musasabi journal

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402号 2018/7/22
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
お暑うございます・・・なんてものではないですね。ウチの近所は年寄りばかりが住んでいるということもあるのですが、人影を全く見ません。我が家でもクーラーを一日中入れています。でないと、とても過ごせませんからね。なのにウチの2匹のワンちゃんのうちGSPという短毛の方のワンちゃんは、カンカン照りの庭で気持ち良さそうに寝そべったりしている。どうかしてますね。

目次

1)多様性ランキングと日本人の戸惑い?
2)死刑囚の扱いに見る「日本」
3)結局、離脱はしない?まさか・・・
4)どうでも英和辞書
5)むささびの鳴き声


1)多様性ランキングと日本人の戸惑い?

英語の文章を読んでいて、意味がよく分からない単語に出くわす、英和辞書を引いてみる、ますます分からなくなる・・・そんな単語の一つが "inclusive" なのではないかと(むささびは)思います。inclusiveはinclude(含む・含める)という言葉の形容詞ですが、むささびが使う英和辞書には「すべてを含んだ・包括した」という日本語が出ており、(パック旅行などの)「一切込み料金のことを英語では"inclusive fee"という」と書いてある。それだと最近英国の世論調査機関が発表した"Inclusiveness Index"は何のことだか分からないのでは?その調査によると
とのことであります。


ここでいう"Inclusiveness"は「さまざまに異なる背景を持った人びとを包み込む(include)余裕がある」という意味です。"inclusive society"は、そのような余裕を持った社会という意味です。日本語ではむしろ「多様性に富む社会」とでも訳した方がいいかもしれない。"open"と似てはいるけれど、この場合はドアを開けてあるという意味で、入るかどうかは皆さん次第。"inclusive"な態度はもう少し積極的です。

多様性指数:トップ5とボトム5
トップ5(点数の高い順) ボトム5(点数の低い順)
カナダ 55 サウジアラビア -28
アメリカ 54 マレーシア -17
南アフリカ 52 セルビア -8
フランス 46 日本 -6
オーストラリア 44 トルコ -6

と、前置きが長くなってしまったけれど、英国のIPSOS MORIという世論調査機関が行った27か国・約2万人を対象に行った調査によると、多様性を受け容れる社会という意味の総合点ではカナダがトップ、次いでアメリカ、南ア・・・などときて、英国は10位、日本は22位だから下から数えた方が早い。ただこれはそれぞれの国が制度の面で「よそ者」に開かれているかというよりも、それぞれの国の人びとが自分たちの国や社会が持っている多様性について自己評価した結果であるということは分かっておいた方がいいかもしれない。

調査結果の全てを紹介すると余りにも膨大なものになってしまうので、英国・ドイツ・韓国・日本だけに絞って、それぞれの国の人びとが「性的マイノリティ(LGBT)」、「犯罪歴のある人間」、「軍隊歴のある人間」が「本当に自分たちと同じ国の人間」(real national dymonym)であると考えるかどうかについてのアンケート結果を紹介してみます。「本当に自分たちと同じ国の人間」というのも奇妙な言葉ですが、要するに「一緒に暮らして違和感を感じない」という意味と考えればいい。それに加えて、アンケート調査に参加した人びと自身が「本当に自分の国の人間」であると思うかどうかどうかも聞いています。

Q1: 性的マイノリティも「真の同国人」であると考えるか?

LGBTに対する感覚的受容度の問題なのですが、ここには掲載されていないけれど、スウェーデン、フランス、カナダなどでは "Yes"(彼らも自分と同じ国の人間だ)と答えた人が75%以上にのぼっている。このグラフによると、英国人とドイツ人の大多数がLGBTを受け容れているのに対して韓国と日本では極端に受容度が低いのですね。日本人と韓国人の違いは、後者が"Yes or No"を合わせると半数に達するのに対して、日本人の場合は"Not sure"という人が圧倒的多数(7割以上)なのですね。これを文字どおりの「分からない」と考えるのか?むささびの想像によると、英語国の感覚では"Not sure"は「否定」に近い「分からない」と思われるだろうな、と。ちなみに27か国のうち"No"が5割を超えた国が二つあった。サウジアラビア(68%)とマレーシア(58%)です。

Q2: 犯罪歴のある人間も「真の同国人」であると考えるか?

ここでも日本の"Not sure"の大きさが目立ちますが、もっと目立つのは、犯罪歴のある人間に対する韓国人の否定的な姿勢で「世界平均」と比べてもかなり高い。この質問で"Yes"という答えが過半数を超えた(犯罪歴のある人間に寛容)のは南アとカナダ(いずれも60%)、アメリカ、フランス、スウェーデンなど7か国だった。反対に犯罪歴のある人に厳しいのはマレーシア(52%)、サウジアラビア(43%)、韓国などとなっています。

Q3: 軍隊歴のある人間を「真の同国人」であると考えるか?

世界平均では7割以上が「元軍人」を積極的に評価しているのに、唯一日本だけが過半数割れの32%という数字で、ここでも日本人の大多数(62%)が"Not sure"と言っている。ちょっと興味深いのがドイツで元軍人を否定的に見る人が16%にのぼっており、これは27か国中最高です。元軍人への評価が7割を切っているのもドイツ、日本とセルビアだけ。元軍人への評価が最も高いのはアメリカの86%です。

  • Q4: 自分自身のことを「真の同国人」であると考えるか?

自分が所属している国の一員であることをはっきり意識している人間がどの程度存在するのか?ということです。このグラフには入っていないけれど、ダントツが中国とインドで98%が"Yes"であると答えている。世界平均も8割を超える人が"Yes"なのですね。ここでは英国人と日本人、ドイツ人と韓国人がそれぞれ似たような傾向を示している。この質問に"No"と答えた人の割合が1割を超えるのはサウジアラビア(28%)、英国(17%)以外にスペイン、ドイツ、スウェーデン、ベルギーなどがある。

ここをクリックすると、この調査結果を詳しく見ることができます。それにしても日本人の答えはなぜこうも "Not sure" が多いのでしょうか?

▼殆ど100%の人間が「自分はこの国の人間だ」と感じている中国人やインド人と、6割程度という英国人や日本人との意識上のギャップはどこから来るのでしょうか?日本人や英国人の場合、自分は「XX人」である前に「自分」だという感覚が強いということでしょうか?

▼この調査の中に「国際コネクション」(international connections)という項目がある。調査対象になった人の海外との個人的コネクションについて調べているのですが、日本人の海外コネクションがかなり薄いことがわかります。日本人と韓国人の「外国コネクション」を比べると・・・

 外国との個人的コネクションの有無

▼アンケートの調査対象になった人物がたまたま外国との繋がりが薄かったのかもしれないけれど、外国との個人的なコネクションが全くないという人が81%もいるという点では日本はダントツの世界一です。このグラフに見る限り、日本人よりも韓国人の方がはるかに当たり前に外国と接しているように見えませんか?

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2)死刑囚の扱いに見る「日本」

7月12日付のThe Economistが、7月6日に行われたオウム真理教元幹部の死刑についてコラムで語っています。内容はほとんど日本のメディアで報道されているもので、日本人の読者には目新しいところはない。オウム事件そのものをよく知らない日本以外の読者のために書かれた記事なので、当たり前なのですが、それでも少しはコラムニストの感覚を反映した部分もあるので紹介します。このエッセイを書いたコラムニストは、1995年の地下鉄サリン事件の直後にオウムの信者に話を聞いたことがあり、その信者は麻原彰晃について次のように語ったのだそうです。
  • 麻原教祖は仏様のような人です。彼ほど他者の痛みを自分でも感じる人はいません。彼こそが人間の欲望によって引き起こされる痛みから逃れる術を伝授できるのです。
    The Master Asahara is like Buddha. He feels other people’s pain more than any other human being. He can teach you to escape from the pain that is caused by human desires.


オウム真理教は最盛時で日本国内だけで1万人を超える信者がおり、海外にはそれ以上いたのですが、浅原彰晃は誰が見てもインチキ山師(charlatan)であったのに、なぜ頭脳明晰な日本の若者をあれほど惹きつけることができたのか?日本の社会学者たちの中には、あの頃の日本社会が持っていた「空虚な物質中心主義」(empty materialism)と息が詰まりそうな画一主義(stifling conformity)によって若者が狂気に走ったのだと説明する者もいる。小説家の村上春樹氏は「現代の日本は麻原以上に意味のある言葉を伝えることができているのか?」と疑問を呈している。

ただ・・・The Economistのコラムは、オウム真理教のような存在は必ずしも日本特殊な現象ではない(not much uniquely Japanese)と言います。食べるものに苦労しないで済む程度に豊かになると、人間というものは「生きる意味」(meaning of life)などについて考えるようになり、そうなるとカリスマ的な教祖の言うことを鵜呑みにするようになる、というわけです。


カルト集団はどの国にだっており、立派な教育を受けた人間がなびいてしまうことはどこでも起こっている。信者を独房のようなところに閉じ込めて肉体的なしごきを加え、睡眠さえも許さないような状況に追い込むことで教祖の言うことに全く無抵抗な人間を作り上げる。1970年代のアメリカを席巻したジム・ジョーンズというキリスト教のカルト集団によって276人もの子供が命を落としているし、イスラム国のテロ集団は自らの仲間を溺死させたりしている。これまで何百年にわたって何人の人間がイエス・キリスト、アラー、ブッダの名のもとに殺されてきたことか。

カルト集団によるテロ事件は日本の専売特許ではないかもしれないけれど、オウム事件については極めて日本的(distinctively Japanese)な部分もある、とThe Economistは指摘します。それは警察・司法にまつわる諸々である、と。1995年の地下鉄サリン事件以前にもオウム真理教がさまざまな誘拐や殺人を犯していたにもかかわらず、警察の動きはあまりにも「慎重」(with kid gloves)だった。これはおそらく戦前の警察による宗教弾圧という経験によるものではないか。


が、霞が関(警察庁の所在地)で地下鉄サリン事件が起こるや、2500人もの警官が動員されてオウム真理教の支部などが強制的に捜索されたし、オウム関係者は自転車泥棒だの道路交通法違反などという罪ともいえない罪で逮捕された。教祖・麻原の居場所を突き止めるための行動であったわけですが、日本では被疑者は最長で23日間警察に拘置できることになっている。フランスでは最長2日間、英国は3日間、イタリアは1日(24時間)・・・のような例に比較すると余りにも長い。

さらに今回死刑が執行された7人については、刑執行までに23年もかかっている。The Economistが指摘するのは、オウム裁判については最初から結果が分かっていた(the outcome of his trial was never in doubt)にも拘わらず、麻原の場合は一審に7年間かかり、控訴審は2006年まで続き、さらに死刑執行までに12年もかけていることです。
  • 麻原は12年も死刑囚監房で過ごしたことになる。その間、毎朝のように今日は首つりにされるかもしれないと思いながら過ごしたということである。これが日本における被告人の扱い方なのだ。被告人が誰であれ、そのような扱いはされるべきではない。それは怪物としか思えない麻原のような人物でも同じである。
    He lingered another 12 years on death row, never knowing each morning whether he would be hanged that day. This is how Japan treats the condemned. It is not how anyone should be treated, not even a monster like Mr Asahara.
と、The Economistのエッセイは言っています。

▼オウム真理教ですが、AERAのサイトにあるお医者さんの話が出ています。この人は井上嘉浩元死刑囚にオウムに加わるように勧誘されたことがある。この人も井上元死刑囚も「灘高→東大」というエリートコースを歩んだのですが、彼に言わせると「オウム真理教事件は受験エリートの末路」なのだそうで、次のように書いています。
  • エリートは権威に弱い。権威の名前を出されると、そのことを知らない自分の無知をさらけ出すのが恥ずかしく思い、迎合しようとする。決して「わからない」とは言わない。私を含め当時の東京大学の学生が、オウム真理教に引きずられていたのは、このような背景があるのではなかろうか。挫折を知らない、真面目で優秀な学生だからこそ、引き込まれる。
▼むささびとは余りにも縁のない世界のハナシですが、日本の警察・司法当局の「エリート」の中にだってこのような人間はたくさんいるのでしょうね。日本で使われるカタカナの「エリート」は、せいぜい学校の勉強がよく出来て入学試験でもいい点数がとれる・・・という程度の人たちなのですよね。努力次第で誰でもなれる。ということはエリートでない人間は努力をしていない人間であり、その意味において「ダメ人間」ということになる。欧米のエリートは努力してなれるものではない。家柄なんだから。社会としてどちらが「まとも」(decent) なのか?

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3)結局、離脱はしない?まさか・・・



BREXIT白書

英国政府が7月12日にBREXITについてEUと交渉するにあたっての方針をまとめた「白書」(white paper)を発表したことは、日本のメディアでも伝えられていますよね。英国のEU離脱期限は2019年3月29日(金)の午後11時となっているけれど、メイさんとしてはBREXITを混乱なく迎えるためにも離脱後のEUとの関係についてEU側と交渉、できれば今年10月ごろまでに合意を実現させたい。その際の英国側の基本方針となるのがこの白書です。



メイ政権としてはこの白書をこれから議会に提案して議論することになるわけですが、白書の中身がメイさんが以前に主張していたものと違ってかなり「ソフト離脱」に傾いているというわけで、それに抗議する保守党内のハード離脱派からは大いに不満を買っており、ボリス・ジョンソン外相のように閣僚を辞任する者も出て来ている。

というわけで、7月12日付のThe Economistが、この白書をめぐる英国内の政治状況について社説で取り上げて「英国政治、いつものとおりの一週間」(Just another week in British politics)とため息をついたうえで「BREXITの新方針は新たなる混乱を生んでいる」(A new Brexit plan creates fresh depths of chaos)と厳しいことを言っている。書き出しからして辛口です。
  • 真に思慮深い政府ならば国民投票をする前にEU離脱の在り方について計画を立てていたはずだ。
    A REALLY sensible government would have drawn up a plan for how to leave the European Union before calling a referendum on whether to do so.
というわけですが、2016年6月に国民投票が行われてから2年も経過してから離脱計画を発表する・・・実際の離脱期限までの3年弱のほぼ4分の3が経過しているというのに。何を考えているんだ、というわけですね。


決定的な方針転換

今回の白書は(The Economistによると)メイさんのこれまでの離脱姿勢からの「決定的な方針転換」(decisive shift)を明らかにしている。かつてのメイ方針は「EU単一市場には属さない」、「労働力の自由な移動は許さない」、「外国の裁判官には従わない」などなど、あれもしない・これもしない調が目立ったのですが、白書では(例えば)EUとのモノ(goods)の輸出入について、単一市場に残ることをしないかわりにEUと英国の間に「自由貿易エリア」(free trade area)を設けることを提案している。EU・英国間の唯一の陸上国境であるアイルランドと北アイルランドの間が、離脱後は自由な行き来ができなくなるハードボーダーになってしまうことを防ごうという意図らしい。今さら「ハードボーダー」など作ろうものなら、かつての北アイルランド紛争の蒸し返しにも繋がりかねないのだから北アイルランドの人びとは全く望んでいない。そこで「自由貿易エリア」を北アイルランドとアイルランドの国境に置けば国境のハード化はなくなる。でも、そうなるとEUとの関税抜きの自由貿易を望む企業は何でもかんでも「自由貿易エリア」を通じてビジネスを行うことになる、つまり事実上の(in effect)単一市場への加入ではないか!?


またサービスについても「相互認識のための緩やかなシステム」(a looser system of mutual recognition for services)が提案されている。またメイ白書はEUが定めている環境基準、社会政策、国による福祉制度などについて英国が無視することはせずに、EUと英国の間に紛争解決のための制度(dispute-resolution mechanism)を設けるべきだとしている。これもこれまでの欧州裁判所とどう違うのか?さらにこれまでは離脱すると言っていた関税同盟(customs union)についても、新しい関税取り立て制度が出来るまでは加盟を続けるとしている。その新しい制度なんていつになったら出来るのか・・・?

産業界に気配り

この白書は、ハードBREXITのような急進的反EU姿勢が英国経済にもたらす影響について危惧するメイさんが産業界などに気を配った内容であるとされているのですが、The Economistによると、EU側は白書で言っていることをさらに進めた要求をしてくるのではないか。例えば「自由貿易圏」を設けたいのであれば、いっそのこと現在の単一市場に残ることを要求してくる可能性がある。ハード派に言わせれば、限りなくEUに近いBREXITでは、英国がこれから他国と貿易する際にEUに近いことが足かせになることもある。何のためのBREXITなんだということになる。


この白書のとおりになると英国とEUの関係は、現在のノルウェーとEUの関係に似てくる。EU加盟国ではないけれど単一市場へのアクセスは認められているので無関税でEU市場へ輸出できる。しかし単一市場へのアクセス確保のためにはEU側に金銭を払っている、なのにEU圏内における規制などの取り決めには加盟国ではないから参加できない。自分たち抜きで決められたことに従わなければならない。だったらいっそのことEU加盟国のままでいればいいではないかということになる。離脱反対派にしてみれば「ソフト離脱」だって「離脱」には違いないのだから自分たちの意に沿わない状態であることに違いはない。The Economistに言わせると「ソフト離脱」は「ハードよりはマシ」(less bad)という程度の意味しかない。

議会が否決したら・・・?

で、問題は国会がメイ白書を支持するかどうかです。国会議員の大半が(政党の如何を問わず)ソフト路線を望んでいる。国論をこれ以上の分裂に導くようなハード路線よりはソフトの方がマシということです。そうなると議員の中のハード派が新たな提案をするか、BREXITそのものを止めてしまえという方向に動くこともあり得る(とThe Economistは言っている)。


で、万一メイさんの白書が国会で否決されたらどうなるのか?And if Mrs May cannot win a Brexit vote?その場合に肝心なのはEU側が英国に対してさらに考える時間を与えることである、とThe Economistは言っている。さもないと一か八かのハード路線が息を吹き返さないとも限らない。でも時間を与えられたら?メイさんとしては「国民の意思を聞こう」ということになる。つまりこの問題を争点にして選挙をやるか、国民投票をもう一度やるか・・・。
  • (メイ政権による白書の提案で)一応「ソフト路線」のコースを設定したことは歓迎すべきことだ。が、そこへ到達するまでに大いなるでこぼこ道が待っているということだ。
    That Britain has at last set a course for a soft Brexit is welcome. Getting there will be a very rough crossing indeed.
とThe Economistは結んでいます。


▼あの国民投票で離脱に投票したことは英国にとって正しかったのか・間違っていたのか?上の世論調査は今年(2018年)5月20日現在のYouGovのものです。2016年6月に行われた国民投票から丸2年が過ぎた時点の「世論」です。「正しかった」と「間違っていた」がほぼ同じです。が、YouGovは昨年(2017年)の7月以後14回にわたって同じ質問の世論調査を行っているのに、EU離脱を選択したことを「正しかった」とする意見が上回ったことは一度もない。はっきりしているのは、離脱派の論客たちが目を輝かせるほどには英国の世論が離脱には傾いていないということです。

▼メイさんの「ソフト路線」ですが、常に「政治的妥協」を意識しながら暮らしている国会議員の間では、妥協の産物として受けがいいかもしれない。しかし上の世論調査において「離脱するべきではない」と考えている「44%」から見れば渋々受け入れるものでしかない。真っ二つに分裂した「世論」を背景にEU側との交渉に臨むのだから、メイさんの立場は決して恵まれたものとは言えない。となると、The Economistの言うように、選挙か国民投票のやり直しかのどちらかしかないかもしれない。ご記憶ですか?直近の選挙が行われたのは2017年6月だった。メイさんはもともと残留派だったのに、国民投票の結果を受けて離脱支持に方針転換した・・・なのに結局過半数が取れなかった。彼女の離脱論自体がグラグラ揺れていたからです。そして労働党が大幅に議席を増やした。その労働党だってBREXITに関しては一枚岩とはとても言えない。となると「国民の意思を問う」にしても選挙では難しい。となるとあの国民投票をもう一度ということになる。

▼要するにEU離脱が現在の英国が直面する最大の課題ではあるけれど、何をやっても決定的にどちらかが勝つということはない。決定的に離脱派が勝ったのであれば仕方ないけれど、あの国民投票のように「52%:48%」程度ではとても決定的とは言えない。もし国民投票をもう一度するのであれば、せめて6-4程度の差がでない限りは「現状維持」で行くと決めてからやるべきだと思いますね。あんな国民投票なんかしなければ良かった!?それより「EUに加盟などしなければ良かったのだ」と言いたくもなるけれど、それは第三者の野次馬的コメントです。ECに加盟したことで英国は「ヨーロッパをリードする国」というPRコピーが使えるようになったんですからね。離脱後のPRコピーは何?「独立精神に富んだグローバルパワー」ですか?

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4)どうでも英和辞書
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surname:苗字

7月10日付のBBCのサイトに
という記事が出ていましたね。「アメリカ人の母と娘の苗字が違うことで尋問を受けた」ということです。アメリカ・テキサス州のダラス空港でヨーロッパ旅行から帰国したシルビア・アコスタさんと15才になる娘のシボンヌ・カスティーヨさんが、入国の際に移民局で「親子なのに苗字が違うのは何故なのか?」と聞かれたのだそうです。移民局は「ただ聞いただけ」と言っているのですが、母親のシルビアさんは「あれは犯罪者扱いの尋問だった」とカンカンに怒っている。

アコスタさんは地元のYWCAの理事長さんを務めるなどする「名士」なのですが、これまで大学での博士号や職業上のキャリアを積みながら結婚前のアコスタという苗字で通してきたのであり、今さらそれを変えるつもりはないし、離婚した夫との間に生まれた娘についてもカスティーヨという苗字を変える必要もない・・・というわけで苗字の異なる母娘になっているというわけです。

BBCの記事によるとダラス空港の移民局がこの件について声明を発表しているのですが、「未成年と成年の親子連れの場合、時には関係を確かめる質問をすることもある」として悪気がなかったことを強調している。

surnameは"family name"とか"last name"と言う場合もありますよね。ここをクリックすると、思わず笑ってしまう「ヘンな苗字」がいろいろ出ています。英国人の名前なのですが日本人であるむささびにも分かるケッタイな苗字もある。"Grave"(墓場), "Stranger"(見知らぬ人),"Slow"(ゆっくり), "Onion"(玉ねぎ)等々。日本語で「墓場二郎」なんてありそうな気がするな。"Onion"もいい名前ですね。「たまねぎ二郎」というのはヘンだけど「オニオン二郎」ならボクシングなどにありそうだ。「青コーナー、ファイティング原田!、赤コーナー、オニオン・ジロー!」なんてカッコいいじゃん。

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5) むささびの鳴き声
▼BREXITやトランプ現象について常日頃からアタマにあることを少しだけ。現在欧米を覆っている怒りのポピュリズム(庶民感情)の矛先は「リベラル」と呼ばれるエリートたちに向けられているとされている。リベラル・エリートの代表格がThe Economistであるわけですよね。自由な経済システムとフェアな民主主義を追求していけば万人が豊かになる・・・と主張するリベラルたちが作り上げた社会からはじき出された(と思い込んでいる)庶民の怒り。それに便乗したのがトランプであり、BREXITERであるわけですが、この二者が何にもまして嫌っているのが「フェアな民主主義」です。彼らに言わせると、それはエリート官僚やジャーナリストたちが自分たちの支配を正当化するために思いついた「きれいごと」であり、個人の自由を束縛する社会主義的発想に過ぎない。

▼「フェアな民主主義社会」にも「負け組」は存在するのだからパラダイスではないことは確かなのですが、理念としてはコミュニティとか共同体のような社会を目指していることは間違いない。で、トランプやBREXITERが「理念として」目指している社会とはどのような社会なのか?それは官僚主義に毒されることなく、個人が自由に潜在能力を発揮できる社会です。サッチャー語録に必ず出てくる「この世に社会なんてものは存在しない」(There is no such thing as society)という言葉に代表される人間の在り方です。この世に存在するのは、一人一人の「個人」であり、「社会」なんてものはリベラル・エリートが思いついた幻想にすぎない。

▼むささび的に定義するならば「きれいごとは通用しない社会=人間の攻撃的本能に基づく強い者勝ち社会」・・・それがトランプやBREXITERが目指しているものです。EUも国連もIMFもWTOも・・・どれもこれもすべてリベラル人間たちが作りだした「きれいごと」に過ぎない。BREXITERたちが「俺たち、英国人なんだ、EUの指図なんか受けない、だろ?そうだろ?」と呼びかけたのに対して、庶民たちが「そうだ!」と応じてしまったのが2016年の国民投票であったわけです。不思議なのは人間の集団性のようなものを否定しながら、BREXITERもトランプも「国」という集団に対しては盲目的ともいえる信頼を寄せている。ただ庶民たちは、自分たちをつまはじきにするリベラル・エリートたちに反感を覚えはしても必ずしもBREXITERたち(彼らもエリート)の反EU感情を共有しているわけではない。


▼そのBREXITですが、あの国民投票をもう一度やったらどうなるのか?2016年の国民投票の数字を振り返ると、「離脱」に投票した人が約1740万人、「残留」に入れた人が1610万人だった。その差は約130万です。ただ、あの日、有権者でありながら投票しなかった人が1280万人いた。もし国民投票をもう一度行うとなった場合、この1280万人がどう動くのかがカギを握る。両派ともこの人たちにターゲットを絞ったキャンペーンをやると思うけれど、むささびの予想では文句なしに「残留」が勝つ。いろいろ理由はあるけれど、最大の要因はトランプです。英国の庶民の間でトランプは全く人気がない、というよりほとんどアホ扱いされている。残留派は前回投票しなかった1280万人にターゲットを絞ったCMで「BREXITはトランプに支持されている」と訴える。それだけで勝負は決まりということ。

▼一方、日本における「お利口さんエリート」はオウム真理教のどこに惹かれて入信、教祖の教えに従ったのか?そのことについてむささびの知識はゼロです。ただアエラのサイトに出ていた記事には、「権威に弱い」日本のエリートたちには「自分の無知をさらけ出すのが恥ずかしく思い、迎合しようとする」傾向があると出ている。つまりBREXITやトランプ現象を生んだ欧米の右翼エリートのような自己主張がない。ひたすら他人にバカにされたくないという哀しい被害者意識のようなものだけ?「どんな社会を作りたいのか?」と聞かれてもこれと言った答えはない。「どんな社会を作りたいのか?」と聞かれてもこれと言った答えはない。「教祖(首相・大臣)はこう言っています」と言うことには長けている。

▼最初に載せた「多様性」についての世論調査の記事によると、日本ではこのアンケート調査(オンライン)に対して"Not sure"(よく分かりません)と答える人の割合が異常に高かったのですよね。例えば「軍隊経験者は本当の日本人か?」と聞かれて62%が"Not sure"と答えている。そのような答えをする人は韓国では18%、世界平均でも20%しかいない。「あなたはEU離脱に賛成ですか?」と聞かれて"I'm not sure"と答えると、特に断らない限り「賛成ではない」と答えていると解釈される(とむささびは思う)。言った本人は文字通り「分からない」と言ったつもりなのに、です。でも日本人は何故どのような話題にも"Not sure"と言うのか?むささびはオウムの記事へのコメントで触れた「権威に弱いエリート」感覚と共通点があるように思えてならないわけよね。断定的な答えをして間違っていたら・・・ということへの恐怖心です。"Not sure"というのがそれなりに確信を以って答えているのであれば結構なのですが・・・。オウムの7人を一挙に死刑したことは正しかったと思うか、間違っていたと思うか?と聞かれて"Not sure"と答えるのであれば、何故YesでもNoでもなくて"Not sure"なのか?ということをきっちり説明しようとする態度が大事だと思う。

▼むささびを送らせてもらっている方々の中には中国地方の人もおいでです。この暑さの中で復興作業に取り組む被災地の人たちを想うと言葉もありません・・・。

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