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410号 2018/11/11
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BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
トランプの登場でアメリカが分断され、BREXITのおかげで英国が分断されているように見える。両方とも起源は2016年の投票にある。一方は選挙、もう一方は国民投票。アメリカの場合は、いずれ大統領選挙があるのだから、そこで現在の大統領をクビにすることができる。でも英国の場合はひとたびEUを離脱したら、復帰の是非を問う国民投票をやって「復帰」が勝ったとしても自動的に実現できるわけではない。その意味では英国内の分断と混乱の方が事態は深刻という気がしないでもない・・・など、いろいろ考えていたらいつの間にか11月も半ば、今年の埼玉県は山奥の紅葉がとくにきれいな気がします。

目次

1)「民主党よ、妥協しろ」
2)エリートによる「自己批判」と庶民
3)北欧モデルがおかしい?
4)反ユダヤ主義の不可解
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)「民主党よ、妥協しろ」

アメリカの中間選挙については、日本のメディアでも語りつくされたという気がしないでもないけれど、11月8日付のThe Economistがこの話題を社説のトップで語っています。「この中間選挙は分断国家のための分断政府を生んでしまった」(The mid-term elections produce a divided government for a divided country)というわけですが、社説のポイントは
  • 膠着・お粗末な統治・政治制度への幻滅への処方箋
    A recipe for gridlock, poor governance and disenchantment with the political system
を語ることにある。かなり長い社説で、詳しい中身を紹介するのは難しいので、ポイントになっている民主党への呼びかけメッセージのような部分だけ抜き出します。


アメリカの場合、上院は各州どこも二人を選ぶ。州の人口には関係なく二人です。一方の下院は州の人口によって選出議員数が異なる。例えば人口58万のワイオミング州の下院議員数は1人だけれど、ほぼ4000万人のカリフォルニアの場合は53人という具合です。つまり上院が地理的な意味(農村部とか都市部のように)での勢力図を示すのに対して、下院は政治の勢力図が有権者の数で表される。

下院選挙の得票率と得票数
日本時間:2018年11月11日午前7時現在: New York Times
 上院選挙

今回の選挙では民主党が下院の多数を奪還したわけですが、The Economistが当選した民主党の議員に呼びかけているのは、トランプ大統領のやることに何でもかんでも反対することはないということを明確に宣言することです。考えようによっては「妥協」の薦めであるわけですが、それには理由が二つある。

一つは民主党が必要に応じて超党派的な行動をとる党であることを有権者に訴えることができ、それが長い目で見ると民主党にとって好結果につながる可能性が高いということ。選挙期間中に民主党のことをけなしまくったトランプの言動は決してトランプ自身にとって得にならなかった。2010年、オバマ政権の下で行われた中間選挙では共和党が下院を制したのですが、それ以後、共和党はオバマ大統領のやることは何でも反対という行動に出た。そのおかげで共和党議員は政治家としてまともな仕事をしていないとさえ言われた。


民主党があの頃の共和党と同じような行動に出ると、トランプは、議会に法案を提出して審議させるようなまどろっこしい方法よりも、何でもかんでも大統領令で押切り、その一方で民主党の悪口ばかりを言いまくるという方法にでるかもしれない。そしてそのようなやり方が自分の得にならないとなると、過去の共和党の大統領以上に民主党とも取引と妥協を図るようになるかもしれない。いずれにしてもトランプを動かしている原理は自己利益(self-interest)の追求であって、党に対する忠誠(party loyalty)というようなものではない。自分自身の利益にかなうと思ったら、党が長年こだわってきた姿勢でも無視する・・・そのことはこれまでの彼のやり方から見ても明らかではないか、と。
  • 取引きの親玉という役割の方が彼の自我には適しているのだ。
    The role of dealmaker-in-chief could rather suit his ego.


二つ目の理由は、民主党による超党派的な努力が直ぐには実を結ばなかったとしても、長い眼でみれば責任のある行動(behaving responsibly)を取るということが民主党の利益には役に立つことになるということです。The Economistによると、共和党の政治家は有権者に対して、いかにも自分個人が国民のために働いているという印象を与えたがる傾向があるのだそうです。“I’m from the government and I’m here to help” というような言い方が目立つ。反対に民主党の場合は、連邦政府を機能させることに重点を置くという傾向が強い。
  • 民主党が必要としているのは政府に対する有権者の信頼を獲得するということだ。党派対立や膠着状態は政府に対する信頼の構築には何の役にも立たない。好むと好まざるとにかかわらず、政府の機能不全状態が続くと共和党よりも民主党の方が失うものが多いのだ。
    Gridlock does nothing for confidence in government, which is something Democrats need if they are to win more voters’ confidence. Like it or not, they have more to lose from dysfunction than Republicans do.

▼要するにトランプがメチャクチャな政治をやるから、対抗して民主党もメチャクチャやってトランプをやっつけようという発想は捨てろということです。今回の選挙でテキサス州で共和党の現職に挑戦して上院議員の席を争って惜しくも敗れたベト・オルーク(Beto O’Rourke)という民主党の候補者は自身のサイトの中で「党派を超えて協力し、コンセンサスや共通項を見つけ出す努力をすること」(our country is at its best when we can put party aside to work together, build consensus and find common ground)と訴えています。移民対策、銃規制、安全保障のような政策面ではトランプとは全く違うのですが、それでも党派性にこだわることをあえて否定しています。おそらく The Economistが言っているのはこのようなことなのであろうと想像します。

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2) エリートによる「自己批判」と庶民

アメリカの中間選挙の結果についての報道を見ると「米国の分断を鮮明にした中間選挙」(日経)とか「民主主義を立て直せ」(朝日)という具合で、アメリカ社会の分断と混迷を嘆くというニュアンスのものが多い。そんな報道に触れながら11月1日付のThe Economistの政治コラムを読んでいたら、BREXITをめぐる英国の分断と混迷について語っていました。何の偶然か、アメリカのトランプ現象と英国のBREXITが生んだ「分断と混迷」は、両方とも2年前の2016年に源を発している。この2つの現象がさらに世界中に拡散したのがポピュリズムや政治の右傾化や国粋化という形で表れているわけですよね。



The Economistのコラムによると、2年前の国民投票でEU離脱派(BREXIT)が勝利した際に、メディアを中心とするインテリたちの説明は余りにもお粗末(feeble)で見当違いだった。「残留」を支持したインテリたちは、国民投票の結果について「物事を分かっていない人間」(know-nothings)による「革命」であると説明しようとした。が、実際にはBREXITに投票した人間(約1740万人)の3分の1が大学出だった。また「離脱」キャンペーンをリードしたインテリたちは、自分たちの勝利を「エリートに対する庶民の反乱」(revolt of the people against the elites)と叫んでいたけれど、実際には離脱に投票した人間の多くが地方暮らしの金持ち高齢者であり、「離脱」キャンペーンのリーダーたちの多くが名門私立学校出身者だった。とても「庶民」(people)と呼べるような人たちではなかった。

The Economistのコラムは、エリック・カウフマンという人が書いて最近話題になっている“Whiteshift”という本を紹介しているのですが、それによるとBREXITの本質は英国人による反移民感情であり、それに充分気が付かなかったのは反BREXITのリベラル・エリートたちの失敗である、と。英国の人口に占める外国生まれの割合は1950年代までは2%以下であったものが91年には6%にまで上昇した。それがさらに上昇傾向を見せていた90年代の末に登場した労働党のブレア政権が打ち出したのが「多文化の英国」(multi-cultural Britain)という考え方だった。急増する移民を受け入れるための思想的な基盤固めとも言えるけれど、「国際主義的自由主義」(cosmopolitan liberalism)を打ち出すことで「古臭い」保守党に対抗しようとしたということだった。

年度別の対英移民の数
<統計局>

そこで起こったのが2001年9月11日にアメリカを襲った同時多発テロであり、2005年7月7日のロンドンにおけるイスラム過激派によるテロ事件(56人が死亡)だった。英国人の間で起こったのがイスラム・テロリストへの恐怖心と移民制限を求める声であったのですが、それ以後、英国政府は口では移民制限を言いながらそれを実現することがないままに2016年を迎えた。


ロンドン・テロ(2005年)

BREXITを実現させてしまった英国人の反移民感情は、必ずしも白人による非白人に対する人種偏見が背景にあるわけではない。例えばバーミンガムのような大都会で暮らすアジア系の英国人にとって、EU加盟国であるポーランドやルーマニアからやって来る白人の移民は自分たちの職場を荒らす有難くない存在だった。それへの反発からBREXITに投票した非白人の英国人もかなりの数にのぼった。

英国の人口構成

英国は今、トランプのアメリカと同じように分断と混乱に支配されているけれど、最も注意しなければならないのが「国粋主義的ポピュリズム」(nationalist populism)であるとThe Economistは言っている。それを誘発するのが、これまでの20~30年間の英国で、政治的にも経済的にも最も冷や飯を食わされてきたと感じている人びとの欲求不満であるというわけです。
  • (いまの英国の)文化は気取り屋のエリートたちによって支配されている。彼らは自分たちが普通の人間よりも単にアタマがいいだけでなく徳も高い存在であるなどと考えている。
    Culture is dominated by preening elites who not only think they are cleverer than the average person but also that they are more virtuous.
というわけですが、このコラムが強調するのは庶民が抱える「反移民」のような理屈を超えた感情的な課題(emotive subjects)にも注目する必要があるということです。というわけで
  • 英国のみならず欧米社会全体にわたって、政治家およびもっと広い意味でのエリート層が自分たちの失敗から正しい教訓を学ぶことが欠かせないのである。
    It is vital that the political class, not just in London but across the West, and not just in legislatures but among the broader establishment, learns the right lessons from this failure.
と締めくくっています。


BREXITの指導者であるボリス・ジョンソン氏の写真におしっこをひっかけるイヌ。
もちろんデモ参加者が連れてきたワンちゃん。

英国ではこのところEUに関する国民投票をやり直せという声が高まっており、ロンドンでは70万人(主催者発表)もの人びとがこれを要求するデモを行っている。The Economistのコラムが特に注意を呼びかけるのは、万一、再投票となって僅差で「残留」が勝った場合の離脱派の心境です。「また自分たちの意見が無視された」と思う。「無視されている」という意味では、2016年と同じ心境であると言えるけれど、裏切られ感はかつてよりもはるかに強いものとなり、それが過激化すると「国粋主義的ポピュリズム」へと進んでしまうということです。

▼庶民感情に気を配ることを怠ったエリートたちの怠慢が現在の分断と混乱を招いたのだ・・・と言っているのですが、そう言うThe Economist自体がエリートの代表格のような存在であるわけだから、この記事はエリートによる「自己批判」の告白文であるとも言える。ただ・・・それでは「移民は出て行け」と叫んでBREXITに賛成票を投じた「庶民」はそんなに正しかったのか?という疑問が残ります。移民に門戸を開放する、トニー・ブレアらの「多文化の英国」路線の何が誤っていたというのか?あれはあれで正しかったのではないか?

▼ポピュリズムというカタカナ言葉もむささびには非常に気に障るのよね。日本語としては「庶民感情・庶民感覚」と言った方がピンとくる。自分が「庶民」なのか「エリート」なのか・・・かなり前に「むささびは庶民がきらい」という文章を書いているけれど、あれ以来むささびの感覚に変化あったとは思えない。The Economistのコラムニストに言いたいのは、BREXITが勝ってしまったのはエリートたちが庶民の言うことに耳を傾けなかったからではない。「庶民」が誤った考え方に取りつかれてしまったからだってこと。

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3) 北欧モデルがおかしい


北欧がおかしい・・・というニュアンスの記事が10月15日付のSocial Europeというサイトに出ています。題して "What Is Wrong With The Nordic Model?"、書いたのはLondon School of Economics (LSE) のマイケル・コタキス(Michael Cottakis)という政治学者です。これまで北欧(Nordic countries) と言えば、優れた社会福祉、安定した社会、納得している市民などのイメージが強く、北欧以外のヨーロッパ諸国では何かというと「北欧を見習え」という声が強かった。日本も同じですよね。


ストックホルムの反移民デモ

それが最近になって事情が変わってきている。例えば9月に行われたスウェーデンの選挙では反移民を叫ぶスウェーデン民主党(Sweden Democrats)が躍進し、フィンランドやデンマークでも極右勢力が人気を得ている。とてもこれまでのような寛容な社会ではなくなりつつあるように見える。What Is Wrong With The Nordic Model? (どうしたんだ、北欧モデル)と問いたくもなる。

スウェーデン、デンマーク、フィンランドにおける右派政党の台頭というと、これまでなら「EUに対する不満の高まり」(dissatisfaction with the EU)ということで説明されてきた。EUによる経済活動の規制、EUの加盟国であるが故の移民の流入・・・英国におけるBREXITのような反感が右派・ナショナリスト勢力の台頭に繋がっているのだというわけです。

北欧諸国の議会における極右政党

しかしマイケル・コタキスによればEUが根本原因ではない。ノルウェーの場合、ノルウェー進歩党(Norwegian Progress Party)という政党が右派ポピュリスト政党(right-wing populist party)とされる。この党は単なる政党ではなくて政府与党になっている。それだけ見るとノルウェーが最も右寄りであると言えるけれど、この国はEUには加盟していないのだから、「反EU」という国民感情は起こりようがない。そもそもEUによる規制のお陰で北欧企業が不利な目にあっているという証拠はどこにもない。どころかIKEA、H&M、Maerskのような北欧企業は、EUの単一市場に加盟しているが故に過去20年間で大きく成長したとも言える。

「原因は移民にある」というのがマイケル・コタキスの主張です。これまで北欧といえば、移民に対しても人道主義に基づく寛容でオープンな姿勢を貫いており、それが故に北欧は「人道主義超大国」(humanitarian superpower)とであることを自他ともに認めてきたはずなのですが・・・。


例えばスウェーデン移民局の推定によると、スウェーデンにおける「外国人」はスウェーデン人に比べて職を見つけるのが非常に難しい。スウェーデン全体の雇用率は78%なのに、ローゼンガードという移民が多く住むエリアの雇用率は27%にすぎない。スウェーデン社会で外国人が隔離(segregation)されている状況を表しているということです。

スウェーデンの年度別難民受入数

これにはスウェーデンの産業構造がサービス産業やハイテク産業が中心になっているということが理由として挙げられている。つまり高学歴であることが要求される職場が多いということです。外国からやって来た移民たちが職を得るのは大体において小さな会社であることが多い。大企業に比べると労働時間が長い割には給料が安かったりして、子供をまともな大学へ進ませるような余裕がないのが普通である、と。となると、欲求不満に陥った移民の若者たちが犯罪に走り、それがスウェーデン人の反感を呼び、右翼勢力の台頭を促すことに繋がる。

スウェーデンにおける右派政党の得票率
スウェーデンの右派政党であるスェーデン民主党の過去約10年間における選挙の得票率です。2006年の時点では約3%に過ぎなかったものが、移民の受け入れが盛んになった2013年ごろから急速に得票率が伸びている。

スウェーデンはここ数年にわたって移民がかなりの数で増え続けているのですが、2015年の一年だけで16万人を超える難民が入国している。人口約1000万の国が受け入れた難民が16万人というのはかなりの数字ですが、これを遂行した与党の社会民主党の連立政権が窮地に追い込まれ、右派野党のスウェーデン民主党が移民を年間3万人に減らすように要求、政府もこれを受け入れざるを得なかった。

スウェーデン議会の勢力図(議席数)
スウェーデンでは今年(2018年)9月に議会選挙が行われ、上のような議席配分となった。議会の総議席数は349で、第一党の社会民主党(100議席)が左翼党(28)、緑の党(16)と連立を組んではいるけれど、過半数(175)には及ばず、少数政権の状態になっている。「穏健」「中央」「キリスト教民主」「自由」の4党が「中道右派」と呼ばれている。注目されるのは第三の政党であるスウェーデン民主党です。ここに挙げられた政党の中でも最右派とされており、移民に反対する主張で第三の勢力にまで伸びている。選挙後にスウェーデン民主党が「中道右派」に社会民主労働党政権に反対する共同歩調を呼びかけたけれど断られている。

現在のスウェーデン経済にとって最大の課題は技術労働力の不足で、ハイテク企業はそれなりの労働力が存在する英国やドイツに進出しようとする。マイケル・コタキスが主張するのは、いまのところ高等教育の恩恵に充分に浴していない移民たちの技術力の向上を図るということで、そうすることで移民がスウェーデン経済にとっての救いになる(Sweden’s salvation)というわけです。いまのところ長時間・低賃金労働という環境にある移民の若者にとって、将来の可能性を感じさせるのはオンラインによるITを中心にした技術教育です。さらに企業の側にも移民の労働力の積極的な採用も求められる。
  • これからのスウェーデン政府は、このような事実を国民に伝える必要がある。さもないと、これまで大いに称賛されてきた「北欧モデル」がゆっくりと空洞化の道を歩むことになってしまうだろう。
    Future Swedish governments must communicate these facts to their citizens, or face the slow hollowing out of the much-vaunted Nordic model.
とコタキスは言っている。

▼技術労働力の不足を移民の若者を訓練することで乗り切ろうということですよね。何とかがんばってもらいたい。日本のように「労働力ならいいけど移民はダメ」というのでは余りにも情けない。手前勝手なガキと同じです。

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4) 反ユダヤ主義の不可解


10月27日、米ペンシルベニア州ピッツバーグのユダヤ教礼拝所で起きた銃撃事件の犯人が、駆けつけた警察官に「すべてのユダヤ人に死を」(I want all Jews to die)と言ったと伝えられています。彼はまたSNS上で「ユダヤ人は悪魔の子供だ」(Jews are the children of Satan)と書いているということも伝えられている。


英米のメディアでは "anti-Semitism" という言葉をかなり頻繁に目にします。辞書を引くと「反ユダヤ主義」という日本語が出ている。ユダヤ人というと「金儲けばかり考えている」などと言われるけれど、金儲けを考えるのはユダヤ人だけではない。にもかかわらずユダヤ人は欧米社会で反感をもって見られることがあるように見える。ピッツバーグの銃撃事件の犯人はなぜ銃撃事件を起こすほどまでにユダヤ人を憎んでいたのか?どうも分からない。

むささびの疑問に答えてくれるような記事はないものかと思っていたら、スウェーデンのSKMAという組織が運営している "What is antisemitism?"(反ユダヤ主義とは何か?)というサイトに出会いました。SKMAは人種差別や反ユダヤ主義に反対するNPOのような組織らしい。

そのサイトによると、欧米社会に根付いている反ユダヤ主義のルーツを探っていくと、キリスト教という宗教の誕生に行き着く。もともとキリスト教自体がユダヤ教の一部であったものが、イエス・キリストの登場とともにユダヤ教とは別の宗教、しかもライバル関係にある宗教として発展してきた。つまりキリスト教は誕生の時点で反ユダヤ教的な性格を有していたわけですが、7世紀~15世紀のほぼ800年間におよぶヨーロッパのキリスト教化現象の中でライバルであったユダヤ教はマイノリティ宗教として存在することを余儀なくされた。


ユダヤ人の経済的、宗教的な権利は制限され、ユダヤ人たちはゲットーと呼ばれるユダヤ人街で暮らすようになり、キリスト教徒とは異なる衣服をまとうことを強制されたりした。生活上の規制を課せられたユダヤ人たちの中には、生きていくために金貸しなどを生業とするように者もいて、それが社会全体の反ユダヤ人意識を高めることにもなった。そうする間に庶民の間にユダヤ人に対する様々な噂や定見が作られるようになった。悪魔の手下(Devil’s underlings)とかキリスト教徒の子供を殺しているとか、井戸に毒を撒いて黒死病(the Plague)を流行らせた等々という噂が立てられるようになった。そのことによってユダヤ人は危険かつ邪悪なる存在であり、異邦人(alien beings)である言われて「人間以下の存在」(less human)と見なされるようになっていった。そして第二次大戦後、多くのユダヤ人がヨーロッパを離れた。ある者はアメリカへ、ある者はイスラエルに新天地を求めた。現代のユダヤ人にとってアメリカは「約束の地」(promised land)であり、ヨーロッパは「墓場か博物館」(a museum or graveyard)のようなところだった。

世界のユダヤ人


現在世界中で暮らすユダヤ人の数はざっと1450万人。Jewish Virtual Libraryというサイトによると、イスラエル(645万人)が最も多いのは当然としても、このグラフを見ても如何にアメリカ(570万人)という国がユダヤ人にとって「約束の地」(promised land)であったかが分かります。

ピッツバーグの銃撃に関連して、11月1日付のThe Economistが「欧米における反ユダヤ主義」(Anti-Semitism in the West)というかなり長い解説記事を載せているのですが、それによると「反ユダヤ人感情は形を変えながら生き残っている」(Jew-hatred keeps mutating to survive)とのことであります。ある英国のユダヤ教指導者は欧米人の反ユダヤ意識を次のように表現している。
  • ユダヤ人は貧乏だと言って嫌われ、金持ちだと言って憎まれ、共産主義者だとして非難され、資本主義者だとして嫌われる。内向き(they kept to themselves)だと言われる一方で、どこへでも入りこむ(infiltrated everywhere)と疎まれるし、古臭い昔ながらの宗教に頑固にしがみつく一方で、何も信じないコスモポリタン(rootless cosmopolitans who believed nothing)として根無し草扱いされる。
つまり何をやっても嫌がられる存在である、と。

イスラエルの人種構成

ただ現代では「新しい反ユダヤ主義」(a “new anti-Semitism”)が力を持っていると考える人間が多い。即ち1967年の第三次中東戦争でイスラエルが勝利を収めた後で一般的になってきたもので、ソ連などはユダヤ人を「シオニストでありアメリカの手先でもある」として非難するようになった。シオニストというのは「ユダヤ人の民族国家をパレスチナに樹立することを目指した運動を進める人びと」のことです。この考え方は、イスラエルによるパレスチナ人迫害とも繋がってイスラム世界における反ユダヤ主義の高まりとも時が一致している。

つまり「新しい反ユダヤ主義」はユダヤ教というよりも、国としてのイスラエルに批判的な思想のことになる。例えば英国の労働党が現在「反ユダヤ主義」を巡って揉めている。コービン党首によるイスラエル批判のコメントが「反ユダヤ主義」と解釈されてしまっているからです。イスラエルの人口は約870万人ですが、うちユダヤ人は75%であり、残りの25%はアラブ人などで占められているし、宗教的にもユダヤ教が主流ではあるけれど、イスラム教徒もキリスト教徒も存在する。

イスラエルにおける宗教

ただ最近のいわゆる「反ユダヤ主義」が実際にどの程度「反ユダヤ人」なのかを疑問視する声もある。The Economistが指摘するのは、ピッツバーグの銃撃事件が極右人間の行動を思わせるということです。特に白人優越主義者(white supremacists)と呼ばれるグループの発想で、彼らにとってはユダヤ人も黒人もイスラム教徒もそれ以外の非白人マイノリティはすべて憎しみの対象である、と。しかもアメリカの極右人間にはヨーロッパのそれに比べるとはるかに自由な意見発表の機会が与えられている。それにプラスして緩やかすぎる銃規制という「味方」もある。


ジョージ・ソロス

反ユダヤ主義に対抗するADLという組織が昨年(2017年)約400万件にのぼる反ユダヤ的ツイッター・メッセージを調査したところ、彼らが好む話題の一つがジョージ・ソロスを悪者扱いして叩きまくるというツイートだった。ソロスはハンガリー生まれのユダヤ人投資家で、リベラルな運動に対する資金援助で知られている。このソロス叩きのルーツはロシアで、そこからセルビア、マケドニア、トルコを経てソロスの出身国であるハンガリーにまで拡大している。そしてこれが英国にも広がって、ある新聞などは、ソロスがBREXIT潰しを企んでいる(backing secret plot to thwart Brexit)という見出しを掲げたりしている。


イングランド銀行をダメにした男がBREXITを邪魔しようとしている・・・英国のテレグラフ紙(保守派)がソロス氏を批判する記事を掲載している。この新聞は「高級紙」とされているけれど、なりふり構わずという感じですね。

The Economistの記事によると、ヨーロッパにおける「反ソロス」の言動は直ちにアメリカの右翼勢力によって受け継がれ、それはドナルド・トランプによっても引き継がれている。昨年8月、バージニア州シャーロッツビルで起こった右翼勢力による集会における反右翼勢力との衝突事故が起こり、反右翼の女性が右翼成年の運転する車に轢かれて死亡するという事件が起こった。集会に参加していたネオナチのグループが「ユダヤ人の勝手にはさせない」(Jews will not replace us!)というスローガンを叫んでいた。死亡事故のあとのトランプのコメントがユダヤ人の反発を買っている。ネオナチにもそれに反対するグループを並べて「どちらにも良い人間はいる」(very fine people on both sides)というものだった。

現在のユダヤ人は欧米のエリート社会にも溶け込んで暮らしているが、反ユダヤ人意識そのものが完全になくなったわけではない。あるユダヤ教のラビは、「反ユダヤ主義は世界における自由・人間性・違いの尊重のような価値観に対する最も早く現れる否定現象だ」と言っている。ユダヤ人に対する暴力は、ユダヤ人のみではとどまらず、他の人間にも波及する。The Economistの記事はピッツバーグの事件について「これまで黒人の教会を襲撃してきた殺人的な憎悪がついにユダヤ人にまで迫ってきたのだとも言える」として
  • 次は誰の番なのか?
    Who will be next?
という疑問文で結ばれています。

▼むささびの無知をさらけ出すようで情けないけれど、Famous Jewish Peopleというサイトに出ている世界的に有名なユダヤ人のリストを見て改めて驚いてしまった。モーゼとイエス・キリストは別格(?)として、むささびでさえ知っている人物だけ抜き出してみると、カール・マルクス(哲学者)、レオン・トロツキー (マルクス主義革命家)、アルバート・アインシュタイン(物理学者)、シグムンド・フロイド(心理学者)、ミルトン・フリードマン(経済学者)、ノーム・チョムスキー(言語学者)、エリザベス・テーラー(女優)、ダスティン・ホフマン(男優)・・・驚きました。

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5) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 

frankly:はっきり言って


むささびが「筆癖」のように使う「はっきり言って」ですが、New Yorkerという雑誌によると"frankly"という言葉はトランプの口癖なのだそうです。何かというとこの言葉を使うらしい。直近の例として、ピッツバーグにおけるユダヤ教礼拝所の銃撃事件について「礼拝所に銃を持った警備員を置いておけば悲劇を止めることができたはず」という信じられないようなことを言ったあとで
  • Maybe there would have been nobody killed except for him, frankly.
と続けたのだそうですね。武装警備員がいたら「殺されたのは、犯人だけだったろうに、はっきり言って・・・」というわけ。殆ど意味のない付け足し言葉ですよね。同じような英語として思いつくのは"honestly", "to be perfectly honest", "believe me", "believe or not" 等々実にいろいろある。Urban Dictionaryというサイトが"frankly"について
  • しばしばブルジョア・エリートが自分をインテリに見せたくて使う言葉
    Is often used by bourgeois elitists in attempt at appearing intelligent.
と定義している。"quite"という言葉をアタマに付け、"rather"という言葉が入った文章を続けるのが最も一般的なパターンなのだそうです。
  • Quite frankly, I found the performance rather dull. はっきり言って、あのパフォーマンスはどちらかというと退屈だった。
という具合ですが、Urban Dictionaryによると、この中の"quite frankly"と"rather"は"completely useless words"なのだそうです。

一杯飲み屋における定年直前の日本人の課長さんのトーク:
  • 「だからさ、オレ、部長に言ってやったのよ、はっきり言って・・・それはないでしょ、部長ってさ・・・だからさぁ、お前だってそう思うだろ?冗談抜きにしてさ・・・だろ?よぉ、だろ?」
日本語の「はっきり言って」を多用する人間の心理についてあるサイトが
  • 1.心の中で不満をためていることが多い
    2.相手に話を聞いてもらいたい
    3.話をまとめたい
    4.自分はなんでも悟っていると感じている
と説明しています。むささびに関して言うと、2)と4)は分かるけど、1)と3)は当てはまらないな、はっきり言って。
 
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6)むささびの鳴き声 
▼韓国大法院が韓国の徴用工による損害賠償を求めた訴訟についてこれを認めた判決を下したことについて門田隆将さんというジャーナリストが『今こそ「日韓断交」の準備を』と呼びかけております。詳しくはこの人が書いたブログ記事を読んでもらいたいのですが、彼によると韓国という国は、「近代国家としてあり得ないこと」が通用する国であり、この判決は日本が韓国と付き合う上での態度を決めるための参考材料を与えてくれたものなのだそうです。彼のエッセイの締めくくりの文章が彼の主張を端的に語っています。
  • 日本人は、本当に怒っている。そのことがわからなければ、彼らはいつまでも日本は「圧力に弱い」と舐(な)め、お互いがお互いを助け合うという「真の友好」は生まれまい。今こそ、そのための第一歩である「日韓断交」の機会が訪れたのである。

    ということであります。
▼韓国大法院の判決について、シンゾーは「お話にならない」と言い、河野外務大臣は「毅然たる態度で臨 む」と言っており、メディアというメディアが門田さんのような主張で埋め尽くされているように見える。毎日新聞 の記者がこれらの反応について、「他国の裁判所の判決を批判・非難するのは相手国の三権分立を無視 するのと同じ」という趣旨のツイートを発信したところ、批判が殺到して「炎上」、記者がこれを削除したという ニュースもありました。むささびが知りたいのは韓国側の言い分です。それも詳しく。韓国大法院の判決を支持する韓国人が何を想っているのかということ。それを日本人のジャーナリストがじっくり取材して伝えて欲しい。その昔アイルランドの劇作家であるバーナード=ショーが「少数意見もたまには正しいことがある。多数意見は常に誤っている」(The minority is sometimes right; the majority always wrong)と言いました。そのとおりであり、現在の日本では門田さんのような意見がmajorityであることは間違いない。

▼門田さんは結論の部分で、日本が「断交も辞さず」という強い態度に出ないと、「彼ら」(韓国人のこと)は日本人を舐めてかかるのであり、そんなことでは「真の友好」は生まれないと言っている。つまり日本は「舐めるんじゃねえ!」と言いながら「お前なんかとは絶交したっていいんだぜ」と宣言することが「真の友好」に繋がる、と言っているのですよね。「あんたらは近代国家としてあり得ないことが通用する国なんだ」と「正直に」言うことが真の友好に繋がるってこと?

▼最初に載せたアメリカの中間選挙に関する記事にぶら下げたむささびのコメントの中で、テキサスのベト・オルークという政治家について書きました。この人はまだ46才です。でも言っていることは理想を掲げながらも現実も忘れない、説得力がある。朝日新聞はこの人のことを「未来のオバマ」と言っている。むささびはあり得ると思いました。英国のトニー・ブレアやデイビッド・キャメロンが首相になったのは44才ですからね。オバマは48で大統領だった。ジョン・F・ケネディも44。メルケルは51才、サッチャーは54才です。シンゾーが首相になったのは58、小泉さんは59だった。違い過ぎる。トランプは70だから論外?

▼トランプがCNNのようなメディアと対決していますよね。彼なりの読みで、何かというと偉そうな顔をして政府のやることにケチをつける主要メディアをやっつけることで、却って国民的な人気が高まると思っているということがあると思っているのではないかと思うけれど、もう一つの理由としてCNNなどと競争するメディアが自分を援助してくれるという読みもある。シンゾーはトランプ以前からそれをやっています。何かというと「朝日新聞はけしからん」という風にメディアを特定してけなしまくる。自分には朝日のライバル紙がついているからダイジョウブと思い込んでいる。朝日新聞の読者をも自分の味方につけようと努力する気など最初からない。その意味でシンゾーもトランプも国をまとめようという気など最初からない。

▼2番目の記事で語ったBREXITですが、英国メディアを見ていると離脱派も残留派もウンザリしているという感じです。2016年6月以来延々続いている分断と混乱に、です。国民投票のやり直しを求めるデモがロンドンで行われたときも、ワンちゃんにBREXIT反対の腹巻をさせて行進したりする参加者が目立ちましたね。BREXITには反対なのだけど、ヒステリー症状にだけは陥りたくないという感覚ですかね。

▼今日は11月11日、このむささびは11時11分に発送しよう。お元気で!


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むささびへの伝言