第3号2003年3月23日 
home backnumbers むささびの鳴き声 美耶子のコラム
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目次

1. 英国人の対米感覚・その1:「実力主義社会」は住みにくい…
2. 英国人の対米感覚・その2:上流階級もいずれはアメリカ好きになる…か?
3. イラク・その1:この戦争は「国益」に合わない:アンソニー・サンプソン
4. イラク・その2:英国コラムニストの意見
5. フィンランド通信・その1:総選挙が終わって
6. フィンランド通信・その2:諺を見ると国がわかる?
7. むささびMの「自国語の例外には案外鈍感?」
8. 編集後記

1. 英国人の対米感覚・その1:「実力主義社会」は住みにくい…

英国という国に大して興味のない人にとってはどうでもいいことでしょうが、英国は「階級社会」であると言われています。詳しいことは英国という国で暮らした経験がないので私自身にも分りませんが、例えば「労働階級」(working class)とか「中産階級」(middle class)などという言葉が日常的に使われているところを見ると、やはり今の日本にはない「階級」と呼ばれるものがあるんでしょうね(日本が階級のないフェアな社会であると言っているのではありませんが)。middle classという言葉はアメリカにもある筈ですが、working classというのはないと思う。またアメリカ人の言う "middle class" は文字通り「中間層」のことですが、英国人がこれを言う場合は、「富裕層」という意味の場合が圧倒的です。そして大体において英国のmiddle classは政治的には保守的です

その英国で特にmiddle classの人々に読まれている週刊誌The Spectatorは英国の保守的な人々の考え方を知るのには非常に参考になります。古い話で申し訳ないのですが、2000年7月8日号にDOWN WITH MERITOCRACYというエッセイが掲載されていました。MERITOCRACYは「実力主義」という意味ですから、このタイトルは「実力主義反対!!」という意味になる。このエッセイはアメリカで暮らした後、英国へ帰国したばかりのToby Youngという英国人が書いたもので、次のようなイントロで始まっています。

Toby Young says that a society based on class is kinder and gentler-and more generous to those who fail-than one based on ability alone...

英国とアメリカを対比して前者を「階級社会」、後者を「実力主義・能力中心主義社会」と定義し、英国のほうが「失敗者に対して親切で優しく寛大」であると主張しています。アメリカ社会では能力と実力のある人が尊敬されるのに対して、階級社会の英国ではどの家柄の出身なのかが問題にされる。どのような家柄の出であろうと実力があって一生懸命努力することによって社会で成功者となる…これがアメリカン・ドリームというものだろう。それに対して英国の場合は、家柄によってその後の人生が決まってしまうようなところがあり、人生とは宝くじみたいなもの、自分の努力でどうなるものでもないという考え方が定着している(とこの記事は言っています)。

アメリカでは実力とハードワークによって成功者として尊敬を集めるが、その裏返しとして「失敗者」は能力もないし努力もしなかったヤツとして、世の中のツマハジキ的存在に成り下がってしまう(とこの筆者は言う)。それにひきかえ「人生とは宝くじみたいなものさ」という考え方に立つ英国では、失敗者(例えば職を失った者)はたまたま運が悪いだけで人格とは関係ない。世の中どのみち不公平なものなのだ、失敗したからってアンタが悪いんじゃない…というわけ。

筆者の結論は「"完全にフェアな社会"などというものはこれからもできっこない。それが分かっている英国の方が、いわゆる"成功者"でない人にも住みやすい社会だ…"というわけであります。 どう思います?Life is unfairという「達観」よりもit could be fair if you try(努力すれば何とかなる!)という真面目さの方が単純な意味で説得力はあるけれど、肩も凝りますね。何事も一つの例だけに基づいて結論づけることはできないので、Spectatorのこのエッセイだけで英国の保守的な人たちの考え方の全てを知ったような気になるのはよくないのですが、ブレア首相を始めとする「新しい英国」を推進する人たちが最も嫌っているのが、この種の考え方であることは間違いありません。

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2. 英国人の対米感覚・その2:上流階級もいずれはアメリカ好きになる…か?

アメリカ人について英国人と話をしたことありますか?沢山あるでしょうね。で、英国人はアメリカ人についてどのように考えていると思いますか?言うまでもなくmany different people have many different ideasというわけで、何事も一般化することはできません。が、私が話しをした英国人は殆ど100%、アメリカ人というと「傲慢・無知・粗野」と言う余りよろしくない感覚・感情を抱いているようでした(少なくとも表面的には…)。

The Economistの3月3日号にAnti-Americanismという面白い記事が出ていました。その記事によると、「世界の平和を脅かす国」として、25%がイラクを挙げているのに対して32%の英国人がアメリカを挙げています。フセインよりもブッシュの方が世界平和にとって危険人物だと考えている人もかなりいる。イラク攻撃を国連の支持なしアメリカ単独で行った場合、これを支持する人は4分の1以下。「英国にとって最も大切なパートナーは?」という問いに対して、アメリカと答えた人は37%であり、EUとした人は56%に上っています。

尤もこれらはイラク問題などの国際問題が絡んでいるので、これを以って英国人はアメリカ嫌いであると結論付けるわけには行きません。「人間としてアメリカ人は好きか」と聞かれて「好きである」と答えた人は81%にのぼっています(1991年には66%)。それと上流階級は概ねアメリカ嫌いなのに対して「貧乏人はアメリカの方を好む」として、海外旅行の行き先がFlorida(貧乏人!)とFlorence(金持ち)と違うのだそうです。Economistはこのあたりの「上流階級」の趣味をsnobberyと解釈しています。それから若者と年寄りがアメリカ好きで中年は嫌いなんだそうです。

とはいうものの「上流階級のアメリカ嫌い」も、将来ひょっとすると逆転するかもしれないらしい。それは自分達の子供をアメリカの大学に送ろうという両親が増える可能性があるから。英国の大学よりもアメリカのそれの方が、質がいい・よりフェア・費用も高くないという親が増えてきているんだそうです。「そうなって子供たちがアメリカの大学に行くようになると英国人の対米感も違ってくるかもしれない」というのがEconomistの結論です。

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3. イラク・その1:この戦争は「国益」に合わない:アンソニー・サンプソン

私がイラクに関心を持つのは自分が石油企業と中東の石油の歴史についての本を書いたことがあるからだ。私の考えでは、ジョージ・ブッシュの政策もブレアの政策も中東やイラクの安全保障という利益にかなっていないし、石油資源確保という利益にもかなっていない。 この戦争は石油企業の戦争ではないし、多くの石油企業が支持できるような戦争でもない。その理由はこの戦争がかなりの長期間にわたってこの地域に不安定をもたらすものであるからだ。この戦争は1950年代のスエズ危機の時代に時計を逆戻りさせることにもなる。その当時、イスラエルの助けを借りた英国がエジプトに侵攻のだが、英国にしてみれば、それがこの地域により大きな安定を生み出し、それが自国の利益にもかなうものであると考えたのである。

が、実際には逆効果で、一連のアラブ・ナショナリズムに火をつけ、ひいては英国の利益、特に石油に絡んだ利益に多大な損害を与えることになってしまったのである。 もし米国と英国がイラクを攻撃してサダム・フセインを追放したとしても、その後に残るのは大きな混乱と不安定である。が、何と言ってもこの戦争がもたらす本当の危険性はイラクが国として存在しなくなるということにある。そうなった後にはさまざまに異なる部族間の対立と抗争が始まる。それをコントロールすることは西側の外国にできるような事柄ではないのだ。また外国人が駐屯することのコストと危険性は今我々が想像するよりもはるかに高くなるはずである。

イラクを攻撃することが西側の利益と安全にとって必要であるとする論理的な根拠は何も示されていない。国際テロがサダム・フセインの影響であり、資金的にも人的にも繋がっていることを示すサインは何もない。アメリカがイラク攻撃は必要である感じる理由は普通のアメリカ市民には関係がない。イスラエルの利益の方が大いに関係があるだろう。イスラエルはアメリカよりもはるかに大きくイラクの脅威を受けているし、イラクが攻撃されることを望む理由もある。

ブレアがブッシュの抑止力になってきたということについて、私は疑わしいと思っている。確かにいっときはブッシュに対して国連ルートに沿うように説得して影響を与えたことはあるかもしれないが、ブッシュはそのルートに沿うということを約束(コミット)したという気配はない。ブレアはむしろアメリカと英国だけの戦争(国連の支持を得ていない戦争)を行うための道筋を用意したようにも見えるではないか。それは道徳的に誤りであるが、英国の利益にも反してと私は信じている。英国は確固として国連にコミットしていかなければならないのだ。

<アンソニー・サンプソンは世界の石油メジャーの実態をレポートした「Seven Sisters」というベストセラーで知られていますが、彼の最高傑作といえば英国という社会を解説したAnatomy of Britainでしょう。私にとっては英国という国を知るためのバイブルのような本でした。彼の最も素晴らしい点は英語が非常に分かり易いということでした>

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4. イラク・その2:英国コラムニストの意見

このむささびジャーナルを送る頃にイラクがどうなっているのか分かりませんが、ブレア首相による国会演説(3月18日)によって、それまでは批判的であった労働党の議員も結局ブレアの側について、英国のイラク参戦は議会の支持を得たことになっています。彼の演説についてはメディアもこぞって「極めて説得力があった」と称賛しています。この際翌日の新聞に掲載されたエッセイをいくつか紹介します。

Polly Toynbee:ガーディアンのコラムニストです。The real conflict is over who runs the world--and on what authority(本当の争いは「誰が、どのような権威があって世界を覇するのかにある」として、彼女はブレアの演説そのものは「極めてパワフル」としながらも、アメリカによるイラク爆撃そのものには反対のようで、ブレアはアメリカ支持を打ち出すことで「ブッシュの覇権に歯止めがきかなくなる」としています。

Simon Jenkins:The Timesのコラムニスト。Bin Laden's laughter echoes the Westというタイトルの記事で「アメリカによるイラク攻撃で一番喜んでいるのはビン・ラディンだ。無心論者のサダムが懲らしめられるのみならず、アラブ全体に反米感情が広がる…ビン・ラディンにとっては正に「一石二鳥」というわけです。

Janet Daley: Daily Telegraphのコラムニスト。This is the dawn of the New World's order(これは新しい世界秩序の始まりだ)として、フランスに代表される古いヨーロッパのコンセンサス政治の時代が終わったとしています。

Donald Macintyre:The Independentのコラムニスト。「英国はイラク後、ヨーロッパとの関係修復ができるのか」(Can we salvage our relationship with Europe once the shooting stops?)というテーマで書いています。

The Economist:3月20日号にFrom Suez to Baghdadと題する、とても興味深いエッセイが出ています。イラク後のヨーロッパとアメリカの関係についてです。

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5. フィンランド通信・その1:総選挙が終わって

前号でもお知らせしたのですが、フィンランド議会の総選挙が3月16日に行われました。結果は現在の最大政党である社民党(SDP)が2議席増やして53議席になったのですが、2番目の中央党(Centre Party)が7議席も増やして55議席で政権政党になりました。と言っても社民と中央の得票数の差はわずか6500票ですから、殆ど同じようなものですね。一番の負組みは6議席を失って40議席となった保守派の全国連立党。

いずれにしても次なる話題は中央党がどの党と連立を組むのかということです。そのほか選挙がらみトピックスとしては、中央党の党首がヤーテルマキという女性であり、彼女が首相の座につくことは間違いなく、そうなるとフィンランドの歴史上初めて女性の首相の誕生となります。ちなみにフィンランドには大統領(どちらかというと外交を担当)と首相(内政を担当し、実際には大統領よりも権限が広い)がいて、大統領(タロヤ・ハロネン)が女性なので、これからは大統領も首相も女性ということになります。

今回の選挙の争点は失業問題と「イラク」で、社民党は失業問題の取り組みが不十分であり、イラクでの戦争に対してそれほど強く反対しなかったことで、票が中央党に流れたとも言われています。BBCの伝えるところでは「新政権になっても政策自体はこれまでと大して変わらないが、福祉政策に力を入れる一方でEUに対しては"ほんの僅か"距離をおくことになろう」と報じています。ちなみに新しい首相は48歳、弁護士だそうです。

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6. フィンランド通信・その2:諺を見ると国がわかる?

当たり前のことですが、フィンランドにも昔から言い伝えられた諺というのがいろいろとあります。いくつか紹介します。英文で書いてありますが、勿論本来はフィンランド語、それを英語に直したものを私がさらに日本語にしようというわけです。誤解もあり得ます。

▼He who lies thrice believes he's told the truth
ウソも3回つくと、ついた本人も本当に思えてくる(これはよくあるケース。「やってねえよ!」と3回主張すれば本当におならなんかしなかったみたいな気になる…ということはないか?)
The child led by the hand never learns to walk:
手をつないでばかりいる子供は歩くことをしなくなる(これはもう、ずばり「可愛い子には旅をさせろ」ですな)
Even a poor man owns the sun and the stars
貧乏人にもお日様とお星様はある(泣けますね、こういうのって)
A man without a wife is like a field without a fence
女房のいない男は、柵のない畑と同じ。(これ、分かります?フィンランド人にも聞いたのだけどよく分からなかった。「男というものは奥さんがついていないとどこへ行ってしまうか分からない」という意味なのか「奥さんが見張っていないと、外部からの侵入者(誘惑といってもいい)にやられてしまう(誘惑に弱い)」という意味なのか…。後者だとすると何だか自分のことを言われているようで不愉快。ほっといてくれ!)
Eat, and small ills disappear
食べれば病気なんか消えてしまう(そう、食えばいいんです、食えば)
Roll me, don't curse me, said the stone to the ploughman
怒鳴らないで転がしてくれ、と石がお百姓に言った(これ、何か深い意味があるのかどうかよく分からないのですが、石ころだらけの痩せた土地をブツブツ言いながら耕しているお百姓に向かって、石ころが「文句言ってないで仕事・仕事!」とけしかけている場面を想像すると妙に可笑しい)

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7. むささびMの「自国語の例外には案外鈍感?」

言葉に例外は付きものであることにおいては、英語を学ぶ日本人にとっても、日本語を学ぶ外国人にとっても、ある種悩みのタネであることは共通していることと言える。日本語を教えていると、英語の複数形における例外、動詞の活用形における例外など、まだましな方だと気付くことがよくある。と同時に、自国語の例外には案外無頓着で、例外だということさえ知らずに使っていることに我ながら驚いて、嬉しくなってしまうことが多い。

今回は形容詞について知った「日本語の例外」の驚きの体験談だ。文法嫌いの人には形容詞だの名詞だの修飾語だのと聞いただけで「ノーシン」(年齢が分かってしまう単語の一つ)が必要になるかもしれないのだが、少し我慢できる人だけにでもいいから、聞いてもらいたいと思う。

形容詞の働きは名詞を修飾することと述語になれること、この二つというのが基本理解だ。前者の例文としては★あなたは楽しい人だ。後者の例文としては★あなたといると楽しい。この「楽しい」が形容詞なのだが、同じ形容詞の例外が登場して日本人なのに私は感心してしまったのだ。「遠い」「近い」「多い」というのが例外組なのだそうだ。

日本人は「私は遠いスーパーには行かずに近いスーパーに行きます」とはふつう言わない。自然に言うと「遠くのスーパー」「近くのスーパー」と言ってしまう。これは、「遠い」「近い」という形容詞を「遠く」「近く」という<名詞>に自動変換して<名詞+の+名詞>にして使っているのだそうである。そう言われてみると成る程、「多い」についても、「多い人が公園に行きます」とは言わずに「多くの人が公園に行きます」と我々は言っている。いつのまにこんな自動変換技術を身に付けてしまったのか・・・と我ながら感動してしまったわけである。

因みに、「遠くの親戚より近くの他人」というのを「遠い親戚より近い他人」と言い換えてみると、「遠く」「近く」というのは(つまり名詞にすると)空間的距離感を表し、「遠い」「近い」というのは血縁や心理的距離感を表すのか・・・と改めて気付いてまたまた感嘆符!だった。歌の歌詞にある「♪遠い山の向こうの知らない町よ・・・」とか「遠いところに旅に出ます、捜さないでください」とかいう置手紙なんかも実は心理的距離感だったんだ!

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8. 編集後記

▼英国人の対米感覚について書いてありますが、The Economistにブッシュとブレアの「奇妙なカップル」(odd couple)についての記事が出ていました。9月11日直後には殆ど毎日のように電話で話しをしていたし、イラク問題ではいうまでもない。いまやブレアはブッシュにとって外国のトップの中では唯一最高の友達というわけです。

▼それにしても「都会のインテリ」と「テキサス・カウボーイ」が何故かくも仲がよろしいのか。The Economistの記事の中でたった1行だけ出ていたのが「二人とも極めて熱心なクリスチャンである」というポイントです。9月11日直後の電話の会話のあとで「必ず二人でお祈りをしていた…」という噂について、ブレア首相は「そんなこと絶対にしていない!」と「ホットに否定」したそうですが…。

▼フィンランドの諺には非常に土臭いものが多いようですが、ダボス会議の主催者である世界経済フォーラムがフィンランドを「情報化の進んだ国」のナンバーワンにランクしています。フィンランドという国は、独立したのが1917年で、つい3世代ほど前までは「北の端の貧乏な農業国」であったとされています。独立前はスェーデンやロシアの一部として支配されていた。そのような国が何か世界に誇れるものを手に入れるということは、国としての生存そのものがかかった「プロジェクト」なのです。「フィンランドは常に未来に賭けている。何故なら過去を振り返って見ても何もないから…」。というのは今読んでいる本からの受け売りです。が、素朴な諺と先進情報国家という極端に違う側面を持つ理由が分かるような気がしています。

▼今回もお付き合いを頂き有難うございました。

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