musasabi journal 211
backnumbers uk watch finland watch
美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2011年3月27日
3月も終わり。桜の季節です。なんだか日本が沈没していくような気がする毎日ですが、被災地で必死に生きている人たちの言葉に励まされている毎日でもあります。

目次

1)サルコジさんの「正義の戦争」
2)民主主義が日本を復活させる
3)どうで英和辞書
4)むささびの鳴き声

1)サルコジさんの「正義の戦争」


日本では大災害と原発だけがニュースですが、BBCのサイトを見る限り、英国人の関心はリビアに移っているようです。もちろん日本での災害についてのレポートもいろいろとあるけれど、3月27日のサイトでは第1位がリビアで、第2位が福島原発となっている。

そのリビアですが、英仏軍による攻撃が始まってから行われたYouGovという機関の世論調査によると、「支持45%、不支持35% 19%分からない」となっています。つまり支持しているのは英国人の半分以下であるということになる。いまから8年前の2003年3月にイラクへの攻撃が始まったときに行われた調査では、「支持53%、不支持39% 8%分からない」となっていた。この二つの世論調査結果で最も目立つのが「分からない」という人の割合です。イラク戦争についてはわずか8%であったのに対して、リビア攻撃については19%が「分からない」と言っている。YouGovでは「イラク攻撃のときは、事前にいろいろと議論があったが、リビア攻撃への参加は急だったことが原因」と言っています。

またイラク戦争の場合、米軍がバグダッドに侵攻した2003年4月の調査では66%が軍事行動を支持していたのに、4年後の2007年4月の調査ではイラク攻撃支持がたったの26%、60%もの人が間違っていたとなっている。

ところで今回のリビア作戦で最も積極的な役割を果たしているのがフランスです。サルコジ政府は他国に先駆けて反カダフィ政権を承認、国際的な連合を組織して飛行禁止空域設定のための国連決議を可決させたりして、大いに張り切っている。フランスといえば、英米軍のイラク攻撃に最も強硬に反対した国のはずです。

なぜフランスはカダフィ追放にかくも熱心なのか?私自身はそれほどたくさんの記事を読んだわけではないので分からないのですが、今日(3月27日)付のThe Observerが、サルコジを焚きつけてリビア攻撃をさせたと噂されているBernard-Henri Levyという哲学者とのインタビュー記事を掲載しており、その中で彼は次のように述べています。

What is important in this affair is that the devoir d'ingerance [the right to violate the sovereignty of a country if human rights are being excessively violated] has been recognised. For the first time this concept was endorsed by the Arab League, by the African Union and by the UN security council. This is huge.
ここで重要なのは、ある国において余りにもひどい人権侵害が行われている場合、その国の主権を侵す権利があるということが認められたということだ。今回、このコンセプトが初めてアラブ連盟、アフリカ連合そして国連でも支持されたのだ。これは大きい。

これではリビア攻撃の本当の理由にはならないと思うのですが、この言葉を読んでいて、2003年当時のブレア首相の発言とそっくりであることが分かります。3月25日付のBBCのサイトにパリ特派員の「サルコジはドゴールになれるか?」という記事が出ており、フランスがカダフィ攻撃の先頭に立っていることで、フランス人はいい気分になっている(that makes the French people feel good about themselves)として、

This is a country with a very high view of its own mission in the world. But the opportunities for gunboat humanitarianism are not frequent, and up to now it has been Washington that has led the way.
フランスという国は、自分たちが世界において気高い使命を有していると思っている国なのだ。しかし砲艦による人道主義を追求する機会などめったにあるものではない。これまでは、常にワシントンが先頭に立っていたから。

と述べています。そして「サルコジは正義の戦争を始めたのだ(he launched a war of the just)」と主張するL'Expressという雑誌(どちらかというと右寄り)の編集長について、BBCの特派員は

Such praise is rare indeed for the president, and it would be churlish not to let him enjoy it. Because, let's face it, the euphoria is unlikely to last.
サルコジ大統領に対してこれほどの称賛がなされるのは珍しいのだから、大統領がそれを楽しむことを許さないというのは失礼というものだ。どうせこの種の熱狂は長続きはしないものなのだ。それが現実というものだ。

と結論している。

▼要するに英国人もフランス人も自分たちが世界を動かしていると思いたいわけですが、このBBCの特派員のエッセイは、どう読んでもフランスをバカにしているとしか思えない。熱狂するのもいまのうちなんじゃない?ってなもんですからね。この特派員は、8年前の英国におけるブレア支持の熱狂といまのフランスを重ねて見ているのでしょう。

▼私の知り合いのフランスに詳しいジャーナリストは、「フランスはチュニジア、エジプトで旧政権を支持したことを挽回すべく、勇み足状態になっている」として「カダフィが降参せずに泥沼化したら、フランスはメンツを失う」だろうと言っている。またフランス人というのは思いこみが激しいのだそうで、そのあたりが心配だとも言っております。


back to top

2)民主主義が日本を復活させる


月刊誌The Prospectのサイト(3月23日付)にJAPAN WILL RECOVER(日本は復活する)というエッセイが出ています。筆者はOliver Kammという人で、The Timesの論説委員などをやっている英国のジャーナリストだそうです。このエッセイのイントロがOliver Kammのメッセージとなっています。すなわち

Democracy, not stoicism, gives the country resilience
日本に回復力があるのは、ストイシズムのせいではない。民主主義の国だからなのだ。

ということです。この場合の「ストイシズム」というのは、人々の優しさとか、粘り強さとか、規律正しさのような精神的な要素の総称だと思ってください。

で、今回の災害について海外メディアが報道するときに必ずと言っていいほど「日本人の忍耐強さ」(resilience of the Japanese people)ということが言われるし、それは事実ではあるけれど、大災害が発生したときにストイシズムを発揮するのは人間としての自然な反応(natural human response)であって特に日本人だけが例外的に忍耐強さを発揮するのではない、と筆者は言います。

ただ災害発生からこれまでの日本の対応をみていると、民主主義社会に特有の自己矯正的な性格(self-correcting nature of a democratic society)が見てとれるとのことで、

ここ20年間の政治的な停滞と経済不振にもかかわらず、日本は1945年以後発達させてきた民主主義の文化という本質的な強みを持ちあわせている。
For all its political stasis and economic stagnation in the past two decades, Japan has an essential strength born of the democratic culture it developed after 1945.

1923年の関東大震災(パニックの中で6000人とも8000人ともいわれる朝鮮人が殺害された)、第二次世界大戦(広島・長崎への原爆投下)を経て、全体主義の廃墟(ruins of its totalitarian experiment)から抜け出した戦後の日本は苦難に対する人間としての対応(humanitarian response to suffering)をも復活させた。

また1995年の神戸の大震災において最初のうちは対応の遅れ故に政府批判がなされたものの、2年間で震災のがれきは完全に除去され30万人の人々に住宅を供給することができた。そして今回の震災においても自衛隊10万人の派遣など、政府は迅速に救援体制に入っている。

また国際舞台において日本は、アメリカのいいなりと言われながらも、国際的なNGOへの資金提供では大いに貢献しているし、海外援助と輸出を結びつけることも少なくなっている。

日本においては民主主義が社会的な安定をもたらし、誤った経済政策による経済的な停滞はあるとしても、困難に対応する能力は存在している(the ability to respond to hardship is there)とOliver Kammは言い、次のように結論づけています。


大震災による人的被害や失われた生命の多さという現実には圧倒されてしまう。しかし戦後日本が成し遂げた近代化はある教訓を与えている。それは民主主義というものが安全弁を持っている体制であるということである。民主主義は苦難に対して敏感であり、過酷な困難に対して、人間的に対応するのみならずより効果的に対応する能力をも与えるものなのである。
The overwhelming fact of the earthquake is the human cost and the lives lost. But a secondary lesson lies in Japan’s postwar embrace of modernity. Democracies have safety valves. They are sensitive to suffering. And they have the ability to respond to terrible adversity with greater efficiency as well as humanity.

▼TBSテレビの「報道特集」という番組を見ていたら、東電の福島原発の建設については、国と東電の間で話が進められ県や地元の自治体が口をはさむような余地は全くなかったということを言っていました。同じ番組で、南三陸町の被災者たちが避難所で自治会のようなものを作って活動し始めているということも報道されていた。後者は民主主義の見本のようなものですが、前者はその反対です。

▼震災でも失われない日本人の礼儀正しさとか優しさなどは、とてもいいことであるし、私も日本人で良かったと思わないわけではないけれど、やはり制度としての民主主義の方が大切であることは間違いない。それにしても、東電・福島事務所、東電・東京事務所、保安院、首相官邸の4か所で記者会見をやるというのは、何なのでしょうか?同じ話題なのに、ですよ。まさかそれぞれに記者クラブがあって、それぞれに会見を要求したりしているのではないでしょうね。民主主義を確かなものにするためにメディアの存在は大切だと思うけれど、とんでもない無駄をやらせて混乱を招いているのがメディア自身であったということはない?


back to top

3)どうでも英和辞書

A~Zの総合索引はこちら

altruism:利他主義

カタカナ発音で「オートゥリズム」のようですが、意味は"helping others at our own expense"--「自分を犠牲にして他人を助ける」となっています。3月24日付のGuardianにJohnjoe McFaddenというコラムニストが寄稿したThe very human heroes of Fukushima(福島の極めて人間的な英雄たち)というタイトルのエッセイの中でaltruismという言葉が使われています。

福島原発の復旧作業に従事している作業員たちのことを言っているのですが、人間は本来的に利己的な存在である(individuals should act selfishly to serve their own interests)という考え方をする人たち(たとえばチャールズ・ダーウィン)からすると、福島の作業員たちが未だにあの場で作業を続けていることは理解に苦しむということになる。McFaddenは、最近アメリカの社会科学者たちが発表した「人間の親切心の起源」(origin of human kindness)についての研究にふれて、人間には利己主義の遺伝子もあるけれど文化的産物としての利他主義も併せて持っているようだとして

the heroism displayed by Japanese nuclear plant workers may be our most ancient and valuable human asset.
日本の原発作業員が見せている英雄的な行為は、我々人間がはるか昔から有している、価値ある宝物なのかもしれない。

と言っています。作業員たちが利他主義に動かされているのかどうかはともかく、東電幹部、政府、保安院などは作業員の利他主義などをあてにしているのではないよね、まさか。
back to top

4)むささびの鳴き声

▼最近の米クリスチャン・サイエンス・モニタ-(CSM)紙に、大震災に襲われた日本への援助を申し出た国や組織についての記事が出ていたのですが、その中に次のような文章がありました。

Japan has received offers of assistance from 14 international organizations and 102 countries including a number of unexpected aid donors such as embattled Afghanistan and poverty-stricken Cambodia.

▼日本援助を申し出たのは14の国際機関と102の国ということなのですが、その中に「意外な援助提供国」(unexpected aid donors)として戦争で明け暮れるアフガニスタン、貧困にあえぐカンボジアのような国があるということですね。CSMの記事を見ながら、前回のむささびジャーナルに載せた「世界ランクは5位、自己評価は最下位の日本」という記事を思い出しました。

▼その一方で、3月19日付のThe TimesにFeel pity, but there is no need to give any money to Japan(同情をしよう。日本にお金をあげる必要はない)という記事が出ています。それによると、英国ではエリザベス女王が個人として義捐金を送ってはいるが、海外からの募金は日本政府が断っているという趣旨の記事が掲載されています。The Japanese Government has asked that international agencies do not turn up(国際機関は来ないで欲しい、と日本政府が言っている)というわけですが、この場合のJapanese Governmentとは誰のことなのか(大使館?外務省?あるいは別の機関?)を書いていない。

▼記事の最後のところで、英国赤十字が日本赤十字のために200万ポンド(約2億6000万円)の寄付金を集めたとしながらも、However, the Japanese charity itself said: “External assistance is not required.”(しかしながら日本の赤十字自体が海外からの援助は必要ないと言った)と書いている。でも日本赤十字のサイトにはYour cash donation to our society is truly welcomed.(我々に対する現金の寄付は心より歓迎いたします)と書いてある。余りにもお粗末な記事であると言えます。英国のジャーナリズムのレベルはこんな程度なのでしょうか?

▼水や野菜が放射能に汚染されたということですが、「直ちに健康に影響はないが、食べるのは止めた方がいい」(私の英訳:Although it is not immediately harmful to your health you should stop eating it)という説明に対する批判が出ています。訳が分からない、と。分かりませんね、確かに。で、私ですが、埼玉県飯能市の水道の放射能が「基準値」より高くなったとしても、たぶん飲んでしまうと思います。どうせ年寄りで先が長くないから、というのも一つの理由ですが、これからの日本(特に東北・関東)は放射能と一緒に暮らすしかないからです。のどが渇いて我慢できないときは飲むし、空腹でどうにもならないときは食べます。福島産のホウレンソウだって同じです。他人に強制はできないけれど。

▼むささびジャーナルの号外版で「(放射能生で汚染された)牛乳はチーズに、野菜や果物は缶詰やジュースに」という佐久大学教授の小西恵美子さんの提案を紹介したところ、私の中学時代の級友で原子力にも詳しい男から「半減期は放射能の強さが半分になると言うことで、放射線量が半分と言う訳ではありません。それにヨウ素は8日でしょうが、セシウムは30年ですから、乱暴な論理構成だと思われます」とのメッセージをもらいました。

▼確かに彼の言うとおりなのかもしれないけれど、先生が言っているのは、放射能に汚染されたという牛乳を直ちに捨てるのではなくて、いちおうチーズにでもして、何日かおいてから「製品出荷時の測定をして安全確認」という手続きを経てからにしましょうということだと思います。理にかなっている(と思いますが)。

▼そういえば、妻の美耶子も大学で原子物理学なるものを勉強したことがあり、「ヨウ素」だの「セシウム」だのという言葉には詳しく、私もいろいろとレクチャーを受けているのですが、アホの与太郎相手の会話だから彼女も苦労しているようです。その彼女に「放射能の強さが半分になるということは、より安全になるということではないのか」と聞いてみたら「そうだ」とのことでありました。つまり「元の状態よりは安全になる」ということです。だったらいいじゃん!?

▼ところで、私の知り合いの大学教授がFinance GreenWatch というサイトを立ち上げました。GreenWatchというからには、当然「環境」がテーマですが「日本の金融機関のESG(環境・社会・ガバナンス)活動をウォッチし、その情報を広める」ことを目的とした、かなりの専門家向けのサイトです。もちろん中身は当然ですが、レイアウトもかなり洗練されており「むささびジャーナル」とは比較になりません。ご一読を。

▼最後に「被災者の皆さん、我々も一緒にいます。がんばりましょう!」という類のコマーシャル、いい加減にしてもらえません?私などは、自分が揺れを体験したということと原発事故のせいもあって、自分も被災者気分でいるわけです。そこへ「被災者の皆さん」などと呼びかけられると、なぜか虚しいのであります。普通のコマーシャルをやった方がいい。

back to top



←前の号

messages to musasabi journal