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099 内閣不信任案:菅さんがやるべきだったこと

結局あれは何だったのでしょうか?菅内閣への不信任案というあれ。民主党は不信任案が否決されて面目を保ったかもしれないけれど、菅さんは鳩山さんに辞任を約束させられた(と鳩山さんは言っている)挙句、自民党の大島理森という人に「趣旨説明」という形で延々個人攻撃された。自民党は不信任案を否決されたけれど民主党の分裂というお土産をもらった。だから自民党の勝ちってこと・・・?と思っていたら6月2日付のThe Economist(電子版)に「日本の政治危機:勝者なし(Japan’s political crisis:No one wins)という分析記事が出ていましたので紹介します。

記事はまず不信任案の議論の前に行われた民主党の代議士会で菅さんが辞任をほのめかすような発言したことに触れて「あれが国家的な危機状況の最中に担当能力不能政権が数か月も続くことへのお膳立てを整えた」(That sets the stage for perhaps months of lame-duck rule in the midst of a national emergency)のであり、日本人の忍耐力にも限りがあることを示す出来事になったと指摘しています。

漠然と辞任をほのめかすような発言をした菅さんへの批判で始まっているのですが、記事が批判しているのは、辞任をほのめかしたこと対してであって、自民党や民主党の一部の人たちが言っている菅批判とは全く逆の立場からの批判であるとも言えます。

The LDP has attacked Mr Kan’s handling of the nuclear crisis, even though it was responsible for the lax oversight of the nuclear-power industry during its five decades in power prior to 2009.
自民党は菅氏の核危機対応を攻撃しているが、2009年以前の50年間にわたって権力の座にあって原子力産業(のあり方)を傍観してきたことは自民党の責任なのである。

不信任案の趣旨説明の中で自民党の大島という人が菅さんについて「行政職を信用せず、口を挟ませないことが政治主導であるという間違った考え方をしている」と非難しています。「役人を怒鳴りつけるだけで上手く使っていない」と批判しているわけです。自民党は役人を上手く使いこなし、産業界とも仲良くやっていた・・・お陰で現在の東電や保安院があるということです。

というわけで、今の時期に不信任案を提出したことは、菅さんが最近、電力業界の規制緩和や脱原子力発電をほのめかすような発言をしたことと関係がある、と言う人もいる、とThe Economistは報告しています。また上智大学の中野晃一教授のハナシとして、最近、東電が国会議員を訪問する姿が見られており、(この事故が)電力業界全体に及ぼす影響を最小限度に食い止めようと必死になっている(TEPCO has been visiting lawmakers and they’re serious about trying to limit the damage and the threat to the electricity industry in general)というコメントを紹介しています。

The Economistによると、不信任案をめぐるごたごたが如何に震災復興の妨げになっているかを理解しない政治家の自己中心主義に対して日本中(特に被災地)が絶望的な怒りを露わにしているとして、この怒りを菅さんがなぜ自分のために集約できないのか理解に苦しむと言っています。そして結論は

Had he clearly described the old guard both inside and outside his own party for what it is -- petty, out of touch with reality, and a bunch of bad losers -- he might have emerged stronger from the ordeal. He hasn’t. Nor, sadly, has Japan.
菅首相が自分の党の内外にいる古い勢力の本質を明確にあぶり出していたなら、この混乱から強力に脱出することができたかもしれないのだ。古い勢力の本質とはちっぽけで、現実を見ず、しかも負け方も情けない人間たちということである。しかし菅さんはそれをやっていないし、悲しいかな日本もまたそれができていない。

内閣不信任案を討議する衆議院で自民党の大島理森とかいう人の感情的・情緒的としか思えない「趣旨説明」を聴きながらestablishmentという言葉が頭に浮かんできたですね。「体制」とか「支配層」という意味ですよね。鳩山由紀夫、小沢一郎、谷垣禎一、大島理森、石原伸晃等々、皆さん、両親や親戚に高名な政治家がいる、政治の世界のサラブレッドのような方々です。鳩山さんの前の首相、憶えていますか?麻生さんです。その前は福田、安倍、小泉・・・みんなサラブレッドです。

この人たちの中で菅さんだけが社会運動の出身です。あの不信任案を巡るごたごたは、政治の世界の名門のお坊ちゃんたち(The Economistはそれを「古い勢力:old guard」と呼んでいます)が、社会運動出身の身の程知らずなヤツをいじめまくる儀式であったということであります。その手助けをしたのがメディアというわけです。それも(私の推測ですが)東京のメディアです。The Economistは日本の行き詰まり状態におけるメディアの役割には触れていません。それは「自分たちもメディアの世界に住んでいるので、仲間のことを悪く言いたくない」ということなのか、「メディアの影響力など知れており、わざわざ語る必要はない」ということなのか・・・。

民主的な手続きを経て選ばれた人が、何かの拍子にメディアに悪者扱いされて消えていく。それは菅さんだけではない。鳩山・麻生・福田・安倍・小泉・・・何十年もの間同じことが繰り返されてきた。これで菅さんもアホ扱いされて消えていき、別の誰かが後を継ぐわけですね。そしてその「誰かさん」もまたいずれはメディアにこき下ろされて消えていく。私が心底気持ち悪いと思うのは、政治家をこき下ろしている政治メディアの世界にいる人たちだけは誰からも非難も批判もされることがないということです。アンフェアというのはこのようなことを言います。

いずれにしても、この際もう一度言っておきたい。がんばれ、菅さん![2011/6/5]

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