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017 フィンランドが気にするロシアの「歴史認識」 | |||
フィンランド最大の日刊紙、Helsingin Sanomatのサイト(英文版)を見ていたら「えっ?」と思うような記事が出ていました。題して「ロシアの新しい教科書ではスターリンが英雄扱い(Stalin portrayed as hero in new Russian school textbook)」。つまり歴史教科書の記述が問題になっているのは、日韓・日中だけじゃないんですね。 白状すると、ロシアとその「あちら側」(フィンランド寄りということ)の歴史など何にも知らないので、Helsingin Sanomatに出て来る人名・地名・出来事などについては分からないままに紹介してみます。 Helsingin Sanomatによると、ロシア政府は、現在使われている歴史教科書の中の20世紀・21世紀のロシア史については不満だとしており、このほどある学者グループが書いた教科書を「推薦」(recommend)することにしたのだそうであります。ロシア版の「新しい教科書を作る会」ですな。 この教科書は「スターリン政権が独裁的であったことは認めながらも、権力を集中させることで近代的な産業基盤が確立され、ソ連は近代化に成功し、先進国の民主的な価値観を受け入れるようになった」として、スターリンにも評価されるべき点はあったのだ、というニュアンスのことを言っている(とHelsingin Sanomatは書いている)。 Helsingin Sanomatが批判的に書いていることは他にもあります。
というわけです。 フィンランドの新聞が問題にしているロシアの歴史書き換えという話題は、11月10日付のThe Economistでも取り上げられています。こちらの場合は、フィンランドの問題ではなく、「書き換え」をしようとしているロシアの意図と事情を解説する記事になっています。 社会主義ソ連が崩壊して以来、ロシアは「公式イデオロギー」(official ideology)というものを持たずに過ごしてきた。ロシアのエリートたちは、ソ連時代の「壮大なる社会設計」(grand design)にはうんざりしており、現実主義(pragmatism)と物質的に豊かになること(enrichment)の方に力を注いできた。プーチンでさえ、2004年の時点で、自分の夢は「ロシアを経済的に競争力のある国すること(to make Russia competitive)」と語っていた。 それがエネルギー大国として力を持ち、世界的にも中心的な役割を果たしたいという念願が強くなるに及んで、ロシア人の意識を高揚させるような「何か」が求められるようになった。The Economistによると、ロシアという国では、国の現在や未来よりも「過去」を語ることに大いなる情熱が注がれるのだそうです。
今年の初めに歴史の教師たちを集めた会議があったのですが、そこでプーチンは次のように演説したのだそうです。
プーチンのメッセージは「何びといえども、我々に罪の意識を強制することは許されない(we can't allow anyone to impose a sense of guilt on us)ということにある、とThe Economistは言っています。 『ロシア現代史:1945-2006』というタイトルの教師のためのマニュアルが出ており、次のような事柄が含まれているのだとか。
というわけで、ロシアはいま「新しい孤立」の時代にある(a new isolation of Russia)と書かれている。このマニュアルにはさらに次のような記述もあるそうであります。
そしてこのマニュアルの最終章は「主権的民主主義」(Soverign Democracy)というタイトルになっていて、政府のイデオローグである、ウラジミール・スルコフという人の考え方が紹介されている。 この人によると、ロシアに必要なのは、ロシアの国民性に適した政治体制であり、国際規準などは「外圧」として無視した方がいい。で、ロシアの国民性とは「本能的に強い指導者を希求する(instinctive longing for a strong hand)」性格であり、政治体制としては、中央集権・権力の個人化と理想化(centralisation, personification and idealisation of power)という形になるのが、ロシアという国の政治文化だ、とされている。つまり組織(institution)よりも強力かつ賢明なる指導者(strong and wise leader)の方が重要視されるということだ、ということです。 The Economistは「強力かつ賢明なる指導者」とはもちろんプーチン大統領のことであり、歴史教科書の書き換えも結局はプーチンを神格化するために行われているようなものだと言っています。 ロシアでは、学校でどの教科書を使うかは、今のところは自由なのですが、クレムリン版の歴史を見ると、その自由もそう長くは続かないかもしれない(the version of history now proposed by the Kremlin suggests that freedom may not last)」とのことであります。
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