musasabi journal

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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第54号 2005年3月20日 
最近、毎日のようにホリエモンとフジテレビのことがニュースになっています。正直言って、私は何故これがそれほどのニュースなのか、よく分からない。例えばNHKの夜10時のニュースのトップにホリエモンとのインタビューが登場したり、同じく10時の報道ステーションという番組でもトップニュースであるだけでなく、相当な時間がこの話題に割かれている。お陰でTOBだのクラウンジュエリーだの「焦土作戦」だのと聞いたこともないような専門用語の勉強をさせてもらっています・・・が、この騒動の帰結は私の将来の生活に何らかの影響があるんでしょうか? というわけで、3月も下旬、もう春です。ウチの近所の梅が真っ盛りです。むささびジャーナルを開いて頂き有難うございます。

目次

@BBCの改革と受信料
A二大政党時代の終わりの始まり?
Bジェラルド・カーティス教授のメディア批判
C短信
D編集後記


@BBCの改革と受信料
英国のBBC放送について、英国政府が最近改革案を発表したことは日本の新聞でも取りあげられていました。テッサ・ジョエルという文化大臣が発表したもので、これまでBBCを内部で管理してきた12人の管理者(governors)から成る経営委員会を廃止して、外部にBBCトラストと呼ばれる機関を設けて、BBCの運営を外から監督することにした。このトラストは視聴者の立場からBBCを監督するもので、視聴者の意見をBBCのマネジメントに繋ぐ役割を果たすものなのだそうです。

生ぬるい改革

この改革については「手ぬるい」という声もあるそうです。BBCトラストが外部に置かれたことでこれまでのようにBBCが自己管理するシステムでなくなったという意味では監視体制が客観的になったのですが、このトラストには金銭を管理する権限はない。その意味では「期待されたほどBBCを規制する力はない」(far less strict than some advisors had proposed)という人もいる。 The Economist誌は今回の改革案について「いつものようにBBCは自分の望むものを手に入れた(As usual, the BBC has got what it wants)」と皮肉めいて言っています。

BBCにとっての最も重要な「勝利」は受信料の徴収について、今後10年間はこれまでのどおり続けられるということにあるのだそうです。朝日新聞社の「論座」4月号に出ていた、外岡さんという記者によると、BBCの受信料はNHKのそれと違って、テレビ受像機を持っている世帯は年間121ポンド(約24000円)を払う義務があり、払わないと罰金(1000ポンド)が科せられ、支払いを拒否すると刑務所行きもあり得るというのだそうです。要するに税金と同じですね。

The Economistによると、英国ではいろいろなテレビ局が誕生していて、BBCによる視聴者のシェアも下落傾向にあるのが現状で、受信料の継続は「シェア下落にもかかわらず」ということで、どちらかというとBBCに批判的な記事になっています。

パソコン視聴者に受信料はとれるか?

ただ、テレビの多チャンネル化が進む英国にはFreeviewというシステムがあって、視聴者はこれを通じて専門局も含めて、いろいろなテレビを選択して見ることができる。このシステムは消費者が見ている局を記録し、消費者は見た分だけ視聴料を払うということになっている。これをBBCに適用すると、将来のBBC視聴料は見た分だけ払うというシステムにもなりうる。BBCはそのシステムは好まず、これまでのように税金として収入が欲しいということで、デジタル後のBBCのFreeviewには、この種のモニター機能はつかないのだとか。

尤もいくらFreeviewで視聴をモニターしても、最近ではテレビもインターネットで見るという人が増えており、パソコンや携帯を通じてデジタルBBCのコンテンツを見ることができるし、そのような人がかなり増えてきている。テレビの場合は受像機を持っているだけで受信料を取られますが、パソコンの場合は単にそれを持っているというだけで、受信料を取るわけにもいかない。機能がテレビ受像機とは全く違うから。 現在のような受信料制度の根本的な問題はパソコンでテレビ番組のコンテンツを見る人から徴収することが不可能ということだ・・・とThe Economistは言っています。

▼私、お恥ずかしいのですがpublicという言葉の意味が正確に分かっていないのではないかと思っています。特にNHKと朝日新聞のゴタゴタのニュースに接していてそれを痛感してしまった。NHKは「公共放送」(public broadcasting company)なのか「国営放送」(state broadcaster)なのか、ひょっとすると両方とも同じことなのか?

▼publicという言葉の持つ意味については、また別の機会に考えるとして、私が知る限りにおいて「公共放送」と自称している放送局はNHKとBBC、そしてアメリカのPBS(Public Broadcasting System)。 BBCは税金スタイルで受信料を徴収するのに対して、NHKの場合、徴収はするけれど「税金」ではない。つまり払わなくても逮捕はされない。

▼で、アメリカのPBSの場合、私の記憶によると番組の中でしょっちゅうリスナーに対して募金を呼びかけていたはずです。それから現在、聴いていると企業スポンサーも結構ついているみたいで、BBCやNHKのように政府は全く介入していないということなのでしょうか? だとするとこれが最も「パブリック」に近い?

A二大政党時代の終わりの始まり?
前回のむささびジャーナルでも書きましたが、今年の(おそらく)5月5日には英国で総選挙が行われます。私がこの選挙で密かに注目しているのが、これまで英国政治の特徴の一つとされてきた二大政党政治の終わりが始まるのではないかということです。労働党(Labour)と保守党(Conservative)というこれまでの二大政党に自由民主党(Lib-Dem)が加わって三大政党時代の萌芽が見られる選挙になるかもしれないということです。

自由民主党

自民党は3つの主要政党の中で唯一イラク戦争に反対を表明している政党であり、ヨーロッパ寄りの姿勢を明確に持っている政党でもある。新聞の中では最も部数の少ないインディペンデント紙だけがこの党支持を鮮明にしているそうです。

英国の自由民主党は1980年代に自由党と社会民主党が合併してできた。自由党の方は、第一次世界大戦前にハーバート・アスキスという人を党首にして政権の座にあったこともあるのですが、労働党の勢力が強まるにつれて影が薄くなってしまった。社会民主党はサッチャー時代に労働党から分かれた政治家によって設立され、当時はかなり話題になったのを覚えています。これもサッチャーさんの勢力に押されて伸び悩み、結局自由党と合併することになった。

完全小選挙区制の不合理

昨年亡くなったジャーナリストのアンソニー・サンプソンも社会民主党の設立に関わったのですが、彼はサッチャー時代に行われた選挙で社会民主党は、投票総数の4分の1の得票を獲得労働党の差はわずか2%であったにもかかわらず、獲得議席数はわずか35だけだった。サンプソンは「あの総選挙は英国の選挙制度が持つ不公平さを暴露した」(the general election revealed all the unfairness of Britain's electoral system)と言っています。

サンプソンの言う「不公平な選挙制度」とは、英国が採りいれている完全小選挙区制のことです。英語で言うとFirst-Past-The-Post (FPTP:最初にゴールの目印を通り越した者が勝ち)。競馬から来たものらしいですね。

一選挙区から当選するのは最大得票者1人のみという制度だから、例えばA党の候補者が1万票、B党候補者が9000票、C党候補が8000票とった場合、BプラスCで17000人の人々がA党に反対しているのに、これらの人々の意思が全く政治に反映されない。世論調査によると6割以上の英国人がFirst-Past-The-Postは不公平だから比例代表制(proportional representation)に代えるべきであると考えているらしい。

確かに自由民主党は現在の選挙制度のお陰で損をしているように見えます。ブレア政権が誕生した1997年の選挙の場合、労働党の得票数は投票総数の43・2%であったにも拘わらず、獲得議席数(419)は下院総数(659議席)の63・6%にもなった。自由民主党の得票数は全体の16・8%であったのに、下院議席数は46議席で全体のわずか7%にとどまっている。保守党は30・7%(得票数の割合)で議席数は25・1%の165議席だった。自民党と保守党の得票総数を合計すると実は労働党のそれを上回っていた。それでも議席数は二つ合わせても全議席数の32・1%に過ぎない。確かにおかしいですね。

「反イラク戦争」がどこまで伸びるのか

で、直近の2001年の選挙での労働党の得票数は全体の43%にすぎず、野党二つ併せた割合である57%をかなり下回っていたのに、議席の配分では659議席のうち圧倒的多数の413議席が労働党に行ってしまった。得票数をそのまま比例代表制として配分すると自民党の議席数は120議席になった筈なのに、現制度では52議席しかとれなかった。

もちろん現在の制度にもいい点はあるのだろうし、比例代表制(ヨーロッパ大陸では殆どこれ)にもそれなりに問題はあるのでしょうが、得票数から見ると、とても泡沫政党とは言えない自民党が、かなりの冷や飯を食わされているのは事実のようです。

今年の選挙では「イラク」も争点の一つ(唯一ではない)には違いない。労働党も保守党もこの点では同じ。特に女性に評判が悪い「イラク」への反対票が自民党に流れたりすると、この党もこれまでのように冷や飯組ではなくなる可能性もある。もちろん第一党は無理だし、第二党も今回は無理としても、第二党(保守党)には結構迫るのではないか・・・つまり三大政党時代の萌芽が見られる選挙になるかも、ということであります。


Bジェラルド・カーティス教授のメディア批判
何度も繰り返すようですが、日本記者クラブのようなところで仕事をしていると、実にさまざまな人の講演を聴くことができます。知的刺激抜群の職場であります。最近面白いと思ったのはコロンビア大学のジェラルド・カーティス教授でした。64才になる先生は過去ほぼ40年にわたって日本の政治をウォッチングしてきたアメリカの学者です。

講演のテーマは「55年体制の半世紀」。55年体制とは1955年に自由党と民主党という二つの保守政党が合併(保守合同)して現在の自民党が出来た年のことです。よくも悪くも「自民党的な政治」が日本を牛耳ってきた、この50年を振り返ってみようというのが、講演の趣旨でした。

informal coordination

カーティス教授は、この50年間の日本政治を特徴付けているものに「非公式な調整」という言葉を挙げました。英語でいうとinformal coordination。つまり「ナア・ナア」とか「ツーカー」とか「根回し」とかいうもののやり方が支配的であったということで、自民党の場合は例えば派閥政治というような形であったというわけです。いわゆる「癒着」「裏取引」などの世界でもあります。

教授のinformal coordination論を全部お伝えするにはいくらスペースがあっても足りないし私の能力では無理なので、ここでは教授が批判した「マスコミと政治」の間のinformal coordination(癒着)についてのみ触れておきます。新聞やテレビは他の分野での癒着については、いろいろと批判しますが、自分のところの癒着については余り書かないし、放送もしない。

記者と政治家の「くっつきすぎ」

カーティス教授が特に批判したのはジャーナリストと政治家の「くっつきすぎ」です。マスコミに関係のない皆様でも「番記者」というのは聞いたことがありますよね。マスコミ各社には「小泉番」「中曽根番」という具合に、個々の政治家にぴったり張り付いて取材をする記者たちがいます。これが番記者。例えば夜中に政治家の自宅に上げてもらってご馳走になったりしながら、いろいろと情報を集めたりする。

記者にしてみれば、そうやって政治家に近づくことで貴重な情報を手に入れたりすることができるわけですが、カーティス教授によると明らかに近づきすぎるというケースが目につくのだそうです。彼の知り合いのNHKの政治記者が、自分が密着している政治家のことを「ウチのオヤジ」という言い方をしていたケースもあった。この場合の「ウチ」というのは、この記者が「番」をしていた自民党の派閥のこと。つまりその政治家は派閥の親分。彼はおそらく自分が如何に有力な政治家に食い込んでいるかを自慢したかったのでしょう(と教授は言っていた)。

情報カルテル:記者クラブ制度

カーティスさんはさらに、日本の「記者クラブ制度」について「情報カルテル」と呼び、「もういい加減にこんなものは止めるべきだ」とはっきり言っていました。記者クラブ、ご存知ですよね?長野県の田中知事は廃止した。例えば外務省には何とかいう名前の「記者クラブ」があるのですが、それに所属していると、外務省からの発表資料をもらったり、幹部のブリーフィングに参加する機会を与えられたりする。しかし誰もが所属できるわけではない。有力な新聞や放送局でないと入れてもらえない。既得権(英語で言うとvested interestかな?)ですね。多分「むささびジャーナル」は入れてもらえないと思います。

私が英国大使館というところに勤務していた時に、ある英国人がらみの事件があった。警察沙汰になったもので、警視庁の記者クラブに入っていた社の記者は警視庁による会見に出席することができた。外人記者の場合は、私の記憶では参加はゆるされたけれど質問する権利は与えられなかった。カーティス教授はこのような状態を称して「情報カルテル」と批判したわけです。

ワシントンでもやっている・・・?

教授の批判に対して、会場にいたある新聞社の記者が「いい記事を書くためには政治家と密着することも必要だ。必ずしも癒着とはいえないのではないか」と「くっつきすぎ」を擁護していた。また記者クラブという名前の「情報カルテル」という批判に対しては「ワシントンのホワイトハウスなんか、自分たちの親しい記者にだけ情報を与えたりするし、日本の記者クラブ以上にカルテルではないか」と反論していました。

この記者に対するカーティス教授の答えは「政治家に近づくことは悪いことではないが"ウチのオヤジ"呼ばわりするような近づきすぎはよくない」ということ。さらにアメリカのマスコミにおける情報カルテルについては「ホワイトハウスでそのようなことをやっているから、日本でもやっていい、ということにはならないのでは?」というものでした。

長々と書きましたが、実は私が最も感銘を受けたのは最後の部分でした。政治家への接近にも「程度というものがある」ということ。「常識」ですよね。「近づきすぎ」が良くない、と言っているだけなのに、近づくこと自体が悪いと言われているような、極端な議論をすることで、自分たちのやっていることを正当化するという手法は非常によくない。
それから他の国の例を挙げて「あちらでもやっているのだ。我々だけ批判するな」という言い方も実に情けない。自分たちなりの価値基準とか善悪の基準というものがないのだろうかと思ってしまう。これも結局は既得権を有する者の自己正当化にすぎない(と思われても仕方ない)。

C短信
前サッカーを巡って親子喧嘩

ルーマニアという国もサッカーが盛んなのですね。最近、サッカー試合を巡って父親と義理の娘が大喧嘩、父親がケガをして娘には罰金刑が下ったというニュース。ケガを負わされた父親は59歳、義理娘は28歳。テレビのサッカー中継を観戦していたのですが、贔屓のチームを巡って言い争いになり・・・というわけ。父親は「アタシはSteauaを応援していたんです。そしたら義理娘が『Steauaなんか負け犬の集りだ。Villarealがんばれ!』とか言い始めた。で、何だか分からないうちに彼女がアタシのことを殴り始めたんで。いや、アタシは殴り返したりしてませんよ、相手は弱いんだから・・・」と言っています。ケンカは駆けつけた警察官によって納められたのですが、父親の方が手に骨折の大怪我をしているとかで、娘は日本円で約1万円の罰金を払わされたそうです。

▼手の骨を折るということは、棒みたいなもので殴ったってこと?暴力はいけません、暴力は・・・といっても話し合ってどうって問題でもないし。ツイテナイってことっすね。

ドイツにも鍼診療があるのだ

ドイツのKarlsruheという町の新聞が伝えるところによると、その町にある鍼の診療所で治療を受けていた25歳になる女性がハリを身体に刺した状態でベッドに横になっていたところ、診療所の閉館時間になってしまい、あろうことか診療所スタッフが気付かずに帰宅してしまった。「ベッドに横になっていたら電気が消えたので、これはきっとアタシをリラックスさせるために違いないと思ったのですが、そのうち皆帰ってしまったようで」というわけで、自分でハリを抜いて救急電話をかけて助けられた。この女性は「ハリを自分で抜くのって痛いですよ。素人が自宅でハリはやらない方がいいと言われた理由が分かった」とコメントしています。

▼私もハリは何度かやったことありますが、気持ちいいですよね。でもあれを身体につけたまま、助けを求めるというのも哀れというか、カッコ悪いというか・・・。

ラクダチョコレート

オーストリアのチョコレートメーカー、Hochleitnerが中東のアラブ首長国連邦(UAE)で新しいタイプのチョコレートの生産を行うことになったそうです。何が新しいのかというと、従来の牛乳にかわってラクダの乳を材料に使っているということ。メーカーによると、ラクダの乳は「脂肪分が少なくて、牛乳よりも甘い」のだそうです。現地のラクダ乳生産会社と共同でラクダ2000頭を飼育しながら乳をとる一方で、イエメン産の蜂蜜を混ぜると「健康的で美味しいチョコレートになる」とのこと。生産開始は2006年6月。生産量は一月50トン(ってどんな量なのでしょうか?)。尤も海外輸出の意図はないようで「アブダビやドバイの高級ホテルに泊まる金持ち客をターゲットにしている」のだそうです。

▼なるほど・・・ラクダ乳ね。ところでラクダの肉って食べられるのでしょうか?ラクダステーキ、ラクダ丼とか。


D編集後記
「竹島の日」なるものを巡って韓国で「反日感情」が荒れ狂っているんだそうですね。メディアはあちらの反日ぶりをセンセイショナルに伝える一方で「冷静に」などと呼びかけています。私の想像によると、あちらの「反日」もかなり韓国メディアの「竹島」報道のしかたに煽られている部分がかなりある●ま、それはともかく隣の国や国民から嫌われるというのは余りいい気分ではない。しかしそのような状態にあるのは日本だけではないですよね●ロシアとフィンランド、パレスチナとイスラエル、英国とアイルランド、インドとパキスタン、中国と台湾・・・いずれもお互いに気まずい思いをしながら、それでも(パレスチナとイスラエルを除いては)何とか戦争にだけはならずに済ましているわけです●いいんでないの、その辺で?●実は我が家で処理に困っているものがあります。百科事典。そう、あの平凡社の百科事典が24巻だかある。これ、処分したいのです。捨てるのも可哀想だし・・・。どなたか百科事典など引き取ってくれる古本屋を知りませんか?おせえて、お願い!

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