musasabi journal

第22号 2003年12月14日
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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
 2-3日前、結構寒かったので「私、寒いのがイチバン嫌いなのですよ」とフィンランド人に言ったら、その人「これが寒いっての!?これはフィンランドでは秋なのよね」とバカにしたように言っていました。12月初旬のことで、1週間前に行ってきたヘルシンキはマイナス5度だったそうです。それでも「案外暖かい」とのことです。それから前回の「ジャーナル」で「むささびは冬眠をするのでしょうか?」と聞いたところ「自分にも分からないが、気になる。分かったら教えてください」と言う「読者」がいました。むささびは冬眠するの?しないの?どなたかご存知ありませんか?

目次

@イングリッシュオークの周辺:大阪府豊能郡能瀬町「ARK」
A大学の授業値上げに揺れる
B短信1:ジングルベルは音のテロ
C短信2:ナホトカの悲劇
D短信3:脱獄囚が直ぐに捕まったワケ
EむささびMの<「〜てくる」の二つの用法>
FむささびJの受け売りフィンランド<仕事の満足度が最高>
G編集後記


1)イングリッシュオークの周辺:大阪府豊能郡能瀬町「ARK」
大阪・梅田から1時間弱行ったところにあるのがARK (Animal Refuge Kansai)。英国人女性、エリザベス・オリバーが運営する動物保護施設です。犬猫併せて400匹が収容されています。いずれも捨て犬・捨て猫。この敷地にもオークの木が植わっています。エリザベスは来日30年ですが「私はイングリッシュ」と開き直っています。あの神戸大震災の恐怖の中で彼女がまずダイイチにやったことは・・・熱い紅茶を一杯のむこと。そのくせ日本酒が大好物というヘンなガイジン。詳しくは、ここをクリックしてお読みください。がんばってるイングリッシュウーマンとイングリッシュオークににご声援を!

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2)大学の授業値上げに揺れる
東の島国の小泉首相が「抵抗勢力」とすったもんだやっているのが「高速道路」と「郵政」なら、西の島国のブレア首相が労働党内の抵抗勢力(つまり左派のこと)ともめているのが「病院」と「大学」です。このうち「病院」については以前「むささびジャーナル」でも簡単に紹介した「財団病院」という「半分民営化」のアイデアでした。これに対して労働党内から「病院経営は全国一律であるべし」という反対意見が出ていたのですが、こちらは僅差で下院を通過しました。

授業料は大学が決める で、現在問題になっているのが大学の経営に関するもので、授業料の設定について大学の自由裁量を認めようではないかということ。具体的にいうと現在一律の授業料(1125ポンド)を廃止して、上限を3000ポンドとして、各大学の設定に任せようというわけです。つまり自分たちの授業に自身のある大学は1125ポンドといわずにもっと高くとる自由を許そうということ。でも完全な自由ではなくて上限が設定される・・・中途半端な民営化という点で「財団病院」と発想が似ています。

理論的には授業料タダというところもあり得るわけですが、実際には授業料を安くすると大学の質が悪いと宣伝しているようなものだから、どうしても高い部分で設定するようになって、事実上の値上げ(しかも3倍近く)ということになります。尤も授業料は大学入学時や在学中に払う必要はなく、卒業後に就職して然るべき収入を得るようになってからローン返済という形も認められているので、必ずしも貧乏学生に対してアンフェアな改革ではない。それどころか働いて返すのだから貧乏な家庭の子息でも大学へ行く道が開けるのだから、むしろ彼らにはフェアな改革である、というのがブレア首相の言い分です。

大学の格差を広げる?
これに対する反対意見は主として労働党内からのもので、授業料の自由裁量は大学間の格差の拡大につながるというもの。大学は基本的にどこも同じ料金で同じ質の授業を与えるべきで、差別につながるような改革は不公平を助長するというわけです。「授業料は卒業後に払うのだから貧乏な学生にも不公平ではない」という政府の主張に対して全国学生連盟では「社会に出てから高いローンを払うくらいなら安い大学へ行く」という学生を生むことになり、結局は金銭に余裕のある人が高い大学へ行くということに変わりはないとしています。

要するに大学にお金がないのだ
The Economistによると、現在の英国の大学は学生が急増しているのにそれに見合うだけの資金がないので、教授の給料は安いし、教室も満員だし・・・というわけで大学の質そのものが急激に落ちているのだそうです。アメリカの場合、GDPの2・7%が大学教育に投資されており、その殆どが民間からの投資であるのに対して、英国ではGDPの1%、しかも殆どが税金による財政援助。1990年、大学生一人当たりの政府からのファンドは8000ポンドであったのに対して現在では5000ポンド。

要するに大学が貧乏なわけで、しかもアメリカと違って企業からの寄付というのが期待できないのであれば授業料の値上げしかないということ。それも授業料は(上限付きとはいえ)大学が自由に決めて大学間での競争を行えばいいのだというのが政府やThe Economistの考え方。The Economistなどは上限など設定すべきではなくて、授業料の決定は完全に大学の自由にゆだねられるべきだと主張したりしています。

外国学生に支えられる?!
保守党も政府案には反対なのですが、基本的には大学の資金不足は税金で賄おうという発想で、「学生数を減らせばよろしい」と主張しています。これについては大学をますます「限られた人たちの教育の場にする」として保守的なThe Economistも呆れています。自由民主党はどうかというと、「年収10万ポンド以上の高額所得者の税金を上げて、そこから大学の資金を捻出してはどうか」と言っているらしいのですが、これについては「自民党は他の分野についても同じようなアイデアを出している」として批判されている。

ところで貧乏な英国の大学を金銭的に支えている勢力の一つが外国からの留学生。特に中国からの学生は多いそうですね。彼らは年間8億7500万ポンドというお金を英国の大学に落とすそうです。これは英国における大学の全収入の7・4%にあたるそうです。大きいですよね、これは。

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3)短信1:ジングルベルは音のテロ
街中にジングルベルが流れる季節ですが「クリスマスソングは音のテロリズム」と抗議しているのがヨーロッパ大陸のデパートなどの売り子さんたちだそうです。オーストリアの労働組合によると「一日中お店でジングルベルを聴かされるとイライラして喧嘩早くなる」と主張しており、オランダとドイツの売り子さんの労働組合も全面的に賛成、オランダの労働者は「お客と違って我々は一日中スピーカーから流れるクリスマスソングにさらされている。特にジングルベルは音楽のアルカイダだ」として「店内のクリスマスソングの放送は一日4時間以内にして欲しい」と要求しています。一方ドイツの労働組合は、ジングルベルの洪水から逃れるための特別の休憩時間を要求しているとのことです。

ヨーロッパにもあるんですね、音のテロリズムが。日本はテロだらけ。駅を歩いていると「間もなく電車が入ります。順序よくご乗車ください」「安さ爆発、カメラのさくらや!」「宝くじをお買い求めの皆さん、こちらに並びくださーい!」等などの声が一度に聞こえてくる。
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4)短信2:ナホトカの悲劇
ロシアのウラジオストックニュースという新聞がナホトカで起こった「悲劇」を伝えています。ある男が冬の休暇をとって故郷へ帰ろうとしたのですが、車で出発する前に旅の無事をお祈りして貰おうと地元の教会に立ち寄ったのがまずかった。教会の外にとめておいた7万ポンドもするジープが盗まれてしまったらしい。お祈りを終えて出てきたらジープが消えていたというのです。中にはビデオカメラと2000ポンドの現金も入っていたのだとか。で、この人はショックの余り入院してしまったそうですが、警察では「最大の努力を払ってジープを探すつもりだが、見つかる可能性は極めて薄い」とコメントしています。 これ、言うまでもなく悲劇なのですが、気になるのはジープの値段です。PA通信社の記事にははっきりと7万ポンドと書いてある。ということは日本円でいうと1000万円を超えてしまいます。ジープというのはそんなに高いものなのですか!?

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5)短信3:脱獄囚が直ぐに捕まったワケ
ブラジルのサンパウロにある刑務所の門のところで男が二人逮捕された。この二人は実はその日に刑務所から穴を掘って脱獄に成功した11人の囚人の中の二人だったのです。で、何故この二人が刑務所の門の前で逮捕されたのかというと、自分たちが呼んだタクシーを待っていたのだそうです。彼らを捕まえた地元警察は「信じられないくらいのアホ(incredibly dumb)どもだ。これほど簡単な逮捕はかつてなかった」とコメントしているとか。何を考えていたのでしょうか、この二人は。ちなみに残りの9人の脱獄囚は未だ捕まっていないのだそうです。
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6)むささびMの<「〜てくる」の二つの用法>
「〜てくる」には、話し手の動作に付く「〜てくる」と他者が話し手(自分)に向かって何かをするときの「〜てくる」の、二つの違った用法があるなんて今まで気付かなかった。前者の使い方には「〜んです」という表現が持っているニュアンスに近いものがある。つまり、自分の体験を聞き手に分け与えたいという気持ちとそれを聞いた人が、「それで?」と更に聞いてくることを予想しての言い方ということである。

「先週関西に行ったんです・・」「へー、それで関西の何処?」とか。 (先週関西に行ってきました・・) これは、「先週関西に行きました」とは違うニュアンスを明らかに含んでいる文だ。この「〜てきた」は敢えて説明すれば「行って」それから「帰って来た」を一緒にしたものだと言って言えなくはないので、単に「行った」とは違うということは外国人にも分かって貰えるかもしれない。但し、英語の”I went to Kansai last week.”を「行ってきた」と言える日本語力はそう簡単には身に付かないかもしれないと思う。

後者の「〜てくる」は自分又は自分のテリトリーに向かって動作が行われる場合に使われる用法である。

「母が米を送ってきた」この「〜てきた」の裏には「私のところに」という言葉が隠されている。従って「母が米を送った」という文とは明らかに違う。「〜てきた」を使うことで、どこに(又は誰に)送ったのかは言わなくても分かるというわけである。

英語話者が”My mother sent me some rice.”を日本語に直すとき、「母が私に米を送りました」という少し変な日本文になってしまうことがよくあるのは、この「〜てくる・〜てきた」の使い方がなかなか身に付かないからだろう。

ここに第三者の話者がいた場合、「〜てくる」を付けるか付けないかで、その話者が動作主の側に身を置いているのか、受け手の側に身を置いているのかが、分かってしまうというわけだ。「AさんがBさんに電話をかけたんだって」と「AさんがBさんに電話をかけてきたんだって」とでは、話し手がどちらの立場で発言しているのかが明白になる。たった2文字を使うか使わないかで言外の状況が掴めてしまうなんて、日本語はウッカリとは使えない微妙な言語である。

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7)むささびJの受け売りフィンランド<仕事の満足度が最高>
フィンランドの日刊紙、Helsingin Sanomatの12月12日号が伝えるところによると、フィンランド労働省が、フィンランド人1250人を対象に行った調査によると、フィンランドの労働者の45%が現在の仕事に満足しているそうです。これは過去10年で最高の数字であると同時に1990年代のどの年に比べても高いのだそうです。
この場合の「満足」には、例えば「仕事が安定している(リストラの可能性が低い)」「面白い(やりがいがある)」「自分の実力に合っている」などが入ります。それに比べて、仕事が不安定で面白くなく、しかも自分の実力の範囲を超えていると答えた人はたったの3%。要するにフィンランドのサラリーマンは皆さん結構ハッピーというわけなのであります。

この数字についてタルヤ・フィラトフ労働大臣は、最近の仕事カットなど余り明るくないニュースが多いなかでの数字だけに「(フィンランドの労働者は)驚くほど前向きだ」と評価するコメントを発表しています。

尤も労働問題の専門家の間では「一般的にはポジティブな結果と言えるが問題点もある」として、例えば最近病気による欠席日数が長くなる傾向にあるし、仕事そのものの意味について疑問に思ったりする人たちも増えていると報告しています。

フィンランドでは仕事上のストレスは減少する傾向にあったそうなのですが、今年になってまた上昇傾向にあるそうです。で、この傾向は残業日数の増加にも比例しているとのこと。 病欠がイチバン少ないのは54歳以上の人たちで、52%の人が病欠はしたことがないとしています。これは労働者全体の41%からすると「かなり高い数字であると言える」とフィラトフ大臣はコメントしています。病欠がイチバン多いのは公務員だそうで、仕事上のストレスが高いと訴えているのもこの人たちだそうです。

ちなみに仕事でイチバン不満に思っているのはというと、首都ヘルシンキと北の田舎のラップランドにおける労働者なのだそうです。
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 8)編集後記
 むささびジャーナルをお受け取り頂いている方の大半がマスコミ関係の方々です。私、英国についてもフィンランドについても「広報」を仕事にしてきました。その中でマスコミ関係の人たちとのお付き合いが最も重要な部分を占めていました●インターネットなどの発達で、必ずしも新聞・テレビ・雑誌だけが自分たちの伝えたいことを伝えるための手段ではなくなっているとも言えるかもしれない。しかしやはりマスコミの力は大きい●というわけで先日、自衛隊をイラクへ派遣するについての小泉首相の記者会見というのを生で見ていて、心底がっかりしてしまいました。小泉さんについてではありません。あの会見に出席して首相にいろいろと質問をしていたマスコミの人たちに対してがっかりして怒りたくなってしまったのです●詳しく言い始めると長くなるのでやめにして一言だけ。「あの記者たちは聞くべきこと(読者が知りたいと思っていること)を何も聞いていない」ということです。

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