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musasabi journal 163
2009年5月24日
なんだか、あっと言う間に5月も終わりですね。一昨日、電車で都内へ出かける用事があったのですが、マスク姿はごく少数でありました。一枚700〜800円もするマスクがあるんですか!?私の妻が近所のチェーン薬局で見つけました。かと思うと、コンビニには、7枚200円というのもあった。
1)リタイヤを遅くするとアルツハマーの危険が減少する


定年退職(リタイヤ)を65才以後に迎えると、アルツハイマーにかかる率が低くなるのだそうです。5月18日付のThe Timesのサイトに出ていました。Cardiff UniversityとロンドンのKing’s Collegeの研究チームが、アルツハイマー病に罹っている可能性がある男性382人を調査した結果判明したのだそうであります。

調査チームは382人全員のリタイヤ年月日を比較検討した結果、1年長く仕事を続けると約6週間ボケ(dementia)の発症が遅くなるということが分かったのだとか。

この調査結果について、英国アルツハイマー協会(The Alzheimer’s Society)は、

認知症のリスクを少なくする最良の方法は、肉体的にアクティブであり、バランスのとれた食事をとり、定期的に血圧やコレステロールをチェックすることだ。The best way to reduce your risk of dementia is to combine keeping physically active, with eating a balanced diet and getting your blood pressure and cholesterol checked regularly.

と、ほとんど当たり前のようなコメントを出しています。

The Timesによると、英国の認知症人口は約70万、うち約42万人がアルツハイマーなのだそうです。今回の調査の対象となった男性の平均退職年齢は63.3才、平均アルツハイマー発症年齢は75.6才です。

今回の研究に資金提供を行ったアルツハイマー研究財団(Alzheimer’s Research Trust)のRebecca Wood理事長は、

最近では退職年齢がますまる高くなっている。それは、経済的な理由によるものではあるが、それによって認知症のリスクが小さいなるという利点もある。認知症が英国経済に与えているコストは年間170億ポンドにのぼっている。これを少しでも削減するためには、ライフスタイルに関するより多くの研究が必要だろう。More people than ever retire later in life to avert financial hardship, but there may be a silver lining: lower dementia risk. Much more research into lifestyle factors is needed if we are to whittle down the £17 billion a year that dementia costs our economy.

と言っています。この記事についての読者の投書を二つ紹介すると・・・

  • 政府が我々を70才まで働かせようというのであれば、この調査結果は政府にとっては大いに役に立つだろう。70まで働けばアルツハイマーなしの生活が10年ではなくて6年で済むというのは、働く身になれば大して楽しいことではない。それとアルツハイマーは50代半ばだって発症することもある。It's a jolly useful finding if the government is planning for us all to work until we reach 70. It's not all that exciting for workers however as if we work till 70 then we get about six years of Alzheimer free retirement instead of ten. Also, Alzheimer's can start in the mid fifties.
  • 長く仕事をすれば、それだけアルツハイマーの発症を遅らせることになるかもしれない。でも仕事のストレスは高くなるし、心臓病の危険は増大する。それからリタイヤした男性が仕事帰りに襲われる格好の標的だから身の危険も増える。長く働けば、腐った政治家に余計税金を払うことにもなる。政治家たちは、みんなが国家のお荷物になる以前にくたばってもらいたと思っているのだ。Working longer may delay the onset of Alzheimer's, but it will also increase stress, risk of heart disease, chances of getting assaulted (a tired old man coming home from work is a prime target), more tax paid to the corrupt MPs; they want to see you drop dead before you become a burden on the state.

    ▼私がいわゆる「毎日が日曜日」の生活を始めたのは、つい2か月ほど前のことです。もうすぐ68になる。もともと物覚えが悪く、最初からdementiaみたいなものだったわけでありますが、いずれにしても「病気に罹らないようにするために」努力するというのは性に合わない。リタイヤを遅くしたって、アルツハイマーにならないってわけではない。だったらこの際、好きにやらせてもらいたい・・・というのは、おそらく誰もが思っていることなのですよね。

2)ロールスロイスも不況には勝てない?


英国の超高級車のシンボルのように言われているロールス・ロイスも不況には勝てないという記事が5月9日付のThe Economistに出ています。「英国の」というけれど、実際には7年前にドイツのBMWの傘下に入っているわけですが、それでも作っているのはイングランドのWest Sussexというところにある英国工場なのだから、やはりロールスは「英国車」には違いない。

で、ロールスを1台買うといくらするのか?というと、ざっと30万ポンド(45万ドル:4500万円)するのだそうです。すべてが手作りでオーダーメイドというこのクルマ、昨年は1212台売れて、BMWに買収されて以来最高の販売台数を記録した。不況で工場も稼働停止に追い込まれたりしたけれど、最近では1週間に25台という割合で生産を再開しているのだそうです。ただ昨年並みの売り上げは難しい、と執行役員のティム・パービスさんも認めている。

ロールスの顧客は以前はアメリカ、特にカリフォルニアのビバリーヒルズの住民であったそうですが、昨年は中東のアブダビや北京などの後塵を拝している。

自動車メーカーはどこも同じですが、ロールス・ロイスにとっても中国が最大の成長市場となっており、4月に開かれた上海モーターショーでは、やや小型で「ベイビー・ロールス」というニックネームで知られるGhostシリーズを発表している。このクルマの価格は17万ポンドというから、従来のものよりもかなり安い。狙いは企業向けというよりもオーナードライバー層なのだそうです。

パービスさんによると、最近の売れ行き不振の背景の一つにアメリカにおける住宅価格の下落があるけれど、もう一つの理由として「このご時世に、クルマごときに30万ポンドも払うのはおかし」という世の中の雰囲気もあるとのこと。ただ世界経済が復調しても、「ガソリンを食う」パワフルなエンジン搭載のクルマの将来性は疑問、というわけで、いずれはロールスロイスのハイブリッド車が誕生することになるだろうと言われています。「そうなったとしても、創設者のヘンリー・ロイスは気にしないでしょうね」(I'm sure that Henry (Royce) would not have minded)とパービスさんは言っています。

▼どうでもいいことですが、私、たった一度だけロールスに乗った(というかイヤイヤ乗せられた)ことがあります。駐日英国大使のお供でどこかへ出かけたときのことです。乗り心地は最悪だった。 でもそれはロールスのせいではなくて、一緒に乗った人物が悪すぎたってことです(多分)。

3)底なし!?議員の経費スキャンダル


むささびジャーナル第161号で、英国の内務大臣のダンナさんが有料テレビでポルノ番組を鑑賞、その料金を議員経費で請求して問題になっていることを紹介しました。その後、この経費問題はますます広がりを見せておりまして、自宅のプールの補修費用、電球の交換料金等々、出るわ出るわの騒ぎになっています。また経費の不正請求にかかわっている政治家の中には、閣僚もいるし、野党・保守党の幹部議員もいるしで、どうしようもない。

ついにこの問題をめぐってMichael Martin下院議長が辞任に追い込まれる事態にまで発展してしまった。なぜ下院議長が責任をとらなければならなかったのかというと、議員の経費についての規則が下院の規則であり、それにまつわる不正は一義的には議長に責任があるということなのですが、BBCのサイトによると、「議長が国民に対して充分な悔恨の念を示さなかった(he has not expressed sufficient remorse to the public)」ことが、メディアはもとより下院議員らの批判も浴びてしまったのが主なる辞任理由になっている。下院議長が辞任に追い込まれたのは1695年にSir John Trevorという議長が賄賂を受け取ったことが発覚して以来のことだそうです。

5月12日付のThe Economistは「議会の評判がどうしようもないくらい地に落ちている(The reputation of Parliament is at a desperately low ebb)と言っています。

  • 英国は政治家に対するシニシズムと不信感が盛んな国であり、この種のスキャンダルはいつの時代でもダメージが大きいが、特に経済危機のこの時期を政治家自身が「耐乏生活の時代」と呼んだりしているのだから、(政治家に対する)不信感はとりわけ高くなっている。In a country where cynicism and distrust of politicians is rampant, the scandal would be damaging at any time. It is especially so now, in what politicians themselves describe as the new, recession-inflicted “age of austerity”.

というわけであります。

ところで、このスキャンダルが特に大問題となり、下院議長の辞任にまで発展したのは、Daily Telegraphという新聞が与野党含めて、不正請求をした政治家のリストを暴露したことによるところが大きい。このことについて、BBCのサイトが「ジャーナリズムの勝利か?」(A triumph of journalism?)という記事を掲載しています。

それによると、このリストを掲載した日のTelegraphは売上げを9万部伸ばしたと推定されています。それだけではない。同紙のサイトもアクセスを大きく伸ばし、ネット広告の収入も大きく伸ばした。とにかくやり方がうまかった。夜のテレビ・ニュースが始まる10時の約2時間前に新しい情報をサイトで伝え、9時に追加情報を掲載、10時にはフル情報を伝えるというぐあいで、何せTelegraphの独占情報だから、テレビ・ニュースも「Telegraphの最終情報によると」というふうに名前が何度も報道されたということです。

ケント大学でジャーナリズムを教えるTim Luckhurst教授(自身が昔はthe Scotsmanの編集長だった)は、

  • (今回のスキャンダル報道は)マルチメディアの時代にあっても、昔ながらのメディアの技術の勝利だった。ネットの世界にはGuido Fawkesのようなすぐれた政治ブロガーが存在しているが、今回のような膨大な詳細情報を解読して分かりやすく伝えるためには、ひとりのブロガーにはできないリソースが必要になる。This has been a triumph of old media skills in a convergent multimedia world. [Political blogger] Guido Fawkes is good, but deciphering and recounting such a mass of detail demands resources that lone bloggers are unlikely to deploy.

英国の場合、新聞は「高級紙」と「大衆紙」というふうに読者層が分かれてしまっている。Telegraphは保守派の高級紙とされていて、読者も保守派インテリ層に限られているという傾向があります。発行部数はせいぜい60万〜70万というとことではないかと思います。(日本では大新聞は800万部とか1000万部とかいわれている)。つまりTelegraphの特ダネも、Telegraphだけにとどまっていると大したことにはならない。

そのあたりのことについて、Tim Luckhurst教授は、「このスキャンダルについては、おそらくTelegraphではなく、BBCによって知った人の方が多いだろう」として、「放送メディアも他紙もTelegraphのジャーナリズムを利用して、自分たちのすぐれたジャーナリズムを作り上げたのだ」(broadcasters and other newspapers have used the Telegraph's journalism to create more excellent journalism of their own)として

  • このことは、(メディアの世界における)多様性の大切さを示している。メディアにおける収斂現象と新聞業界の経済危機という状況下において多様性が危機に瀕しているとも言えるのだから。This illustrates the importance of diversity at a time when convergence in the media and economic crisis in the newspaper industry are threatening to restrict it.

もっともTelegraphにとっていいハナシばかりではない。BBCのサイトによると、同紙が不正請求議員のリストをどこからどのようにして入手したのかということで、警察の捜査が行われる可能性もある。これについては、TelegraphのBenedict Brogan副編集長は

  • ジャーナリズムの原則は、伝える情報が信頼できるもので、公益に供するものであることを証明すればニュースソースを明かさないということだ。One of the great rules of journalism is that you don't discuss your sources, so long as you establish the information is reliable and in the public interest.

と言っている。Luckhurst教授は、この点については

  • おそらくTelegraphはデータを金で買ったのだろうが、それは昔からある小切手ジャーナリズムではない。情報を提供して金をもらったからと言ってニュースソースが堕落したとはいえない。実際には、公益に資することをしたと言えるのだ。We can assume that the Telegraph paid for the data, but this is not traditional cheque book journalism" he says. "The payment has done nothing to taint the source. In fact it has performed a public service."

とTelegraphの肩を持っています。

▼Telegraph紙に掲載された国会議員による経費の使い方リストは、ここをクリックすると見ることができます。確かによくぞこれだけ集めたものだという感じです。住宅関連の請求が多い。ブレア前首相の場合、選挙区にある自宅を再担保に入れ、その利子の3分の1を経費として請求したのですが、それがロンドンにもうひとつの家を買ったのと同じ時期に当たっている。これは規則違反ではないそうです。

▼中にはクリスマスツリーの飾り代、ガーデニング用のハンギングバスケット代のように「どうして?」と思わせるものもある。Cheryl Gillanという議員などは、ドッグフード代金を経費扱いしており、Telegraphに取材されてから返却している。このリストを読むだけでも面白いかもしれない。

▼BBCのサイトを見ていたら、住宅関連で不正請求をしたとされる保守党の政治家が、街角でBBCのインタビューを受けているビデオがありました。この政治家が自分の選挙区で行った集会のあとで行われたインタビューです。どうやら集会で彼は、経費問題があったにもかかわらず次なる総選挙でも出馬すると言ったらしい。BBCのインタビューはこの点を追及しているのですが、ここをクリックするとそのビデオを見ることができます。彼の発言よりも、インタビューの周囲に集まってきた通行人の表情が非常に面白いし、通行人から直接質問が出たりしてインタビューが余計盛り上がっている様子がうかがえます。

▼何年か前に英国で行われた世論調査に「信頼できる職業人」というのがあった。13の職種が挙がっていたのですが、信頼度の点でビリから二番目が政治家で最下位はジャーナリストだった。政治家が信用されないことの理由の一つがメディアによってこきおろされることが多いからとされたのですが、こきおろしているジャーナリストに対する信頼度は政治家以下だったというわけです。でも今回の事件で順位が入れ替わるかもしれないですね。


4)「民主党よ、しっかりしろ」というThe Economist


5月14日付のThe Economistが日本の政治、特に野党である民主党についてのエッセイを掲載しています。題して「Creative destruction」(創造的破壊)。民主党の代表が鳩山さんに決まる二日前に掲載された記事です。イントロは次のように書かれています。

  • 日本は変革の必要性に迫られている。しかし未熟な野党がその仕事ができるようになっているには見えない。The need for change in Japan is pressing, but the callow opposition hardly seems up to the job

政府の借金がGDPの2倍、輸出志向の経済の成長は幻想、少子高齢化社会の急速な進展・・・このような状況下にあって、与党・自民党の政策はほとんど期待の持てないものばかり。日本が抱える問題の根底には政治がある(Japan’s problems are political at root)。そしていま戦後初めて、野党が自民党に代わる実現可能性を持ったもう一つの力になり得る状況になっている。

The Economistは、最近の西松建設スキャンダルによって、小沢代表が民主党にとっての「選挙を勝つうえでのお荷物」(electoral liability)になってしまっていると言っている。小沢の後継者によって、新しい改革によって年金や医療、雇用などの問題を解決し、より責任のある政府と官僚を実現すると期待されてはいる。

が、後継者とされる二人はとてもフレッシュとは言い難い。鳩山氏は、小沢の取り巻きによって支持され、小沢氏自身が背後で政治を操ることになるのではないかと言われている。一方の岡田氏は前回の選挙で民主党が惨敗したときのリーダーであった人物であり、何よりも致命的ことに、彼は小泉の郵政民営化(人気が高かった)に反対した人物でもある。つまり鳩山氏も岡田氏もカリスマ性に欠けている。ただ、岡田氏は少なくとも議員の世襲に反対するキャンペーンをはることでは泣き所をついてはいる。

民主党はみじめな過去からの明確に決別しているとは思えない。昔の社会党にように「飼いならされた野党(tame opposition)」の立場に甘んじてきた。民主党議員には元社会党が多い。元自民党の鳩山氏も岡田氏は自民党の出身であり、両者とも、自民党の議員と同じで、とてつもない財産家であるという弱みもある。

The Economistは、小沢が去った後、元首相だのメディアの親玉だのといった人々が選挙後の大連立を再開するだろうと言い、そもそも岡田氏も鳩山氏も「自民党のはみ出し派閥」(errant LDP faction)としか見られていないのだと決めつけている。もっとも自民党の改革派から民主党に鞍替えを考えている議員もおり、民主党の未熟さを考えると、自民党からの離脱者は大歓迎かもしれない。というわけで、

  • 民主党に課せられた課題は、日本の政治が、他のどの先進国よりも、自選エリート(self-selecting elite:官僚たち)がおこなうトップダウンの政治であると思われていることを変えるべきなのだ。官僚たちは国民に知らしめることはしないし、国民の意見など全然聞かないのだ。日本の政治がこうなったについては、選挙民にももちろん責任はある。あまりにも自分たちに与えられたものを唯唯諾諾として受け入れ過ぎてきたのだ。So the big test facing the DPJ is to dispel the suspicion that politics in Japan, more than any other rich democracy, is a top-down business arranged by a self-selecting elite, which rarely informs the public of its actions, much less consults them. Voters, of course, have in part themselves to blame for this. To date, they have too readily accepted what they are given.

として

  • 次なる総選挙で投票所において、選挙民が民主党に対して明確なる投票をすれば、日本の政治家たちは、彼らこそが(選挙民に対して)説明責任を持つべきであることを思い知ることになるだろう。民主党が勝てば、民主党が約束守れる党であるかどうかを試すチャンスにもなるだろう。When they line up at the ballot boxes this summer, a resounding vote for the DPJ would show Japanese politicians they are accountable after all, and offer a chance to see if the DPJ can keep its promises.

と締めくくっています。

▼ややこしいエッセイですが、要するに一度は民主党にやらせた方がいい、と言っている。この記事の中で、日本の政治が、「常にお上が民を支配する」というスタイルで行われてきた、と言っている点は、私もそのように思う。国民があまりにもお上の言うことを文句も言わずに受け容れてきた、という部分も。

▼ただ、The Economistが触れていないのは、なぜトップダウンの政治が全く変えられることなく続いてきたのか?という部分ですよね。この「なぜ」を語ったり考えたりし始めると、つい「変化ぎらいが国民性」というような、なんだかよく分からない、固定化した議論になってしまったりする。考えることがそこで止まってしまう。自民党に代わって民主党が政権を取っても大して変わらないかもしれないけれど、それを試しもしないでほぼ60年過ごしてきているのですからね。どう考えてもまともじゃない。

5)鳩山・民主党の誕生とむささびの感慨


世の中が変わると自分のアタマも変わるものだ・・・というのが鳩山・民主党代表の誕生を聞いたときに私(むささび)がまず感じたことでありました。「良かった・・・」と思ったのでありますよ。かつての私には考えられないことだった。何が「考えられない」ことなのか?それをこれから説明します。

小沢さんが辞任を発表してからというものメディアの論調は、ほとんどすべて「鳩山が代表になるということは、小沢の傀儡ができるということであり、世論とかけ離れている」というニュアンスのものだったように思います。つまり岡田さんを代表に選べば、小沢の金権政治に代わってミスター・クリーンの登場ということで「えらいぞ民主党!」というわけですね。

でも選ばれたのは鳩山さんだった。私は政治の世界の内側のことなど知らないから、民主党内部でなにがあったのかなど分かりません。だから私の感慨など実際とは全くかけ離れたものなのかもしれないけれど、私は民主党は開き直ったのだと思いました。メディアによる小沢降ろしキャンペーンに対して「小沢の何が悪いってのさ」という開き直りです。

ちょっと古いけれど、4月1日付の朝日新聞に、ジャーナリストの立花隆さんが、民主党の小沢さんが代表(当時)を辞めないと言い張っていることについて大いに批判的なエッセイを寄稿していました。読みました?非常に長いエッセイだったのですが、結びの部分が立花さんの小沢さんに対するメッセージのすべてだと思います。すなわち・・・

  • (小沢代表が)やるべきことははっきりしている。万人の納得のいく説明をいますぐするか、党を離れて、個人としての裁判闘争をつづけるかである。民主党は小沢の私党ではないのだから、小沢の泥沼闘争に巻き込まれるべきではない。

立花さんによると、もろもろの世論調査から見ても明らかなことは、日本人が望んでいるのは「小沢抜きの政権交代」なのだそうです。なぜ「小沢抜き」なのかというと、「小沢がやっていることは、昔の金権時代に角栄がやったこと、金丸信がやっていたこととそっくり」であるからであり、しかも世論調査によると、西松事件についての小沢の釈明に「ほとんど誰もが納得していない」からである、ということになる。しかしこのエッセイを読む限り、立花さんが「小沢じゃダメ」の根拠にしているのは、

  • (小沢の)悪質性をめぐっては、すでに多くの新聞に、その独自取材にもとづいて(あるいは検察のリークもあったが)なるほどこれはひどいというエピソードがたくさん書かれている。

ということでしかない。

つまり立花さんの言い分は、検察や新聞の言っていることが全て正しいということを前提にしている(としか思えない)。西松建設事件が検察の横暴であり、新聞やテレビの報道が、その検察や西松建設側(小沢の側ではない)の「関係者」からのリーク情報に基づいた、きわめてアンフェアなものなのではないかという、私自身の疑いについては何も納得のいく説明をしていない。つまり立花さんこそ、彼のいわゆる「悪質・小沢」論について「万人の納得のいく説明」をすべきだと思うわけです。「検察と朝日新聞がそう言っている」では説明にならないわけです。

鳩山・民主党が誕生した翌日(5月17日)の朝日新聞は、鳩山さんが「小沢院政」の疑念を明確にぬぐわなければならない、と言っています。他の新聞も似たようなことを言っていた。朝日新聞の記事は「自前のグループをもたない岡田氏が集めた95票」の重みを受け止めよとも言っています。この記事を書いた前田直人という記者は、鳩山さんが集めた「124票の重み」はどのように受け止めるのでしょうか?それは全て「悪質な金権小沢」の言いなりになっているアホな124票ということなのでしょうか?

最初に言ったように、鳩山さんが代表になったことについて「良かった」と思い、そのように思っている自分が昔と変わってしまったという感慨を持ってしまったわけですね。昔なら立花さんのエッセイを読んで「なるほど・なるほど」と納得行ったような気分になっていたはずなのに、いまはそれをアンフェア(正しくない)なものとしか思えないでいる。自分がそのような感覚を持つということが以前では考えられないことであるわけです。

鳩山・民主党の誕生は、メディアも一部となっている「永田町の常識」が拒否されたということだと、私は思ったりしているわけです。私が思う「永田町の常識」というのは「誰がやっても同じじゃないんですか?」という「町の声」を生み出す、あれです。これまでの常識なら、鳩山さんを代表にすると選挙に勝てないというわけで民主党が分裂して、小沢さんが新党を結成して・・・で、自民党の政権が続く。メディアは自民党をひたすら「批判」する。結果として起こるのは、自民党もイヤだけど、民主党も分裂ばかりして頼りない。そして「誰がやっても・・・」ということになる。そういう常識が覆ったということです。

正直言って、私、民主党の政策なんか大して知らないのだから、自民党よりも民主党政権の方がいいと思っているわけではない。しかし「誰がやっても同じじゃないんですか?」病は退治されるべきだと思います。AがダメならBでやってみようという、当たり前のことをやってみたいと思っているだけであります。BがダメならCでいくか、またAに戻るかすればいいわけですからね。

ラジオを聴いていたら、小沢さんが選挙参謀として活動することについて、麻生さんが「民意を反映していないのでは?」と言っておりました。つまり民意は「小沢抜き民主党」を望んでいるのだから、これで選挙では民主党は勝てないだろうと言っているのですよね。麻生さんのこのコメントは、私には「小沢抜き民主党が相手なら、オレでも勝てる」という意味だと思いました。立花さんは、この麻生さんのコメントをどのように思うのでありましょうか?

民主党の代表に鳩山さんがなっても、岡田さんがなっても、私にしてみればどっちでもよかったのですが、検察のおかげで誕生するミスター・クリーンだけはカンベンしてほしいとは思っていたわけです。その意味からすると岡田さんはついてなかったと言える。自分はその気がなくても、「検察のおかげ」にされてしまうわけですから。

▼この話題について、田中良紹という人が「世論が大事」と言うデタラメというのと民意とのねじれというエッセイを書いています。両方とも思考を刺激される面白いものであります

6)どうでも英和辞書
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consensus:合意

consensusという英語を辞書サイトで調べたらmajority of opinion(多数意見)とかgeneral agreement(一般的な合意)という言葉が出ておりました。いろいろな人がいろいろな意見を持っていて意見を統一しなければいけないときがありますよね。The consensus of the group was that they should meet twice a month(月に2回、会合を開こうというのが、グループとしてのまとまった意見だった)というわけですね。つまり(私の日本語によると)これは「合意」です。

どことなく似ている言葉にconsentというのがある。informed consentというのは、患者が医者からもろもろの情報を与えられたうえで、「分かりました。先生のいうとおり手術します」ということですよね。これ、私の日本語によると「同意」であるわけさ。

consentが個人の意思に基づいた積極的な行為であるのに対して、consensusは「全体をまとめよう」ということが主目的である行為ですね。マーガレット・サッチャーの言葉として、"democracy is based on consent, not consensus"(民主主義というものは同意に基づくべきものであって、合意に基づくものではない)というのがある。彼女の「合意」嫌いは有名で、次のコメントがサッチャリズムの本質を表現しています。

  • To me, consensus seems to be the process of abandoning all beliefs, principles, values and policies.(私に言わせると、consensusというのは、あらゆる信念、原則、価値観そして政策を捨ててしまう過程のことを意味する)

このコメントは、彼女に党首の座を譲ったエドワード・ヒースが、サッチャーのやり方は独裁的だと批判したことに応えるものだった。ヒースが「合意政治」(consensus politics)を大事にしたのに対して「アンタみたいな人が英国をダメにしたのよ!」と反批判したわけですね。きついんだよな、マギーは・・・。

fraternity:友愛・博愛

民主党の鳩山代表が、代表選挙中の演説の中で、自分の政治信念は「友愛」であり「愛ある政治を行いたい」という意味の言葉を使ったところ、記者の一人が「今時、愛なんて女学生も言わない」と批判したのだそうですね。それに対してジャーナリストの高野孟さんが「不勉強が過ぎる。たぶんこの記者は、愛がloveだと思っていて、fraternityという言葉を知らない」と怒っております。

フランス革命の理念が「自由・平等・友愛」であることは、子供のころからよく聞かされたものですね。フランス語でいうとLiberte, egalite, fraternite、英語ではLiberty, equality, fraternityとなる。高野さんの怒りはここをクリックすると読めますが、彼はまた旧民主党の結党理念の中に「友愛」というのがあるのだ、として次のような文章を紹介しています。

  • 西欧キリスト教文明のなかで生まれてきた友愛の概念は、神を愛するがゆえに隣人を愛し、敵をも愛するという、神との関わりにおいて人間社会のあり方を指し示すもので、そこでは人間と自然の関係は考慮に入っていない。しかし東洋の知恵の教えるところでは、人間はもともと自然の一部であって、一本の樹木も一匹の動物も一人の人間も、同じようにかけがえのない存在であり、そう感じることで自然と人間のあいだにも深い交流が成り立ちうる。そのように、自然への畏怖と命へのいつくしみとを土台にして、その自然の一部である人間同士の関係も律していこうとするところに、必ずしも西欧の借り物でない東洋的な友愛の精神がある。

鳩山さんの意図を多少なりとも理解していれば、「女学生も言わない」とは言えなかったとは思うけれど、実は私も「愛ある政治」という言葉を聞いたときに、poltics with loveという意味かと思って「何だそりゃ?」と感じたのであります。「友愛」という言葉にはそれほどの違和感を持たなかったのに、です。

いずれにしても、フランス革命の「自由」は資本主義、「平等」は社会主義の理念ですよね。いまの世の中、この二つが思想的にはアウトという状況にある(と多くの人が言っている)。最後に残ったのが「友愛」です。もともと理念のハナシだから、どんな言葉を使っても甘く響くのは仕方ないよね。

privilege:特権、特典

最近、英国内務省が、英国入国を拒否された外国人のリストの一部を名前入りで公表して話題になったことがあります。どういう人が拒否対象になったのかというと、過激な意見をばらまいて、憎しみを増長させ、ひいては社会を不安定に陥らせるような人々(fostering extremism or hatred )であります。例えば、パレスチナ過激派ハマスの活動家、武闘派ユダヤ人、アメリカの白人優越主義者等々です。

この件についてJacqui Smith法務大臣(ダンナさんがポルノ・フィルムを見て、その料金を「経費」として請求した、あの女性大臣)の行った発言の中に出てきたのがprivilegeという言葉であります。

  • Coming to this country is a privilege. We won't allow people into this country who are going to propagate the sort of views... that fundamentally go against our values.(この国へ来るというのは特権なのです。我々の価値観に根本的に反するような思想を持つ人々がこの国へ入ることを許すわけにはいかない)

つまりprivilegeというのは、権利(right)などと違って、上から与えられる有難い特典であり特権という意味です。彼女のアタマでは、英国に入国できるということは「有難いこと」なのですね。政治家の夫だからと言ってポルノ・フィルムの鑑賞料金を政府に払ってもらうのは、たぶんprivilegeではないだろな。

6)むささびの鳴き声


▼私が子供のころ「流行性感冒」(略して流感)というのがありました。死者が出たこともあった。私が中学生(だったと思う)のとき、風邪で熱を出して寝込んだことがあり、「死ぬかもしれない・・・」と言ったところ、「そんなもんで死ぬわけないやろ」と母親に笑われた。でも、実際に死者は出ていたのであります。あのころはテレビではなくて、新聞とラジオの時代だったのだから、私もそのあたりを参考にして不安がっていたのでしょうね。

▼私の不安を笑い飛ばした母親は、心から風邪なんかで死ぬわけないと思っていたのか、一抹の不安は感じながらも、私と自分を落ち着かせるために笑ったのか?いまとなっては分からないけれど、ひょっとすると後者ではないかと思います。どんな母親だって、世間が「流感で死ぬ人がいる」と騒いでいるときに息子が風邪をひけば、落ち着かなくなりますよね。

▼新型インフルエンザのことでは分からないことが多いですよね。WHOが「フェーズ6」に上げることを検討していると報道されるのですが、それが私たちの生活にとって何を意味するのかが、イマイチよく分からないと思いません?フェーズ6に格上げ(?)するということは「世界的な流行」(パンデミック)を宣言することなのだそうです。つまり大量の死者が出るかもしれないほど深刻な事態だということですよね。

▼で、それで我々に何をしろというのですかね?例えば海外旅行は一切禁止とか、国内旅行も制限するとか、学校も企業もお休みで、みんなじっと動くなということ?そんなことできっこない。ということは、要するにお手上げってことで、それはフェーズ5も6も同じことなんじゃありません?知事さんが真夜中や早朝に記者会見を開催する意味はどこにあるのでありましょうか?それから「NY帰りの高校生」という言い方って、何かの犯罪人扱いでもしているように聞こえません?

▼これだけ連日連夜大騒ぎをすると、誰だって「死ぬかもしれない」と思い、私の母親みたいに「死ぬわけないやろ」と笑い飛ばすわけにもいかなくなる。「弱毒性」といわれる豚フルでこれなのだから、強毒といわれる鳥フルだったら、みんなどうするんだろう。答えは悲しいほど簡単ですよね。どうしようもないってことなんだから。せめて「落ち着いて対応してください」と言いながら、厚生労働大臣が、目玉をぎょろぎょろさせながら、夜の夜中に記者会見などやることによって、却って不安を掻き立てるのは慎むべきなんじゃありませんか?



letter to musasabi journal

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