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美耶子の言い分 どうでも英和辞書 green alliance
2011年4月24日
本当に暖かくなりました。やっぱ春はいい!菅首相が東北の避難所を訪問して、被災者から「何しに来たんだ」というような扱いを受けているのをテレビで見ました。私はというと「菅さん、がんばれ!」と言っておきたい・・・。

目次

1)むささびの友だち:老馬ケアと相馬のサラブレッド
2)Bill Emmottの日本:これが改革のチャンス
3)ロイヤル・ウェディングはもう要らない
4)どうでも英和辞書
5)むささびの鳴き声

1)むささびの友だち:老馬ケアと相馬のサラブレッド


私が暮らしている埼玉県飯能市からクルマで北西へ約1時間のところにときがわ町があります。木工が盛んで家具と建具で有名です。


そのときがわ町に「ときがわHORSE CARE GARDEN」という施設があります。経営しているのは浅沼香織さん(41才)です。馬を飼っているのですがどちらかというと高齢の馬が多い。競走馬としての現役を退いたあとの老後を過ごしている。つまり馬の老人ホームだと思ってもらって結構です。HORSE CAREというネーミングのゆえんであります。現在、8頭の馬(平均年齢20数才)がここで毎日を過ごしている。馬以外に犬が2匹、ネコとヤギがそれぞれ1匹ずついるのですが、ネコちゃんがやたらと人懐っこいのが面白い。

で、この施設に最近になってサラブレッドでオスの4才という若馬(上の写真)が仲間入りした。名前はコテツ。普通なら来っこない若者なのでありますが、事情で浅沼さんがあずかることにしたのであります。コテツは大震災+津波+原発という災難に見舞われている福島県南相馬からやって来たのです。飼い主が福島県外で避難生活をすることになり、コテツを飼いつづけることができなくなったということです。

コテツはもともと「ルージュビクトリー」という名前の競走馬であったのですが、レースに勝てない「未勝利馬」ということで現役引退を余儀なくされた。そして南相馬のオーナーに引き取られ、有名な相馬野馬追用の馬として飼われ訓練されていたのですが、運悪く南相馬市が原発の危険地域ということになってしまって、ときがわ町へやってきたということです。

浅沼さんがHORSE CARE GARDENを開いたのは11年前。その前にも「乗馬クラブに2年、競走馬の育成牧場に9年、競馬場の誘導馬の騎手も経験しました」というわけで、馬との付き合いは20年を超える経験の持ち主でもあります。HORSE CARE GARDENは高齢馬のオーナーからの依頼で預かるものでもちろん有料。一頭大体一か月10万円程度いただいている。エサ代などを差し引くと殆ど利益は出ないけれど好きな馬と暮らす楽しみはある。コテツに関しては無料で引き受けることに。

「この仕事を止めたいと思ったことは?」と聞いたら「あります、何度も」という答えだった。

「あまりにも儲けが少ないから?」

「利益はほとんどないけれど、それが理由ではないの。預かっている馬が死んでしまったときに"止めたいなぁ"と思うことがある」

「でもみんな年寄りなのだから仕方ないんじゃない?」

「そうなの。でもどういうわけか馬が死ぬときって続くのよね。ひと月に2頭とか・・・自分の飼い方が悪くて殺したのではないかと思ったりする。そんなときなの、止めたくなるのは」

ちなみに馬の平均寿命は25~30才くらいなのだとか。ずいぶん生きるものなのですね。コテツのオーナーが引き取りに来ない限り、浅沼さんと一緒に暮らすことになる。まだ4才ということは、先行きはかなり長い!?浅沼さんによると、コテツは「やんちゃですが、賢くて人懐こい」のだそうで、確かに人間が近寄っても逃げるような素振りは全くしない。「できればコテツには何か世の中の役に立つような仕事をしてもらいたい」というのが浅沼さんの願いであります。

最後にコテツ同様の運命にある馬を救う活動がNPOの引退馬協会によって展開されています。浅沼さんからのメッセージ:

私たちは、どんな馬がどこへ移動し、または被害で死んだかなど、一頭でも多くの情報をあつめています。移動されて幸せにくらしている様子を、共有させていただけたら…と思います。一頭でも、知りたいのです。よろしくお願いします。

▼引退馬協会によると、震災前の南相馬には登録されている馬だけでも370頭あまりいたのだそうです。いま愛馬家たち自身が被災する中で頑張って馬の世話を続けている人たちがおり、本来なら預託料を払って馬を疎開させたいのですが、経済的に不可能であるとのことです。というわけで、浅沼さんのようなところが求められているわけです。引退馬協会が主宰する被災馬INFOというサイトは非常に分かりやすく、現在の状況が報告されています。一度クリックして見てください。

▼それと被災馬INFOのサイトを見て驚くのは「馬を引き受けます」という申し出がたくさんあって、しかもそれがすべてサイト上に掲載されていることです。私などには分からないtwitterの世界のようなのですが、これを見ていると、情報伝達の手段が以前とは全く違うのだということを実感します。

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2)Bill Emmottの日本:これが改革のチャンス


4月11日付のThe Timesのサイトに、The Economistの元編集長、Bill Emmottが「震災後の日本は繁栄するのか、しぼんでしまうのか?(Will Japan bloom or wither in the aftershock?)」というエッセイを載せています。Emmottは編集長になる前、The Economistの東京特派員だった人です。震災後、原発事故で外国人の多くが日本を離れる中で、ロンドンから日本へ飛んできたわけですが、記事は震災後一か月の日本観察記です。

Bill Emmottがまず気がついたのが被災地におけるボランティアの活動です。

日本ではこれまで福祉の提供者はNPOよりも国家、企業、もしくは家族と決まっていたが、6500人が死んだ1995年の神戸大震災以後、ボランティアが大きな役割を果たすようになった。いまやこれがさらに大きく成長する機会に恵まれていると言える。これまで日本には常に「結束社会」が存在してきたが、いまやキャメロン(英国首相)のいわゆる「大きな社会」をも作り出す可能性がある。
In Japan, welfare has traditionally been provided by the state, private companies or families themselves, rather than NGOs. The role of such civil society groups started to emerge after the Kobe earthquake that killed 6,500 people in 1995, but now they have a chance to forge a bigger role still. Japan has always had a cohesive society; now, in David Cameron’s terms, it may also create a “big” one.

キャメロン首相がかねがね主張している「大きな社会」とはNGOとかボランティア組織などが中心的な役割を果たす社会のことです。無駄の多い「大きな政府」ではなく、市民が自発的に助け合うのが「大きな社会」というわけです。言葉の遊びという気がしないでもないけれど、サッチャー流の個人主義でもなければ、官僚的社会主義でもない社会ということです。

Emmottによると、復興計画によって日本が活力を取り戻すのか、結局、高齢化社会の疲労度が増加するだけなのかを見るときには二つのポイントに注目する必要がある。一つは「誰が復興計画を練るのか(who does the planning)」ということです。かつての日本であれば、これは常に官僚たちの仕事であったけれど、腐敗や経済政策の行き詰まりもあって、いまの日本では官僚たちへの幻滅感が強い。その結果として政治家が支配権を握ってきているけれど、ここ数年は未だどの政治家も大した業績はあげていない。

ただ今回のような規模の危機の場合、(何もかも最初からやることができるので)クリアな目標を設定し、それをやり遂げることは可能なはずである。ここ数週間の間に復興を目的とした主要政党による大連立が作られて目標が設定・合意され、実施にあたって官僚をコントロールする体制が確立することが望ましい。日本の官僚は努力目標さえはっきり示されれば政策の実施には優秀な能力を発揮するのだ。
The great merit of a crisis such as this is that it should now be possible to set a clear objective, and get things done. The hope must be that the objective will be set and agreed to by a “grand coalition” formed for that purpose between the main political parties during the next few weeks, and which will then command the bureaucracy to implement it. In the past, the Japanese bureaucracy always worked well as long as it had a clear mandate.

Emmottによると、これからの日本において注目すべき第二のポイントは、目標がどの程度野心的なもの(ambitious)であるのかということです。

復興が単に被災地の再建だけを視野に入れたものに終わってしまうと日本は単に競争力のない借金国家に終わってしまう。復興は生産性や投資を促進するような経済改革や国家単位の災害対策を含めて日本全体の改革をも視野に入れたものである必要があるということです。
If it is limited to rebuilding the stricken areas without taking in broader economic reforms to boost productivity and investment, or wider national measures to deal with disaster risks, then the process will in the end leave the country still uncompetitive and burdened down with debts.


というわけで、Bill Emmottが日本で接触したオフィシャルたちの多くは、復興の目標が野心的なものであることを願っていると言っていたとして「彼らの望みどおりになることを期待したい」(Let us hope that they get their way)と結んでいます。

▼Bill Emmottが記事を載せたのがいまから約2週間前のことで、「これから2~3週間で、復興を目的とした政治的な大連立ができる」と言っている。しかし現実には「大連立」どころか「菅降ろし」の方が目立ちますね。主要メディアの報道ぶりを見ていると「菅以外なら誰でもいい」というニュアンスです。政治メディアに携わる人々の知的レベルを疑います。「菅がダメだというのなら、誰がいいと思うのか、その理由は何か」ということを言わない「菅降ろし」など報道する価値がない。はっきりさせておきたいのは、日本の原子力政策を何十年にもわたって支配し続けてきたのは自民党とお役人と電力会社であるということです。

▼菅さんによって「復興構想会議」が設置され、哲学者や宗教者も会議のメンバーに入っています。東京新聞によると「日本人の生活様式や意識に踏み込んだ"単なる復旧にとどまらない将来を見据えた創造的復興"(枝野官房長官)を目指す」ということなのだそうです。単に東北地方を再建するということだけではないってことですね。

▼「日本人の生活様式や意識に踏み込む」ということですが、Bill Emmottも言っているように、ボランティアリズムのようなものがちゃんとした市民権を持つような世の中にすることだと思います。そしてこれにはメディアの力が非常に大きい。政治家でも官僚でもないNPOのような人々の言っていることをちゃんと報道するということです。これまでのようなお役所の記者クラブで配布される資料だけで報道するのではないってことです。

▼もう一つ、私が言っておきたいのは、なにごとも日本や日本人だけで解決するなどと考えない方がいいということですね。常に外に向かって開放的であることです。「日本人はすごい!」というコマーシャルが全面的に悪いとは言わないけれど、「団結」を強調しすぎて外の風が全く入らないようなことだけはやめてほしい。

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3)ロイヤル・ウェディングはもう要らない


4月20日付のThe Economistの政治コラム、BagehotがNo more royal weddingsという見出しのエッセイを書いています。ウィリアム王子とケイト・ミドルトンさんの結婚式(4月29日)について語るもので「ロイヤル・ウェディングはもう要らない」という意味です。記事の書き出しは

Our columnist’s wedding present for Prince William and Catherine Middleton: a republic
このコラムからウィリアム王子とケイト・ミドルトンへの贈り物は・・・共和制である。

となっています。つまり英国はもう君主制を止めにして共和制に移行すべきだと主張しているわけです。

Bagehotは、まずこの結婚式に対する英国人全体の関心の低さに触れています。世論調査によると「関心あり」と答えた人は50%程度にすぎないし、「テレビで絶対に見る」と答えたのは3分の1だけ。またこのロイヤル・ウェディングを街頭パーティーでお祝いしようという件数も1981年のチャールズ皇太子とダイアナさんのときに比べれば圧倒的に少ない(far fewer overall than when Prince William’s parents wed in 1981)のだそうです。つまりメディアが盛り上がっているほどには英国人は盛り上がっていないということです。

なぜそうなのか?理由は簡単で、英国の人々が、ロイヤル・ウェディングで盛り上がっても、数年後には離婚だの王室内部の暴露記事だのというわけで、結局後日がっかりするだけだという経験をしてきているからだというわけです。

尤も、だからと言って王室廃止(共和制へ移行)ということではない。ひょっとすると、英国人の多くがダイアナ妃の悲劇を憶えていて、ウィリアムたちもそっとしておいてあげたいという気持ちになっているのかもしれない。王室の将来に楽観的な人たちはまた、ウィリアム王子が、形式嫌いで恵まれない人々を助けようという情熱だけは強かった母、ダイアナのあとを継ぐかもしれないし、ミドルトン家がごく普通の中流階級の人々であることが、王室の存続にとっては好ましい影響を与えることになるかもしれない・・・と考えている。

つまり楽観論を持つ人たちは「当たり前」が注入されることで王室が存続すると考えている(とBagehotは指摘する)わけですが、Bagehotは悲観論をとる。いま英国人にDo you want to keep the monarchy?(王室を維持したいと思うか?)と聞けば、大半はYesと答えるはずで、世論調査を見ても共和制を支持する意見は大体20%で、紙の上ではいかにも王室は安定しているかのように見える(the monarchy looks pretty safe)。

その昔、歴史家のWalter Bagehotという人が、英国の王室を「冠の上の家族」(a family on the throne)と呼んだそうなのですが、それはロイヤル・ファミリーが英国人(イングランド人)が理想とするファミリー像を代表するものであり、国の団結と連続性の象徴であるという意味だった。つまり人間なのに人間ではないものとして存在してきた。

王室のメンバーといえども人間的な感情を表に出すことがいろいろな点で認められてきているとはいえ、それでも女王は君主であることで普通の人々の生活からは切り離された存在になっているし、60年も君主の座にある彼女は一角獣(unicorn)か神秘的な怪獣(mythical beast)と呼んでもいいくらいである、とBagehotは言います。王室の人たちは天から降ってきたかのような上流階級の生活を送っており、その象徴が鹿狩り、スコットランドでの夏の生活、イヌや馬たち、教会、極めて限られた人たちが通う寄宿舎学校、上流階級だけが認めれるクラブ等々であるわけですが、にもかかわらず王室には常に現実社会との接点を保っている。問題は、英国人の大部分にとってそのような上流階級は嫌悪の対象である(the British, in the main, dislike such people)ということです。

To put it plainly: if the royal family are like unicorns--existing outside society--their place is reasonably secure. If they sit atop high society, they are unsafe.
簡単にいうと、もしロイヤルファミリーが一角獣のような存在(世の中の外側に存在するもの)であるとすれば、彼らの地位はそこそこ安定しているといえる。が、王室が世の中の上流階級のさらに上に鎮座しているとなると安全ではないということなのだ。

ダイアナ妃の父親は伯爵(earl)という身分であったけれど、彼女自身は馬が好きではなかったし、スコットランドの夏も好きではなかった。そのことによって彼女は「現代の王妃」(modern princess)であり、彼女の夫(チャールズ皇太子)よりはよき親(a better parent than her husband)でもあったのだ。彼女が子供たちをテーマパーク連れて行く一方で父親のチャールズ皇太子は子供たちを動物を殺しに連れて行った。ダイアナ妃は夏になると太陽の下で過ごしたし、映画俳優と時を共にすることもあった。彼女はposh(上流階級風)というよりも有名人であり、それが故に敬愛もされたのだ(She was dazzlingly famous more than she was posh, and she was adored)とBagehotは解説している。

Prince William, it can be countered, may share his father’s tastes for country life and field sports, but he spends much of his time in royal unicorn mode, or something like it. He is an officer in the army, the navy and the air force, popping away from his helicopter rescue squadron to represent Britain’s bid for the football World Cup. This is not a life open to any other 28-year-old. Short of putting Prince William in a super-hero’s cape, the royal household could scarcely do better.
ウィリアム王子も父親譲りのカントリーライフやフールドスポーツ好きかもしれないが、彼の時間の過ごし方は明らかに「一角獣モード」(世の中の外側モード)である。陸海空軍の将校であり、ワールドカップの英国招致のために軍のヘリコプターから飛び降りたりするなどというのは、とても普通の28歳に許される生活ではない。王室当局がウィリアム王子のために出来ることと言えば、せいぜいスーパーヒーローの衣裳を着せることくらいのことなのだ。

つまり一角獣的な存在であるということは、「この世のものではない」ということだというわけです。もちろんケイト・ミドルトンのような中流階級と結婚することで、ウィリアム王子のアピール度が増すということはあるかもしれず、その意味では侯爵の娘などと結婚する方がリスクは大きいかもしれない。しかし上流であれ中流であれ、階級などを超越して存在しているはずのものが現実の英国の階級制度と接することは現代のロイヤルファミリーに害を与えるものにはならないのか(what if all and any contact with the class system is lethal to today’s royal family?)という疑問がある。

Bagehotはまた二人の結婚に関連する報道について批判的なコメントをしています。例えばケイト・ミドルトンについてthe Timesが


shiny new money systematically raising a girl so perfectly to a prince’s eye level that she is virtually indistinguishable from the real thing.
金ピカの新興成金が、娘を王子のお眼鏡にかなうようなレベルにまで完璧に育て上げた。彼女はほとんど本物と見分けがつかないくらいである。

という記事を掲載したことについて「英国人たちにこの種のアホらしいことをやらせたらとどまることを知らないだろう」(Get the British started on this sort of nonsense, and it does not stop)と言っている。他にもいくつかアホらしい記事やコメントがあるようです。ウィリアム王子が結婚式で指輪をはめないことについて新聞が騒いでいるらしいのですが、その件についてバッキンガム宮殿当局者が「王子は宝飾品がお嫌いなのでして・・・」とコメントしてなだめている。が、Bagehotによると、「彼のような育ちのイングリッシュ男子は結婚指輪を見せびらかすようなことをすることが"はしたない"と考えることが理由なのだが、それを言うわけにはいかない」とのこと。

次に結婚式に出席するキャメロン首相がモーニングを着ていかないことについて、保守派のDaily Telegraphまでが「他の首相はこのような国家的な行事には正装で出席したではないか」と文句を言っているらしいのですが、Bagehotは


Mr Cameron cannot say, actually I am an old Etonian who in private life might wear a morning coat: that is why I cannot wear one in public.
キャメロンにしてみれば「実は私は昔ながらのイートン校の出身であり、モーニングはプライベートな生活で着用することになっている。だからパブリックな行事にこれを着るわけにはいかない」などとは言えないのだ。

と指摘している。そうなんですか!?知らなかった・・・。というわけで、Bagehotのコラムの締めくくりは次のようになっています。ちょっと長いけれど引用してみます。

Enough. Give the British a reason to resent each other, and they will seize it with gusto. Prince William’s mother used the royal family’s fustiness as a weapon in her war against them; that marital fight ruined lives. By the time of its tragic ending, the British public were left queasy, cynical and divided. Miss Middleton may well be a fine person, but if her life’s journey pinpoints Prince William’s place in society too closely, she could end up harming him. Class shows up Britain at its worst. For the sake of the country, but also as an act of kindness, pension the royals off. Time for compassionate republicanism: it might be the best wedding present the young couple could have.
こんなことはもうたくさんなのだ。英国人にお互いにいがみ合う理由を与えてみよう。彼らは大喜びでいがみ合うだろう。ダイアナ妃は王室の持つ古臭さを反王室の闘いための武器にした。その闘いによって多くの人生が滅ぼされた。彼女の悲劇的な死によって、英国民は不安感を持ち、悲観的になり、分断された。ケイト・ミドルトンは素晴らしい人物なのであろう。しかし彼女の人生行路がウィリアム王子の社会的な位置に余りにも近づきすぎると、彼女は結局ウィリアムを傷つけることになる可能性もあるのだ。英国における階級というものが最悪の形をとって現われるということだ。国のために、また親切な行為という点からも、ロイヤル・ファミリーにはヒマをあげることにしよう。いまこそ優しい共和制に移行するべきときなのだ。それこそが、この若きカップルに対する最善の結婚の贈り物であるかもしれないのだ。

▼このエッセイの原文はここをクリックすると読むことができます。うまくいかないときはお知らせください。長々といろいろ言っているけれど、要するに「ロイヤルファミリーも人間であり、国民の団結のための模範的な家庭生活のふりをすることなどもうムリだから、止めた方がロイヤルはもちろん国にとってもいいんでないかい?」ということですね。ある世論調査によると、このロイヤル・ウェディングに関心を持っているのは、女性、高齢者、保守党支持者というのが典型なのだそうであります。

▼正直言って、ロイヤル・ウェディングについて英国人たちが大騒ぎするのは分からないでもないけれど、英国人以外の人たちが大騒ぎする理由が全く分からない。さらに言うと、BBCなどを見ていて感じる「英国の王室の結婚式なのだから世界中が大騒ぎするのが当然だろう」という感覚も理解に苦しむわけです。

▼英国の王室とは関係ないけれど、日本の皇室の存在については大震災を機に考え込んでしまったですね、私は。ご記憶の方も多いと思うけれど、震災の数日後に宮内庁からの提供ということで、天皇陛下のビデオ・メッセージが流されたですよね。私はそれをラジオで聴いていたのですが、正直に打ち明けると、ちょっとジーンときたわけです。天皇の言葉にジーンとくるなんて自分でも信じられないのですが、あえて説明付けると、大震災では我々の相手が「自然」であったことが理由なのでしょうね。理屈・理性・理論・合理的思考の範囲を超えている。天皇・皇后両陛下が避難所を訪れるシーンについていうと、菅首相が訪問すると「お前、何しに来たんだ」という雰囲気なのに、皇室だと「あんたらには、アタシらの苦労は分からないだろうね」とか「皇居を避難所に開放しろ」なんてことは誰も言わない。これ、何なのでしょうか?

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4)どうでも英和辞書

A~Zの総合索引はこちら

losing to...:~に負ける

loseというと普通は「失う」という日本語を思いつくけれど、I lost to himというと「彼に負けた」という意味もあるのですね。知っていたような、知らなかったような・・・。lose toという表現に出会ったのはつい最近のことであります。ワシントンの教会で日本の大震災の犠牲者を悼むミサが行われたときに、宮沢賢治の「雨にも負けず、風にも負けず」が英語で読み上げられたというニュースを聴いて、インターネット(ウィキペディア)でこの詩の英訳を調べたら、最初の4行の英訳は次のようになっておりました。

雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ・・・
not losing to the rain
not losing to the wind
not losing to the snow nor to summer's heat
with a strong body

この詩は宮沢賢治が「ああなりたい」という人物描写がいろいろと続いて最後に

ソウイウモノニ
ワタシハナリタイ
such a person
I want to become

となるわけですね。ここで描写されている人物は、優しくて、強くて、謙虚で、素朴で、質素で・・・いろいろとあるわけですが、私自身がなぜか最も好きなのは次の2行であります。

南ニ死ニソウナ人アレバ
行ッテコワガラナクテモイイトイイ
if there is someone near death to the south
going and saying there's no need to be afraid

ところで、最初の「雨ニモマケズ」の部分ですが、"Be not Defeated by the Rain"とか"Unperturbed by the Rain"、"Standing Up to the Rain"というのもあるんだそうですね。not DefeatedとStanding Up toはちょっときついし、Unperturbedなんて聞いたことない・・・というわけで、not losing toが柔らかくて、私にはいちばんピンとくる。

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5)むささびの鳴き声

▼袋叩きにあっている東京電力ですが、Financial Timesの記事によると電気の供給については「ダメ企業ではない(not a bad company)」のだそうです。停電が少ないらしい。東電の場合、一世帯あたりの1年間の平均停電時間は4分間であるのに対して、フランスの場合は45分間、アメリカは69分、そして英国にいたっては73分です。知らなかった・・・。

▼毎日新聞のサイトを読んでいたら「発信箱」というコラムで論説室の福本容子さんがモルディブ共和国の人々による日本への支援活動について書いてありました。日本でいうと「24時間チャリティテレビ」のようなことをやって4600万円の義捐金を集めたとか、69万個のツナ缶を寄付する人もいた等々です。福本さんによると、2004年のインド洋大津波からモルディブの首都を守った防波堤などが日本の援助で作られたりしたこともあって人々が日本に感謝しているのだそうです。

▼正直言って、モルディブという国のことは全く知らなかったので、ウィペディアで調べたら人口は約30万、GDPは約1200億円で鳥取県の6%程度。最近でこそ民主化の流れが進んでいるけれど、10年ほど前までは、爆弾テロあり、政治犯釈放要求デモありで国内分裂がかなり厳しいものがあったそうです。モルディブの新聞のサイトを見たら日本支援のためのさまざまな活動について書かれてあったのですが、読者からの書き込み欄に次のようなものが出ていました。

Its amazing to see people shed notions of hatred like this.(モルディブ)国民がお互いに対する憎しみをかくも見事に乗り越えたことは驚きだ。

This is an example that Maldivian can do many great things if we work together. We all are with Japan.これこそ一緒に活動すればモルディブ人だって偉大なことができることの証明だ。我々はみんな日本とともにあるのだ。

▼対日支援が国民の間の一体感を生み出したようであります。福本さんは、モルディブが日本からの援助を「忘れずにいてくれたのがうれしい。今度は日本が深く心に刻む」と言っていますが、人口30万の国が缶詰を69万個寄付ということは国民1人あたり2個以上だということになる。これはタイヘンな数字ですよね。

▼ぜんぜん関係ないけれど、ウィリアム王子と結婚するケイト・ミドルトンさんの家に新しい紋章ができたのだそうです。それが右の写真のもの。ここにあしらわれているのはイングリッシュ・オークの葉っぱとどんぐりです。個人的なハナシで恐縮ですが、私、いまから約10年前に英国大使館で仕事をしており、その際に日本全国の約200か所の町や村に英国生まれのイングリッシュ・オークの苗木を植えるという企画を担当しました。オークを受け付けてくれたコミュニティの中に今回の大震災で被害を受けたところがいくつかあります。岩手県釜石市、福島県楢葉町(Jビレッジ)と新地町(尚英中学校)などがそれにあたりますが、特にあとの2か所は原発の近くで避難地域に入っています。どうなっているのか・・・。

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