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美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2011年3月13日
こんな折(地震のこと)なので、道楽みたいなむささびジャーナルは止めようかと思ったのですが、反対に意地でも出し続けようということにしました。被災者の方々には言うべき言葉もありませんが、むささびはむささびの言葉を発し続けようということです。ひどいことをする自然に対するむささびの意地のようなものです。ちなみに私、妻の美耶子、娘の笙ちゃん、2匹のワンちゃんは全員無事でおります。皆様はいかがですか?

目次

1)エリザベス女王のアイルランド公式訪問
2)大学入試の和文英訳に挑戦する
3)失敗を怖れすぎる日本の社会風土
4)世界ランクは5位、自己評価は最下位の日本
5)中東の混乱:民衆の声を聞け
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声

1)エリザベス女王のアイルランド公式訪問


エリザベス女王が国賓としてアイルランドを訪問することがバッキンガム宮殿から正式に発表されたことは日本のメディアでは報道されていましたっけ?時期は発表されてはいないけれど、BBCのサイトなどによるとおそらく5月なのではないかとされています。アイルランド側からの招待を受けての訪問ですが、これが実現すると「現役」の英国の女王や王がアイルランドを訪問するのは、アイルランド独立(1921年)後初めてのことであり、1911年にジョージ5世が訪問して以来ちょうど100年目のことになる。

ここ30~40年における北アイルランドをめぐるテロ事件などもあって英国王室が公式にアイルランドを訪問することはあり得ないとされてきた。エリザベス女王自身の従兄にあたるLord MountbattenもアイルランドのSligoという漁師町で釣りをしていてIRAのテロで殺された。これが1979年。同じ日に北アイルランドのWarrenpointという町に駐屯していた英国軍の兵士14人がやはりテロで殺された。その前には1972年に13人のアイルランドの活動家が北アイルランドのロンドンデリーで英軍によって殺されるということもあった。これが「血の日曜日」(Bloody Sunday)事件。

それが1998年にブレア政権下でGood Friday和平合意なるものが交わされ、IRAの政治組織であるSinn Fein党も参加して、プロテスタントとカソリックの双方が権力を共有する議会ができて、北アイルランドに関してはなんとか平和を保ってきた。

もちろんこれらはいずれも北アイルランドにおけるトラブルであり、英国とアイルランド共和国との間の紛争ではないのですが、問題のルーツは英国によるアイルランド併合とアイルランドの独立闘争にあるだから、英国とアイルランドの関係が微妙であることに違いはない。アイルランド人の中には英国国旗のユニオン・フラッグにも複雑な感情を持つ人がいるので、1995年にチャールズ皇太子(Prince of Wales)がダブリンを訪問したときは、ユニオン・フラッグではなく、ウェールズの紋章の旗を掲げたりしたこともあるのだそうです。

▼いずれにしてもエリザベス女王のアイルランド公式訪問は、いまだに微妙な二国間関係と北アイルランド問題の本当の終止符が打たれるのではないかと期待されています。貿易の数字を見ても、アイルランドは英国にとって世界で5番目の輸出先であり、英国はアイルランドにとってアメリカに次ぐ2番目の輸出先です。

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2)大学入試の和文英訳に挑戦する


大学入試の問題が試験中にインターネットの質問サイトに投稿されていた問題ですが、私の関心は、いまどきの入学試験ではどのような問題が出ているのだろうということにあったので、問題の「ヤフー知恵袋」なるサイトを見たところ、aicezukiの名前で次のような和文英訳の問題(だと思う)が出ていました。

「人と話していて、音楽でも映画でもなんでもいいが、何かが好きだと打ち明けると、たいていはすぐさま、では一番のお気に入りはなにか、 と聞かれることになる。この問いは、真剣に答えようとすれば、かなり悩ましいものになりうる。いやしくも映画なり音楽なりの愛好家である以上、お気に入りの候補など相当数あるはずであり、その中から一つをとるには、残りのすべてを捨てねばならない。」

この日本文を英文に直せというわけです。これがどこかの大学の和文英訳の入試問題なのだとすると、悪い問題ではない、と感心してしまった。で、ヤフー知恵袋には「ベストアンサー」というタイトルによる解答が次のように掲載されておりました。

When you are talking with someone about music, films, or anything, and when you confess you like something, then he or she will usually ask "what is your best?". This question can be quite difficult if you try to reply seriously. If you are a lover of films or music, the options of your favorites should be numerous. In order to pick up one from them, you have to abandon the others.

質問が掲載されてから何分くらいしてこの解答が載せられたのか分かりませんが、上手な英文ですよね。この解答に対して大学側は何点くらいあげたのでしょうか?で、同じ問題を私がやってみた結果の解答は下記のとおりです。

Chatting with people about your favourite things, mention what you particularly like - whether it is music, films or anything - and you will immediately be asked what you like best in that area. Trying to give a serious answer to the question can be difficult and annoying. If you are an enthusiast of, say, films or music you will certainly have quite a lot on your list of things you really like. Having to choose your number one favourite would mean that you would have to put all the others away even though you do like them too. 

▼この問題について、「悪い問題ではない」と言いましたが、それはこの和文はいろいろな英文に直し得るからです。受験生のセンス次第だと思うし、そのようなセンスを発揮できるような和文だから「悪い問題ではない」と言っているわけです。つまり「打ち明ける」だから必ずconfessを使う必要はないし、「たいていは」、「すぐさま」、「いやしくも」などという日本語は、適当な英語が見つからなければほっとけばいい・・・というような融通性のテストでもあるように思えるということです。

▼それはともかく、いまの受験生はこの和文英訳が「ベストアンサー」のようにできなければ大学には入れてもらえないんですか!?だとすると、試験に受かる人の英語力ってかなりのものじゃありませんか?日本人は英語ができない、だから小学校から英語を・・・なんて誰が言っているのでしょうか?おそらく、アメリカ人や英国人が「ベストアンサー」とか私の解答を見ると「なんだかおかしい」と感じると想像します。でも「いちおうは分かる」とも言うのではないかと思います。それで十分なのですからね。

▼ちょっと不思議な気がしたのは、この携帯カンニング行為が「ヤフー知恵袋」という、誰もが見ることのできるサイト上で行われたということだった。カンニングというのはもっとこっそり自分だけでやるものだと思ったわけです。「ヤフー知恵袋」にこのような情報が掲載されることが分かっている人は誰でもアクセスできるわけですね。つまりこれをやった人は、他人にも情報提供をしていたことになる。そして「長文でお手数おかけしますがよろしくお願いいたします」というメッセージが載っていたのは微笑ましい。ずいぶん礼儀正しいのですね。


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3)失敗を怖れすぎる日本の社会風土


2月22日付のFinancial Timesのサイトに掲載されていたStigma of failure holds back Japan start-upsという見出しの記事によると、一昨年(2009年)日本の法務省に届け出があった新規企業は約8万社だったそうです。これが多いのか少ないのかは分かりませんが、その2年前(2007年)には約9万5000社だったことを考えるとかなりの減少ですよね。この記事の見出しは、日本で新しい企業がなかなか生まれないのは、失敗への恐怖が強すぎるからである・・・というような意味です。

新規企業の立ち上げはどの国であっても簡単なことではないのですが、日本でそれをやろうとすると資金調達、法規制という点でのハードルが高いこともあるのですが、アメリカなどに比べると何よりも「文化的ハードル」が高いのだそうです。日本には「事業の失敗を個人的な不名誉とみなす伝統、不寛容な伝統がある」(unforgiving tradition of viewing business failure as a personal disgrace)とのことであります。これはインタビューされた日本人起業家のコメントです。確かに中小企業が潰れて社長さんが自殺なんてことが頻繁に起こりますよね。

駐日アメリカ大使のJohn Roosさんは、かつてシリコンバレーで弁護士をやっていたそうなのですが、その彼も同じようなことを言っている。

起業家には再挑戦のチャンスを与える必要がある。画期的な技術を開発し新しい企業を立ち上げるのはリスクが伴う。ビジネスの世界にリスクはつきものであり、いつもいつも成功するとは限らない。
You need to give entrepreneurs second chances. Disruptive technologies and new companies take a lot of risk, and if you take risks in business you are not going to succeed all the time.

Roos大使はさらに、アメリカに比べると日本では成功した起業家が社会的な称賛を浴びるケースが非常に少ないとも言います。楽天の三木谷社長のようにメディアに前向きに報道されるケースもあるけれど、「主要メディアは三木谷氏と同じような存在をスキャンダルがらみで報道してきた」(mainstream media have tended to focus more on scandal-stained counterparts)として、ホリエモンがメディアによって叩かれたケースのことを例に挙げています。

▼企業経営のことは私には分からないにしても、「失敗を怖れる社会風土」のようなものがいたるところにあるということは実感できます。新しいことに挑戦することへの拒否反応です。古い勢力が余りにも力を持ち過ぎてしまっているのですよね。どの国にもその種の保守的な要素はあるけれど、日本の場合はそれに加えて護送船団風集団主義がのしかかる。楽天の三木谷さんがプロ野球チームを作ろうとしたとき、その護送船団の艦長みたいな人が「1リーグ制にしたっていい」という脅し文句を言っていましたよね。メディアのホリエモンの叩きも余りにもバランス感覚を欠いていた。

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4)世界ランクは5位、自己評価は最下位の日本
BBCの国際放送部門であるBBC World Serviceが毎年行っている世界の国のイメージランキング(BBC World Service Country Rating Poll)が3月7日に発表されたことは、たぶん日本のメディアでも報道されたと思いますが、ランキングの性格からしてさほど詳しくは伝えられていないかもしれないので紹介させてもらいます。詳しくはここをクリックすると見ることができます。

この調査は25カ国で行われ、アンケートへの参加人数は約2万9000人(いずれも成人)です。アンケートの質問は

Please tell me if you think each of the following countries is having a mainly positive or mainly negative influence in the world. 
次に挙げる国が世界に与える影響は「主にいい影響」だと思いますか?それとも「主に悪い影響」だと思いますか?

となっていて、答えとしてはMainly positive(主にいい影響)、Mainly negative(主に悪い影響)、Neither/neutral(どちらでもない)の3つのいずれかを選ぶようになっている。

調査結果は2010年の数字と2011年の数字を合わせて平均を出してランキング評価したものです。平均的にイチバン評価が高いのがドイツで、Mainly positiveが62%で、Mainly negativeの15%を大きく上回っています。英国は2位(58%が「好い」、17%が「悪い」)、日本は5位(57%対20%)、アメリカは8位(49%対31%)、中国は9位(44%対38%)などとなっており、イスラエル(21対49)、パキスタン(17対56)、北朝鮮(16対55)、イラン(16対59)などが下位に来ています。なお2011年だけの数字に基づくランキングでは、ドイツ、英国、日本がベスト3となっています。

一般的なランキングよりも面白いのは国別の詳細です。例えば日本について、BBCの解説文は Japan continues to have very favourable ratings globally in 2011(2011年における対日評価は相変わらず極めて好意的である言える)としていますが、中国人の対日評価は18対71で悪印象を持っている人が圧倒的に多い。アジアでいうと、対日イメージがいちばんいいのはインドネシアで85対7、二番目がフィリピンで84対12、韓国の対日イメージも68対20とかなり高いものになっている。アメリカ人は69対18、英国人は58対26という割合で親日的。ちょっと意外なのはロシア人の対日評価で、65%が好意的というわけで英国人のそれを上回るのですが、悪いイメージを持っている人はたったの7%と異常に低い。なのに日本人でロシアに好印象を持っているひとは10%しかいない。

英国について最も好意的なのはどこの国の人たちだと思いますか?答えは韓国で、85対8の割合でpositiveな感覚を持っている人が多い。中国人の英国観は48対37で好意的な方が多いのですが、昨年(2010年)の数字に比較するとネガティブなものが16ポイントも増えている。奇妙なのは日本人の対英感覚で、英国が嫌いという人は3%しかいないのですが、positiveなイメージをもっている人も37%と大して高くない。「どちらでもない」というのが60%もある。つまり影が薄い存在ということでしょうね。

中国についていうと、アフリカではいずれも「好意的」が上回っており、アジアではパキスタン、インドネシア、フィリピンでの評価が高いのですが、ヨーロッパではロシア以外はいずれもネガティブな印象を持たれてしまっている。なぜかドイツ、フランス、スペインなどで特に低いのですね。北朝鮮に対するイメージでは、ガーナ(37対21)以外はいずれもネガティブがポジティブを上回っているのですが、中国人の51%が悪印象をもっており、好印象の34%を上回っている。

最後にそれぞれの国の人たちが自分たちの国をどの程度評価しているのかを見たところ、日本はちょっと変わっていることが分かります。アトランダムに並べてみます。

自国に対する評価:世界に与える影響
好い影響 悪い影響
アメリカ 64% 29%
中国 77% 17%
日本 39% 9%
英国 69% 23%
パキスタン 40% 17%
インド 77% 6%
フランス 68% 18%
南アフリカ 69% 13%
ロシア 77% 4%
ドイツ 87% 4%
韓国 84% 9%
ブラジル 84% 6%

▼パキスタンと日本を例外として、皆さん自国に対する評価が高いのですね。特に変わっているのは日本で、他国からの評価では5本の指に入るくらい高いのに自己評価となるとこれほど低い国は他にない。4割にも満たないのですからね。それから英米の人たちの「自己批判指数」の高さが目立ちますね。

▼貴方はこれをどのように解釈しますか?もう一度言っておくと、質問は「それぞれの国が世界に与える影響」についてです。日本人の場合、半数以上が日本について「どちらでもない」という答えをしているけれど、英米の場合は9割以上が良し悪しをはっきりさせている。日本人の態度は、悪く言うと「はっきりしない」(indecisive)、良く言うと「控え目」(modest)というわけで、いずれにしても他国の人たちは「日本人って、いったい何を考えているのだろう?」と思ったりするかもしれない。私はそれで結構だと思っているのですが、はっきり言って他国の人たちには説明はしにくいですね。

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5)中東の混乱:民衆の声を聞け


最近のLe Monde Diplomatique(LMD)のサイトに掲載された「アラブ世界の新たなる目覚め」(THE NEW ARAB AWAKENING)というエッセイは、エジプトの混乱を見ながら私が感じていた疑問に取り組んでいるようで、読んで良かったと思いました。筆者はAlain Greshという人でLMDのvice presidentとなっています。要するに(たぶん)フランス人で中東問題の専門家なのだろうと推測します。

エッセイの書き出しはつぎのとおりです。


A large Muslim country is overwhelmed by strikes and demonstrations. This pillar of US regional policy is damaged by authoritarian rule and its resources are looted by the president’s family; there is social and economic crisis; Washington abandons an old ally and the US Secretary of State calls on a dictator to stand down and allow for democratic transition.
イスラム教の大国がストライキとデモで揺れている。この地域におけるアメリカ外交の柱であるこの国は権威主義的な支配によってダメージを受け、その資源は大統領の家族によって略奪されている。社会的、経済的な危機があり、ワシントンは昔からの同盟国を捨て去ろうとしている。国務長官が独裁者の辞任と民主的な権力移譲を求めている・・・。

これはいまのエジプトのことではありません。いまから21年前、1998年5月のインドネシアのことです。国務長官とはクリントン政権のMadeleine Albrightであり、彼女が退陣を求めている大統領はスハルトです。スハルト大統領は1967年のクーデターでスカルノに代わって大統領に就任してから31年間もその地位にあった人物です。Alain GreshによるとスハルトはCIAの力で大統領になった人物であり、インドネシアにおける共産主義者を50万人も殺害したと言われている。

スハルト政権はアメリカの反共外交政策を推進するうえで欠かせない楯(bulwark)となっていたわけですが、1989年にベルリンの壁が、1991年にソ連が崩壊するに及んで反共の楯としてのインドネシアはアメリカにとって不要になった。で、クリントン政権はリベラルなアメリカのイメージのためにもインドネシアの民主化グループに肩入れして、アメリカの国益に合う方向へ導いた方が得策と考えた。結果としてはこれが成功して、インドネシアはイスラム会議機構(Organisation of the Islamic Conference)のメンバー国であり、イランの核についてはアメリカとは違う独自路線をとっているけれど、アジアにおける親米的な国として良好な関係を続けている。

インドネシアのスハルト政権崩のときはアメリカは上手く対応したけれど、いまの舞台はアジアではなく中東であり状況は大いに異なっている。違いを生み出している最大の要因はパレスチナである、とGreshは言います。エジプト革命においてパレスチナ問題はマイナーな事柄であると考えるのは間違いなのだそうです。エジプトの反政府デモを組織した人々は、ムバラク打倒に集中するために反米・反イスラエルのスローガンを掲げることは禁止したけれど、ムバラク打倒が成功したあとのカイロ集会(2月18日)では多くの参加者が「エルサレム解放」を叫んでいた(many protesters chanted for the liberation of Jerusalem)とのことです。

欧米諸国はこれまでムバラクのようなアラブの「指導者」たちとは付き合ってきたが、民衆(Arab streets)のことは全くお構いなしだった、とAlain Greshは言っています。

they asked if we really needed to listen to hundreds of millions of people with their Islamist and anti-western slogans when we got on so well with their leaders, who were so good at maintaining order, and extended such warm hospitality.
アラブの指導者たちはうまく国内の秩序を保っているではないか。その指導者たちとうまくやってきているのだし、我々を大歓迎してくれているではないか。それなのになぜイスラム主義と反欧米のスローガンを叫ぶ何千万人もの民衆の言うことなど気にする必要があるのか。

これらの欧米寄りの指導者たちこそが、イスラエル・パレスチナ間の和平プロセスというフィクションを広めてきたのであり、その間アラブの民衆はずっとパレスチナ人のことを応援してきたのだ、とAlain Greshは言います。しかし欧米によるアラブの民衆無視も限界にきているとして、アフガニスタンにおけるアメリカ中央軍司令官であるDavid Petraeus大将の次の発言(2010年3月)を紹介しています。

Arab anger over the Palestinian question limits the strength and depth of US partnerships with governments and peoples in the [region] and weakens the legitimacy of moderate regimes in the Arab world.
パレスチナ問題に関するアラブ(の人々)の怒りによって、中東諸国の政府や国民とアメリカのパートナーシップがなかなか強くならず深くもなっておらず、そのことがその怒りこそがアラブ諸国における穏健な政府の立場を弱いものにもしているのだ。

Alain Greshは、最近の中東や北アフリカにおける反政府運動の高まりが示しているのは、今後この地域の政治を分析しようとすると、指導者のみならずうアラブ民衆の意思を考慮に入れることが不可欠になっているわけで、問題は欧米諸国がそのような意思と能力を有しているかどうかである、と言います。

さらに中国・インド・ブラジルのような国の台頭によって世界が多極化しており、それぞれが反米でも親米でもないというスタンスをとることで自国の利益を守ろうとしている。Greshはその例としてトルコを挙げています。トルコはNATOの加盟国であり、アメリカの同盟国でもあるわけですが、イランの核問題やパレスチナ問題についてはアメリカからは独立した見解をもって臨んでいる。アラブの人々が望むのは、このような動き(反米でも親米でもない)に参加することなのだ、と言っている。

Alain GreshのエッセイはThe Future of Political Islamという本を書いたCIAのGraham Fullerという人がアメリカのChristian Science Monitor紙に投稿したエッセイの中で述べている次の言葉を結論として紹介しています。


What the people of the region demand is to be able to take control of their own lives and destinies. ... In the near term, the prescription is stark - Washington must back off and leave these societies alone, ending the long political infantilisation of Middle Eastern populations ... based on a myopic vision of American interests.
この地域の人々が要求しているのは自分たちの生活や運命は自分たちでコントロールしたいということなのである。短期的に言うと処方箋は苦いものになる。即ちアメリカは一歩退いて(中東地域の)中東地域の社会を自由にしなければならない。そのことは、アメリカが近視眼的なアメリカの国益という考え方をベースにして長い間行ってきたように中東の民衆を政治的に子ども扱いすることを止めるということを意味するのである。

▼上の文章はLMDのエッセイのほんの一部だけを紹介したものです。出来ればここをクリックして本文(英語)をお読みになることをお勧めします。

▼チュニジア、エジプト、リビアなどで起こっていることをテレビで見ながら私が抱いていた疑問として「民主化とはすなわち欧米化のことなのか?」ということがあります。デモをする人たちが求めていたのは、独裁者の退陣と公正な選挙であり、表現や言論の自由であり、エリート層における汚職の追放などであったと思います。これらを総称して「民主化」と呼ぶわけですよね。欧米諸国にはいちおう選挙があり、独裁者がおらず、言論の自由もある。汚職は欧米にもあるけれど、これをやると罰を受けるというシステムがある・・・ということは、民主化=欧米化ということなのではないのか?

▼と思っていたのですが、このエッセイは、エジプト人もチュニジア人もリビアの人たちも「民主化」を要求し、「独裁者打倒」を叫んでいるけれど、それは必ずしも「アメリカやヨーロッパみたいになりたい」という意味ではないということを理解する必要があると訴えている。そこが面白いところですね。特にアメリカの識者が「アラブの民衆を子ども扱いするな」と訴えているには心を打たれます。

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6)どうでも英和辞書

A~Zの総合索引はこちら

“manipulation” and “extortion”:ごまかしとゆすり

地震によってニュースとしてはどこかへ吹き飛んでしまったけれど、アメリカ国務省の日本担当部長さんが学生相手に行ったレクチャーの中で使われた言葉ですね。朝日新聞3月7日のサイトに太い文字で出ていた「沖縄県民は、ごまかし・ゆすりの名人だ」という見出しの「ごまかし」がmanipulationであり、extortionが「ゆすり」というわけでありますね。この人は結局日本担当部長を更迭されてしまったのですね。

3月8日付の琉球新報のサイトにはこのレクチャーの議事録風のものが英文で掲載されており「ごまかし・ゆすり」については次のような発言になっています。和文は朝日新聞の記事の文章のコピペです。

By pretending to seek consensus, people try to get as much money as possible. Okinawans are masters of “manipulation” and “extortion” of Tokyo.
合意形成を装いながら、できるだけ多くの金を取ろうとする。沖縄の人々は、東京に対する、ごまかし、ゆすりの名人だ。

で、「沖縄県民は、ごまかし・ゆすりの名人だ」という朝日新聞の見出しに戻ると、部長さんの発言の中のof Tokyo(東京に対する)の部分が消えているわけです。朝日新聞がそれを意図したのではないと思うけれど、この見出しだと「沖縄人というのは本来的にごまかしやゆすりが上手い人々だ」と言っているように響きません?この人が言っているのは、「沖縄の人たちは(米軍基地の問題に絡めて)日本政府からお金を引き出すのが上手い」ということなのですよね。それとmanipulationを「ごまかし」とやるのは正しいのでしょうか?人の心を操るという意味なのですが、「ごまかし」というのとはニュアンスが違うと思うけれど。
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7)むささびの鳴き声

▼3月12日(土)、英国の新聞・テレビのサイトはいずれも日本の地震、とくに福島原子力発電所のトラブルがトップ記事です。BBCはHuge blast at Japan nuclear plant(日本の原子力発電所で大爆発)と言っています。大爆発というのは言いすぎなのではないかと思います。The Independentは原子力安全・保安院のRyohei Shiomiという担当官のコメントとして「仮にメルトダウンがあったとしても、6マイル(10キロ)圏外にいる人には影響がない(even if there was a meltdown, it wouldn't affect people outside a six-mile radius)」というのを紹介しているのですが、「事態が悪化すれば変更する必要があるような見方だ(an assertion that might need revising if the situation deteriorates)」とも言っています。

▼3月11日の午後3時少し前、私は妻の美耶子と2匹のワンちゃんと一緒に埼玉県の山奥におりました。我々は屋外にいたのですが、かなり揺れました。人里離れ、樹木に囲まれて、周囲には人っ子ひとりいない静かな場所で揺らぐ地面の上に立っていることの気味悪さは文字では説明ができません。

▼英国の知り合いからは「無事でよかった!」というメッセージをもらったのですが「あんたのブログ(英文)で現状を知らせるべきだ」と言われて短い文章を載せました。内容がなくて、我ながら実に情けないような記事です。自然の脅威を眼の前にして、言葉もないような悲しさを感じているけれど、店舗を襲って商品を強奪するようなことは起こっていない・・・日本人はそんなことはしないという誇りを(私は)持っているということです。美しい東北の景色が失われたことは本当に悲しいけれど、日本人のdecency(まともさ)は失われっこないということです。

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