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むささびの鳴き声 美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2009年3月29日
今月は何故かむささびジャーナルを3回も送らせてもらうことになりました。お許しを。日曜日が5回もあったのだから我慢してもらうっきゃない。しかも、なんとこれで159回目ですよ。159回ということは、つまり・・・その・・・160回目の一つ手前ってことですよ(当たり前ですが)。そこで(関係ありませんが)上の写真はウチの近所のワンちゃんであります。どことなく「春」っぽいですね。でも、イヌというのは、どうしていつも「アンタだれ?」というようなマジメな目付きで人を見るのでありましょうか?
目次

1)英国王室の改革:王位継承における差別撤廃
2)労働組合の価値を見直そう
3)無料紙Metroが成功した理由
4)フィンランドの「音楽町おこし」
5)新聞は「辞めろ」、ラジオは「辞めるな」という小沢さん
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声
1)英国王室の改革:王位継承における差別撤廃

いま英国では王室改革の準備が進んでいます。BBCの最近のサイトにも、ブラウン首相と王室が改革を議論した(PM and Palace 'discussed reform')という記事が出ています。ポイントは王位継承にまつわる「差別」(discriminations)の撤廃にあります。

具体的には女性に対する差別とカソリック教徒への差別です。英国王室の王位継承については、約300年前(1701年)に作られた1701 Act of Settlement(継承法)という法律に定められた規則によって行われています。それによると、王位継承の順位は男性を優位とし、カソリック教徒と結婚すると男でも女でも王位継承の資格がなくなる。

エリザベス女王の娘さんであるアン王女の場合、チャールズ皇太子とその息子を始めいろいろな人が間に入るので、王位継承権者としては10番目となっているけれど、男女の差別を廃止した場合、チャールズさんと二人の息子(William and Harry)に次いで4番目に来ることになる。

カソリック教徒云々については、現エリザベス女王の従兄弟にあたるPrince Michael of Kentという人は、王位継承権をギブアップしてカソリックと結婚した数少ない王室メンバーの一人なのだそうです。女王の孫にあたるPeter Phillipsが結婚した相手(Autumn Kelly)は、カナダ国籍のカソリック教徒だったのですが、彼女はPhillipの王位継承権を確保するためにカソリックであることをやめてしまった。

いずれにしても、現在の規則では(例えば)チャールズ皇太子の息子であるウィリアム王子はカソリック教徒と結婚したらキングにはなれない。BBCによると、the 1701 Act of Settlementに書いてある古文を現代風に訳すと「ローマ・カソリック教徒ならびにローマ・カソリック教徒と結婚している者は、英国の王位からは除外されるべし」(Roman Catholics and those who marry Roman Catholics are excluded from the British throne)となるのだそうです。

英国の王または女王は、プロテスタントの英国国教会(Church of England)の総裁(Governor)という立場であるということでカソリック問題は極めてややこしいことになる。尤も王室改革についてBBCが1000人を対象に行った世論調査によると、次のような結果が出ているのだそうです。

王位継承は男女平等であるべし
Equal rights for royal women?
89%が賛成
王位継承者がカソリックと結婚するのを許すべし
Heir allowed to marry Catholic?
81% が賛成

つまり英国人の圧倒的多数が、昔ながらの「差別」は必要ないと考えているということです。それではいっそのこと君主制など廃止して共和制にしたら?という問いに対しては、76%が「君主制を続けるべし」(the monarchy should continue)と答えている。ブラウンさんはどう言っているのかというと、最近のブラジル訪問の際に同行記者団から質問されて「答えるのは簡単ではない」(This is not an easy set of answers)と前置きしながらも

しかし21世紀においては、国民は差別の撤廃を期待しているし、国民は政府に対して、これらの問題を検討することを期待している。But I think in the 21st Century people do expect discrimination to be removed and they do expect us to be looking at all these issues.

と述べているとBBCは伝えています。

▼この問題のややこしさ加減については、BBCのNicholas Witchellという王室担当記者の記事を読むと参考になります。王位継承における女性差別について、Witchellさんは「英国の君主の中でも最も成功したトップ3がいずれも女性であることに異論を挟む人は殆ど誰もいないはずだ」(few would disagree that three of the country's most successful monarchs have been women)として、スペイン無敵艦隊を英国が破った1588年当時のエリザベス女王一世、大英帝国時代のビクトリア女王、そして今のエリザベス女王は英国の社会的安定のシンボルともなってきている、と言っています。

▼ いずれにしても、英国における王室論議には、狂信的なタブーめいたものがない(ように見える)のがいいですよね。

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2)労働組合の価値を見直そう

いまから25年前の1984年3月に、戦後の英国史の中でも画期的なものの一つであることは間違いない出来事がありまし た。それは大規模な炭坑ストの始まりです。石油や天然ガスがエネルギーとして石炭にとってかわっており、英国の 石炭産業は衰退の一途をたどっていた。1914年には100万人いた炭坑夫が1946年には70万人、1983年には20万人にまで 減っていた。で、保守党政権は、採算に合わない炭坑を閉鎖する政策を進めようとしていた。それに反対してストに 出たのが社会主義者のArthur Scargillが率いる全国炭坑労働組合(National Union of Miners)だった。

サッチャーさんが首相になったのは1979年。そのころから英国衰退の原因は、労働組合が大きな力を持ちすぎている ことにある、というわけで、労組を諸悪の根源扱いしていた。1983年の総選挙でも勝利して、彼女はニ期目の保守党 政権を率いていたのですが、二期目のサッチャー政権を特徴づけることになったのが労組との対決。彼女は労働組合 の力を弱めるために雇用法(the Employment Acts)の改訂を行いました。改訂の最大のポイントの一つが、ストライキ を行うためには、組合員の「無記名投票」(secret ballot)による賛成が必要という条項だった。

この炭坑ストはほぼ1年続くのですが、結局、当時のサッチャー保守党政権が断固として妥協せず、失業者も300万人 を超えるなどしていたために、炭坑労働者のストも国民的な支持を得ることができない雰囲気になっていた。労組が スト続行派と反対派に分裂するなどして、結局、労働組合の完全敗北で終わったわけです。闘争中に、政府によって 派遣された警官とスト労働者との暴力的な衝突は大いに話題になった。BBCの政治記者、Andrew Marrは、勝利した サッチャーのコメントとして次のように伝えています。

(炭鉱労組の)マルクス主義者たちは、経済の法則をわきまえずに、地上の法律を無視した。彼らは失敗したのだが 、失敗することによって、自由な経済と自由な社会とというものが、如何に相互依存しているものかということを明 らかにしてくれたのだ。Marxists wanted to defy the law of the land in order to defy the laws of the economics. They failed and in doing so demonstrated just how mutually dependent the free economy and a free society really are.

つまりサッチャーさんによると、労組は、経済的に見合わなくなった炭坑は閉鎖されるという自由主義経済の法則を 無視すると同時に法律違反のストをやり警官隊と衝突するなどの不法行為を働いたと言っているわけです。これはサ ッチャーさんによる自由主義経済の勝利宣言であり、労働組合と労働党左派に代表される社会主義的な考え方に対す る勝利宣言でもあったのですが、実際にはそれだけにとどまらず、サッチャー以前に労組の力に対抗できなかった(と サッチャーは思っている)保守党内部の妥協主義的な勢力に対するサッチャリズムの勝利でもあったとされています。

炭坑ストの敗北以後、新聞印刷労組、港湾労組などがいずれも敗北しています。英国にとって、25年前の炭坑ストは 非常に大きなインパクトであったわけです。

あれから25年目の2009年、最近、アメリカ議会に提出されたEmployee Free Choice bill(従業員の選択の自由保障法案) というのが注目されていますね。この法案は、別名「カードチェック法案(card check bill)」とも呼ばれているもの で、労組の結成を呼びかけるカードに然るべき数の従業員が無記名で署名すれば、自動的に労組結成が認められるこ とになる。つまり労働組合の結成を容易にする法案ということで注目されており、オバマ大統領は乗り気なのだそう です。さらにこの法案には、労組が団体交渉を行う場合に組合員による無記名投票は必要条件ではないとする条項が ある。サッチャーさんによる改訂と正反対です。

オバマさんは労働組合には理解を示しているのだそうで、The Economistによると、1月の就任以来、AFL-CIOという 米国の労組のスイーニー会長が1週間に一度はホワイトハウスに呼ばれている。ブッシュ大統領のころにAFL-CIOの代 表がホワイトハウスに呼ばれたのは8年間で一回だけだったそうです。

Employee Free Choice billについては、経営者たちは大反対しているのですが、Joseph Stiglitzを初めとする経済 学者8人がワシントン・ポストにEmployee Free Choice bill賛成の意見広告を掲載したのだそうです。この人たちは 「現在の経済危機の理由の一つは、労働者が組合を結成して会社側と交渉を行うという能力を失ったことにあり、そ のことによってアメリカは繁栄を分かち合う(broadly-shared prosperity)社会から不平等がますます大きくなる社会 になってしまった」と言っています。

▼森嶋通夫さんの本を読んでいたら、英国の炭坑ストが敗北の方向に向かっていたときに決定打となったのが、労組 の指導者、Arthur Scargillがリビアのカダフィ大佐から資金を得ていた、という特ダネがサンデー・タイムズに掲載 されたことであったと書いてありました。サッチャーさんは実に運がいい人なのです。危なくなると必ず何か起こっ た。フォークランド戦争もそうだし、IRAによる爆弾事件もそうだった。炭坑ストだって、必ずしもサッチャー政 府の対決姿勢が好評だったわけではないのに、この種のスキャンダルで救われた。

▼労働組合の組織率ですが、ILOによると、英国(2003年)が29・1%、アメリカ(2006年)は12・0%、日本(2005年)は 18・7%だそうです。フィンランド(2003年)などは100%を超えている。北欧諸国はいずれも70〜100%で、ひょっとす ると福祉社会がうまく行っている理由に、労働組合の存在というのがあるのかも?

▼炭坑労組といえば、1960年に九州の三池炭坑でストがあった。三池闘争として有名ですが、英国に比べてちょっと 悲しい気がしないでもないのは、かつて行われたさまざまな「闘争」が記念されるということがほぼゼロであるという ことですね。安保闘争、国鉄民営化反対闘争、成田空港建設反対闘争等々、日本人も政府のやることに異議を唱えて 町へ出たことがあるのに、いまでは全く振り返られることがない。英国の場合は、炭坑スト25周年ということで、い ろいろな記事が新聞や雑誌に掲載されています。

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3)無料紙Metroが成功した理由

スウェーデン生まれの無料日刊紙、Metroのことは聞いたことありますよね?ウィキペディア情報によると、おととし(2007年)現在で、世界20カ国・100都市で発行されている。何故か日本では出ておらず、アジアでは韓国のソウルと釜山、それから香港で発行されているのだそうです。

今年(2009年)は、英国でMetroが発行されてからちょうど10年目なのですが、英国とアイルランドの30都市で発行されており推定読者数は330万。発行しているのはDaily Mailを発行しているAssociated Newspapersという企業です。英国で一番売れている有料日刊紙は、(私の知る限り)The Sunで発行部数は約300万。無料紙のMetroはこれを上回る部数ということになる。

英国版の発行10年目ということで、BBCのサイトが、新聞におけるMetro現象を解説する記事を載せています。それによると、Metroの読者は、18〜44才のホワイトカラーで、都会で暮らしているだけでなく、都会大好き人間なのだそうです。英語でいうとurbanite。「若くてかっこいい」(young and cool)、「金はあるけど時間がない」(cash-rich and time-poor)などの形容詞が付けられております。傾向としては「流行に敏感で、自分が好きなブランドを持っており、メディア・リテレート」という人たちなのだそうです。

"メディア・リテレート"というのは、新聞、テレビ、インターネットのような"メディア"のことはよく知っているということです。ただMetroの読者は、テレビは余り見ない人たちだそうで、外で夕食をとり、ヘルスクラブへ通ったり、映画を観たり・・・というわけで、家でテレビを見るということは余りしない。

このあたりが非常に面白いですね。メディア・リテレート(つまりそれなりに教育のある階層の人々)の中にテレビを見ない人がいて、その人たちがMetroを読むということです。では彼らは何故Metroを読むのか?その点について、Metroを出しているAssociated Newspapersの無料紙部門の担当者が興味深いコメントをしています。

読者は、Metroが事実だけを掲載していることが気に入っているのだ。それが若い世代というものだ。彼らは、どう考えるべきかということをメディアに教えてもらいたいなどと思っていないのだ。彼ら望むのは情報を貰うということであり、モノゴトを判断するのは自分たち自身だと考えている。つまりMetroは印刷されたインターネットのようなものなのだ。they like that we just give the facts. That's the younger generation, they don't like to be told what to think, they like to be informed and then make up their own minds. Metro is like the web on newsprint.

ただ、Metroのような無料紙が成功していることは、必ずしも好ましいことではないという意見もある。Peter Yorkという評論家は、「情報が無料で入手できるということで、読者は情報の質について余り考えずに受け取ってしまう。タダでダウンロードできる音楽サービスが音楽の質を落としているのと同じことが"情報"についても言える」と言っています。この人は、ネットで得られるような情報と従来の有料紙から得られる情報の違いとして、後者の記者たちは権威を持っているけれど、ネットの世界のブロガーにはそれがない(a blogger doesn't have the authority of someone who is from a newspaper like the Times)ということを挙げています。

BBCのこの記事によると、ブラウン首相は世論の動向を知るうえでMetroに掲載された「読者の手紙」を読むことを常としており、閣僚たちにもそれを勧めているのだそうです。ただこの無料紙の読者は金融関係で仕事をしてきた人が多い。ということは、最近の金融危機で職を失ったような人もかなりいるので、Metroの読者層にも影響するのではないかと言われており、それが無料紙の生命線である広告収入に影響するかもしれない、とBBCの記事は言っています。

▼無料紙の善悪はともかく、英国でそこそこ教育のある人たち(必ずしもOxbridgeではない)が、社会問題などについての意見だの分析だのを掲載する新聞を敬遠している(のかもしれない)というのが面白いですね。Guardian, The Times, Telegraph, The Independent等々・・・英国の高級紙と言われる新聞は、まさに「分析や意見が載っている」ということで読者を獲得していたはず。それが嫌がられる。アンタらに言われたくないな・・・という感覚ですかね。

▼無料紙・誌って読んだことあります?東京・霞ヶ関の駅には、R25という無料誌が置いてあるようなのですが、殆ど残っていない。つまり読まれているってことですね。英国のMetroのネット版と 日本のR25を比べると読者層の違いなども分かるかもしれない。

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4)フィンランドの「音楽町おこし」

『クフモよ、永遠に 燃え上がれハーモニー』(横溝亮一・角川書店)は、サブタイトルが「フィンランド、クフモ市の音楽町起こし苦闘の物語」となっています。クラシック音楽ジャーナリストの横溝さんが、フィンランドのKuhmo(クフモと読む)という町で毎年開かれる「クフモ室内音楽祭」という国際的なイベントの誕生から今日までの歴史を事細かく報告している本です。

Kuhmoはヘルシンキの北約600キロのところ、ロシアとの国境沿いにある町です。面積は5458平方キロ。「5458平方キロ」って何だか分かります?ウィキペディアによると東京都の面積は約2200平方キロ、埼玉県が3800平方キロ。つまりKuhmoの面積は東京と埼玉を合わせたよりもちょっとだけ小さいってことです。Kuhmoの人口は1万5000人、東京・埼玉は併せて約1900万。人口密度でいうと、Kuhmoは1平方キロあたり2〜3人。そういう町です。

本のサブタイトルが示すように、音楽祭もさることながら、音楽というものが町おこしとどのように絡んできたのかを、日本人である筆者の主観と情熱をまじえながら語っている点がユニークで、ひょっとするとフィンランドという国やクラシック音楽のファンでない人たちも「自分の町のこれから」を考えるうえで読むと面白いかもしれない本です。

英語のウィキペディアでKuhmoを調べたらCulture(文化)というコーナーに次ぎのようなことが書いてあった(というか、文化の欄にはこれしか書いていなかった)。

クフモは年に一度開かれるクフモ室内音楽祭でよく知られている。このお祭りは1970年、セロ奏者のセッポ・キマネンと彼の仲間によって始まったものである。Kuhmo is well known for its Kuhmo Chamber Music Festival which is held annually. The festival was founded in 1970 by cellist Seppo Kimanen and a small group of friends.

『燃え上がれハーモニー』も、このセロ奏者(フィンランド人で、当時21才の音楽学生)がKuhmoにある音楽愛好家のグループに「室内音楽祭をやりたいので協力してくれ」という手紙を出すところから始まっています。当時のKuhmoの人口は約1万5000人。セッポ・キマネンは何故、この町で音楽祭をやりたいと思ったのか?

クラシック音楽なんてまるで聴いたことのないいなかへ行って、そこのいわば真っ白な聴衆を相手にどこまで音楽の力で、彼らに芸術の貴さを分かってもらえるか、実験をしてみたい。
21才のこの音楽学生によると、(例えば)カラヤンのような有名な音楽家たちは「音楽を材料にして大衆を操作し、金儲けをしている」という存在であったようです。

音楽家というのは芸術家で、芸術家というのは思想家であるべきなんだ。銭儲けの商売人であってはならない。

ウーン、よく言えば理想主義、別の言い方をすると鼻持ちならない道徳野郎という気がしないでもないけれど、セッポから協力依頼の手紙を受け取ったKuhmoの音楽愛好家グループは、とりあえず彼の提案を受けることにした。その理由は、

クフモは自然に恵まれ、美しい町だけれど、いま、すべてに目標を失って、活気がなくなっています。みんなうつむいて、とぼとぼ歩いているみたい。そういうときに、なにか刺激になることが、町にあってもいいのじゃないかしら。

というものだった。

というわけで、クフモ室内音楽祭が始まったのですが、第一回は演奏家12人、教会や学校の講堂・体育館を会場にして、8回行われたコンサートの聴衆の数は全部で800人であったそうです。『燃え上がれハーモニー』には、その後のキマネンや奥さんのヨシコさん(日本人)の苦労話が細かく書かれているのですが、それを書き出すと余りにも長くなるので止めておきます。が、この音楽祭のサイトによると、最近では参加する音楽家は170〜200人、聴衆の数は4万を超えるとなっています。

つまり音楽祭としては大成功というわけです。それでは、「町おこし」としては成功だったのか?この音楽祭のサイトにTuulikki Karjalainenという人が長い記事を載せています。 それによると音楽教育が盛んになり、音楽を職業とする若者が増えた、芸術家が町に移住するようになった、文化の町として国際的も知られるようになり、観光客が増加し、以前にはなかったレストランやB&Bなどがビジネスを出来るようになった・・・等々と並んで社会的な影響(social impacts)として

1) 町が国際化した(It has added a new, international dimension)。
2) 大きな催し物を行う能力ができた(It has generated the capability to organise large events)。
3) 町民の間に団結心を生み出した(It has created a feeling of solidarity)。
4) 民がKuhmoを誇りに思うようになった(It has made people proud of Kuhmo)。

の4つが書かれています。この中でも「誇り」という部分が非常に面白いと思いませんか?そこの住民であるとか、その町の出身であるということに悪い気がしないというのはタイヘンな財産ですよね。新幹線が停まるとか停まらないとかいうのとはわけが違う。1970年当時、この町の人は「活気がなくて、みんなうつむいて、とぼとぼ歩いているみたい」な町だと感じていたわけです。

ただ横溝さんの本にも書いてあるとおり、音楽祭で町が賑わうのは夏の2週間だけです。「もっと年間を通じて活気のある町にしなければ、失業も減らないし、若者の流失も止まらない」というのが市長さんの悩みだそうです。実際、ウィキペディア情報によると、2009年2月28日現在のこの町の総人口は9789人。この情報が正しいとすると、セッポ・キマネンが音楽祭を始めた当時から見ると5000人以上も減っている。しかも65才以上が23%という高齢化社会です。主なる産業が農林業で、人口減と高齢化に悩むKuhmoのような町は日本中にあるはずですよね。

▼セッポ・キマネンとヨシコさんが貢献したのは、いわば「精神的町おこし」ですが、セッポの理想主義を受け容れた町の人もすごいですよね。横溝さんの本には、その当時の地元民の拒否反応についても詳しく書かれています。「電気も水道もない家があるというのに、何が芸術だ」という市議会議員の反発は尤もですね。が、結果としてはキマネンの理想主義が、電気や水道のような現実的恩恵をもたらしたという部分もある。

▼『燃え上がれハーモニー』の中に、ひょっとすると衰退に悩む日本の「地方」にも参考になるのではと思う部分がありました。それは、この音楽祭がかなりの成功を収めていたけれど、本拠となるクフモ文化センター(コンサートホールもある)が出来たのは、第一回の音楽祭から数えて23年目の1993年であったということです。それまでは教会だの学校の体育館だのを使っていたということ。

▼日本ではいわゆるハコモノ行政というのが、ここ数年批判されています。小さな村にやたらに立派なコンサートホールだの美術館だのがある。けれどコンサートも展覧会も殆ど行われない・・・という、あれ。横溝さんによると「利用率が月間3割程度というホールは日本全国にある」のだそうです。クフモの場合は、セッポらの始めたコンサートという"中身"が先にあり、それからハコができた。「立派なハコを作れば、中身はあとからついてくる」というのは甘い?

▼ちなみに今年(2009年)の音楽祭は7月12日から25日の約2週間行われます。

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5)新聞は「辞めろ」、ラジオは「辞めるな」という小沢さん

日本中がWBC(World Baseball Classic)のことで大騒ぎをしていた3月24日の夜、民主党の小沢代表が記者会見をやって、自分の秘書が起訴されたことで、党の代表を辞任するのかどうかについて「代表を続けることがプラスかマイナスか、国民の皆さんの受け取り方次第だ」と述べたのだそうですね。実は私もWBCのテレビを見ていて、小沢さんの会見は見なかった。

で、翌朝(3月25日)の新聞の社説の見出しは次ぎのようなものでありました。

朝日新聞 西松献金事件―小沢代表は身を引くべきだ
日本経済新聞 小沢氏続投は有権者の理解得られるか
読売新聞 公設秘書起訴 小沢代表続投後のイバラの道
毎日新聞 小沢代表続投 説得力のない会見だった
産経新聞 公設秘書起訴小沢氏続投は通らない
東京新聞 小沢民主党 けじめのつけ時 誤るな

要するに、社説は全部「小沢さんは代表を辞任すべきだ」というものだったし、関連記事も「民主党内にも辞めろの声」というニュアンスのものが圧倒的に多かったわけです。

その日(3月25日)の夜、TBSラジオの「アクセス」というリスナー参加の討論番組を聴いていたら、小沢さんの問題を取り上げていて「あなたは、民主党・小沢代表の続投を支持する?支持しない?」というテーマでディスカッションをしておりました。番組自体は、時間の関係で4〜5人のリスナーだけしか電話でしゃべることができないのですが、この番組のウェブサイトには、かなり沢山の人からのメッセージがアンケート形式で掲載されています。それによると次のような意見になっています。

小沢さんは、辞める必要はない 380票(60%) 
小沢さんは、辞めるべし 184票(28%)
どちらでもない 78票(12%)

という結果であったわけです。

▼それにしても、その日の朝刊各紙の報道のニュアンスとこのラジオ・アンケートの結果との間のギャップはどのように考えるべきなのでしょうか?新聞は「辞めろ」と言っているのに、ラジオのリスナーは「辞めるな」と言っている。ラジオのリスナーは、新聞(オンラインも含む)を読まなかったのか?読んだとしても、その論調に影響を受けなかったということなのか?ひょっとすると、小沢ファンが徒党を組んでラジオ・アンケートに参加したのか!?それにしては数が少ない・・・

一方、3月27日付けの読売新聞のサイトを見ていたら

読売新聞社が25日午後から26日夜にかけて実施した緊急全国世論調査(電話方式)によると、民主党の小沢代表が公設第1秘書の起訴後も続投することに"納得できない"は68%で、"納得できる"の22%を大きく上回った。

と書いてありました。つまりTBSラジオのアンケートとはほぼ正反対の結果になっている。そして、小沢と麻生のどちらが首相にふさわしいか?という問いでは、麻生さんの方が数字が上だった。新聞の世論調査と違って、ラジオ番組のアンケートはリスナーが自ら参加して意見表明をする「能動的アンケート」です。能動的だから信用できないのか、能動的だから信用できるのか?いずれにしても新聞社の調査結果と余りにもかけ離れているのが不思議だと思いませんか?

**********************

これとは別に、3月26日付けの毎日新聞の「発信箱」という小さなコラム(このコラムは小さいけれど面白い)に論説室の与良正男という人が"「政権交代のため」とは"というエッセイを載せています。この人は「政権が行き詰まれば別の政党が政権を担うような政治に変えよう」ということを繰り返し主張してきたのだそうです。

が、与良さんによると、小沢さんは「古い自民党的体質」を引きずっている政治家である、と有権者は感じており、彼が代表でいる限り民主党は、堂々とチェンジを訴えることはできない。小沢さんが辞めない限り「どうせ誰がやっても政治なんて変わらない」という「いつものパターン」が繰り返されるだけ。だから「(小沢さんは)代表を辞任して、早急にけじめをつけて、体制の一新を図るのが民主党の最善の道だ」と言っています。

毎日新聞の世論調査によると「麻生さんも小沢さんも首相にふさわしくない」という意見が7割以上もいるそうで、与良さんは、そんな中で選挙をしなければならないというのは「実に不幸な政治である」と締めくくっています。

与良さんの考え方を私なりに解釈すると、小沢さんが辞めれば、多分、「首相にふさわしい」ミスター・クリーンが出てきて、政権交代が起こるはず(あるいはその方向へ踏み出すきっかけになる)・・・ということになる。そして政権交代が起こらないのは政治家が悪いからだ、と言っているように(私には)思える。

▼そうなんでしょうか?私は、政治とか選挙というのは「ダメさ加減がちょっとでも少ない」人を選択する行為だと思っています。betterではなくてless badを選ぶということです。これは政治家はみんなダメな存在だ、というようなシニカルな意味で言っているのではない。人間というものがもともと欠陥だらけなのであり、それが1億人も集まって暮らしているのだから、それをまとめる政治の世界に欠陥ゼロなどあり得ない。選挙では少しでも欠陥が少ない(と自分たちが考える)人を選ぼうということです。政権交代もそういうものだということです。

▼で、ちょっと唐突かもしれないけれど、私の結論は、与良さんのいわゆる「実に不幸な政治」の責任の一端(全てとは言わないけれど)は、この世の中にあたかもMr Clean, Ms Best, Miss Absolutely-no-dirty-business-at-allのような政治家というものが存在する(あるいは存在して然るべきである)かのような幻想をふりまいてきたメディアにもあるのではないかということです。そしてそのことを人々がようやく分かり始めたのが、TBSアクセスのアンケート結果なのではないか、ということであります。

▼ちなみに、私は小沢さんは辞める必要など全くないと思っているし、郵政選挙で勝ち取った議席のお陰で首相になったのに「私は、実は民営化には反対だった」などと言っている麻生さんよりは、秘書がお金の帳簿をつけ間違えた程度の小沢さんの方がfar less badだと思っています。

▼それよりも何よりも、彼が辞めるということは、メディアによる、とてもフェアとは思えない「検察応援キャンペーン」に屈してしまうということであり、それが極めて不愉快であるということです。いま小沢さんが辞めて、誰かクリーンなイメージの人が代表になり、選挙で勝って、政権交代が実現したとします。それ、検察のお陰の政権交代ですからね。そんなのでいいんですか!?

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6)どうでも英和辞書
A〜Zの総合索引はこちら
baseball:野球

New York Yankeesのかつての名捕手、Yogi Berraによると"Baseball is ninety percent mental. The other half is physical."なのだそうです。野球というものが、肉体的というよりもメンタルな競技であるということを言いたかったのですが、「野球は90%がメンタルで残りの半分(50%)が肉体」だと計算が合わない。この人はマジメにヘンなコメントを言うことで有名だったと見えて、それの専門のサイトまである。

All pitchers are liars or crybabies.
ピッチャーはみんなウソツキか泣き虫だ。(これはおそらく正しい)
So I'm ugly. I never saw anyone hit with his face.
オレは確かに不男だよ。だけど顔でヒットを打ったヤツなんて見たことないもんな。
I'm not going to buy my kids an encyclopedia. Let them walk to school like I did.
オレは自分の子供たちには百科事典など買い与えるつもりはない。学校まで歩いて行かせる。オレだってそうしたのだ。(bicycle=自転車というのを、encyclopedia=百科事典と言ってしまったから意味が通じない)

leadership:リーダーシップ

The art of leadership is saying no, not saying yes. It is very easy to say yes. リーダシップというものの本質は「ノー」と言うことにあるのであって「イエス」を言うことではない。「イエス」を言うのは実に簡単なことなのだ。

これを言ったのは、前の英国首相だったTony Blairです。そういうことはあるには違いないけれど、ただ「ノー」と言えばそれだけでリーダーシップを発揮したことにはならないところが苦しいのですよね。 それと、ブレアさんはnoよりyesの方が多かったと思いますがね・・・。

It will be years before a woman either leads the party or becomes the Prime Minister. I certainly do not expect to see it happening in my time. 女性が党をリードしたり、女性の首相が誕生するまでにはかなりの年月がかかりますね。私自身が生きている間にそれが起こるとは思えません。

これはサッチャーさんが、1974年6月17日付けのLiverpool Daily Postという新聞とのインタビューで語ったもので、サッチャーさんは当時、影の環境大臣だったのですが、翌75年には保守党党首となり、5年後の79年には首相になっています。

very非常に

The Economistという雑誌のサイトには、この雑誌における言葉遣いの原則のようなことを記したコーナーがあります。外国人である私などにも結構面白くて参考になります。その中で「無駄な言葉は使うな」というのがあり、veryがやり玉に挙げられています。「良い兆しが見えた」という文章について、"The omens were good"の方が"The omens were very good"よりもインパクトが強いことがあるのだそうです。話し言葉ではveryが入っても違和感はない(I am very pleased to meet you)けれど、書いた記事として使う言葉としては止めた方がいいとのことです。

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7)むささびの鳴き声

▼WBCについてひと言、遺書代わりに書き残しておきます。これは多分だれでも感じたことなのだろうと思うけれど、何もあそこまで熱狂することはなかったのではありません?韓国に勝ったのがよほど嬉しかったってこと?この際、WBCを続けるのであれば、国別対抗ではなく、チーム別にするべきですよね。サムライ・ジャパンではなくて、それぞれの国でイチバン強いチームが出場するってことです。日本の場合だと埼玉西武ライオンズということになります(文句あっか!)。

▼それとダルビッシュにしても岩隈にしても、野球選手にしてはハンサムすぎるんでない?その意味で、ライオンズの中島も問題ではある。韓国の選手の方が、その点ではましだったのであります。稲尾と中西(西鉄ライオンズ)、尾崎・山本八・土橋(東映フライヤーズ)、江夏・掛布(阪神タイガース)、落合と張本(ロッテ・オリオンズ)、衣笠(広島カープ)、坂崎・千葉(読売ジャイアンツ)・・・昔から名選手といえば、顔についてはどうしようもない人が多かったのであります。

▼そういう点でいくと、サムライ・ジャパンの中ではヤクルトの青木なんか良かったんじゃない?ジャイアンツの内川というのも悪くない。それと楽天の田中マーくんも将来有望ですね。なんつったって、不細工ナンバーワン、あの野村克也に鍛えられているようですから。

▼その野村克也さんが、あろうことかWBCの最中に、サムライ・ジャパンの捕手・城島(かなりハンサム)のやり方を批判したのだそうです。それに対して、城島が「あのオヤジ、そんなこと言っとったんですか」とかいう発言をして、それがどこかのスポーツ紙に載って、またまた野村が「先輩に対して失礼だ!」とかいうコメントを出したり・・・どうでもいいのですが、野村も余計なことを考えているヒマがあったら楽天を優勝させたれや、と言いたい。

▼全然関係ありませんが、3月30日(月曜日)付けのFinancial Times(FT)にオバマ大統領との単独インタビューが掲載されるそうです。国際的な新聞としては、FTが最初だそうです。4月2日にロンドンで開かれるG20に関連して、グローバルな経済危機へのアメリカの対応と将来戦略について語ることになっている(とFTは言っています)。

▼今回もお付き合いをいただき有難うございました。

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