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むささびの鳴き声
082 イングランドにて:さよならFinstock

今年の3月から続いてきた英国からのむささびジャーナルも今回でお終いですが、英国滞在6か月のほとんどを過ごしたFinstockという村についてもう少しまとめておきましょう。

最初にお知らせしたのですが、この村には「お店」といえるものはパブが2軒、何でも屋さん(Village Shop)が1軒で合計3軒です。郵便局(Post Office)もあるのですが、これはVillage Shopの中に間借りしているような印象で存在しています。ネットのどこを探してもこの村の面積が見つからないのでありますが、端から端までクルマで5分も走ればお終いという感じという村です。

人口は10年前(2001年)の国勢調査によると707人ですが、村紙Finstock Newsの編集長によると、現在は約1200人となっている。編集長の言うことが正しいとするならば、10年間で人口が倍増したことになる。つまり小さな村であるし、人口だって決して多いわけではないけれど、過疎というわけではない。村人の平均年齢は40才だから高齢化社会でもない。

Finstock Newsの編集長の話では、結構高給取りのエンジニアや大学教授などが暮らしているのだそうです。どちらかというと「田舎暮らしに憧れてやってくる都会の人」が多い村のようであります。そう言えば我々が暮らしたCedar Cottageはアメリカ在住の大学教授夫妻の所有によるものだった。彼らは夏休みになるとやってくるのだと隣人が言っておりました。インターネットでFinstockの住宅の価格を見ても日本の感覚でいうと5000万〜6000万円というような住宅が結構ある。

最近この村に90戸の住宅団地を作ろうという動きがあったのですが、ある村人によると「我々の運動で廃案にさせた」とのことであります。この人はクルマで30分ほど行ったところにある飛行場で航空機の修理などをやっているエンジニアで、それなりのサラリーをもらって「田舎暮らし」を楽しんでいるわけです。私が「自分が田舎暮らしを楽しんでいるのに、他の人たちが入ってくるのをイヤがるというのは、それはアンタのエゴなんじゃないんですか?」と質問すると、「いいことを聞いてくれた」とばかり「違う。エゴではない。その90戸の住宅団地に誰が住むと思う?みんなweekenderなのだ。この村のことなどどうでもいいと思っているweekenderなのだ」と反対に説得されてしまった。

weekenderというのは、週末だけ"静かな田舎"を楽しみにみにくる都会の高給取りのことです。「自分らはここで暮らしているんだから、彼らとは違う」というのがそのエンジニアの言い分であります。ちなみにそのエンジニア夫婦が暮らしている住宅は15年ほど前に約6万ポンドで購入したものですが、いまでは25万はするとのことです。「若い人にはとても手が出ない値段」なのだそうです。

この村の日常生活でありますが、買い物はクルマで10分ほどのところにあるWitneyという町へ行きます。この町自体も人口3万程度でそれほど大きな都会ではないのですが、大手スーパーが3つも出ているほか全国チェーンの電器屋、コンピュータ・ショップ、薬屋、靴屋などが全てそろっている。もちろんパブやレストランもたくさんある。

Finstockにあるコンビニ風のVillage Shop、これが貴重な存在なのでありますよ。ちょっとした食肉・野菜類、サンドイッチ、新聞・・・セブンイレブンをうんと小さくしたような品揃えだと思ってください。しかしクルマでWitneyまで行くことができない高齢の村人には貴重なお店です。バスで行くこともできるけれど、1時間に1本しか走っていない。このVillage Shopが威力を発揮したのが、今年初めの大雪のときだった。全く初めての経験だったので、誰もタイヤにチェーンをつけたり、スノータイヤに代えることができない。そんなもの売っていない。それでも歩いて行けるVillage Shopには、基本的な商品だけはそろっていた。「あの悪天候のときは存在価値を分かってもらえたと思う」(We think the shop proved its worth)と店番をするMo Townsendは言っております。

開店時間は普段は午前8時〜午後6時、土曜日が午前8時〜午後1時、日曜日は午前9時から午前11時半ですが、面白いのはVillage Shopが地元の自治体からの交付金によって運営されているということです。何年も前に地元住民がお金を出し合って基金を作り、それを自治体に収めることで、自治体からの交付金が下りたのだそうです。マネジャーも「ほとんど無給に近い」ようなお金で引き受けている。店番の類は全くのボランティアが頼りだそうです。

そのVillage Shopと同じ建物の中にあるのが郵便局。開いているのは月曜日から金曜日の午前9時から午後1時まで。局長のジョイスさんは郵便局の仕事をして30年ですが、給料は1時間あたり6ポンドと決まっているのだそうで、日本の感覚でいうと、「時給600円」だからFinstock Newsの記者も「あまり魅力的とはいえないお金」(not very inviting)と言っている。「私がやっている間は閉鎖はしないけれど、リタイヤしたら後任が見つかるかどうか・・・」(Don't worry about closure here, yet, but it'll be hard to find someone to replace me when I retire)と言っています。

ここ10年ほどで全国の郵便局は19,000軒から11,500軒にまで減っており、これからも減り続けるだろうとされています。この郵便局が閉鎖されると、Finstockの住民でクルマのない人たちはバスで隣町まで行かなければならなくなります。バスの往復料金が3ポンド強で郵便は大体において1ポンド以下、つまり郵便料金よりもバス代の方が高いということにもなりかねない。

Village Shopの前にはいつもCome on and support your local shop and see what fine goodies we have gotとチョークで書かれた看板が置いてあります。見ていると郵便局や買い物に来た客が店内で油を売って帰ることが多いようです。村人の寄り合い所のような性格もあるわけです。 [2010/8/29]

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