musasabi journal

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412号 2018/12/9
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BREXIT 美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
とうとう12月。あと3か月我慢すれば梅の季節になる・・・とでも考えて待つことにします。あと2か月でプロ野球のキャンプも始まるし・・・。上の写真は日本の手ぬぐいです。包装紙、暖簾、茶碗・・・日本の日用品のデザインや色の見事さにはため息さえ出ますね。最近でこそ全く使われなくなったけれど、風呂敷の柄なども素晴らしいものが多い。

目次

1)MJスライドショー:フィンランドの夜を捉える
2)ゴーン逮捕の陰湿さ
3)アメリカ文化は戦争の文化?
4)BREXIT:英国と欧州が失うもの
5)混沌、あさってには決着?
6)どうでも英和辞書
7)むささびの鳴き声

むささび俳壇

1)MJスライドショー:フィンランドの夜を捉える

フィンランドにミッコ・ラガーシュテット(Mikko Lagerstedt)という写真家がいます。むささびが偶然ネットで見つけたものです。年齢は分からないけれど、顔つきからすると40才というところか。写真を撮り始めたのが2008年12月というから、今から10年前ということですね。全くの自己流(self-taught)で始めたのですが、こだわっているのが「夜の風景」と「自分の感覚」だそうです。写真を撮ったときの自分の感覚をきっちり捉えること(capture the feeling I had when I took the photograph)と言っています。確かに変わった写真だと思うのですが、「前衛的」というのとも違う。「夜景」そのものを変えるわけにはいかない。どの部分をどのように捉えるのか・・・それに全身全霊を注いでいるという感じであります。このスライドショーは、できれば大きな画面にして見た方がいいと思います。

▼全然関係ありませんが、むささびが暮らす埼玉県飯能市にフィンランドのムーミンをテーマにしたかなり大きなテーマパークができつつあります。その一部であるレストランなどはもうオープンしているようなのですが、むささびの知る限りでは北欧料理というとミートボールしか知らないのよね。はっきり言ってあまり食指は動かない。

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2)ゴーン逮捕の陰湿さ

日産のカルロス・ゴーン氏が逮捕された問題について11月29日付のThe Economistが社説で取り上げています。見出しは
となっている。ルノー・日産・三菱の三社は、株の持ち合い(cross-shareholding)による「連合」(alliance)ではなくて「合併」(merger)という道を歩むべきだと言っている。



The Economistによると、このスキャンダルによって明らかになったのはたった一つ、ゴーン氏が傲慢な支配(imperious rule)を実行するとともにとてつもない高給を得ていたことで、かつては忠実だった日本人の下士官たちの離反を招き、それが彼の凋落に繋がったということである、と。しかしだからと言って日本の司法当局によるいじめ(judicial roughing-up)が正当化されるわけではないとも言っている。
  • 日産による内部調査および東京地検によるゴーン氏の告発は闇に包まれたままになっている。
    The accusations against Mr Ghosn by an internal Nissan investigation and Tokyo prosecutors remain murky.
"murky"という英語をむささびは「闇に包まれた」などと訳しているけれど、別の英語で言い換えると"dark and dirty"ということになる。「暗くて汚い」という意味です。 ゴーン氏は2011年から5年間にわたって証券取引所に対して所得を過少申告した(有価証券報告書の虚偽記載)ことになっているし、日産が所有している不動産を自分で使っていたことを明確にしていなかった(企業の私物化)ことも非難されている。


これらがすべて真実であったとしても責任はゴーン氏とグレッグ・ケリー氏(元代表取締役)にだけ負わせればいいというものではなく、日産側も責められて然るべきである、とThe Economistは主張します。高い給料の問題も含めて、ゴーン氏が犯したとされる過ちは、いずれも内部・外部の会計審査機関によって明らかにされるべきであったのだ、と。日本では企業ガバナンス(統治)の改革に対して長年にわたって抵抗が続けられてきたけれど、今回の問題で明らかになったのは、日産側が十分な監視を怠ってきた(lack of oversight)ということであり、そのことは日産およびその幹部たちへの評価におけるマイナス点(stain)として永遠に残ることになる。
  • ゴーン氏の力が強大になればなるほど、取締役会による徹底した監視が必要不可欠であったのだ。
    The more powerful Mr Ghosn became, the more essential the need for close board supervision.
The Economistによると、日産側の企業統治の甘さも情けない話ではあるけれど、今回の事態がルノーによる日産の乗っ取りを阻止しようという意図で日産の幹部が検察当局にたれ込んだ(tipped off)ものだとしたら全くもってひどいハナシであるということになる。


ルノーが日産の株の43%を持ち、日産はルノー株の15%(議決権なし)と三菱自動車の34%を所有しているけれど、そのことについて日本のトップ産業人の間では、日産がルノーよりも車生産が多くて高い利益を上げているのに、と恨みがましく云々する向きもある。ゴーン氏はこれまでも(例えば合併を通して)日産とルノーの関係を強化させる意図を明らかにしていた。合併後はルノーが経営権を握るという可能性にびくついたのは日産の経営陣だけではない、日本政府も然りだった。ルノーの株の15%はフランス政府が所有しているのだから。

株の持ち合いによる企業同盟が軋んでしまったについてはフランス政府にも落ち度がある。3年前、マクロン現大統領が経済大臣であった頃に、長期の株主(もちろんフランス国家も含む)に対して二重投票権(double-voting rights)を与えようと画策したことがある。それが3社の同盟関係をより平等なものにしようとする日産の前に立ちはだかるのではないかという疑惑を呼んだ。ゴーン氏をクビにすることでそれがなくなるのではないか・・・と日産側は考えたのではないかということです。


今や電気自動車や自動運転車の時代に備えるためには巨額の資本が必要になる。そのためにはさらなるコスト削減とそれぞれの組み立てラインの共有も必要となる。The Economistによると、そのために日産・ルノー・三菱の3社が向かうべき方向は、株の持ち合いではなくまともな方法による合併(to merge properly)なのだそうです。問題はこのような時にも必ず旧態然たる勢力が割り込んでくるということで、日産は日の丸の旗にくるまろうとしているし、フランス国家もまた支配力を弱めようとする気配がない。
  • かつてはゴーン氏の頭上に後光をもたらした企業連合も、今やとても神聖とはいえない窮地に追い込まれたということなのである。
    An alliance that once put a halo on Mr Ghosn’s head has become an unholy mess.
と社説は締めくくっています。

▼10月28日付の読売新聞の第14面に同志社大学が全面広告を載せています。「新島塾」というリーダー養成プログラムを宣伝するものなのですが、カルロス・ゴーン氏を招いて「これからの時代を牽引する志のあるリーダー養成」のための講演会のようなものを開催したもので、ゴーン氏は若い学生たちが目指すべきグローバル化時代のリーダーとして紹介されています。彼の話を聴いた学生の話として「リーダーシップのエッセンスの大きな要素の一つはコミュニケーション力であることが分かり、大きな収穫となった」というコメントが紹介されています。

▼むささびが(素人考えとはいえ)どうにも納得行かないのが、ゴーン問題についてのメディア報道です。「強欲かつ冷徹な独裁者が、何万人もの労働者のクビを切る一方で自分は着々と私腹を肥やしていた」というニュアンスの報道です。そのような人間が、自分の「悪行」がばれてしまうようなドジなことをするだろうか?悪人であろうがなかろうが、ゴーン氏のようにビジネスの世界で生きている人間、周囲が敵だらけという世界で生きている人間がまず考えるのは「自分に損になるようなことをしない」ということではないのか?日本のメディア報道を見ていると、ゴーンという人物の悪人ぶりを強調する一方でこれを逮捕した東京地検について「よくぞやってくれた!」と読者や視聴者が拍手喝采で喜ぶことに奉仕することが、自分たち(メディア)の役割だと考えているとしか思えない。

▼ゴーン逮捕劇は本当に「悪者ゴーン vs 正義の味方・東京地検」というハナシなのか?だとしたら、知らなかったこととはいえ、読売新聞紙上にあのような大々的な広告を載せた同志社大学もドジなことをやってしまったものですよね。何千万円もの広告料金を払って、あの悪い奴をヒーローとして持ち上げたのですから。広告には学長のメッセージまで載っている。抽象的な言い方しかできないのが残念だけど、ゴーンを悪人に仕立てることで、日本人のアタマをある方向へ持って行こうとする巨悪の影がちらつくように思えて仕方ないわけ。東京地検とかいう機関のあちら側でほくそ笑んでいる人間たちです。

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3)アメリカ文化は戦争の文化?


"Cultures of War"(戦争の文化) という本をご存じでしょうか? "Pearl Harbor/Hiroshima/9-11/Iraq"(真珠湾・広島・9.11・イラク) というサブタイトルがついている。日本による真珠湾攻撃(1941年)、アメリカによる広島への原爆投下(1945年)、9・11同時多発テロ事件(2001年)、イラク戦争(2003年)のことを語りながら、戦争というものについて考えようという本です。8年前(2010年)に出された本で、書いたのはアメリカにおける日本史の研究家でジョン・ダワーという人です。最近単なる偶然で、8年前の2010年9月12日付のワシントン・ポスト紙の書評欄を見ていたらこの本について語っていました。


書評を書いたのは、セント・アンドリュース大学(スコットランド)のジェラード・ドゥ・グルート(Gerard De Groot)という歴史学の教授です。書評の書き出し部分で教授は、リンカーン・シュテフェンズ(Lincoln Steffens)というアメリカのジャーナリスト(1866~1936年)の言葉を引用しています。
  • 人間には大きな失敗が必要だ。特に大成功で酔っているアメリカ人には、意識的・知的・分かりやすい失敗が必要なのだ。
    We need some great failures. Especially we ever-successful Americans -- conscious, intelligent, illuminating failures.


19世紀末から20世紀半ばにいたる時期に活躍したこのジャーナリストは、当時の社会悪のようなものを暴き立てる記事を書いて有名になった人物で、この言葉は20世紀初頭に日の出の勢いであったアメリカに対する警告として発せられたものです。ドゥ・グルート教授が"Cultures of War"という本の紹介にあたって、この言葉を引用したのは、この本が、アメリカが犯した戦争における誤りを追及しているものであるからです。

真珠湾とイラクの戦略的愚行

"Cultures of War"の著者であるジョン・ダワーは、これら4つの「戦争」を二つずつのペアに分けてそれぞれの共通点を語っている。まず日本による真珠湾攻撃と英米によるイラク爆撃のペアに共通するのは、当時の指導者たち(決してアタマの悪い人間ではなかった)が戦略的愚行(strategic imbecility)に走ってしまったということです。真珠湾攻撃もイラク爆撃も、それだけを見ると大勝利であるかのように思えるかもしれないけれど、日本も英米も長期的な視野に立った勝利ということを考えていなかった。真珠湾攻撃については、4年後の日本の無残な敗北からして明らかです。イラクについては爆撃の開始から2か月後の5月に当時のブッシュ大統領が "mission accomplished"(使命は達成された) という勝利宣言をしたわけですが、イラクの民主化という戦争の目的は何も果たせず、却って国内を混乱させ、イスラム国のような勢力の台頭に繋がった。


ジョン・ダワーが次に共通点を見出すのが1945年の広島への原爆投下と2001年にニューヨークで起こった同時多発テロです。「広島」を実行したハリー・トルーマン(大統領)と9・11の実行犯、オサマ・ビン・ラディンの両者に共通しているのは、何事も「善か悪か」(good or evil) という基準でのみ判断しようとする態度であり、自分たちの行為が「道義的」には正しいという確信を持っていたということである、と。自分たちは「善」、相手は「悪」という振り分けを行うことで無差別殺戮を彼らなりに正当化したということです。

盲目的道義心が悲劇を生む

ジョン・ダワーによると、1941年に日本軍によって真珠湾が攻撃されたときも、アメリカ人が思ったのは「アメリカが非論理的(つまりアホ)な東洋人になど負けるはずがないということだった。事実、真珠湾攻撃は非論理的な行為ではあった。戦争が長引いた場合、日本が当時のアメリカになど勝てるはずがなかったのだから。しかし当時の日本の上層部は「希望的観測」(wishful thinking)、自分たちの力に対する「幻想」(delusion)に眼がくらみ、それが「集団行動」(herd behavior)を呼び起こしてしまった。そのようなことは日本に限ったことではない。ダワーによると、2003年のホワイトハウス大統領執務室は「イラク侵略は素晴らしいアイデア」(invading Iraq was a good idea)という妄想(deficiencies)に凝り固まっていた。


R・ケネディの「変わった意見」

最後に紹介するエピソードは、ダワーの本ではなくて、この書評の著者が書いているものなのです。それは今から55年も前の1963年のホワイトハウスでのハナシです。当時はケネディ政権だったのですが、頭痛の種が勝利の兆しが見えないベトナム戦争だった。ホワイトハウスにおける閣僚会議がこの問題をめぐって揉めている中で、司法長官だったロバート・ケネディが「そんなに(ベトナム戦争の)の状態が悪いんだったら、撤退すればいいんじゃありませんか?」(If the situation is so dire, why not withdraw?)と発言した。その発言で会議は一瞬シーンとしたけれど、結局これは無視される形で会議が進められた。

その頃、大統領補佐官を務めていたアーサー・シュレジンジャーも出席者の一人だったのですが、あの会議を振り返って、ベトナムからの撤退という提案は「オハナシにならないほど変わったアイデアだった」(a hopelessly alien thought)と言っています。

▼「うまくいかないのなら、ベトナムから撤退すればいいんじゃありません?」と発言したロバート・F・ケネディはそれから5年後の1968年に暗殺されてしまったのですよね。「撤退したら?」ということは「負けを認めたら?」ということでもあります。1960年代初期のアメリカの政治では非常識な発想だったということ。

▼ジョン・ダワーは1945年に原爆投下を指示したアメリカのトルーマン大統領と2001年の9月11日にニューヨークにおける同時多発テロを指導したオサマ・ビン・ラディンの共通点として、両方とも自分たちの行為が「道義的に正しいという確信」(moral certitude)を持っていたことを挙げている。自分の父親が原爆投下を行った戦闘機のパイロットであったというアメリカ人がアメリカのテレビに次のように語っている(むささびジャーナル195号)。
  • 彼ら(日本人)は真珠湾を攻撃したのですよ。我々を襲撃したのです。我々は日本人を虐殺したのではない。戦争を終結させただけなのだ。They hit Pearl Harbor, they struck us. We didn't slaughter the Japanese. We stopped the war.
▼このコメントは2010年の広島の平和記念式典に駐日アメリカ大使らが初めて参加することについて行なわれたもので、「広島の式典にアメリカ政府の代表が参加するなんて、アメリカが日本に対して謝罪しているようで許せない」と怒っているニュアンスです。放映したのはトランプの味方であるFox Newsです。

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4)BREXIT:英国と欧州が失うもの



前号で紹介したBREXITに関する暫定合意案ですが、その後に開かれたEUの首脳会議がこの案を正式に受け入れることを決めたことで、あとは英国議会(下院)がこれを承認するかどうかがポイントになっている。下院における投票は今週の火曜日(12月11日)に行われることが決まっています。英国人もEU加盟国の人びとも固唾をのむ思いで見つめているわけですが、11月25日付のThe Observer紙の社説がBREXITがヨーロッパに与える影響について語っています。BREXITに熱狂するタイプの英国人には分かっていないかもしれないけれど、英国が離脱するということがヨーロッパにもたらす影響も深刻です。
  • 現在、ヨーロッパ大陸は至る所で問題が噴出しており、多くのヨーロッパ人が英国のEU離脱を、ヨーロッパの集団的未来に対して不信任を突きつける行為だと解釈するだろう。
    Across a continent beset by mounting internal and external problems, Britain’s departure will be interpreted by many as a stinging vote of no confidence in Europe’s collective future.
というわけです。

恩知らずのヨーロッパ?

むささびは上の文章の中のキーワードは「ヨーロッパの集団的未来」(Europe’s collective future)なのだろうと思います。第一次・第二次と戦争に明け暮れていたヨーロッパの国々が、自分たちをヨーロッパという集団の一部と見なすことで、他に例を見ないような平和と繁栄を作り上げてきたが、これからはそれが続かないかもしれない・・・という不安感です。


この社説によると、戦争直後の時代に英国がヨーロッパに対して果たした役割の重要さを英国人自身が認識していない。マーガレット・サッチャーを始めとする右翼政治家やメディアが国民に訴え続けたのが「感謝することを知らないヨーロッパ」(ungrateful Europe)であり、「ずる賢いヨーロッパが英国の金を盗もうとしている」(サッチャー)というイメージだった。

英国が果たした役割

実際には全く違う、とThe Observerは言います。ヨーロッパの国々は英国の存在を高く評価してきたし、英国がヨーロッパの主要国であることを認めてきた。民主主義、議会主義、公共サービス、法の支配、自由でフェアな貿易慣行・・・英国は特にソ連崩壊後の中東欧の国にとってはお手本だった。さらに英国はヨーロッパとアメリカの間の懸け橋であり、不安定な独仏関係の仲介役であると見なされてきた。"ungrateful Europe"なんてとんでもないというわけです。


1975年の国民投票でEU加盟支持を訴えるサッチャー保守党党首

英国がEUを離れることで、これらすべてが失われるというわけではないし、英国がヨーロッパで果たす役割や影響力を誇張して考えるということにも気を付けた方がいい、と社説は主張します。
  • しかし間違ってはいけない。英国がEUを離れることがヨーロッパの理念および世界におけるヨーロッパの立場に与えるダメージは大きくて長く続くものでもあるのだ。
    But make no mistake, the damage to the idea of Europe, and to Europe’s standing in the world, will be considerable and lasting.
と言いながらThe Observerは「現代は強権政治が大手を振っている時代である」と指摘します。トランプ、習近平、プーチンらの大声の中で、ヨーロッパが伝統的に守ってきた啓蒙時代(Enlightment)の思想(個人の自由、法に基づく権利・義務など)が嵐にさらされている。民主主義による統治は世界中のどこにでもあるものではない。むしろそれが存在しない場所の方が多い。ヨーロッパはそれを守る「最初にして最後」(first and last bastion)の砦のような存在なのだ。英国はそれを破壊したことになるのだ、と。

独仏対立がEU崩壊を呼ぶ

社説はBREXIT後のヨーロッパにおけるドイツの役割について語ります。ドイツ人はメルケルも含めて英国のEU離脱は誤りだと考えている。ヨーロッパ中に広がる反EU指向の右翼的ポピュリズムに立ち向かうのはドイツしかないけれど、ドイツにとっては「本能的に心が通い合う同盟国」(instinctively like-minded ally)である英国の助けなしにこれらと戦うのは困難だ、と社説は言います。


ドイツとフランスはどうか?進歩的な思想の推進者を自認しているマクロンはヨーロッパのより一層の統合(政治・経済・防衛)を望んでいる。ドイツはこれに抵抗するものと思われている。考え方としては英国はドイツに近いけれど離脱後の英国には発言権がなくなる・・・The Observerは「独仏間の確執の中にEU崩壊の種が潜んでいる」と警告している。

BREXITで喜ぶのは誰か?

ドイツは過度な指導力を発揮することは避けてきた。「過去」の問題もある。EU加盟国もそれは望まないかもしれない。ヨーロッパにおける南北分裂の問題もある。ドイツ、オランダ、ポーランド、スカンジナビア諸国、バルト3国がEUから離れて昔のハンザ同盟のようなものを作る可能性もささやかれている。そうなったら「ヨーロッパ連合(union of Europe)」という発想自体が死んでしまう。


The Observerに言わせると、強硬BREXITの人間たちは正にその団結するヨーロッパの崩壊をこそ望んでいるのだということになる。ロシアも同じで、プーチンもBREXITが嬉しくて仕方ないと思っているし、トランプもヨーロッパにおける不協和音を歓迎する点では同じだ。そして「橋渡し役の英国」を失った後のアメリカとEUは、ありとあらゆる分野で対立を繰り返すことになる。

離脱派がふりまくウソ

離脱派の識者に言わせれば、上に述べたような悲観論は単なる「空想」に過ぎず、実際には英国の離脱後も普通の人びとにはさしたる変化はないということになる。しかしThe Observerに言わせれば、それこそが正にBREXITによる最大のウソ(biggest Brexit lie of all)である、と。BREXIT後には移動の自由は大幅に制限されるし、ビジネスもやりにくくなる、学者・学生間の交流も大幅に制限される。また、かつては英国と言えば、個人の権利や自由が保障され、異なる文化・文明に対しても寛容かつオープンな国として尊敬・尊重されていた。
  • そのような英国がEUから抜けることでヨーロッパが失うものは大きいが、英国自身もまた同じような規模の損失を被ることになるのだ。
    The scale of Europe’s loss is exceeded only by our own.
というのがThe Observerの結論であります。

▼この社説の中で筆者が最も力を入れたかったのは「ヨーロッパが伝統的に守ってきた啓蒙時代の思想が嵐にさらされている」という部分なのではないかと(むささびは)思います。「個人の自由」、「法の支配」、「思想・言論の自由」などの理想・理念はいずれも17~18世紀のヨーロッパに源を発しており、自分たちもそれらを文句なしに守るべきものと思ってきた、なのに・・・というわけです。それを脅かす存在としてトランプ、習近平、プーチンの名前が上がっているけれど、トランプのアメリカとプーチンのロシアが、「言論の自由」とか「政治結社の自由」のような啓蒙思想の流れを汲んだ社会が生んだものであることも否定できない。習近平の中国における一党独裁が、革命思想としてのマルクス主義に基盤を置いており、マルクス主義自体がヨーロッパの啓蒙思想抜きには語れない。

▼つまり個人の自由とか民主主義のような考え方自体は断固として守らなければいけないけれど、これらを否定するとしか思えないBREXITやトランプ流の一国主義もまた民主的な選挙や国民投票の結果生まれたものであることも事実です。ヨーロッパにおける極右勢力の台頭も同じです。誰も上から押し付けたわけではない。これらの勢力に共通しているのが「エリートに対する反発」であると言われます。そして「反エリート」を標榜する「庶民」に共通しているのが「俺たちをバカにしやがって」という被害妄想です。欧米でいう「エリート」は日本語でいうと「インテリ」です。日本では「反インテリ」感覚が日本会議とかいうグループに集う人たちによってシェアされている。この人たちに熱心に支持されてのがシンゾーであるわけですが、彼が首相などという立場にいて「アメリカから押し付けられた憲法を変えよう」などと叫んでいる。それを許しているのも有権者である日本人であるわけです。シンゾーが捨て去ることを叫んでいる日本国憲法は、今や欧米で嵐にさらされている「啓蒙思想」のお手本のような存在であるわけです。

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5)混沌、あさってには決着?

明後日(12月11日)、英国下院で政府が提案しEU側も賛成した離脱に関する「暫定合意案」(Draft Agreement on the Withdrawal)についての投票が行われます。そこで支持が不支持を上回れば、EUとの関係は残しながらも離脱はするという、メイさんの思い通りということになる。でもそのような結果になるのか?ならなかった場合には何がどうなるのか?英国メディアを見ていると、混乱と混沌が直接反映されたような報道なので読むだけでもアタマが痛くなる。Stratforというアメリカの政治メディアの報告を参考にすることにしました。英国で暮らしながらBREXITの動きを見守ってきたアメリカの友人が「さっぱり分からん」と匙を投げてむささびに送ってきたものです。題して
というわけです。「何が残されているのか?」なんて・・・それが分かるくらいなら苦労は要らないっつうの!


英国下院の議席総数は650ですが、そのうち1議席は議長が有しており、議長は投票することがない。つまり649議席の過半数(325議席)を得るかどうかということです。どのメディアの記事にもはっきりとは書かれていないけれど、この投票に関しては党の拘束はなく各自の自由意思で投票することになりそうです。党派別の議席配分は次のようになっている。

下院の議席数

 このうち「その他」の77議席はスコットランド党(35)、自民党(12)などBREXITそのものに反対している党が圧倒的に多い。唯一の例外と言えるのが北アイルランド民主連合党(DUP:10議席)ですが、この政党はどちらかというと強硬離脱的な意味でメイさんの提案には反対というだけで、北アイルランドも含めた英国がEUを離脱すること自体には賛成している。今回の合意案によると、アイルランドとの国境問題の絡みで、北アイルランドだけがEUの関税同盟という枠組みに残ることになっている。自分たちだけが他の英国の地域とは別扱いにされていることが気に入らないというので、これに反対すると言っている。

 

が、何と言っても混沌を生んでいる最大の理由は、保守党と労働党がそれぞれに内部で揉めているということです。保守党に関して言うと、315人の下院議員のうち50~80人が合意案に反対する可能性が噂されている。その殆どが党内右派の強硬派なのですが、中にはBREXITそのものに批判的な保守党議員もいる。

いずれにしても保守党議員の「50~80人が合意案に反対」というのが本当だとすると、メイさんの合意案を支持する保守党議員の数は230~250人程度ということになる。過半数の325票には80~90票足りない。となると問題は、257人いる労働党議員の中でメイ案に賛成票を投じる議員が80~90人もいるのか?ということになる。The Economistなどは「殆どすべての労働党議員(almost every single Labour MP)がメイ案には反対」と言っている。それ信用して257人いる労働党議員のうち7人だけがメイ案を支持したとすると(むささびの勝手な推測ですが)
  • メイ案支持票:250(保守党)+7(労働党)=257票
  • メイ案不支持票:50(保守党)+250(労働党)+70(その他)=370票
と、120もの差を付けられてメイ案は否決されるということです。これは保守党からの離脱組が50人と低く見積もっての話です。


で、何がどうなるっての?Stratforの分析によると3つのシナリオが考えられる。
  • メイ首相が辞任:保守党が後継党首を選び、その人物が首相になる。新首相は下院の信任投票の結果正式に就任するけれど、BREXITをめぐる混乱と混沌状況に直面しなければならない。
  • 保守党党首の選挙:メイさんが辞任しない場合、48人以上の保守党議員が党首不信任の手紙を党宛てに送付すれば党首選挙が行われる。が、メイ党首への挑戦者は159人の保守党議員の支持を集めないと新党首にはなれない。これは至難の業であるとStratforは言っている。
  • 総選挙:労働党がメイ不信任案提出。これは650人いる議員の単純多数(325)が賛成すれば成立し下院は14日以内に新首班(new top minister)を指名しなければならない。それが出来ない場合、総選挙ということになる。
The Economistなどによると、これ以外にもいろいろとシナリオらしきものはある。例えばメイ案が否決されるにしてもその差が50程度だった場合は、EU側と再交渉して「合意案」をちょっとだけ手直しして年末までにもう一度投票を行なうというセンもある。その他紹介し始めるときりがないので止めておきます!

▼下院における投票が、政府(メイさん)提案の合意案に対するYESかNOかであるにもかかわらず、投票する議員の気持ちとしてはNOにも二つあるというところがややこしいわけです。即ちメイ案は「EU寄り過ぎる」という理由でNOと言うのが右派勢力の強硬離脱派ですが、離脱そのものに反対する勢力もまたメイさんの案にはNOであり、もう一度国民投票をやれという意見もこの中に含まれる。国民的な意見としては「離脱反対」とか「もう一度国民投票を」というのが一番多いわけです。

▼メディア報道を見る限りにおいては「メイさんに勝ち目なし」という気になってしまうけれど、実は彼女の案が最後まで生き残るのではないかとむささびは想像したりするわけです。わずか一週間前に行われた世論調査では、英国を632のエリアに区切って合計約2万人に①政府提案の合意案(ソフト離脱)、②合意なしの強硬離脱、③EUに残留という選択肢のうちでどれが「最も望ましい」(first preference)かと尋ねるものだった。結果は次の通りです。


▼メイさんの案が「一番いい」という地区はたったの2か所。圧倒的に「EU残留」を望む地区が多いわけです。「その考えは2016年の国民投票の段階で否決されたではないか」と離脱派は言うし、メイさんも Brexit means Brexit という言葉を繰り返してきた。けれど世論の現実はそのようにはなっていない。ただ火曜日に行われるのは議員による投票であって国民投票ではない。議員の間には「いつまでこんなことを続けるのか」という「厭戦気分」が生まれている、そんな中で、メイさんの提案は、離脱派から見ると「加盟を続けるよりはましかもな」となるし、離脱反対の人は「けんか別れよりはましかも」となる。「まし」・・・つまり"good"ではなくて"less bad"ですな。如何にも英国らしい、というのがむささびの想像なのでありますが、果たしてそれで収まるのですかね?

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6) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 

meddling:お節介焼き


むささびは知らなかったのですが、チャールズ皇太子は1948年11月14日生まれだから今年で70才なの ですね。それを記念してBBCが11月8日に "Prince, Son And Heir: Charles At 70" という題 名のドキュメンタリー番組を放送したのですが、その番組における皇太子の発言の中で最も広く報道された のが
  • I will not be a meddling monarch... I'm not that stupid.
    自分はお節介な君主になるつもりはない。それほどバカではない。
というものだった。

Oxfordの辞書によると、"meddling"は"intrusive"(干渉的)という意味であり例文として"my mother's meddlings annoyed me"(母のお節介には腹が立った)というのが出ていました。

チャールズ皇太子というと、これまで環境問題や都市開発などについて「率直」なコメントを口にすることで有名だった。父親のエディンバラ公のような「失言」ではないけれど・・・。例えば、今から30年も前のことですが、ロンドンのイーストエンドを視察した際に、インド系のショップにおける労働者の状態について
  • とても受け入れられるものではない。これではインドにいるのと同じではないか
    It really is not acceptable. All we are managing to do is replicate some of the conditions these people have left behind.
とコメントして話題を呼んだこともある。

そのことについてBBCとのインタビューで、自分がエリザベス女王のあとを継いで国王(monarch)になった場合は、これまでのような発言はやらないと言っているわけです。ただ皇太子としての過去の発言については「あれをお節介というのならお節介屋でけっこう」(If that's meddling I'm very proud of it)とも言っている。

このあたりのことについて世論調査のYougovの調査によると、皇太子が国王になってからも社会問題についてこれまでどおりコメントをすることについて「適切:appropriate」(46%)とする意見が「不適切:not appropriate」(36%)を上回っている。
 
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7)むささびの鳴き声 
▼私の友人のジャーナリストが最近、韓国へ行ってきました。彼自身の友人(韓国人)に会うためで全くのプライベート旅行だったのですが、帰国後にメールをくれて、彼なりの見聞録を伝えてくれました。その中で特にむささびが興味深いと思ったのは、若い世代の韓国人の日本観の変化です。友人の見るところによると、「反日、嫌日」でもない、「離日」が急速に進んでいる可能性があるというのです。「日本なんてどうでもいいじゃん」という世代です。

日韓:相手国に対する印象(2016年) <NHKのサイトから>

▼韓国というと「慰安婦」とか「竹島」「徴用工」などの問題との絡みで、日本に対しては否定的なイメージしか持っていないのだろうと(むささびなどは)思っていたし、現にそのような感情を持っている韓国人は数多くいるのだろうと推察するけれど、「これからは世界と付き合おう。日本にムキになってこだわるなんてやめよう」という世代も出て来ているらしい。彼らの多くが英語世界と接し、英語で意思疎通を図ろうとするから、日本人のネットワークにはなかなかひっかかって来ないのだそうです。

▼そういえばネットを見ていたら「世界最大の英語能力ランキング」というサイトがあって、世界88か国の英語力を比較していました。これらの国の人びとの英語力を「非常に高い・高い・標準的・低い・非常に低い」という5段階にわけている。「非常に高い」はスウェーデンをトップに12か国あるのですが、すべてがヨーロッパの国です。日本は「低い」の中にあって88か国中の49位です。日本のすぐ前に台湾(48位)と中国(47位)がいる。韓国は「標準的」で第31位となっています。アジアの国で韓国よりも上位にランクされているのは、フィリピン(14)、マレーシア(22)、インド(28)、香港(30)の4つなのですが、フィリピン以外は英国の植民地であった国だから英語が出来てもさして不思議ではない。でも韓国は違います。何が日本などとは違うんですかね。

▼訪韓した友人の話に戻すと、「離日世代」が増える中で韓国の若者の間にはAKB48のような日本のアイドル歌手のファンが存在するのも事実のようですね。NHKのサイトに出ていたのですが、韓国のKポップの世界で、日本人が続々とデビューするという、これまでにない現象が起きているのだとか。TWICEという女性のアイドルグループは9人で構成されているけれど、そのうち3人は日本人なのですね。そのうちの一人は「15才の時に韓国に渡り、練習生として3年間、歌と踊りの下積みをした」のだそうで、独学で韓国語もできるようになっている。さらに日本の十代の若い女性が韓国ポップの世界を目指す理由の一つとして「欧米も視野にいれたグローバルな活動」を挙げる女性もいる。少なくともこの世界においては韓国の方が「国際化」が進んでいると日本の若い世代に思われているのは確かなようであります。

▼徴用工問題でシンゾーらは「お話にならない、国際裁判所に訴える!」などと息巻いているようですが、本当にそんなことできるんですか?声を荒げている割には膝が震えたりしているのでは?1965年の日韓基本条約で解決済みと言うけれど、それは承知のうえで韓国大法院は元徴用工らの訴えを認めたのですよね。(ゴーン問題についてのコメントと同じようになってしまうけれど)大法院は最高裁判所ですよね。そのような機関が判決を下すときに結果として起こるであろう、日本による国際法廷への訴えの可能性を考えないはずがないよね。それを承知でこの判決を出したと考えるのが常識・良識ってもんだ。国際法廷に訴えられても自分たちにはそれなりの主張をする用意があると確信しているということです。シンゾーもタロー(外相・財相の両方)もそのあたりのことが分かっているのでありましょうか?答えはノー。

▼また訪韓の友人の話にもどるけど、日本の若者がKポップが好きで、韓国の若者が日本のグループが好きということは、そのまま「韓国や日本が好き」には繋がらない。彼らには国籍を理由にする偏見が存在しないというだけのことです。むささびの友人はそのあたりのことについて「(このような若者の存在は)日韓理解の中で、眼に見えない大きな重石になっており、大事な存在と思います」と言っています。

▼もう一つ、この友人は自分には「普通の韓国人」の意見が分からないのがもどかしいという趣旨のことを言っています。なぜ分からないのか?言葉が分からないから。日本語ができる韓国人は結構いるのでしょうね。徴用工問題で「韓国とは断交だ!」といきり立っていた門田隆将さんという「ジャーナリスト」(?)は韓国語ができるんですかね。韓国のことをどの程度理解したうえで「断交だ」と叫んでいるのか?悪いけどただの無知なんでない?

▼12月22日が冬至だそうですね。それを過ぎると昼間の時間が夜より長くなる。それをひたすら楽しみに、プランターで育てたコマツナの味噌汁でも食することにしよう!失礼しました。

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