musasabi journal

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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
第52号 2005年2月20日 
 先日、日本記者クラブで新潟県山古志村の村長さんの話を聞くチャンスがありました。地震後の状況と今後の見通しについての話だったのですが、山古志の国際化ぶりは面白いですね。イスラエルとパレスチナの学生を呼んでの交流会なるものがこの村で行われてきているそうです。地震以後、彼らからも励ましのメッセージを受取っているとか。それから錦鯉。生産の30%だかをヨーロッパなどに輸出しているそうですね。ドイツからの逆輸入などもあるんだとか。むささびジャーナル第1号が出たのが2年前の丁度今ごろ、2月25日でありました。これで52回目です。

目次

@ロンドン市長の舌禍事件
A経済学者が語る「幸せって何?」
B王室と世論調査
C短信
D編集後記


@ロンドン市長の舌禍事件
ロンドンのケン・リビングストン市長は、時たま問題発言をして周囲を騒がせることで知られています。確かイラク戦争についてブッシュ大統領の政策にいちゃもんをつける発言をして話題になったことがあった。

で、最近の舌禍(?)事件はというと、あるパーティーの会場で取材に来ていたEvening Standardという新聞の記者に対して「あんた、ナチの収容所の看守なのでは?」と発言したこと。Finegoldという名前の記者が、市長に対して「自分はEvening Standardの記者である」と名乗った途端に出たのが市長の言葉で、この記者がユダヤ人であったことから事が大きくなってしまった。

「看守」呼ばわりされたこの記者が「私はユダヤ人でドイツの戦争犯罪人ではない。アンタの発言は侮辱だ」(No, I'm Jewish. I wasn't a German war criminal. I'm quite offended by that…)とやり返した。

それに対するリビングストン市長の返事がちょっとまずかった。
  • "Well, you might be, but actually you are just like a concentration camp guard, you are just doing it because you are paid to, aren't you?" (へえ、そうかい。でも収容所の看守みたいなもんだよ。アンタ、金のためにやってるんだもんな。だろ?)
  • というもの。
「金のために・・・」というのは、どうやらEvening Standard紙が過去25年間にわたって、政治家・リビングストン氏に対して悪いことばかり並べ立てるネガティブ・キャンペーンを張ってきたことに対する仕返しコメントであったわけ。

で、カンカンに怒った記者が謝罪を要求、市長がこれを拒否したことでますます騒ぎが大きくなっている。「謝るのは簡単だが、何故自分が信じてもいないことをいわなきゃならんのかね」(I could apologise but why should I say words I do not believe in my heart?)というのが市長のコメント。

市議会内部にも謝罪すべきだという声が大きくなっているのですが、ブレア首相は"Let's just apologise and move on"とコメントしている。謝罪すべきだというのですが、この発言だと「とにかく謝っちまえよ」という、どことなくご都合主義的ニュアンスになりませんか?

リビングストン氏は筋金入りの労働党左派。いったんは右派のブレア勢力によって除名されたのですが、ロンドンの市長選挙で、ブレアたちが推した候補者に完勝して市長に就任した。途端にブレアが労働党への復帰を認めたというわけで、ここでも結構ご都合主義的ではあったのですが。 ところで市長の発言を重視したユダヤ人の団体がStandards Board for Englandという組織に苦情申し立てを行っています。この組織は公的な組織や人の行いについての監視役として法令で作られたもの。

お役所ではないけれど独立の力でこの種の苦情の審査を行い、場合によっては1年間の活動停止を命じたりもするようです。英国の場合、この種の組織がいろいろあって、市民・国民の不満をピックアップする機能を果たしているようですね。こういうのは日本にもあるのでしょうか?あったほうがいい。

A経済学者が語る「幸せって何?」
ロンドン大学(London School of Economics=LSE)のリチャード・レイヤードという先生が、米国ハーバード大学の学生に次のようなアンケートを行ったことがあるそうです。
  • @キミの年収が5万ドルで他の人のそれが2万5000ドルである場合
    Aキミの年収が10万ドルで他の人のそれが25万ドルである場合
アンケートは「この二つの状態のどちらの場合にキミは幸せだと感ずるか」というものであったのですが、圧倒的な多数が@の場合の方がハッピーであろうと答えたそうです。

で、同じ学生たちに次のような場合にどちらが幸せかを聞いてみたそうです。
  • @キミに許された休暇が2週間、他の人のそれは1週間である場合
    Aキミに許された休暇が4週間、他の人のそれが8週間である場合
このアンケートの場合は大多数の学生がAの方を「ハッピーな状態」として選んだそうです。 この二つのアンケートによると、人間は金銭的な収入については「他者との比較において自分の方が多い」ということをハピネスの条件として選ぶのに対して、レジャー時間となると、他者との比較ではなく、絶対数の方を重視するということになる・・・というのが、レイヤード教授の結論なのです。私なんか休暇はもちろん収入だって、他人との比較よりも絶対額の多少の方が気になりますがね。

この教授によると、収入の平等というのが人間の幸せ感覚の中では極めて大切であり、1人でも多くの国民が幸せ感覚を持つようにすることが政府の仕事であるとするならば、収入面の不平等の是正が重要であるとなります。

ヨーロッパ人はアメリカ人に比べると「幸せ感覚」が大きいのは、収入が(どちららというと)平等で、休暇が多いということに起因するらしい。福祉社会ということですね。うーん、そう言われると・・・そうかもな・・・と頷いてしまう部分もある。アメリカ人は長時間働いて大きな収入を得ようとするが、収入による幸せ感覚はあくまでも「他者との比較」という相対的なものだから、いくら収入が大きくなっても幸せ感覚は薄いのだそうです。

くどくどと申し訳ない。最近、The Economistに出ていたレイヤード教授による著書の書評が面白かったのでつい・・・。早速、アマゾン・コムで買ってしまった。ペラペラとめくったら気になる表が二つ出ていました。一つは各国の国民一人当たりの所得とそれぞれの国民の「幸せ感」についてのもので、日本は所得は相当に高いのに、国民のハピネス感覚は先進国では最も低い部類にはいることを表わしている。

もう一つ気になったのが、子供の学校生活についての比較調査で、「クラスメートは自分に対して 親切だ」と考える子供の割合を調べた表。欧米が対象なので日本は入っていないのですが、一番がスイスの81%、二番はスウェーデンの77%・・・ときて英国の子供たちは43%。これはロシア(46%)やアメリカ(53%)よりも低い数字です。もし日本が入ったらどのくらいのランクにきたのでありましょうか?

もともと「幸福感」なんて個人的なものであるから、経済学などという「社会的」なものが取り扱うべき話題ではないように思うのですが、そんなことはLSEの先生も勿論承知のうえでこの話題に取り組んでいるのでしょう。だから私も興味あるわけです。 興味がおありの方のために、タイトルはHAPPINESS、著者はRichard Layard、出版元はThe Penguin Press、約200ページだからそれほど分厚い本ではない。値段は正価約26ドルです。

B王室と世論調査
チャールズ皇太子とカミラ・ボウルズさんの結婚について、The Timesの行った世論調査では52%が好意的なのだとか。英国の王室について日本の皇室と異なり、常に様々な世論調査が行われていて、国民の厳しい監視の目が光っいるようです。2003年と2004年に行われた調査のいくつかを紹介します。

▼英国の大衆紙は故意に王室のイメージにキズをつけようとしていると思うか?
思う:55%  故意ではない:28%  分からない:17%

▼チャールズ皇太子は皇太子としての仕事を立派にこなしているか?
非常によくやっている:27%  まあまあ:43%  余りよくやっていない:13%
全然よくない:11%  分からない:5%

▼チャールズ皇太子はカミラさんと結婚すべきだと思うか?
すべき:48%  すべきでない:36%  分からない:16%
英国の元首は選挙で決めるべきか、現在の王室を守るべきか?
選挙できめるべき:20%  君主制度を守るべき:71%  分からない:4%  その他:6%

▼エリザベス女王の退位後は下記のうちのどの制度を採用すべきか?
現在の君主制度をそのまま保持する:47%
君主制度は保持するが王室の役割を小さく、王室の人数も少なくすべき:35%
元首を選挙で選ぶべき:17%
分からない:2%

▼エリザベス女王の退位後、チャールズ皇太子が王になるべきか、元首を選挙で選ぶべきか?
チャールズ皇太子が王になるべき:55%  元首を選挙で選ぶべき:31%
分からない:12%  答えなし:2%

C短信
「幽霊」を見て気絶した警部補

インドのVidishaという町のダンギという名前の警部補が仕事を終えて帰宅途中、ある空き家の前を通りかかると中から物音が聞える。実はこの空き家、ダンギ警部補の同僚が住んでいた家なのですが、最近そこを舞台に撃ち合い事件が起こり、ダンギさんの同僚が死んでしまった。それ以来空き家になっているわけ。空き家の中から聞える物音の正体を確かめようと中を覗いた・・・そこで気を失ってしまった。翌朝、ダンギ警部補は家の前に倒れているのを警備員に発見された。ダンギ警部補の話によると、家の中に男がいたのを見て、死んだ同僚の幽霊にちがいないと思った途端に気絶してしまったらしい。彼が見たのは、この家に忍び込んだ泥棒だったというわけ。
  • ▼警部補も怖かっただろうけど、泥棒も慌てたでしょうね。でもインド人のイメージする幽霊ってどんなものなのでありましょうか。
北京五輪目指して走る56才

2008年の北京五輪を「熱烈支持」しようと、中国内をマラソンしている人がいるそうです。誰に頼まれたわけでもないのにサポートマラソンをやっているのは56才になるワン・ユーチンという男性で、全行程20080マイルのうち4600マイルを走り終えたのだとか。何故20080マイルかというと、最後のゼロをとると2008になるから、というさして画期的とも思えない理由です。この大マラソンをやるのに自宅を売って、6人組のサポートチームを雇い、クルマも買い込むという熱の入れようだそうで、ついに呆れ返った奥さんが離婚してしまった。
  • ▼完走まであと約15000マイル残っているわけですが、一日平均30マイル(約50キロ)走ったとしても500日かかる。北京五輪まであと約1000日として・・・一日も休まずに走ってもこれだけかかるのだから、五輪前の完走はちょっと無理かも。奥さんが離婚するのも無理ないか。
空港で5ヶ月とめおかれた観光客

オランダ人のシェリダン・グレゴリオ氏は、かねて念願のブラジル観光旅行を実現したのですが、所持金をすっかり使い果たし、帰りの航空券を使って文字通り無一文で帰国するつもりになっていた。が、その空港で空港税を払うことができずウロウロしているうちに飛行機が出発してしまった。なお悪いことに彼が持っていた往復航空券はnon-refundable(払い戻し不可)ということで、別の飛行機に乗ることもできない。仕方がないのでホームレスのように空港に寝泊りしながらアルバイトすること5ヶ月、ついに空港税が払える程度の貯金ができた。空港の警察が飛行機会社と掛け合って、もとの航空券を使って飛行機に乗ることが許された。「ブラジルの人々の親切に感謝している」という彼のコメントが地元の新聞、Journal da Globoに掲載されたそうです。
  • ▼その空港税っていくらだったのか知りませんが、それさえ払えないほど旅先でスッテンテンになれるものですかね。

D編集後記
で、その山古志ですが、村長さんによると積雪3・7メートルなんだとか。3・7メートルですよ。想像がつかない●と思っていたらむささびジャーナルの読者が山古志ではないけれど、新潟の被災地における雪おろしボランティアに行ってきたという写真(右)を送ってくれました●最近、紹介したNPOの記事がきっかけで、このボランティアを親子3人でやってきたのだそうです。並みの積もり方ではないですね●日本記者クラブにおける山古志の村長さんのコメントで印象に残るのが「私、村人たちに"ガンバロウ"と言うのを止めました」という言葉でした。情けないことに、その前後を忘れてしまった。確か「ゆっくりやろうぜ」という趣旨のことだった、かな?●実は私もガンバロウってのは好きな言葉ではありません。何故かよく分からないのですが・・・●ではまた。

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