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むささびの鳴き声 |
073 イングランドにて:英国人も政治にしらけている? |
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実に当たり前のハナシでありますが、日本にいながらインターネットを頼りに英国をウォッチングするのと、英国に身を置きながら英国を見るのではずいぶん違います。最近BBCで放映された"Power to the People"というドキュメンタリー番組を見ながらそのように感じてしまいました。 かつては保守党の党首にもなるのではないかと言われながら、いまはテレビを中心に評論家の仕事をしているMichael Portilloが、英国中のコミュニティを訪問して地元の人々と話をするという筋書きだった。選挙が近づく中で、Portilloの問題意識として、いまの英国では政治とか政治家というものが国民から遊離しているということがあって、「どのようにすれば政治が再び人々と繋がることができるのか?(how can politics reconnect with people?)」ということを問い直そうということがあったわけです。 結論からいうと、Portilloが訪れるどの町でも、間もなく行われる下院議員選挙についての関心が低く、その背景として「どの党が政権についても、どうせ自分たちの声が聞かれるということはないだろう」という諦めのようなものがある。少しだけ違ったのは「選挙で選ばれた市長」がいる町では、市長という政治家の存在を身近に感じているということと、どうしても自分たちの町に公的なサービスが必要となった場合は、住民自らがその運営に乗り出すボランティア精神のようなものがそれなりに芽吹いているということだったわけです。 かつて紹介させてもらったとおり、英国の地方都市で選挙で選ばれた市長さんがいるのはたったの12です。ロンドンもその一つですが、全国の地方自治体が152あることを考えるとたった12というのはいかにも少ない・・・というより、自治体によって選挙で選ばれる市長がいたりいなかったりという方が不思議だと思いません? Portilloが訪問するどの町でも住民に問いかけた質問が「自分の町について責任をとる(taking responsibility)ことを望むか?」というものであったことで、それに対する住民の答えは、この番組に関する限りは「イエス」だった。番組はキャスター役のMichael Portilloが視聴者に対して「政治は政治家がやるもの(politics is about politicians)という考えかたを止めなければならない」というメッセージを語るところで終わりでした。 Power to the Peopleという番組のタイトルは、保守党のキャメロン党首が最初から掲げているスローガンの一つです。権力がロンドンの中央政府に集中しすぎているのを改めて、「中央から地方へ」という分権(地方政府による税金の徴収も含む)ということもその一つですが、キャメロンが言っているのは「地方政府から住民へ」という意味の「分権」であり、その推進役を買うのが、この番組にも出てきた地方コミュニティにあるボランティア組織であるというのも、この番組のメッセージだったわけです。 この番組を見ていて、ちょっと意外に思ったのが、出てくる普通の英国人たちが政治というものに対して持っている諦め感覚の強さだった。それは、日本でもよく聞かれる「どうせだれがやっても変わらないのでは?」というのともちょっと違う。英国人の方が政治とか政治家に対して怒っている度合が強いということであり、「政治家は頼りにできないのだから、自分たちでやろう」という考え方に結びつき勝ちであるということです。 私が暮らしている村から10分ほどクルマで行くとWitneyという町に出ます。ここには全国チェーンのスーパーもあるので、それなりに賑わっている。Witneyも含めたこのあたり一帯は、今度の選挙では保守党のデイビッド・キャメロンの選挙区です。英国の場合は、日本の選挙と違って選挙区=出身地というわけではありませんが、いまのところWitneyの町にはCameronのCの字も見えない。 BBCのPower to the Peopleという番組を見ながら、英国の二大政党制をモデルにしているように言われる日本の政治について考えてしまった。あの番組に出てきた町の人たちが、自分たちの町を選挙区にする政治家の名前を殆ど知らない。英国の場合、国会議員は「おらが町の先生」ではなくて、ロンドンにある党本部が押しつけてきた人物なのですね。だからこそ「人物」ではなく「政策」を争う選挙ができる・・・これが英国の民主主義(の良さ)なのだ、と言われてきた。 で、Portilloの番組で示された英国人の中央政府や中央官庁に対するシラケ感覚に接すると、この国の人たちも現状に対する不満を抱えていて、変化を模索しているのではないかと思ったりしたわけです。アメリカではそれまでの常識を破ってオバマという人が大統領になったし、日本でも「自民党政権は変わらない」とされていた常識が打ち砕かれてしまった・・・というわけで、英国でもこれまでの常識が覆るような選挙になるのかもしれないと思ったりするわけです。 Witneyのパブのオーナーが私に「アタシはhung parliamentでいいと思うけどなぁ」と言っておりました。つまりどの政党も過半数に達しない状態の議会のことで、場合によっては多数党が政権についたとしても、別の党との連立を組まざるを得なくなるかもしれない。このオーナーは、今までのように「二大政党制」で、一党が圧倒的な力(リーダーシップ)を持って政治を行う「英国的民主主義」そのものに疑問を持ち始めているのかもしれないと(私は)感じてしまったわけであります。さらにPortilloの番組で紹介された、選挙区の政治家を知らない人たちは、主要政党によって送り込 まれた政治家、自分たちのコミュニティには直接関係のない政治家に投票するという「民主主義」にも疑問を持ち始めているのではないかとも・・・。
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