musasabi journal 158

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むささびの鳴き声 美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2009年3月29日
今日(3月15日)はとても暖かい日であったので、妻の美耶子と散歩しました。モクレンが満開でありました。 158回目のむささびジャーナルをよろしく。
目次

1)ノスタルジック・ジャパン?
2)ブラウン最良のとき
3)食べもの確保政策が「新植民地主義」に繋がる
4)メディアは検察の「陰の応援団」?
5)不況が投票率を高める?
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声
1)ノスタルジック・ジャパン?

Financial Timesのサイトに、アジア版編集長のDavid Pillingという人が「日本は無邪気だった時代に戻ろうとしている」(Japan harks back to an age of innocence)というタイトルのエッセイを載せています。"無邪気だった時代"とは、明治維新以前、江戸時代の日本のことのようです。エッセイの書き出しは次ぎのとおりです。

経済危機に直面する世界中の国々が、このようなことが将来二度と起こらないようにするためにはどうすればいいのか、市場資本主義の破壊的な側面を助長することなく創造的な部分をどのように開放していくのかを考えている。しかし日本人は、そんなことより自分たちの過去に関心を持っているようだ。As they survey the economic wreckage, nations around the world are wondering what they can do to prevent this from happening again. How will they be able to set loose the creative angels of market capitalism without unleashing its destructive hellhounds? But in Japan, people seem more interested in what went before.

Pillingが東京で話をする日本人の知識人の多くが、明治維新以前の日本、アメリカの黒船によって無理矢理開国させらる以前の日本の良さを強調するのだそうです。例えば元大蔵官僚の榊原英資氏によると、江戸時代の日本は「平和で、秩序が保たれ、贅沢に流れず、しかもフレンドリー」(peaceful, orderly, unspoilt and friendly) な社会だったのであり「我々はそこへ戻るべきなのだ(We should go back to that)」と語ったのだとか。

Pillingはさらに、民主党の「次の内閣」の一人が、日本がとるべき経済政策を語る中で、「江戸時代の日本には輸入というものが殆ど存在していなかった」として、次のように語ったと報告しています。

日本が輸出を始めたのは、自国防衛のための軍隊を作る必要があったからだ。その決定こそが、海外の顧客に製品提供をするということに過度に依存する現在の体制につながってしまったのだ。Japan started exporting, the politician says, only because it needed to build a military to defend itself. That decision has led inexorably to today's overdependence on supplying manufactured products to customers overseas.

▼民主党の人が本当にそんなこと言ったのでしょうか?明治時代の「富国強兵」政策がどの程度輸出によって支えられていたのかは知りませんが、あの頃の輸出促進政策が現在の過度な外需依存のルーツだってんですか!?

David Pillingは、最近の経済危機によって、戦後日本の成功を可能にした3つの大きな要素が問い直されている、と言います。一つは政治。自民党の一党支配がついに「期限切れ」になりつつある。二つ目が官僚。かつては、私利私欲ぬきでしかも頭脳明晰なお役人のお陰で「奇跡の経済成長」が可能になったと言われたけれど、最近では官僚というと「優雅な天下り先」(cushy post-retirement jobs)だけを求める欲張り野郎のように言われている。

そして三つ目が戦後の経済モデルそのもの(the postwar economic model itself)。つまり製造産業と輸出産業にばかり力を入れすぎたということ。榊原英資さんによると、現在の世界的な経済危機が過ぎ去ったとしても、製造産業が作り出すモノに対する需要が昔のようなレベルにまで回復することはなく、従って現在の経済危機で最も深刻かつ永続的な影響を受けるのは日本である、ということであります。

で、榊原氏は民主党の掲げる農業への補助金の大幅な増加と家内工業的な農業の「工業化」(to industrialise the family-run farming industry)に大賛成であり、トヨタに対しても、自動車産業は亡びゆく運命にある(cars are a dying industry)のだから、農業効率化のためのエンジニア養成に力を振り向けて欲しいと呼びかけているのだそうです。そしてDavid Pillingの結論は:

日本の知的な人々はいま、国としての理念を模索しているという雰囲気である。そのことは、野党に50年ぶりに自民党を負かす絶好のチャンスを提供していると言える。しかし日本人が新しい政府を選び、何か新しいものに投票をするとしても、実際には古いものの(復活を)心のどこかで望んでいるということかもしれない。The intellectual mood is of a country casting around for ideas. That provides the opposition with its best chance of unseating the LDP in half a century. But if people do elect a new government, as much as voting for something new, they may be half-hoping for something old.

ということであります。

▼確かにここ数年、日本で売れる本などを見ていると「明治以前の日本を見直そう」というような雰囲気を感じますね。『国家の品格』とか、前回紹介した『資本主義はなぜ自壊したか』とか・・・。尤も私の記憶によると、いまからほぼ20年も前に、英国で日本祭のような行事が開かれたときのテーマが「日本の本質は江戸時代にある」ということだった。当時の駐日英国大使だったヒュー・コータッチさんのような人々(日本通)がそれを言っていた。ただその当時の日本はJapan as number oneとか言われていた時代だったので、このテーマも日本人にはピンと来なかったかもしれない。

▼アメリカ・コロンビア大学のジェラルド・カーチス教授は「かつて日本のインテリは、米国式新自由主義の提供するものは、何から何まで丸呑みしたのに、その同じ人々が今度はアメリカ的なるものは一切合切否定している」と言っている。戦前は「天皇陛下万歳・大東亜共栄圏」とか言っていた人が、戦争が終わった途端に「アメリカ民主主義万歳!」と言い始めたというのとどこか似ている。つまり極端に振れるのでありますね。ひょっとするとインテリというのがそういう人たちなのかもしれない。

▼でもそれでは困るのですよね。榊原さんの言うように江戸時代は平和で秩序立っていたかもしれないけれど、士農工商という階級制度の社会に戻れってんですか?江戸時代の平和とか安定はかなりの部分「鎖国」によって成り立っていたのではありませんか?その当時「商人」のさらに下にいたであろう人々の生活はどんなだったのでしょうか?

▼それから日本が戦後の奇跡だのJapan as number oneだのと言われていた時代に、いまのノスタルジック・インテリたちは何を言っていたのでしょうか?いまイチバン大切なのは、大してインテリでもない人間(私みたいな人間)が、それなりに自分の言葉を発することだと思います。自分なりに考えて言葉を発しようとすると、どういうわけか極端になれない自分が見えてくるように思うのでございます。

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2)ブラウン最良のとき

3月3日〜4日、英国のブラウン首相がワシントンを訪問しました。オバマさんがホワイトハウスに迎える外国首脳とし ては麻生さんについで二人目ということで、訪米前はBBCのサイトなどが順番にこだわったような報道をしておりまし た。どこでも同じなんですね。

ブラウンとオバマの会談は、麻生=オバマと大して変わらなかった(歓迎昼食会がないとか正式な共同記者会見がない 等)のですが、ブラウンさんの場合、議会を訪問して上下両院の議員を相手に演説をするという機会に恵まれた。 Guardianの政治コラムニスト、Jonathan Freedlandによると、これこそブラウン首相にとっては「ゴードン最良の時 間(Gordon's finest hour」であり「夢が叶った(a dream come true)」のであったのだそうです。

もともとブラウンという人はアメリカ政治の研究をしたことがあり、休暇もアメリカ東海岸で過ごすことが多かったりし て、アメリカ好きなのですね。だから議会で演説とくれば嬉しくないはずがない。ましてや演説中に17回もスタンデ ィング・オベーションがあり、議会を去るときには議員たちに囲まれてもみくちゃ、中にはブラウンさんのサインを せがむ議員まで出てきたりして、ブラウンさんにしてみればまさにfinest hourであったわけです。

Freedlandによると、ブラウンはさすがにアメリカびいきだけあって、何を言えばアメリカ人が喜ぶかを十分に心得た 演説であったのだそうです。例えば・・・

私は、アメリカが、ケネディ大統領のリーダーシップの下、まっすぐ空を見上げ、未知の終わりなき空間ではなく、 新しいフロンティアを発見、開拓していた1960年代に育った人間であります。 I grew up in the 1960s as America, led by President Kennedy, looked to the heavens and saw not the endless void of the unknown, but a new frontier to dare to discover and to explore.

これはアメリカの宇宙開発のパイオニアであることを称えている部分ですが、ケネディ大統領への称賛であり、民主 党の議員たちが大喜びする。

その20年後の1980年代にレーガン大統領のリーダーシップに下、アメリカは鉄のカーテンの向こうに閉じ込められ た何百万人という人々の運命をそのまま甘受することを拒否したのであります。And 20 years later in the 1980s, America, led by President Reagan, refused to accept the fate of millions trapped behind the Iron Curtain

ここはアメリカのお陰で冷戦に勝ち、ベルリンの壁を崩すことができたというわけで、レーガンを大絶賛。当然、共 和党の議員がスタンディング・オベーション・・・。

私の父は教会の執事でありました。私はいまその父に教わったことを学んだのであります。すなわち富が助けるべ きなのは、お金持ちだけではない・・・My father was a Minister of the Church and I have learned again what I was taught by him: that wealth should help more than the wealthy...

経済危機に触れた部分ですが、父親が熱心なクリスチャンであり、ブラウン自身もその影響を受けているということ を伝えている。信心深いアメリカ人を喜ばせるには「どのボタンを押せばいいのかがしっかり分かっていた(He knew precisely which buttons to press to delight an American audience)」とFreedlandは言っています。相手が英国 人だと、こんなことは絶対に言わないのだそうです。

ブラウンはまた演説の中で、エドワード・ケネディ上院議員に対して、女王陛下によってナイトの称号が授与される ことになったことを発表しています。

北アイルランドがこんにち平和であり、アメリカ人の多くが以前よりもヘルスケアの恩恵に浴しており、世界中の 子供たちが学校へ通っている・・・これら全てのことはケネディ上院議員の人生と勇気のお陰なのであります。Northern Ireland today is at peace, more Americans have healthcare, children around the world are going to school and for all those things we owe a great debt to the life and courage of Senator Edward Kennedy.

Freedlandのエッセイはこの部分については全く触れていない。ケネディ議員は脳腫瘍の治療でワシントンにはおら ず、この日も会場にはいなかったのですが、息子のパトリック・ケネディ下院議員に「この称号を受ける私をアイル ランド人が怒らなければいいが・・・(I hope the Irish don't get angry with me for accepting this)」と述べたの だそうです。もちろんこれはケネディ上院議員が冗談で言ったことであると伝えられているのですが、ケネディはアイルランド系アメリカ人ですね。英国とアイル ランドの悲しい歴史を想うと、アイルランド人が英国の女王から称号を受けるなどということは考えられない話です 。

▼ブラウンの演説テキストはここをクリックすると読むことができます。

▼麻生さんがブラウンよりもお先にホワイトハウスへ呼ばれたわけでありますが、メディアの人がよく言うように、これはオバマによる日米関係重視の表れなのでしょうか?私、答えはもちろんノーであると思っていました。が、本当にそうでしょうか?日本と英国をアメリカとの関係というアングルで比較すると、単なる遊びですがオモシロイですね。

▼アメリカにとって英国が貴重であるのは、英国が米欧間の橋渡しになるからであると言われます。英国にとってアメリカが貴重であるのは、米英関係がとりわけ緊密であることで、英国のEUにおける株が上がるからですね。アメリカと対等に口をきけるのは英国っきゃないというわけです。

▼しかしアメリカはヨーロッパやロシアと付き合っていくのに、いつまでも英国を必要としているでしょうか?そのあたりが英国には気になるところでしょうね。もちろんアメリカの地盤低下も気になりますが。

▼英米関係と日米関係を比べると前者の方が近しいことは間違いない。でもアメリカにとって、これから最もまともに付き合っていく必要がある国が、EUでもロシアでもなくて中国であるとしたら、地理的・歴史的・文化的にも中国に近い日本は、アメリカにとって英国よりも貴重な存在なのかもしれないですね。

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3)食べもの確保政策が「新植民地主義」に繋がる

世界中が金融危機だの恐慌だのに直面して、どうしていいのか分からないという状態ですが、そうした中でも確実に進行しつつあるのが食糧危機である・・・と訴えているのが、The TimesのCarl Mortished記者が3月5日付けのサイトに載せた記事です。Quest for food security breeds neo-colonialistsというタイトルなのですが、これを訳すと「食糧安保の追求が新植民地主義を育んでいる」となる。「植民地主義」というのは、ある国が別の国を自分の領土のように扱い、現地の労働力を安く雇って生産物を本国に貢ぐ・・・と説明すると当たらずとも遠からずでしょう。かつての英国と米国、日本と朝鮮、欧州諸国とアフリカ等がそれですね。

Mortished記者によると、同じようなことが現在、世界中で進行中だというわけです。昔と違うのは、「宗主国」の食糧確保がポイントになっているということです。例えば、今年の1月、中東の石油大国、サウジアラビアのHail Agricultural Development Company (Hadco)という開発企業は、スーダン北部の土地1万ヘクタールを4500万ドルで借り上げ、そこで小麦とトウモロコシを生産すると発表している。Hadcoは、これまでサウジ国内で小麦を生産していたのですが、灌漑にコストがかかりすぎて商売にならないというわけで、スーダンの農地を使って生産した食糧を自国へ輸出することになっている。

サウジの企業は、これ以外にも政府の後押しでインドネシアでライス生産を計画しているのだそうです。中東諸国はどこも同じようなことをやっているのだそうで、アラブ首長国連邦はカザフスタンで、リビアはウクライナでという具合です。クエートとカタールはカンボジア政府との間で「数十億ドル(multibillion-dollar)」にのぼるライス生産契約と結ぼうとしている。

Mortished記者は、同じようなことがヨーロッパでも起こりつつあると言っています。スコットランド、デンマーク、イタリアなどの農業関連ファンドが、中・東欧諸国やロシアなどの優良農地(good quality arable land)を買い漁っている。例えばルーマニア国内の優良農地は、英国の5分の1の価格で買えるのだそうで、この種の動きがあるのも不思議はない。

が、国連の食糧・農業機構(FAO)は、富裕国による貧困国の農地買い上げが「新植民地農業制度(neo-colonial agricultural system)」を作り出していると警告しています。つまり富裕国の食糧確保策が、貧困国の飢えにつながるという警告です。

例えば、韓国のある大企業が昨年、アフリカのマダガスカルにある130万ヘクタールに農地をリースで借り上げるという契約を結んだ。この韓国企業はここで年間400万トンのトウモロコシを生産して自国に輸出しようとしている。問題は、そのマダガカスカルの国内では、60万人もの人が食糧援助に頼って生活しているということです。

サウジが自国向けの小麦やトモロコシをスーダンで生産する一方で、数百万人のスーダン人が国連の世界食糧計画からの援助に依存しているという皮肉な現実があるということです。尤もサウジの新植民地主義は、ビクトリア時代の大英帝国が海外でつくったプランテーション(農園)とは性格が違う、とMortishedは言います。大英帝国のそれが海外への勢力拡大であったのに対して、サウジの新植民地主義は、世界的な食糧の値上がり、気候変動から来る干ばつという事態に対する「自己防衛」という要素が強い。

中東の人々は、ライフラインを買おうとしているのだ。彼らは食べ物がなければ石油など何の役にも立たないということが充分に分かっているのだ。彼らは密かな備蓄、ボイコット、カルテルなどのことは知っている。だいいち、どうしても必要に迫られたときに、アナタは石油1リットルとライス1袋のどちらがをとりますか?The people of the Middle East are trying to buy a lifeline, knowing full well that oil is pointless when there is nothing to eat. They know about hoarding, boycotts and cartels and if push comes to shove, would you rather own a litre of petrol or a sack of rice?

というのがこの記事の締めくくりです。

▼日本も商社が南アメリカのどこかで、食糧生産をやっていたと記憶しています。確かに石油があっても食べ物がなければどうしようもない。

▼Mortished記者のエッセイには読者からのコメントがいくつか出ていたのですが、英国人とおぼしき人からのコメントは「我々は昔の我々の植民地での作物栽培に投資すべきである。すなわちオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、カナダである。自分たちの食糧供給源はなるべく多くの大陸に広げておいた方がよろしい」(We should invest in crops in our old colonies viz. Australia, NZ, SA and Canada - our food supply should be spread across as many continents as possible)というものだった。 まだそんなこと言っているのですかぁ!?

▼このエッセイとは全く関係ないけれど、思い出してしまったのは、日本国内にたくさんある(と聞いたことがある)休耕地のことです。本来なら畑として使えるのに、ほったらかしにされている土地のことですよね。39万ヘクタール(大阪府の面積の2倍)あるらしい。韓国企業がマダガスカルでリース契約を結んだ農地は130万ヘクタール・・・。EUでは農作物の過剰生産を抑制するために、わざと休耕地にしてある(日本の減反と似ている)ところもあるのだそうですね。

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4)メディアは検察の「陰の応援団」?

堀田力という人がいますね。いまは弁護士で、社会福祉関係のNPO「さわやか福祉財団」の理事長をされています。元検事で、東京地検特捜部検事としてロッキード事件で1976年に田中角栄前首相を逮捕したことで有名ですね。この人が、退官後(1999年)に日本記者クラブで講演をして、次のようなことを言っています。

マスコミと検察は基本的には同じ志です。腐った事実、みんなが知らなければいけない事実で隠されている事実をきちんと公にする。マスコミは社会的責任を、検察は法的責任を明らかにする。それによって社会を浄化する、というのが基本的な使命だと思いますので、そういう点ではまったく方向が同じです。特に政治絡みの事件は、マスコミに支えてもらうことが非常に大きな力になります。

堀田さんによると「特捜部」というのは極めて孤立した組織であり、出世したい人は入りたがらないところなのだそうです。特捜部には「事件が好きで仕方がない人間」がそろっているのですが、その特捜部の人たちを支えるのは(堀田さんの言葉どおり言うと)

それを支えるのはきれいな言葉でいえば「正義感」、汚い言葉でいえば「功名心」です。

とのことで、堀田さんはさらに

その陰の支えがマスコミです。(検察が)きちんとやっていることが、国民に支持されているという思いが、非常に大きな頼りであります。

とも言っています。この講演が行われたのは10年前のことですが、最近、民主党の小沢一郎代表の公設秘書が、西松建設という会社から違法に政治献金を受けて逮捕されたことに関連して、堀田さんの「特に政治絡みの事件は、マスコミに支えてもらうことが非常に大きな力になります」という部分が、私には非常に気になるのであります。

小沢さんの秘書が逮捕されてからの新聞の見出しはというと、あたかも秘書が100%有罪であり、民主党内での動揺が広がっていて、小沢さんが代表を続けるのは無理というニュアンスのものが圧倒的であった(と私は思います)。「小沢氏秘書 西松側と献金調整」「小沢氏秘書 下請け迂回献金も認識 西松側に入金催促」・・・。これだけの見出しを見れば「やっぱ小沢も悪いことしていたんだ。政治家なんてみんなダーティ・・・」となるのは当たり前ですよね。

この件についての新聞記事を見ると、小沢さんの秘書が不正を働いたことについて「関係者」がいろいろと証言めいたことを言っていますね。それから検察による取調べに対して、小沢さんの秘書が自白めいたことをしていることにもなっている。「関係者」というのが誰のことなのか?新聞記事に出ているようなことを、本当に秘書が検察に対して自発的に述べているのか?それを新聞記者に教えた検事側の人は誰なのか?名前は?

新聞の社説だのコラムだのを読むと「この際、政治家の汚い部分を徹底的に暴いてもらいたい。検察がんばれ!」というニュアンスの意見が圧倒的に多い。

例えば3月7日付けの朝日新聞。第一面のトップ見出しが「自民団体側も聴取へ 西松事件で地検」となっていて、社説では「国民の嘆きが聞こえぬか」と怒っている。「2大政党のどちらにも1票を入れる気にならない」のだそうです。でも、小沢さんの秘書は本当に有罪と決まったのですか?自民党の政治家が西松建設という会社にパーティー券を買ってもらったとのことですがそれは違法なのですか?

・・・というわけで、検察に逮捕されたというだけであたかも有罪であるかのような扱いをしたり、違法行為をしたわけではない議員をダーティーだと決め付けているメディアは、確かに堀田さんのおっしゃるとおり検察のための「陰の支え」となっているとしか思えませんね。これ、おかしいのではありませんか?新聞もテレビも、何故これほどまでに検察の言うこと・やることをアタマから「正しい」と決めてかかるのでしょうか?冤罪かもしれないということは考えないのでしょうか?

鈴木宗男衆議院議員は、自分のサイトで「新聞、テレビ報道は西松側、検察のリーク情報ばかりである」と言っています。検察によるリークについていうと、10年前の日本記者クラブでの講演会の会場から「検察側が大新聞に次々とリークしている。それを載せないところがあると、次はリークしないよ、と言って脅すという説すらあるが、それは本当か?」という質問が出ました。質問した人はメディアの人ではなかったのですが。それに対して堀田さんは、検察からメディアへの情報提供(リーク)があることを認めたうえで、

(リークが)好ましいのか好ましくないのかは、国民の立場と検察の立場とマスコミの立場でいろいろあると思います。<中略>記者の方々が、こちらが密かに調べている事実をつかんでしまうからです。つかんできたら書くぞと言って脅す。これは恐ろしいわけです。頼むから勘弁してくれとなる。

と答えている。検察は秘密裏に捜査したいのに、マスコミが独自に特ダネ取材をやって、検察が目をつけている人物にじかに当たってしまうと捜査そのものがうまく行かなくなる。だからそれは止めて欲しい。「その代わり、きちんと節目節目のことは発表しますから」とのことであります。

▼この部分、気になりませんか?私の感覚からすると、ここにいるのは「正義感に燃える」メディアと検察だけ。この2者によって選挙で選ばれた政治家が引きずりおろされようとしている。その「正義の味方」キャンペーンが間違いであったとしたら、メディアや検察はどのように責任をとるのでしょうか?政治家は選挙で審判されて落とされるかもしれないけれど、メディアや検察は誰が落とすことができるのか?というようなことを考えながら、ネットを見ていたら「元気はつらつ辞任会見」という実にまっとうな記事が出ておりました。ご一読を。

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5)不況が投票率を高める?
3月12日付けのThe Economistに、「最近の不況によって国民の政治離れに歯止めがかかるかもしれない」(The recession could shed light on voter disenchantment)という記事が出ていたのですが、それによると1950年の選挙の投票率はほぼ85%(!)であったのが、最近(2005年)では61%にまで落ちてしまったのだそうですね。投票率が下がっているのは、英国に限ったことではなく、どの先進国にも見られる現象であるが、1992年からこれまでの英国の投票率の落ち方は、75%から60%にまで落ちているというわけで特に激しい。

投票率低下現象の理由として、政治家に対する信頼が下がっているということを挙げる人がいるけれど、世論調査によると、政治家が信用できると考えている人は18%ということでここ20年ほど変わっていない。つまり政治家の信用度は低いけれど、それが投票率の低下の理由とは思えない、というわけです。

ここ20年ほど英国経済が極めて順調であったので、国民の政治的関心が低くなったということも考えられるけれど、80年代半ばの経済の回復時期には投票率は高かった。冷戦終結によって、人の心をひきつけるようなイデオロギー(attention-grabbing ideology)ということもあるかもしれない。

いずれも説明としては、合っている部分もあるし、そうでないようなところもある・・・というわけで、The Economistが紹介しているのが、シェフィールド大学のColin Hay教授の見方です。それは「政治家自身の自信喪失の危機」(crisis of confidence among politicians themselves)ということです。最近の政治家は重要な決定を官僚のようなテクノクラートに任せてしまう。教授は金利の設定をイングランド銀行に任せてしまうことなどをその例として挙げている。政治家が責任をテクノクラート(選挙で選ばれた人たちではない)に与えてしまうので、政治家自身のパワーが失われる。それが政治家を投票で選ぼうという国民の意欲を弱めてしまう・・・というわけです。

ただ最近の経済危機によって、政府(政治家)が金融の世界に介入することが行われるようになっている。英国では、遅くとも来年(2010年)6月までに総選挙が行われなければならないわけですが、それまでに現在の経済状況がよくなっている可能性は極めて薄い。そうなると、かつてのようなイデオロギーの鋭い対立が見られるようになるかもしれないし、それが投票率の上昇に結びつくかもしれない、とThe Economistは言っています。90年代初期、70年代、終戦直後・・・いずれも経済が危機に瀕していた時代ですが投票率も高かったのだそうです。

▼オバマさんが当選した米大統領選投票率は64・1%だったのだそうですね。日本の衆議院議員選挙の投票率の歴というサイトによると、最も近い2005年の小泉さんの「郵政解散」の場合で、比例区が67.46%、小選挙区は67.51%です。ちなみに第一回の総選挙が行われたのは1890年で山縣有朋が首相だった。小選挙区制で、選挙権は直接国税15円以上を納めている25歳以上の男性に制限されていた。投票率は93.91%だったそうです。

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6)どうでも英和辞書
A〜Zの総合索引はこちら

accountability:説明責任

Politicians are accountable to the voters(政治家は選挙民に対して説明責任がある)・・・この言葉、メディアの人たちが好きですね。「小沢代表、これではとても説明責任を果たしたことにならない」というようなコメントをする人がたくさんいる。小泉さん以来、日本の首相がテレビカメラの前で立ち話風インタビューを毎晩のようにやるようになったけれど、あれで説明責任を果たしたことになっているのでしょうか?もちろん「ノー」ですね。たかだか1〜2分で説明などできっこない。にもかかわらず、あんなものを続けていることについて、メディアはどのように説明責任を果たすのでありましょうか?それから政治家の汚れぶりを告発する検察当局には説明責任はないのでしょうか?

binge-drinking:酒の飲みすぎ

スウェーデンの国立保健研究所がヨーロッパ諸国におるbinge-drinkingについての調査を行ったことがあるのですが、英国人のそれはダントツなんだそうですね。この調査は「飲み会」(drinking session)が「飲みすぎ会」になってしまう割合はどのくらいなのかを調べたもので、ワインのボトル1本以上を一人であけてしまうのをbinge-drinkingと定義しています。対象は男性。で、結果はフランス人は9%、イタリア人が13%、ドイツ人が14%・・・つまりおよそ10回に一度の割合で「飲みすぎ会」になってしまうということだった。英国人はなんと40%。10回に4度が「へべれけパーティー」ということですな。

The Economistに出ていたのですが、ちょっと可笑しいのは、英国人以外はたくさん飲んでいても少ししか飲んでいないと言う傾向があるのだそうで、ストックホルム大学の調査員は「英国では飲みすぎは恥ずかしいとは思わないんですね」(In the UK people just don't seem to be embarrassed about how much they drink)と驚いていたのだそうです。アルコールの消費量が一番多い国はどこだかご存知で?The Economistのポケットブックによると、答えはオーストラリアで、一人当たり年間100リットル。すごい量ですね。ついでチェコ、ドイツ、フィンランド。英国は17位。日本は23位までに入っていません。

relativity:相対性

アルバート・アインシュタインは、彼の相対性理論を説明して「熱いストーブの上に1分間だけ手を置くと、まるで1時間みたいに感じる。きれいな女の子のそばに1時間坐ってみなさい。まるで1分間みたいに感じるはずだ。それが相対性ってものだ」と言ったのだそうです。人間の時間感覚なんて絶対的なものではないということですね。と言っても何だかよく分からない、という人(私もその一人)のためにアインシュタインの奥さん(Elsa Einstein)の言葉をお届けします。

"I don't understand my husband's theory of relativity, but I know my husband, and I know he can be trusted.主人の言っている相対性理論なんて分かりませんが、私は主人を知っているし、彼が信用するに足る人間だってことも分かってます。"

ということであります。but I know...以下は相対的ではないですね。「絶対」(absolute)の世界です。I know he can be trustedなんぞは、偉いじゃありませんか、けなげじゃありませんか。涙がでますね。ミセスむささびに聞かせたい。Elsaは女性の鑑(かがみ)ですな。

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7)むささびの鳴き声

▼未曾有を「みぞゆう」と読んだから首相として失格ということにはならない・・・と私は思っているのでありますが、 麻生さんが3月12日の参議院予算委員会で、拉致被害者家族と北朝鮮の元工作員の面会について次ぎのように発言 したことについては、首相失格であることは間違いないと思います。

「これは前の大統領だったら、たぶんこうならなかった。もう率直に言います。申し込んだことがありますんで。」

▼3月13日付の朝日新聞に出ていました。ここで言う「前の大統領」というのは韓国の盧武鉉大統領のことですね 。外国の首相や大統領のことを、自分たちの希望を叶えてくれたかどうかで評価するような発言を国会でやるという のは本当にひどい。たった一言「李明博・現大統領に感謝したい」と言えば済む。

▼「前の大統領」が麻生さんに協力的であってもなくても、韓国内で相当の人の支持を得て大統領をやったことがあるこ とに違いはない。つまり盧武鉉さんの背後には何百万人、何千万人という韓国人がいるわけでしょ?その人たちを敵 に回して拉致問題を解決できるなどと思っているのでしょうか?

▼今年に入ってから、麻生さんは外交面での派手さが目立ちますね。メドベージェフ・ロシア大統領、オバマ米大統 領との会談(オバマさんがホワイトハウスに招いた最初の外国首脳)、ヒラリーさんの来日(日本が最初の訪問国)、そ して拉致被害者家族と元工作員の面会・・・どれもテレビ・カメラ向きです。でも中身がなんだか分からない。「ないよ りはマシ」(Better than nothing)ではなくて、「ない方がマシ」(Worse than nothing)というのは、麻生さんのような 首相のことを言うのでしょう。

▼今回もお付き合いをいただき有難うございました。

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