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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第48号 2004年12月26日 
先日、NHKのテレビで会長さんも参加して「これからのNHKをどうする」という趣旨のディスカッションが行われているのを一部だけ見ました。途中でやめてしまったのですが、他意はありません。眠くなったので寝てしまったということです。

翌日TBSのラジオ番組を聴いていたら、そのNHKの番組に出演した鳥越俊太郎さんというジャーナリストが出て、いろいろと番組についての裏話をしていました。 あの番組ではディスカッションをやっている間に「視聴者からの声」が電話やファックスで寄せられ、それをアナウンサーがテレビカメラに向かって読み上げるということをやっていたのですが、鳥越さんによると、読み上げるアナウンサーの声はディスカッションの参加者には聞こえないシステムになっていたのだそうです。つまり鳥越さんや会長さんには視聴者が何を言ってきているのかが分からなかった!?

「視聴者をスタジオに招いてやればいいのに」と思っていた私にとっては鳥越さんの報告は全く意外でしたし、未だに信じられません。もし本当だとしたら、あの番組を作ったNHKの人は何を考えていたのでありましょうか? というわけで2004年最後のむささびジャーナルです。

目次

@ノーと言える日本
A英国の教育水準
B不倫は許すが行列を乱すのは許せない!?
C短信
D編集後記


@ノーと言える日本
かつて「ノーと言える日本」とかいう本がありましたね。確か石原慎太郎とソニーの盛田さんが共同で書いたのですよね。アメリカによる「日本たたき」に業を煮やしてアメリカ追従はやめようという趣旨の本だった。私自身は読んだことありませんが、結構受けていたのではなかったかな。Japan That Can Say Noというタイトルで英文版も出ていたはずです。
で、12月15日付けのフィナンシャル・タイムズ(FT)にこの本のタイトルをもじって A Japan that can say No to Chinaというタイトルの社説が出ていました。小泉首相の靖国参拝に文句を言い続ける中国に対して日本の世論が反発しているという現状について語っています。日本の新聞でも報道されましたが、最近の世論調査では日本人の44%が小泉さんの靖国参拝を支持(反対は38%)、中国の不満に理解を示すのはたったの10%であったそうです。

FTの社説は「中国の態度が日本人を硬化させている」として「中国は自らを追い詰めてもいる」と、現在の日中政治関係が冷え込んでいる(経済関係は緊密の度を増している)背景の一つには中国のごり押し的な態度があり「(小泉の参拝を中止させようとする)中国が望んでいないような結果を招いている」(China's shrill protests about the Yasukuni visits have had the opposite of the intended effect)としている。

しかしFTは日本が正しいと言っているのではなく、現状についての責任は日本にもある、とも強調しています。即ち日本が第二次世界大戦中に行った行為について近隣諸国に対して「ドイツのように正直に認めていない」(Japan differs from Germany in failing honestly to admit the extent of the horrors it inflicted on its neighbours more than 60 years ago)というわけです。 FTは日本がアジアで中国に対抗できる唯一の大国であるにもかかわらず、外交の力を発揮することが出来ないでいる。日本が経済力(と軍事力)に見合った影響力を発揮するためには(つまり中国に対してノーと言えるためには)「中国、韓国、アジアの近隣諸国、アメリカや英国の退役軍人たちが何故、靖国を巡って怒りを感ずるのかについて、日本が理解しなければならない」と結論しています。英文では次ようになっている。

But until Mr Koizumi and other Japanese leaders can understand what it is about Yasukuni that angers Chinese, Koreans and other Asians - not to mention British and American veterans-there is little chance that Japan will wield the diplomatic influence it craves to match its economic might and re-emergent military strength.

靖国参拝というといつも中国や韓国の不満が報道されますが、アメリカ人や英国人はどのように考えているのでしょうか?FTの社説に見る限り、少なくとも兵士であった人達は快く思ってはいない。おそらく他の人たちは興味もないということでしょうね。しかし小泉さんを"He is a good man"と言っていたブッシュさんやブレアさんはどう思っているのか・・・気になります。小泉さんもこのあたりは気にした方がいいと思います。

A英国の教育水準
最近、OECDによる32カ国の教育水準国際比較で日本の子供(中学生)の「読解力」が劣っているということが問題になっていましたね。前回(2000年)の調査では8位だったのが、今回(2003年)の調査では14位にまで落ち込んだのだとか。数学も前回の2位から6位に下がったらしい。この種の調査がどのようにして行われるのか知りませんが、私なんかの順位はおそらくこれほど素晴しいものではないでしょう。特に数学は。
12月11日付けのThe Economistは同じOECDの調査における英国の成績について「どこをとってもダメ」(Bad marks all round)という見出しで英国の水準がかなり低いことを嘆いています。特に数学が前回の8位から18位へと落ちていることを指摘しているのですが、OECDの公式記録には英国の成績はリストに掲載されていない。何故かというとOECDの調査に応じた学校の回答率が77%と低く、OECDの基準である96%をかなり下回っているので参考にならないということらしい。

つまりThe Economistが言及している順位は回答率を無視して他の国と比較した場合のものというわけです。 前回は読解力では8位、科学では4位ということで、英国はかなり成績が良かったのです。が、回答率が同じように低かったのでOECDの統計担当者はこれを参考にならないと言ったのに、英国の政府関係者はこれを信頼に足る統計であると主張して譲らなかった。なのに今回の結果については「回答率が低い」ということで公式リストには入れないようにロビー活動をしたらしい。

つまり英国政府の態度は、成績がいいと「信頼に足る統計だ」といい、ダメだと「信頼に値しない」というわけで、これでは通らない。77%という低い回答率についてバッキンガム大学のスマザースという教授は「この種の国際比較テストには成績優勝校の子供たちが参加する可能性が高いから、もっと幅広く参加するようになると英国の成績はもっと下がるはずだ」と指摘しています。

The Economistは「要するに英国の教育水準は低下したのではなくて、もともと大して高くなかったということだ」(Britain's educational performance, compared with the competition, has probably not deteriorated. It just wasn't good in the first place)ときついことを言っています。ちなみに同じ国際比較調査で「教師の質に対する満足度」という項目で英国は32カ国中の29位。英国よりも劣るとされた国はトルコ、ルクセンブルグ、メキシコの3つだけらしいです。


B不倫は許すが行列の割り込みは許せない!?
私の知る限りでは日本のマスコミでは報じられなかったように思うのですが、最近、デイビッド・ブランケットという英国の内務大臣が辞職しました。この人は第一期のブレア政権で盲目の教育大臣ということで話題になり、第二期の政権では内務大臣(日本でいうと法務大臣に近い)として活躍していた人です。 保守派のオピニオンマガジンで知られるThe Spectatorの発行人である既婚女性と不倫の仲になったのですが昨年別れた。
で、彼女との間に生まれた子供への父親としての接触権を巡って争いになったのですが、その際に彼女は英国のマスコミに、ブランケット氏が法務大臣の立場を利用して、子供の乳母(フィリピン女性)のビザ取得を早めるために便宜を図ったとばらしてしまった。

もちろんブランケット大臣は否定したのですが、政府による調査委員会が設けられるなど大問題になってしまい、ついにこれが事実であるということになって辞任に追い込まれてしまったというわけです。

ブランケット氏は辞任声明の中で「私はこの件について自分の記憶する限りにおいて正直であったつもりであるが、ビザ申請が早められたということが少しでも疑われるようなのであれば、そのことについて自分は責任をとるべきである」(I have always been honest about my recollection of events. But any perception of this application being speeded up requires me to take responsibility)と述べています。

この声明文を読んでいると「自分は天地神明に誓って悪いことはしていないが、そのように思われるということは私の不徳のいたすところであり・・・」という、日本の政治家がよく言うセリフを思い出してしまいました。似たようなことを言うのですね。

彼の辞任について英国のある新聞は「英国人は、不倫は許すが行列を乱すことは許せないのだ」と言っております。これには笑ってしまいました。ブランケット大臣の辞任声明はここをクリックすると出ています。


C短信
泥棒現場で眠り込む

アルゼンチンの新聞、Las Ultimas Noticiasが伝えるところによると、泥棒に入り込んだ男が「戦利品」に囲まれて眠り込んでいるところを捕まってしまった。あろうことか侵入した家の中で眠ってしまって、帰宅したその家の持ち主(女性)がほうきで追いかけたところ、男は隣の家へ逃げ込んだのですが、そこでもほうきで追いかけられ、駆けつけた警察官に逮捕されたわけ。「女性にほうきで追い立てられるとは、まるで昔の喜劇みたいだ」と警察がコメントしています。

▼それにしても現場で眠ってしまうなんて、よほど眠かったのでしょうね。ひょっとすると、前の晩に泥棒計画を練っていて寝つけずに徹夜でもしたのかもしれない。

いびき防止に画期的な発明

ノルウェーのお医者さんたちがいびき防止に「画期的」な方法を開発して話題を呼んでいるそうです。ダクロンと呼ばれる極めて細いポリマー製の糸を人間の口蓋部に差し込んで、この部分を硬化させることでいびきの原因になる口蓋部の振動を押さえようというものらしい。北海油田の作業に当っていた作業員が、同僚のいびきがうるさくて眠ることができず「何とかして欲しい」と訴えてから、ノルウェーではいびき防止が国会でも取り上げられるほどの真面目な話題になっているとか。このいびき防止法はアメリカではすでに許可されているそうです。

▼他人のいびきで眠れないってのは実に苦しいですよね。本人に悪気はないのだから文句の言いようがない。

男になりすました女性の解雇でもめる

英国の格安航空会社、FlyBeの従業員が性別に関する揉め事で退社せざるを得なくなって問題になっている、とThe Sunが伝えています。この従業員はエクセターの空港で管制担当として働いていたのですが、会社ではMalcolm Davidsonという男性として、家に帰るとMarlene Davidsonという女性に変わるという生活をしていた。髪が長く、イヤリングまでしていたのを上司が咎めたことがきっかけで分かったらしい。彼女(彼?)はそれ以来会社で「いじめ」にあってしまい自分から辞めてしまったのですが、労働調停委員会では会社における「性差別」を非難しているそうです。

The Sunの記事によると、男だと思っていたのが実は女性であることが判明したときに会社側がイチバン悩んだのがトイレの問題だったそうです。男性用にするのか女性用にするのか、さんざもめた挙句に「身障者用トイレ」を使うということで決着していたのだとか。

▼これ、要するに男でないと採用されないと思って・・・ということなのでしょうか?そうでもないようですね。何せ会社側はトイレの心配までしているのだから。


D編集後記
このジャーナルは、私が個人的に知っている人、それももう一度お会いしたら「アンタとはこんなことあったよね」と言えるくらいによく覚えている人だけに送っています(もちろん相手が私のことを覚えているかどうかは別問題ですが)。つまりどちらかというと「人見知り」ジャーナルなのであります●その私が掛け値なしに嬉しいと思うのは、むささびジャーナルの内容についてコメントをくれる「読者」の方がいるということです●前回、英国における尊厳死のことを報告しましたが、ある人が「私自身は、命は与えられたもので、多分自分なりに一生懸命に生きていくのが人間の義務だと考えているので、延命治療のようなものは拒否したいと思うものの、自殺は考えられません」として、さらに続けて「神の存在を信じているかどうか、に加えて、必要なのは実質的なケアと愛情なのではないかと思う」というメッセージをくれました●この方がクリスチャンであるのかどうかは知りませんが「神の存在」というところに私としては興味を引かれてしまった(ちなみに私はクリスチャンではありません、まだ)●私にとって生きているということ自体が「意地」みたいなもの・・・と前回の編集後記にも書かせてもらいました。私のいう「意地」というのと、この方のいう「神の存在」というのは同じことなのではと思ったりしたわけです。いずれにしてもメッセージありがとうございました●最後に悲しいことですが、私にとっては憧れの的であった英国のジャーナリスト、アンソニー・サンプソンが死にました。12月8日、78歳であったそうです。この人の書いたAnatomy of Britain(英国解剖)は外人よりもむしろ英国人によく読まれていたようです。本当に偉大なジャーナリストでした。喪失感がいっぱいであります●長くなりました・・・来年もよろしくお願いします。


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