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むささびの鳴き声 2010年11月21日
084 「尖閣ビデオ」が教えてくれた一方通行メディアの終わり

日本の新聞のウェブサイトには読者による書き込み(投稿)欄がないということは、むささびジャーナル201号でも言わせてもらいました。そのことに関連して、11月11日付の朝日新聞に掲載された『海保ビデオ―独断公開が投じた課題』という社説を紹介させてもらいます。「尖閣ビデオ」がYouTubeに流れた問題を語っているのですが、インターネットの発達と情報発信について次のように語っています。

これまでは社会に情報を発信する力は少数のマスメディアにほぼ限定されていた。メディアが表現の自由や報道の自由を主張できるのは、国民の「知る権利」に奉仕して民主主義社会を発展させるためとされ、その裏返しとしてメディアも相応の責務を負った。

つまりこれまでは、情報を発信するという機能は新聞社や放送局だけに許されたものであったのに「ネットの発達によりマスメディアが情報発信を独占する状況は崩れた」というわけです。YouTubeがその例です。

インターネットが発達する前の時代だったら「尖閣ビデオ」を入手した保安官はどのような行動をとっていたのでしょうか?何十万、何百万の人に知ってもらいたいと思ったら放送局や新聞社に「特ダネ」として持ち込む以外に方法がなかったはずです。で、ネタを提供されたマスメディアはどのように扱ったのでしょうか?朝日新聞の社説は次のように語ります。

情報の真偽に迫り、報道に値する内容と性格を備えたものかどうかを見極める。世の中に認められる取材手法をとり、情報源を守る。時の政権からの批判は言うまでもなく、刑事上、民事上の責任も引き受ける――。

提供されたビデオが本物であることがはっきりした場合、朝日新聞ならどうしたのでしょうか?特ダネとして新聞で紹介したのでしょうか?テレビ局が同じような状況になったとしたらビデオを独占放映したのでしょうか?朝日新聞の社説は、この海上保安官の行動について「現時点での外交関係を踏まえた政府の高度な判断を、一職員が独自の考えで無意味なものにしてしまっては、行政は立ちゆかない」と言っている。この保安官のやったことは間違っているということです。法律違反の方法で入手したネタを朝日新聞のようなメディアが使うということは保安官の間違った行為に手を貸すことになる、だから使わないということになるのでしょうか?

今回のゴタゴタが示したのは、従来のマスメディアがこのような悩ましい立場に置かれることがなくなったということです。Googleがあるからです。そのことの良し悪しは分からない。いい時もあるし悪い場合もあるとしか言いようがない。でも普通の人たちがインターネットという情報発信の手段を持つことは悪いことではない。

朝日新聞の社説はネット時代について、「情報が広く流通し、それに基づいて国民が討論して決める機会が増える」のはいいことであるが、「一人の行動によって社会の安全や国民の生命・財産が危機に陥りかねない」というわけで、「難しい時代に私たちは生きている」と言います。そして

この状況を国民一人ひとりが自分の問題として認識し、政府が持つ膨大な情報をどこまで公開し、どこを秘匿するか、発信する側はどんな責任を負うのか、絶えざる議論が必要になる。

と言っています。

で、最初の部分に戻るのでありますが、朝日新聞のウェブサイトに掲載された社説には、読者からの書き込みを可能にする欄が全くないのです。朝日新聞自身が「絶えざる議論が必要」と言っており、私もそのような議論をする中でバランス感覚に優れた意見が生まれるのではないかと思います。だからマスメディアのサイトはその「絶えざる議論」のための場を提供するべきだと思うわけです。もちろんリスクはあるのですが、それをやるのがマスメディアだと思うわけです。日本のマスメディアにはそれをやるつもりは全くなくて、読者は自分たちが提供する情報を黙って受け取る存在であるとしか考えていないようです。

今回の騒ぎは、そのような一方通行メディアの時代が完全に終わっていることを改めて教えてくれたのだと思いませんか?「尖閣ビデオ」の問題を単に「公務員の守秘義務違反」ということだけで終わらせようとしているようでは、お話になりません。[2010/11/21]

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