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musasabi journal

228号 2011/11/20
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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
秋も深まると夕方も4時ごろになるとすでに暗くなり始めます。6時にはもう真っ暗。どんどん寒くなって我が家でも暖房を入れ始めました。みなさまのところはどうですか?

目次

1)TPP:野田さんの「大いなる勇気」
2)フィンランド右翼と欧州経済危機
3)子供ケアのコストが高騰している
4)不安な社会と公共放送
5)市長公選制の導入でまた住民投票
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声


1)TPP:野田さんの「大いなる勇気」

11月19日付The Economistの社説によると環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific Partnership :TPP)はわくわくするような(inspiring)自由貿易構想であり、その成功は「アメリカと日本(特に日本)の勇気にかかっている」のだそうです。 経済圏のブロック化は、世界的な規模での自由貿易を考えるといつもいつも歓迎すべき現象ではないかもしれないけれど、カナダ、日本、メキシコなどを加えて12カ国が加盟すると世界のGDPに占めるTPPの割合は40%でEUよりもはるかに大きな自由市場が誕生するのであり、ドーハ・ラウンドの貿易交渉がさしたる成果を挙げていない折から、TPPが世界の自由貿易を阻害する可能性は極めて小さい(little danger)と言っています。

社説によると、11月11日にハワイで行われた野田さんのTPP協議への参加の関心表明は「きわめて勇気ある行動」(exceedingly bold move)であり、

Unwittingly or not, Mr Noda has thrust mercantilist Japan into a central position on a trade treaty in which free movement of everything except labour is on the table.
(TPPは)労働力以外のあらゆるものの自由な動きが交渉の対象なるのであり、野田氏がそれを意図したかどうかは別にして、彼の動きは貿易国家、日本をそのような貿易協定の中心に押し上げる結果となった。

とのことであります。

日本国内には農業、医療の関係者からは断固反対の声が聞かれるけれど、世論調査に見る限り日本人がいま求めているのはこの問題についてのリーダーシップであり、びくびくした態度(pusillanimity)ではない、とThe Economistは主張しています。

一方、TPPはまた中国の台頭に対抗するオバマ大統領による対アジア接近の外交政策の一環であり、大統領は対日貿易不均衡で文句をつけるアメリカ国内の自動車労組に対して毅然とした態度で臨まなければならないし、TPPが中国を包囲するのではなく、これを組み込むものであることを強調すべきでもある、と言います。The Economistによると、TPPはオバマ大統領にとっても新しい外交政策の試金石となるものであるとのことであります。

オバマ大統領によるそのような動きは、野田さんが日本国内で支持を取り付けるための支援にもなるだろうとして、The Economistは次のように主張しています。

And in joining the TPP, Japan would be forced to reform hidebound parts of its economy, such as services, which would stimulate growth. A revitalised Japan would add to the dynamism of a more liberalised Asia-Pacific region. That is surely something worth fighting for.
そしてTPPに参加することで、日本は経済的に遅れた部分(例えばサービス産業)の改革を余儀なくされ、それが経済成長を刺激することになるだろう。再び元気になった日本は、より自由になったアジア・太平洋圏にさらなるダイナミズム(動き)を加えることになるはずであり、それこそ戦う価値のある事柄であると言えるのだ。

▼The Economistの社説そのものはここをクリックすると読むことができますが、うまくいかない場合はお知らせください。

▼「もういい加減にしたら?」と言いたくなるくらい、TPPだけが話題になっていると思うのですが、「まだ議論不足だ」と言う人もいるのですね。誰もが「国益を第一に」とか言うけれど、1億2000万人もの人間が暮らしているのですよ、この国には。何が国益かなんてこと、普通の人に分かります?自分にとっての利益だってそれほど簡単じゃない。

▼外国の材木が自由に輸入されるようになって日本の林業は崩壊したと言いますね。確かに日本の森林は間伐もされず荒れ放題のようです。それは森林など手入れしたって、どうせ外国の材木との価格競争では負けるのだから、儲けにならず自分たちの生活は豊かにならないから何もしない、ということが背景になっているのですよね。でも自由化がなかったら住宅なんて普通の人には建てられなかったかもしれない。安い外国材のお陰でマイホームを建てられたという人もたくさんいるのだから、自由化=悪ではない。それより「自由化=森林管理放棄」を許してしまった森林関係者の怠慢が全く話題にならない(ように思える)方がおかしいのでは?

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2)フィンランド右翼と欧州経済危機

11月13日付のThe Observerにフィンランドの右翼政党、True Finns Party(真のフィンランド人党)の委員長であるTimo Soiniとのインタビューが掲載されています。

True Finnsは1995年に設立されたのですが、前身はFinnish Ruralという党だった。もちろんこれらはいずれもフィンランド語の党名の英訳なのですが、Ruralは「田舎」とか「へき地」などという意味だから農民を支持基盤にしていたのでしょう。反EUや反ユーロ以外の姿勢として、移民の制限、同性愛反対などは明らかに保守派ですが、富裕層から税金を沢山とる税制や福祉国家の考え方は支持しています。

Have you ever heard about the Soviet Union? They said it was everlasting, and it was not. Now they say the euro and the European Union are everlasting, but it is not. If we run out of money and morals, there will be destruction one day.
ソ連って聞いたことあります?あの国は永遠に続くと言われたのですよね。でもそうはいかなかった。いま言われているのはユーロとEUは永遠だってこと。もちろん両方とも永遠ではない。カネとモラルがなくなったら、いずれは破壊が起こる。

ユーロにもEUにも反対というTrue Finnsの基本的なメッセージです。The Observerによると、この人、次なる大統領選挙には立候補するつもりなのだそうです。フィンランドの場合、大統領と首相がいるのですが、大統領のパワーが発揮されるのは外交の分野ですが、それも最近ではかなり制限されている。国内問題についてはの権力は首相にあります。

それにしてもなぜThe Observerがこの人とのインタビューを掲載したのか?(むささびの推察によると)最近の北欧におけるナショナリズムの台頭がある。特にフィンランドのTrue Finns Partyは今年4月の選挙で得票率が約4%から20%へ、議席数はなんと5から39だからほぼ8倍にも増やすという、あっと驚くような大躍進をとげている。

フィンランドの国会は全部で200議席、全部で9つの政党がこれを分け合っているのですが、第一党は44議席の国家連立党(National Coalition Party)で、第二党は社会民主党(Social Democratic Party)、そして39議席のTrue Finnsは泡沫政党から第三政党にまで躍り出てしまった。フィンランドの政府は昔からrainbow coalition(虹の連立政権)と言われるくらい多くの政党が参加する連立で、現政権も第一党・第二党以外に緑の党など4政党が加わって6政党による連立政権です。実はTrue Finnsが大躍進したときにこの党が連立に加わるかどうかが大きな話題になったのですが、結局野党ということで落ち着いた。

Timo Soiniはプロテスタントの国、フィンランドでは明らかに少数派であるカソリック教徒なのですが、その彼がThe Observerとのインタビューの中でギリシャやイタリアなどにおける経済危機についてこんなことを言っています。

As a Catholic, I understand quite clearly the situation of Ireland, Poland, Italy and even Greek Orthodox countries. In Catholic countries the state isn't considered to be the hand of God. It's a common hobby to cheat the government, to cheat those who have power.
私はカソリックだからアイルランド、ポーランド、イタリアなどの状況がよく分かるのだ。それだけではない、ギリシャ正教の国の状況も分かる。つまりカソリックの国では国家は神の手ではないということ。だから政府を政府や権力者を騙すのは趣味みたいなものなのだ。

そう言われてみるとEUでも経済危機に陥っているのは南のカソリックの国が多いですね。Timo Soini代表にインタビューをしたThe Observerの記者(英国人)は、彼が自分のことを「普通の労働者」(ordinary working-class guy)と呼び、彼が使うさまざまなサウンドバイト(宣伝)も農民や工場労働者からの受けを狙っているとして、これらの人々は技術立国と言われる現代のフィンランド社会において「置き去りにされた存在」だと言っています。

ちなみにフィンランド以外の北欧諸国における右翼勢力ですが、ノルウェーの「前進党」(69人を射殺した犯人も党員だった)はあの事件以来評判を落としているけれど、2009年の選挙では22%の得票率だった。デンマークの「デンマーク人民党」は前の議会選挙で12.3%の得票率だったのですが、現在の保守・自由党による連立政権を支持しています。ただ党首のPia Kjarsgaar(女性)は強硬は移民反対、ユーロ加盟反対論で知られているそうです。スウェーデンの「スウェーデン民主党」は移民反対、反イスラム、欧州統合そのものに懐疑的・・・などがスタンスで、昨年の選挙で20議席を獲得したのですが、その後スキャンダルに明け暮れているのだそうです。


▼議席を有する9政党の英語の名前だけ見ても、Social Democratic、Left Alliance、Green、Christian Democratic、Left Faction等など、フィンランドはどちらかというと穏健な社会民主主義の国であり、そうであるが故の福祉国家であると思うのですが、True Finnsという全く毛色の変わった政党の大躍進が何を意味するのか気になりますね。EUやユーロへの反発もあるかもしれないけれど、移民問題が最大の原因でしょう。

▼前回の選挙では約11万人しか投票しなかった党が今回は56万人になっている。これが一時的な現象なのか、フィンランド社会そのものが変わりつつあることの証拠なのか、フィンランド人に聞いてみる必要がある。True Finnsに投票した56万人の全部が全部、農民や工場労働者ではないでしょうね。想像できるのは、フィンランドという文化的に単一的(homegeneous)だった国がノキアの携帯などを通じて外国と関わるようになり、homegenityを楽しんでいることができなくなったということですね。

▼Timo Soiniのコメントでいまいち分からないのは、南欧諸国におけるカソリックと経済危機の関係についての部分ですね。カソリックはプロテスタントのように「自分の内なる神」という考え方はしないですよね。神は人間ではない→国の指導者は人間であるから敬う必要はない→だから浪費も構わない!?フィンランドのようにプロテスタント(ルーテル派)の国では自分自身の道徳の問題として、勤労・質素・倹約が求められるので無駄遣いがないってこと!?というわけで、Timo Soiniの言っていることはどうも分からない。が、事実として欧州の経済危機は南が舞台であり、ギリシャ以外はみんなカソリックの国です。


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3)子供ケアのコストが高騰している

11月5日付のThe Economistに就学前の児童のケアの費用が高くなっているという内容の記事があります。親が就学前の子供を施設に預けて働きに出るというケースが増え、そのような需要に応える児童ケアがますます専門的な職業(profession)となりつつあるということがある。保育園・幼稚園(nurseries)スタッフの8割以上が大学進学の条件となっている「Aレベル」の資格保持者であるとのことですが、7年前の53%に比較すると確かにスタッフの学歴は上がっている。

児童ケアがプロフェッショナルな仕事になるにつれて費用も高くなっており、Daycare Trustという組織の調査によると2才以下の児童を預かる保育園の料金は一週間あたり194ポンドが平均だそうで、共稼ぎの場合のsecond earner(第二の稼ぎ手)による収入のほぼ7割が子供のケアに使われている。英国の親が子供ケアのために使うお金はOECD諸国の中でも最も高い部類に入るのだそうです。

子供ケアの費用の高さが、女性が仕事を続けることへの障害にもなっている、とThe Economistの記事は伝えています。チャリティ組織のSave the Childrenの調査結果として、子供のデイケア費用が非常に高いことで低所得の母親の4分の1が出産後に子供を預けて仕事に戻ることができないという数字もある。英国政府の基本的な方針としてpeople are better off in work than on benefits(手当をもらうよりも働く方が得)という政策を展開しており、そのために子供ケアの費用を政府が負担するということもやっています。が、緊縮財政の折からこのような政策を続けることについてThe Economistは

Alas, extending such a subsidy during straitened economic times would appear to be anything but child’s play.
この経済状況下でこのような政府援助を拡大するのだから、絶対に「子供の遊び」とは思えない。

と言っています。

ところで英国の場合、就学前児童をケアする機関としてnurseries(保育・幼稚園)があるけれど、それ以外に個人的に子供を預かってケアする職業としてチャイルドマインンダー(child-minder)というのがあるようです。(「ようです」というのは、自分自身が直接それを体験したわけではないということです。)基本的にはベビーシッターのようなものなのですが、対象児童が8才以下だから「ベビー」だけが対象ではない。政府機関である教育水準向上局(Office for Standards in Education: Ofsted)の認可を得る必要があり、全国チャイルドマインンダー協会(National Child-minders Association: NCMA)のサイトによると、一日2時間以上、「一人もしくはそれ以上の子供たち(one or more children)」を預ってケアする。

child-minderは数年に一度、Ofstedが派遣する検査官による検査を受けるのですが、NCMAでは家庭にいながらにして身に付くキャリアであるとして参加を呼び掛けています。現在、全国で約7万人のchild-minderがいるのですが、一時減っていたのが最近になって再び増え始めている、とThe Economistは伝えています。

child-minderとは別にnannyというのがあるけれど、child-minderが自宅を使ってケアするのに対してnannyの場合はケアされる児童の家庭に出かけて行って世話をするのだから、ケアする子供は事実上ひとりである点がchild-minderとは違う。さらにnannyの場合が子供の家庭に雇われて給料をもらうのに対してchild-minderは自宅を使って託児所を経営するのと同じです。


▼それにしても子供の面倒を見てもらう費用が1週間で194ポンドというのは高いんでない?一か月で約800ポンド。金銭感覚からすると1ポンドは大体100円だから、託児所代が一か月で8万円かかるってことになる。ネット情報ですが、日本で子供を保育園に預けると1か月の費用は4万5000円~6万5000円となっています。

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4)不安な社会と公共放送

英国の社会問題研究所(Social Issues Research Centre:SIRC)が行ったLife in the UK todayという調査は、いまの英国と英国人の生活意識について調査分析しています。この調査はいまから3年前(2008年)にBBC財団(BBC Trust)からの委託で行われたものなのですが、報告書を読むとごく当たり前の英国人が何を思い、何を感じながら生活しているのかが分かって非常に面白いものです。

家庭、愛国心、宗教観等などいろいろな分野における分析があるのですが、今回はその中からThe nation's worries(国民の心配事)というセクションを紹介させてもらいます。

The past two decades have seen a steady trend towards risk-aversion in UK society.
この20年間の英国は着実に危機意識に満ちた社会に向かっている。

という書き出しなのですが、1990年ごろからの英国で目立つのはfear(怖れ)という言葉なのだそうです。politics of fear(恐怖感にあふれた政治)、fear of crime(犯罪への怖れ)、fear of the future(将来に対する不安)等々ですが、この場合のfearは「不安」という日本語をあてた方がいいかもしれません。

2000人を対象にしたアンケートで英国人が不安を覚えることのナンバーワンは「家族・友人の健康(Health of family/friends)」で2番目は「家計」(Day to day finances)で3番目には「自分の健康」(Personal health)が来る。これらはいずれも個人に直接かかわる不安ですが、グローバルな心配事としては、テロリズム、戦争、環境問題、社会的格差などが挙げられるのですが、心配事の性格を見ると「自分個人の心配事」(personal issues)と「友人・家族に関するもの」(family/friends issues)の二つで9割を占め、global issuesについては1割に過ぎない。人間、いつもいつも世の中のことを考えているわけではないのだから、これは当然の数字ですね。

と、ここまではどこの国でも同じようなものだと思います。SIRCの報告書が検討しているのは、それらの不安や恐怖心がどこから来るのか(Where do our fears come from?)という問題です。不安感の出どころということですが、一番多かった答えは「いろいろあって特定はできない](their worries were not directly related to any particular source of information)というものですが、特定した人の答えの中で最も一般的だったのはテレビと新聞だった。「テレビを見て、新聞を読んで心配になった」というわけです。3番目に来たのは「政府の発表」(announcements from government departments)で、「インターネットで情報を探して」(surfing the Internet)というのは7番目で、テレビや新聞などよりはかなり低い。

National Centre for Social Research (NatCen)という学術組織が行っているBritish Social Attitudes (BSA)という英国人の社会意識調査によると、一週間に3回以上新聞(朝刊)を読む人は1983年で77%だったのが2006年には50%にまで落ちているのですが、SIRCの調査に見る限り、新聞は未だに有力な世論(public opinion)形成のツールであり、世の中の不安(public fears)の有力な出どころになっているようです。

が、何と言っても不安の出どころのナンバーワンはテレビで、最近の調査でも新聞を読む人は51%かもしれないけれど、毎日テレビニュースを見るという人は82%に上っています。さらにテレビニュースは最も偏見が少なくて質が高い(least biased and highest quality)と思われており、49%の人がメディアの中でもテレビが最も信頼できると答えているし、86%が全国放送のテレビが新聞やネットよりも信頼できると考えているのだそうです。

SIRCの報告書は、英国人が抱える不安感や恐怖感の多くが、自分自身の体験に基づくよりもテレビや新聞を通じて知った事柄に基づいており、英国はますます「怒りっぽい国(increasingly fretful nation)」になりつつあるとして、

While 'scary' programmes -- those that focus, for example, on potential risks to our health or personal security -- attract large audiences, they often do little to provide people with balanced information on the basis of which they can make intelligent choices.
健康被害や身の安全に対するリスクに焦点をあてた「怖がらせ番組」は多くの視聴者を引きつけるが、彼らが賢明な選択ができるようなバランスのとれた情報はほとんど提供しないケースが多い。

と書いています。

そして「公共放送が視聴者に対してバランスのとれた中立情報を提供する義務がある」(PSB has a clear duty to provide its audiences with balanced and neutral coverage) として、現在のような不安感に満ちた時代にこそ公共放送が持つ「独立性と信頼性」(impartiality and trustworthiness)を堅持する必要がある、と訴えています。

▼SIRCの報告書はここをクリックすると読むことができます。

▼新聞よりもテレビによる情報が信用されるとのことですが、いわゆる高級紙の読者よりも大衆紙の読者の方が不安感が高いのだそうです。これは分かりますね。大衆紙の見出しは大体において悲観的な意味でセンセーショナルなものが多い。日本でいうと週刊誌かな。ただこれはどこも同じだし、日本に関してはテレビも同じですが、メディアの警戒的な報道をマジメにとっていたらキリがないですよね。喫煙者は全員が肺がんにかかり、毎日XXキロ以上ウォーキングをしないとメタぼにetc。高級紙も含めた英国のメディアもその点は脅かし記事だらけです。それも自分たちで取材したのではなく、どこかのNPOが発表した調査報告書のコピーを掲載しているような記事が多いのだから困ったものです。

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5)市長公選制の導入でまた住民投票

これまでにも何度か触れたことですが、日本の場合、地方都市の市長は選挙で選ばれるけれど、英国の場合、152ある地方自治体のうち直接選挙で選ばれる市長を有する都市はいまのところロンドンを含めて14だけですが、来年(2012年)にはこれ以外に11都市で市長公選制に関する住民投票が行われることになっています。キャメロン政府による権力の地方分散政策の一環とされているのですが、これらの都市が全て市長公選制になったとしても、全部で25都市であり、全体からすると大した数ではない。

英国の場合、地方の政治はほとんどが間接民主主義です。住民が選挙で選ぶのは市議会議員(councillor)だけ。選挙で選ばれた議員たちが自分たちの中からリーダー(council leader)を選びこれがその町の政治の「長」となるのですが、政策決定はcouncil leaderが率いる委員会によって行われ、結果の責任は委員会が共同で負うという形をとっています。

この話題についてThe Economistの社説(11月12日付)は

Britain’s plans for elected mayors point in the right direction, but are too timid
英国における市長公選は、方向性は正しいがあまりにも臆病だ。。

と言っています。

来年の住民投票が行われるのは次の都市で、いずれも英国では大都市とみなされるところです。数字はそれぞれの人口ですが、右側に出ている日本の都市は人口の点でそれぞれの英国の都市にいちばん近いところです。参考までにお知らせしておきます。

Birmingham 99万 仙台市
Leeds 72万 相模原市
Sheffield 51万 宇都宮市
Bradford 47万 金沢市
Liverpool 44万 長崎市
Manchester 42万 高松市
Bristol 38万 長野市
Wakefield 33万 那覇市
Coventry 31万 久留米市
Nottingham 29万 津市
Newcastle 26万 平塚市

The Economistが市長公選を支持しながらも「あまりにも臆病」と批判しているのは、公選される市長がどのような権限を有しているのかがはっきりしないというということがあるからです。

ロンドン市長の場合、交通政策、警察、市議会税(council-tax)と呼ばれる税金徴収を管理する権力が与えられているのですが、これなどは例外的に大きな権限であり、地方都市の公選市長の権限は限られていて、どちらかというと象徴的な存在になっています。

それでも公選市長にはそれなりの影響力があるようで、北イングランドのMiddlesbroughという町の市長(Ray Mallonといいます)は元警官で犯罪に対してはビシバシ当たる「ロボコップ市長」として住民の受けがよくいまや二期目の市長を務めています。この市長は就任以来、犯罪対策として街頭の監視カメラの数を大幅に増やしたりしているだけでなく、環境にやさしい市長ということで通勤には二人乗りの電気自動車を使ったりもしているのだそうです。Middlesbroughは必ずしも「いい町」というイメージではなかったのですが、Rayが市長になってから町を誇りに思うようになったという住民が大幅に増えているのだそうです。

昨年(2010年)行われたアンケート調査によると、市長を公選している都市の住民のほぼ6割が自分たちの町の市長の名前を知っているのに対して、間接民主主義をとっている都市の住民でcouncil leaderの名前を知っているのは3割にも満たない(25%)という数字があります。

If city-dwellers believe that mayors will be costly figureheads, they are likely to vote against them. A chance to reshape Britain for the better will be lost, perhaps for many years.
都市住民が市長がカネのかかる象徴だと思うならば、おそらくこの住民投票でも公選市長制には反対票を投じるであろうし、そのことは英国のカタチを良い方向に変えるチャンスが失われることになり、しばらくはそのチャンスはめぐってはこないだろう。

とThe Economistは言っています。

ところで、市長公選とは別に地方の警察著長を選挙で選ぼうという動きもあり、これについての住民投票は来年の11月に行われることになっています。

▼市長公選制についての住民投票は過去何回か行われているのですが、否決されるケースの方が多いのですね。日本でも名前が知られている都市としては、PlymouthやOxfordがあるけれどいずれも否決されています。両方とも賛成と反対の割合は4割と6割だからそこそこ拮抗していたのですが、投票率が30%前後という具合にかなり低い。要するに住民の関心が低いのですね。

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6)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

sick leave:病欠


フィンランド最大の日刊紙、Helsingin Sanomatが「フィンランド人の道徳観」に関する調査を行い最近のサイト(英文)で紹介しているのですが、85%のフィンランド人が最も道徳に反する行為(the most immoral act)と答えたのが「病気でもないのに病欠すること」(to go on sick leave without being sick)だったそうです。殺人、レイプ、児童虐待のように誰が見ても悪徳行為とされるものは除外されているのですが、仮病はそれほど悪いことなんですかね。仮病以外の道徳に反する行為としては、電車(公共交通機関)のタダ乗り、警察官への賄賂提供、脱税、不倫などが挙げられています。

道徳に反すると思ってもついやってしまうということってありますよね。フィンランド人の場合、電車のタダ乗りを「場合によっては構わない」(if circumstances require)という人が29%、悪いとは知りつつやってしまったという人は25%なのだそうです。「場合によっては構わない」の「場合」ってどんなことなのか?不倫についても25%が「状況によっては許される」(acceptable in some situations)としており、実際に不倫したことがあるという人は22%となっている。不倫が許される「状況」ってどんなの?

で、最初に挙げた「病欠」ですが、笑ってしまうのは15%が「にせ病欠」も「二日酔いの場合は仕方ない」と考えているということ。ただ「にせ病欠」をやったことがあるという人はたったの6%というのは驚きです。ほんまかいな!?「ウソつきは泥棒の始まり」といいますよ。


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7)むささびの鳴き声
▼昨日(11月19日)付のスポーツニッポン(スポニチ)のサイトに「開幕の混乱も巨人からだった…失った信頼、失墜したブランド」という見出しの記事が掲載されていました。書いたのはスポニチの「巨人担当キャップ」の春川英樹という人です。言うまでもなく、プロ野球・ジャイアンツの騒動に関する記事ですが、「開幕の混乱」というのは、大震災を理由に開幕を遅らるという動きに対して、巨人の渡辺恒雄会長が予定通りの開幕を主張してちょっとした騒ぎになった、あの件です。この記事は球団代表の清武さんという人が「人事に介入した」というので渡辺会長を批判、結局クビにされてしまった騒動のことについて語っています。

▼記事の中に「日本シリーズを台無しにするお家騒動」という部分がありました。これはジャイアンツによる清武代表の解任発表が11月18日の金曜日に行われたことを言っている。「試合がない移動日とはいえ、ソフトバンクが王手をかけているタイミングで巨人は動いた」というわけで、まるで巨人騒動のお陰で野球ファンの注目が日本シリーズからそがれてしまうことを心配しているかのような言葉です。でもプロ野球ファンである私に関してはジャイアンツの騒ぎにはそれほどの関心はありませんね。

▼大王製紙、オリンパスに次ぐ企業のもめごとですが、ジャイアンツの場合、主役の一方である渡辺さんは1926年生まれの85才なんですね。そのこと自体がほとんど喜劇だと思いませんか?あのルパート・マードックでさえも1931年生まれの80才です。ウィキペディアによると、渡辺さんの出身地は東京府豊多摩郡だそうです。「東京府」ですよ。そのようなひとがまだ現役で何かやっているということが異常としか思えない。85才の後期高齢者が現場の「代表」の頭越しに何かやる。それを「告発」する人も記者会見で(あろうことか)涙を流している。いい大人のやることですかね。

▼それにしても今日のプロ野球を見ると、時代が変わったのだとしみじみ思いますね。今年のホームゲーム観客動員数ランキングによると、1位は阪神で290万人、2位はジャイアンツで270万人。ここまでは察しがつくのですが、3位にパ・リーグのソフトバンク(230万人)が来ており、5位にもパ・リーグの日ハム(200万)が来ているのはかつてと違う。かつては福岡でも札幌でもプロ野球といえばジャイアンツで、東京のチームが地方巡業をやっているという雰囲気だったけれど、いまは全く違うもんね。昔は強いジャイアンツが憎まれて「アンチ巨人」というファンがいたのですが、いまはどうなのでしょうか?

▼そういえば英国のAmateur Photographerというカメラ雑誌のサイトにオリンパスのMichael Woodford前社長との長いインタビュー記事が掲載されています。この人が英国にあるOlympus KeyMedという関連会社に入ったのは1981年、30年も前のことなのですね。 父親も写真家であったそうです。オリンパスの将来について心底がっくりきていて悲しい(depressed and saddened)けれど致命傷ではない(not fatally wounded)と言っております。

▼ぜんぜん関係ありませんが、世界の人口が70億人に達したことが話題になりましたよね。BBCのサイトをクリックすると世界の人口の中であなたは何番目に生まれたのかを教えてくれます。私の生年月日は1941年7月5日だから05 07 1941と記入してGOを押したところ2,322,460,036番目と出ました。23億2246万36番目ということです。これはその日に地球上に生きている人間の中での順番です。ちなみに人類の歴史が始まってから私が何番目の人間であったのかというと74,885,573,609(748億8557万3609)番目だそうです。

▼今回もお付き合いをいただき有難うございました。

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