1)ビールがだんだん弱くなる
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英国人が飲むビールのアルコールが弱くなっているらしいです。英国のスーパーなどで売っているビールというとCarlsberg Export、Stella Artois、 Budweiser、 Beck’s、Cobraなどがあるけれど、いずれも5%から4.8%に減らすことになっている。たかだか0.2%の差だから消費者には分からないかもしれないけれど、原材料の価格があがっている折からメーカーにとっては0.2%もバカにならない。もっと大きいのは税金で、パブで飲まれるビールの場合、値段はふつう1パイント(約570ml)3ポンドあたりですが、うち1ポンドは税金なのだそうで、英国の場合ビール税はメーカーが払いアルコール度によって決まるのでアルコール度をほんの少し調整するだけでもコストが違ってくるらしい。
英国のスーパーなどで売っているビールは、私の記憶によると4本一組で値段は4~5ポンドだったからかなり安いと感じたものです。一本売りはしてくれなかった。この値段ではスーパーもほとんど儲けにならないのだそうですが、一種の客寄せ値段で売っているらしい。但しこの4月になるとビールにも売上税がかかるので値上げは間違いない。アルコール類の飲みすぎ防止策としてのスコットランドなどではビールの小売値段を極端に安くしないようにする法案が検討されており、キャメロン首相などもこれに乗り気であると伝えられています。
The Economistなどによると2010年の統計によると、アルコール度2.8%以下のビールの売り上げは全体の1%にも満たないのだそうですが、値段も安いのでスーパーとしてはこれが売れ筋と見て、弱アルコールビールの品ぞろえを充実させている。
アルコールがらみで医者に通う人が多く、NHS(健康保健制度)の負担も年間で30億ポンドにのぼっているので、ビール全体のアルコールが低くなることは英国人の健康面を考えても悪いことではない。しかし弱アルコールのビールがそれほどビール党に受けるのか?という疑問もある。ビールは英国人が好むアルコール飲料ではあるけれど、半世紀以上前の1956年には消費されるアルコール飲料の76%がビールだったのに今では37%にまで落ち込んでいるのだそうですね。
ビール市場ではマイクロブルワリーと呼ばれる小さなメーカーが大手を追い上げており、Peter Brownというビール評論家によると、主要ビールはアルコールが薄まることでますます味気ない飲み物にならざるを得ない(becoming
“progressively more bland”)と言っています。
▼30年も前にロンドンに行ったとき、コンビニのような店で小さな缶に入ったビールを買ったことがあります。普通の缶よりもうんと小さいもので、ホテルの部屋でぐっと一息に飲み干そうとしたのですが、異常にに苦い。一息というより四息くらいかけてようやく飲み終わったのですが、しばらくすると心臓がどきどきしてきた。おかしいな、と思って空き缶をよく見たらラベルが貼ってあってVERY
STRONGと書いてあった。あんなビールはもう売っていないかもしれないですね。
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2)「その後」のノルウェーと中国
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中国の人権活動家、劉暁波氏にノーベル平和賞が与えられたことに中国政府が腹を立ててこれを中止させようとしたけれど、授賞式は劉暁波氏不在のまま実施されたということがありましたよね。2010年10月のことです。中国政府の抗議に対してノルウェー政府は、ノーベル平和賞はその選考委員会が決めるもので政府の関与する余地はないと説明したけれど中国側はこれを受け入れずノルウェーとの貿易協定に向けた話し合いを拒否したり、中国を訪問するノルウェーの要人を冷遇したり、ノルウェー産のサーモンの輸入を禁止したり・・・という具合にいろいろとバッシングめいたことをやってきている。
ごく最近、ノルウェーのJens Stoltenberg首相が、対中関係はまだ正常化しておらず「全く行きづまり状態だ(It’s very static)」とコメントした、とThe
Economistの2月18日号が伝えています。
ただ中国がノルウェー政府による謝罪を期待しているのだとすると、いまは無理なのだそうです。中国に謝罪するなどということは、ノルウェーの国内政治の点からも破局的(politically
disastrous)だとノルウェー政府の関係者が語っている。中国はノルウェーから地理的に遠いので関係が冷えても安全保障上の問題はない。ノルウェー自体が順調な経済成長をとげており失業率も低い。さらにノルウェーの輸出に占める対中輸出の割合は2%以下というわけで、中国との関係が冷えていてもさして気にならないという間柄なのだそうです。
実はノルェーは北極評議会(Arctic Council)という北極圏における安全保障、エネルギー開発、海運活動などについて話し合う政府間組織を構成する8か国の一つになっているのですが、資源確保の意味もあって中国がこの組織にオブザーバーとして参加することを望んでいるのだそうです(日本も望んでいる)。北極評議会における各種の決定は8カ国による合意によってなされる。ということは中国にオブザーバー資格を与えるかどうかについての決定にもノルウェーが影響を与える立場にある。ノルウェーが中国の参加に拒否権を発動することを決めたという報道までなされている(ノルウェー政府は否定)のだそうですね。
いずれにしても今や国際政治の点でも経済力の点でも大国・中国であり、小さな国は無用な摩擦は避けたがるはずなのですが、人口わずか500万(中国国内のちょっとした都会の人口)のノルウェーの場合は「例外かもしれない」(it
is proving an exception)とThe Economistは言っています。
▼CIAのサイトによるとノルウェーという国は政府歳入の20%が石油の輸出によるのだそうです。EUに加盟はしていないけれど、EU市場における経済活動は欧州経済エリア(European Economic Area)加盟国として、EU加盟国と同じような範囲で許されている。その代りEUに対してはかなりの献金を余儀なくされているのでありますが・・・。 |
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3)橋下さんが日本の政治を鋭くする?
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ちょっと古いけれど、1月8日付のThe Economistが「日本の政治ビジョン」(Political visions in Japan)という記事を掲載しています。Two rival political visions emerge for reviving Japan. Will they clash?(日本再生を目指す政治ビジョンが二つ台頭している。その二つは衝突するのでは?)というイントロになっている。ここでいう二つのビジョンとは、野田首相が遂行しようとしている消費税値上げと政治行政改革であり、大阪の橋下市長がやっている大阪都構想です。
まず古い政治世代に属する野田さんですが、消費税値上げ、政治家の数減らし、公務員の給料カットと住宅手当の削減の三本立てを推進している。そのうちのどれ一つとっても日本の政治の常識からいくと「勇敢」(bold)なことなのに野田さんは三つともやろうとしているのだから殆どドンキホーテ(quixotic)のようでさえある。野田さんに対して自民党は国会を解散して消費税値上げについて国民の意見を聴くように主張しているけれど、野田さんらは自民党の妨害行為(obstructionism)は国民の反発を招くだけだと言っている。しかしこれまで消費税値上げを口にした首相が人気を得たことはない。
次に大阪の橋下さん。彼はあえて挑発的(deliberately abrasive)なやり方をとっている。特に長年にわたって大阪の権力機構の一部となってきた労組との対決姿勢を強めているし、中央政府とりわけ文部省をアホ呼ばわりしている。The
Economistによると、橋下さんの政治は専制的(despotism)というよりも「決断」(determination)を売り物にするような政治手法を追求しているように見える。
橋下さんの強みと思われるのは支援者にメディア関係者や産業界の指導層のようなsophisticatedな人たちがいるということだ、とThe Economistは言っている。sophisticatedという言葉ですが「洗練された」ではいまいちピンとこないけれど、日本語でいう「強力なブレーン」というような意味です。さらに橋下さんは説得力にも優れているというわけで、民主党の前原政調会長も大阪都構想には頷かざるを得なかったのだそうです。むしろ大阪ではこれからしばらくは橋下さんに対抗する人が出ないのではないかということが心配されている。
日本の政治の世界では民主党vs自民党という対決もあるけれど、本当の対立は民主党vsポピュリストという部分にあるのではないかとThe Economistでは見ており、それを憂慮する向きもあるとのことです。が、いずれにしても
For the moment, though, he is sharpening up Japanese politics, and that can only be a good thing.
当面は日本の政治が橋下さんによって先鋭化しつつあるわけで、そのことは決して悪いことではないかもしれない。
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とのことであります。
▼橋下さんという人がどのような社会観を持っているのか私は知らないのですが、労働組合や文部省と敵対しているとかいう話を聞くと、どこかサッチャーさんを思わせますよね。先日ラジオを聴いていたら、ある選挙の専門家が橋下さんについて国政でも台風の目になることは間違いないというようなことを言っていました。
▼日本の政治家のいうことを聞いていると、日本をどのような国や社会にしようとしているのかが見えてこない、と言われます。同じことが橋下さんにも言えるかもしれない。大阪都構想というのは大阪の話だと思うのですが、大阪から日本を変革するとか言っているところを見ると、いずれは日本そのものを変えようという気持ちがあるということですよね。で、それがどんな日本なのか?
▼サッチャーさんが考えていた「英国像」は、あの大英帝国であり、敬虔なるメソジスト派キリスト教徒が信奉する質実剛健、刻苦勉励の精神に満ちた英国だった。でも彼女が行った諸々の改革の結果として出来た英国はそれほど「質実剛健、刻苦勉励」とも思えない英国だったけれど、最大のライバルであるはずの労働党までもがサッチャー路線を踏襲するほどの成果を残した。結果としてはそうだったけれど、彼女なりに理想は質実剛健だった。
▼私は橋下さんがこれまで「日本」について何を言ってきたのか知らないのですが、大阪の教師たちに「君が代や日の丸を敬え」と言っている。これは日本のことです。なぜ国旗や国歌を敬うことが大切なのでありましょうか?「そんなこと、言わんでもわかっとるやんけ、おんどりゃあ!お前それでも日本人か!!」ってこと!?
▼サッチャーさんと橋下さんに共通していることの一つは、メディアの力をフルに活用しようとしている点かもしれない。サッチャーさんの「成功」は新聞(特に大衆紙)記者の取り込みなしにはあり得なかった。橋下さんもそのあたりのことを知っていて、使えると思われる記者は徹底的に使う。使われる記者も大喜びで使われる。
▼ちょっと気になるのは、テレビなどで垣間見る橋下さんの表情は、あのころのサッチャーさんに比べると非常に暗いように見えるのはなぜなのでしょうか?笑顔が暗いのですよ。
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4)ドイツ人も望まない欧州のドイツ化
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ちょっと古い記事ですが、BBCの1月29日付のサイトにDid Germany sow the seeds of the eurozone debt
crisis?というタイトルの記事が出ています。書いたのは経済記者のAllan Littleで、「現在のユーロ圏における借金危機のタネをまいたのはドイツではなかったのか?」という意味です。公共放送にしてはずいぶん思い切った見出しで、記事のイントロは次のようになっています。
Who is to blame for starting the current crisis in the eurozone? Greece? Italy? The real answer may lie further north.
ユーロ圏における現在の危機の始まりはだれの責任なのか?ギリシャか?イタリアか?いや本当の答えはもう少し北のほうにあるかもしれない。 |
いまから20年前に調印されたマーストリヒト条約で単一通貨ユーロの導入にあたって、これを導入する国は次のことを守らなければならないと規定されたのですよね。
インフレ率:EU加盟国中の最もインフレ率の低い国、3か国の平均インフレ率と比較して1.5%以上高くなってはならない。
年間の財政赤字:GDPの3%を超えてはならない。
政府の借金:GDPの60%を超えてはならない。
為替レート:ユーロを導入する国は少なくとも2年間は欧州為替メカニズムへの加盟国でなければばらず、その間に通貨切り下げを行ってはならない。
長期金利:インフレ率が最も小さい国3か国と比べて長期金利が2%を超えてはならない。 |
これらの規定を守るために「安定・成長条約(Stability and Growth Pact)」というのがあって、ユーロ加盟国はこれに加わることが要求された。しかるにこれらの約束事を破ったのはギリシャでもイタリアでもない、ドイツとフランスだったとAllan
Littleは言っている。
いまから9年前の2003年、ユーロ加盟国であるドイツとフランスの政府がお金を使いすぎて「財政赤字がGDPの3%以下でなければならない」という取り決めに違反してしまったのだそうです。このような場合、違反した国は罰金の支払いが義務付けられており、その罰金を科する警察の役割を果たすのが欧州委員会(European
Commission)という機関であった。
2003年当時欧州委員会の委員長を務めていたのがロマノ・プロディ(後のイタリア首相)だった。彼にはドイツとフランスに罰金を科する権限が与えられていたのですが、それをしなかった。なぜか?ブラッセルでユーロ圏15か国の財務大臣が集まって会合を開き、フランスもドイツも罰しないように投票で決めてしまったからです。
They voted not to enforce the rules they had signed-up to and which were designed to protect the stability of the single currency.
彼らは自分たちが署名したはずのルールを強制しないように投票で決めてしまった。その規約がユーロの安定化を保持するためのルールとして取り決められたにもかかわらず、である。 |
欧州委員会が財務相会議に負けてしまった。欧州委員会の委員たちは選挙で選ばれた人たちではない、言ってみれば「専門家」(テクノクラート)の集まりであるのに対して、ブラッセルに集まった財務大臣はいずれもそれぞれの国で選挙で選ばれた政治家であったということです。Allan
Littleに取材された、プロディ欧州委員会委員長(当時)は
Clearly, I had not enough power. I tried and they [the finance ministers] told me to shut up.
私に力がなかったことははっきりしている。財務大臣たちは私に「黙ってろ」と言ったのだからね。 |
と語っています。
またフランス財務省から出向で欧州委員会で仕事をしたJacques Lafitteという官僚は、ユーロの導入にあたっては強力な中央集権体制が必要だと感じており、その線に沿った提案をしたけれどいずれも主権をブラッセルに引き渡すのを嫌う加盟国政府に拒否されたと語っており、次のようなコメントを残しています。
We were mere technocrats. We were supposed to shut up and listen to the
member states who, almost by definition, knew better. I was convinced it
was not enough.
私らはみんなただのテクノクラートですからね。私らは黙って加盟国政府の言うことを聞くことになっていた。定義上は加盟国政府の方が物事をよく知っていることになっていたのだから。私自身は彼らの言うことを聞いているだけでは十分とは言えないと思っていたけれど・・・。 |
ただ、これからのユーロ加盟国は2003年のようにはいかない。自分たちの国の予算を予めブラッセルに提出して許可を得なければならなくなったからです。しかしそのようなシステムがいつまでもつのか?という疑問はある。加盟国の国民が民主主義の名の下にブラッセルに対して反乱を起こす可能性だってあるからです。
いずれにしてもこれからのユーロ圏はドイツが弟分のフランスと一緒になって引っ張っていくことになるだろうと言われているけれど、実はドイツ人自身がそうなることを嫌がっている、とAllan Littleは言っています。強力なドイツがヨーロッパ中に影響を与えるなどというのは、ドイツ人自身が怖がっているのだそうですが、ナチの被害国だった、あのポーランドの外相でさえも「私が怖れるのはドイツの力ではなく、ドイツの無作為なのだ」(I fear German power less than I am beginning to fear German inactivity)と語っている。
というわけで、Allan Littleの記事は次のようなパラグラフで終わっています。
The unfolding paradox is this: that a process that was motivated 20 years
ago by a desire to Europeanise Germany looks likely to have precisely the
opposite effect. Much of Europe will now be required to Germanise its economic
governance.
(ユーロ危機を通して)だんだん見えてきたパラドックスがある。それは20年前に(ユーロ導入の過程で)意図されたのはドイツのヨーロッパ化であったはずなのに、現在のところそれと正反対の効果を生んでいるようにも見える。つまりヨーロッパの多くの国々が経済のガバナンスに関してはドイツのようになることを要求されているということだ。 |
▼最近、ユーロ圏の財務大臣が会合を開いて、ギリシャに対する追加支援を行うことで合意したのですよね。ただBBCなどは、このレポートに続いて「ユーロそのものの崩壊が真面目に考えられている」という趣旨の特集報道をしています。つまり全然おさまっていないということらしい。
▼ユーロ圏の財政危機なるものを見ていると、ギリシャ、スペイン、イタリアなどの危機が伝えられ、フランスの国債が格下げされたりしている一方で、どちらかというと優等生的なのがドイツやフィンランドということになっていますよね。ヨーロッパにおける南北問題のようですが、ピンチが伝えられる国はどれも食べ物が美味しい。しかるにドイツ料理というのは英国と似ていて美味しいのはポテト程度で、おなか一杯にはなるけど・・・?Googleに「フィンランド料理」と入れてみたら東京に4軒しかなくて、そのうち一軒は「店長が長期料理修行のため休業中」であったし、後楽園にある店はランチ専門で「ムーミンをモチーフにした」料理が出るとのことだった。 |
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5)わが町にグラマースクールを・・・
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2月11日付のThe Economistに英国のグラマースクールについての記事が出ています。
The government doesn’t want schools to select by ability. Some parents do
政府は子供を能力で区別したがらないが、親によってはそれを望む人たちもいる。 |
というイントロになっています。中等教育に関する記事で、親たちの中にはグラマースクールを増やして欲しいと考えている人もいるというわけです。グラマースクール(grammar school)というのは(私の理解するところによると)公立の中学なのですが入学試験があってこれに合格した子供だけが学ぶことができる。
同じ公立中学でもコンプリヘンシブ・スクール(comprehensive school)は入学試験がない。comprehensiveは「幅広い」といいう意味であり「誰でも入れる公立中学」ということです。grammarは言語の文法のことですよね。で、手持ちの辞書によるとgrammar schoolはもともとは「16世紀に創設されラテン語・ギリシャ語文法を教えることを目的とした学校」のことを意味していたけれど、今ではこれが「公立秀才学校」ということになっている。
現在英国(イングランド、ウェールズ)にある公立中学はおよそ3400校なのですが、そのうちグラマースクールはたったの164校だからほぼ9割の子供たちがコンプリヘンシブ・スクールへ通っていることになる。1964年、英国(イングランド、ウェールズ)には約5300の公立中学があり、そのうち約1300がグラマースクールだったのですが、1960年代、70年代に「平等な教育」の普及を図ろうという空気の中でグラマーのほとんど廃止されてしまい、現在残っているのは164校だけ。
それでも数少ない「グラマー」の中には有料私立校よりも学力優秀で入学困難なところまであり、優秀グラマー中学に入るための準備に力を入れる私立小学校まで出現したりしているのだそうです。ロンドンおよび南イングランドはどちらかというとお金持ちミドルクラスが多いのですが、ケントにあるSevenoaksという町(人口約27,000)の親たちが自分たちの町に新しいグラマースクールを作るように署名活動を行ったりしている。この町には公立中学が一つと私立中学が一つあるのですが、公立中学には学力もいろいろな生徒が通っていて、いわゆる「出来のいい子」だけが集まっているわけではない。私立中学の方はというと全寮制で授業料が年間28,600ポンド(ほぼ300万円)もかかってしまう。隣接する町にあるグラマースクールへ通う子供が数百人もいるのですが通学に非常に時間がかかって不便で仕方ないというわけで、入学試験のある中学を地元に作るようお役所に働きかけているというわけです。
ただグラマースクールを新設することは法律で禁じられているのだそうで、開校するとすれば既存のグラマースクールの分校という形をとることになる。その場合、子供たちの試験は「本校」が主宰するので、選択基準なども本校の基準を採用することになる。Sevenoaksの親たちが要求しているのは、「本校」とは違う地元の基準によって生徒を受け入れる学校です。
法改正をやってグラマースクールの新設ができるようにすればよさそうなものですが、保守党が野党であった2007年、キャメロン党首がグラマー・スクールは増やさないと公言してしまった手前もあっていまさら態度を変えるのもちょっと・・・というわけです。キャメロンが反グラマー宣言をしてしまったのは、グラマー・スクールが金持ちのミドルクラスの子供だけが通う学校であるというイメージが強く、これに反対することで保守党の新しいイメージを打ち出そうとしたという事情がある。
グラマースクールは公立なのだから能力さえあればどの子にも入学のチャンスがあるはずなのですが、現実は金持ちミドルクラスの子供たちがグラマー入学のための特訓風のコーチを受けているのに、アタマはいいけれど金持ちではない子供たち(特訓を受ける経済的余裕がない子供たち)は入学試験に受かるチャンスが非常に狭くなっているのだそうです。
現在の教育大臣(Michael Gove)はキャメロンと異なりグラマースクールの復活に賛成で、公立校の子供たちにも私立校なみの質の高い教育を与えるべきだとしています。ただこれには連立相手の自民党が批判的でMichael Goveの言うとおりにすると連立政権にひびが入りかねないというわけでキャメロン(私立学校出身)首相は板挟みという状態なのだそうです。
▼前にも言ったことがあるけれど、英国のことを語るときに教育の話題は非常に大切です。が、実にややこしい。いろいろな種類の学校が入り乱れている印象です。とにかく政権が変わるごとに「教育改革」をやるから何がなんだかさっぱり分からなくなっている。そもそもグラマースクールを新設することが許されないと言いながら、現存するグラマーの存在は許されているということ自体理解に苦しみません?いつかきっちり教育特集をやってみたいですね。英国の公立学校の制度史を見ると英国が見えてくるということがあると思う。
▼とはいえ公教育がダメ扱いされて、経済的にゆとりのある人たちは子供を私立校に行かせたがるという点では日本と同じです。私の知り合いの英国人の親が自分の子供たちに日本の「公文」の塾で勉強させており、このシステムが英国でもかなり浸透している印象を受けました。「自分の子供たちだけはいい学校に行かせたい」という哀しい「親心」はどこも同じです。 |
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6)どうでも英和辞書
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A-Zの総合索引はこちら |
short words:短い言葉
ウィンストン・チャーチルの言葉に
Short words are best and the old words when short are best of all.
短い言葉が最善だ。昔から使われていて、しかも短い言葉であればそれにまさるものはない。 |
というのがあるのだそうですね。The Ecconomistの言葉のブログに書かれていたもので、同誌の記事のスタイル上の約束事の一つがこれらしい。つまり短い言葉を使えってこと。ここで言う「短い」というのは、使われているアルファベット数が少ないという意味です。例えば「およそ」とか「大体」を意味するapproximatelyという単語があるけれど、aboutを使う方がいいとのことです。これ以外の例としては次のような言葉が挙げられています。
X |
〇 |
following |
after |
however |
but |
sufficient |
enough |
permit |
let |
establish |
set up |
expenditure |
spending |
The Economistによると、大体において、短い単語はアングロサクソン系、長い方はラテン系が多いのだそうで、短い方がいいのは綴りが簡単で分かり易いというのが理由です。ただ「お宅の製品は、質はいいけれど値段が高すぎる」という場合、
Your products are of good quality but too expensive.
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ではなくて
Your products are of good quality. They are, however, too expensive. |
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と書きたくなりますね。なぜなら後者の方がtoo expensiveを強調しているように響くから。The Ecconomistのブログは、新聞や雑誌で使われる言葉のことを検討しているのであり、日常会話やビジネス上の手紙言葉などは別のハナシなのであろうと思います。が、いずれにせよ「分かり易い言葉」は大切ですよね。「貧しい国々」という場合、poor
countriesがいいのかunderdeveloped countriesがいいのか?後者はいかにも国連英語だけど、「低開発」なんて言われてもピンとこないケースは多いですよね。
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7)むささびの鳴き声
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▼経済産業大臣の枝野さんが東京電力の国有化を言っていることに対して経団連の米倉という会長さんが「とんでもない勘違いをしている。国有化してきちんとした経営を行った企業は見たことがない」と批判したらしいですね。読売新聞のサイトに出ていました。枝野さんは民間会社という存在について「一つは競争のあること、もう一つは失敗したらつぶれること」と定義したうえで「(東電は)実態として純粋な民間会社ではない」と米倉さんに反論したのだとか。東電の国有化についてはむささびジャーナル227号でも取り上げました。
▼日本の大企業がいろいろと苦労しているというニュースが最近特に頻繁に伝えられますよね。そのほとんどが経団連の会員である有名企業です。これらの報道に接しながら思うのは、日本という国はトヨタ、パナソニック、ソニーのような大企業に頼って生きる時代はもう終わっていたのではないかということです。震災や「福島」があってもなくても、です。でも相変わらずクルマにはエコカー減税のような政府の援助が与えられる。米倉さんは「経団連が言えば政府も従う」と思っているのだろうと思いますが、実際にはもう経団連の時代ではない。とっくに中小企業が中心の世の中になるべきであったのかもしれないと思うわけです。
▼日本総研の田中均さんが日本記者クラブで「TPPと安全保障」というテーマで話をしたのを聴きに行きました。この人は昔は外務省のお役人であった人で、小泉さんと金正日総書記の会談をセットしたことで知られていますよね。TPP(Trans-Pacific Partnership:環太平洋経済協定)は国際的な貿易協定で、これに加盟すると農産品などがすべて関税ゼロで入ってくるので日本の農業には壊滅的打撃になるという人もいる。野田首相がこれに日本も加盟するのだと言っている、あれです。
▼貿易協定と安全保障がどう関係するのかと思っていたのですが、田中さんの言うことを聞いて納得がいってしまった。田中さんの考え方の根底には、日本の将来を考えるということは「中国とどのように向き合うのか」を考えることであるということがあります。いまの中国の経済システムは国家がリードする資本主義(国家資本主義)であり、アメリカや日本の自由主義的資本主義とは性格が違っており、将来は中国も自由主義的な体制になってもらわなければ困る。中国はTPPに加盟はしていないし、現在の中国の体制では無理なのですが、いずれは中国も変わらざるを得なくなるときが来る、そのときのために中国を取り込めるような経済・貿易体制を用意しておくべきであり、日本もその体制を支える国の一つになっておくべきである・・・おおざっぱにいうと田中さんの主張はこうなります。
▼TPPという経済・貿易システムに中国を取り込みながら、将来的にはアメリカと一緒になって日米中の「信頼醸成システム」のようなものを作るようにしようということで、TPPと安全保障が相互に関係してくると言っている。要するに、中国という国が日本にとって「脅威」ではない国にするための環境を準備するということです。なるほど・なるほど・・・。
▼中国のことはともかく、日本のTPP加盟には反対の意見も結構ありますよね。農産品の関税がゼロになったら農業は壊滅するという主張です。日本はコメの輸入を自由化するのではなく、700%というとてつもない関税(禁止関税というのだそうです)をかけることで農業を「保護」する一方で、そのような途方もない関税をかける代償として約70万トンの外国米を輸入している。帳尻合わせの70万トンは、市場に出回ることなく動物の飼料とかおせんべ作りに供されているのだそうです。
▼で、田中さんは、日本がTPPに参加するかどうかの問題とは別に農業分野の抜本的な改革が必要であると主張しています。700%もの関税をかけないとやっていけない農業はどこかおかしいということであり、「GDP寄与率1%の産業が、強い政治的影響力を持っている」日本国内の既得権擁護のやり方こそ諸悪の根源であるというわけです。
▼TPPに反対する農業と東電の国営化に反対する経団連の姿勢に共通しているのは自分たちがはるか昔に勝ち取った(とされる)既得権を何とかして守り抜こうとする哀しい年寄り感覚ですね。
▼話は全く違うのでありますが、NHKの教育テレビを見ていたら「震災を詠む」という番組をやっていました。大震災で被災したひとびとが集まって自分の震災体験を詩歌にする発表会のような集まりであったのですが、紹介される詩歌の見事さに一人で唸ってしまいました。ここをクリックするとそれらの歌が出ています。三つだけこの場で紹介します。
『家なき子』 笑って話す友人に かける言葉が 見つかりません
→気仙沼高校の女子学生の作品です。
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胸に住む PTSDを退治する 笑い・音楽・ひとり泣くこと
→60歳を少し超えたかと思われる女性の作品です。PTSDというのは、恐怖の体験をすると、その体験が生活の中で急に思いだされて精神状態が不安定になる症状のことですよね。
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風呂の水 今でも栓を 抜き難し ありがたきかな 濁り水でも
→女性の作品。 |
▼どれを読んでも「やるなぁ」と感心するっきゃないのですが、このような歌会を開いて、そこに人が集うというのがすごいですよね。ようやくほんの少しだけ暖かくなりました。お元気で。
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