musasabi journal

222号 2011/8/28
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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
ついに8月も終わり。少しだけ涼しくなってほっとしています。夜になると虫の鳴き声が聞こえるのも日本ですね。むささびジャーナルは222というぞろ目号になったのを機に見てくれをちょっとだけ変えてみました。

目次

1)カダフィ政権崩壊と英国の過ち
2)暴動が終わって・・・
3)苦闘する英国最後の鉄道車両メーカー
4)今年生まれ赤ちゃんの3割が100才の誕生日を祝う!?
5)ベビーブームミステリー
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声



1)カダフィ政権崩壊と英国の過ち

リビアのカダフィ政権崩壊についてThe Guardianのコラムニスト、Simon Jenkinsが「カダフィ失脚は結構かもしれないが、英国の対リビア介入は誤りだった」(We may all applaud Gaddafi's downfall, but it remains the case that Britain's intervention in Libya was wrong)と言っています。

今回のカダフィ失脚は、いわゆる反政府軍を支援する英仏軍による攻撃がNATO軍による介入に発展、カダフィ対欧米という流れで進んできたのですよね。Jenkinsが言うのは、今回の紛争はもともとリビアの国内紛争であったはずなのに、第二の都市、Benghaziをカダフィ政府軍による攻撃から守るために(という名目で)英国とフランスが飛行禁止空域(no-fly zone)を設定すると発表したことで内戦の一方の当事者を支援するという戦いになってしまったということです。それが「リビア国民の生命を守る」(to defend the lives of the Libyan people)ために首都トリポリ攻撃に発展、ついには「リビア国民の生命保護のためにはカダフィ政権の転覆もしくはカダフィ暗殺しかない」(this was impossible without toppling, and even possibly assassinating, Gaddafi)という風にエスカレートして行った。

このようなエスカレートが何をもたらすのかはイラクとアフガニスタンで充分に立証済みではないか、とJenkinsは言います。英米軍がアフガニスタンを攻撃したのは「アルカイダの活動拠点を壊滅するため」(to "eliminate al-Qaida bases")であったし、イラク攻撃は「大量破壊兵器を発見するため」(to "find weapons of mass destruction")であったはずです。それがいつの間にか「民主主義のため」とか「独裁者追放」などの目的にすり替わり、アフガニスタン、イラクともに攻撃開始時よりもひどい状態になっていて、治安維持のために外国軍の駐留が必要とされるに至っている。

リビアではどうだったのか?まずは「NATOの地上軍は不要」(no Nato forces on the ground)から始まって、それが「特殊部隊だけなら投入してもいい」(only special forces)になり、次に「完全武装の空軍投入」(a complete panoply of close air-suppor)となっている。そして英国国防相の関係者は「治安維持軍投入の可能性」(troops may be necessary to "help keep order")まで示唆している。

エジプトやチュニジアの民主革命は、欧米による介入とは無関係に起こったものですがリビアは違う。「トリポリが英国を頼りにしているように英国もトリポリが頼り」(Tripoli is as dependent on Britain as Britain on Tripoli)という状況になっているとJenkinsは言います。

If Cameron wants to take credit for the removal of Gaddafi then he cannot avoid responsibility for the aftermath. Yet that responsibility strips a new regime of homegrown legitimacy and strength. This is the classic paradox of liberal interventionism.
キャメロンがカダフィ追放を自分の手柄にしたいのであれば、カダフィ後のリビアに対する責任も負わなければならない。しかしその責任というものが、新政権からリビア自身が培った存在の正当性や力を奪うことになるのだ。これこそが自由主義的介入政策の古典的ともいえる逆説なのだ。

つまりサルコジとともに軍事介入の先頭に立ったキャメロンですが、世界中から「よくやった、さすが英国」と言われるためには、治安維持だの民政上のアドバイス提供だのとこれまで以上の介入をせざるを得なくなる。それをやらないと無責任と言われかねない。が、それをやるとリビア育ちの政治体制ができなくなる・・・アフガニスタンとイラクに係わり続けている英米が歩んできた道そのものだ、とJenkinsは指摘するわけです。

カダフィ独裁政権の崩壊を眼前にして欧米のメディアが沸き立っているようですが、Jenkinsはこれを「新帝国主義によるええかっこしい」(neo-imperial do-goodery)であり、そんなもの我々(英国)には要らないのだと言っている。彼によると今回のカダフィ政権崩壊も大国による侵略行為(great-power aggression)なのであり、


The truth is that Gaddafi's downfall, like his earlier propping up, will have been Britain's doing. A new Libyan regime will be less legitimate and less secure as a result.
本当のところを言うならば、カダフィの失脚は(彼の登場と同様に)おそらく英国のなせるわざとなることだろう。それが故にリビアの新政権は、正当性が失われると同時に安定性もまた不足するものとなるであろう。

という結論になります。

▼トリポリ陥落を伝える英国メディアのサイトを見ていると、悪漢・カダフィvs善玉・反政府軍という図式で、後者を助けているのが「正義の味方・英国とフランス」というニュアンスの報道が多いけれど、YouGovの世論調査を見ると、英国人の意見は必ずしもメディアとは一致していません。「英仏米などによるリビアにおける軍事行動は正しいか誤っているか?」(Do you think Britain, France, the US and other countries are right or wrong to take military action in Libya?)という問いに対して「正しい:right」と答えた人は過半数以下の41%に過ぎない。イラク戦争のときの数字とはだいぶ違います。

▼Simon Jenkinsの記事(8月23日付サイト)はここをクリックすると読むことが出来ます。はっきり言って私もJenkinsの意見に賛成なのですが、特に印象に残ったのがclassic paradox of liberal interventionismという言葉です。この場合の liberal という言葉ですが、カタカナの「リベラル」や漢字の「自由主義」よりも、カッコつきの「良心的」とか「進歩的」の方がピンとくる。リビア人が独裁者カダフィを追放することに手を貸してあげる・・・まさに欧米人の「良心」のなせる業というわけですね。Jenkinsに言わせると独裁者を追放するのはリビア人の仕事であって英国には関係ない。余計な手出しはすべきでないということです。エジプトやチュニジアではそれぞれの人々が自分で立ちあがったではないか、ということです。

▼8月25日付のDaily Telegraphのサイトによると、キャメロン首相の命令で、22人から成る英国の特殊部隊(SAS)がカダフィ大佐捕捉のための活動に参加、リビアの反政府軍をガイドしていると伝えています。カダフィ大佐を捕まえると、100万ポンド(約1億3000万円)の賞金がもらえるのだそうですね。もちろんSASが懸賞金をもらうわけではないだろうけれど、こんな作戦にSASを投入するとはキャメロンも気が狂ったとしか思えませんね。フランスと張り合っているってこと?ここで反政府軍のお役に立っておけば後ほど石油供給で優遇してくれるだろう、ってか!?


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2)暴動が終わって

前回のむささびジャーナルで紹介した暴動ですが、約2週間にわたってあちこちで続き、約2800人が逮捕され、3人(だったと思う)の死者を出して何となく沈静化したようであります。この暴動がなぜ起こり、誰が首謀者(グループ)であり、結局なにがどうなったのかがいまいち分からない。前回もお伝えしたとおり、メディア報道に見る限り「英国中が当惑している」という感じであったのですが、それが今も尾を引いているようです。

そのような中で、世論調査機関のYouGovがちょっと変わったアンケート調査を行っています。暴動に関する英国の新聞のコラムニストが書いた記事を数点紹介、それぞれの記事を掲載した新聞や筆者の名前を一切明かさずに調査対象者の意見を求めたものです。英国の場合、新聞によって好き嫌いがはっきりしており、コラムニストについても「あの人の言うことなら何でも賛成」みたいなところもあるので、回答者の偏見を避けるためにそれらの情報を明かさずに質問したわけです。

サンプルとして紹介されたコメントとそれぞれの支持率は:


1) the riots were not a political protest but in fact ‘a grotesque manifestation of our shallow, instant gratification, I-want-it-and-I-want-it-now consumerist society’.
これらの暴動は政治的な抗議運動ではなく、我々の社会の浅薄で、直ぐに欲望を満たさなければ気が済まない世の中、"とにかく欲しい、いますぐ欲しい”主義がはびこる消費社会の醜悪宣言のようなものなのだ。


81%
2) one thing that's probably true is that the more stable and secure your life is, the less likely you are to smash windows and set fire to an assortment of buildings.’
おそらく唯一本当だろうと思われるのは、生活がより安定し、安全なものになると、窓を割ったり、建物に放火したりすることもより少なくなるだろうということだ。


78%
3) this is what happens when people don't have anything, when they have their noses constantly rubbed in stuff they can't afford, and they have no reason ever to believe that they will be able to afford it.
鼻先にいろいろと高価なものをぶら下げられているのに、現実には何も持っていないし、これからもそのようなものを手に入れるだけのお金ができることはないと思わざるを得ないような状況では、このようなことが起こるものなのだ。


26%
4) the cause of the riots is ‘a complete lack of responsibility in parts of our society’ and that people are ‘allowed to feel that the world owes them something.
暴動の原因は、我々の社会のある部分における責任感の完全な欠如であり、世の中が自分たちに借りがあると感じることが許されているということにあるのだ。
85%

最も賛成票が多かった4番目のコメントは、実はキャメロン首相のものです。彼にしてみればかねてからの自説を改めて口にしただけなので、暴動には苦々しい思いかもしれないけれど、自分に対する国民の支持の高まりのようなものを感じたでしょうね。

3番目のコメントはGuardianに掲載されたZoe Williamsという人のもので、持たざる者の持てる者に対するリベンジが暴動を引き起こしたのだと言っているようです。これが殆ど異常と思えるほどに支持率が低い。これは何なのでしょうか?何でもかんでも世の中が悪いとする意見(昔は結構受けていた)に対する拒否反応のように見えるし、昔の労働党的感覚に対するノーでもある。

だとすると、2番目のコメントがなぜこれだけ支持率があるのか不思議です。暴動者たちは生活が安定していない人々であり、皆が豊かになれば暴動も減るはずだと言っているように響く。基本的にZoe Williamsと変わらないように見えるのになぜ8割もの人が賛成するのか?このコメントはThe Independentに掲載されたものです。

で、キャメロンのものを除けば最も受けが良かった1番目のコメントは、政治的にはどちらかというと保守的なDaily Mailに掲載されたもので、I-want-it-and-I-want-it-now という欲望が膨れ上がった現代の消費社会の病気がそのまま表面に出たものだと言っている。サッチャー(1979年)からブラウン(2010年)あたりまでの約30年、英国はまさに「欲ばって何が悪いのさ」という雰囲気で「豊か」になってきたわけですが、それと店舗略奪や放火では次元が違うのでは?

いずれにしても、このアンケート調査に見る限り、暴動を起こした方には厳しい意見が圧倒的なのですが、The Economistによると取り締まる側にも行き過ぎと思われることがいくつかあるようです。

例えば地方自治体の中には暴動に参加した人間のみならずその家族まで公営住宅から追い出すための手続きを始めたところがあったし、福祉担当大臣などは暴動参加者から失業保険のような福祉手当を取り上げるべきだと発言したりしている。また裁判所による判決にはどうかと思われるものある。Facebookを利用して暴動を扇動しようとした(結局失敗に終わった)二人組を4年の禁固刑にしたり、ミネラルウォーターを1ケース(約4ポンド:約500円)を盗んだというだけで6か月の禁固刑などというのもあったのだそうです。


▼ミネラルウォーターを盗んだ程度で禁固6か月というのは確かに度を越していますね。要するに裁判所まで冷静さを失ってしまったということでしょうか?何せ3000人近い逮捕者が出たのだから刑務所も満杯で困っているのだそうです。

▼40年も前にデトロイト、ロサンゼルス、ニューアークなどのアメリカの都会で大きな暴動があり、放火・店舗略奪など現象的には今回の暴動と同じようなことが起こったのですが、アメリカの暴動はその結果としてマルコムXやブラックパンサー党のような黒人のオピニオンリーダーや政治結社の登場に繋がる部分がありましたね。言い換えると「マジ」であったわけ。イングランド諸都市の暴動は、暴動を起こした人々による社会運動や政治運動が起こるとはちょっと考えにくい。

▼しかしあのような形で憂さ晴らしをしようとした人たちが、かなりの数で存在しているのが英国であるというのは現実でありますね。なにせ英国には、世界中の鼻つまみとなったサッカー・フーリガンという伝統がありますからね。Society is brokenというキャメロンの診断に共感を覚える人が非常に多いようですが、壊れた社会はどうやって修繕するのか?

▼ところでThe Observerのサイトにトニー・ブレア元首相がエッセイを投稿しており、キャメロンのいわゆる「社会が壊れている」論はハナシとしては面白いかもしれないけれど問題解決にはつながらないと言っています。ブレアさんによると問題ははっきりしているのだそうで、「機能不全に陥っている家庭が多すぎることが問題なのだ」(The country's problems stem from too many dysfunctional households)と言っています。ブレアさんのエッセイはここをクリックすると読むことができます。

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3)苦闘する英国最後の鉄道車両メーカー

ロンドンから北へ車で約3時間走るとDerbyという町があります。East Midlandsという工業地帯にある町で人口は約24万。トヨタの自動車工場もこのあたりにあると聞いたことがあります。その町で7月下旬のある日、数千人の労働者がブラスバンドを先頭にデモ行進を行いました。デモの中心になったのが、この町で19世紀半ばから鉄道車両を製造してきたカナダ系のBombardier(従業員3000人)という会社の労働者です。

Bedfordからロンドンを経由してBrightonまで走るThameslinkという路線で使われる通勤電車用の新車両1,200台の製造がこの会社ではなく、ドイツのSiemensによって行われることになり、 Bombardierは受注競争に負けてしまった。この場合の発注元は英国政府です。お陰で1400人がリストラされ、Bombardierの工場は2014年には仕事がなくなってしまうことが予想されている。新車両の製造はドイツにあるSiemensの工場で作られるのですが、そうなると鉄道発祥の地である英国から最後の車両メーカーであったBombardierが姿を消すことになる。

Bombardierの工場の近くに世界第二のジェット機用のエンジン・メーカー、Rolls-Royceの工場があるのですが、7月30日付のThe Economistは、BombardierとRolls-Royceという製造企業2社を比べると、21世紀において英国の製造業がどのようにすれば繁栄できるのかのヒントがある(The contrast between the two suggests how British manufacturing can hope to prosper in the 21st century)と言っています。

列車の車両も航空機エンジンもそれほどたびたび受注があるようなビジネスではないけれど、ひとたび注文を獲得すると大きな金銭が動くという意味ではRolls-RoyceとBombardierは似た者同士なのですが、Rolls-Royceはジェットエンジンの分野では世界第二の座にあるのに対して、Bombardierは英国内で使われる車両の製造だというのに英国政府からの受注にさえ失敗するという対照的な展開になっている。

鉄道業界と航空宇宙業界の違いの一つにアフターサービスによる収益があるとThe Economistは言います。Rolls-Royceの場合、売り上げの51%がアフターサービスによる収入であるのに対して、Bombardierの場合は14%にすぎないのだそうです。もちろん相手にしている市場規模も違う。航空宇宙産業はグローバル産業でありDerbyの工場で作られるRolls-Royceのエンジンは世界の航空機で使われるのに対して、Bombardierは工場をDerby以外にアメリカとヨーロッパ大陸に持っており、Derbyで作る車両のうち海外に輸出されるのは10%にすぎない。

ただ世界の鉄道車両業界が全て国内市場だけを相手にしているわけではない。今回のように英国内を走る鉄道用の車両をSiemensというドイツ企業がドイツの工場で作るというようなことは一般的に行われるようになっている。ドイツ製の車両はフランス国営のEurostarやスペインの鉄道でも採用されているし、2005年に日立が英国の鉄道の車両生産を受注しているが全て日本で生産することになっているのだそうです。The Economistの記事によると日立は間もなく英国に工場を開設することになっているが、車両のcasings(枠組み)はこれからも日本の工場で生産されたものを使うことになっていると書いています。

一方、Rolls-Royceは航空機エンジンで使われるガスタービンの設計技術をエネルギー産業や船舶業界にも売り込んで成功しているのですが、これらもまたグローバルな産業で、Rolls-Royceの収入の85%が輸出によっており、英国市場への依拠率は小さい。ただそのRolls-Royceも40年前には苦しかった。1971年にキャッシュがなくなり保守党(エドワード・ヒース)政権によって国営化されてしまった経験もある。最近でもリストラは盛んで、10年前に比べると20%も従業員の数は少ないけれど、オーダーブックは一杯なのだそうです。

The Economistは製造業としてのRolls-Royceの成功について

The reasons for its success -- the quality and adaptability of its products, its expansion into services and global reach -- could offer lessons for Britain’s other industries, even if it is too late for its trainmakers to catch up.
質が高くて応用範囲も広い製品作りとサービス部門の充実と世界市場を相手に拡大している・・・それが成功の理由であり、これは英国の他の産業にも当てはまる。ただ鉄道車両メーカーはおそらく追い付いていけないだろう。


としています。

また今回、政府による発注であったにもかかわらず外国企業に仕事を与えてしまったことについて地元市民や労働組合はカンカンに怒っているのですが、発注した運輸省ではコスト比較でSiemensが勝ったもので、納税者の税金を賢明に使うという原則からしてもやむを得なかったと言っています。

▼1872年、新橋・横浜間を走った日本初の鉄道車両はすべて英国製だったのですね。それだけではない。鉄道敷設そのもののプロジェクト責任者も英国人(エドモンド・モレル)だったのだから、英国抜きに日本の鉄道は考えられないわけです。現在の英国の鉄道車両ですが、乗客が手でドアを開け閉めする車両がいまでも堂々と走っているからすごいですよね。


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4)今年生まれ赤ちゃんの3割が100才の誕生日を祝う!?

100歳以上の高齢者のことを英語でcentenarianと言いますが、英国統計局(Office for National Statistics:ONS)の調べによると、現在20歳の人がcentenarianになる確率は彼らの親世代の場合よりも2倍高いのだそうです。

英国ではcentenarianの人口が2009年時点では11,600人であったのですが、2033年には8万人、2050年には27万6600人、2066年には51万人に達するものと予想されています(但し人口も現在の6000万から8100万へと上昇すると予測されているのですが)。8月4日付のThe Timesは、この調子で100才以上が増えていくと国家による福祉が立ち行かなくなる(State facing crippling health and welfare bills)と警告しています。

医療や生活水準の向上が超高齢者増加の理由であることは明らかなのですが、100年前の1911年生まれの人で今年(2011年)まだ生きている人は全体の0.6%(1000人に6人)、今年生まれ赤ちゃんが2111年になっても生きている確率は30%(1000人に300人)という数字を示されると「ほんまかいな」と思ってしまう。

現在の連立政権は次に選挙がある2015〜16年までに公共部門の借金をGDP比1.5%にまで下げようとしているのですが、上のような速度でcentenarianが増えていくと、節約されたお金も吹き飛んでしまう、とThe Timesは言っており、予算責任局(Office for Budget Responsibility)というお役所の推定では公共部門の借金が2030年にはGDP比3.2%、2060には7.7%に達して800億ポンドの赤字になるとのことであります。

このような傾向についてSteve Webb年金担当大臣は「晩年の生活(later lives)というものについての考え方を変えなければならなくなっている」として

We simply can’t look to our grandparents’ experience of retirement as a model for our own. We will live longer and we will have to save more.
要するに祖父母の世代が経験したリタイヤ生活をわれわれ世代のモデルとするわけにはいかないということだ。長生きするということは貯蓄もまた増えなければならないということだ。

と言っています。

祖父・祖母の時代とはリタイヤ生活が違うということは、定年が延長になるということです。ただ政府による国民の意識調査によると英国人は58歳を「高齢」(old age)の始まりと見ている。それが定年の年齢だと思われているということですが、英国は他のヨーロッパの国よりも高齢者を排除する傾向が強いのだそうです。

労働・年金省(Department for Work and Pensions)によると、例えば50才を超えると仕事量を減らすというように高齢者を社会的に排除することによるコストは160億ポンド。年金の支払いと税収の低下によって政府の負担は30〜50億ポンドも増える。高齢者への年金支払いを減らして、若年層の教育や職業訓練に予算を使った方が社会全体にとって利益になるという見方もある。ただそれを政策として実行するのにはかなりの政治的な勇気が必要だそうです。票になるのが高齢者だからで、昨年(2010年)の選挙では65歳以上の76%が投票所に行っているけれど、18歳〜24歳の年齢層の投票率は44%に過ぎなかったのだそうであります。


▼日本のcentenarianですが、2009年の厚労省の数字だと40,399人です。英国は11,600人。全人口に占めるcentenarianの割合でいうと日本が0.03%で英国は0.01%で日本の方が多い。男女の比率ですが、日英ともに男一人に対して女は約6人で女性の方が圧倒的に長生きです。

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5)ベビーブームミステリー

英国の人口がどのくらいかお分かりですか?日本の半分でざっと6000万というのが私がいつもアタマに浮かべる数字です。昨年(2010年)6月ごろの統計によると6226万2000人だから私の数字もまんざら間違ってはいません。この数字は前年同期比で47万人(0.8%)増加した結果の数字です。10年前の2001年、英国の人口は5911万3000人であったのだから10年間で230万人増えたことになる。

2か月ほど前のBBCのサイトに「英国、ベビーブームミステリー」という記事が出ていました。21世紀に入って約10年、英国女性はかなり劇的なペースで子供を生んでいる(Women in the UK are having more babies)のだそうです。どの程度劇的なのかというと、2001年における女性一人当たりの出生率は1.64であったのが、2008年には1.97にまで上昇しているという数字が英国統計局(Office for National Statistics:ONS)のサイトに出ています。いわゆる人口交替率(replacement level:総人口の維持に必要な出生率)の2.1に達するということは10年前には「まさか」(remote)という感じであったのですが、いまやこれはかなりの確率で達成可能(it now appears much more likely)のようなのであります。

20〜30才の女性の出生率は1980年あたりからずーっと下がり続けていたのですが、2000年に入って上昇に転じています。なぜそうなったのか?というのがBBCの解説記事のポイントです。結論から言うと、1997年に登場したブレアの労働党政権が推し進めた子供の貧困撲滅政策に原因があるのだそうです。

労働党のこの政策の目玉の一つとされたのが、Working Family Tax Credits (WTFC)と呼ばれる税金控除の制度だった。これは子供がいる貧困家庭において両親のどちらかが働いていればある程度税金を控除することで児童の貧困を撲滅しようと意図したものだった。当時この政策は"making work pay"(働くと得する)というキャッチフレーズで大いに受けた。とにかく夫婦のどちらかが働いていれば控除された税金が戻ってくるのですから。ただ多くの夫婦場合、それまで共働きしていたのが子供ができるとWTFCによって収入が増えた。そして妻の方が労働市場に戻らず、いわゆる「専業主婦」としてむしろ労働市場から脱落し始めるという結果になった。それが出生率の増加につながったのだというわけです。


in attempting to improve the quality of children's lives, the policies are likely to have had the unintended effect of increasing the quantity of children born.
児童の生活の質を向上させようとした政策だが、子供の数の増加をもたらすという予期せぬ効果を生むことになった可能性が高い。

ということです。

▼世界保健機関(WHO)の統計(2011年)によると合計特殊出生率(女性一人が生む子供の数)の世界平均は2.5、世界で最も高い国のベスト3はニジェール(7.1人)、アフガニスタン(6.5人)、ソマリア(6.4人)となっています。いわゆる「先進国」で一番多いのはアメリカ(2.1人)で112位、英国の1.9人はフランス、ノルウェー、スウェーデンなどと並んで128位、日本は1.3人で182位となっている。

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6)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

end of the beginning:始まりの終わり

ある出来事が終わりに近づいていたり、それまで盛んであった勢力が衰え始めたりしたときに「終わりの始まり:beginning of the end」という表現が使われますよね。「あいつも、もう長くねえな」というニュアンスです。end of the beginningはその反対です。1942年11月10日、ロンドン市長主催の昼食会でウィンストン・チャーチル(首相)が行った演説の中に次のようなくだりがあります。    

Now this is not the end. It is not even the beginning of the end. But it is, perhaps, the end of the beginning.
さて、これが終わりというわけではありません。それは終わりの始まりでさえもありません。おそらくそれは始まりの終わりということでありましょう。

チャーチルのいう「これ」は、第二次世界大戦で展開された北アフリカのEl Alameinという場所における戦いで連合軍がドイツ軍に勝利したことを言います。この演説が行われる2日前のことだったのですが、この勝利が北アフリカにおける連合軍の勝利を決定的なものにしたとされています。その後、英国軍がエジプトにいたドイツ軍をリビアに追い出し、リビア国内のTobruk、Benghazi、Tripoliなどを陥落させたものです。チャーチルのいわゆるend of the beginningは、ドイツ軍による北アフリカの支配が始まることはないであろうという意味ですね。

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7)むささびの鳴き声
▼8月16日付け東京新聞の「筆洗」というコラムが、故・池部良さん(俳優)の戦争体験について書いています。それによると池部さんは、自分の乗っていた輸送船が米潜水艦の攻撃を受けて撃沈され、12時間漂流したのちに救出されるなどの苦労をした。そして「筆洗」によると、池部さんは東京裁判(極東国際軍事裁判)について「勝者による烙印」であると批判していたのですが、その一方で「戦争を起こした陸海軍指導者の責任を日本人自身の手で追及すべきだった」と語っていたのだそうです。

▼「筆洗」のコラムニストは「戦後、冷戦が始まり、日本の指導者の戦争責任はあいまいになった」としたうえで次のように主張しています。

新聞は自らの責任に向き合わず、民主主義の礼賛に転じた。「第二の敗戦」ともいえる福島第一原発事故の責任をどう追及していくのか。再び同じ過ちを繰り返してはならない。

▼おそらくこの部分が筆者のメッセージなのだと思う。「新聞は自らの責任に向き合わず、民主主義の礼賛に転じた」というのは、戦争中にさんざ軍国主義を礼賛するようなことを書いておきながら、戦争が終わった途端に「さあ、皆さん今度は民主主義で〜す!」と明るく呼びかけるようになった新聞の豹変ぶりに苦々しい思いを抱いているようです。

▼私が最も興味を持ったのは、福島第一原発の事故を「第二の敗戦」と書いている点です。どういう意味なのでしょうか?私が「脱原発」と戦後の「平和・中立」を重ねあわせて考えていることは何度か申し上げました。その意味で原発事故を「第二の敗戦」と呼ぶ「筆洗」と自分のアタマの間に共通点を見るのですが・・・。原発の安全神話も大日本帝国の完全無欠神話も現実とは程遠い虚構であるにもかかわらず大方の日本人はそれらを信じ込んでいた。

▼「筆洗」は「再び同じ過ちを繰り返してはならない」と言っているのですが、それはメディアは原発事故の責任追及をいい加減に終わらせてはならないと言っているのだと思います。俳優の池部良さんは「戦争を起こした陸海軍指導者の責任を日本人自身の手で追及すべきだった」と語っていたそうですが、原発の絶対安全神話を振りまいた政官業の責任もまた「日本人自身の手で追及すべき」だと「筆洗」は呼びかけている(と私は解釈しています)。神話を振りまくに当たって大いなる役割を果たしたメディアの責任も追及されなければならず、その意味で決して無罪ではない新聞ですが、それでも「政官業」の責任をきっちり追及していくことで少しは罪も軽くなるかもしれないということですね。

▼ところで、菅さん辞任のニュースを見たアメリカ人の友人が「なぜ日本では頻繁に首相が変わるのか?」と質問してきました。「その疑問に対してよく分からないとしか言えないのは我ながら情けない」と答えておきました。私自身は首相交代劇は官僚とメディアの共同作業だと思っているけれど、それをガイジンに説明するのってタイヘンです。自分の立場を守りたい官僚と、政治家をアホ呼ばわりすることで読者を喜ばせたいメディアの利益が一致している、なんて言ったって日本に来たこともないガイジンに分かるわけないもんね。

▼アメリカの格付け会社が日本国債の格付けを下げたことの理由の一つに「首相がしょっちゅう変わりすぎて政策の一貫性が保たれない」ことを挙げています。ということを報道する新聞やテレビは、首相が頻繁に交代することの責任の一端は政治メディアにあるということは全く言いません。悪いのは政治家だ、ということを繰り返すだけであります。

▼むささびジャーナルでもお知らせしたとおり、キャメロン首相の報道担当官をやっていた男がマードック系大衆紙の編集長をやっていたときに盗聴にかかわったという疑いで逮捕され、その際に、彼を採用したキャメロンの責任を追及する声はあった。けれど日本のメディアと違うのは「だから首相が辞めろ」とは言わないということです。そのことに関する限り、英国のやり方の方がフェアであるとむささびは考えています。何千万人という有権者の投票で選ばれた議会によって選出された首相に対して、メディアが「辞めろ」というのはメディアによる有権者の支配なのだから許せるわけがない。

▼それと英国には、誰が首相や大統領をやっても誤りはおかすことがあるという当たり前のことを当たり前に受け入れている現実主義もある。大災害を目の前にして「菅ではダメだ」というヒステリックな大合唱を始めたメディアの人たちの頭脳には「アイツ以外なら誰でもいい」という子供じみた「受け狙い」があったのだと思います。それでも菅さんはよく続けてくれたものだと思いますね。

▼で、誰が民主党の代表になるのかですが、おそらくメディアは、海江田さんは「カネと政治の小沢がバックにいるからダメ」と言うであろうし、前原さんは「外人からの献金があるからダメ」と言うと思います。つまり誰も良くない。自民党に帰るのも情けない。そしてお決まりのコースの「日本の政治は誰がやっても同じのお先真っ暗」・・・ということです。むささびの考えを言うと、これらの考えのどれも信用しない方がいい。小沢さんのカネの問題も前原さんの外人献金も「だから何なのさ」という程度のことであって、キャンキャン吠えるほどのことではない。自民党に帰るのは必ずしも情けなくはない。それが二大政党のシステムというものです。AがダメならBにする・・・当たり前田のクラッカー(古い!)じゃありません?

▼最後に宮崎学という人の「突破屋の独り言」というブログは面白いですね。今回も長々とお付き合いをいただき心より感謝いたします。
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