナウンサーが「日本がセカンドハーフのような戦いをするとデンマークにとってはイヤな存在になるかもしれませんね(Japan may trouble Denmark)」と言っておりました。イングランドは未だ勝ち星なし。次の試合で勝たない限りお終いで~す! |
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目次
1)銃乱射事件:犯人の家族の心境
2)オバマは反英主義者:BPをめぐる平均的英国人の感覚?
3)BPとトヨタのコミュニケーション力
4)移民の英語力
5)英国の変遷:労働組合が衰退した理由
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声
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1)銃乱射事件:犯人の家族の心境 |
6月2日、北イングランドのCumbria地方で起こった銃の乱射事件については、おそらく日本でも大きく報道されたと思います。52才になるタクシー運転手が、自分の双子の兄弟を含めて12人を射殺したうえに自殺してしまったという事件です。
英国中が呆然・騒然とする中で、当然のことながら「なぜそのようなことをしたのか?」という疑問の声が上がる。そして「理由は分からない」ということが、さらにショックを深めるという状態に陥っている。どこでもそうですよね。秋葉原の事件もそうだった。またメディアの間では、本当は警察が止められたのではないか?という疑問の報道がなされ、これを警察が否定するコメントを発表するという、これもどこでもありそうなことが起こっていた。
そうした中で、私が「これは日本ではないかもな」と思った報道がありました。それはこの事件の犠牲者を悼む会合の席で、地元の教会の牧師さんが、犯人の息子二人(28才と16才)からの声明文を読みあげたことと、それがほぼ全文、新聞やテレビのサイトに掲載されたということです。全文を紹介します。
私たちは父、Derrick Birdの死によって完全に打ちのめされています。私たちにとって彼はこの世で最も素晴らしい人間であったのです。彼は愛情に満ちた父であり、つい最近、お祖父ちゃんになったばかりだったのです。
私たちは、父がなぜこのような酷い犯罪を犯してしまったのか、自分たちにも分からないと申し上げたいのです。
我々は二人とも今回の悲しい事件によって屈辱を味わっています。父は愛情に満ち、楽しい性格の人でしたし、地元でも、仕事をしていた地域でもよく知られた人物だったのです。
私たちも、父の家族もそして彼の友人たちも彼がいないことを悲しく思うでありましょう。
私たちが自分たちの父親を失ったことを嘆き悲しむことをお許しください。また私たちはこの悲劇的な事件に巻き込まれた家族や人々にお悔やみの言葉を贈りたいと思います。私たちの心は彼らとともにあります。 |
"We are utterly devastated by the death of our father, Derrick Bird. To us, he was the nicest man you could ever meet.
"He was a loving dad who had recently became a grandfather.
"We would like to say that we do not know why our dad committed these horrific crimes.
"We are both mortified by these sad events.
"Dad was a loving and cheerful character and was well known throughout the local community and in the area he worked.
"He will be missed by us, his family and his friends.
"We would ask that we would be allowed to mourn the loss of our father. Would also like to send our condolences to all the fother families and people involved in this tragic incident. Our thoughts are with them." |
このような事件が起こると、大体において犯人の過去とか家庭環境などが報道されたり、あるいは「銃規制を強化すべきだ」とか「いまの社会が歪んでいるのだ」という評論家の意見が紹介されたりしますよね。それは英国でも同じです。そしてそのどれもが「なぜ?」という疑問に応えるものではないので、報道に接する読者や視聴者の不安・不満が余計大きくなるという効果を生んでいる(と私などは思うわけです)。
それから私がつい考えてしまうのが犯人の家族のことで、「タイヘンだろうな」と同情するけれど、日本では犯人の家族の心境についての報道はなかなか出てこない。おそらく家の中に閉じこもってしまって、世間もそれを遠巻きに眺めるしかないという状態なのだろうと思うけれど、Cumbriaの事件では牧師さんが仲立ちになって、家族と世の中の間をとりもつ役割を果たしているように見える。
そして犯人の家族の声明文では、犯人が「素晴らしい人間だった」とか「彼がいなくなってさびしい」というようなメッセージが繰り返し伝えられています。さらに牧師さんが報道陣に語ったコメントとして、「犯人の家族が被害者の遺族を訪問して謝罪したいと言っている」ということも報道されている。
また被害者の姉という人がテレビのインタビューに応えて
彼ら(犯人の遺族)も私たちと同じように生きていくのですよ。私個人としては、彼らに責任はないと思うし、みんなもそう思うべきです。彼らも被害者なんだから。We
know that they'll be going through just as much as the rest of us. I personally
don't hold them responsible - and I don't think anybody should because
they're victims as well as the rest of us.
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と語っている場面も報道されています。
▼犯人の息子さんかの声明を伝える報道に接しながら、英国では犯人と家族は別ものという感覚が日本よりも強いのかもしれないと思い、はっきり言ってその方が望ましいという気がしました。
▼ところで英国内務省の数字によると、2001~2002年における銃による殺人は97件。これが2008~2009年には39件にまで減っている。また銃(shotguns)所持の許可証を持っている人が全国で約130万人いるのですが、Cumbria地方だけで22,476人いるのだそうです。 |
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2)オバマは反英主義者:BPをめぐる平均的英国人の感覚? |
英国における最近の主なるニュース、毎日必ず報道されるニュースとして、アメリカのルイジアナ沖におけるBPの石油漏洩事故があります。最初は単なるアメリカのローカル事件扱いであったのですが、オバマさんがたびたび事故現場に出かけて厳しい口調で"British Petroleum"を非難する発言を繰り返すうちに、いつの間にか英国ではオバマは反英主義者というようなレッテルを貼るような風潮まで出てきています。
例えば6月18日付のDaily Mailのサイトの見出しは、米下院の公聴会でBPのTony Hayward社長が質問を受けたことを伝える記事の見出しは:
Sliced and diced on Capitol Hill: BP boss treated like Public Enemy No 1 by American politicians |
BPの社長がアメリカ議会でずたずたに切り刻まれてアメリカにおける民衆の敵の一番にされている、というわけです。このサイトによると、アメリカの下院議員によるBP非難は激烈そのもので、「爆発した石油掘削リグの危険性についての認識がゼロだった(not
even the slightest attention to the dangers)、「BPの企業としての怠慢ぶりには驚かされる(BP's
corporate complacency is astonishing)、「良く言えば判断の誤りだが悪く言えば犯罪的な注意義務違反(bad
judgment at best and criminal negligence at worst)等々と続いた挙句に公聴会の委員長によるコメントが紹介されています。
この公聴会には全くもって驚かされる。アナタは責任というものをとっていないのです。空き缶を蹴っ飛ばして歩いているのと同じで、BPとは何の関係もないという態度ではありませんか。 I am just amazed at this testimony. You are not taking responsibility, you are kicking the can down the road and acting like you have nothing to do with this company |
BPはアメリカ政府からの圧力もあって最近、株主への配当金を今年末まではキャンセルすることを発表しているのですが、Daily Mailによると、これによって英国人の株主(約30万人)も一人平均で410ポンドの損害を被るとのことですが、投資ファンドを通じてBPに投資しているチャリティ関係の組織もかなりの損害になるだろうとされています。
いまワシントンではSmall peopleという言葉入りのTシャツが売れているのだそうです。これは今回の石油漏れの関係でオバマ大統領と会談したBPのCarl-Henric Svanberg会長(スウェーデン生まれ)がWe care about the small peopleと発言したことにちなんで作られた。アメリカではsmall peopleというと「大したことない人々」という意味になるのだそうで、会長さんとしては「普通の人たち」という意味のスウェーデン語を使ったつもりが、通訳のミスでsmall peopleと訳されてしまったらしい。
▼ご存じの方も多いと思うのですが、Daily Mailという新聞はいわゆる高級紙ではないけれど、ひたすらスキャンダルだけやっている大衆紙でもない。ちょうど中間あたりに位置する新聞(政治的には保守系)で、パブとかB&Bに行くとほぼ必ず置いてある。その意味ではかなりの影響力を持っていると思います。 |
今回のBP問題については、アメリカはけしからんというのがDaily Mailの立場のようで、先日も「オバマは反英国的」という趣旨の特集記事を掲載していたのですが、「オバマは大統領に就任するや英国政府がホワイトハウスに貸し出していたチャーチルの胸像を返還した」とか「これがエクソン・モービルのようなアメリカの石油企業ならこれほどには非難することはなかっただろう」などと述べたうえに、アフガニスタン戦争のことまで持ち出して
オバマ大統領は、この国(英国)がアフガニスタンで払っている人命という犠牲は、派遣兵力との比較でいえばアメリカよりも多いということさえ認めようとしない。President
Obama can scarcely bring himsel f to acknowledge this country's sacrifice
in Afghanistan which, in terms of lives lost, is proportionately greater
than that of the United States. |
というわけで、「いろいろ問題はあったにせよブッシュ前大統領は同盟国としての英国に感謝の気持ちを持っていた」(While for all his many faults George W. Bush was often publicly appreciative of Britain's role as America's most hands-on ally)とまで述べたりしています。かなり情緒的なのですが、この新聞の読者に受けることは間違いない論調ではあります。サイトへのアメリカ人からの書き込みも英国人読者を怒らせるもののオンパレードという感じであります。
Boycott England! Boycott warm beer, bad food, and ugly women. Boycott all
English products such as...hmmm..Marmite? and that's about all they produce
anymore ...イングランドをボイコットせよ!生ぬるいビール、まずい食い物、醜い女たち。イングランドの製品はすべてボイコットだ!例えば、ええと、ええとMarmiteとかいう食い物だったっけ?イングランドでできるものというのは、そんな程度のものなのだ! |
ほとんど八当たりですね。ただ中には「いいアメリカ人」からの書き込みもあることはある。
This president, if allowed to complete his one and only term will cause more damage to the USA than all of our disasters combined. Sorry England, hang in there. この大統領が一期だけでもつとめることを許すとそれだけアメリカにとっての損害はあらゆる災害を合計したよりも大きい。イングランドさん、申し訳ない。もう少しだけ我慢して! |
これはどう考えてもオバマ嫌いの共和党支持者からの書き込みとしか思えない。いずれにしてもBPをめぐる英米人の怒鳴り合いはしばらく続くでしょう。
▼オバマさんが「BPは株主への配当を止めるべきだ」という趣旨の発言をしたことで英国内では、ますます反オバマ機運が盛り上がっているのですが、結局今年は出ないということになったようですね。そのことについて考えたのですが、株主資本主義というのは「企業は株主のもの」という考え方ですよね。従業員のものでもないし、社会のものでもない。私、そのこと自体は大して間違っていないと思います。ただその企業が問題を引き起こしたような場合は、オーナーである株主も配当金を受け取れないとか、それなりの責任をとるのが理屈のように思うのですが・・・。 |
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3)BPとトヨタのコミュニケーション力 |
Lou Hoffmanというアメリカのコンサルタントが、企業が危機に陥った際のコミュニケーションのあり方を、石油漏れのBP、リコールのトヨタを例に挙げて語っているサイトにお目にかかりました。書かれたのが6月1日なので、BPがルイジアナ沖の石油漏れについて比較的楽観的な見解を述べていた時期のものです。その後、この人の意見が変わっていたりするのかもしれないけれど、日本人である私などにはトヨタのコミュニケーション能力について語っている部分が面白いと思うので紹介します。全文はここをクリックすると読むことができます。
Lou HoffmanはトヨタとBPが明らかにした「手紙」を比較しています。まずは手紙の書き出しの比較から:
トヨタの場合:For more than 50 years, Toyota has provided you with safe, reliable, quality vehicles and first-rate service.
過去50年以上にわたって、トヨタは皆様に安全で信頼性がある質のすぐれたクルマと第一級のサービスを提供して参りました。
BPの場合:Since the tragic accident on the Transocean Deepwater Horizon rig first
occurred, we have been committed to doing everything possible to stop the
flow of oil at the seabed, collect the oil on the surface and keep it away
from the shore.
Transocean Deepwater Horizon石油掘削作業台における悲劇的な事故が最初に発生して以来、我々は石油が海床に流出することを防ぎ、海上の石油を回収し、岸から遠ざけるために出来ることはすべて行うことにコミットしてきております。 |
このコンサルタントによると、二つの書き出し文が両社のメンタリティの違いを表している。すなわちトヨタの文章は、過去を振り返るノスタルジアに満ちており、文章もセールスパンフレットから抜き出してきたようなもので、「インターンにでも書けそうなもの」だそうです。それに引きかえBPの文章は"Since the tragic accident"(あの悲劇的な事故が起こって以来)に始まって、てきぱきと(crisply)自分たちのとってきたアクションについて語っている。
で、それに続く文章はというと:
トヨタの場合:I am truly sorry for the concern our recalls have caused and want you to know we’re doing everything we can - as fast as we can - to make things right.
当社によるリコールによってご心配をおかけしたことにつき心より申し訳なく思っておりますし、当社に出来ることはすべて、しかも出来る限り迅速に行って事態の改善に努めていることをお分かりいただきたいと存じます。
BPの場合:BP has taken full responsibility for dealing with the spill.
石油漏れへの対処につきましては、BPが全責任を負うものであります。 |
となっている。Lou Hoffmanによると、トヨタの文章場合、「非常に申し訳ない」(truly sorry)と言っているけれど、それはリコールやクルマの事故について申し訳ないのではなくて「ご心配をおかけしたこと(concern)」について申し訳ないと言っている。Lou
Hoffmanはこのような言い回しのことを「最後に法的な責任を追及されることを避けるための言葉の遊び」(anguage gamesmanship
that comes from legal owning final sign-off on the copy)と言っている。それに引き換えBPの"BP
has taken full responsibility"という言葉に余計な説明は要らないだろうとのことです。
ただBPの英国人社長、Tony Haywardが英国のThe Guardian紙とのインタビューの中で語った次の言葉はまずいとのことであります。
メキシコ湾は非常に大きいのですよ。我々が流出した石油とか拡散剤の量なんて、海水に比べればごく小さなものですからね。
The Gulf of Mexico is a very big ocean. The amount of volume of oil and dispersant we are putting into it is tiny in relation to the total water volume. |
この発言が、今回の英米間のゴタゴタの発端となったし、それ以後もこの社長さんはアメリカ人を怒らせるような発言を繰り返してはいます。
▼Lou Hoffmanのこの論評について、どのように思われますか?私は、トヨタのいわゆるtruly sorry(申し訳ない)がクルマの欠陥とか事故などについて謝罪しているのではなく、「心配させたこと」を申し訳ないと言っているという指摘は当たっていると思います。具体的にトヨタの問題としてではなく、一般論として、日本の企業や機関の人たちが「謝罪」するときに使う「世間をお騒がせして申し訳ない」という得体の知れない「謝罪」には、私でさえも違和感を覚えるものです。 |
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4)移民の英語力 |
最近のBBCのサイトに出ていた英国政府の移民法の変更についての記事を読むと、この国がかかえる移民問題の困難さがしみじみ分かります。変更のポイントは移民の英語力です。この秋から実施されるのですが、移民として英国に来る人は自分の国を出る前に、充分な英語力を身につけていることを証明する必要があるというものです。英国移民局(Border
Agency)が実施するテストに合格しないと必要なビザがおりない。
これはすでに英国籍を有している人が、自分の家族や許嫁のような人を英国に呼び寄せる場合にも当てはまる。というよりもそのようなケースが一番当てはまるようなのです。内務省のサイトには「この法改正は夫婦・未婚カップル・同性のパートナーやフィアンセに適用されるものである」(This
applies to spouses, civil partnerships, unmarried couples, same sex partners
and fiances)と書いてある。
BBCのサイトによると、この法改正で最も影響を受けるであろうと思われるのがパキスタン、バングラデッシュ、スリランカのような南アジア系の移民です。すでに英国で暮らしている人が祖国へ帰ってお嫁さんやお婿さんを連れてくるということが普通だそうで、家同士のお見合い結婚(arranged marriages)であるケ-スが多く、その結果として英国にやってくる人の多くが、どちらかというと豊かでない農村地域の人で英語力ゼロなのだそうです。そうなると英国社会に溶け込むことも難しい。政府としては少なくとも言葉の点では英国社会への同化(integration)能力を有した人はオーケーだがそうでない人はお断りというわけです。
この法律は「EU以外の国」(outside the EU)から来るすべての人に当てはまるというのですが、英国籍を持つ人がアメリカ人を呼び寄せたとしても言葉に関しては問題ならないですよね。それから英語圏ではないにしても、日本人や韓国人のような場合は(おそらく)自分の国にいる間に十分な英語教育を受ける環境にあるから、英語が全くダメという人はいないと考えられる。となると、この法律の対象になって締め出されるのは英語教育もままならないような国からの移民ということになる。その典型がスリランカ、バングラデッシュ、パキスタンというわけです。
政府は「英国社会へ溶け込むための条件」というけれど、実際には南アジア系の移民の締め出しを狙っているのではないかと言われる理由です。
この記事については、極めて多くの書き込みがあって英国人の意見を知る手立てとなっているのですが、やはり一番多いのは
我々はあまりにも長い間、経済的にも社会的にも英国に貢献しようという気さえない人々を受け入れすぎたのだ。
For too long we have allowed people into the country who have never had any intention of making a worthwhile contribution to either the economically or socially. |
というわけで、これからの移民政策はもっと厳しいものであるべきだ(our immigration policy needs to be very
strict)と考える人たちです。英国へ来る以上は英語を使えというわけで、言葉もまともに使えない人々が流入してきて、自分たちだけでコミュニティを作ってしまったのでは、国としても成り立っていかない。そのことへの不満・不安の表れです。尤もな意見ですね。
ただ少数とはいえ次のような意見もあった。
英国人がバングラデッシュのような国を占領したときに、これら占領される側の国々にはこのような決まりはなかった。ヒンズー語、ビルマ語、中国語などを使えた英国人が何人いたというのだろう。占領に際しては英国人が現地のコミュニティに溶け込むなどということは重要ではなかったのだ。お前たちは私たちのようにならねばならず、私たちはお前たちのようになる必要はないというわけだ。優越感のにおいがする。
Good thing those countries did not have a similar rule when the English
were occupying their countries. How many English spoke Hindi, Burmese,
Chinese? Integration didn't seem to be a priority at that time. You must
be like us but we do not need to be like you. Has a ring of superiority. |
この少数意見は、あまりにも昔に遡る、植民地主義批判の「そもそも論」というヤツで当の英国人からすると「いまさらそんなこと言われても困る」ということになる。しかし英国への移民の歴史は、大英帝国の海外における植民地支配と切り離して考えることはできませんよね。大英帝国の時代に植民地を支配した英国人は現地の言葉を使おうなどとは考えもしなかったでしょう。
▼英国という国に植民地とされたことがない日本人(私も含む)の場合、英国にやってくるのは移民のためではないから、無理やりこの国に居続ける必要はない。だから言葉の問題にしても「とりあえず英語くらいは覚えようか」と気楽な態度で接するわけです。
▼しかし移民として、この国で生きていくためにやって来る人々と英国人との関係は常に主従の関係です。英国人が自分たちの国へ来たときは英語で押し通したのに、自分たちが英国へやってくると「英語を使えない人間はダメ」などと言う。自分たちの言語を捨てろと言われているのと同じ。実にアンフェアなハナシです。「郷に入れば郷に従え」というけれど、英国人は、植民地において「郷に入っても郷に従わない」という態度をとり続けてきたわけですからね。
▼このようなアンフェア感を抱えながら生きている移民コミュニティから、英語力を理由にお嫁さん・お婿さんを閉め出すという政策が長続きするものなのかも疑問に思えてくる。テロリストが生まれる環境を作っているという気がしないでもない。そのように考えていくと、上に紹介した少数意見の方がむしろ現実的ということになる。
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5)英国の変遷②:労働組合が衰退した理由 |
前回紹介させてもらったAndrew Rosenが書いた20世紀後半の50年間(1950年~2000年)の英国社会の変遷を語る本(The transformation
of British life 1950-2000)の中にOrthodoxies in declineという章があります。それまでの英国社会において主流(オーソドックス)とされていた階層や社会習慣などの衰退化現象について触れているもので、具体的には「王室・貴族(The
monarchy and the aristocracy)」「宗教(religion)」「結婚(marriage)」「労働組合(trade unions)」の4つについて検討されています。この際、最も地味なようだけれど、英国の変遷に最も根本的な影響を与えたのではないかと思われる労働組合の変遷について報告させてもらいます。
英国における労働組合の歴史は1867年にTrades Union Congress(TUC)という組織が出来たことに端を発しています。1910年における組合員数は210万人であったものが1919年には800万人にまで膨れ上がり、第二次世界大戦直後には1000万、1970年代の終わりには1300万人(全労働者の53%)にまで達します。
それが1979年4月の選挙でサッチャー率いる保守党政権の誕生以後、急速に衰えていき、それと同時に労働組合がかつて持っていた社会的・政治的な力も衰退していく。サッチャーの保守党は選挙マニフェストの中で労働組合の規制強化を挙げて戦ったのですが、その背景には70年代の労働運動が過激化して国民に受けなくなったことがある。
特に79年1月の地方自治体の公務員のストによって、学校や病院の閉鎖やごみ収集停止のように日常生活に密着する部分での公共サービスが機能しなくなり、組合に対する批判が高まったことがある。リバプールにおける墓掘り人(これも公共サービスだったのですね)のストのお陰で死者をお墓に埋葬することができない家族が出てきたことは、その典型的な例であるといえます。
サッチャーは首相就任後もクローズドショプ制(従業員はすべて強制的に組合員とするという制度)の規制強化など、労組との対立を続けたお陰で、彼女が首相であった1979年から1990年までの10年間でクローズドショプ制による労組加入人数が90%も減少したりする。
このころの労働争議の典型として常に語られるのが1984年の炭鉱労組(National Union of Miners: NUM)のストで、石炭に対する需要の低下を背景に石炭公社(National Coal Board: NCB)が400万トンの減産と2万人の人員整理を推進する方針を発表したことに反発して起こったものです。ピケが暴力化したりしたことで組合を脱退する労働者が相次ぐ事態になってしまった。
この炭鉱ストは、サッチャー政権に対する労組側の完全敗北というかたちで終結するのですが、それ以後の5年間で炭鉱労組は組合員の80%を失い、英国内の170か所もの炭鉱が閉鎖されることになります。
英国における労働運動は、石炭、電力、ガス、鉄道、鉄鋼などの産業で働く「白人で男性」の労働者を中心に発展してきたのですが、サッチャー以後の産業構造の変化によって重工業が衰退する「脱工業化(deindusrialisation)」社会が進むにつれて、組合運動は教師、看護婦、公務員らを主力とするようになる。UNISONと呼ばれる公務員労組は組合員の大半が女性だそうです。ブルーカラー男性の組合員が減ったことで、労働組合=労働者階級という、かつての図式が成り立たなくなったのも大きな変化です。
ところで、労働組合が支える政党としての労働党(Labour Party)もまた時代の変化とともに変身してきています。英国の労働党ができたのは1900年のことですが、1918年には「産業の国有化」を謳う党綱領の第4章(Claus
IV)を導入して、生産手段の公共所有(common ownership of the means of production)を旗印とする。これは社会主義の概念です。ところが、第二次大戦後に初めて生まれた労働党政権下の英国は産業の8割が民間企業であったし、2割を占める国営産業においても労働組合の代表者が管理するということはなかった。
要するに党の綱領が謳う割には社会主義的ではなかったということです。1995年にブレアが党首に就任したときにそれがさらにはっきりした。党綱領の第4章が廃止され、産業の国有化という考え方そのものが捨てられたのです。この年の党大会において労働党が建設を目指す社会の将来像について次のように謳われることになった。
a community in which power, wealth and opportunity are in the hands of
the many not the few 権力、富、機会が多数によって所有され、少数によって所有されるのではないコミュニティの建設 |
Andrew Rosenによると「ラディカルではあるが、社会主義社会の建設という思想は見られない(radical but not necessarily socialist aspiration)」綱領というわけです。
労働党と労働組合の関係もまた変化しています。1980年代の党大会では、投票権を有する参加者の6分の5が組合の代表者であったし、党執行委員29人中18人が組合関係者だった。さらに党の運営資金の9割が組合費によっていたし、選挙の際の票の取りまとめも組合の仕事だった。
ブレアが党首になった労働党は自らを「新労働党(New Labour)」と呼ぶようになる。それは、1900年に生まれた当座の労働党(Old Labour)からの決別宣言でもあったわけですが、Old Labourとは「白人・男性」中心の組合が支えた労働党です。ブレア政権が誕生してはっきりしたことは、サッチャー政権時代に生まれた反労働組合的な法律を改正して元の状態に戻す気が全くないということだった。
Andrew Rosenは、New Labourの勝利は社会の多元化と階級闘争の時代の終焉を示すものだったと書いています。そして「白人・男性」中心の労働組合の政治的な影響力の衰えは、それまでの英国社会の主流派(orthodoxy)の衰退を示していることははっきりしている、として次のように書いています。
A deliberately amorphous ideology had superceded the clear but narrow formulae
of a party which had found itself in the position of no being able to speak
for the majority of Britons. かつての労働党は、理念は明確ではあったものの視野の狭さによって、英国民の多数を代表する能力を失ってしまったのであり、あえて明確でない思想にとって代わられたのだ。 |
上の日本語は完全に意訳ですが、要するに旧労働党には明確な思想があったかもしれないが、時代の変化に応じて変化する英国民の要求に応える能力は失ったということです。
▼ウィキペディア情報ですが、サッチャー政権が炭鉱労組のストライキと激しく対立していたころの英国における労働者の組合加入率は80%であったのですが、ブレア政権ができたころには、これが30%にまで下落しています。この30%もほとんどが公共部門の労組で、民間部門における労組加入率はわずか12%なのだそうです。
▼ところで「日本の労働組合の現状」というサイトによると、1970年の時点における組合組織率は35.4%、それがだんだん低下して1999年には22.2%だそうです。このサイトは「日本の労働組合のおおくが依然として本工や正社員のみを組織の対象にしていることが、組織率低下の大きな原因の一つとなっています」と言っています。 |
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6)どうでも英和辞書 |
stone wall:石積み
イングランドも私が滞在しているコツウォルドと呼ばれる地域で極めて多く見受けられるのが、平らな石を1メートルくらいの高さまで重ねて作るstone wallで、住宅の垣根や土地の境目などにこれが多い。写真でもご覧のとおり、平らな石の上には必ず同じ石がドミノのように縦に並べられています。limestoneと呼ばれる石(石灰岩)は、(ものの本によると)1億5000万年前のいわゆるジュラシック紀以来、コツウォルド地方ならどこででもとれるのだそうです。町を歩いていると「石積み専門業(stone-walling specialist)」という広告をおなかに書いたトラックをよく見かける。
ところでstone wallには「石を積んで壁を作る」という以外に意図的に「ものごとを遅らせる」(delaying)とか「協力を拒否する」(To
refuse to cooperate)などという意味もあるようですね。メキシコ湾における石油流出事故に関連してアメリカ下院のエネルギー委員会に呼ばれたBPのHayward社長が事故の原因について「まだ結論を出すのは早すぎる」(it
is too early to draw conclusions)と発言したのに対して委員長のHenry Waxmanという人が、「アンタはstonewallingをしている」と応じたわけです。「本当は結論がはっきりしているのにHayward社長はそれを認めないことで時間稼ぎをしている」という意味で使ったということです。
edge out:競り勝つ
ワールドカップで日本がカメルーンを破った試合についてBBCはJapan edged out Cameroonと表現しています。「辛うじて勝った」ということですね。そのあとに続く文章は
in a dour encounter at Bloemfontein's Free State Stadium which produced
little in the way of goalmouth action. |
となっています。dour encounterは「盛り上がりのない試合」というような意味で、ゴール付近での(日本の)アクションが殆どなかったことがdour
encounterの理由とされている。つまり勝つには勝ったけれど、守り中心のゲームで、大して面白くない試合であったと伝えられている(と私は解釈しています)。で、この記事の結びは次のようになっています。
In fairness to Japan the Asian side's tactics worked almost perfectly as they defended solidly but on this evidence the Netherlands and Denmark will have little to worry about going into the tournament's second week.
あえて日本の名誉ために言っておくと、この試合は日本側の鉄壁の守りの作戦がほぼ完璧に功を奏したということになるが、この試合に見る限り、(日本と同じグループの)オランダやデンマークはほとんど問題なしに2回戦へ進出できるであろう。 |
つまり勝ちはしたものの、日本は全く大したことないという評価でありますね。ところで、edge outという言葉が使われたもう一つの試合がブラジルと北朝鮮で、Brazil
edge out resilient North Korea(ブラジル、粘る北朝鮮に辛勝)という見出しになっています。resilientは「粘り強い」というような意味で使われる肯定的な表現ですね。私、この試合はテレビで見ていたのですが、終わりの方で北朝鮮がゴールしたときは英国のアナウンサーも"historic
kick!"と叫んだりして大いに興奮しておりました。
drink-drive:酒飲み運転
ビールなら1パイント、ワインならグラス1杯までは飲んでも運転は大丈夫というのが英国の決まりである・・・という話はしましたよね。地元のパブのオーナーが言っていたのですが、英国では酒飲み運転について、もっと厳しくしようという動きがあるようです。労働党政権だったころに検討委員会のようなものが作られて見直し作業が進められているのですが、これまでの決まりだと血液100mlに対して80mgまでのアルコールは運転が許されていたのを50mgにまで限度量を引き下げようというものです。
現在のヨーロッパ諸国の基準によると、血液100mlに対して80mgまではオーケーという国は、英国以外ではアイルランドとマルタだけ。フランス、ドイツを始めとするEU諸国はほとんどが50mgなのだそうです。スウェーデン、ポーランド、エストニアなどは20mg、チェコ、スロバキア、ハンガリーなどは日本と同じで0mgとなっています。
社会実情データ図録というサイトによると、5~6年前の数字ですが、交通事故死に占める飲酒運転の割合が一番多いのは、意外にもカナダでほぼ4割、アメリカ(3位)は35%、フィンランドが8位で25%となっています。英国は13位で約18%、日本は18位で10%強となっています。
英国における法改正ですが、労働党時代に進められていたものを現政権が引き継ぐかどうかははっきりしていないのだそうです。はっきり言って、パブ業界にしてみれば現状維持で願いたいと思っているでしょうね。スーパーなどでのアルコール類の安売りのお陰で、ただでさえパブの客は減っているのに、飲酒運転まで厳しくされたのでは「やってら・ら・らんねえ」(ろれつが回らない)というところなのでは?
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7)むささびの鳴き声 |
▼このむささびジャーナルをお送りするころ、南アフリカのワールドカップがどうなっているのか分かりませんが、イングランドにおける事前の盛り上がりぶりは確かにタダものではない。私が暮らすFinstock村でも、イングランドの旗を掲げる家があるし、クルマにこれをつけて走っているのはたびたび見かけます。
▼そのイングランドがアメリカと戦った夜、Finstock村からクルマで約10分のWitneyという町へ行ってみました。人口2万5000というごく小さな町なので、ロンドン、マンチェスター、リバプール、ニューカッスルのような大騒ぎはなかったけれど、サッカーファンの溜まり場とされるパブはさすがに盛り上がっておりました。キックオフは午後7時半。我々がパブの前に到着したのが、20分ほど前のことだったのですが、すでに大声で歌ったり、拍手したり、乾杯したりでうるさいことおびただしい。とても中に入る気にはなれませんね、あれでは。
▼パブの外壁いっぱいにイングランドの旗が貼られ、入口に黒いユニフォームを着用した屈強なおっさんが3人立っている。未成年風の客が来ると身分証明書を確認していたのですが、この人たちはおそらくゲームが始まってからの万一に備えて雇われたのでしょう。「万一」とはもちろん客が酔っ払って暴れるかもしれないという意味です。ちょっと可笑しかったのは、パブのとなりに銀行があって、そのATMに若い人がぞくぞくと列を作り、金を引き出しては嬉しげにパブに吸い込まれていく様子だった。
▼やがて開会式。国歌演奏の際は、パブの客も大声でGod Save the Queenを歌い、Stars and Stripesのときは「ブーブー」騒ぎでどうしようもない。試合開始後の数分でイングランドがゴール。耳をつんざくような歓声を後ろに聴きながら帰宅したわけです。サッカーファンならご存知のとおり、この試合はイングランドのゴールキーパーが痛恨のトンネルをやって1対1の引き分けに終わったのですが、イングランドにしてみれば「勝って当たり前」の試合であっただけに放送するアナウンサーもがっくりという感じだった。
▼翌朝、新聞各紙のサイトを見ながら、あの痛恨のドジをやってしまったゴールキーパーについての報道の仕方に、日英の違いのようなものを感じてしまった。とにかく新聞も放送も、Robert
Greenというゴールキーパーのことを名指しで非難するような報道であったわけですが、そのRobert Greenのコメントも詳しく報道されている。
起こってしまったことは起こってしまったこと。クヨクヨしていられる場合じゃない。こんなことは前にもあったよ。頭を上げてメディアと顔を合わせること。そして非難を受け入れること。それが人生ってもんだ。
It's done, it happened. It's not something you can allow to affect yourself.
I've been in this situation before and it's about holding your head up
high, facing the media, taking the flak which is going to come. That's
life. |
▼エッセンスだけ取り出すと上のようなことを述べているのですが、日本の場合だと、野球でドジを踏んでしまった選手はゲーム後の取材にも応じず、記事も「ロッカーに引っ込んだまま出てこなかった」とか「何を聞かれても黙って下を向いているだけだった」などという調子のものが多いと思うのですが、このキーパーは「私は国を代表しているんだ。ドジをやってしまったけれど、それで精神的にダメになることはなかったものな」(I
represent my country and I did that. I didn't let it affect me mentally)等々、結構いろいろ語っている。苦しいに決まっているけれど、言葉を口にするだけ救いがあるように思える。最後の"That's
life"という言葉ですが、「しゃあないじゃんか」というような意味ですね。英国人が好んで使う言い回しの一つであります。
▼ところでWitneyの町のサッカーパブの盛り上がりですが、日本で言うと阪神タイガースとトラキチの関係でしょうね。「六甲おろし」を歌って、道頓堀に身を投げる・・・あの人たちです。ワールドカップに対する英国全体の盛り上がりを見ると、ちょっと度を越しているような気がしないでもない。これだけ盛り上がってしまうと、優勝しない限りおさまらないのではないか、と他人事ながら心配してしまう。尤もイングランドがワールドカップで優勝したのは1966年が一番最近のことらしいですね。30年以上前のことです。常に期待させては負けてきたってことですよね。だとするとますますタイガースに似ている。
▼それから、TVなどを見るとイングランド中がワールドカップで盛り上がっているように思えるけれど、冷めちゃっている人もいることはいるんですね。まず女性、特に主婦。それからWitneyの町にある、我々がよく行くパブのオーナー。「ワールドカップで盛り上がるのでは?」と聞いたら「ウチはあんな真似はしない。アンタ、経験のためにその種のパブへ行ってみたらいい。みんなビール飲みながらテレビ画面に向かってがなりたてる。まともじゃないな」とのことでありました。
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