musasabi journal

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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 前澤猛句集
 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
563号 2024/9/22


目次

1)スライドショー:「動かないもの」の迫力
2)ヨーロッパとイスラエル
3)再掲載:サッチャーが恐怖した核戦争
4)どうでも英和辞書
5)むささびの鳴き声
6)俳句

1)スライドショー: 「動かないもの」の迫力

今回もまたBBCのサイトからお借りしました。テーマは "still life" だそうです。静かな命です。

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2)ヨーロッパとイスラエル

9月15日付のThe Economistに
  • Why Israel has not yet lost Europe イスラエルはなぜヨーロッパを失っていないのか
という見出しの記事が出ています。この見出しには "Enemy of my enemy" (私の敵の敵)という注釈がついている。自分 (A) が「敵」とみなす人物(B)がいるけれど、その人物にも「敵」がいるとすると、その人物は自分にとっては「味方」ということになる…と(ややこしい)。

The Economistの記事はガザをめぐるイスラエル vs パレスチナの戦闘に絡めながら、ヨーロッパ人の対イスラエル観について書いているのですが、
  • Europeans are angry about Gaza, but they aren’t voting like it ヨーロッパ人はガザにおけるイスラエルとパレスチナの攻防に怒りを感じているが、必ずしも「いいね:like」のメッセージを送るつもりもない。
というイントロで始まっている。要するにヨーロッパはイスラエルが期待するほどには「反パレスチナ」ではないということです。

むささび自身は全く知らなかったのですが、世界の大都市では、毎年夏になると「女性解放」とか「反戦」などをスローガンにする人びとによるデモ活動が盛んに行われるのですね。オランダの首都・アムステルダムそのような町の一つでプライド・パレードと称するデモ活動が行われている。2024年の夏も例外ではなく、町中の運河がデモ隊による旗で埋め尽くされたのですが、この夏のデモでは一つだけ歓迎されない旗があった。それがイスラエルの国旗だった。


イスラエルによるガザ攻撃はヨーロッパの若者たちの反発を招き、アムステルダム、ベルリン、パリなどにおける大学キャンパスを舞台とする反イスラエルのデモが繰り返された。

ただ、これらの反イスラエルの高揚が、具体的にイスラエル政府に不利に働いているという様子はない。多くのヨーロッパの国では反イスラエル論の高まりと同時にそれぞれの国における「右派」の高まりも目立っている。欧州における「右派」は大体において反イスラム・イスラエル支持の傾向が強い。

The Economistによると、欧州における対中東の姿勢は三つに大別される。一つは地中海および北欧における国々のパレスチナ人に対する姿勢で、大体において同情的なものが多い。最近外交面でイスラエルにとって痛手となったのは、アイルランド、ノルウェー、スロベニア、スペインがパレスチナを国家として認める姿勢を明確にしたことである、と。スウェーデンなどは10年も前からこのような姿勢をとってきているのだが…。


イスラエルに対する姿勢があいまい(equivocal)な国もある。代表的なのがドイツ。第二次大戦中のユダヤ人迫害という経験もあって、現在のイスラエルを支持することが「理性的:reason of state」という姿勢が政策決定にも目に付く。国民感情で比較すると、イスラエルに肯定的なドイツ人の国民感情がデンマークやスウェーデンなどよりも高い。

フランスはどうか?この国はこれまでにもすでにガザにおける停戦を呼びかけ、支援物資などを送付したりしている。フランスはヨーロッパの中では最もユダヤ人の多い国であると同時に、西欧諸国の中ではイスラム教徒の人工が最も大きい国でもある。

イタリアの場合、国民レベルではイスラエルに対する反感は強いけれど、それが政治的な行動に結びつくということがない。ただ、中道左派とされる民主党も右派と目され、政権政党であるイタリア兄弟党(Brothers of Italy)もイスラエル寄りと目されていることは間違いない。

ドイツもフランスもイタリアも「対イスラエル」についての思想は似ているが、このところイスラエル政府が力を入れているように見えるのが、中欧・東欧諸国との関係強化であり、ネタニエフ首相もハンガリー、ポーランド、チェコ、バルト3国とのリーダーたちとも接触を深めている。


これからのイスラエルとヨーロッパの関係を左右するうえで最も大きな比重を占めるのは、いわゆる「右翼勢力」との関係であろう、とThe Economistは言っています。フランスのNational Rally、ドイツのAlternative for Germany (AfD)、スペインのVox partyなどの媒体がそれに当たるのだそうです。

オランダについて言うと、現政権は、自由党・自由民主国民党・新しい社会契約・農民市民運動の4党から成る連立政権なのですが、第二次大戦後のオランダに誕生した政権としては「最大」かつ「最も右寄り」とされている。政権リーダーのギアート・ワイルダーは青年の頃にイスラエルのキブツ(農業共同体)で生活した経験も有している。

オランダ連立政権の合意書は、合意事項の中に「オランダ大使館をエルサレムに移動すること」という文章が入っている。そのこと自体はあり得ないことかもしれないが、イスラエル政府に対して「ある信号」を送ることになるだろう…というわけで、The Economistの社説は次のような言葉で結ばれている。
  • ヨーロッパ人はガザにおける流血に怒りを禁じえないかもしれない。が、ワイルダーのような人物を指導者として選んでいる限りにおいて、心配することは殆どないだろう。Europeans may be angry at the brutality in Gaza, but as long as they vote for leaders like Mr Wilders, Israel has little to worry about.
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3)再掲載:サッチャーが恐怖した核戦争
 

Able Archer 「本物の脅威」 レーガンと「悪の帝国」

むささびジャーナル280号(2013年11月17日

核兵器廃棄運動を続けている英国のNPO、Nuclear Information Service(NIS)によると、1983年11月、米ソの冷戦がもう少しで本当の核戦争を誘発するところだったのだそうです。11月2日付のThe Observerが伝えています。これは英国の情報公開法(Freedom of Information Act)に基づいてNISが得た政府の資料によって明らかになったものです。

Able Archer

1983年11月7日から11日まで、4万人が参加して西ヨーロッパ全域を舞台にAble Archerと呼ばれる、核戦争を想定した米軍とNATO軍の合同軍事演習が行われたのですが、当時のソ連政府がこれを本物の核戦争と勘違いして西側に核の先制攻撃を行うところであったというわけです。もう少しで核戦争という危機的状況を回避したのが、当時の英国首相、マーガレット・サッチャーの危機感であったということです。


この軍事演習ですが、当時は共産圏だったユーゴスラビアで政情不安が起きたことをきっかけにして、ソ連側のワルシャワ条約機構の軍隊(Orange Forces:オレンジ軍)がユーゴスラビアに進駐したという想定で、それに対抗するNATO軍(Blue Forces:ブルー軍)が同盟国を防衛するというシナリオだった。それによると、オレンジ軍はフィンランドとノルウェー、それにギリシャに侵攻、事態はさらに核戦争にまでエスカレート・・・という筋書きで行われたのだそうです。

これは単なる演習に過ぎなかったのですが、オレグ・ゴルドエフスキー(Oleg Gordievsky)というソ連からの亡命者の情報によると、ソ連政府はこれを「本物の脅威」(real threat)としてとらえており、東独とポーランドの戦闘機に対して核兵器を搭載するように指示があり、核ミサイルを搭載したソ連の潜水艦が(敵に察知されることを防ぐために)北極の氷の下に待機するという体制をとっていた。こうしたソ連の行動はNATO側によって監視されていたのですが、NATOはこれを「ソ連側の軍事演習」と考えていた。

「本物の脅威」

ただ、ゴルドエフスキーからの情報を得ていたサッチャー政権の内閣官房長官であるロバート・アームストロング(Robert Armstrong)はサッチャーに対して、Able Archerに対するソ連の反応が軍事演習とは思えないというブリーフィングを行った。その根拠として、ソ連の行動が国内の大きな祝日にとられていること、「演習」にしては動きが実際の軍事行動に酷似しており、それがAble Archerの主なる舞台である中欧地域に集中していることなどを挙げたのだそうです。

アームストロングによる説明を聞いたサッチャーが自分の部下たちに下した命令は二つあった。一つはAble Archerに対してソ連が過剰反応する危険を如何にして取り除くかを考えること、もう一つは、危機的状況をアメリカ政府に緊急に知らせる方法を考えることだった。


英国では外務省と国防省の共同作業でアメリカ政府とのディスカッション・ペーパーが作られ、NATO軍がソ連に対してAble Archerが通常の演習に過ぎないことを通報すべきであると提案した。その後、レーガン大統領も英国政府への通報者であるゴルドエフスキーと面談、サッチャーと危機感を共有するに至りソ連とのデタントへと方針を切り替えることになった。

レーガンと「悪の帝国」

思えば1983年という年は、3月8日にフロリダでレーガン大統領が、ソ連を「悪の帝国」(the evil empire)と名指しで非難、Star Warsと呼ばれる戦略防衛構想を発表した年であり、しかも9月には、誤ってソ連上空に入ってしまった大韓航空機が、アメリカのスパイ機と誤認されてソ連の戦闘機に撃墜されるという事件も起こるなどして、米ソ間の不信感が一触即発のレベルに達していた年でもあった。

今回開示された情報について、NISのピーター・バート(Peter Burt)理事は次のようにコメントしています。
  • The Cold War is sometimes described as a stable 'balance of power' between east and west, but the Able Archer story shows that it was in fact a shockingly dangerous period when the world came to the brink of a nuclear catastrophe on more than one occasion. 冷戦というものを、東西の力のバランスがとれた安定状態などと表現する向きがあるが、実は世界が一度ならず核の大悲劇の淵に立っていたということであり、このAble Archerが示しているのは、その時代が衝撃的ともいえるくらい危険な時期でもあったということだ。

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4)どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら

complacency:ひとりよがり

上の写真は本日(9月22日)付けのBBCのサイトに掲載されていたもので、アメリカの秘密警察の関係者がメディアのインタビューを受けているところです。記事の見出しは "
Secret Service admits 'complacency' before Trump rally shooting"(トランプ襲撃の前、秘密警察の側に「ひとりよがり」があったことを認める)となっている。

2か月ほど前に共和党の大統領候補であるドナルド・トランプが集会で撃たれたことがありましたよね。耳を撃たれたけれど本人は無事だった。あの頃は「トランプが無事だったのは秘密警察のおかげ」というムードの報道だった。

が、最近になって、あの時の警備のやり方がお粗末すぎたことが襲撃に繋がったということを秘密警察自体が認めるようになったと言われるようになった。BBCの記事によると、あの日現場にいた秘密警察官がそれぞれに所持していた通信機器の周波数が別々のものだったりしたのだとか…。

'complacency' という言葉を研究社の英和辞書で引くと「自己満足; ひとりよがり」という説明が出ている。Cambridgeの辞書の説明は "a feeling of calm satisfaction with your own abilities..." となっている。正に「ひとりよがり」ですな。

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5)むささびの鳴き声
 
▼文字通り、思いつくままに。大谷という日本の野球選手が、大リーグで「51本塁打・51盗塁」という記録を樹立した件。心底驚きました。が、同時に時代の移り変わりを感じましたね。むささびのアタマの中では、大リーグで活躍する日本人といえば、イチロー、野茂と相場が決まっていたのよね。大谷という人は、何なんですかね。

▼大谷で思い出したけれど、ラジオのニュースを聴いていたら「そのに日活躍した日本選手」というので、いろんな大リーガーの名前が挙がっていた。むささびは殆ど知らない選手ばかりでした。

▼もう一つ、野球の話題。今年のパ・リーグの最下位はどのチームでしょうか?44勝・87敗、もちろん我が西武ライオンズであります。あきれ返ったものです。

▼自民党の総裁選ですが、9月14日に日本記者クラブで「立候補者討論会」なるものが開かれましたよね。むささびは自宅のテレビで見ていたのですが、ちょっと不思議な気がしたのは候補者に質問をする記者(4人だったかな?)の顔が全く映らなかったってこと。もちろん質問者より候補者の顔を写す方が大事だと思ったのだろうけど…。いずれにしても何から何まで文字通り「予定通り」の進行でした。あれでいいんですか?「杓子定規」のことは英語で何と言うのでしょうか?"Formalism" とか "sticking to rules" あたりが無難かな?

▼夜になると虫の音がよく聞こえるようになりました。「虫の音」は…英語で "insects' singing" というらしいけど、何だか「虫の音」らしくないな!

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