musasabi journal

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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第55号 2005年4月3日 
楽天が仙台のホーム球場での第一戦に勝ちました。相手は西武ライオンズ。実は私、ライオンズ贔屓なのですが、この試合は楽天が勝つということで賭けをしておりました。多分はずれると思ったのですが・・・というわけで日本の関東地方には春が来ました。皆様のところはいかがでありましょうか?

目次

@ブッシュとランドセル(ちょっとしたジョーク)
A英国ジャーナリズムの質の向上を目指して
Bブレアさんのマスコミ対策
C父兄の暴力で荒れる学校
D豪州の「ホワイトナイト」が英国の新聞を救う時・・・
E短信
F編集後記


@ブッシュとランドセル(ちょっとしたジョーク)
最近出会ったジョークを紹介します。

舞台はアメリカ上空を飛んでいる小型飛行機の中。登場人物は次の5人:パイロット、俳優のロバート・デニーロ、ジョージ・ブッシュ米大統領、少年1人とかなり年齢の高い老人1人です。この飛行機にトラブルが発生したのですが、パラシュートは4つしか積んでいない・・・。人間5人にパラシュート4つというわけ。

まずは自分勝手なパイロットが誰よりも先に「その飛行機は落ちるよ・・・!」と言いながらパラシュートを身に付けて外へ飛び出して行った。次に俳優のロバート・デニーロが「新しい映画に出なきゃいけないんで、失礼!」と言って飛び降りる。3番目はブッシュ大統領だった。「オレはアメリカの大統領、テロとの戦いが待っているんだ」というわけで消えて行った。残ったのは少年と老人、そしてパラシュートが一つ。そこで交わされた老人と少年の会話は・・・。
  • Old man: You take the last parachute, son. You're young. I have lived a long life. Go on, jump. (坊や、最後に残ったパラシュートはキミのものだ。私は十分長生きしたよ。さあ、行きなさい、ジャンプ!)

    Boy: It's okay, pop. There's one parachute left for each of us. Looks like President Bush grabbed my schoolbag. (大丈夫だよ、おじいちゃん。パラシュートは二人分残っているんだ。ブッシュ大統領がボクのランドセルを背中にしょって飛び降りたみたいなんだ)

A英国ジャーナリズムの質の向上を目指して
オックスフォード大学がジャーナリストの養成機関を作る・・・と3月26日付けのThe Economistが伝えています。未だ計画の段階にすぎませんが、英国ジャーナリズムの質の向上を目指すもので、ロイター財団のほかガーディアン、フィナンシャルタイムズのようないわゆる高級紙の記者や編集者が発起人として動いているのだそうです。

「質の向上を目指す」というからには、現在の英国ジャーナリズム(特に新聞)の質が良くないと考えているようです。今年のNewspaper of the yearを受賞したのが、質の点では最下層(the most downmarket paper)であるNews of the Worldに与えられたし、最優秀特ダネ賞(Scoop of the Year)になったニュースはといえば、サッカー選手の不倫ストーリー・・・というわけ。確かに大したスクープとも思えない。

で、何故英国の新聞の質が悪いのか?The Economistはアメリカとの比較で、新聞業界を取り巻く市場環境の違いを挙げています。アメリカの場合、全国紙といえばUSA Todayだけ。あとはみんなローカル紙ですよね。New York Times, Chicago Sun, San Francisco Chronicle etcどれも地方紙であり、しかもそれぞれの地元で殆ど独占状態に近い楽な商売をしている。だから「高級志向」の新聞も作っていける。

それに対して英国の場合は、全国紙の日刊新聞が10紙もあって熾烈な読者獲得競争をやっている。しかも読者はセンセイショナルな記事を好むし、正確さよりもエキサイティングな報道の方が売れる。こうした状況下では、なまじジャーナリストとしての「倫理観」などを持っていたりすると、それが邪魔になったりする(having a finely developed ethical sense may be a handicap)というわけです。

オックスフォードでジャーナリズムの向上を目指そうとする人たちは、英国にもアメリカのピューリッツァー賞(優秀なジャーナリストの表彰制度)を創設することも考えているらしい。 しかしこうした「良心派」がどの程度、販売部数で競争する商業ジャーナリズムの質の向上に貢献できるのか?この点についてThe Economistは面白い(正確な)指摘をしている。即ち「新聞というものは100%商業主義に支配されたことはない。必ずオーナーの虚栄(vanity)も一部とは言え、反映する。良心派がオーナーの虚栄をくすぐることが出来れば、英国の新聞も少しは変わるかもしれない」。

▼最後の部分、うまいこと言うな。確かに新聞なんか発行しようというオーナーは、どこか「正義」とか「良心」とかいうことを意識する面があると思う。


Bブレアさんのマスコミ対策
1997年、トニー・ブレアが首相になった時、最も重要視したのがマスコミ、特に大衆紙と呼ばれるメディアとの関係であったそうです。そのために実にいろいろな努力をした・・・ということが最近出版されたDaily Mirrorの元編集長の回顧録に出ているそうです。

Pier Morganという人。昨年、イラク戦争に絡んでイラクの捕虜を英国兵が虐待しているという写真をデカデカと掲載したところ、これが合成写真と判明、責任をとって辞職した。 Morgan 氏の回顧によるとDaily Mirrorの編集長を10年間務める間、ブレアとは昼食を22回、夕食を6回、お茶を飲みながらの一対一の会話が24回もあった。これに加えて単独インタビューが6回、電話による直接取材など「数限りなく」あったのだそうです。

ことほど左様にブレアさんはDaily Mirrorとの関係を大切にしていた(ように見えた)ということです。

尤もMorgan氏によると、ブレアさんはDaily Mirrorとそのライバル紙であるThe Sunとの友好関係の方に力を入れていたらしい。Morgan氏が掴んだ特ダネであったはずのブレア夫人懐妊という情報について、首相官邸に確認の電話を入れたところ、それがライバルのThe Sunに伝わってしまい特ダネでも何でもなくなってしまった。もう一つあって、2001年に総選挙が行われたのですが、選挙日をブレアがThe Sunにリークしたとされている。これもMorgan氏を怒らせている。

Morgan氏によると、ブレアは実はDaily MirrorよりもThe Sunとの友好関係の方に力を入れていたらしい。The Sunの方が部数も多いのですが、それまでは保守党支持の傾向が強くて、必ずしもブレアの味方ではなかった。Morgan氏のブレアに対するリベンジがイラク戦争反対の論陣を張ることであり、外部から持ち込まれた「虐待写真」の掲載であったというわけ。

ご存知のとおり英国やアメリカにおける選挙では、それぞれの新聞が支持政党を明確にして読者に呼びかけたりします。ブレアさんとしては、今年5月に予定されている選挙でDaily MirrorやThe Sunのような大衆紙による支持が是非とも必要であるのですが、The Sunの読者の労働党支持率はかつての61%から45%へと下がっているそうです。保守派のDaily Mailの読者の場合は31%から25%へ下落している。

ブレア人気の下落は、マスコミがブレアのことを悪く書くことに起因するのか、国民の間の人気が下落しているからマスコミが悪く書くのか・・・The Economistは、ブレアには「計算された思想上の曖昧さ」(calculated ideological fuzziness)のようなものがあったとしています。それが故に政治色の如何にかかわらずどの新聞にもある程度は受けていたのが、最近では読者の間でブレアに対する失望感が広がっており、それが編集者たちのブレア嫌い論調に拍車をかけているとのことです。

新聞は読者の意識と同じ方向に動こうとするから、ブレアさんが新聞の編集長を夕食に招待しても実際には大して意味がない。Poor Mr Blair. Maybe all that fawning over Mr Morgan was pointlessというのがThe Economistの結論のようです。

▼政治と大衆紙の密接な関係は確かに英国特有の現象でしょうね。



C父兄の暴力で荒れる学校!?
日本の学校が授業が成立しないほど荒れているといわれますが、英国の学校も大変・・・という記事がThe Observer紙に出ていました。尤もこの場合は生徒ではなくて、父兄の暴力が教師を脅かしているというものなのですが。

The Observerによると、生徒同士のケンカがもとで、父親がバットを持って学校へ乗り込んできた。自分の子供のケンカ相手の子供を懲らしめようということだったらしい。教師たちは生徒を教室に閉じ込めてこの人物の暴力から守らなければならなかった。父兄同士の暴力沙汰も校内で起こることがあるそうです。

ロンドンの問題地区といわれるIslingtonでは過去2年間で学校から出入り禁止を言われた父兄は23人にのぼっており、Bristolという町では5年間で36人の父兄が暴力行為で出入り禁止になっている。 NPOのTeacher Support Networkによると英国の教師の12%が生徒の両親によって脅かされた経験があると答えているとかで、「教師を辞めたい」という人も増えるなど、両親の暴力は現代英国における教師のストレスの大きな原因になっている、とThe Observerは伝えています。



D豪州の「ホワイトナイト」が英国の新聞を救う時・・・
ホリエモンがフジテレビを買収するのかと思ったら、ソフトバンクという「白馬の騎士」(ホワイトナイト)が現れてフジをホリエモンから守りましょう・・・と何だかよく分からないことになっています(3月27日現在)。 昨年末に亡くなったジャーナリスト、アンソニー・サンプソンが書いた最後のAnatomy of Britainを読んでいたら、英国で起こったメディアの買収に絡んで、やはりWhite Knightがいたのだと書いてあった。英国は実にいろいろな意味で日本の先を行っていますね。

サンプソンが書いている買収劇は1968年にNews of the Worldという日曜版大衆紙を巡って起こったものでした。チェコ系の買収王と言われたロバート・マックスウェルなる人物がこの新聞の株を大量に購入して買収しようとしたのですが、新聞のオーナーや編集者たちもマックスウェルの買収に大いに反対した。

そこへ現れたのがオーストラリアの"ホワイトナイト"ルパート・マードック(当時37才)だった。 マックスウェルという人については強引な買収のやり方に社会的な反発が強かったことからマードックの登場は正に「正義の味方」の登場と歓迎され、結局マックスウェルの買収は失敗してマードックがNews of the Worldの共同経営者になった。

が、サンプソンの表現を借りるとマードックを共同経営者として受け入れたのは「ニワトリ小屋にキツネを呼び込んだのと同じ」(They had invited the fox into the chicken coop)で、数ヵ月後には共同経営者のみならず編集陣まで追い出されてしまった。News of the Worldはセックスやスキャンダルを更に強烈に売り出すことでマードックが買収してから部数を80万部も伸ばしたのだそうです。

その後、マードックはドル箱大衆紙であるThe Sun、英国を代表する高級紙The Times, Sunday Timesも傘下に収めてしまった。News of the Worldも含めて4つの全国紙が彼にコントロールされているわけですが、部数だけから計算すると英国の全国紙の総発行部数の37%がマードックの所有する新聞社によって発行されています。

現在英国には全国紙と呼ばれるものが、日曜新聞も含めて20あるのですが、発行総部数は約2400万部。うちマードックの傘下にある新聞の総部数は940万です。37%というのは並大抵の数字ではない。 (数字は2003年のもの)

The Timesがルパート・マードックに買収された時は、新聞としての質の低下は避けられないということが言われたし、英国の知的インテリたちがそれを非常に嘆いていたことは、私自身も個人的な思い出として残っています。マードックが買収した新聞はNews of the Worldを除くとかなり部数を伸ばしていることも事実です。The Timesなどは1961年当時の部数が25万部だったのに2003年の数字は何と65万部にまで伸びており、新聞ビジネスとしては大いに成功しているようです。

部数を伸ばした秘訣は編集内容の知的水準を少しだけ下げて中間層の読者開拓に成功したことにある(とサンプソンは言っています).。マードックはさらに英国最大の民間テレビ網ともいえる、衛星テレビのBSkyBも最大の株主(36%)としてコントロールしている。

マードックによるメディア支配には(特に最近では)政治性のようなものが付きまとっていて、ブレア首相にとっても無視できない存在になっているとThe Economistの3月12日号が伝えています。マードックは共和党のアメリカ大好き、EU大嫌い人間なのだそうで、本当ならブレアさんとは相容れないはずなのですが、彼が支配するThe SunもThe Timesも今年の選挙では労働党を推薦するだろうと言われている。それはひとえにブレアさんが、イラク戦争を巡ってブッシュを支持する行動をとっていることが理由です。 Mr Murdoch admires Mr Blair's courage for supporting President Bush and is not prepared to sacrifice him just yetというわけで、マードックはブッシュと行動を共にするブレアの「勇気」を賞賛しています。

ただこの記事の最後にjust yetと書いてあるように、今のところは支持してはいても将来は分からないというわけです。来年は英国でEU憲章の賛否を問う国民投票が行われます。賛成のブレアがEU嫌いのマードックに逆らうことになるわけです。そうなってもブレアがもつのかどうか。

サンプソンによると、オーストラリア出身のマードックが狙ったのは英国のエリート階級が支配していた社会であったそうで、サッチャーさんが登場する1980年代から進行した英国社会の中流化に合わせるように「分かりやすい新聞」「楽しめる新聞」で成功しています。

▼ホリエモンといいソフトバンクといい、いずれも日本のマスメディアの古い体質を突いて、大騒ぎになっているという点ではマードック(やマックスウェル)によるメディア支配の試みとどこか似ているような・・・。ちなみにホリエモンは32才だからマードックが最初に英国の新聞を買収した時より5才若いことになります。
昨年英国へ行った時にタブロイド版になったThe Timesを手にしたときの衝撃は鮮明に覚えています。使いやすい・親しみやすい・持ち運びに便利等など、いずれもかつてのThe Timesには期待できなかったものですからね。尤もそれは体裁であって中身とは関係がありません。



E短信
刑務所も騙された双子の麻薬犯

双子の兄弟が麻薬取引の罪で逮捕されたのですが、犯罪そのものが別の場所で別の日に行われたにも拘わらず二人とも同じ刑務所に入れられた。単なる偶然だったのですが、一人が刑期を終えて出所するときにもう1人の方が刑務官をだまして刑務所を出てしまった。他の囚人からこのトリックについて聞かされた刑務所当局がテストしてみて分かった。騙して出所した男は早速連れ戻された。また刑務所に残った方も刑務所を騙したというので釈放は取り消し。もちろん双子は今では別々の牢屋に入れられているそうです。

▼ほんまかいな・・・この話!?

夢遊病はそっとしておいた方がいい?

夢遊病のことを英語でsleep-walkingというのですね。英国の大衆紙The Sunによると、レベッカ・アームストロングという女性が夜中の2時ごろに目を覚ますと横にいるはずの夫(イアンという名前)がいない。すると庭の方から芝刈り機のようなエンジンの音がするので行ってみたら、イアンが庭の芝刈りをやっていた。しかも素っ裸。目を覚まさせようとして「夢遊病患者をむやみに起こすのは危険」というのを聞いたことがあったので、そこ冷静に芝刈り機を差込から抜いて、自分はベッドに戻って寝てしまった。あとからイアンも戻ってきたので「芝刈り」のことを言っても信用しないので、本人の泥だらけの足を見せたら納得したのだとか。

▼夜中に大の34才にもなる男(このコンピュータの専門家らしい)が裸で芝刈りというのは確かに奇妙な風景です。しかしこれって新聞で報道するようなニュースなんでしょうか?!

氷河をアルミフォイルで包む

スイスの山ともなると夏にも溶けない氷河があるんですね。Andermattという村の人々が、今年の5月に地元の山の氷河をアルミフォイルで覆う計画を立てているそうです。目的は夏になって氷河が溶けないようにすることなのだとか。この村は夏でもスキーが出来ることで知られており、夏のスキー客は大切な観光資源。氷河が溶けるのを防ぐ方法はないかというわけでアルミフォイルで包む実験をすることにしたのだとか。ちなみに氷河は3万平方フィートもあり、これをカバーするための費用は約1000万円もかかるのだとかで、環境団体は「アホらしい(absurd)」と怒っています。

▼確かにabsurdという気がしないでもないけれど・・・必死なんですかね、地元経済のために。専門家によるとアルミフォイルは太陽光線を殆どはねつけるのだそうですが。


F編集後記
愛知万博でお弁当持込み禁止解除のニュースには笑えましたね。あの会場に出展している各国の担当者やスタッフなどの食事はどうしているのでしょうか?他人事ながら気になる●昨日NHKのテレビを見ていたら視聴者も参加して、日本社会における格差のことについて議論していました●私、NHKがやるこの種の企画にはいつもイライラさせられます。その最大の原因はというとこの手の番組に出て来る「市民」とか「庶民」とかいわれる人たちの被害者意識を見せつけられることにあるのではないかと考えています●「アタシら苦しい生活しとるのです。政治家・官僚はしっかりせんかい!」という感じで言いたいことを言わせてもらって溜飲を下げて・・・という「市民」にもイライラさせられるけれど、この手の番組を企画する人たちの「無神経」にはさらにイライラさせられます●昨日の番組(途中から見た)では「規制緩和に賛成か反対か」という質問をしていました。当然ながら「規制にもよる」という答えが多かった。中には「設問がおかしい」と極めて当然のことを言う人もいました●このたび万博における弁当の持込禁止という「規制」が緩和されることになった。その結果として食中毒になる人が出るかもしれないけれど、それは自分の弁当なんだから仕方ない●弁当の持込禁止を継続してですよ、会場内のレストランで食中毒が発生したら・・・どう責任をとるのでしょうか?●今回も長い間お付き合いをいただき有難うございました。

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