musasabi journal

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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第58号 2005年5月15日 
5月8日(日曜日)はヨーロッパにおける第二次世界大戦の終戦記念日でしたが、その日の英国の新聞Daily Telegraphのサイトに駐英ドイツ大使のコメントが出ていました。記事の見出しは次のようになっています。

German ambassador's VE Day message: the war ended 60 years ago - get over it 戦争は60年も前に終わったのだ。(いい加減に)乗り越えようではないか・・・。

カッコ内は私が勝手に追加したものですが、この記事によると駐英ドイツ大使(Thomas Matussekという名前の人)は「戦争が終わってから60年も経つのに英国人は相変わらず『ナチズムのドイツ』にこだわっており、戦後のドイツ史など殆ど何も知らない」と批判、「ドイツと英国はだんだん離れて行っている」と語っています。その理由として「英国の学校では『危険な誤解』(dangerous misunderstandings)によってドイツについて教えられており、現代のありのままのドイツについて教えられていない」としています。 Daily Telegraphは、この大使のコメントに関連して英国の軍人会の会長と言われる人のコメントとして「大使は間違っている。我々(英国とドイツ)は前向きに進むけれど(過去を)忘れることはないだろう(We move on, but we don't forget)と言う言葉を紹介しています。

関東は5月も半ばであることが信じられないような寒い日が続いております。 むささびジャーナル第58号をお届けします。 メニューは次のとおりです。

目次

@改革者・ブレア、不人気の理由
AJeremy Paxmanの首相インタビュー
B無断で拝借、拍手を贈りたい宮崎学さんのエッセイ
C短信
D編集後記


@改革者・ブレア、不人気の理由

英国の総選挙が終わりました。結果をおさらいしておくと・・・
  • 労働党:356議席(47議席減)
    保守党:197議席(33議席増)
    自民党:62議席(11議席増)
    その他:30議席
    合計:645議席
英国下院の議席総数は646なのですが、今回の選挙期間中にある選挙区の候補者(自民党)が死去するという事故があり、この選挙区だけ6月に投票するのだそうです。 いずれにしてもブレアさんの労働党が過半数を占めたので3期連続で労働党政権の誕生となったわけです。史上初の「快挙」です。

で、勝つには勝ったものの47も議席を減らしたということで、ブレアさんの指導力もここまでで、ブラウン大蔵大臣にリーダーの座を譲るのは時間の問題などと報道されたりもしています。The Economistが「トニー・ブレアの不思議な物語」(The Strange tale of Tony Blair)という分析記事を掲載しており、例によってこれが非常に面白い。3ページにもわたる長い記事で、それをまとめるような才覚は私にはないので、この際、私が面白いと思った部分だけ紹介させてもらいます。

この記事は次のようなイントロで始まっています。
  • Tony Blair said he would transform British politics, and has done just that. So why is Britain disappointed with him?
    ブレアは英国の政治を変えると言明してまさにそれを行った。にもかかわらず英国は彼に失望しているのは何故か?
ブレアによって変えられた「英国の政治」とはそれまでの労働党と保守党の2大政党による政治ということです。それは左右のイデオロギーの間で時計の振り子のようにスイングした政治という意味です。 ブレアは労働党を労働組合に牛耳られた社会主義政党から市場経済に基づく経済政策を行う政党に変えてしまった。94年(だったかな?)に党首になった彼が行ったのは労働党を「選挙で勝てる党」にするということでした。そこで行った労働党変革の象徴が「産業は国営であるべし」という党綱領第4条を廃棄してしまったことです。それによって保守党は支持してきたけれど、いろいろな理由でこれに飽きがきていた英国の中流階級が、「市場経済に根ざした社会正義」というブレアの主張になだれを打って投票したのが1997年の総選挙でした。

ブレアの右寄り路線には労働党内部の反発がもちろんあった(今でもある)けれど、なにしろそれまで18年間も野党に甘んじてきたわけで「保守党を政権の座から追放するためなら何でもいい」ということで、労働党左派もブレアを支持した。こうして誕生したのがブレアさんの「新労働党」(New Labour)だったわけですが、The Economistによると、New Labourは生い立ちからして不安定かつ余り心地の良くない連立(unsteady and uncomfortable coalition)という性格を抱えていた。一方で保守的中流層に対しては「市場経済」というサッチャーさんの保守路線は変えないと約束し、もう一方では伝統的労働党支持者に対して「それでも労働党は支持する価値がある」と訴えた。

このような二面性を抱えたNew Labourが採用したのが、徹底的なメディアPR作戦(spin)で、ブレアさんは弁舌爽やかな若き宰相という颯爽たるイメージで売り出した。本質(substance)よりも見てくれ(presentation)が重要視され、原理・原則(principle)よりも政治的ご都合主義(political expediency)によって政治が行われるようになった。確かあの頃だったと思いますがNew Britain, Young Britain, Cool Britannia等などのスローガンが声高に叫ばれたものです。

そして9・11があって「イラク」があった。ブレアさんによってイラク攻撃の根拠とされた大量破壊兵器など存在しないことが明らかになった。それでもイラク攻撃は正しかったと主張するブレア首相の言うことは殆ど誰も信用しなくなった。The Economistによると、今回の選挙でブレア政権が議席を失った一番の理由は政府に対する信用の欠落(lack of trust)ですが、これは「イラク」だけではなく、ブレア政治全体に対する信用の失墜を意味するようになってしまった。 ブレアさんの「真面目さ」も、見てくれだけと思われるようになってしまった。

昔のコメディアン、Groucho Marxは"The secret of success is sincerity. Once you can fake that, you've got it made"(成功の秘訣は真面目さにある。そのふりさえ出来れば成功したようなもの)という有名なセリフを吐いたそうですが、The Economistによるとブレアさんは「ふりをしすぎてばれてしまった」(Mr Blair faked it too much, and got found out)のだそうであります。そしてなお悪いことに、実際に真面目になっているときでも「ふりをしている」と疑われるようになってしまった(even when he really is sincere, he is assumed to be faking it)・・・。

The Economistはさらにブレアさんにとってはきついことを言っています。
  • Before Labour came to power in 1997, Mr Blair might have hoped that the term Blairism would come to stand for a distinctive set of policies, as Thatcherism did and still does. Revealingly, the word has never been needed. There is no such thing as Blairism-and if there were, the term would far more likely denote spin and other dark political arts than policy.
    1997年の労働党政権誕生の前には、ブレア氏は一連の明確な政策を表現するものとして「ブレア主義(Blairism)」という言葉が出来ると期待していたかもしれない。サッチャー首相の政策にはサッチャリズム(Thatcherism)という表現があり、現在でもそれは生きている。しかし明らかになったのは、そのような言葉は必要ないということである。そもそも政策を表わす言葉としてのBlairismというのは存在しない。ブレア・スタイルというものがあるとすれば、それはspin(煽動)を始めとする暗い「政治的芸術」を表現するものと言ったほうがふさわしい。
▼確かに、サッチャーさんとブレアさんの違いは、前者が英国民に嫌われ、怖れられたのに対してブレアさんの場合は「イラク」でドジを踏んだとはいえ、基本的にはGood and honest young manとして好かれることが多かったということ(だと私は思います)。3期連続の労働党政権は、実は「快挙」でも何でもないのかもしれない。New Labourは保守党と決定的に違う政策を遂行するというよりも、「選挙に勝つ」ことを最大の目標に掲げて登場したのだから、勝って当り前ともいえますね。

AJeremy Paxmanの首相インタビュー
選挙の期間中にブレア首相がBBCのJeremy Paxmanという記者にインタビューされました。Paxmanは結構しつこく迫るインタビュアーとして知られています。30分ものインタビューなので、とても全部は再現できない。一ヶ所だけ再現すると次のようになります。話題は英国における難民申請。実は亡命者の数を厳しく制限すべきだという声が高くなっていて、これも選挙の争点の一つであったのです。

PAXMAN: Can you tell us how many failed asylum seekers there are in this country? 英国で亡命申請して受け付けられなかった人でこの国にいる人の数を教えてください(と、さりげなく迫る)。

BLAIR: No, I can't be sure of the numbers of, of people who are ur, illegals in this country. For the same reason that the previous government couldn't. Urm, what I can say is that the asylum system has been toughened up and tightened up hugely, and according to the United Nations Commission for Refugees, and not us, asylum figures have fallen by more than a half in the past two or three years. いや、はっきりした数は分からない。我々以前の政府も分からなかった。それと同じ理由で分からない。言えるのは亡命対策がより厳しくなったということだ。我々の数字ではないが、国連の難民委員会によると過去2-3年で亡命者の数は半分になったとのことだ。

PAXMAN: Can you give us a rough idea of how many there may be. それにしてもおよその数でも教えてください。

BLAIR: I, no point in speculating on that. What I do know is that... 私としては・・・推測で言っても意味が無い・・・私に分かっているのは・・・(と、なにやら ろれつが回らない雰囲気?)

PAXMAN: Is it tens of thousands? Hundreds of thousands? Million? 数万?数十万?数百万?(と、しつこくすがる)

BLAIR: I've said, I don't think there's any point in speculating... I だから推測で言っても意味がないと・・・

PAXMAN: But you have no idea? 全く分からないというんですか?

BLAIR: Well, it's not a question of having no idea. 知らないとかいう問題ではない(と、妙な返事・・・)

PAXMAN: Well, what is your idea, Prime Minister? アナタの考えではどのくらいなのですか?

BLAIR: What, what you. Hang on, what you can say is, how people are applying for asylum, month by month. How many people are you removing だ、だから・・・ちょっと待ってください・・・毎月どのくらいの人が申請しているのか、何人くらいが国外追放されているのか・・・(と文法的にもおかしな言葉に)

PAXMAN: Prime Minister 首相・・・(と口を挟もうとするが)

BLAIR: And what is the back log, and we are dealing with all of those issues. それとどのくらいの人が審査中なのか・・・こうした問題に取り組んでいるんですよ(アンタの言うほど簡単なこっちゃないんだとでも言いたげ)

PAXMAN: Prime Minister, you have really no idea of how many failed asylum seekers there are illegally in this country. 首相、亡命申請者で違法滞在している人の数を、アナタは実際には知らないってことですよね。

BLAIR: I can't 言えないって・・・

PAXMAN: You don't know? 知らない?

BLAIR: Because people are here illegally 何故かというと彼ら違法滞在だから・・・

PAXMAN: You don't know? 知らないんですか?

BLAIR: It is difficult, for the very reason that 難しいってことですよ、理由は・・・

PAXMAN: You don't know. 知らないんですね。

BLAIR: Hang on, for the very reason that the previous government gave, you cannot determine specifically, how many people are here illegally. ちょっと待ちなさいよ。はっきり何人が違法に滞在しているのかは、はっきり決められない・・・前の政府だって同じだった・・・

PAXMAN: You have no idea. 見当もつかないんですね。
という具合です。何を言っても「知らないんですね」というわけで「首相たるもの、こんなに大切なことを知らないとはナニゴトだ」というニュアンスがいっぱいです。答えるブレアさんも必死。全文が欲しい人は言ってください。何でもかんでも英国のものがいいと言うつもりはないけれど、毎晩テレビで流される小泉さんの立ち止まりインタビューとは大分違う。

B無断で拝借、拍手を贈りたい宮崎学さんのエッセイ
アタマの中で考えていてもそれを上手に表現できないでいるときに、それを代弁してくれたような文章に出会うと、とても嬉しいものですよね。私にとっては、東京新聞5月12日付け25面に出ていた宮崎学という作家の短いコラムもそんな例の一つでありました。ご本人の了解なしに半分だけ転載します。話題はJR西日本の事故。
  • JR西日本の尼崎の事故とそれへのJRの対応について、特に事故直後にJRの社員が救助活動に加わらないばかりか、自粛もせずに遊んでいたとして、メディアによるバッシングが行われている。これを本末転倒という。

    もともとメディアが企業や人の「道義」についてとやかく言えるご立派な存在だとは思えないということもあるが、今回の報道はあまりにもお粗末である。事故原因について取材力を持たなくなったメディアの思考停止状況を、事故の犠牲者家族への取材と「JR社員の無責任ぶり」への取材という、取材力がなくても比較的容易にできることで糊塗しているように見える。
(ここで宮崎さんは、今回の事故が国鉄の民営化に起因している部分もある、と批判して次のようにコラムを結んでいます)
  • ・・・そして「民営化」を無批判に賛美してきたメディアは、自らの責任を棚に上げ、手近な「悪者」づくりに血道をあげている。この姿に、この国の絶望を見る
というわけです。私が一番ピンと来てしまったのは”手近な「悪者」づくり”という表現でした。自分も読者であり、視聴者であるわけですが、マスメディアの独りよがりに辟易することがある。ありませんか、アナタも!?


C短信
酒気帯び乗馬で法廷闘争

アメリカ南部のケンタッキー州にある町で現在裁判でもめているのが、酒を飲んで馬に乗った場合でも「酒酔い運転」になるのかということ。42歳になるミラード・ダイワー氏が酒を呑んで馬に乗っているのを警察官に見つかった。実際、ビールを12本(法的なリミットの3倍)も飲んでおり酩酊状態であったのだそうです。ケンタッキーの州法によると馬も「乗り物」と見なされているのだそうですが、法廷闘争に持ち込んだダイワー氏は、酔っ払ってきたことは認めながらも、「馬は車じゃない。馬には心がある」と主張しており、「酒気帯び乗馬」による有罪は認めないと頑張っているそうです。

▼馬に心があるかどうかはともかく、やっぱ酔っ払って乗り回すのは危険なのでは?

消火ホース

ウクライナのドネツクという町でヘルスクラブが火事になった。駆けつけた消防士が燃えている建物の中に入ったところ目の前の床にホースのようなものがあったので持ち上げようとしたのですが、実はこれが蛇だった。蛇嫌いの消防士はパニック状態で燃える建物から逃げ出した。この蛇はヘルスクラブのオーナーが飼っているペットだったそうで、「無害なんだから」というオーナーの懇願に消防士は渋々建物に戻って、蛇を救い出したらしい。

▼これは、やっぱオーナーが悪い。ヘビなんか飼うんじゃない!飼うんなら火事なんかだすんじゃないっての!!

ある政治家が辞職したわけ

ドイツのブレーメンでワイン祭が行われたときのこと、ある地元の政治家が、祭の会場にいたホームレスの男性の頭にワインをぶっかけて「さあ、アンタも飲めよ!」とやった。抗議するホームレスの剣幕と周囲の人々からのブーイングの激しさに、この政治家も怖気づいたと見えて、ホームレスにお金を少々と高価で知られるモンブランの万年筆を差し出したのみならず、一晩高価なホテルに泊まれるように手配まで約束した。が、拒否されてしまった。で、その晩、政治家は公式かつ公に謝罪すると同時に辞職してしまったのだそうです。

▼ウーン、やっぱ、辞職もしゃあないんじゃない?

D編集後記
▼JR西日本の事故の後に、会社側が何度も何度も会見をやった。記者の中には「人が死んでるんだぞ!」と経営者を怒鳴りつける人もいました。いわゆる「庶民の怒り」を代表したつもりだったのでしょうか?

▼私、何故か庶民感覚というのが嫌いであります。大抵の場合、少数者を痛めつけるものだから。ましてやそれを代表するかのようなマスメディアは本当に許しがたいと・・・。

▼事故を起したのと同じ電車に乗り合わせたJRの社員が二人いたのに、救助活動に参加もしないで出社したということで大いに非難されていました。

▼あえて聞いてみたいけれど、メディアの人たちは、その二人が救助活動に参加したら、被害者が少なくなったとでも言うのでしょうか?それから現場にいたメディアの記者やカメラマンたちは、被害者の救出の手助けをしたのでしょうか?

▼救出活動に参加しないで出社したJR社員にも仕事というものがあったのではないでしょうか?それが事故に関係のある職場だったとしたら、救出活動などしないで出社した方がよかったかもしれないのでは?

▼いずれにしてもメディアが何だかんだ言うのは全くおかしい。 眉をひそめて「JRは許せませんな・・・」などと言っているコメンテイターのアタマの中はどうなっているのでしょうか?

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