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むささびの鳴き声 |
075 イングランドにて:イングリッシュオークと棺桶コネクション |
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英国の田舎道を歩いていると、道端に大きな木が立っている風景にお目にかかります。上の写真はイングリッシュ・オークという木で、英国を代表する樹木のひとつとされています。日本でいうとナラにあたる。人間が手入れすることもなく枝も伸び放題で、勝手に大きくなってしまったようなものが多く、大体においてこのように「オレがオークだ、文句あっか!」という様子で立っております。不思議と曇り空や夕暮れ時の空を背景にするとサマになる。 イントロの部分で触れたイングリッシュ・オークですが、私、いまから8年前の2002年に行われた「日英グリーン同盟」というプロジェクトにかかわったことがあります。日本中の約200ヵ所の町や村に英国生まれのオークの苗木を植えようという企画であったのですが、その過程において、いろいろな町がいろいろな形で日英関係の長い歴史にかかわってきたことを知ることができた。 北海道・札幌の近くにある砂川という町にも一本のオークが植わっているのですが、この町の人によると、「いまから100年以上も前、この町にはナラの木がたくさん植わっていたけれど、英国に輸出するために伐採されてしまった。オークはナラと同じ。この際、一本くらい返してくれてもいいんでないかい?」ということだった。なぜ北海道のナラが英国に輸出されたのかというと、「棺桶を作る材料として使われたんだよ、信じないかもしれないけどさ」というわけです。 この話を英国の家具メーカーの人にする機会があったのですが、その人によると「それはあり得る話だ」とのことでありました。その人は仕事柄いろいろな木製家具を扱っているのですが、Japanese oakはイングリッシュ・オークよりも水分をたくさん含んでいるので、薄く切って折り曲げても割れにくいという性質があるのだそうですね。つまり棺桶のフタのたわみを出すにはJapanese oakの方がいいのだということです。 イングランドの田舎道にそそり立つオークの巨木を見ながら、8年前の砂川の人の言葉を思い出して、ネットを検索したら北海道大学農学部林産学科の宮島寛という人が書いた論文にお目にかかった。宮島さんによると、「第一次世界大戦が始まるまで,ナラのインチ材として小樽港からナラ材が大量に欧州に輸出された」となっている。なるほど、砂川の人の言ったことは本当だったのか・・・といまごろ感心した次第なのでありますが、この北大の先生はまた
と書いている。 つまり当時のナラの木は、砂川にとっても「おにもつ」だったということなのかもしれない。砂川のあの人、ギャグとはいえ「一本くらい返してくれてもいいんでないかい?」などと言っていたけれど、それほど恩着せがましく言うことではなかったのかもしれないな。尤もナラの対英輸出で儲かったのは砂川だけではない。伐採したナラを製材して輸出できるようにするために英国製の製材機が使われたのだから、英国の機械メーカーにとってもいいビジネスであったはず。さらにこれらの仲立ちになったのが、住友系の商社だったとのことで、日英貿易の草分け的なエピソードなのかもしれない。 2002年に行われた「日英グリーン同盟」という企画で植えられたオークは、背丈が約1メートルという赤ちゃんだった。イントロの写真で写っているオークの樹齢は間違いなく100年は超えているので、2002年に日本中に植えられたオークがこうなるころには、たぶん私はこの世にはおりません。
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