第2号 2003年3月9日
home backnumbers むささびの鳴き声 美耶子のコラム
finland watch uk watch english dictionary green alliance

1)悪の枢軸って何?
2)フィンランド通信:争点なしの総選挙
3)むささびMの「"簡単"が難しい」
4)寄稿:春海さん、アンタは正しい!
5)世論調査:老人介護・結婚・離婚…
6)グリーン同盟の会
7)編集後記

1)「悪の枢軸」って何?

BBCのNewsnightという番組の司会をやっているジェレミー・パックスマン(Jeremy Paxman)という人は日本でいうと田原総一朗とか久米宏のようなテレビ・ジャーナリストです。政治家を問い詰めるやり方に人気があるのですが、単なるジェスチャーとして嫌う人もいるようです。また労働党に甘くて保守党に辛いという人もいます。そのパックスマンが2002年5月14日、ブレア首相と行ったインタビューの一部を紹介します。インタビュー全体を文字に起こしたものはここをクリックすると見ることができます。

PAXMAN: People talked about post-September 11th of a conflict between good and evil.Do you believe that there is an axis of evil?

  • 「悪の枢軸」なんてあるんですか?という質問。このあたりはまださりげない風。

BLAIR: I believe that weapons of mass destruction are a real evil, yes. I certainly do believe that.

  • 大量破壊兵器は悪だ…というブレア首相の答え(「悪の枢軸」という言葉を使っていない)。

PAXMAN: I note that you have never used the phrase "axis of evil" yourself.

  • アナタはこれまで(スピーチなどでは)一度も"悪の枢軸"という言葉を使ったことがないんです。

BLAIR: We make our own speeches. I think the President was right to say weapons of mass destruction are a real issue and evil in the world....

  • 大量破壊兵器こそが真の問題であり悪であるというブッシュ大統領は正しい(と言いながら、ここでもまだ悪の枢軸という言葉は使っていない)。We make our own speeches.という部分ですが「私とブッシュ氏は必ずしも一心同体ではない」ということを敢えて述べたものなのでしょうか?私はそのように解釈しているのですが…。

PAXMAN: But the phrase "axis of evil" is a silly phrase. Isn't it?

  • でも「悪の枢軸」というのは馬鹿げた表現ですよね(と挑発)。

BLAIR: No, I don't agree it is a silly phrase.

  • いやそうは思わない。

PAXMAN: You think there is an axis of evil?

  • つまり首相は「悪の枢軸」なるものが存在すると思っているわけですか?

BLAIR: As I said to you, I think weapons of mass destruction...

  • だから言ったでしょ、大量破壊兵器は…(と答えようとするがさえぎられる)。

PAXMAN: That is another issue. Do you believe there is an axis of evil?

  • それは別問題です。(私が聞いているのは) 「悪の枢軸」なるものが存在すると信じているのかってことですよ…(としつこい)。

BLAIR: I believe, as I said to you, that weapons of mass destruction are a real evil in the world. Those people who combine together... Look, if you want me to - if what you're trying to do is get me to rewrite my speeches, I'm not.

  • 私が信じているのは(さっきから言っているように)大量破壊兵器が本当の悪なんだということだ。こういう兵器を組み合わせて何はやろうという人間はだ…あんた、私がこれまでに行ったスピーチの原稿を書き直せというのか?そんなことは絶対にやらない!(かなり苛立っている?)

PAXMAN: Not at all, Prime Minister. I'm merely asking if you think there's an axis of evil.

  • そんなこと言ってませんよ、首相。あたしはただアナタが"悪の枢軸"なるものが存在すると思っているのかどうかを聞いているだけじゃありませんか(とこれもまたしつこい)。

BLAIR: What I'm saying to you is that what the President was referring to is the issue of weapons of mass destruction and support for international terrorism.

  • だから、ブッシュ大統領が(悪の枢軸ということで)言っているのは大量破壊兵器と国際テロリズムのことなのだ、とあんたに言っているのだ。

PAXMAN: He was referring to specific countries, Prime Minister.

  • でも彼(ブッシュ)は具体的な国のことを言っていますよ。

BLAIR: Exactly. There are real issues in respect of all those countries.

  • そうだ。それらの国に関しては大いに問題がある…。

PAXMAN: Do you think Iran is part of an axis of evil as he appears to think?

  • イランもその"悪の枢軸"の一部であると思うのですか?ブッシュ大統領はそうい思っているようだが。(要するにこれを聞きたかったのか?)

BLAIR: I think Iran in certain of the actions that it takes, has the capacity to threaten the outside world.

  • イランには場合によっては世界を脅かす能力がある・・・。

PAXMAN: As you say, we have relations with Iran. Do you believe they're part of this axis of evil?

  • 英国はイランとは関係がある。そのイランもいわゆる悪の枢軸の一部だとあなたは信ずるのですか?(と食い下がる)

BLAIR: As I've just said to you, I think certain things they're doing are wrong and need to be counted.

  • 今言ったとおり、イランのやっていることで間違っている部分もあると思う…(certain things などと持って回ったような言い方。イランに対しては遠慮がち?) ということでこの部分は終わっています。パックスマンもしつこかったけれど、ブレアもついに"悪の枢軸"という考え方について直接言及はしなかった。これもすごい!?
back to top
2)フィンランド通信:争点なしの総選挙?

フィンランドの人たちが「幸せを感じる要素ベスト5」というのがあちらのサイトに出ておりました。それによると1位が「自分の家を持つこと」で、以下「晴れ渡った天気」「誠実で信頼がおける友人を持つこと」「本来の自分に戻る自由なとき」ときて5番目が「掃除をしたばかりの家」なのであります。どれもごもっともですが5番目の理由は特に素朴でいい。ウチみたいにアホな柴犬が4匹も屋内にうろついているような家に暮らしていると非常によくわかるな。

日本では殆ど報道もされないと思うので、あえて「むささびジャーナル」がお伝えしておきますと、次の日曜日(3月16日)はフィンランドの総選挙です。フィンランドは一院制で、議席数は200、選挙は比例代表制です。各政党の現有勢力を議席数順にリストアップすると、社民党の52を筆頭に、中道党(47)、全国連立党(46)、左翼連合(20)ときて、スェーデン人民党(12)、緑の党(11)、キリスト教民主党(10)と並んでいます。どの政党も過半数には程遠いので必然的に連立政権を組まざるを得ない。

現在の政権は社民・全国連立・左翼連合・スェーデン人民の5党連立です。 ちょっと不思議なのは左の社民と右の連立党が連立を組んで、中道党(全国連立党に比べれば社民寄り)が野党になっているという図式です。この点についてフィンランド最大の新聞Helsingin Sanomatの政治アナリストは「フィンランドの政治には理屈に合わない部分が多い」と書いております。理屈に合わないのはフィンランドの政治だけではありませんよね。ちなみに国会議員の平均年齢は47才だそうです。若いですねぇ。

back to top
3)むささびMの「"簡単"が難しい」


前回のカナダ人の書いたローマ字仕立ての日本文を読んでふと気が付いた。彼はひょっとすると英語で考えて、それを日本語に直したのではないか、と。同じことが英会話の苦手な日本人にも当てはまるような気がした。こなれた英語にもこなれた日本語にもある種の共通点があって、自然な文章というものは聴き始めた(読み始めた)時点で、その人の口からどんな文章が出て来そうかという予測がつくという経験を、我々はしばしばしているのではないか。

文法を意識すると、聴きなれた表現を使うことよりも自分で文章を作ろうとしてしまい、その結果、文としては間違っていないのにあまり聞いたことのないナントも奇妙なものになってしまう、ということはないか。それから日本人が英会話を得意になれない一つの原因として、頭の中で考えた日本文の中の漢字熟語や日本語独特な表現を易しい知っている単語で言おうとしないで、すぐに辞書で調べたくなってしまうということが、言えるのではないか。

例えば「彼は一本気な人だ」と言いたい時、「一本気」って英語でなんて言うんだろう・・・・とか、「今日の決起集会では・・・・・」の「決起」ってどう言うのだろう・・・とかである。とにかくこの種の誘惑を断ち切ることが英会話力アップの第一歩という気がする。因みに「一本気」というのはsingle-minded 、「決起集会」というのはrally 、と辞書には出ていた。 よく使われる文型に敏感になること、なるべく簡単な単語を使って人に伝えること、これが実は案外簡単ではないから厄介なのだが・・・。

back to top
4)寄稿:春海さん、アンタは正しい!


ひとこと言わせていただきます。麺類とご飯の同時摂取文化の件(むささびジャーナル第1号)です。なにしろ食いしん坊を自認する私です。これについては、一家言……

春海さんの意見に賛成です。世界的なレベルで見て、主食と副食という分け方をする文化は、それほど多くないと思います。はっきり主食と副食を分けて考えるのは日本くらいのものではないでしょうか。パンを主食というのは無理があります。パン食の文化で育っている人には、主・副の区別はないように思われます。 ということは、麺とご飯、パスタとパンを同時に食べることは、ごく自然であります。イタリアではご存知のように、パスタはスープ代わりです。パスタとパンを同時に食べるのは普通だと思います。

余談になりますが、私は子供の頃、ケチャップまみれのスパゲティをおかずにご飯を食べておりました。今でもデパートの地下で、スパゲティ・ナポリタンという日本独自のパスタ料理をお惣菜として売っているのを見ると、岡山の田舎の食生活が特に変わっていたというわけではなさそうです。ですから、お宅のDD君は正しい!

関西では、うどんにはお稲荷さんがつきものです。お好み焼や焼きそばをおかずにしてご飯を食べるのも普通です。ちょっとしゃれたうどん屋では、炊込みご飯がつくのが普通です。こと食文化に関しては、関西の方が豊かな証拠でしょうか。名古屋の味噌煮込みうどんなどは、味付けがご飯と一緒に食べることを前提に作られています。 私はあまり好みませんが、半チャンラーメン(小チャーハンとラーメンの組み合わせ)や、半ライス・ラーメンはサラリーマンの定番ですし…… 問題は量でしょう。

麺とご飯やパンを同時に食べること自体は何の不思議もないわけで、問題は量だけのことではないのでしょうか。食べ物の組み合わせの自由こそが豊かな食文化の証です。 春海さん、自信を持って、麺類とご飯をお食べください。むしろ、同時に食べない方が世界的には少数派です。昨今の欧米のヘルシー・フードの定番として、全粒粉のパンとライス・サラダやライス・プディングの組み合わせなどは健康的にも勧められるメニューではないでしょうか。お米を主食だと思っているのは、日本人だけですよね。そのこと自体は、文化ですから、尊重したいと思いますけど(笑)。

Talking about a sane culinary culture "Harumi-san's Shiba-ken dog is quite sane about eating and asking more for the duo of spaghetti and rice", insists Satoshi Iwamoto, editor of Shogakkan publishing house, who confessed that he did exactly the same when he was a small boy in Okayama-ken. Here is his contribution.

There is nothing wrong or insane about Jiro Harumi's habit of eating the duo menue of noodle and rice (23 Feb of Musasabi Journal). Take a broader and global look at culinary customs and you will find very few countries where "main meal" (shushoku) and "side dish" (okazu) are regarded as two separate things: Japan is an exception (rather than a rule). People in the bread culture have no such idea as "main meal" and "side dish".

It is therefore quite common (certainly not insane) to eat duos like noodle and rice or pasta and bread. In Italy people regard pasta as a "soup" and they do eat spaghetti and bread together. Incidentally, I remember that when I was a child in Oakayama-ken I loved to eat rice together with spaghetti mingled with a lot of ketchup and that really made a wonderful dinner! So, Jiro's dog, DD, was quite right to ask for more of the spaghetti/rice duo.

In Kansai (where the culinary culture is clearly more sophisticated than Kanto) there is no noodle meal without Oinari-san. People eat rice with Okonomiyaki and Yakisoba. Nagoya's udon cooked with miso is designed to be enjoyed with rice! Ramen with rice is one of the most popular salarymen's lunch, an equivalent to ploughman's lunch in England. Go on, Harumi-san, and continue with your sophisticated culinary habit. Be confident. You are not insane. Your wife and children are!

back to top
5)世論調査:離婚・結婚・イスラム教・・・


世論調査その1:老人介護・結婚・離婚…

最初の試作版で英国の世論調査にふれて、高齢化社会になりつつあると報告しました。これに続けてもう少し付け足しますと、10人に一人(約500万人)が無料で「介護」をしています。つまり自分の家族などの介護をしているということです。で、その中の5人に一人が週に50時間以上、介護をしていると答えています。成人人口に占める結婚しているカプルは50。7%で、30年前(71年)の68%をかなり下回っています。離婚をした夫婦の%は71年が1・3%だったのに2001年には8・23%にまで増えています。

世論調査その2:英国におけるイスラム教徒

宗教についていうと、約72%の人が自分はクリスチャンであると答えています。イスラム教徒であると答えた人は150万人いたそうですが、自分がイスラムであるということを公に認めたくないという人がかなりいるとのことで、実際には160万ないし190万くらいなのではとされています。少なくともイングランドとウェールズにおいては、イスラム教がキリスト教に続く人口であることは間違いないそうです。ブレア首相の対話集会で、イスラム教が人が発言をして「9月11日のテロ以来、英国ではイスラムというと悪い奴等という風潮がある」と言っていました。人口6000万弱の国において190万というのはかなりの人口ですね。


世論調査その3:doubt but believe…


ところで英国人の信仰心について私が好きな調査結果があります。4―5年前の調査によると「あなたは神を信ずるか?」(Do you believe in God?)という質問に対して21%の人が「信ずる」と答え、13%が「信じない」と答えたのですが、実は一番多かったのが"Doubt but believe"の23%でありました。つまり疑わしいとは思いながらも「ひょっとしたら・・・」という人が一番多かったというわけです。もちろんこの場合のGodというのは、キリスト教の神のことです。doubt but believe…いいですね。


back to top
6)グリーン同盟の会


私が英国大使館なるところに勤務していた頃(随分昔のように思えますが)日英グリーン同盟というプロジェクトに関わり、背丈1メートルほどのイングリッシュオークの木を日本全国200ヵ所ほどに植えて貰いました。植えっぱなしじゃつまらない、と私が勝手に思い込みまして20ヶ所ほどの皆様にお願いをして「その後のオーク」というのを見守る活動というのをボツボツやっています。題してGreen Alliance Club(グリーン同盟の会)。

1年に1回か2回、オークの様子を写真に撮って季節の挨拶代わりに送って頂く…というだけのことですが、それを10年続けると結構面白い写真展でも出来るかもしれないということです。それまで私が生きていればの話ですが。 今の所は個人レベルでやってもらっていますので、町の国際交流員・牧師さん・樹医さん・教育委員・校長先生・福祉施設の理事長・ただのヒマ人(私のこと)など、賛同者も実に様々です。会費なし・会則なし・事務局なし・なんにもなし…あるのはちょっとまじめな「遊び心」だけという素晴らしい集団であります。

back to top
7)編集後記
  • 有難いじゃありませんか、むささびジャーナル第1号についていろいろとコメントを寄せてくれた人がいました。「支離滅裂なのがいい」「ブレア首相からいきなりラーメン・ライスに行くところがにくい」「面白くて有益」(本当にそう言ってくれる人がいたんです、ウ、ウソじゃない!)などなど。
  • あの小学館の名編集長の岩本さんが「うどんとライスを食するのは間違っていない」という旨の激励の投稿をしてくれました。この人の場合、幼い頃とはいえ「ケチャップまみれのスパゲッティをおかずにご飯を食べていた」という哀しい過去まで告白しています。涙が出るじゃありませんか。思わず全文一挙掲載、どころか頼まれもしないのにバイリンガルにしてしまった。
  • ウチの近くに入間川という川が流れています。川べりにある梅の木に花が咲き始めたのですが、まだまだ寒いです。ではまた…。

back to top