@やはりブレアが勝つ・・・かな?
今年の(おそらく)5月には英国で総選挙があります。世論調査機関のMORIのサイトに昨年7月下旬に掲載された「トニー・ブレアの10年」(Tony Blair, 10 Years On)という記事は大変面白いと思いました。この場合の「10年」は首相としてのそれではなくて、労働党党首としての10年ということです(彼は1994年の党大会で党首に選出されました)。
満足度と不満足度の劇的変化
現在ブレア政権は2期目にあるわけですが、1期目(1997年-2001年)の4年間で、MORIが行った48回にわたる支持率調査で、ブレア首相の仕事に「不満だ」と回答した人が「満足」を上回ったのはたったの7回だそうです。いわゆる支持率も殆ど場合50%を上回っていた。特に最初の2年間は60%を上回る支持率だった。
2001年6月から現在にいたる2期目にも同じような頻度で満足度調査が行われているのですが、35回の調査のうち「満足」が「不満」を上回ったのはわずか8回だそうです。つまり1期目と全く逆の結果が出ているわけです。この記事が書かれた2004年7月の調査ではブレアに満足が30%であったのに対して「不満足」は61%もあったのだとか。これは2期目のサッチャー首相に対する評価と全く同じなのだそうです。
ブレア首相について英国民がどのようなイメージを持っているのか。第1期目の1997年10月の調査では「指導者として能力がある」(58%)、「個性豊か」(50%)、「英国が直面している問題を理解している」(48%)、「庶民的」(37%)など、いいことずくめであった。
国民から遊離?
同じ調査を今から約1年前の2003年末に行ったところ、一番多かったのが「普通の国民から離れている(out of touch with ordinary people)の43%で、他にも以前にはなかったネガティブなイメージを以て見られている。例えば「国民を見下している」(tends to talk down to people)が9%から24%へ、「柔軟性に欠ける」(too inflexible)が3%から17%にまで跳ね上がっている。
MORIによると、国民のブレアに対するネガティブなイメージは、2期目のサッチャーさんに対するものと酷似しているそうです(サッチャーさんは3期目にも勝利した)。で、3期目に挑むブレアさんですが、有権者は彼の業績云々よりも、他の首相候補者と比較して投票をするということで、ブレアには批判的でも、保守党の首相候補者(マイケル・ハワードという人です)に入れるほどではないというわけです。
ちなみにハワード氏に対する人気度ですが、昨年6月の時点では「満足」25%とそれほど悪くはないのですが「不満足」が38%、しかも半年前の17%から2倍に跳ね上がっている。さらに「よくわからない」というのが36%もある。殆どアウトというわけであります。
Aやっぱりブレアじゃ勝てない・・・かな!?
と、上の記事は例のスマトラ大津波が起こる前までの話で、12月26日以後、雲行きが怪しくなってきた。あの日、ブレアさんはエジプトで休暇中だったのですが、tsunamiによって英国人の犠牲者が出ていることがわかっていながら、休暇を切り上げることをしなかったというので、マスコミの批判を浴びてしまった。
どっちが党首?
この件についてストロー外相は「政府としては出来る限りのことはやっているではないか」(The question for the British media and public is whether there is a single thing the British government could and should have done that it has not done, notwithstanding the fact the Prime Minister is abroad?)とマスコミや世論に対して苛立ち気味のコメントを発表したりしています。
その一方で大蔵大臣のゴードン・ブラウンという人が津波被災国への債務を免除しようという呼びかけを主要国に行って賛同を得るなどの「活躍」をしている。しかも彼は最近、3期目の労働党政権について「自分ならこうする」という政策の青写真みたいなものまで発表したりして、まるでこの人が党首みたいに振舞っている(と思われている)。
で、最近のマスコミの関心はもっぱらブレアとブラウンの不仲に集っています。1月7日のBBCのサイトに「私とブラウン(蔵相)は団結している、とブレアが主張」(Brown and I united, insists Blair)という記事が掲載されています。ブレアのこの発言は彼が1月6日(木)に行った会見で行われたのですが、丁度同じ日に別の場所でブラウン蔵相がアフリカ支援のための「新マーシャルプラン」なるものを発表する講演をしていた。この講演会はかなり前から決っていたものなのですが、ブレアの会見はマスコミの関心をブラウンから自分に向けさせるためにわざと同日にやったのではないか、というわけです。
「子供の喧嘩」ではすまないかも
もちろん両方とも「単なる偶然」と否定していますが、BBCによるとブレア会見のお知らせがメディア各社に発表されたのが前日の1月5日。次の日にはブラウン蔵相が今年の英国政府の対外政策の目玉とも言えるアフリカ支援についての重要演説を行うことはブレアさんにも分かっていたはずで、野党の保守党などは「空き地で子供が取っ組み合いの喧嘩しているようなもの」(squabbling like children in the playground)とからかったりしています。
しかし私(むささび)がイチバン気になったのは、エジプト休暇から帰ったブレアにBBCラジオがインタビューをした中で、記者が「アナタが帰国しなかったのは、医者に止められたからではないのか?」という質問をしていたことです。ブレアさんの答えは「とんでもない、私はこのとおりピンピンしています」というものでしたが。 というわけで、私の勝手な予想(これまで殆ど当ったことがない)によると、今年の選挙では労働党が勝つけれど、首相はブレアではなくてブラウンということに・・・。労働党内部で「ブレアじゃ勝てない」という声があがったりして 選挙前に党首交代なんてこともある?
B情報公開法の施行が英国を変える?
今年(2005年)の1月1日から英国で情報公開法(Freedom of Information Act)という法律が施行に移されました。この法律によると英国籍の有無にかかわらず、英国にあるおよそ10万にのぼる公的機関が持つ情報にアクセスする権利を有することになる。お役所の側は、20日以内に情報申請に対してなんらかの答えをしなければならないそうです。しかも普通は無料のサービスなのだそうです。
もちろん何でもかんでも自由にアクセスできるというわけではなくて、国家の安全にかかわる情報、個人データあるいは公的業務の遂行に偏見を与えそうな情報(information likely to prejudice effective conduct of public affairs)など例外もいろいろとある。とはいえこれまで「英国病」の一つとさえ言われてきた政府機関による行き過ぎた秘密主義(obsession with official secrecy)に風穴が開いたとして歓迎するマスコミが多い。
でも誰が「国家の安全にかかわる情報」かどうかを決めるのか?1月1日付けのThe Economistの記事を読むと、アメリカの場合は、国民が「知る権利」を行使するためには裁判に訴えるというのがシステムになっている。しかし英国では新しい情報公開法の施行と同時に「情報コミッショナー」(information commissioner)という政府から独立した人がいて、この人が情報公開の請求について必要があればその正当性を検討・決定するのだそうです。コミッショナーの言うことをきかないと罰金刑(上限なし)に処せられるというのだから、かなりの権限を持っている人なわけです。
1月1日からの施行を前にいろいろな役所で書類のシュレッダーが大活躍、「余計な書類」はなるべく沢山破棄しようという動きがあったと伝えられています。が、これについて初代の情報コミッショナーであるリチャード・トーマスという人は「殆どの場合、無意味な書類の破棄をしているだけだと思う」と語っています。
実は英国ではこれまでにも「オープン・ガバメント」というスローガンの下で、政府の情報をなるべく公開するという建前ではあったのですが、法的な拘束力がないために効果はなく、The Economistなどは、特に現在の政府がその精神を守っていないと指摘しています。
今回の情報公開法について市民運動の団体などは、大臣に情報公開の拒否権が認められているので、政治的に微妙な場合などは拒否されてしまうのではないかと指摘する声もあるのですが、コミッショナーのトーマス氏は「自分はどちらかというと知る権利を行使する国民の側に立つだろう」(tempted to err on the side of the public's right to know)とコメントしているそうです。
関連サイトは次のとおりです。
憲法問題担当省:
http://www.dca.gov.uk/foi/index.htm
情報コミッショナー本部:
http://www.informationcommissioner.gov.uk/
C大衆紙の世界を通して英国を見る
最近『仁義なき英国タブロイド伝説』という本(新潮新書:680円)を読みました。つい最近までNHKのロンドン特派員をされていた山本浩さんという人が書いたものです。サン、ミラーのようないわゆる「大衆紙」のことを書いた本で、これらの新聞が英国の社会において果たす役割や影響力などが具体的な例とともに解説されています。
好むと好まざるとにかかわらず現在の英国における大衆紙の影響力は圧倒的です。ブレアが気にするのはGuardian, the Times, Telegraphのような「高級紙」の意見ではない。自分の政策の正しさを訴える相手は一般国民であり、彼らが読むのは主として大衆紙です。部数を見たってそのことは明らかです。山本さんの本にもあるとおり、代表的な大衆紙、The Sunは310万部、最古の大衆紙Daily Mailは230万部、Daily Mirrorは210万部・・・。で、高級紙の方はというとThe Guardianが31万、The Timesが60万、一番大きいDaily Telegraphでさえも86万部です。
山本さんによると英国の大衆紙は「読んでもあまり賢くならない。それでも面白いから読んでしまう」というようなものらしい。私は筆者のように英国に住んだ経験はないし、いわゆる大衆紙を読んだことも殆どないので、正直言って面白いのかどうかもよく分からない。ある高級紙(テレグラフだったと思う)の記者が私に言った言葉だけは覚えています。即ち「普段は高級紙を読んでいる人が何かの折りに大衆紙を読むことはあるが、通常は大衆紙を読んでいる人が高級紙を読むことは絶対にない」ということ。「絶対にない」という部分にやけに力を入れていた。
パパラッチの必死
この本にはダイアナ妃を追いかけた大衆紙のパパラッチ・カメラマン、元ミラーの記者でブレアの報道担当官であったアレスター・キャンベルらのことが詳しく書かれており、私個人としても懐かしい思いがしました。
ダイアナ妃が来日したときに駆けつけた「パパラッチの皆様」の取材のお手伝いをするのが仕事の一つであったのですから。彼らが狙っているのはタダ一つ、どこかでダイアナ妃が間違って転んでスカートがめくれるような事態になること。それを撮影できれば一年間、何もしないでも暮していける。となれば、取材位置について我々のような「当局」の言うことなど聞くはずがない。疲れましたね、あの人たちと日本の警察の間に入るのは。
山本さんはさらにタブロイド紙は「日本に定着している(英国の)紳士的なイメージとはかなり違う、イギリス社会の実像を映し出す鏡」と言っています。その意味でこの本は大衆紙の世界を通して見る英国入門の本であると言えます。
大衆紙は生き残るのか?
以前、むささびジャーナルで、英国における職業別信用度調査について書いたことがありますよね。英国の人々の間で一番信用度が高いのが医者、次いで教師、聖職者などが来る。信用度が低いのが政治家でビリから二番目。でも最低の信用度であったのが「ジャーナリスト」だった。ここにいうジャーナリストというのは主として(というより全部と言ってもいい)大衆紙のジャーナリストなのではないかと想像します。つまり英国の大衆紙とそれを支える読者の微妙な関係を表わしている数字のように思えます。
むささびジャーナルではまた中馬さんという朝日新聞のジャーナリストが書いた『新聞は生き残れるか』という本(岩波新書)についても紹介したことがありますね。この本はテレビやインターネットという新しいメディアに対抗して新聞がどのように生き残れるのかということを検討しています。
山本さん(ご自身はテレビ・ジャーナリスト)の本を読みながら、私が思ったのは「これらの大衆紙には生き残りについての心配はないのだろうか」ということでした。これまでサンやミラーを支えてきた「大衆」と呼ばれる人たちの趣向に変化はないのだろうか?ということです。 日英の新聞比較は、日本と英国の違いや共通項を知る上で本当に面白いと思うので、一度きっちり調べてみたいと思います。
製作者のわびしさ
最後に極めて個人的なことでありますが、私は、はるかなる昔、あるスポーツ新聞の編集局にいました。スポーツ紙は英国おける大衆紙とは、社会的な立場は違うけれど、中身は似たようなものなのではないか。読んでも賢くはならない。で、その頃毎晩、夜中に帰宅する終電に近い電車の中で自分が作っている新聞を読んでいる人を見かけたりする。嬉しいですよね、当然。でも殆どの人は電車を降りるときに金網にポイと乗せて行ってしまう。これ、作っている立場からするとわびしいです。これが朝日新聞であれば捨てたりはしないのに・・・なんて思ったものであります。ひがみですね。
D短信
女王が台所のリフォーム完成式に出席!?
北ヨークシャーのノーマンビーという町に住むアラン・アトキンソン氏は最近までブリティッシュ・エアウェイズのパイロットであったのですが、定年退職と同時に念願であった自宅のキッチンのリフォームを行った。友人30人を招いてお披露目パーティーをやったのですが、何せ4年もかけて自分でデザイン、リフォーム代に11,000ポンド(日本円で約200万ってとこか)もかけただけにただのパーティーではつまらないというわけで、エリザベス女王のそっくりさんを呼んで新しいキッチンを「公式に」オープンしてもらった。上から下まで女王そのものというエリザベス・リチャードなるそっくりさんが、キッチンのリフォームを行った大工さんにナイトの称号を与えるというおまけまでついたのだそうです。
- このニュース、The Sunが伝えているのですが、そっくりさんのギャラに触れていないのがタマにキズ。ニュースとして面白いかもしれないのは、それっきゃないのに。
大蛇も酔っ払う?
ブラジルのセルタンジーノなる町にある砂糖とアルコールの精製工場で仕事中の従業員が、長さ6メートル、体重100キロという大蛇を見つけて大騒ぎになり、消防署からスタッフが駆けつけてこれを捕獲、近所の自然保護区へ引き渡した。アナコンダという種類の蛇らしいのですが、消防夫が地元の新聞に語ったところによると「捕まえるのはそれほど難しいことではなかったな。何せ太りすぎで殆ど動けない状態だったのだから」とのこと。
- ひょっとしてアルコールの飲みすぎでダウンしてしまったのかも?でもどうして蛇というのは、ああも邪悪な身体つきなのでしょうか?目つきもどうもいけませんね。好きになれない・・・。
苛酷なキスレースで新車獲得
チリの新聞、プレンサのネット版によると、このほどサンチアゴのラジオ局が主催したあるコンテストに優勝した22歳の若者が、賞品としてピカピカの新車を獲得したのであります。どのようなコンテストだったのかというと、その新車(種類が書いていないのが情けない)に何時間、キスをし続けることができるか・・・という画期的にあほらしいものであったのです。優勝したホセ・アリアガという青年の場合、54時間22分の間、ノンストップでキスをし続けたのだとか。最後まで新車を争った競争相手が気を失ったところで、ホセに鍵が渡された。全部で27人が参加したらしい。 54時間(まる2日と6時間!?)チュー・チューをやり続けたのですが、3時間に一度、7分間の休憩以外は一切休みなしだったそうです。
- 相手が気を失ったところで勝負あったというのもすごいな。それにしてもどんなクルマを貰ったのでしょうか?54時間チューを続けて軽4輪ってことはないよね。
スプーン1杯1万5000円じゃ買えない水
スプーン3杯の水に252ポンド(約5万円)払います?払わない・・・当然です。が、払った人がいるのであります。アメリカのノースカロライナ州に住むウェイド・ジョーンズ(40才)という人がそれで、何故払ったのかというと、それがあのエルビス・プレスリーがですよ、1977年にやったライブの会場で水を飲むのに使ったコップに入っていた水だからなんであります。紛らわしい言い方で申し訳ない。水は今の水なんです。1977年の頃の水ではない。それがほぼ30年前にエルビスが使った(とされる)コップに注がれ、それをスプーンに3杯分をジョーンズさんがネット販売で購入したということ。
- エルビス・プレスリーっていつ死んだんでしたっけ?それを調べようと思って日本におけるファンクラブみたいな組織のサイトにアクセスしてみたら、私が131万6460番目のビジターでありました。で、いつ死んだのかは結局分からず。エルビスって私の世代のヒーローです。今年40才になる人(私より20以上も若い)が何故それほど熱をあげるのか、よく分からない。
E編集後記
●ラジオに出ていたその「団塊の世代作家」のように「生きがいを求める」だの「打ち込めるものが欲しい」だの「自分が本当にやりたいことが見つからない」等々ということを言う人って、いい大人の中にも案外いますよね。正直言って違和感を持ちますね●「生きがい」もヘチマもありません。人間、とりあえず生きていればそれで十分、結構ケダラケ・ネコヒゲダラケではないのか・・・というのがむささびジャーナルの「社説」でございます●ことしもよろしくお願いします。お暇な折にはお便りなどいただけると嬉しいですな。