musasabi journal 168

home backnumbers uk watch finland watch
むささびの鳴き声 美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2009年8月2日
とうとう8月。やたらと雨が多いですね。上の写真のワンちゃんですが、種類はボーダーコリーですね。見ただけでは分からないけれど、左のイヌ(オス)は盲目で、いつも右のイヌ(メス)と一緒にいる。英国にある動物愛護園のようなところで飼われているのですが、食事時ともなると、必ずメスがオスに付き添って連れてくるのだそうです。盲導犬(guide dog)ですね。

目次

1)パブが消えていく
2)結婚率が上がって、離婚率が下がる・・・
3)地方紙の明暗
4)The Economistの社説:民主党政権に必要なもの
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
1)パブが消えていく

英国のパブの閉店が相次いでいるのだそうです。英国ビール・パブ協会(British Beer & Pub Association:BBPA)の数字によると、現在英国内にあるパブの軒数は57,500軒ですが、この1年間で2,377件が店じまいしている。1週間で52軒、毎日7軒のパブがどこかで閉店しているという数字になります。

もちろん経営が苦しいから店じまいするのですが、なぜ苦しいのかというと(これも当たり前ですが)、お客さんが減ったからです。なぜ減ったのか?景気がよくないということもあって、人々がパブではなくて自宅で飲むようになっているということもある。whatpriceというサイトによると、英国パブでにおける1パイント(約500ml)のビール(昔ながらのaleという種類)の平均価格は2.05ポンド。スーパーで買うと、安いところではひと箱(18缶)で8ポンド。これでは勝てっこない。

BBCのサイトに出ていたパブ経営者は「パブは政府によっていじめられている」(The pub trade is being persecuted by the government)と言っているのですが、例えばパブにおける禁煙命令のおかげで愛煙家の集まる場所が取り上げられた。もう一つはビールにかけられる税金です。約30年前の1980年の時点で1パイントあたりの税金は8ペンスだったのに、今日では38ペンスにまで上がっている。パブの閉鎖で昨年1年間、政府に入るはずだった税金、2億5400万ポンドが失われたはずだ、とBBPAは言っています。

ところで英国のパブは経営形態によって3種類あるのだそうです。一つは
Managed Housesと呼ばれるもので、大手のパブ・チェーンが全国展開しているもので約9000軒ある。2番目がTenanted/Leased Pubsという種類で、パブ・チェーンや大手のビール・メーカーが所有、地方の経営者に貸出しているもので約3万軒。3つ目がFreehousesと呼ばれる独立パブで約18,000軒ある。姿を消しつつあるパブは、2番目と3番目のカテゴリーのもので、パブ・チェーンが展開するManaged Housesは却って増えているのだそうです。

ただ、パブ・チェーン(pub companiesを略して
pubcosといわれる)のビジネスのやり方については、テナントであるパブ経営者との間の契約が不公平だという批判もある。例えばビール販売でノルマを課してみたり、特定の企業のゲーム機を置かせたりするということで、不平等な力関係(inequalities of bargaining power)が原因になっているという指摘もある。

pubcos側にも言い分はあります。契約の不平等性についてはこれまでにも公正取引委員会やEU当局によって何度も調査され、その都度クリアしていると言っており、さらに自分たちは、パブ経営の経験もない人たちにも経営をさせていて、ビジネスの創出に貢献しているとも主張しています。

ただ普通の英国人の心の中にあるのは「村のパブ」ですね。コミュニティの中心で集会場のような役割も果たしたりしている。単なる酒場ではない。そのようなパブを消滅から救うべく自分で経営に乗り出したCorfieldという人は、従来のやり方ではダメというわけで、パブの隣の空き地を畑にして野菜を栽培したり豚を飼育して、それらを食材にして料理を出したり、中古品のバザー、傷病兵のためのチャリティコンサートなどを開催することで「コミュニティ・パブ」として根付かせようと頑張っているのでありますが「時々、自分でもアホじゃないかと思ったりする」(
Sometimes I think I'm mad doing this)と言っております。

▼ビール・パブ協会によると、英国人(成人)の10人に8人が自分を「パブの常連」(pub goers)だと考えており、1500万人が少なくとも週に一度はパブへ行くという統計があるのだそうです。私の記憶によると、パブというところは、ワイワイガヤガヤ、皆さん大声でしゃべりまくるという雰囲気だった。でもそれがいつの頃からか、飲むより食べることを中心にするようになってきたように思えます。パブのファミレス化です。男だけの社交の場ではなくなったってことですね。英国社会の移り変わりを反映しています。

▼パブ・チェーンの「横暴」と似たようなハナシはどこにでもありますね。日本では大手スーパーやコンビニの進出で地元商店街が打撃を受けると言われたりしている。メディアなどの報道を見ると、英国でも日本でもチェーン店側に批判的なものが多いように思うけれど、普通の消費者として見知らぬ町へ行った先で、セブン・イレブンと地元の酒屋さんがあったとして、お弁当や飲み物を買うのにあなたならどちらに入ります?

▼全国展開のチェーン店の場合、コンビニであれ、ファミレスであれ、パブであれ、どこへ行っても同じという画一性のつまらなさがあるのですが、逆にどの町で入っても同じサービスが受けられるという安心感もありますよね。

back to top

2)結婚率が上がって、離婚率が下がる・・・

英国・保守党のキャメロン党首が常々言っていることに、「英国が壊れている」(broken Britain)ということがあります。道徳観が劣化し、10代妊娠が増え、結婚率が落ちている・・・キャメロンさんとしては、そのような英国を生み出したのは、10年も続く労働党政権の政治が間違っているからだと言いたいわけであります。

このあたりのことは保守党の政策にもなっていて、最近、保守党の元党首だった
Iain Duncan Smithという人が「政府は結婚率を高めるために努力すべきだ」というわけで、学校で結婚教育をしようとか、結婚しているカップル対象の減税とか、国家経営の結婚カウンセリングを始めてはどうかなどとも言いだしています。

7月16日付のThe Economist(英国内版)が、この件についての記事を掲載しています。それによると、英国における結婚率は1895年以来最低なのだそうです。ただ結婚率が低下しているのは事実かもしれないけれど、少なくとも結婚したカップルの離婚率はここ数年低下しているのだそうです。

2007年の数字ですが、結婚1000件あたりの離婚件数は11.9で、前年の12.2より低くなっており、1981年以来最低の数字を記録している。離婚したカップルにしても、1981年における結婚年数が10.1年であったのに、2007年には11.7年へと延びている。つまり昔に比べると簡単に夫婦別れをしなくてっているということですね。

尤も高齢夫婦の離婚率が高いということもあるのだそうです。最近でイチバン離婚率が高かったのは2004年で、1000組あたり14.1組だったのですが、それ以来の傾向を見ると60歳以上の年寄り夫婦の離婚率だけが上昇を続けていいるのだそうです。

ではなぜ高齢夫婦以外の離婚率が低下しているのか?については専門家にもよく分からない。例えば移民家族が増えたというのも理由の一つかもしれない。移民はどちらかというと伝統的な家族観に支えられているから。あるいは離婚すると慰謝料とかなんとかでお金がかかるということもあるのでは、という人もいる。

いずれにしても英国では結婚率も離婚率も低下しているわけでありますが、これは「同じコインの両側(
two sides of the same coin)だ」と言っているのがヨーク大学のKathleen Kiernan教授です。結婚には人気がないかもしれないが、にもかかわらず結婚するカップルは、そう簡単に離婚はしない。それから以前に比較すると結婚年齢が高い(男・36才、女・33才)ことも理由の一つと考えられる。年長者が結婚する場合は若年者の場合よりも長持ちするというわけです。

だとすると、結婚カップルに減税というのは考えた方がいい、とKiernan教授は言っている。減税がうまくいったとしても、それが効果的なものになるためには、タイヘンな額の減税になるであろうし、未婚カップルが減税目当てに結婚するケースが増えることも考えられる。彼らはいずれ離婚するだろうから、結局離婚件数が増えるということになるではないか、というわけです。

▼政府が音頭をとって結婚奨励というのは気持ち悪いですよね。確か日本でもそんなことをいう人がいたと思うけど。高齢者の離婚率が増え続けているというのは、何なんですかね。若い人は容易に離婚しないのに年寄りは別れたがる・・・困ったもんですな、ご隠居。

▼日本の場合は奥さんの方が別れ話を持ち出すケースがほとんど、と聞いたことがあるけれど、アタイの奥さんも本当は別れたいと思っているんだろか?虫も殺さないような顔しやがってさ・・・。日本の場合は「お前さんてえものにはあきれたよ。アタシ、出ていきますから。サヨナラ、失礼」とでも言うんだろな。英国の場合はどうなんだろ?"
Charlie, I'm going to leave you. Don't look for me. OK, honey?"かな・・・?


back to top

3)地方紙の明暗
7月23日付のThe Economistに英国の地方新聞に関する面白い記事が二つ出ていました。一つは地方紙の廃刊が続いているという悲観的な記事、もう一つは「それでも生き残る地方紙もある」という記事です。

ロンドンの北東約160km、イングランドの真ん中あたりにBedworthという町があります。人口約32,000人の市場町。その町の新聞、Bedworth Echo(週刊)がこの7月10日付をもって廃刊になった。地方紙の出版大手であるTrinity Mirrorが発行していたのですが、同社は昨年一年間で27、今年に入ってからBedworth Echoを含めて22の地方紙を廃刊しています。

The Economistによると、Bedworth Echoの場合、広告収入が減ったことが廃刊の主な理由です。特に厳しい状況にあったのが人事募集の広告の落ち込みだった。10年前の1999年、人事募集広告だけで17ページもあったのに、廃刊直前は5分の1ページだけ。ほとんど全滅ですね。非常に痛かったのがお役所関係の人事募集広告の減少で、みんなお役所のサイトに直接掲載されるようになってしまった。Bedworth Echoはお役御免というわけです。

Echoがなくなったおかげで、地元ラジオ局もないBedworthは「ニュースのない町」(
a town without news)になってしまった。現在では、付近の大きな町であるコベントリーの新聞がBedworthについての情報を掲載しているけれど、かつてのようなBedworthのニュース専門の新聞がなくなってしまい、Bedworth Echoが報道していた教会の行事や学校のお祭りのような地元イベントが報道されなくなってしまった。

この新聞がなくなってイチバン被害を受けているのは高齢者と貧困層で、インターネットもやらないし、移動手段にも恵まれないので、新聞がないと病院の休みの日とか市役所のサービス変更のような大切な生活情報に接することが難しい。Bedworth Echoの廃刊以来、その代わり役割を果たしているのが、地元政治家と住民が集まって発行しているリーフレットで、その中で政治的な意見を述べるだけでなく、町についての情報提供も行われている。また市役所や教会もそれぞれ同じようなリーフレットを無料配布しているのだそうです。

昨年初めからこれまでの1年半、英国では地方紙80紙がつぶれたのですが、Bedworth Echoもその一つです。Bedworth Echoの読者は圧倒的に中高年で、15~24才の住民は15%しか読んでいなかったのだから、情報提供媒体としての将来性はなかったわけですが、NPO関係者などからは自分たちの意見発表の場としての同紙の廃刊を惜しむ声はある。The Economistの記事は

地方新聞が衰退する中で、我々は新聞の本当の価値は政治家の監視というより、ごくカジュアルな会話の場を提供するということにあるということを学ぶかもしれない。町が町と会話する場である。As local newspapers fail, we may learn that their real value was less as a check on politicians than simply as a forum for casual conversation:a place where a town can talk to itself.

と言っています。

一方、生き延びている方の地方紙として紹介されているのが、イングランド南岸の町、Lymingtonで発行されているLymington Timesと隣のNew Miltonをカバーしている週刊紙、
New Milton Advertiserです。両方合わせた発行部数は約2万2000部。発行主兼編集長は88才になるCharles Curryという人。広告収入もそこそこ順調(Advertising revenues have held up relatively well)なのですが、The Economistによると、この2紙が成功しているのは地元ニュースへのこだわりとコスト管理だそうです。印刷機は1950年代に使われたものを未だに使っており、レイアウトは1950年代そのままだそうです。

地方紙発行では業界10位のTindle Newspapersは約200の地方紙を発行しているのですが、経済危機にもかかわらず収益を上げている。オーナーのSir Ray Tindleは「ローカルニュースを楽しく伝える(reporting local news in an engaging way)」ことを成功の秘訣として挙げているそうです。

何と言っても、経営者・編集長の闘志が大きい。Tindle Newspapersの経営者であるSir Rayは第二次世界大戦のみならず過去5回の経済不況も生き延びたし、ニューメディアの台頭にも負けなかったと言っている。この精神さえあれば地方紙の生き延びる可能性はかなり高いと言えるのだ。Above all, their proprietor editors have the will to battle through. Sir Ray points out that he survived not just the second world war but also five previous recessions and the advent of new media. With this spirit, local papers have a better-than-average chance of surviving.

とThe Economistは言っています。

▼成功している方の新聞ですが、編集長のこだわりが成功の秘訣ということはあるのかもしれないけれど、地元がどちらかというと富裕層で定年後の人々が暮らしているエリアであり、インターネットにはそれほど関心のない人たちが多くいるということも理由の一つとしては考えられるとのことであります。

ここをクリックすると88才の編集長の手になる
New Milton Advertiserの実物を見ることができます。広告も掲載されている。ネットで見れるのは2ページ。少なくともここに掲載されている広告主にしてみれば、このような形でネット掲載されると、新聞の読者以外の人にも見てもらえるのだから結構なハナシですよね。しかもこの新聞が発行されている町は、廃刊されたBedworth Echoの地元などと違って、高齢・富裕層が多いということは、ネットで掲載されているからといって、実際の新聞は読まないということにはつながらないだろうし・・・。

back to top

4)The Economistの社説:民主党政権に必要なもの

7月30日付のThe Economistが、日本の総選挙と民主党政権について社説で取り上げています。そのメッセージは

民主党政権が成功するかどうかは、リーダーたちが次なるステップ、勇気が要るステップを踏み出すかどうかにかかっている。すなわち圧力団体・有力政治家・官僚という、日本にある「鉄のトライアングル」を打ち破れるかどうかということである。the DPJ will succeed only if its leaders also take the next, bolder step--and scrap the country’s “iron triangle” of lobbies, political barons and bureaucrats.

The Economistによると、1年前の民主党は国内政策では不統一、外交面では反米すぎ(worryingly anti-American)、社会主義者の社民党や自民党からの追放者から成る国民新党という風変わりな連合体・・・日本を率いるのには適していない(unfit to lead Japan)ように見えた。が、Nothing sobers you up like responsibilityだ。「責任を持たされるとしゃんとする」というわけです。確かに未経験であり、自民党同様に「とてつもなく広範囲な意見の集合体」(an improbably broad church)という問題はあるけれど、「もはやバカみたいには見えない」(it no longer looks foolish)。

The Economistは、民主党のマニフェストにおける最大の約束事は「官僚たちに対して誰がボスなのかを示すこと」にある(
to show “the bureaucrats who is boss”)と言っており、そのために必要なのは「説得と勇気の組み合わせ」(a combination of coaxing and courage)だと主張しています。coaxing(説得)は「なだめすかす」という意味もある。要するに粘り強く官僚たちに語りかけていくということです。それが必要なのは、官僚たちの中に実際には存在する改革派を見つけて彼らの助けを求めることが大切であるからです。

courage(勇気)が必要というのは、民主党が政権に就くと官僚たちが「毒をまき散らして反撃に出てくる」(the system will fight back by spreading poison)であろうから、それに対抗する勇気が必要ということです。1993~94年の細川政権のときも、官僚たちは自民党の古株たちと手を組んで、新しい政権の信用失墜を図ったのだ、というわけです。

民主党にもうひとつ必要なことは「自制心」(
self-restraint)だそうです。すなわちこれは「古い政治のやり方」に戻りたいという誘惑から自らを断ちきるということです。The Economistが言っているのは、特に小沢さんが「内閣の外から支配しよう」とすることの危険性です。小沢さんは、聡明で何をやるか分からない人であり、裏から政治を操作する術にかけては「黒帯」(black belt)なのだそうです。鳩山氏がやるべきなのは、その小沢氏に対して閣僚に加わるように主張することでり、閣内にいれば小沢さんも「最小限度の害しか与えられない(he should do least harm)」というわけです。

民主党に対して、一夜にして政府のシステムを作りなおせというのは酷というものだ。彼らはそれには4年が必要と言うが、それは4年でも難しいかもしれない。しかし(改革によって)民主党が得る報酬は大きなものであろうし、日本が得る報酬はそれよりもさらに大きなものとなるであろう。すなわちわがまま政治家に責任をとらせる2大政党制度をついに手に入れることになるのだ。It is a tall order to expect the DPJ to reinvent the machinery of government overnight, or even in the four years it says it needs. But the party’s reward would be great and the reward for Japan would be greater still: a two-party system that can at last begin to hold wayward politicians to account.

というのがThe Economistの社説の結びです。

▼小沢さんを入閣させるべし、という指摘は説得力がありますね。外部からコントロールするようなことがないように、ということですね。

「このままでの自民党では、日本は行き詰る。米ソ冷戦の終結という国際情勢の変化や、資本主義の変質に対応できる国家をつくるため、政治の仕組みを改革する」

▼これ、いまから約20年前に小沢さんが言ったことだそうです。平野貞夫という人のブログに出ておりました。小沢さんは、当時は自民党幹事長だった。私の記憶によると、確かこのころに小沢さんが、日本における政治改革というテーマでThe Economistに投稿したことがある。The Economistの場合、ごくまれに外部の人からの投稿記事を掲載するのです。残念ながら小沢さんのエッセイを掲載したThe Economistを紛失してしまった。

▼いずれにしても、政権交代が可能な2大政党制の実現によって「ダメだと思ったら違う政党にやらせよう」という習慣ができるかもしれないわけで、そのことは全然悪いこっちゃない。こんな制度を持たずに民主主義だなどとよく言えたものですよね。

▼それから、民主党政権ができると「官僚たちの反撃が始まる」という部分ですが、これは「小泉改革は間違っていた」というここ数年のキャンペーンですでに始まっていると思います。自分たちのことを自分たちで決めるという流れが気に入らない人たちによるキャンペーンです。麻生さんは「市場原理主義とは決別する!」と言っているのがそれであります。


back to top

5)どうでも英和辞書
A~Zの総合索引はこちら

reflect on:「反省」?


7月21日、衆議院を解散した麻生さんが行った記者会見の冒頭発言で次のように述べています。首相官邸のサイトから一語一句そのままコピペしてみます。

「その間、私の不用意な発言のために、国民の皆様に不信を与え、政治に対する信頼を損なわせました。深く反省をいたしております」

で、この部分は英語でどのように表現されているのかということで、同じサイトのEnglishのコーナーをあけたら次のようになっていた。

During this time, improvident statements I have made caused mistrust among the public and damaged its confidence in politics. I have reflected deeply on this situation.

この中のreflected deeply onという言い方が気になるのですよ、私。「深く反省をいたしております」の英訳ですね。「反省している」という日本語にreflect onという英語が充てられている。これ、正しいのでしょうか?

英和辞書を見ると
reflect onの日本語として「反省」というのもあることはある。でも私が理解していたreflect onは「もう一度よく考える」というような意味であって、麻生さんの発言のような「申し訳ありません」(つまり反省)というニュアンスは含まれていないと思っていたのであります。で、気になって今度は「大辞林」で「反省」という日本語の意味を調べてみたのであります。それによると「反省」には二つの意味がありました。

1)自分のしてきた言動をかえりみて、その可否を改めて考えること。例:「常に反省を怠らない」「一日の行動を反省してみる」

2)自分のよくなかった点を認めて、改めようと考えること。例:「反省の色が見られない」「誤ちを素直に反省する」

麻生さんの「反省」はどちらなのでしょうか?どう考えても2)の方だと思いません?私はそう思うな。だとすると、英語としてはregretあたりの方が正解なんじゃありませんか?これは過去を振り返って後悔の念を持つという意味です。冒頭発言の「私の不用意な・・・深く反省を云々」の部分は

I deeply regret that some of the statements I carelessly made have caused mistrust...

の方が麻生さんの発言に近いと思うけどなぁ。でも・・・首相官邸たるもの、こんなことで間違えっこないよね。それでもなぁ・・・reflect onは納得いかないのよさ。


apology:謝罪

麻生さんは、7月21日の会見で次のようにも発言しています。日英両語で紹介すると:

また、自民党内の結束の乱れについてであります。私が至らなかったため、国民の皆様に不信感を与えました。総裁として、心からおわびを申し上げるところです。

This is also with regard to the disunity within the Liberal Democratic Party (LDP). My shortcomings have created mistrust among the public, and as the President of the party, I should like to extend my most sincere apologies.

ここでは最後のapologiesにご注目ください。「心からおわびを申し上げる」はto extend my most sincere apologiesとなっていますね。apologyは名詞ですが、動詞(謝罪する)はapologiseですよね。You cannot apologiseという表現を聞いたことあります?「謝罪することはできない」だと直訳すぎて何だかよく分からない。これは「謝って済むことではない」という意味ですよね。

麻生さんの場合、これまで長々と首相の座にあったこと自体
cannot apologiseである、と私はマジメに思っているのであります。


red tops:大衆紙


最近のThe EconomistにRed tops and blue bloodという見出しの記事が出ていたのですが、近頃の英国の新聞記者には、お金持ち・上流階級の子息が多いという内容の報道だった。Red topsというのは、いわゆる大衆紙の総称ですね。The Sun、The Mirror、Daily Starのような新聞の場合、題字が真赤な地に白抜きが多い。おつむの部分(トップ)が赤いからred top。でもそこで仕事をしている記者たちには、「青い血」が流れる、良家の子息が多い、というのが最近の傾向なのだそうです。

ところで
blue bloodnoble birth(高貴な家柄)という意味で、Oxford English Dictionaryによると語源はスペイン語なんだとか。なぜ「高貴なお方」が「青い血」なのか?肌の白い人々の場合、血管が青く見えるということから来ているのだそうです。「青い血」なんて気持ち悪い。

back to top

6)むささびの鳴き声

▼妙なハナシですよね。なぜ「マニフェスト」という言葉を使うようになったのでしょうね。「公約」ではダメなんでしょうか?昔、Communist Manifestoというのがありましたね。『共産党宣言』という本。マルクスとエンゲルスが書いたものだった。あの場合のManifestoは宣言であり、呼び掛けであって、最近話題になっているマニフェストのように「契約」とか「公約」という性格のものではない。「ヨーロッパに幽霊が出る――共産主義という幽霊である」(A spectre is haunting Europe—the spectre of Communism)という書き出しで、最後の文章が「万国の労働者よ、団結せよ!」(Workers of the world, unite!)だった。もちろん言葉はドイツ語だったのでしょうね。1848年の出版だから、いまからほぼ160年前、明治維新の20年前のことです。

▼『共産党宣言』は、資本主義社会では富が一部のブルジョア階級に集中し、大多数の労働者階級は貧困化すると説明していたと思います。違ったっけ?出版から160年たった今、労働者階級の独裁による社会主義が誕生し、世界中に広がって、搾取のない共産主義社会ができあがった・・・という状況ではないけれど、派遣村などの活動に見る限り、日本においては労働者大衆の貧困化という部分だけは当たっている。

▼マニフェストといえば、ある新聞の小さなコラムに「子育て支援策がずらりと並んだ」総選挙向けの各党の公約について「親としては助かる」けれど子供たちが将来背負う荷は「途方もなく重い」ものになる。というわけで

一時しのぎではなく、根元から社会のあり方を変えなければ、この国はたぶんもたない。いつから日本は、未来の世代からじりじりと希望を削り取り始めたのだろう。

と書いてありました。

▼新聞にケチばかりつけて申し訳ないけれど、「この国はたぶんもたない」などというように、どうしていつも他人事のような言い方をするんだろう?と考えてしまう。世の中の諸々を憂う「良心的インテリ」というわけです。この筆者が、いわゆる「派遣」の人たちが送る不安の日々とは全く無縁のところで生活していることだけは間違いない。そのこと自体を悪いなどというつもりはないけれど、若い世代から希望を削り取り始めたのは政府や政治家であって、自分がそのこととは無縁であるかのような言い方をするのは止めてもらいたい。

▼「地方紙の明暗」ですが、あるサイトによると、英国内で地方紙が運営しているウェブサイトの数は、今年3月末現在で1200だそうです。地方紙の数も似たようなもののはずですが、その9割が新聞出版20社によって出されている。一つの出版社がいろいろな地方紙を出しているのですね。
Trinity Mirrorは全国紙のDaily Mirrorを出している会社で、Yorkshire PostとかBirmingham Posのような大きな新聞もあるけれど、Bedworth Echoのような小さな町の小さな新聞が圧倒的に多い。

▼独立系の地方紙の成功は、エキセントリックな経営者・編集長の存在が大きいようであります。それぞれ小さな新聞ですが、おそらく発行している方も読んでいる方もお互いに顔が見えているような関係なのでしょうね。私が暮らす埼玉県の町にもそのような新聞があります。この町の人以外は誰も知らない。ただ、この新聞はつぶれないのではないかと思います。必要とされているからです。小さくて記者もほとんどいないかもしれないけれど、町の人たちは「自分たちの新聞」と思っているわけです。この新聞は「この町はたぶんもたない」などとは言わない。書く方も読む方も顔を知っているからです。

back to top



←前の号 次の号→

messages to musasabi journal