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411号 2018/11/25
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BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
最近になってようやくBREXITをめぐるゴタゴタが日本のメディアでも報じられるようになりました。2016年6月の国民投票以来、英国のメディアは、殆どこれ以外に話題がないという感じだったのですが、実際には何がどうなっているのか、さっぱり分からないという状態だった(とむささびには見えた)。理由は簡単で、政治色を鮮明にすることで売っている新聞メディアが、それぞれに自説をがなり立てて相手を攻撃することに終始してきたから。うるさい割にはお互いが何を言っているのか、読者にはいまいち分からない。

で、このほど英国とEUの間で、英国の離脱のあり方についての「暫定合意案」なるものが出来たのを機に、むささびも最善を尽くして「いまどうなっているのか?」(where it stands)をまとめてみました。最初から白旗を上げるようで情けないけれど、この特集がどの程度皆さまにとって価値のあるものなのか、全く自信はありません。が、あまり多くない脳みそを最大限に使ったことだけはホントです。

目次

1)暫定合意案:名案? 迷案? メイ案?
2)どうなる北アイルランド
3)下院における喧々諤々
4)これからの道筋は?
5)で、民意は?
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声

むささび俳壇

1)暫定合意案:名案? 迷案? メイ案?

11月16日付の日本経済新聞のサイトが「英政局、離脱案混迷に拍車」という記事を載せています。先週の水曜日(11月14日)にEUとの間で交わした「英国のEU離脱に関する暫定合意案」(Draft Agreement on the Withdrawal)なるものをめぐる喧々諤々について解説しているのですが、この文書(585ページ)の中身についてはいまいち詳しく書かれていない。それは日経に限ったことではなく、英国のメディア報道も似たような感じであることに不満を募らせていたところ11月16日付のBBCのサイトが「BREXITの現状報告」(Brexit: A guide to where we are)という記事を載せていました。この記事を頼りに何がどうなっているのかを探ってみました。


何度も言うようですが、国民投票の結果、EUを離脱しようという「国民の意思」(people's will)なるものが示されたのが2016年6月23日、自らは「残留」を期待して国民投票を呼び掛けたキャメロン首相(当時)が辞職(7月13日)、国民投票から約1年後の2017年6月8日に行われた選挙でティリーザ・メイ率いる保守党が勝ってメイ政権が誕生した。ティリーザ・メイはキャメロン内閣で内務大臣であった頃に行われた国民投票では「残留」に投票したけれど、首相としては国民投票の結果を尊重してEU離脱を実現すると言明した・・・というのが、この約2年間のおさらいですよね。

英国はどんなことがあっても2019年3月29日(金)午後11時(日本時間で3月30日午前8時)をもってEUを離れることになっており、現在その離脱のあり方を巡ってEU側と協議を重ねているのですが、先週の水曜日(11月14日)にEUとの間で「暫定合意案」を交わすところまでこぎ着けた。そしてこの暫定合意案は延々5時間に及ぶ喧々諤々の閣議において了承されたのですが、その結果としてこの案に反対する二人の閣僚(両方ともどちらかというと強硬離脱派)が辞任するなど、正に日経の記事が言うように「離脱案混迷に拍車」という状態になっている。この暫定合意案は、英国では下院の承認を得なければならないし、EU側では加盟国すべての了承を得なければならない。BBCのサイトによると、この合意文書の重要なポイントは3つある。


①手切れ金390億ポンド
EUを離れるにあたって、英国がEUに対する財政上の負担金として少なくとも390億ポンド(約5兆6000億円)を支払う。"divorce bill"と呼ばれるお金で一種の手切れ金なのですが、次に述べる「移行期間」中も行なわなければならない財政負担の金額です。

②移行期間
2019年3月29日の離脱後、21か月間を移行期間(transition period)とする。これは英国の離脱に伴う諸々の変化・変更に対処する体制を整えるための準備期間です。但しこの21か月間、英国は現在のEUが持つ規則に従うものとする・・・ということは2019年3月29日をもってEU加盟国ではなくなった英国ですが、この21か月間はEU加盟国としての義務を果たさなければならないということになる。例えば欧州裁判所(European Court of Justice)の判決には従わなければならないし、裁判所以外のEUの機関が決める規則の類には英国も従わなければならず、一方でその間にEUが行なう諸々の決定には参加できない・・・と。しかも移行期間は2019年3月29日から数えて21か月だから、2020年12月をもって終了する・・・が、移行期間は一度だけ延長することができる。その延長期間の長さについては決まっていない。

③居住権の保障
英国におけるEU加盟国の国民、EU加盟国における英国人の居住権を保障する。英国内で暮らすEU加盟国の国籍保持者、EU加盟国で暮らす英国人の居住権(residency rights)は離脱後も保障する。つまり居住権については現在と変わらないというわけですが、例えばEUのある国で働いている英国人は、離脱後も国境を越えて仕事を探したりすることは許されるのか?などという点についてははっきりしていない。

この合意文書で述べられていることは、双方にとって法的拘束力があるのですが、産業界にとっては肝心な事柄である英国とEUの貿易関係のあり方について具体的には触れられていない。はっきりしているのは、貿易関係については、2番目に述べた「移行期間」の中で検討されることになっている。BREXIT計画にとってもう一つの難しいポイントである北アイルランドの国境問題については別の記事で紹介しますが、結論から言うと、この問題もまた具体的なことは「移行期間」の中で決めるというわけで、先送りした形になっています。

▼BBCの記事は何回読んでも、いまいち雲をつかむような内容なのですが、585ページにもおよぶ文書の内容が明らかになったのが11月14日、この記事はその2日後に掲載されている。少々記事内容があいまいになってもしゃあないってことかもね。ただ・・・それにして貿易関係も北アイルランド問題も「移行期間」に先送りされ、しかもそれが延長可能である、と。そうなるとEUとの縁がなかなか切れず、しかもその期間中はすべてEUの言いなり・・・強硬派が怒るのも無理ないよね。

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2) どうなる北アイルランド

暫定合意案が出来上がるまでの最大の難関は北アイルランドとアイルランド共和国(EU加盟国)との間の国境をどうするのかということだった。確認しておくと、現在の国境はアイルランドが対英独立戦争の結果、南と北に分かれた1922年に作られたものです。最初のうちは南も北も英国領内だったのですが、第二次大戦後に南がアイルランド共和国という国家として誕生した時点で単なる境目ではなくて国と国とを分ける「国境」となったわけです。



それからいろいろあって・・・アイルランドも英国もEUの加盟国としてモノも人間も殆ど自由に往来してきた。国境は存在しても事実上はないのと同じだった。そこで英国がEUの加盟国でなくなった後にこの「国境」はどうなるのかということが問題となっていたわけですが、EUも英国も、「厳重な意味での国境」(hard border)の復活だけは避けようということでは一致していた。でもどうやってそれを避けることができるというのか?11月15日付のThe Economistに出ていた記事を参考に考えてみます。

いわゆる「ハードボーダー」を避けるためにEU側が提案したのは、英国のEU離脱後も北アイルランドが「一時的に」EUの関税同盟に残るということだった。つまり英国の中で北アイルランドだけが別扱いで、関税に関する限りEU加盟国扱いされるということになる。これだと現状維持が可能になる。しかし(例えば)イングランドから北アイルランドにモノを売る場合、加盟国ではない英国から加盟国扱いされている北アイルランドに「輸出」することになり、当然それなりの関税がかかることになる。すなわち殆ど「あってなきがごとし」とはいえ、現在は陸上に存在する「国境」に代わって、英国とアイルランド島(北アイルランドも含む)の間に横たわるアイルランド海峡(Irish Sea)のどこかに関税のための国境(customs border)を作るというハナシになってしまう。


が、それは英国の中の一地方である北アイルランドが海の向こう側に存在することになるので、北アイルランド政府の与党である民主連合党(DUP)が賛成するはずがない。この党は北アイルランドは英国の一部であることを党是として存在しているのだから。しかもDUPはメイ政権にとっては連立の相手でもあり、この案はメイさんにとってものめるはずがない。

というわけで双方が歩み寄る形で決着したのが、英国のEU離脱後に何らかの適切な代替案が出てくるまでは、英国全体がEUとの間に作る関税同盟に残るというセンだった。"To keep the whole United Kingdom in a customs union with the EU until an alternative is found"というわけです。これには強硬派が猛反発している。"until an alternative is found"(何らかの代替案が見つかるまで)とはいつまでのことを言うのか?予め時期を決めておかない限り、英国は永久にEUの関税同盟に縛られることになり、それが(EUから離脱している国であるはずの)英国が第三国と貿易をする際の足かせになるということです。


もう一つ、離脱したはずの英国との間に関税同盟を持つということに対する他のEU加盟国による猜疑心がある。英国がEUとの間の関税同盟に参加したいのなら、関税以外の様々なEUの規制や規則をも守ることを要求すべきなのではないか、と。さもないと英国はEUとの「摩擦なき貿易」(frictionless trade)の名の下に規則に縛られずにやりたい放題ができることになる。EU側の考えでは、離脱後の英国は規則を作る立場(rule-maker)ではなく規則を守る立場(rule-taker)になるのだから、勝手なことはさせない・・・というわけです。

▼このThe Economistの記事ではいまいちよく分からないのが、いわゆる「強硬離脱」を叫ぶ保守党右派の人たちが北アイルランドとアイルランドの間の国境問題をどうしようとしているのか?ということです。それから現在のメイ政権の連立相手である北アイルランドの民主連合党(DUP)のスタンスもよく分からない。強硬派はEUとの交渉だの合意だのは要らない、とにかく別れよう、と言っているのですが、そうなるとこの国境がかつての「ハードボーダー」に逆戻りせざるを得なくなる。強硬派は「それでもいいじゃん」と言っているのか?

▼それからDUPはどうなのか?この党は北アイルランドが英国の一部という主張に自分たちの存在証明をかけているような党だからロンドンの保守党右派には心情的には近いはず。でも国境問題は?昨日(11月24日)付のBBCのサイトにDUPのアーリーン・フォスター党首(女性)とのインタビューが出ているのですが、その中で彼女は、ハードボーダーへの逆戻りを阻止しようとするEUやメイ政権の努力についてこれを「時間の無駄」とまで言っている。つまり「逆戻りして構わない」と言っているとしか思えない。

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3) 下院における喧々諤々

BREXITをめぐって分断と混乱が続く英国ですが、にもかかわらず英国という国に対する信頼感のようなものは余り低くなっていないと感じる。何故か?おそらくあの国では分断も混乱もそのままあけすけに公開されてしまっているということなのではないかと思うわけです。その典型として紹介しておきたいのが、暫定合意案に関して11月14日に行われた下院におけるメイ首相と議員の間のやりとりです。

まずは労働党のジェレミー・コービン党首との議論から。

コービン党首:2年にも及ぶドジな交渉の挙句、この合意案です。失敗作そのもの。これではBrexitにもならないし、約束違反も..

と、ここで議場がヤジに包まれてコービンも話が続けられない。ついにジョン・バーコウ議長が割って入る。

静かに聞きなさい!
バーコウ議長
:静粛に。何度でも言いますがね、お互いに相手の言うことは聞かなきゃダメですよ。それと本日は見学者席に外国からのお客さんも見えているんです。その人たちにこの議会が単にイキイキしているだけじゃなくて、紳士的な場所なんだってことを見せようじゃありませんか。Let us try to impress them not merely with our liveliness, but with our courtesy.

合意案は穴だらけだ
コービン:政府の合意案なるものは、首相自身が考えていたものを逸脱しているし、英国人に職場を提供するようなものでもない。いわゆる強硬派は自分たちの主張などマジメ考えてはいない。首相はそれでも我々に選択を迫るんですか?一方は穴だらけの合意案、もう一方は合意など要らない(no deal)という選択じゃありませんか。Does the Prime Minister still intend to put a false choice to Parliament between her botched deal and no deal?

あんたこそ間違ってる
メイ首相:あの方(コービンのこと)の言うことは前提からして誤っています。The right hon. Gentleman is wrong in the description that he has set out. 彼はこの下院において何度も何度も立ち上がって「政府のやることには何も進展がない、EUとの合意なんて全くできっこない」などと言ってきたのですよ。で、今度は我々(政府)がEUとの合意に近くなったことについて文句を言っているんです。それを見ても分かるじゃありませんか、あの人や労働党が考えていることはただ一つ、BREXITの邪魔をして国民投票の結果を無視しようということに決まっているじゃありませんか。He and the Labour party have only one intention, which is to frustrate Brexit and betray the vote of the British people.

次にコービンのあとに質問に立ったのはピーター・ボーンという保守党の議員です。メイさんは保守党党首です。

保守党も支持しない?
ピーター・ボーン:メディア報道によると、あなたは国民が期待するようなBREXITを実現しようとしていない。それが事実だとするとあなたは保守党議員は勿論のこと、何百万・何千万という有権者の支持も失うことになります。

首相が立ち上がって答えようとするけれど議場がヤジに包まれてしまう。そこで再び議長の登場。

鎮静剤でものんだら?
議長:静粛に!みんな気を静める薬でものんだらどうです?I have often advised taking some sort of soothing medicament. 気分が良くなりますよ。私は首相の言うことを聞きたいし、皆さんも同じですよね。首相、どうぞ。

英国のためになるんです!
メイ首相
:これまでEUと交渉してきているのは、正に英国民が投票したあのBREXITを実現するためじゃありませんか。合意案には国境管理の厳重化のような事柄が含まれているじゃありませんか。国民投票で示された国民の意思を実現しようとしているのですよ。What we are doing is a deal that delivers on that vote. そうすれば雇用も守れるし、英国の尊厳も維持できるし、この国の人びとを守ることもできるんですよ・・・。

この日は午前11時33分に始まって終わったのは午後5時58分だった。ヤジもすごいし、それを止める議長の "Order!" という声もすごい。これはPrime Minister's Question (PMQ) と呼ばれる質疑で、下院議員は誰でも首相に対して質問をぶつけることができる。質問も質問者も予め決められているのですが、質問をする議員にとっては政治家としての晴れ舞台に立ったような気分になるだけでなく、地元の選挙民に対する広報活動にもなる。

ここをクリックすると、上記も含めた質疑応答の一部始終を動画で見ることができます。なおこの日本語はむささびによる超はしょり訳ですが、議事録(Hansard)を見ればこれらの質疑がすべて文字で見ることができます。

▼この質疑応答をBBC Worldのテレビで生で見ていて、むささびは日本の国会中継と余りにも違うことに愕然としてしまった。もちろん英国の下院がいつもこのような活気にあふれているわけではないけれど、ちょっと見た目には日本の国会で大臣のうしろに控えるお役人の姿なんてどこにも見えない。メイさんの奮闘ぶりも確かにすごい。

▼首相に質問するために質問者の議員が立ち上がりますが、その際質問しない議員も立ち上がりますよね。これは議長の眼をひくための行為(アタシ、ここにいますよ)なのですが、儀式化しているのでどこか滑稽ではある。

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4) これからの道筋は?



11月14日、EUとの間における「暫定合意案」(provisional Withdrawal Agreement)なるものの締結にこぎつけたメイさんですが、その案が不満で閣僚が二人辞任するなど、政治的な混乱のど真ん中に飛び込む羽目に陥ってしまった。この「暫定合意案」から「暫定」の文字がとれて正式な合意文書となるためには、何はともあれ下院の「支持」を取り付ける必要がある。

「混乱」めがけて滑り込み?

というわけで下院における合意案の説明と関連の質疑応答に臨んだわけですが、そのあたりのことについてThe Economistの政治コラムが「英国政府は混乱の真っただ中へと滑り込んでしまった」(Britain’s government slides into chaos)と評しています。このむささびが出る時点で、メイ首相およびBREXITを取り巻く政治状況がどうなっているのか、見当もつかない。とりあえず約1週間前の11月中旬現在で、The Economistのコラムニストが考えていることを紹介しておきます。


2017年の選挙で首相に就任して以来、メイさんは“Brexit means Brexit”という言葉を繰り返し使いましたよね。2016年の国民投票で示された「国民の意思」を尊重するという意味であるとしてBREXIT支持者にも大いに受けていた。ただEUとの間で交わした「暫定合意案」は、一方では「移民規制」とか「国境管理」などを英国自身の手に取り戻すという面があって強硬離脱派を納得させるものではあるけれど、もう一方では英国=EU間の貿易が円滑に行なわれることにも気を配っている内容になっている。これは本当はBREXITには乗り気でない産業界へのメッセージであると言える。

メイさんに勝ち目なし

ところが彼女の必死の説明にもかかわらず、この案を審議する下院では離脱派からも残留派からもケチョンケチョンにけなされるという状態だった。“huge and damaging failure”(大失策で英国へのダメージが大きい)、“choosing subjection”(EUへの従属を選択した)、“broken promises”(約束破り)・・・という具合で、質疑が始まってから1時間半の時点でこの合意案を支持する意見はゼロという惨状だった。

英国下院の議席配分

メイさんは下院で袋叩きにあった同じ日の夜、記者会見を開いて、合意案に関する自分の考え方を主張した。下院では国会議員に、記者会見では英国人全体に訴えたのは、彼女の案こそが「困難な問題に対する現実的な解決」(a realistic solution to a difficult problem)を提供するものだということです。しかしメイさんの努力にもかかわらず、この合意案が下院で承認される可能性は極めて低い(looks impossible)とThe Economistのコラムは言います。労働党、北アイルランド民主連合党(DUP)、スコットランド党、自由民主党などがいずれも反対票を投じることは間違いない。その他の党も含めて単純に議席数を計算しても保守党が負けることは明らかなのですが、その保守党内でもこの案に反対の議員が84人もいる(と言われる)のでは、どう考えてもメイさんに勝ち目はない。"It is hard to see how she can get her Brexit deal through the Commons."ということです。

党内強硬派の動き

メイさんにとって気になるのは保守党内の強硬離脱派による彼女への党首としての不信任の動きです。保守党の場合、党首への不信任は平議員から成る1922 Committeeという委員会に対して国会議員が不信任の手紙を送付することで進行する。それが保守党議員全体の15%を超えると党首選挙を行わなければならない決まりになっている。現在の保守党の下院議員は315人だから、15%というと48人ということになる。最近のメイさんについては、穏健派の議員からも指導力の欠如を指摘する声も出ており、48人というのはそれほど難しい数字ではない。


ただ、この期に及んで党首交代のような内輪もめを繰り返すことによる保守党のイメージダウンは計り知れないとThe Economistは言います。そもそもBREXIT自体が保守党内部の内輪もめが発端で、結果としてそれが国の分断と混乱を招いたとも言える。特に若い層による保守党への反発が強い。それが党内抗争でさらに高くなることが考えられるとのことであります。

議会では立派だったけれど

The Economistのコラムニスト自身はBREXITそのものに批判的なのであり、メイさんが下院に提案したEUとの合意案にも批判的なのですが、それはそれとしてメイさんが11月14日の下院で見せた熱意ある答弁は、ティリーザ・メイが政治家として見せた最高のパフォーマンスであったとのことです。コラムニストはまた質問に立ったコービン労働党党首を始めとする議員によるディスカッションも素晴らしかったと激賞しているのですが・・・
  • 残念なのは、あの日の下院のエネルギーが使われたのが、将来の英国をより良い国にするとは思えない合意案の検討であったということだ。
    The pity was that it was all devoted to appraising a deal that has little chance of making Britain a better place.
と嘆いています。

▼暫定合意案についての下院の投票は(BBCのサイトによると)12月7日に行われることになっています。そこで支持されるのか拒否されるのかによってBREXITの運命も違ってくる。BBCのサイトに出ていた行程表によるとざっと次のようになる。
  • ルートA:下院が暫定合意案を支持→関連法案審議(日は未定)・可決→2019年3月29日離脱、移行期間開始→2020年12月移行期間終了か延長
  • ルートB:下院が暫定合意案を支持→関連法案審議・否決→強硬離脱・再交渉・選挙・再度国民投票のいずれか→2019年3月29日離脱→不明
  • ルートC:下院が暫定合意案を拒否→政府が21日以内に新提案→強硬脱・再交渉・選挙・再度国民投票のいずれか→2019年3月29日離脱→不明
▼要するにメイさんが提案した暫定合意案に対する支持が下院で過半数を得られなかった場合、可能性として考えられるのは強硬離脱、EUとの再交渉、選挙、再度国民投票の4つのシナリオである、と。ちなみにメイさんの国会答弁の翌々日の11月16日に行われた世論調査によると、メイ提案の合意案の評判は芳しくないのですが、政党支持率は保守党39 vs 労働党36でメイ保守党の評判はそれほど悪くはない。

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5) で、民意は?


メディアの報道だけ見ていると、メイさんは正に「追いつめられた」という印象を持ってしまうけれど、英国の有権者はどのように考えているのでしょうか?暫定合意案に関する下院の質疑応答やメイさんの記者会見などが行われた翌日、世論調査機関のYouGovがBREXITに対する有権者の意識調査を行っています。BREXITについては英国の有権者には3つの選択肢が提供されている。
  • 強硬離脱:合意なしで離脱(Brexit with no deal)
  • ソフト離脱:合意案を受け入れて離脱(Brexit with deal)
  • EU離脱に反対:国民投票をやり直せ(Second referendum)
YouGovが問いかけたのは、この3つの選択肢を2者択一の組み合わせにして、「あえてどちらかを選ばなければならないとしたらどちらを選ぶか」というアンケートだった。結果は次のようになっています。

1)ソフト離脱か強硬離脱か?

EU離脱が避けられないのだとしたら、けんか別れより、将来も仲良くしようというソフト路線の方が好ましいという人の方が多いということですよね。あえてこの二者択一でと言われれば「残留派」もメイさんの案を支持する人が圧倒的に多いわけですが、ちょっと意外なのは「強硬派」の中にもほぼ4割のメイさん支持派がいるということです。

 2)ソフト離脱か離脱反対(国民投票のやり直し)か?

一般の世論で言えば、メイさんの提案より「もう一度国民投票を」という意見が多いということです。メイさんは「絶対にやらない」と言っているのですが。

3)強硬離脱か離脱反対か?

2016年の時点における対立点がこれだった。国民投票では強硬派が勝ったのですが、2年後の今ではどちらかというと「残留」を望む声の方が高いのですね。

最後にもう一つ、このように政治的混乱が続く現在、自分たちがどのように動くべきなのか(where we go now)という質問に対する答えを見ると、英国が如何に分断されている(completely divided)ということが分かる。
どうすればいいのか?


離脱か残留かという単純な仕分けでいくと、上の3つは「離脱」で、合計すると46%になる。4つ目と5つ目が事実上の「残留」で合計36%ある。そして「分からない」が16%、と。「残留」の36%が「確信票」なのに対して「離脱」の中には「いつまでも揉めるのは止めよう」という気持ちの人間がいるということを考えると、英国の世論が真っ二つという感じであることは事実のようであります。

▼これらの数字を見ると、2年前の国民投票の結果が本当に英国人の気持ちを反映していたのか?と疑問に思えてくる。投票数の内訳だけを見ると51.9 vs 48.1で「離脱」の方が多いのですが、投票に行かなかった人も含めた全有権者の内訳は「離脱37.4 vs 残留34.7 vs 無投票27.8」というわけで、離脱が英国人の意見を代表しているとは、とても思えない。

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6) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 

habituation:馴化


「馴化」というのは心理学用語で、普通の言葉でいうと「慣れ」です。"habituation"という言葉も次のよう に説明されている。
  • Process of people or animals becoming used to something, so that they no longer find it unpleasant or think it is a threat.
理屈抜きに不愉快とか気持ち悪いと感じるモノや現象も、慣れることで乗り越えることができるというわけですよね。人間だけでなく動物にもある現象なのですね。この現象の研究で知られているのが、アメリカのアルバート・バンデュラという心理学者なのだそうです。

あなたは蛇が好きですか?むささびは大嫌いであり、自分の目の前にいるのを見ると恐怖を感じます。見てくれがいけませんよ、あれは。然るにアルバート・バンデュラは、蛇を怖がらなくなるための方法を説明している。5つの段階に分かれている。
  1. マジックミラー(こちらからは相手が見えるけど相手にはこちらが見えない)越しに置かれた蛇をじっと見る。それほど怖くなくなったら・・・
  2. ドアを開けて、外から蛇を見る。それほど怖くなくなったら・・・
  3. 誰か別の人間がその蛇に触っているのを見る。それほど怖くなくなったら・・・
  4. 分厚い手袋をしてあなたも蛇に触ってみる。それほど怖くなくなったら・・・
  5. 手袋なしの手で触ってみる。数時間後には恐怖感が消えているはず。
というわけです。つまり時間をかけるということのようですね。バンデュラによると、"habituation"の原理は蛇だけに当てはまるのではない。あなたが常日頃から苦手と思っていること(例えば馬に乗る、大勢の人前で話をする等々)もこのようなやり方でさして苦手ではなくなるのだそうです。

"habituation"は動物にも当てはまるとなっていますよね。ひょっとするとヘビさんたちは人間が気持ち悪くて大嫌いと思っているかもしれない。「ダイジョウブだよ、じっと見ていれば怖くなくなるから」と」ヘビさんに教えてあげたい。
 
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7)むささびの鳴き声 
▼EUを離脱するとかしないとかをめぐる意見対立は、もともと保守党内の対立に過ぎなかった。なのに保守党党首のキャメロン首相(当時)が、あろうことか「国民投票」という手段を通じて党内右派の反EUグループの声を封じ込めようとした。それに例によってThe SunだのDaily Mailのような右派大衆紙が乗ってしまい、大々的に離脱キャンペーンを応援した。今さら言っても仕方ないこととはいえ、あえて言っておきたいのは、あんな国民投票さえしなければこんな混乱には陥ることはなかった・・・!

▼世論調査を見る限り、メイさんのような穏健派も含めて「離脱やむなし」という声が「反対」を上回っているように見える。しかしこれは「やむなし」であって決して積極的に支持してのものではない。キャメロンのあとを継いで首相になったときにメイさんはこれほどの混乱を予想していたのでしょうか?彼女は口癖のように "Brexit means Brexit"と言っていたけれど、彼女自身が英国のEU離脱をどのように思っているのかについてはついに語らなかった。ひたすら「国民の声に従う」を繰り返すだけだった。

▼むささびの想像(夢想)にすぎないけれど、ひょっとしてメイさんは近い将来において英国のEU再加盟を考えているのでは?強硬派の言うような独立独歩のグローバル英国なんて夢物語に決まっている。でも現在の英国では夢想家たちが大きな顔してしまっており、すぐにこれを変えるのは無理、というわけで、ここはEUとは穏便にお別れするふりをしておこうというわけ。

▼日産のゴーン会長の逮捕について、ジャーナリストの田中良紹(よしつぐ)さんが、これは自動車をめぐる「日仏戦争」であると言っています。フランスのマクロン大統領は英国のEU離脱を機にフランスを欧州の金融・経済の拠点にする政策を進めており、その一環として日産をルノーが完全子会社化すれば、フランス国内に日産の工場を作り、雇用と税収を確保してフランス経済を上向かせることが出来る・・・とのことで、日本の安倍政権としては許すことができない。そこで東京地検特捜部を動かして「巨悪」を追放することにした、とのことであります。

▼むささびジャーナル409号に『BREXIT:日産はどうするのか?』という記事を載せました。日産がイングランドのサンダーランドに工場を作ったのは1986年、サッチャー政権の頃だった。あれから約30年、サッチャーさんが日産に対して工場進出先としての英国を売り込んだ際の最大の理由であった「英国はヨーロッパへの入り口」(gateway to Europe)というのがおかしくなっている。

▼田中さんのエッセイは有料なので、むささびは全部を読んだわけではないけれど、ゴーンの問題を英国のEU離脱との兼ね合いで考えると辻褄が合う。EU離脱をめぐってこれからも英国内で自動車生産を続けるのかどうかで動揺する日産、マクロンは日産(サンダーランド)の自動車工場が欲しい、ティリーザ・メイは日産に出て行かれては困るから何としてでも英国をEU離脱後もその経済圏(関税同盟や単一市場)へのアクセスを確保したい・・・むささびによると、これは「日仏英戦争」なのである、と。田中さんはさらにゴーンの同僚であったグレッグ・ケリー代表取締役がアメリカ人であることにも注目している。トランプの影がちらつく、と。つまりこれは「日仏英米戦争」だってこと!?

▼むささびは、ゴーンをめぐる日本のメディアの報道に不健全なものを感じて仕方ない。レベルが低くて申し訳ないけれど、この問題をめぐる報道の中で「有価証券報告書」というのが、どういうものなのかについて分かりやすく説明してくれた報道はありました?何やら普通の人間には見当もつかない金額について情報が飛び交っているけれど、一人の人間がそのようなお金を「私物化」して、しかも永久にばれない(とゴーンのような「冷徹」な合理主義者が考えた)なんてことが本当にあり得るんですか?メディアは東京地検特捜部の言うことを有難がってそのまま受け流しているだけなのではありませんか?「巨悪」をでっち上げることで、自分たちはこれを告発する「正義の味方」なれるし、読者や視聴者は日ごろのうっぷんをはらすこともできる。

▼昨日(11月24日)のTBSの『報道特集』を見ていたら、かつて日産の重役をやっていたという人(現在は衆議院議員)が、ゴーンという人物が如何にひどいヤツで、彼のコスト・カッティングが如何に「日本的経営」から乖離していたかを述べていました。むささびはゴーン流経営の善し悪しについて述べるだけの知識も経験もないけれど、彼のやり方が「日本的経営」に合わないなどと言われると、眉に唾をつけたくなる。その日本的経営の陰で潰された人間性だって大いにあるのでは?欧米流の合理主義がうまく行かないからと言う理由で「日本流」を礼賛する気にはとてもなれないのよね、むささびは。

▼分かりました、もういい加減に止めます。失礼しました!


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むささびへの伝言