上の2枚の写真、いずれも英国下院の議事進行中のものです。上はBREXITに関わる諸問題を審議している風景で、下は北アイルランドにおける観光振興策を審議しているときの模様です。下の写真は北アイルランドのBelfast
Telegraph紙が掲載、「下院を空っぽにする一番の対策は北アイルランドに関連する話題を審議することだ」という怒りの(?)キャプションがついていた。(下の写真の下部に床の上に描かれた白いラインが見えますよね。議事進行中は関係者以外の立ち入りを禁止するための線なのだそうです)。
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目次
1)BREXIT:ついに女王が介入!?
2)「諸悪の根源は英国人の特権意識」
3)強硬離脱派の言い分
4)いつもどおりには戻れない英国の政治
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声
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1)BREXIT:ついに女王が介入!?
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メイさんがBREXITに関してEU側とまとめた協定案が、1月15日の下院で歴史的大差(432対202票)によって否決されましたよね。で、1月29日(火曜日)に下院で2週間前に大敗した政府提案に対する修正案なるものについての採決が行われ、7つの修正案のうち2件が賛成多数で可決された。ここをクリックすると、採決された7つの修正案がすべて説明されています(これを読むとややこしくてむささび自身もウンザリする)。
可決された2件のうちの一つは、EU離脱に当たって「EU側との離脱合意」(Withdrawal Agreement)と「将来の英国=EU関係についての枠組み」(Framework
for the Future Relationship)という二つの文書をEU側と交わすことというもので、要するに「合意なき離脱」(Brexit
with no deal)は許さないということです。可決はされたのですが、この修正案には法的拘束力はないのだから、「合意なき離脱」の可能性が全く消えたわけではない。
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合意なき離脱は許さない
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もう一つは、アイルランドと北アイルランドの間の国境をどうするのか?に関係しています。1月15日に否決されたメイ案(EUも合意)では、国境を昔のような厳重に管理された国境(hard
border)に戻すことをしないための「歯止め策」(backstop)として、英国がEU離脱後も当分の間、EUの関税同盟に残ることが提案されていた。こうすることで南北アイルランド間の「国境」は今までどおりに保つことができるというわけです。が、これだと英国は永久にEUに縛られることになるのでは?という意見もあってメイ案が大敗する最大の理由となった。
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アイルランド国境の厳重化回避:「歯止め策」ではなく「代替案」を
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では1月29日に可決された国境問題に関する修正案は、これまでの「歯止め策」(backstop)の代わりに何を提案しているのか?BBCのサイトによると「厳重な国境を回避するための代替案」(alternative
arrangements to avoid a hard border)である、と。ただその「代替案」というのが何であるのかが説明されていない。申し訳ないけど、これではむささびには分からない。はっきりしていることは、1月15日に大敗したメイ提案がEU側と協議したうえで合意したものであるということ。即ち「代替案」が何であれ、あの「歯止め策」(backstop)というアイデアをアウトにすることだけは確かであり、EUはそれを拒否しているというわけです。 |
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でもメイさんは「代替案」というアイデアをEU側にのませようと、これから交渉するのだそうであります。1月15日に大敗したメイさんですが、1月29日に可決された「代替案」をもってEUと交渉することに自信ありげである理由の一つに、この採決の5日前(1月24日)にエリザベス女王の口から出た言葉があります。この日に英国婦人協会(Women's
Institutes)という組織の集まりで彼女が行ったスピーチに次のようなくだりがあった。
- 現代において新たな答えを模索する中で、私自身は、これまでに何度も試され、試練をくぐってきたもののやり方(tried and tested recipes)を望むんでいるのです。互いを称賛し、異なる意見を尊重し、共通の立場を見いだすために協力し、決して全体像を見失わないような姿勢です。このような姿勢こそが時代を超えて存続するものであり、私としては誰にでもお奨めしたい姿勢なのです。
As we look for new answers in the modern age, I for one prefer the tried and tested recipes, like speaking well of each other and respecting different points of view, coming together to seek out the common ground and never losing sight of the bigger picture. To me, these approaches are timeless, and I commend them to everyone.
この発言の中の「異なる意見を尊重」とか「共通の立場」、「全体像を見失わない」のような言葉が、極端に走らないメイさんの妥協案で落ち着いたほうがよろしい、と言っているようにもとれるわけです。もちろん王室はノーコメントですが、メイ首相の報道担当者は女王の発言そのものにはコメントを控えながらも「首相自身は他人の意見を最大限に尊重する(great respect for the point of view of others)という姿勢を貫いている」と発言している。
で、英国人はどのように見ているのか?YouGovという世論調査機関のサイトによると「BREXITに関連して進展が見られない場合、女王が関わることを適切と思うか、不適切と思うか?」という問いに対しては次のような答えが出ている。
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▼何よりもおかしいのは、女王の発言を知った保守党議員やメイ内閣の閣僚たちがツイッターなどを通じて女王発言に対する賛意を表明していることです。“I
agree with the Queen”(厚生大臣)、"wise words from the Queen:女王の賢明なる発言だ"(労働関係大臣)、“The
Queen is right”(保守党議員)という具合。これでは女王にその気はなくても政治家がそのように扱ってしまっているようなものですよね。
▼「女王がEU離脱を支持している」ということが話題になったのはこれが最初ではない。2016年の国民投票の3か月ほど前にThe Sunがずばり"Queen Backs Brexit"という記事をでかでかと載せて話題を呼んだ。王室側がカンカンに怒って報道倫理委員会のようなところへ訴えるということがありましたよね(むささびジャーナル341号)。記事の中身を読むと、女王が2011年にある昼食会でその種の発言をしたということを5年後に特ダネとして報道したわけです。関係者は否定もしくは沈黙という態度だった。 |
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2)「諸悪の根源は英国人の特権意識」
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EUの改革を目指すthink-tankであるCentre for European Reformのサイトを見ていたら
という見出しのエッセイが出ていました。2017年5月3日付だから2016年のEU離脱国民投票が行われてから約1年後のことです。 |
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特権意識が利益を阻害
"exceptionalism"は「自分たちは例外だ」と考える姿勢のことですが、「特権意識」と訳した方が分かりやすいと思いました。書いたのはサイモン・ティルフォード(Simon Tilford)という人で、この組織の副理事をしているのですが、英国国際問題研究所(Chatam House)の経済研究員でもある。エッセイのイントロは次のように書かれている。
- 英国は自分たちの特権意識によって自分たち自身の利益を阻害している。こんな国は珍しい。英国の自信過剰には根拠がないのだから、いずれは高い代償を払うことになるのだ。
- Few countries have allowed their sense of exceptionalism to damage their interests in the way Britain is doing. British overconfidence is unjustified and will come at a heavy price.
ティルフォード氏はEU加盟国の中で国際的にも「主要国」とされるフランスとドイツを英国と比較しています。英国同様、国連の常任理事国であり、核保有国でもあるフランスのエリートたちは、EU加盟が自国の利益に反するなどとは考えていない。彼らにとってEUはドイツが単独で強くなり過ぎないように押さえる役割を果たしている。と同時に、フランス自身もEUの一員であることによって世界で重要な役割を果たすことができると考えている。
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ドイツにとってEU加盟国であることはフランス以上に切実である、と。第二次大戦後のドイツは、EUの前身である汎ヨーロッパ機構の設立メンバーとなることによって国際的な信用を回復することができたのであり、EUの加盟国であることが国益確保のためのカギを握っていたとも言える。
「EUがなくても英連邦がある」
なぜ英国はドイツやフランスのように考えないのか?ティルフォード氏の眼から見ると、英国のエリートたちは自分たちの歴史をバラ色なものと考えがちなのだそうです。大体において、人間が自国を見る眼と他者がそれを見る眼との間には常にギャップがあるものなのですが、英国の場合、特にそのギャップが大きい。多くの英国人が英国を民主主義と自由の旗手(beacon of democracy and liberty)であると考える。ドイツ人のような自己懐疑の気持ちは薄い。英国人は植民地主義に彩られた自分たちの国の歴史には目をつむりがちであり、英国という国が自分たちが考えているほどには他国によって信頼も称賛もされているわけではないということが分かっていない。
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英連邦諸国
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多くのBREXIT論者が考えるのは、英国にはEUを離れても英連邦(Commonwealth)があるではないかということです。英連邦はかつての植民地の集まりであり、現在はカナダ、オーストラリア、インドなど53か国がこのクラブに属している。ティルフォード氏に言わせると、それらの国々が「英連邦」というクラブの会員であることに満足しているのは確かであるけれど、それはそのような国々が英連邦を英国人とは違う目で見ているからなのだ。例えばインド。彼らは英連邦の一員であることで、英国との経済関係において特別扱いされることなど全く期待していない。また英連邦の加盟国は英国を「リーダー」としては見なしていない。
二番目扱いが気に入らない?
ティルフォード氏によると、英国エリートたちが持つ反EU感覚の依って来るもう一つの理由として、自分たちが常に「2番目」と見なされている(と考えている)ということがある。つまりEUが独仏を枢軸国として存在しており自分たちがリーダー扱いされていないということであり、そのような機構を心から支持する気にならないということです。
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一番手扱いされないと機嫌が悪いというのも困ったものですが、EUを少しでも知っている者は、英国が影響力を持っていないなどと考えない、とティルフォード氏は指摘する。英国は対米、対欧の親密な関係を利用することで影響力を発揮することができてきた。つまりEUに加盟していることで英国は国際社会において実際以上に大きな力を持っているかのように振る舞うことができた。英国はむしろ好き勝手に振る舞うことが許されてきたのだ、と。例えば共通通貨であるユーロを導入することなしにEUの単一市場への完全なアクセスを享受してきている。さらに人間の自由な往来を保障するシェンゲン条約への加盟もしなくて済んでいる。ティルフォード氏に言わせると
- が、英国のエリートにとってその程度の影響力では全く不十分なのだ。彼らにしてみればEUのさまざまな機関が「充分に英国的でない」ことが気にらないというわけだ。
But this kind of influence was never enough for much of the country’s elite. For them, the EU’s institutions never looked sufficiently British.
ということになる。
いずれは再加盟?
ティルフォード氏は「EUを離脱した英国は、いずれは現実に直面することになる」(reality will eventually kick in)と言います。彼の言う「現実」とは何か?それは英国が将来においてEUに再加盟する必要が出てくるということなのですが、
- さまざまな可能性を考慮してもいずれはそうなるが、その場合は再加盟のために不利な条件ものまなければならないということであり、再加盟を果たしたとしても、一度失った英国の影響力を再び取り戻すためには、少なくとも20年はかかるだろう。
In all likelihood, it eventually will, though on inevitably worse terms. And it will then have to spend the next 20 years painstakingly rebuilding the influence that it so casually threw away.
というのがティルフォード氏の見解であります。
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▼今から1年半も前に書かれたエッセイなのですが、基本的に当たっていると言わざるを得ない。英国人と話すると、極めて頻繁に出てくる言葉が「我々はそんなことはやらない」(That's not the way we do things)という言葉です。「自分たちはやらない=万国共通で悪いこと」という図式が出来上がっているように思えてしまう。「ことの善悪は自分たちが決める」というわけです。他人が自分たちに従うことはあっても、自分たちが他人に従うなんて、あり得ない・・・。
▼ちょっと興味深いアンケート調査があります。英国は3月29日をもってEUを離脱しなければならないのですが、現在の混乱ではこの日に離脱は難しいかもしれない。というわけで、英国の離脱日を延期することについてEU加盟国のいくつかで意見を聞いている。結果は次のようになっている。
▼フランス人とドイツ人だけが「延期には合意すべきでない」とする方が多く、北欧諸国はどれも「すべき」の方が上回っている。で、英国人は?もちろん「同意すべし」の方が多い。自分に甘いのです、英国人は! |
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3)強硬離脱派の言い分
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2番目に掲載した「英国の特権意識」を痛烈に批判するサイモン・ティルフォード氏は、強硬離脱論を叫ぶ人びとが「英国自身の利益を阻害している」として、いま離脱を実現させたとしても、いずれは再加盟を要請せざるを得なくなると言っている。
2016年の国民投票が行われた頃は、BREXITにもソフトとハードがあるなんてことは全く話題にもなっていなかったのに、今ではこの両派が犬猿の仲のように対立している。なんだかさっぱり分からないという状況なのですが、BREXIT Centralという強硬離脱派のサイトに掲載されたビル・キャッシュ(Sir Bill Cash)という保守党議員(78才)によるエッセイは
- In every aspect of British life there are positives to leaving the EU without a deal
英国人の生活のあらゆる側面において、合意なくEUを離脱すべき積極的な状況になっている
と言っている。
このエッセイは1月15日にメイさん提案の協定案が大差で否決された直後に書かれたものであり、キャッシュ議員によると、メイさんのソフト案が否決されたということは、英国にとっての選択肢は「合意なき離脱」(Brexit
with no deal)しかないということになる。議員が強調するのはEU離脱が英国経済に与える好影響なのですが、離脱後にWTO(世界貿易機関)の加盟国として国際貿易を推進することで向こう15年間でGDPが現在よりも7%、金額にすると1400億ポンド上昇することになるというわけで・・・
- 自分たちは時として自分たち自身を衰退した存在と見なすことがあるが、誰も英国のことをそのようには見ていない。反対だ。世界は英国が自らをEUの官僚主義から解放し、グローバルな貿易超大国として登場することを待ちのぞんでいるのだ。
Nobody else sees us in the drab, declining way we sometimes see ourselves. By contrast, the rest of the world is waiting for Britain to shake off the tin-pot diktats of Brussels and emerge as a global trading giant.
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ビル・キャッシュによるならば、これまで英国を牛耳ってきたエリート層は何かというと「英国は老大国」という言葉で自分たちを否定的に語ることを常としてきたし、EU離脱についても負の側面だけを語ることで「怖がらせ作戦」を展開してきた。しかし・・・
- EUの規制から開放された英国は、1980年代にマーガレット・サッチャーが行なったような経済的な大改革を実行する自由を手に入れるのだ。そうすることによって富を生み出し、国中に経済成長をもたらすことができるのだ。
- But outside of EU rules we are free to recreate the ‘big bang’ of the 1980s
when Margaret Thatcher successfully managed to free the parts of the economy
which create wealth to do what they do best, boosting growth across the
country.
というわけです。要するにEUによる官僚的な縛りから解放された英国経済にはバラ色の未来が待っているのだというわけで・・・
- ダイナミックな技術力を有する英国の労働力、英語という言語、さらにはWTO加盟国として享受するグローバルな機会、民主主義と経済面における自由がもたらす浮き立つような雰囲気をもってするならば「合意なき離脱」(exit without a deal)こそ、英国が喜んで迎えるべき道なのだ。
With our dynamic skilled workforce, the English language, and our global opportunities under WTO rules, a rejuvenating atmosphere of freedom - both democratic and economic - means an exit without a deal is what Britain can now embrace.
ということになる。つまりEUのような巨大な機構に縛られることなく、独立独歩我が道を行くGlobal Britainこそが英国のあるべき姿であり、経済的な繁栄を約束するものなのだ・・・と言っているわけです。 |
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▼上のグラフは2016年に行われた国民投票から現在までの世論の推移を表しています。「EU離脱という国民投票の結果は正しかったのか?」という問いに対する答えの推移なのですが、投票後1年間ほどは、わずかとはいえ「正しかった」とする意見が多かった。なのにそれを過ぎたあたりから「誤りだった」(EU離脱は誤りだ)という意見が上回るようになり、昨年の夏あたりからその差が開くようになっている。ビル・キャッシュ議員が言うように、反対派による「離脱なんかしたらタイヘンなことになる」という「怖がらせ作戦」が功を奏しているという見方もあるし、それは当たっている部分もある。しかし、あの国民投票の結果自体が離脱派による、かなりどぎつい反EUキャンペーン(中には誤った情報に基づくものもあった)のお陰であることも間違いない。 |
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4)いつもどおりには戻れない英国の政治
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The Economist誌の"Britain"のセクションに"Bagehot"(バジョット)という名前のコラムがあります。英国で起こっていることに対する解説と評論なのですが、その多くが政治の世界に関する記事で占められている。2019年1月17日付の同欄のタイトルは"The
great rescrambling of Britain’s parties"というものだった。メイさんがEUと合意した離脱案が「歴史的大差」で否決されてから2日後に掲載されたものです。「英国政治において政党の離合集散現象が起こっている」というわけですが、
- The country may be headed for a repeat of the 1850s
英国は1850年代の繰り返しに向かって進んでいるのかもしれない
とも言っている。
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19世紀半ばに穀物法の廃止をめぐって政党間の対立が続いた時期があったのですが、現在の状況も同じようなものである、と。あの時は混乱の中から自由貿易を推進しようという政治勢力が力をつけるという現象があった。21世紀の現代における「混乱」はBREXITをめぐる政治状況のことを言っているのですが、政府が権威を失う一方で政党は内部分裂して、異なる政党の派閥同士が「同盟」を組んだり・・・という具合で、ここ何十年もの間言われてきた二大政党制の崩壊が現実のものとなっている。
メイ首相がEUとの交渉の結果として議会に提案した離脱に関する合意案が下院において歴史的な票差で否決されたのですが、あの際、保守党議員は3対1でメイ提案に反対票を投じた。英国政治における保守勢力の解体(disintegration)です。で、直ちにメイ政権に対する不信任案を提出した労働党だったけれど、これも否決された。労働党はいわゆる「合意なき離脱」(BREXIT
with no deal)に反対という点では党内が一致している。しかし国民投票のやり直しについてはコービン党首が反対している一方で労働党議員の間では賛成意見が多い。つまりこちらもまた解体一歩手前という状態であるわけです。
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首相への質疑応答の際に、メイさんの真正面に坐った労働党のコービン党首が「あほな女」(stupid woman)とつぶやいたということで議場が揉めたことがある。12月半ばのこと。上の写真は下院の保守党議員がバーコウ議長(右端)のところへ歩み寄ってコービンへの罰を要求しているところ。結局、証拠不十分ということで特に罰は課されなかったのですが、この大事な時期に・・・と眉をひそめる向きも。 |
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英国政治における対立が昔のように「労働党 vs 保守党」の左右対立ではなくなって、EUをめぐる「離脱 vs 残留」という対立になっている観がある。実はEUをめぐる下院議員の間の対立には4グループあって話が実にややこしくなっている。
- European Research Group:約40人の保守党議員から成るハード離脱派。
- 再投票推進派(People’s Vote):超党派だが労働党右派議員が中心。このグループは事実上のEU残留派。
- 穏健離脱派:2016年の国民投票の結果を尊重しながらBREXITによる経済的なダメージを小さくする。これはメイさんらのグループ。
- 離脱はするが「欧州経済領域」(European Economic Area)への加盟によってEUの単一市場や関税同盟への加盟を続ける。
このうち1)の「ハード離脱派」は、哲学的には徹底的な「小さな政府」主義者で、英国を税金も規制も少ないシンガポールのような国(Singapore-on-Thames)にすることを目指しているのだそうです。
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「EUとの関係」ということだけから見ると、このような分裂状態であるわけですが、保守党についていうと強硬離脱派の中には新党結成もやむなしという声もあるけれど、「コービンを首相にしてはならない」という点では意見が一致しているのだそうです。むしろ労働党の方が「残留」指向の中道右派が新しい中間政党を作るために党を割ることも考えられる。つまりこの先何がどうなるのか、さっぱり分からないのですが、The
Economistのコラムニストによると
- この混乱の中で一つだけはっきりしていることがある。それは、英国政治がBREXITの狂騒劇を生き延びたあとはいつものとおりに戻ると考えることが月に向かって遠吠えするようなものだ。
One thing is clear in all the confusion: anyone who thinks that Britain can go through the madness of the Brexit drama and then revert to politics as normal is howling at the Moon.
とのことであります。つまり当分は「いつものとおり」に戻るなんてことはあり得ないということであります。 |
▼戦後の英国政治は(非常に極端に分けると)資本主義の保守党 vs 社会主義の労働党を基盤とする二大政党の争いだった。振り子が左右に揺れるような「振り子政治」(pendulum politics)とも言われた。それがサッチャーの登場で保守党政治が1979年から97年まで18年間も続いた。振り子が右に振れたまま止まったわけ。ついで97年のブレア政権の登場から2010年までの13年間は労働党政権が続き、以後現在までの8年間は保守党政権というわけで、以前ほどには振り子が揺れなくなってしまっていた。
▼The Economistのいわゆる「いつもどおり」の政治というのは、2016年以前の「左右対立」の政治ということだと思う。ただキャメロンの頃の政治は保守党が労働党的に、労働党が保守党的になりがちな政治だった。つまり2大政党間の違いが分からなくなりつつある政治です。2016年以来の政治を見ていると、EUに対する態度をめぐる対立のようになっている。少数とはいえ保守党の中にはEU離脱反対の人もいるし、労働党の中には離脱を叫ぶ人間もいる。つまり両党ともまとまらないわけです。そのすき間を縫うようにして反EUの独立党(UKIP)や親EUの自民党(Lib-Dem)が市民権を得たりして・・ひょっとすると英国も多党化の時代に入ったのかもしれない。 |
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5) どうでも英和辞書
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Xの書き順
あなたはアルファベットの "X" という文字をどのような順序で書きます?むささびは、まず右上から左下に向かって斜め線を書き、それから左上から右下に向かって線を書きます。それが当たり前だと思っていました。が、中には最初に左上→右下、次に右上→左下という人もかなりの数いるのですね。でもDaily Mailによると英国人はそのどちらでもないらしい。最初に「左上→右下」なのですが、その次が「左下→右上」とくるのだそうです。あるいは最初に「左下→右上」で書いて、次に「左上→右下」という人もいるのだとか。斜め線を下から上に向かって書くという感覚が、どうも分からない。
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アメリカ人(とむささび) |
英国人(と世界の変人たち) |
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実は "X" をどう書くのかというのは、Sixers Smaseyという人物(アメリカ人女性)がツイッター上に8種類の書き方を投稿して話題になったものなのだそうで、いろいろなコメントが寄せられていて笑ってしまいました。
- Xの線を下から上へ書く人間は、トイレでペーパーの上下を間違ってホルダーにはめ込むような人間に決まっている。
- 「左下→右上:左上→右下」などとやる人間はどこかが「異常」(insanity)なのだ。
- 二つの斜め線を両方とも「下から上」へ書くのは "S" の字を下から書くようなもので、アタマがおかしくなってくる。
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6)むささびの鳴き声
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▼沖縄の米軍普天間飛行場を名護市辺野古へ移設する計画をめぐる県民投票が、選択肢を「賛成・反対・どちらでもない」の三つにすることで県内すべての自治体で行われることになったのですよね。ある新聞記事によると、沖縄県の条例では最多となった票が全投票資格者の4分の1に達した場合、知事はその結果を尊重し、日米両首脳へ結果を通知すると定められているけれど、移設工事をとめる法的拘束力はないのですね。それでも沖縄の「民意」がどのようなものなのかを数字で表すことができるのだから、将来この問題ついてさまざまな議論が行われる際の参考資料としては大いに意味のある投票であるわけですよね。
▼実はBREXITをめぐる国民投票も同じで、実施前に定められた「EUに関する国民投票法2015」(European Union Referendum
Act 2015)では、投票の結果が「参考資料」として(consultative)政府の決定に影響を与えることはあるけれど、英国がEUを離脱するかどうかを最終的に決めるのは国会であるとなっていた。にもかかわらず国民投票で「離脱」の票数が上回ったというだけで、それが「国民の意思」(people's
will)とされ、事実上の拘束力を持ってしまった。それを法律違反だとした裁判官は大衆紙によって「人民の敵」(Enemies of the People)として顔写真入りで非難された。あのあたりの英国はとても民主主義の国とは言えなかった。そのことが、国民投票から2年半も経っているのに未だに揉めている理由であるわけです。キャメロンに代わって登場したメイ首相も同じような姿勢で「離脱」そのものについて再度国民の意思を問うようなつもりはないと繰り返し発言している。
▼にもかかわらず最近の世論調査でも「国民投票をやり直せ」という声は非常に強くなっているのですが、実施する場合にどのような質問内容にするのかが話題になっている。2016年の国民投票の選択肢は「加盟継続か・離脱か」という二者択一で、有権者は自分が好む方に印をつけるというものだった。しかし最近の混乱を見ていると、「離脱」にもソフトとハ-ドの2種類あるのだから、投票用紙に書かれる選択肢は「ハード離脱・ソフト離脱・EU残留」の3つにならざるを得ない。しかもハードとソフトの違いは普通の人には簡単に分かるものではない。となると国民投票の結果は法的拘束力を持たず、最終的には国会議員が決めるしかない・・・と思うのですが、そのあたりの声が全く聞かれない。このあたり沖縄の人たちの方がよほど民主主義を心得ている。
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▼前前号(414号)の「鳴き声」で、ジャーナリストの前澤猛さんからの情報として、中野刑務所(旧豊多摩刑務所)の「表門」を保存するかどうかの検討を東京都中野区が始めたところ、同区議会の自民党議員団が「教育環境に悪影響」として撤去することを呼びかけるチラシを区民の自宅に配布しているというのがありましたよね。再び前澤さんからの情報によると、これは正式に保存されることに決まったのだそうです。大杉栄、小林多喜二、荒畑寒村、三木清、河上肇らの社会運動家が治安維持法違反に問われて収監された刑務所の建物で唯一残った部分だったわけで、周辺には新しい小学校が建設されることになっており、「小学生にとっても、日本の近代を知る"教育環境"になる」と前澤さんは喜んでおります。
▼毎日新聞の記事によると、この建物は、後藤慶二という建築家の手になるもので「大正モダニズム建築の傑作」とされており、保存決定もそれが主なる理由とされているようです。むささびとしては建築物もさることながら、そこへ収監された人間および収監した側の人間のことをちゃんと伝える場として残してほしいわけです。ネット情報ですが、例えば小林多喜二は著書「蟹工船」(1929年発刊)の中で、当時の日本における朝鮮人労働者のことを書いている。
▼今回もBREXIT特集のようになってしまいました。もういい加減にした方がいいよね。2019年もついに2月、バカにしていたスーパーの「恵方巻」を初めて食べてみました。けっこう美味しいんですね。お元気で! |
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