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むささびの鳴き声
052 森嶋通夫さんの北東アジア共同体構想

中国で「反日デモ」が荒れ狂った日、私は昨年(2004年)亡くなった経済学者でロンドン大学(LSE)の教授であった森嶋通夫さんが書いた「なぜ日本は没落するか」(岩波書店・1999年)という本を読んでいました。単なる偶然。その中で彼は「北東アジア共同体」なる構想について非常に熱心に書いていました。日本・中国・韓国・北朝鮮などを含めた「共同体」を作ろうというものです。

森嶋さんが提案したものなのですが「日本では殆ど注目されなかった」と残念そうに書いています。 このアイデアについて私などがどうこう言えるような知識も経験もありませんが、一箇所だけ紹介します。

森嶋教授が「北東アジア共同体」というアイデアについて「21世紀の関西を考える会」で講演したときのことで、聴衆の一人(30歳後半の男性)が次のように発言したそうです。

「日本は中国で残虐行為をしたから、一緒に共同体をつくりましょうという気持ちにはなりません」

この発言について森嶋さんは次のように書いています。

私はびっくりした。その逆のことを言う(つまり"残虐行為をしたから罪滅ぼしにでも今後は仲良くしたい")のなら話は分かるが、彼の言葉には耳を疑った・・・。

で、教授はその発言者に次のように聞き返したそうです。

「それなら言いますが、日本はアメリカに対しても残虐行為や不法行為をしています。真珠湾を(たとえ意図的ではなく、結果的にそうなったとしても)無警告攻撃し、フィリピンのコレヒドールでは米軍の捕虜に死の行進をさせました。だけど日本はアメリカと仲良くしています。アメリカとはできてもどうして中国とはできないのですか?」

質問者は怒ったような顔をして何も言わずに着席したそうです。 もう一つ、教授は1998年に中国の江沢民主席が来日したときに、共同体構想のようなものが少しは前進するのではないかと期待したのに、日本政府が中国に対する「おわび」を口頭で述べるにとどまり「文書化せよ」という中国の要求を拒否した、と残念そうに書いています。

そういえばそんなことありましたね。その時、私はロンドンでBBCのスタジオ見学をやっていたのですが、ニュース番組の放送風景を見ていたら、江沢民訪日のニュースが結構大きく扱われていたのを覚えています。報道のニュアンスとしては「日本は相変わらず自らの過ちを認めようとしない」というもので、その場にいた日本人である私はかなり居心地の悪い思いをしたものです。(2005.4.17)

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