musasabi journal

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418号 2019/3/3
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美耶子の言い分 美耶子のK9研究 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
きょうはひな祭り。敷地内の福寿草がついに小さな花を出しました。これからクロッカス、水仙、チューリップなどが咲いてくれるはず。それにしても植物の規則的生命力には驚きます。ある時期が来ると、必ず顔を出してくれる。有難いと思います。

目次

1)国籍はく奪:シャミマの場合
2)世界の年寄り事情
3)「現代奴隷」の周辺
4)再燃する安楽死論議
5)どうでも英和辞書
6)むささびの鳴き声


1)国籍はく奪:シャミマの場合

英国出身のシャミマ・ベガム(Shamima Begum)という 19才の女性が、4年前にISIS(イスラム国)が支配していたシリアに渡ったけれど、現在は生まれた子供と共に帰国することを希望している、彼女の帰国を認めるべきかどうかで英国内の意見が分かれている・・・というニュースは日本のメディアでも伝えられましたよね。


サジド・ジャビド内務大臣
二重国籍のはずが
その後、サジド・ジャビド(Sajid Javid)内務大臣が彼女の英国籍をはく奪することを明らかしたりしている。彼女の場合は父親がバングラデッシュ出身者であることでそちらの国籍を有する二重国籍者であるとされていたのですが、バングラデッシュ政府が「彼女はバングラデッシュ国民ではない」と言明したりして、彼女を取り巻く環境はますます厳しくなっています。彼女自身は「ISISに加わったことや戦闘員と結婚したこと自体は後悔していない」と語っているのですが・・・。


そんな中で2月22日付のProspect誌が、英国ムスリム協議会(Muslim Council of Britain)という組織で副総長を務めるミダード・ベルシ(Miqdaad Versi)という人による寄稿文を掲載しています。結論から言うと、この問題についての英国政府の姿勢を疑問視しています。
  • シャミマ・ベガムという人間を好きであろうとなかろうと、彼女の問題についての政府の対応には誰でも不安を感じる 
  • You don’t have to like Shamima Begum to be worried by the government’s handling of her case
というわけです。この協議会は英国内の約500団体をまとめる組織で、英国最大のイスラム関連組織です。

庶民感情におもねるな
ベルシ氏がエッセイの中で繰り返し強調しているのは、今回の国籍はく奪という政府の決定がポピュリズムにおもねるもの、庶民感情に受けようとするものであるということです。その「底意地の悪い庶民感情(insidious populism)」の基盤になっているのが、白人でない英国人に対する偏見であり、その象徴とも言えるのが2014年移民法(2014 Immigration Act)です。これはメイ首相が内務大臣であった頃に作られた法律で、それまで以上に「外国」(英連邦諸国も含む)からの移民を規制することを目的としていた。この法律の目的に関するメイ内務大臣(当時)の次の発言は有名です。
  • 英国は不法移民に対しては、大いに厳しく対応する。
    We’re going to give illegal migrants a really hostile reception


「国籍」と人種差別

もちろん政府は非白人の英国国籍保持者を差別するなどということは言わないけれど、テロリズムに対する政府の権限強化対策の一環として、それらしい国からの移民が多く暮らすコミュニティへの監視強化のようなことが行われるということであり、「英国的な背景を持った白人英国人」(white Brits with British heritage)には起こりえないパスポートはく奪などということが行われるということです。
  • 英国生まれで英国育ちの女の子への取り扱いが、たまたま祖先がバングラデッシュ出身であるということだけで、白人の両親を持つ少女への扱いとは違うなどということがあっていいのか?民族的な背景がこのような扱いの根拠になってもいいのか?
    But can it really be right that a girl born and bred in the UK, who happens to have Bangladeshi heritage, is treated differently to a girl who has white British parents and poses a similar security threat? Should ethnic background really be a factor?
と、ベルシ氏は言っている。

メディアが煽る差別
ベルシ氏によると、北アイルランドの住民はそのほとんどが、英国(UK)とアイルランドの二重国籍者なのだそうですね。その北アイルランドでは今でもテロ事件が起こっており、容疑者が逮捕されたりしているけれど、国籍はく奪という話は聞いたことがない。なぜならそれは白人だから・・・。

 

 ベルシ氏によると、最近の英国ではメディアによってあおられたイスラム教に対する右翼的偏見がひどくて、イスラム教徒が多く暮らすコミュニティは「近づかないほうがいい場所」(no-go area)とされていたりする。ジャビド内務大臣の強硬姿勢は長い目で見た国益を考えたというより、英国全体に拡散された反イスラム的な感情に迎合してしまった結果が招いたものであり
  • そこが私には怖ろしいのだ。
    And that scares me.
ということになる。
 
▼シャミマ・ベガムの国籍はく奪の善し悪しについてアンケート調査すると、圧倒的多数の英国人がこれに賛成している。これが30~40年前に英国を席巻したIRA(アイルランド共和国軍)のテロリストだったら国籍はく奪自体が話題にもならなかったはずです。英国の人びとにとって、IRAはある意味自分たちの歴史が生んだ「内なる問題」であるのに対して、ISISのテロは英国人にとっては「外からの脅威」としてしか考えられないということなのでしょうね。日本人にとってのオウム真理教のテロ行為は「内なる問題」なのか「外からの脅威」なのか?あるいはそのどちらでもないのか?むささびは「内なる問題」のように思えてならないのよね。

▼シャミマの国籍はく奪という決定を行ったジャビド内務大臣はパキスタン系の人で、宗教活動を実践してはいないけれど自身がイスラム教徒なのですね。奥さんはキリスト教徒でこちらは常に教会の礼拝に出席する熱心さだそうです。

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2)世界の年寄り事情


英国の世論調査機関、IPSOS-MORIが「年を取る」(ageing)ということについての国際世論調査を行っています。

老後は楽しみか?
30か国の人びとを対象に意見を聞いたもので、「高齢者になることを楽しみにしている」(looking forward to old age)と答えた人は10人に3人程度であったそうです。もちろん国によって違いはある。例えばインドでは7割以上、トルコではほぼ7割が年寄りになることを肯定的に考えている。ただその種の考え方をする国は30か国中6か国だけだったそうです。年を取ることに肯定的な見方をする意見が最も少ない国の代表格がハンガリー(7%)と日本(10%)で、この二つが最下位を争っている。英国人で年を取ることに肯定的な人間は約3割だからおよそ世界の平均と同じといえる。

年寄りって何才から?
そもそも「年寄り」って何才くらいの人のことを言うのか?How old is old?という質問については、国によって結構違いがあるのですね。世界平均では66になると「年寄り」ということになるらしいのですが、スペインなんか74才ですよ。そうかと思うとサウジアラビアのように「年寄りの始まり=55才」のような国もある。日本も英国も66~68が年寄りの始まり年齢だそうです。

若い友だち・年寄りの友人
ちょっと面白いと思うのが「友人の中に15才年上(年下)の人間はいるか?」という質問に何パーセントの人間が「いる」と答えたのかというものです。「15才年上の友人はいるか?」という問いかけは比較的若い人に向けられたものであり、「年下の・・・?」は年寄に対して若い友人がいるのかどうかを問いかけるものですね。パーセンテージが高い国は異なる年代間の交流が盛んであるとも言えますよね。そのようにして見ると、30か国中の最下位を争っている、日本と韓国は他国に比べると年代間の交流が極めて少ない社会であるということになる。

年寄りと政治
BREXITのおかげで政治がメチャクチャという感じがする英国では、年寄の投票行動がそもそもの混乱の原因などとメディアでは言われている。けれど老人の政治参加に否定的な意見は、日本などよりは少ないのですね。日本では4割以上がこれに否定的なのですが、これは世界的にも3番目に大きな数字です。中国は日本のすぐ後の4番目。ロシアの18%という数字は30か国中の29番目、老人の政治的な影響を最も気にしていないのはオーストラリア(17%)だそうです。

もっと敬意を

老人に対する敬意について言うと、世界平均では5人に3人が「十分に敬意を払っていない」(people don’t respect old people as much as they should)と答えているのですが、どのような年齢層がそのように答えているのかはっきりしていない。一般的な傾向として言えるのは、南米の国々でそのように感じている人がいちばん多く、最も少ないのはサウジアラビア(26%)なのですが、日本・韓国・中国も非常に少ないグループに入る。いうまでもなく「もっと敬え」という人の割合が高いということと、年寄が敬われているかどうかは別問題ですよね。どちらかというとアジアの国の方が家族意識が強いので、「年寄りは敬え」という意識が高いということかもしれない。
 

技術進歩は老人の生活を楽にするか?
技術の進歩が高齢者の生活を楽にするか?Will technology make ageing easier?という質問に対する答えを見ると、日本人と中国人の感覚の違いが分かる。「楽にする」という答えの世界平均は5割を少し超えた程度なのですが、中国人の場合は8割が肯定で否定は3%しかいない。もちろん30か国中のダントツです。日本人は最下位で「楽にする」という人は4割しかいない。

▼アンケートの質問の中に「高齢に関連して思いつく言葉を挙げろ」というのがありました。票が最も多かった言葉は何だと思います?"wise"(賢い)です。全部で20語挙がっているのですが、ネガティブなものとポジティブなものが半々という感じで並んでいます。
  • ポジティブなもの:wise, respected, respectful, kind, happy, well-educated, hard-working, ethical, community-oriented
  • ネガティブなもの:frail, lonely, unfairly-treated, sad, poor, selfish, arrogant, lazy, materialistic
▼「高齢」と"materialistic"(物質的)が結びつきますかね。

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3)「現代奴隷」の周辺

2月2日付のGuardianのサイトに、ちょっと変わった本についての書評が出ていました。本の名前は"The Dark Figure"で著者はエイミー・ローマー(Amy Romer)という女性の写真家です。書評によると「フォト・ドキュメンタリー」という性格の本らしい。話題は「現代英国における奴隷の実態」(Slavery in Britain)で、書評記事のイントロは次のように書かれている。
  • 英国には約1万3000人の人間が奴隷状態に置かれている。"The Dark Figure"という本は、彼らが囚われの身となっている場所が、怖ろしいほどに当たり前のところに思われることを伝えている。
    About 13,000 people are kept in slavery in the UK. Amy Romer’s book The Dark Figure reveals the terrifying ordinariness of the sites of their captivity

人身売買の犠牲者として英国に連れてこられた「現代の奴隷」について書いているのですが、彼ら自身の写真は掲載されておらず、写真的にはもっぱら彼らが囚われの身となっていた場所の周辺が描かれているだけ。そのどれもが(英国人の眼から見ると)全くどうってことない感じの場所で、山奥とか人里離れた僻地というわけでもない。それが却って不気味な雰囲気を醸し出している(ここをクリックするとそれらの場所の写真を見ることができます)。それにしてもどのような人びとが、どのような事情で「現代の奴隷」のような環境に身を置くことになったのか・・・。


マンチェスター近郊のチョーリー
ベビーシッターの職を求めて

22才になるハンガリア人の女性が英国へ連れてこられたのは2013年のことだった。故郷の町でインターネットを見ていたら、ロンドンにベビーシッターの仕事があるという求人情報が出ていたので電話で応募したところ「採用」と決まった。ロンドンへ行くために首都のブダペストへやって来た彼女を待っていたのは3人の男で、強引に携帯電話を取り上げられてスロバキアからロンドンではなくマンチェスターに向かうバスに乗せられた。

マンチェスター近郊のチョーリー(Chorley)という町(人口3万5000)へ連れてこられたけれど、ベビーシッターの仕事など存在せず、3500ポンドでパキスタン人の男に売り払われた。結婚を迫られながらも異なる住所を転々とした後にCunliffe Streetという場所にある住宅に閉じ込められたいた際に警察に連絡して救出された。

 

マルクス・レーニン主義の集団生活?

今から6年前の2013年、南ロンドンのブリクストン地区にある住宅から69才になるマレーシア女性、57才のアイルランド女性、30才の英国人女性の3人が逃げ出して警察に保護を求めたことがある。彼らの場合は、マルクス・レーニン主義労働者協会を名乗る男(73才)とその妻(67才)に使用人として囲われ30年近くも一緒に暮らしていた。

3人の女性は肉体的に拘束されていたというより、洗脳と心身の暴力によって従わされていた。3人のうちの一人が拘束されている間にテレビで「強制結婚の犠牲者を救う会」のようなNPOの存在を知って電話をかけてきたことがきっかけで解放されることに。マルクス・レーニン主義の教祖を名乗る男は後になって児童虐待、婦女暴行などの容疑で逮捕され懲役23年の刑に服している。

 
チェルトナムの空き地

19人が奴隷状態で

イングランド中部のチェルトナムという町の外れにあるキャンピング・カーが駐車するための空き地で人間の死体が埋められているのが見つかったのは2010年のことだった。死体は2008年に行方不明者として家族から届けられていた男性のものだったのですが、死体の発見を機に警察が調べたところ、その敷地内にあった小屋のような建物に19人もの若者が衰弱状態で見つかり解放された。

そのうちの一人は、チェルトナムから100キロ以上も離れた町で暮らしていたのですが、2009年に道を歩いているところをクルマに乗った男に声をかけられた。「いい仕事があるのでやらないか」と言われて無理やりクルマに乗せられて連れられてきたのがチェルトナムの空き地のような所だったというわけ。

Guardianの記事には、この本の著者であるエイミー・ローマーの年齢が書かれていないのですが、2015年にイングランドのファルマス大学(Falmouth Univ)を卒業したということは、おそらく30才前と推測しています。大学でフォト・ジャーナリズムを専攻した彼女が現代奴隷について興味を持ち、取材を始めたのは在学中に父親(警察関係者)からこの話を聞いたことがきっかけだった。

エイミー・ローパー
実は彼女が大学を卒業した2015年、英国でThe Modern Slavery Act(現代奴隷法)という法律が制定されている。「奴隷」と言っても、何百年も前のように船に乗せられてアフリカから連れてこられるというようなものではもちろんない。「現代の奴隷」(modern-day slavery)とは正にあのハンガリア女性のように求人広告を見て自発的に応募したところ結果的に人身売買のようなネットワークに引っかかってしまったというものです。

それでも推定によると、今の英国には1万3000人もの「現代の奴隷」が存在すると推察されている。「現代奴隷法」のような法律が制定されたのは、労働者があたかも奴隷のように扱われているケースが頻発したからであるわけです。この法律は英国内で活動する企業のうち年間売り上げが3600万ポンド(約60億円)を超える企業は、自社および関連企業において行なわれている(かもしれない)現代奴隷と人身取引についての年次ステートメント(Slavery and Human Trafficking Statement)を公開する義務を課しました。この法律の日本語による解説はここをクリックすると読むことができます。

▼むささびが知らなかっただけで、「現代奴隷」は世界的な問題になっているのですね。オーストラリアのNPOであるWalk Free Foundationという組織が作成した「世界奴隷指数」(Global Slavery Index)は、世界167カ国における「奴隷」の実態を数字化して報告している。この中には強制労働、強制結婚なども含まれるのですが、最も少ないのが日本(167か国中167位)で、奴隷状態にある人間の数は3万7000人(人口1000人につき0.29人)となっている。英国の場合は13万6000人(ローパーの本では1万3000人となっているようです)で人口1000人あたり2.08人、中国は386万4000人(2.77/1000)となっている。最もひどいのが北朝鮮だそうで、奴隷人数が264万人なのですが、人口1000人あたりの人数が104.56人となっている。北朝鮮の人口は2500万だから、その1割以上が奴隷状態ということになる。

▼この報告書では日本は奴隷状態の人間が最も少ない国ということになっているけれど、東大の「多文化共生・統合人間学プログラム」なるもののサイトによると、日本の「外国人技能実習制度」には外国から疑いの眼が向けられており、アメリカ国務省などはこれを「人身取引」であるとして、日本は先進国最低ランクの「人身売買根絶の最低基準を満たさない国」に位置づけられているのだそうです。ここでいう「人身取引」は「強制的な手段で自由を奪い搾取すること」を意味している。

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4)再燃する安楽死論議

BREXITをめぐるゴタゴタで陰に隠れた形になっているけれど、現在、王立内科医協会(Royal College of Physicians:RCP)が会員約3万人の内科医を対象に「安楽死」(assisted dying)の是非を問うアンケート調査を実施しており、3月中には結果が公表されることになっています。現在の法律では英国では安楽死は許されないことになっているのですが、RCPの調査は法改正によって合法化されるべきかどうかを医療従事者に問うものとなっています。


RCPは5年前(2014年)にも同じ趣旨の調査を行っているのですが、そのときは
  • 44%:RCPは公式に反対の立場をとるべし
  • 31%:中立でよい
  • 25%:安楽死を支持するべき
という結果だった。つまり安楽死を支持する意見は4分の1程度だったということです。RCPはこれまでは公式には安楽死に反対の立場をとっているのですが、現在進行中のアンケートに関しては、賛否のどちらかが60%を超えない限り「中立」という立場をとることを言明している。


この件について2月5日付のTelegraph紙のサイトが、一般開業医の見方を伝えています。英国では地域密着型の一般開業医のことをGeneral Practioner (GP) と言います。別名・ファミリー・ドクター。最も普通の人に近いところで医療サービスを提供しているお医者さんですね。最近、そのお医者さん約1000人を対象に「安楽死」への賛否に関するアンケート調査が行われたのですが、約半数(55%)が「中立」と答えている。ただこれは医者としての患者への態度としての答えです。

では、お医者さん本人が「末期的症状で痛みが耐えられないほどひどい(terminally ill and suffering unbearably)状態」に陥った場合はどうか?と聞かれると、43%が「安楽死という選択肢は欲しい」と答え、そのような選択肢は要らない(つまり安楽死には反対)という意見の27%をかなり上回っている。


この問題については、2015年に英国の世論調査機関(IPSOS)が国際的なアンケート調査を行ったことがあります。ここをクリックするとその結果が出ていますが、主な国だけ取り出すと次のようになる。いずれも約2000人の成人から意見を聞いています。

今から5年前(2014年)のむささびジャーナル298号でもこの問題を取り上げています。「安楽死は権利だ」という肯定論と「合法化は弱者を殺す」という否定論が掲載されており、両方ともいかにも「むささび」らしく、記事が異常に長い。ここでは肯定・否定それぞれの論者の言葉を一つずつ紹介します。

まず肯定論から。かつてカンタベリー大主教(Archbishop of Canterbury)という、英国国教会のトップの座にあった人物は次のように語っている。
  • 自分の愛する者が、苦痛に満ちた不治の病の最後の苦しみにあえいでいるのを眼にすれば、誰でも生きるということと死ぬということについての深い哲学的な問いかけをせざるを得なくなるものなのだ。
生きることや死ぬことに対する「哲学的な問いかけ」をするということは、盲目的に従来の考え方を受け入れるのではないという意味にとれます。この人は英国国教会のトップの座にいたころは安楽死に反対という立場だったのですが、それが変わってしまった。それは「閉じ込め症候群」(locked-in syndrome)という難病に冒された男性が、自ら希望したにもかかわらず「死ぬ権利」を否定され、苦悶の中で死んでいくのを眼にしたときだったと言います。

次に否定論を展開するのは現在のカンタベリー大主教(63才)で、The Times紙への寄稿の中で」次のように語っている。
  • 現在多くの高齢者が虐待され、冷遇されており、障害者も同じような仕打ちを受けている。そのような状況で安楽死が合法化されることで、これらの人びとが自ら命を絶つようなプレッシャーを感じないだろうと考えるのは甘い(very naive)というものだ。
安楽死を禁止している現在の法律を変えてしまうと、社会的弱者が「家族や社会に負担をかけたくない」とか「これ以上苦しみたくない」という理由で死を選択するケースが増えるはずだというわけで「英国をどんな社会にするつもりなのか?」(What sort of society would we be creating?)と安楽死肯定論者を批判しています。

▼この記事でむささびは"assisted dying"という英語を「安楽死」と訳しているけれど、正直言うとそれが正しいのかどうか自信はありません。BBCのサイトには自然死以外の死に方として次の三つが挙げられている。
  • Euthanasia(尊厳死):患者を苦痛から解放するべく意図的に生命を絶つ行為であり、医者の管理下で毒物を注射するような行為もこれに入る。英国(イングランド゙)では違法であり、殺人(manslaughter or murder)と見なされる。
  • Assisted suicide(自殺ほう助):他者が命を絶つ行為を実行することを意図的に助ける行為。例えば死につながる可能性がある強い催眠剤を与えたりすることがこれにあたる。これも違法。
  • Assisted dying(安楽死):尊厳死や自殺ほう助と異なり、末期患者にのみ適用される。違法。
▼亡くなったスティーブ・ホーキング博士は生前、「絶望から自殺するのは間違っている」とする一方で「死ぬことを選ぶ個人の自由を剥奪すべきではない」(We should not take away the freedom of the individual to choose to die)とも言っている。

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5) どうでも英和辞書
A-Zの総合索引はこちら 

Received Pronunciation:容認発音

Received Pronunciation (RP) という英語を英和辞書で引いたら「容認発音」という訳語になっていました。なにそれ!? ウィキペディアの説明を見たら余計分からなくなった。
  • イギリス英語の伝統的な事実上の標準発音である。世間にはイングランド南部の教養のある階層の発音、公共放送・BBCのアナウンサーの発音(BBC English)、王族の発音としても知られ、外国人が学習するのはこの発音である。クイーンズ・イングリッシュ(Queen's English)と呼ばれることもある。
要するに上流階級の人びとが使う英語の発音という意味で、「容認」(Received)というのは、その種のクラスの人間の間で認められた(accepted)言葉遣いということなのですよね。難しいのはこれが「発音」に関する言葉だから文字で説明するのは不可能に近いということ。

で、ネットを探したら"How to speak Posh English / Upper RP"というページが見つかりました。このページには、いわゆるRPの発音例が出ている。例えば"wire"は、むささびなら「ワイヤー」と読みますが、それでは英国の上流階級では「容認」されません。正解は「ワー」であります。ということは、tyre(ター)、admire(アドマー)、fire(ファー)、liar(ラー)なのよね。別の例としてはflower(フラー)、tower(ター)、power(パー)、shower(シャー)なんてのもある。というわけで "I admire the power shower"という文章を上流階級らしく読みなさいと言われたら
  • アイ、アドマー、ザ、パー、シャー
が正解ということに・・・。百聞は一見にしかず(seeing is believing)というより「百見は一聴にしかず」(hearing is believing)です。ここをクリックして聴いてみてください。poshだろ?な?な!?
 
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6)むささびの鳴き声 
▼米朝会談決裂を伝えるNHKのニュースを聴きながら、いろいろ感じましたね。片や隣国(メキシコ)との間に200憶ドル(2兆円以上)ものお金を使って壁を作ろうという大統領、もう一方は自国民に「首領さま!」とか呼ばれている封建国家のリーダー、この二人が握手して、一方が経済制裁の解除を、もう一方が完全な非核化を約束したとして、どのような世の中になるというのか?

▼NHKのキャスターが突然「いま入ってきたニュースです」と言うから、どのような大ニュースなのかと思って、一瞬聞き耳を立てたところ、聞こえてきたのは「外務省(日本の)幹部によると、米朝会談で拉致問題が議題として取り上げられたとのことです」ということだった。それでお終い。で、北朝鮮側はどのような反応だったのですか?そのことについて「外務省幹部」は記者に対して何と言ったのですか?その情報もないのに「ニュース」だなどと言えるのですか?

▼昨日(3月2日)の『報道特集』(TBS)が米朝会談の話題を取り上げていたのですが、その中で北朝鮮のケソン工業団地でビジネスをやっていた韓国の経営者たちがハノイ会談の失敗について、涙を流して残念がっていたのが非常に印象的でした。会談が失敗に終わったことで、何やらうれし気な様子さえ感じられたNHKの皆さまとは大違いでありました。事実、「会談が失敗したのは日本にとっては良かった、成功して朝鮮半島の非核化が始まると韓国、中国、ロシアと違って日本はつんぼ桟敷に置かれるだけだ」という趣旨の発言をする「専門家」がいましたよね。置いてきぼり恐怖症の哀しさです。

▼ところで(ハノイの会談とは関係ないけれど)ネットを流していたらAJAAというサイトに遭遇しました。成蹊大学という大学の学生が作っているサイトなのですが、この大学の卒業生(1977年)である安倍晋三のやっていることへの抗議を意図して作られているようなのです。次のような書き出しになっている。
  • 私たち成蹊大学後輩一同は、あなたの安全保障関連法案における、学問を愚弄し、民主主義を否定する態度に怒りを覚え、また政治学を学んだとはにわかに信じがたい無知さに同窓生として恥ずかしさを禁じえません。
▼成蹊大学の現役の学生さんが作った組織なのだそうです。実は成蹊大学の教授、職員たちが「安全保障関連法案に反対する成蹊学園有志の会」を発足せてしているけれど、現役の学生は賛同者にはなれないというので、AJAAというのを独自で作ったとのことであります。

▼むささびは17年も前(2002年)に「日英グリーン同盟」という企画に関わったことがあります。日本と英国の友好促進のために英国から輸入したイングリッシュオークという木の苗木を日本全国に植えようという企画だった。詳しくはここをクリックすると書いてありますが、東京・武蔵野市の成蹊学園はその植樹先の一つでありました。これを植えたのは成蹊小学校の第27回卒業生だそうで、植樹の動機について、この学校が「英国のパブリックスクールを範として創立した学園」であることが謳われていた。いま英国でEU離脱を叫んでいる保守党の政治家の多くが「パブリックスクール」の出身者です。

▼もう春です。お元気で!

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