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日英グリーン同盟
大阪府能勢町

エリザベスと捨て犬・捨て猫仲間たち


大阪・梅田駅から阪急宝塚線に乗って約30分で能勢川西に着きます。そこで能勢線というローカル電車に乗ってさらに30分弱ほど行くと妙見口。能勢線の最終駅です。妙見口駅から車で行くこと約20分で能勢町野間大原という集落に到着。お米の段々畑が広がっている中にあるのがARK (Animal Refuge Kansai)。英国人女性、エリザベス・オリバーが運営する動物保護施設です。ARKとは箱舟のこと。旧訳聖書に出て来るノアの箱舟(洪水から動物たちを守った)のARKです。敷地面積1000坪のこの「箱舟」で起居をともにしているのは犬200匹、猫200匹。いずれも捨て犬・野良犬・捨て猫・野良猫というカテゴリーの動物たちです。正確にいうとキツネと豚なども一緒に暮らしている。
  • 近所の人達はARKについて何か言っていますか?
  • 「彼らには私たちのやっていることは全く分からないと思う。ただ犬が沢山いるところとしか思っていないのよ。彼らの頭には動物愛護(animal welfare)などというものは存在しないのよ。人間福祉(human welfare)だってあるかどうか・・・」(と最初から厳しいことを言う)。
エリザベスが「単なる好奇心」で日本に来たのは30年前の1965年。都会よりも田舎が好きで能勢町に居を構える。付近を馬に乗って闊歩する「ヘンな外人」でありました。で、たまたま目にした捨て犬・捨て猫(保健所行きの運命にあった)の悲惨な状態に我慢が出来ずに約10匹のワンちゃんを収容したことからARKが始まったのが1990年のこと。それが神戸の大震災以後特に膨れに膨れて・・・。
  • 日本にはARK以外にも動物シェルターはあるのですか?
  • 「ありますが、私の知っているところの場合、スペースに限りがあるのに捨て犬・捨て猫をどんどん引き受けてしまう。そしてかなりの数の動物が"安楽死"させられている。日本では犬や猫を飼っている人たちがこれを飼い続けることができなくなったときに持って行き場がないのです。保健所へ持っていくか、捨てるしかない。保健所に行くということは、ゴミ扱いされて極めて残酷な方法で殺されるということよ。ARKはそのような境遇の動物たちを引き取って彼らのために新しい人間の家族を探すのです。ARKはシェルター、永遠の住まいというより一時避難所です」
敷地内にある彼女の自宅のリビングルームとおぼしき部屋に坐って彼女の話を聞く間にも7-8匹の犬が出たり入ったり、ソファや床に寝そべったり、実に賑やかなのですが、テレビのペット番組などとは空気(犬が醸し出す雰囲気のこと)が全く違う。まず人間が思わず「カワイイーッ!」と黄色い歓声を上げそうなのは一匹もいない。

それからハスキー、シェパード、ドーベルマンのような一見してそれと分かる「血統書付」も殆どいない。全員が雑種そのもの。中には足が3本しかなかったり、目が見えないという「身障犬」も。にもかかわらず「悲惨」とか「暗さ」は何故か全くない。全員が妙に満ち足りている雰囲気なのですよ。 で、エリザベスの話を聞いていると、日本における捨て犬や捨て猫の悲惨な状態を訴える言葉あとからあとから出て来る。
  • 日本人は動物に対して格別に残酷な国民ですか?
  • 「動物虐待とか残酷はどこにでもあります。英国でも犬や猫をオーブンに入れて喜ぶようなアタマのおかしい人間もいる。日本と違うのは、英国やアメリカには、そのような人々に対処する社会的なシステムがある。王立動物虐待防止協会(RSPCA)のようなボランティア組織が非常に強い力を持っていて、必要な場合には立ち入り検査をすることもできるようになっている。日本の場合それがない。動物保護法というのはあるけれど、十分には生かされていない。RSPCAは400人もの検査官を擁して常に虐待行為には目を光らせている」
安楽死は許されるか?
ARKに収容されている動物たちはすべて不妊手術を受けています。「望まずに生まれて不幸にも処分される動物の数を減らす」ことがその理由。エリザベスはまた、自著「犬と分かちあう人生」(晶文社出版:1800円)の中で自分が愛したジャンケットという犬が不治の病にかかり、彼女の腕の中に抱きながら安楽死させたことについて、「ペットが苦痛にさいなまれているとき、あるいは"もはや生きている状態ではない"とき安楽死は飼い主がペットに与えられる最後の愛情表現だ」と言っています。

彼女は、日本では獣医でさえも「恐ろしい殺害手段(感電死・開頭減圧・ガス・棍棒で殺す)」と苦痛のない注射による安楽死には差異がないと考えている人がいる・・・と疑問を呈しています。
  • 英国にも動物シェルターはある?
  • 「もちろん。英国の場合、ペットを飼い続けることができなくなったらシェルターへ持っていきます。そこで新しい家族を見つけてもらうのです。もちろん見つからないこともあるし、場合によっては安楽死もある。でも日本のように保健所で殺されるか、スペースの全く不十分な施設で安楽死するか、捨てられるかという狭い選択ではない。まだ希望は持てます。

    それから日本の場合、犬を飼いたい人はペットショップに行くけれど、英国の場合は血統書付の犬を手に入れたければ飼育業者(ブリーダー)に行くし、雑種の場合はシェルターに行く。ペットショップではペット用品は売っているけれど動物そのものは売っていないのが普通です。日本のペットショップやブリーダーの場合、英国ほどの厳しい規制がなく、動物がかなり劣悪な状況におかれている。日本のお役所はもっと監視の目を光らせるべきですよ。

    ARKにしても大阪府の当局が検査に来たのはここができて10年以上もたってから。それも私たちが知らせたから。ARKも含めて動物を多数飼っているような施設は、もっときっちり検査をした方がいい」
2002年4月にARKの敷地に植えられたイングリッシュオークは2003年10月には背丈が優に3mを超えていた。びっくりするほどの育ち方です。
  • あなたは日本で30年以上も暮らしています。自分が日本的になったと思うことはありますか?
  • 「私の見るところによると、日本人は長い間日本で暮らしているガイジンより、昨日着いたばかりの外人の方が好きなのよね。カタコトの日本語を喋ったりすると"あんた、日本語上手だねぇ!"とか言って大喜びしたりしてね。私もかつては日本人のやり方に合わせようとしていろいろやったこともあったわ。贈り物とか挨拶するとか・・・。でもある時から自分は自分でいようと決めたの。実際、普通の生活における礼儀とか善悪とかの問題では、日本と英国の間ではそんなに違わないのよね。私はどうせイングリッシュなんだし、無理に変わることはないと決めたの。そしたら周囲の人(日本人)も何も言わなくなった。私も楽になった!」

    あなたが初めて来たころの日本では学生たちも政治デモをやったりして、結構ラディカルだったのにいつの間にか現状維持の保守人間になってしまったように思いませんか?
  • 「みんながそれぞれサラリーマンみたいになってしまっているということよね。人間、ただ自分や自分の家族のためだけに生きるのではなくて、何か社会に貢献するようなことをするべきだと私は思っている」
地震のさ中に熱い紅茶を・・・
エリザベスは自分という人間を表現するのに「頑固(stubborn)」「凝り性(eccentric)」「細かいことにうるさい(micro-maniac)」「整理・整頓下手のごちゃごちゃ人間(untidy)」などの形容詞を挙げています。最初の二つは「英国らしさ」を表現するのに良く使われますよね。私のARK観察によるならば、これらの形容詞のほかにもう一つ「行動家」を挙げたいですね。「思索家」の反対。thinkerというよりもdoer。考える前にやってしまう。考えていたらこんなこと出来っこない。

ところで1995年の神戸大震災の朝、揺れに揺れる台所で恐怖に怯える彼女がイの一番に行ったのは「一杯のおいしいお茶」を入れることであったそうです。で、地震のときには閉じておくべきガス栓を、あえて開いて熱い紅茶を入れて飲んだ。なるほど筋金入りのイングリッシュなんだ、この人は。やることが違う!



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