musasabi journal

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403号 2018/8/5
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
まさかこんなことになろうとは・・・スペインで暮らす友人の英国人によると、彼の暮らしているアンダルシア地方の気温は午後6時で40.9Cだそうで、この週末は50Cに達するのではないかと言っています。「熱中症防止のために十分にエアコンを使いましょう」などとNHK(=気象庁)が呼びかけているのを聴いて腹が立ちました。エアコンを持っていない人はどうするんだよ、と怒鳴りたくなる。そして理不尽にも「そんなことより、暑さを何とかせんかい」と・・・。

目次

1)MJスライドショー:この親にしてこの子あり?
2)『現代版1984年』の気味悪さ
3)ホワイトハウスが公式動画を改ざん!?
4)孤独担当大臣が見る寂しい英国人
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)MJスライドショー:この親にしてこの子あり?

ウディー・ガスリー(Woody Guthrie 1912-1967)という名前を聞いたことあります?ガスリーはボブ・ディランのようなフォーク・シンガーの大先輩。ガスリーの名前を聞いたことがなくても、アメリカの代表的なフォークソングである "This land is your land" という歌は聞いたことがあるのでは?そのガスリーが作った歌に "Ain't Got No Home, Old Man Trump" というのがある。この歌にまつわる面白いストーリーが写真家集団、マグナムのサイトに出ていました。結論から言うと、タイトルの中にある"Old Man Trump"は、現在のアメリカ大統領であるドナルド・トランプの父親のフレッド・トランプ(Fred Trump)のことです。


若き日のトランプ(左)と父親

ガスリーが歌手活動をしていた1950年代、ニューヨークのブルックリンにあるビーチヘブン(Beach Haven)という高層住宅団地に住んでいたのですが、このアパート群の持ち主が不動産屋のフレッド・トランプだったわけです。 2700世帯が暮らす巨大住宅団地であったのですが、ガスリーが借りたころには黒人は住むことが許されていなかった。そのことを聞きつけて腹を立てたウディ・ガスリーが作ったのが ""Ain't Got No Home..." という歌だった。歌詞では "I ain't got no home in this world anymore..."(住む家がどこにもないのさ)というのと "No, no, Old Man Trump! Beach Haven ain't my home"(ビーチヘブンはオレの家なんかじゃないんだ、トランプじいさん)というフレーズが繰り返される。


と、このあたりのことを詳しく調べ上げたのが英国セントラル・ランカシャー大学のウィル・カウフマン教授(米文学)で、その結果をThe Conversationというサイトに詳しく掲載、トランプの父親による人種差別的なビジネスを告発している。それを読んだのがニューヨーク在住の写真家であるブルース・ギルデン(Bruce Gilden)で、フレッド・トランプが作ったとされるアパート群が現在どうなっているのかを調べに行った。


現在のBeach Havenについて、ギルデンは、ニューヨークにしては家賃も安くてクリーンではあるけれど、「自分のワイフなら絶対に住みたくないと言うだろうな」という印象を持った。ギルデンが会った住人の多くがロシアやウクライナからの移民だったのですが、ギルデンが強く感じたのが、この住宅団地を支配しているかのように思える「寂しさ」だった。住人同士が話をするということがほとんどないのだそうです。「話し相手がいるといいと思うけど・・・」(it feels good for them to have someone to talk to)というのがギルデンの印象だった。

▼マグナムのブルース・ギルデンが写した写真はここをクリックすると見ることができます。現在はこのアパートはトランプとは関係ありませんが、ギルデンの写真を見ていると、笑顔のものがゼロであることに気が付く。住宅団地を支配している「寂しさ」を象徴するような雰囲気なのですが、むささびは何故かトランプを支えている草の根の「庶民」が抱えているとされるエリートに対する怒りの底には世の中から忘れられたと感じている人間の寂しさがあるのではないかと思ったりもする。

このスライドショーのバックに流れている歌を作ったウディ・ガスリーは、戦争中の1944年に、代表作 "This land is your land" を発表している。ベトナム反戦運動が盛り上がっていた1960年代のアメリカでは大いに歌われていたのですが、いまはどうだか・・・。この歌のオリジナル版には次のような部分がある。
  • There was a big high wall there...
    The sign was painted, said ‘Private Property’.
    (アメリカの正面には高い壁があって、「私有地」と書いてあった)
▼ガスリーがこの歌を作ったのは、それまでのアメリカにおける国歌以外の愛国ソングとして有名だった(今でも有名)"God Bless America"(1918年)に反抗する気持ちからだったという説もある。この歌のニュアンスは次の部分で歌い尽くされている。
  • Let us swear allegiance to a land that’s free;
    Let us all be grateful for a land so fair.
    (自由の国に忠誠を誓おう、公正なる国に感謝しよう)
▼"This land..."が現在では余り聞かれなくなった(かもしれない)のに対して、"God Bless..."の方は大リーグやアメフトの試合会場などで必ず流されている。「荘厳」というよりも「狂信」を感じてしまうけれど、アメリカ人の中には感涙にむせぶ人もいる。ドナルド・トランプのアタマの中には「強いこと」への憧憬の念があり、"God Bless..."はそのような感覚の持ち主にはぴったりかもしれない。

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2)『現代版1984年』の気味悪さ

7月25日付のBBCのサイトにちょっと変わった記事が出ています。書いたのはBBCの北米担当編集長のジョン・ソぺル(Jon Sopel)という記者で見出しは次のようになっている。


「替わりの事実」というのは、当たり前の意味での客観的な事実とは別に存在している(とトランプの側近が発言して顰蹙を買った)「事実」(要するにウソ)のことですよね。ジョン・ソぺル記者はおそらくワシントンに滞在してアメリカ政府の取材を仕事にしているのだろうと思いますが、7月13日には訪英したトランプ大統領に同行してロンドンにおり、首相別邸(チェッカーズ)で開かれたトランプとメイ首相による共同記者会見に出席した。

BREXITを予想していた!?

会見の中でトランプがBREXITのことに触れながら「自分にはあの国民投票の結果が分かっていた(predicted the result)」として次のように発言した。
  • 私はBrexitの国民投票が行われたときターンベリーにあるゴルフ場の開所式のためにスコットランドにいたのですよ。報道陣も大勢いました。そこで言ったのですよ、Brexitは必ず起こるとね。皆さんも憶えていると思うけど、あれは国民投票の前の日だった。
    I happened to be in Scotland at Turnberry cutting a ribbon...I said Brexit -- this was the day before, you probably remember, I said Brexit is going to happen....
2016年6月22日に英国で行われたEU離脱か残留かをめぐる国民投票の前日(つまり6月21日)、トランプは自分が開発したゴルフ場のオープニングに出席するためにスコットランドにおり、EUをめぐる英国内の雰囲気を目の当たりにして「離脱派が勝つだろう」と思ったとのことだった。


2016年6月24日に行われたスコットランドのゴルフ場の開所式にて

トランプのこの発言を聞いたソペル記者は「えっ!?」と思った。彼はそのゴルフ場の開所式に参加するトランプに同行してスコットランドにいたのですが、彼の記憶と記録によるとトランプがスコットランドに到着したのは、国民投票の前日ではなく、その2日後の6月24日だった。

「大統領は正しい」

ソペル記者は心の中で「年寄りの記憶違いということもある、たいしたこっちゃない」と思いながらも、一応自分自身のツイッターで「大統領発言は事実と異なる」(the president was factually incorrect)という趣旨のメッセージを発信した。

するとある人物から、「大統領の言っていることは正しい。自分はあの時、大統領に同行してスコットランドにおり、それを証明する写真もある」(the president was right to say what he had said - and she had the photos to prove it)と言うメッセージがあったのだそうです。その人物は、ステファニー・グリシャム(Stephanie Grisham)という名前の女性で、現在は大統領夫人の広報担当者であるけれど、2016年6月の時点ではトランプ(まだ大統領候補者だった)の広報担当として、ソペル記者とも顔見知りの仲だった。

ソペル記者はステファニーにメッセージを送り、トランプが2016年6月24日付のツイッターで「いまスコットランドに着いたばかりだ」(just arrived in Scotland)と言っているではないかと反論した。ソペル記者によると、航空関係者からの情報で2016年にトランプの自家用機がスコットランドに到着したのが6月24日であることが確認されている。


「スコットランドに着いたばかりだ」とトランプが発信したツイッター。左下隅の日付が"10.21AM 24 Jun 2016"となっている。国民投票の2日後です。

ソペル記者はさらにステファニー・グリシャム自身が「いまスコットランドに到着したばかりだ」という2016年6月24日付のツイッターも発見した。ソペル記者は考える。
  • それにしても、なぜステファニーは(トランプの)ウソを弁護するようなことを言うのだろう?動機は何なのだろう?証拠まで出されているのだから単純に「自分の記憶違いだった、ごめん」(fair enough - my mistake)と言えば済むことなのに。
    But I struggle to fathom Steph's motives. Why did she go wading in to defend a lie? And why when the proof was provided that she was incorrect did she not just say "fair enough - my mistake".
ガスライティング現象?

そこで彼が思いつくのが「ガスライティング」(gaslighting)という心理学用語です。ウィキペディアでは
  • ガスライティング(gaslighting)は心理的虐待の一種であり、被害者にわざと誤った情報を提示し、被害者が自身の記憶、知覚、正気を疑うよう仕向ける手法。
と説明されている。むささびジャーナル310号でジョージ・オーウェルの「1984年」という小説について触れましたよね。主人公が無理やり「2+2=5」と思い込まされるような拷問を受ける、あの物語です。尋問官が指を4本立てて「何本あるかね?」と聞かれ「4本です」と答えると拷問が起こり、意に反して「5本だ」と認めるまでそれが続くというあのストーリーです。ソペル記者は自分があの小説の主人公になったような気分に襲われる。


これが「ガスライティング」

トランプにまつわるソペル記者の戸惑いはこれで終わらない。英国訪問から4日後、ヘルシンキで行われたトランプとプーチンの記者会見でも腑に落ちないことが起こるのですが、このことは次の記事で紹介します。

▼『現代版1984年』は確かに気持ち悪いけれど、それよりトランプのツイッターの中身の方が気持ち悪い。「英国人はついに自分たちの国を取り戻したのだ」(They took their country back)と大喜びなのですからね。BREXITERSもトランプも「自分たちの国」を誰から取り戻したと言っているのか?彼らがこぶしを振り上げて守ることを叫んでいる「英国」だの「アメリカ」だのというのはどのような国だというのか?もう一つ、この記事がBBCのスタッフが書き、BBCという公共機関のサイトに掲載されたという事実も忘れられない。このような報道があってこそ「公共」の支持を得るのではありませんか?

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3)ホワイトハウスが公式動画を改ざん!?


7月13日にロンドンでトランプとメイ首相による会見に出席したBBCのジョン・ソペル北米編集長は、4日後の7月17日、ヘルシンキでトランプとプーチンが行った記者会見にも出席したのですが、そこでもまた腑に落ちない経験をすることになる。と言っても今度は自分自身のハナシではない。



この記者会見でロイター通信のジェフ・メイソンという記者とプーチンの間で次のような質疑応答が行われた。
  • メイソン記者:プーチン大統領、あなたはトランプ大統領が選挙で勝利することを望みましたか?また、トランプ勝利のためにあなたは自分の政府関係者に命令したことはありますか?
    Jeff Mason: President Putin, did you want President Trump to win the election and did you direct any of your officials to help him do that?
  • プーチン:はい、しました。はい、しました。なぜなら彼(トランプのこと)が米ロ関係の正常化を訴えていたから。
    PUTIN: Yes, I did. Yes, I did. Because he talked about bringing the US/Russia relationship back to normal.


ホワイトハウスのサイトにこの記者会見における質疑応答がそのまま記録されているのですが、ソペル記者によると、メイソン記者とプーチンのやり取りの部分だけが削除されているのだそうです。このままだと、2016年の米大統領選にロシアが政府ごと関与したことをプーチンが認めたことになってしまいますよね。プーチンは"Yes, I did"を2回繰り返している。そのまま読むと記者が発した2つの質問の両方に"Yes, I did"と答えたとしか思えない。つまりトランプの勝利を願うと同時にロシア政府関係者を使ってそれを助けた・・・。「これ(この質疑応答が消えていること)は単なるタイプ上のミスだったのか?」(Just a clerical transcription error?) とソペル記者は書いている。ホワイトハウスの意図的な削除だったのではないかと疑ってもいるわけです。


7月24日付のツイッターでトランプは「自分以上にロシアと厳しい戦いをしている大統領は他にいない。ロシアが応援しているのは民主党だ」という趣旨のメッセージを掲載している。ヘルシンキで言ったこととは全く違う。ソペル記者はさらに、トランプがかつてアメリカ国内で行った演説の中で「皆さんがテレビで見たり、新聞で読んだりしていることと、実際に起こっていることはまるで違うんですよ」(Just remember, what you are seeing and what you are reading is not what's happening)と述べたことに触れて、次のように書いている。
  • 確かにそうかもしれないが、時として感じるのは、国民のアタマの中を変えてしまうためにあらゆるシステムを駆使した努力が行われているのではないか、ということだ。そうなると「替わりの事実」などというものではない。(トランプのやっていることは)歴史の書換えではないか。
    Or it is. There is just a concerted - and sometimes it would seem - systematic effort to make you think otherwise. Forget alternative facts. This is rewriting history.
正に暗黒小説「1984年」そのものではないか(lifted straight from George Orwell's dystopian novel, 1984)というわけであります。

▼ロイター通信の記者とプーチンのやりとりの部分ですが、むささびが7月28日にチェックしたホワイトハウスのサイトでは、この部分がそのまま掲載されています。削除はされていない。ただソペル記者の言っていることは他のメディアでも言われている。7月17日付のThe Atlantic誌のサイトも同じことを言っています。つまりいったん削除したものをメディアにばれてしまって復活させたということも考えられる(というかそれしか考えられない)。

▼それより気になるのは、(The Atlantic誌が指摘しているのですが)ホワイトハウスが主宰するYoutubeにおけるこの記者会見の動画です。それを見ると、確かにソペル記者の言うとおり、ロイターの記者の二つの質問のうち最初のものは削除されており、二つ目の質問だけが残っている。ここをクリックすると、その場面が出てくるのですが、場面を1~2秒前に戻して見ると、プーチンが「2016年の米大統領選に絡んでロシアのビジネスマンが違法ルートを通じて民主党を援護したかもしれないという疑惑を調査中である」という趣旨のことを述べている。その発言の直後にロイターの記者が"Did you direct any of your officials to help him do that?"と質問したかのようになっている。つまりヒラリー・クリントンへの違法献金を調査するについて「ロシアの政府関係者(your officials)に命令したか?」と質問しているかのように思えてしまう。記者が質問したのは、「トランプが勝つためにロシアの政府関係者を動かしたことはあるのか?」ということだったのに、です。そして動画上にはプーチンの「はい、やりました・はい、やりました」の答えだけが残ってしまった。

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4)孤独担当大臣が見る寂しい英国人

7月27日付のThe Economistに "Loneliness is not just a problem for the elderly" (孤独は高齢者だけの問題ではない)という記事が掲載されています。今年の1月、英国に「孤独担当大臣」(Minister for Loneliness)なるものが誕生したことはむささびジャーナル390号で紹介されています。The Economistの記事は初代の孤独担当大臣に就任したトレーシー・クラウチ(Tracey Crouch42才・女性)との会話をまとめたものです。この雑誌にしては珍しく記事には筆者の名前(マギー・ファーガソン Maggie Fergusson)が入っています。この人はThe Economistが出している別の雑誌のライフスタイル担当エディターを務めているようであります。


「テレビだけがお友だち」


大臣に就任したての頃、クラウチが発したのは「問題のあまりの大きさに圧倒される」( I feel quite overwhelmed by the enormous scale of it)という言葉だった。そのことは統計局(Office for National Statistics: ONS)の統計を見てもわかる。英国には他の人間に一切会うことなく1週間過ごす人が約50万人おり、その半数が75才以上の人間であり自分の状態について「ひどく孤独」(chronically lonely)であると表現している。さらに英国の高齢者の5分の2が「テレビが主なるお友だち」(main company)であるとしている。推計によると英国では2040年までに75才以上の人口が現在の2倍、100万人を超える。

英国統計局(Office for National Statistics)が2016年~2017年に成人を対象に行った調査結果です。数字はパーセンテージ。最も頻繁に孤独を感じる人たちには3つのタイプがある。「独居高齢者で健康に問題がある人」、「未婚の中年で健康に問題がある人」、そして「若い世代の間借り生活者で隣近所に馴染めないと感じている人」だそうです。
孤独を感じるのは高齢者に限ったことではない。チャイルドラインというNPOによると、6才の子供が「寂しさ」を訴えて電話をしてくるケースもある。若者が孤独を感じる最大の原因はソシアル・メディアなのだそうです。SNSを通じて知り合った「友だち」(virtual friends)と自分を比較して、自分は劣っている(do not measure up)と感じて落ち込んでしまうのだそうです。

凶悪犯の孤独

今年の5月、ある刑務所で72才になる受刑者が死んだ。25年間におよぶ刑務所暮らしの末だった。彼は12人もの若い男性を殺害して死体を切り刻んで床下に埋めたりするという凶悪犯だったのですが、刑務所にいるときには「絶対に釈放はしないでくれ」というのが口癖だったのだそうです。この人物は子供のころから母親の手におえない乱暴者だったらしいのですが、生前の彼と文通を続け、現在は伝記を書いているという人物が彼から受け取った手紙によると「孤独は自分にとって長くて耐えがたい苦痛」(Loneliness is a long, unbearable pain)だったとして、次のように書き記している。
  • 自分の生涯において、大切なことを成し遂げたということはないし、誰かを助けたということもない。毎日、多くの人びとと接しているのに自分の中では全くの独りだった。
    I felt that I had achieved nothing of importance or of help to anyone in my entire life...I was in daily contact with so many people but quite alone in myself.
そのような孤独に耐えかねて、若い男を自宅に呼んで食事を一緒にしてベッドをもともにするなかで一人一人殺害していった。そして死体を自分の横に置いてリビングルームでテレビを見たり、酒を飲んだりしていたとのことで、彼自身の言葉を借りるならばまさに「仲間欲しさの殺人」(killing for company)だった。


両親が「話し相手」の89才


クラウチ孤独担当大臣によると、「孤独担当」という彼女のポストには日本、ノルウェー、スウェーデンのような国から問い合わせが相次いでいるのだそうで、孤独が今やグローバルな問題であることが明らかになっているとのこと。ただどの国でも「孤独」を語ることがタブーのように扱われることが多いので、孤独人間の存在を突き止めることがタイヘンなのだそうです。特に若者の場合、成長の過渡期にあるので捉えにくいし、パートナーとの人間関係がうまくいかなくて孤独に陥るというのを突き止めるのが難しい。彼らは「独り」ではないということが多く、孤独に見えない。

高齢者の場合は孤独者を発見するのは比較的容易なのですが、彼らの問題点は誰も自分のことなど気にかけてくれないと思い込むことが多いということ。89才になるフローラという女性の希望は、自分についての本を出版することで、タイトルまで決まっている。"Nobody’s Priority" というのですが、日本語にすると「誰にとってもどうでもいい自分」というような意味になる。彼女が最も恐れているのは、自分が倒れても誰にも気づかれず、そのまま死んでしまうということ。
  • 夜中に目を覚ますことがある。誰も話し相手はいない。仕方ないから両親と話をするの。死んでからもうずいぶん経つんだけどね。
    I wake up in the night, but there’s nobody to call, so I talk to my parents. They’ve been dead for years.
と語ります。


「マインドフルネス」の薦め

フローラのような高齢者が、自分に取りついたような寂しさ(eviscerating loneliness)を克服して「居心地のいい独り身」(comfortable solitude)を楽しむなんてことが、自分の力だけで出来るのだろうか?という素朴な疑問に対してクラウチ大臣が語るのは「マインドフルネス」(mindfulness)という精神状態のことだった。ウィキペディアによると「マインドフルネス」は次のように説明されている。
  • マインドフルネスは、今現在において起こっている経験に注意を向ける心理的な過程
  • 今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること
実はクラウチ大臣本人が「マインドフルネス」を実践しており、「孤独省」の中にもマインドフルネスのクラスがある。大臣によると、マインドフルネスは子供のころから身に着けるべき心の状態なのだそうです。

「・・・でないと死んでしまう」

おそらくフローラのような人びとにとっては「新しい心の在り方」を身につけるのは難しいし、彼ら・彼女らが抱える「孤独感」は政府というよりももっと草の根レベルで取り組まれるべきなのだろう。つまり孤独だの寂しさのような問題は政治家にお任せするようなものではないのではないか・・・というわけで、マギー・ファーガソンは「孤独問題の解決のカギは、私たち自身が毎日の生活の中で寂しい人(たった一人でもいい)のための空間を用意するということにあるのだろう」としたうえでW・H・オーデン(W.H Auden 1907~1973)という詩人による
  • We must love one another or die.
    私たちは愛し合わなければならない。でないと死んでしまうのだ。
という言葉で記事を結んでいます。

▼亡くなった両親だけが話し相手という89才のフローラが書きたい本のタイトルが "Nobody’s Priority" というのは素晴らしくも率直であります。誰にとっても大切でない自分・・・「自分のことを大切に想う人なんてこの世にはいない」、「世の中から忘れらた存在」という意味ですよね。自慢ではありませんが、むささびジャーナルの発行の動機は、文章を書くことが趣味・道楽ということもあったけれど、もっと切実な理由として「世の中から忘れられたくない」ということがあったし今でもそれは変わらない。"Nobody’s Priority"という感覚は年を重ねると誰でも感じる「寂しさ」なのであろうと思うけれど、実際には"Nobody"ということはない。何故なら最後には「自分」という"Priority"が残りますからね。

▼若者が孤独を感じる最大の原因はソシアル・メディア・・・むささびも登録しているフェイスブックを見ていると、誰も彼もが毎日の「楽しい出来事」ばかりを報告している。"My life is full of happiness"の大合唱なのよね。むささびの感覚によると、これは極めてアメリカ的な文化です。"Are you happy?" と聞かれて"Yes, more or less"なんて答えようものなら「ヘンなヤツ」と思われて "See you later" でお終い。ハッピーでない人間はダメ人間である、と。

▼クラウチ孤独大臣ですが、42才ですよ!そんな若いヤツに年寄りの気持ちなど分かりっこない、なんてことは絶対に言いません、むささびは。分からないのが当たり前なんだから。ただその42才が始めたというマインドフルネスなるものには興味がないでもない。とらわれのない状態で、ただ観る姿勢、これがSNSには欠けているのよね。

▼むささびでは2年前(2016年)の1月に「さびしさの時代」という特集をやっています。参考までに・・・。

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5) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 
 

binomial pair:2項イディオム

「2項イディオム」などと言われて直ぐに意味が分かる人なんています?二つの言葉をコンビで使った慣用句のこと。実は日常生活でけっこう使っている。「一か八か」「白黒(をつける)」「浮き沈み」「長短」等々。英語のbinomial pairにも実にいろいろありますね。「白黒(をつける)」は"black or white"だし、音楽の“rock n’ roll”も binomial pairです。
  • Safe and sound:安全・安心
    「うちの子、どうなってるんだろ?」と心配する親に対して "There he is, safe and sound in his bed" と言ったりする。safeだけでもいいのですが、安全であることを強調して安心させたいときに使います。建築物が安全であることを強調する場合にも使える。"Your house is now safe and sound, so you can move in anytime"とか。

    Peace and quiet:平穏・静寂
    都会の騒音や仕事のストレスから逃れて静かな生活をしたい場合、"I want to escape from the life of big town to enjoy a peace and quiet life of the countryside"となる。言語学者の調査によると "peace and quiet" というフレーズとともに最も頻繁に使われる動詞が "want"と"look for" なのだそうです。 つまり「平穏・静寂」は自ら求めて初めて得られるものだってこと。

  • Down and out:にっちもさっちも行かない、お手上げ状態
    何をやってもうまく行かないときによく使いますよね。"I have no money, no friend, no home, no nothing. I'm really down and out"というわけ。ボクシングのダウンと野球のアウトが同時に起こること?

    Pros and cons:善し悪し
    何事にも良い点と悪い点がある、決める前にいろいろ考えた方がよろしい・・・という助言を与えるときに "Think about pros and cons" と言ったりする。
ちなみに日本語の「一か八か」を英訳すると "make or break" となり、「人生の浮き沈み」は "ups and downs" となる。似てますよね。ここをクリックすると面白い例が出ています。
 

6)むささびの鳴き声 
▼いきなりですが、最初の「スライドショー」のバックに流れているウェスタン調のフォークソングの響きが、むささびのような世代にはたまらないのよね。歌い出しの歌詞からして素晴らしい。
  • I ain't got no home, I'm just a-roamin' 'round,
    Just a wandrin' worker, I go from town to town.
    And the police make it hard wherever I may go
    And I ain't got no home in this world anymore.
▼決まった仕事もなく、ウロウロしながら生きている男の呟きですな。"I ain't got no home"という二重否定はブルース調のカントリーソングの典型ですよね。"I ain't got no home, no friend, no money, no nothing..."と、これもアメリカなのですよ。むささびが愛してやまなかったアメリカであります。是非聞いてやってつかあさい。

▼このむささびのイントロで、気象庁の熱中症防止対策(水分をこまめにとって云々)を繰り返すNHKに腹が立つと八つ当たりしましたが、むささびが暮らしている埼玉県飯能市の場合、この種の「対策」を市の拡声器を通じて市民に呼びかけています。まず「ピンポ~ン」とチャイムが鳴って「こちらは防災飯能です」ときて「水分をこまめに」となるわけです。せめて市くらいはもう少し「実のある対策」をしてほしいわけよ。例えばエアコンのない人向けに「図書館のロビーが結構涼しいですよ~」とか。市役所の受付エリアなんてそれなりに涼しいんでないの?

▼そんなこと言ったら図書館や市役所に避暑客が押し寄せて困るではないか・・・というのをお役所的発想というの。困るかどうかやってみたら?と言いたいわけ。やってみて大混雑になったら「すみません、もう止めます」と言えばいい。でしょ?

▼その飯能市の拡声器ですが、毎日夕方になると「夕焼け小焼け」のメロディーを流します。以前にもお見せしたのですが、そのメロディーに合わせて歌いたくなるのがウチのワンちゃんです。先日もクソ暑い中でやっていました。

▼熱波ですが、朝鮮半島もかなり厳しいらしいですね。BBCのニュースを読んでいたらソウルで39度、平壌で37.8度を記録したのだとか。韓国では死者が28人出ているし、北朝鮮では農作物への影響を最小限にとどめるように総動員体制の臨むことが叫ばれているとのことです。北朝鮮は1994~1998年、数十万人が餓死したとされる大飢饉を経験している。ただ何故かBBCのサイトには北朝鮮については暑さが故の死者については出ていません。

▼この暑さのせいでしょうか、一昨日の夜、ベッドに横になったら虫の音が聞こえました。8月になったばかりですよ。埼玉県の山奥ではひぐらし・ミンミンぜみ・アブラぜみ・ツクツクボウシが一緒に鳴き、それに加えてホトトギスと(なんと)ウグイスの声も聞こえます。これらが一斉に声を出した状態を想像してください。実に賑やかです。

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