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むささびの鳴き声 美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2009年10月11日
英国人はお天気の話をするのが好きというけれど、日本人は季節の話が好きです。私もその一人。10月になったとたんに本当に秋になりましたね。朝晩は寒いくらいなんだから。日本人がなぜ季節の話が好きかというと、おそらく四季の変化が実にはっきりしているからなのでしょうね。しかも酷暑からしびれるような寒さまで何でもある。

目次
1)迷い犬とお役所仕事
2)The Sunが労働党にサヨナラ
3)アフガニスタンからの引き方
4)世論調査に見る職業別信用度
5)D・キャメロン研究②:「思いやる保守主義」って何?
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声
1)迷い犬とお役所仕事

Dogs Trustというイヌの愛護団体が最近発表した数字によると、英国における迷い犬(stray dogs)が劇的に増えている(huge jump)のだそうです。Dogs Trustによると迷い犬の数は、記録を取り始めた1997年に比べると25%も減っていたのですが、昨年(2008年)4月から今年3月までに107,228頭の迷い犬が地方自治体によって収容された。これは11%の増加だそうです。

理由は二つ考えられる。ひとつは不況で飼い主がイヌを捨てるケースが増えたことですが、もう一つの理由としてDogs Trustが言及しているのが、昨年4月に実施された迷い犬に関する法律の変更だそうです。法改正以前は、迷い犬や捨て犬は夜間・週末は警察が、それ以外は地方自治体が保護する責任を負っていたのが、改正後はすべて地方自治体の責任ということになった。

中央政府の環境・食糧・地方問題省(Department for Environment, Food and Rural Affairs:DEFRA)では、迷い犬保護サービスの一元化は、地方自治体と警察からの要請で行われたものであり、改正にあたっては愛護団体の意見を十分に聞いたはずだと言っている。さらに地方自治体への管理権限移管にあたっては、それなりの予算付けも行ったとしている。

これに対してDogs Trustを始めとする愛護団体では、予算も人員も十分とは言い難いし、地方自治体の責任に関するガイダンスの文言にも曖昧な部分がある、と言っている。例えば次のような文言です。

自治体は、現実的に実施可能な限りにおいて、イヌの受け入れ窓口を少なくとも一か所、24時間、提供しなければならない。
Authorities must, where practicable, provide at least one point of acceptance to which dogs can be taken round the clock.

Dogs Trustは、この「現実的に実施可能な限りにおいて」(where practicable)という部分に文句を言っている。現実的に可能でなければ、受付なくてもよろしいという意味にも解釈される、というわけです。特に問題なのは、捨て犬や迷い犬が発生するのは、大体において夜間か週末であるという現実です。

で、迷い犬や捨て犬の収容を任された自治体は何と言っているのか?Bradford市の環境問題担当者は、

夜間に迷い犬を見つけた場合は、見つけた人が一晩だけ預かってくれれば、翌日、イヌの保護官が出勤してきたときにもらい受けに行く。あるいは市役所の緊急電話に電話をしてくれれば、イヌを手放すにはどうすればいいかの詳細を説明する。
We are basically relying on the members of the public who take in stray dogs to either hang on to them until the following day until a warden is available to call round and collect. Or, alternatively, if they contact our emergency number we'll give them details of what they can do with the dog to get it out of their possession.

と言っています。

▼これは私(むささび)の個人的な体験に基づく推測でありますが「市役所の緊急電話」というのは、英国でも日本でも、録音された「アドバイス」が流れるだけで、ほとんど何の助けにもならない。Bradford市の場合は、指定のケンネルを紹介したりするそうですが、はっきり言ってタライ回しということですね。

▼日本では捨て犬・迷い犬の担当は、それぞれの町の保健所なのではないかと思うのですが・・・。英国の場合、以前は警察と役所の二つが担当していたわけですが、それも妙なシステムですよね。「夜間・週末は警察、それ以外は役所」という分け方自体があいまいだと思いません?一元化は妥当ですよね。

迷い犬撲滅についてDogs Trustでは、イヌにマイクロチップを埋め込むことを義務化することを求めています。この団体では1999年以来、マイクロチップ装着運動を進めており、これまでに約23万頭のイヌにマイクロチップを埋め込んでいるとのことで、今後はこれを法律で義務化する運動を進めていきたいとしています。

▼約10万頭の「迷い犬」のうち、どの程度が「捨て犬」(abandoned dogs)なのか、Dogs Trustのサイトでははっきりしない。そもそも10万頭というのが多いのか少ないのか?日本の愛犬団体の約10年前の統計によると、保健所で公表されている分だけでも「1年間でおよそ7万匹の犬が捨てられ、15万匹が殺処分されている」のだそうです。

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2)The Sunが労働党にサヨナラ

9月30日付の英国の大衆紙、The Sunのトップページは、労働党大会でユニオンフラッグを背景に手を振るブラウン首相の写真をデカデカと掲げたうえで、写真よりも大きな活字でLABOUR'S LOST IT(労働党は失った)という見出しをつけていました。労働党が何を失ったのかというと、題字の下に次のような文章をかなり大きな活字で載せています。

After 12 long years in power, this Government has lost its way and now it has lost the Sun's support too
延々12年もの間政権にあったのち、現政権は道を見失ってしまった。そしていまやThe Sunの支持さえも失ったのだ。

つまりこの新聞は次なる選挙では保守党を支持することを表明したということです。発行部数約300万のThe Sunは、英国最大の日刊紙です。1997年の選挙でブレアの労働党を支持して以来、これまでずっと労働党を支持してきたのですが、ついに方針転換したというわけです。ただ、この新聞の場合、97年以前はサッチャーとメージャーの保守党を支持しているので、必ずしも筋金入りの労働党びいきというわけではないので、保守党を支持してもさして不思議ではない。

BBCのサイトは、この新聞のGeorge Pascoe-Watson政治部長の「ブラウン首相は、彼がこの国とって適切な人間であるということを確信させるにいたらなかった(The prime minister failed to convince us he was the right man for the country)」というコメントを掲載しています。

The Sunのこの発表は、労働党が党大会を開催している最中に行われたのですが、BBCのNick Robinsonという政治記者は「この時期に発表するというタイミングを選んだことで、同紙への注目を集めると同時にブラウンがイチバン目立つ日に、イメージダウンを狙ったものだ(the Sun had timed its big political switch... for maximum impact both in terms of gaining attention for the paper and taking the gloss off Mr Brown's big day)と言っている。

12年間支持しておきながらなぜいま方向転換なのか?についていろいろと理由を列挙しています。例えば97年に労働党政権が誕生したときには「犯罪には厳しくあたる(tough on crime)」と約束したはずなのに、犯罪は増える一方である。教育向上を約束したのに、設備を新しくしただけで、子供たちの教育水準は全くあがっていない。移民の流入を防ぐと言っておきながら、実際には不法移民が大量に入国することを許している等々。

が、The Sunによると、なんと最も許し難いのは、現政権がイラクやアフガニスタンに展開する英国軍を十分に支援しなかったということで、「予算不足の中で死んでいく英国の兵士たちを見殺しにした(leaving them to die through chronic under-funding)」と非難しています。

The Sunの政治部長さんは、保守党のキャメロン党首については「この国を前進させるために十分なビジョン、エネルギー、活力、理念を持っている(the vision, the energy, the drive, the ideas to take the country forward)」と絶賛しております。

The Sunの保守党支持表明について、ブラウン政権の閣僚は「選挙を決めるのは選挙民であって新聞が選挙するわけではない」(it is electors that decide elections not newspapers)と言っています。

1997年の選挙でトニー・ブレア率いる労働党が、ジョン・メージャーの保守党を破ったのですが、その際ブレアがThe Sunのオーナーであるルパート・マードックの支持を取り付けるのに極めて熱心であったことはよく知られています。実際にマードックはブレアの労働党を支持したわけですが、その5年前に行われた選挙の場合、メージャーの保守党とニール・キノックの労働党の争いで、誰がどう見てもキノックが勝つと言われていた。が、蓋をあけてみると保守党の勝ちだった。この選挙ではThe Sunがメージャー支持を表明していた。

というわけで、選挙で勝つためにはThe Sunに支持されなければ・・・と言われるのですが、「そんなことはない」というのが、The TimesDominic Lawsonという政治コラムニストです。彼によると、いわゆる高級紙の場合は新聞によって読者の政治的な傾向がはっきりしているけれど、The Sunの場合は読者の政治的傾向などないのだそうです。そもそも読者はこの新聞がどの候補を支持しているかということ自体を知らないケースが多い、と言っている。

また選挙について研究しているJohn Curticeという教授の調査によると、新聞を全く読まない人と新聞の読者の選挙における投票行動には全く違いがないのだそうです。

▼選挙の際に新聞が党派色を鮮明にするのはアメリカもそうですよね。それが選挙結果にどの程度の影響を与えるのかは分からないけれど、新聞が政治色を鮮明にすることの良し悪しは考える価値のある話題ではありますね。日本の新聞の場合は「政治的中立」を良いこととしているようです。


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3)アフガニスタンからの引き方

ロンドンのKing’s CollegeのAnatol Lieven教授とMaleeha Lodhi前駐米パキスタン大使が、10月5日付のFinancial TimesのサイトにHow the west can exit the Afghan quagmireというタイトルのエッセイを共同で寄稿しています。「アフガニスタンの泥沼が抜け出す方法」というわけですが、イントロは次のようになっています。

アフガニスタンにおけるアメリカの政治戦略は、その半分が壊滅状態にある。それは単に最近のアフガニスタンにおける大統領選挙を巡るゴタゴタだけが理由ではない。アメリカ軍がアフガニスタンに侵攻してから8年後のいま、マクリスタル米軍司令官がオバマ大統領に報告したように、アフガニスタン国民の間の彼ら自身の政府に対する信頼が危機的な状態にあるということが問題なのだ。
The political half of America’s strategy in Afghanistan is now in ruins. This is not just due to the debacle of the Afghan presidential elections. Eight years after US troops arrived in the country, as General Stanley McChrystal conceded in his report to President Barack Obama, there is a “crisis of confidence” among the Afghan people in their government.

8年間も戦闘を続けていながら(アメリカと同盟軍)が勝てないのは、一にも二にも、アフガニスタンの人々が(アメリカや連合軍によって支持されている)自分たちの政府を信用していないからだというわけです。

筆者によると、なんのためにアメリカがアフガニスタンにいるのか?という目的がはっきりしなくなっており、負けを認めたくないから駐留しているような状態になっている。そもそもどのような状態になったらアフガニスタンでの戦いに勝利したと言えるのか?アメリカのRichard Holbrooke特使の答えは「勝ってみれば分かる(We’ll know it when we see it)」というものだった。つまり目的自体がはっきりしなくなっている。そんな戦いのためにアメリカも同盟国も兵士たちの生命を犠牲にするべきではない(American and allied soldiers should not be asked to sacrifice their lives for such an unclear goal)というのが二人の主張です。

では、直ちに撤退すべきなのか?というとそうではない。アフガニスタンは、1980年代にソ連からの侵略を受けたのですが、89年にソ連が撤退した後、アメリカも1990年代には撤退してしまった。その後。国内的な部族対立でアフガニスタンは内戦状態になってしまった。オサマ・ビン・ラディンとアルカイーダがアフガニスタンに入国したのはこのころのことであり、それが2001年の9・11テロの遠因になった、と二人は言っています。

Lieven教授とLodhi大使は「アメリカも同盟国も認めなければならない事実(facts)が二つある」と言います。

一つはアフガニスタンの建国の成功はアフガニスタンの人々によってのみ可能であることを認めること。そして何と言っても、アフガニスタンやパキスタン国内でタリバンが支持される原因が西側軍隊の存在にあるということを認めること。
successful “nation-building” in Afghanistan can only be undertaken by Afghanistan’s own people; and, above all, it is the western military presence in Afghanistan that is driving support for the Taliban both there and in Pakistan.

この二つの事実を認めるならば、撤退戦略として考えられるのは、タリバンとの間で政治的な解決を探ることであり、彼らとオープンな交渉を行い、戦闘停止と引き換えに撤退のためのタイムテーブルを提案すること。つまり軍を撤退させることを約束する代わりにタリバン側も西側の軍基地やアフガン政府を攻撃しないことを保障するという交渉をすることだ、というわけです。

タリバンがこれを拒否した場合は、軍事的な圧力をかけ続けるしかないけれど、それはタリバンを絶滅させることが目的ではない、と筆者は言います。目的はあくまでも、タリバンに対して取引に応じるように説得する(to persuade it to agree to a deal)ことにあるということです。筆者によると、タリバン絶滅などできっこない。タリバンはアフガニスタン人の間ではそれほど支持されているわけではないけれど、それは北アイルランドにおいてIRAが地元の支持を得ていないというのと同じこと。IRAの暴力はアイルランド人にも好かれていないけれど、反英という心情的な支持は確かにある、というわけです。

筆者はこれ以外にも、タリバンに対して政党を作るように説得すること、アメリカはパキスタン政府に対してタリバン絶滅のための行動をとるように圧力をかけるのではなく、あくまでもタリバンに対して交渉のテーブルにつくように説得するように要請することだとも言っています。

で、教授と大使の結論は、

このようなアプローチが即効薬になることはないかもしれないが、我々が提案した軍事・外交戦略は解決と秩序ある撤退の機会を提供するものにはなる。現在のアメリカの戦略がもたらすのはとめどない泥沼だけなのである。
This approach will not bring quick results. But the military-diplomatic strategy we have proposed offers a chance of a settlement and orderly withdrawal--whereas the present strategy offers only endless quagmire.

ということであります。このエッセイはここをクリックすると読むことができます。

▼鳩山・民主党は自衛隊によるインド洋での給油活動は、1月でおしまいと言っています。要するに軍事的なかかわりはしないと言っている(と私は解釈しています)。最近、長島・防衛政務官という人が「1月以後も続けるべき」という趣旨の発言をして問題になりました。アフガニスタンのような問題を私のような非専門家が考えるときは、「そもそも論」を考えるべきだと思っています。この場合は、そもそもアフガニスタン攻撃は正しかったのか?ということです。

▼8年前にブッシュ政権がこれを始めたときの理由は、9・11テロをやったオサマ・ビン・ラディンらがアフガニスタンに潜伏しており、これをタリバン政権が支援しているということにあった。つまりオサマ・ビン・ラディンを捕まえるということが目的だった。それはいまだに全く実現しないどころか、いつの間にかアフガニスタンの民主化とかタリバン征伐が目的になってしまったかのように見える。それさえも実現に向かっているようには見えない。

▼タリバン征伐が実現していないから、アメリカや同盟国の軍事活動が悪いというのではなく、9・11テロの犯人を捉えるためにアフガニスタンという国を爆撃すること自体は間違っていたのではないかということです。タリバン=オサマ・ビン・ラディンではないということです。

▼オバマさんのもともとの考え方は「イラク戦争は間違っているけれど、アフガニスタン攻撃は正しい」というものだった。最近のThe Economistは、アフガニスタンとベトナムの違いとして、ベトナムの場合は背後に中国やソ連という国家があったけれど、アフガニスタンの背後にあるのはアルカイダという国際テロ組織だということを挙げています。でも、私にはこの二つの共通点の方が気になりますね。それは、当のアメリカ人自身が厭戦気分に陥り始めているということです。そうなると「そもそも論」ではなく、現実論としてアメリカや同盟軍に勝ち目はない。長島防衛政務官は、日本がインド洋の給油を続行すれば、アメリカや同盟軍に勝ち目が出てきて、アメリカの世論も厭戦気分に陥ることがなくなるとでも考えているのですかね。

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4)世論調査に見る職業別信用度

英国の世論調査機関であるIpsos MORIは、この約25年間、「職業別信用度調査」というのを行っています。どちらかというとパブリックな性格を有する職業人に対する英国人の信用度を調べるもので、2009年版が発表されています。15歳以上の約2000人を対象に、それぞれの職業人が「真実を言っていると思うか」(Telling the truth)を面接調査で聞いたものです。なにはともあれ、どの職業人がどの程度信用されているかを10年前(1999年)の数字と比べてみます。

1999 2009
医者(Doctors) 91 92
教師(Teachers) 89 88
裁判官(Judges) 77 82
大学教授(Professors) 79 80
聖職者(Clergyman/Priests) 77 80
科学者(Scientists)  63 70
ニュースキャスター(News Readers) 74 63
警察(Police)  61 60
庶民(Ordinary people in the streets) 60 54
世論調査官(Pollsters) 49 45
公務員(Civil Servants) 47 44
労働組合幹部
(Trade Union Officials)
47 44
経営者
(Business Leaders) 
28 25
ジャーナリスト(Journalists) 15 22
大臣
(Government Ministers)
23 16
政治家(Policians)  23 13

Ipsos MORIではこれらの数字を「誠実度指数(veracity index)」と呼んでいます。

医者から聖職者までのトップ5は、いまも昔もあまり変わらない。ちょっと意外な気がしないでもないのは、教師に対する信用度の高さですね。サッチャーからブレアにいたるまで、教師に対してはかなり厳しい批判がされていたのですが・・・。非宗教的社会(secular society)と言われる英国でも聖職者(牧師・大司教など)に対する信用度が非常に高いというのも面白い。

一方、信用度下位の常連はジャーナリスト、大臣、政治家の3者で、これも昔から変わっていない。2009年の調査で政治家が最下位なのは、最近の経費スキャンダルのせいであることは分かるのですが、大臣の評判の悪さはどこから来るのか、いまいちよく分からない。この調査にはその解説がないのです。ジャーナリストの信用度はこれまでほぼ最下位であったのですが、今回は政治家・大臣を抜いてビリから3番目に「昇格」している。これは経費スキャンダルを暴いたのが、TelegraphとSunday Timesのジャーナリストだったということが影響している、とIpsos MORIは言っています。

日本との比較で面白いのは「公務員」に対する評価で、この調査に見る限り政治家やジャーナリストよりはかなり信用されているということです。これはおそらく英国の場合、社会問題などについてのメディアの批判の矛先が政治家や政府(大臣)に向けられることが多いということが理由なのでしょう。ではなぜメディアの批判が官僚に向けられないのかというと、彼らが日本の官僚のような力を持っていないからなのでしょうね。

職業ではないけれど「庶民」に対する信用度も絶妙ですね。過去25年間の調査結果を見ても「庶民」への信用度が5割を切ったことがない。が、医者・教師・牧師・裁判官らへの信用度には遠く及ばない。この調査に答えているのが「庶民」であるわけですが、この数字は「そこそこ信用できるけれど、医者や先生ほどではない」ということを示していると言える。

調査された職種はいずれもパブリック(公共的)な性格が強いものです。例えば金融業とか不動産業・金貸し・スポーツ選手などは調査の対象になっていない。で、このような公共的な存在への信用度の平均を見ると、過去25年間、5割を切ったことが1983年の一回しかない。英国という社会の安定度を見る思いがします。

▼かつてジャーナリストのアンソニー・サンプソンは、英国メディアと政治家の関係について、メディアがあまりにも政治家叩きをやるすぎるので、優秀な若者が政治家になりたがらなくなっており、これは民主主義の危機でもある、と言ったことがありますね。

▼これを日本と比較すると面白い。日本では「公務員」はたぶんかなり低いでしょう。政治家や大臣も大して高くない(と思う)。その理由の主なものが、メディアによって批判の対象にされることが多いということ、というのが私の考えです。ではそのメディアに対する信用度はどうなのか?それから「聖職者」への信用度はどうなのか?

▼なんと言っても(私が)イチバン興味を持つのが、日本の場合、ordinary man/woman in the street(普通の人々)の「誠実度指数」がどの程度とみなされているのかということですね。NHKなどがときたま行う、視聴者参加の討論番組を観ていると、スタジオに集まった政治家に対して、「庶民」と言われる人々が「我々のことを全く考えていない!」と発言して拍手されたりすることがありますね。私、あの「庶民」は全く信用していない。

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5)D・キャメロン研究②:「思いやる保守主義」って何?

2005年10月、保守党党首に就任したデイビッド・キャメロンが行った就任演説の中の次のくだりがメディアの注目を集めたものです。英国社会、特に若者が荒れているということについて触れた部分です。

私は学校を卒業する子供たちのための全国的なプログラムを展開したいと思っている。若い人々に対して「何かやろうではないか」と呼びかけることであり、公的なサービス(の充実)のことであり、自分たちの国や自分たちのコミュニティのために自尊心を確立するということなのだ。世の中には社会というものがあるのだ。ただ、それは国家とは同じものではない。
I want to develop my idea for a national school leaver programme, that says to young people, let's do something, that is about public service, about building self esteem, self respect, for the good of our country and the good of our communities. There is such a thing as society, it's just not the same thing as the state.

メディアの注目を浴びたのは、最後のThere is such a thing as society, it's just not the same thing as the stateという部分です。むささびジャーナルでは何度も触れたのですが、キャメロンよりも30年も前に保守党党首となったマーガレット・サッチャーの数ある語録の中でも最も頻繁に引用される言葉にThere is no such thing as society(この世に社会などというものはない)というのがあった。キャメロンの言葉はサッチャーさんの言葉をもじって反対のことを言ったものであり、メディアの間では「サッチャリズムからの決別」ということで話題になったわけです。

サッチャーさんが「ない」と言い、キャメロンが「ある」という「社会」って何なの?これをディスカッションし始めるといくらスペースがあっても足りないだけでなく、私自身きっちり説明できる自信はない。ただ表面的に言うと、サッチャーさんのThere is no such thing as societyという言葉は「人間、自助努力が大切だ。社会的弱者といえども政府や国家などというものに頼ってはいけない」ということであった(とメディアには解釈された)。

それに対してキャメロンは、サッチャーさんのいうno such thing as societyは冷たすぎるというわけで、あえて弱者を救うものとしての「社会」はあると反論した。ただ彼のいう「社会」は政府とか国家とかいうものではなく、チャリティ、ボランティアリズムのような活動のことを意味していた。弱者に対して国家(政府)が口出しするのはよくないけれど、ボランティアのような活動としての「社会」が救いの手を差し伸べるのは悪いことではない。政府の役割はそのような自発性を奨励することにあると主張したわけです。

党首就任当初キャメロンは自分の思想のことを「近代的で思いやる保守主義(modern, compassionate conservatism)」であると言っていた。The Economistの表現を借りると、新しい考え方にオープンであるという意味で「近代的(modern)」であり、世の中の弱者を助けたいという欲望が強いという意味で「思いやりがあり(compassionate)」、世の中の問題が何でもかんでも国家によって解決され得るし、そうあるべきだ(every problem can or should be solved by state action)とは思わないという意味では「保守的(conservative)」であるというわけです。

アメリカのTIME誌とのインタビューの中で、キャメロンは「保守主義」について

保守主義とは、人々(国民)を信用して、彼らに対して、自分たちの人生についてより大きな力と責任を与えることで、社会が強いものになると考えるということだ。
Conservative, because we believe that if you trust people and give them more power and responsibility over their lives, you get a stronger society.

と語っています。

▼この部分がいわゆる保守主義の真髄なのでしょうね。政府よりも一人一人の人間の自主性を重視するということです。いわゆる「小さな政府」論もその延長線上にある。私、キャメロンのいう「思いやる」(compassionate)という部分よりも「保守主義」(conservatism)に対する理解の方に興味があります。個人の自主性を尊重するという姿勢です。保守主義の定義については、それを語るだけでも一冊の本になってしまう。ただ文字通り解釈すれば、何かを保守(conserve)しようとするのが保守主義ですよね。それが個人の自主性尊重とどのように結びつくのか?

▼この間の衆議院選挙で、麻生さんは「皆さん、我々は保守なんですよ。日の丸と家庭を守るんです」と言っていたし、自民党の谷垣さんは自分自身のサイトの中で、自民党を長い間支えてきた「良質の保守層」を「自分の家庭や家族を大事にして、自分の生まれ育ったあるいは住んでいる地域の絆を大事にし、そういう中で黙々と仕事にいそしんでおられる」ような人々のことだと言っている。取り立てて反対するようなものではないけれど、二人の言葉に見る限りにおいては、「これまで大事にしてきたものをこれからも守る」ということで、どちらかというと守勢ですね。個人の自主性というような能動性を感じない。

▼「保守主義」については、むささびジャーナルの別のところで作文を掲載してあります。

キャメロンのいうcompassionate conservatismは、社会問題を解決するのに政府が音頭をとってトップダウンでやるのではなく「我々すべてを結びつけて、我々の人生や生活を満たすような中間的な制度(intermediate institutions which link us all together and give fulfilment to our lives)」を通じて行おうとするものだというわけです。ここでいう「中間的な制度」とは、NPOとかチャリティ活動のことを言っています。

この考え方については、疑問を呈する向きもあります。The Economistなどは、NPOやチャリティや社会派企業はいずれも極めて小規模なことはできるかもしれないが、現在政府がやっていることを政府にとって代わってできると考えるのは楽観的すぎるというわけです。

スローガンとしての「近代的で思いやる保守主義」は、キャメロン氏の感覚的な部分をうかがい知るためには重要かもしれない。しかしそれらの感覚的なものと、キャメロン氏が権力の座についたときに実施し、言葉として言うことを知るためのガイドになるものかどうかは別問題だ。
Mr Cameron's instincts. Whether those instincts are any guide to what he is prepared to do and say to win power is another matter.

とThe Economistは言っています。つまり野党の党首が語る「思想」と政権党として実施する「政策」とは別物だというわけです。それと、NPOだのボランティアリズムだのを奨励するというけれど、「政府主導のNPO」という自己矛盾(oxymoron)に陥らないという保障はどこにもない。

ところでキャメロンは、自分がサッチャーの後継ぎではないと言っています。考えてみると当たり前で、彼が生まれたのは1966年です。サッチャーが保守党党首に指名されたとき(1975年)、まだ9才だったし、彼女が首相になったとき(1979年)でも13才です。来年(2010年)の選挙で投票する若者の中にはサッチャー辞任(1990年)後に生まれた人だっているのですからね。彼はサッチャーについてTIMEとのインタビューで次のように語っています。

サッチャーが目の前にしていた英国は経済的に破綻して下落の一途をたどっている英国だった。彼女の仕事は英国経済を立て直すことにあったのであり、それをやり遂げた。しかしいま英国が直面しているのは、あのころとは違う問題だ。いま直面しているのは「壊れた社会」「環境破壊」「安全保障」などだ。サッチャーのころとは取り巻く環境が違うのだ。
Margaret Thatcher was facing a Britain that was economically bankrupt and going down the pan, and she had to give Britain back a successful economy, which she did. But today, we face very different challenges. It's much more about social breakdown, the new environmental challenges, the security challenges. It's a different environment.

これは言えますね。確かに時代が違う。ただキャメロンが就任演説の中でThere is such a thing as societyというフレーズを使ったことは、彼がサッチャーを大いに意識していたことを示していることは間違いない。

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6)どうでも英和辞書

A~Zの総合索引はこちら

leak(秘密などの)漏えい

leakは「リーク」として殆ど日本語になっています。知らなかったんですが、漏えいされた資料を専門に集めたウェブサイトなんてのがあるんですね。Wikileaksという名前だから、たぶん例のウィキペディアの主宰者が運営しているのでしょう。そのサイトに掲載された資料の中に英国防衛省のDefence Manual of Security(警備防衛マニュアル)なる書類がある。笑ってしまったのは、この書類(2400ページもある)が、防衛省の職員、軍人、諜報担当者らに対して「如何にして秘密漏えいを防ぐか」を指示するマニュアルだったってこと。

このマニュアルによると、ジャーナリストは外国のスパイと同じくらい危険な存在なのだそうです。また中国人は「ありとあらゆる情報獲得に貪欲」(a voracious appetite for all kinds of information)などと書かれている。


lost and found遺失物

Baker Streetにあるロンドン交通局(Transport for London)の遺失物係の倉庫は、今年で創立75周年ですが、よく分からないモノが忘れ物として残されるのだそうですね。日本刀、芝刈り機、戦争中のガスマスク、家庭用パイプカッター、棺桶などなど。入れ歯の忘れものの場合、引き取りに来た老人が喜んで持って帰ったのですが、本物の自分の入れ歯が見つかったというので数時間後に返却に現れた。「どうも合わないと思った」と文句を言っていたらしい。棺桶の場合は、劇場で使用するためのものだった。係長さんによると1960年代のlost and foundのトップは傘で、年間9万本あったのに、最近では7000本程度に減ったのだそうです。皆さん傘を使わなくなったってことですかね。


secrets秘密

Daily Telegraphに出ていた記事によると、英国の平均的な女性が秘密を守れるのは、長くて47時間15分だそうです。ほぼ2日ってことですね。チリ産のワインを販売しているWines of Chileという会社が調査会社に依頼して調べたのだそうです。対象になったのは18才~65才の女性約3000人で、10人に4人が秘密そのものを守ることができないと答えた。

尤も破られる秘密の中でイチバン一般的なのが、自分が買ったものの本当の値段で、秘密を明かす相手として最も一般的なのが家族だというのだから大したこっちゃない。秘密を破らせる最も効果的な方法は、ワインを1~2杯飲ませること・・・というわけで、この会社はそんなことを言わせたくて調査を依頼したのでありましょうか?チリの建国記念日のための調査だったので、この会社では「女が秘密を守れないというのが、チリの公式見解だ(It's official - women can't keep secrets)」と言っています。でも男を対象に調査したとは書いていない。

秘密を打ち明けるときの表現としてイチバンよく使われるのは「ここだけのハナシ」というヤツですね。英語でいうとThis is between you and me. OK?で、こう言われるとOK, OK!と言わざるを得ない。でも「ここだけ」なんてことありっこない。

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7)むささびの鳴き声

▼オバマ大統領がノーベル平和賞を受賞したというニュースを報じるBBCを見ていたら「何も実績がないし、これからもあるかどうか分からないのにノーベル平和賞ですか?」という記者の問いに対して、ノーベル賞の関係者が、実績よりもオバマ氏が目指しているところを表彰するのだという趣旨のことを言っておりました。自国の首相にケチをつけるようで気が引けるけれど、佐藤栄作さんがノーベル平和賞を受けた理由って何でしたっけ?

▼オバマさんの受賞が発表される前、Paddy Powerという英国の賭け屋が、今年のノーベル平和賞の受賞者が誰になるのかについて賭けを募集していました。一番人気はSima Samarというアフガニスタンの人権活動家(女性)で賭け率4・5倍だった。2位はコロンビアの上院議員で平和活動家のPiedad Córdoba(女性)という人(5倍)、3位は中国の人権活動家の胡佳氏(6倍)。オバマさんは、クリントン元大統領らと並んで14位(賭け率14倍)だった。他の政治家としては、サルコジ仏大統領(33倍)、ブレア元英国首相(50倍)などときて、プーチン(250倍)、ブッシュ前米国大統領(500倍)らの名前があった。最後の二人は大穴というより殆どギャグ?

▼それにしてもオバマという人は、オリンピックのシカゴ誘致では「来なければよかった」と批判されていましたね。おそらく自分だって「断ればよかった」と心底後悔したでしょうね。要するに担ぎ出されたりするとロクなことがないってことよね。それは鳩山さんも同じだけど、幸か不幸か、ヨーロッパではほとんど注目されていなかった。だからダメと言っているのでは決してありません。注目されようがされまいが、環境をテーマに据えた東京の理念は正しかったのだし、正しいことをやろうとして注目されなかったんだから、悔いる必要は全くないんじゃない?

▼知らなかったんですが、アメリカというところはずいぶんオリンピックに立候補して敗れているんですね。あのロスアンゼルスだって2回やっているけれど、6回は失敗している。シカゴは5回立候補して5回失敗。フィラデルフィアとミネアポリスは0-3。デトロイトなんか6回立候補して6回とも失敗しているんですね。

▼で、まったく関係ありませんが、英国の保険会社の調べによると、1年間に50万人の女性が運転中にお化粧をしていて事故を起こすのだそうであります。4000人の女性ドライバーにアンケートをとった結果判明したのだとか。一度に一つ以上のことをすることを英語ではmultitaskingというらしい。調査した保険会社では「一般的に言って女性はmultitaskingが得意であると言えますが、ドライブとお化粧のmultitaskingだけは止めて欲しい」と言っております。英国では、たとえ事故を起こさなくても運転中にお化粧しているのが警官に見つかると罪になるんだそうです。

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