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美耶子の言い分 むささびの鳴き声 どうでも英和辞書
 第25号 2004年1月25日
こんにちは。何人かの皆様には申し上げたことで、繰り返しで恐縮でありますが、私(春海二郎)、最近ウォーキングなをものをやっています。そうです、yes、ウィ、kylla(キュッラと読む。ちなにみフィンランド語のyesなんだとか)健康ウォーキングであります。イヤですねぇ。イヤです。そんなことまでして「健康」に「精出す」のがイヤなのであります。情けないじゃありませんか。そうでしょ?ついこの間まで、そんなことやっているオジサン・オバハンをバカにしていたのに・・・それが、それが・・・(あとは情けなくて声も出ない)。というわけで・・・今回は次のようなメニューになっとりますです。

目次

@臓器移植:Informed consentかPresumed consentか
A英国の大学教授の給料はアメリカの3分の1
B幸せの値段
Cマスター由の<「マスター由」というペンネームについて>
D短信
EむささびMの<WINGのスタート>
F編集後記


1)臓器移植:Informed consentかPresumed consentか
現在、英国下院で審議されている法案の一つにHuman Tissue Bill(人体組織法案)なるものがあります。何かというと臓器移植のための臓器提供者(ドナー)の数をもっと増やそうということを意図した法案です。

昨年(2003年)4月1日から6月30日の3ヶ月、英国にある256の病院をモデルに統計をとったことがあります。それぞれの病院で死亡した患者の遺族が死んだ人の臓器提供に賛成した数に関する統計であったのですが、49%が提供を拒否したのだそうです。臓器提供拒否率は80-90年代には30%であったことを考えると、英国では移植のための臓器提供者が相当の割で減っているというわけです。

現在の法律では患者本人が予めドナー登録をしているか、その家族が明らかに了解しない限り臓器を移植することはできないのですが、提出されている政府案では本人や家族の事前の了解が絶対に必要であるという点では現在の法律と同じですが、新たな変更としてそれぞれの病院に係員を置いて、患者一人一人に臓器提供の意思の有無を確かめさせるということがある。スペインではこの方法を採用しており拒否率が24%と極めて低いのだそうです。

英国保健省ではこのスペイン方式を採用してドナーの数を現在の1009万人から2010年までに1600万人に増やすとしているのですが、この法案については英国医師協会が大いに不満を唱えています。そのようなやり方ではドナーの数は増えないと主張しており、presumed consentという考え方を採用すべきであると言っております。

presumed consentと似たような言葉にinformed consentというのがありますね。患者や家族に知らせて了解を得たうえで手術や臓器移植を行うもので、日本語で言うと「納得合意」とでもなるのでしょうか。それに対してpresumed consentは患者やその家族が予め明確に「ノー」と言っていない限り、臓器提供に賛成していると「推定」しようというもので、「推定了解」とでも訳すべきなのかも。尤も推定合意と言っても自動的に(遺族の意思や希望を全く無視して)臓器を移植するというのではなくて、遺族には患者が臓器提供を「拒否はしていなかった」ということを告げた上でこれを進めるもので、その時点で遺族がしっかりした理由を挙げれば臓器提供は行われない。

「推定合意」という概念についてロージー・ウィンタートン保健大臣は「臓器提供は提供者が積極的にこれを望むことが必要だ。単に拒否の意思を表明していないというだけで”了解”と解釈するのはおかしい。臓器は国家や医師や研究者のためにあるのではない」ときっぱりはねつけています。

現在英国には約5800人の患者が臓器提供を待っているのですが移植件数は年に2800だけ。年間400人が待ちリストに載ったまま死んでいくそうです。英国医師会の倫理委員長であるマイケル・ウィルクス医師は「提供される臓器の数とこれを必要とする患者の数の間のギャップがますます広がっている」としてpresumed consentこそがこのギャップを埋める最も適切な方法であると主張しています。 死者の遺族の49%が提供を拒否しているという数字についてですが、何故拒否をするのかというと、かなりの割合の遺族が「本人が(今生きていたら)合意したかどうか分からないから」ということを理由に挙げています。

presumed consentはちょっと聞くと無謀な議論のようにも思えますが、英国医師会の言うように「本人の意思が分からないという理由で提供を拒否した遺族の中にはこれを後悔するケースもある」という議論を聞くと、なるほど・・・と思えたりして。

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2)英国の大学教授の給料はアメリカの3分の1
むささびジャーナル22号で、現在英国で大学の授業料値上げが問題になっていることを報告しましたが、1月17日付けのThe Economistの記事を読むと如何に英国の大学の財政が厳しいか察しがつきます。あのオックスフォード大学の学生が払う授業料は年間1125ポンド(約22万円)だそうですが、学生一人当たりにかかる教育コストは何と18,600ポンド(およそ370万円)なのだとか。つまり教育コストに占める授業料の割合は10%にも行かないわけですよ。

The Economistは「このギャップを見ると英国の大学とアメリカの大学における教授への待遇の違いが説明できる」としています。例えば給料はアメリカの3分の1なのに教える学生の数は、オックスフォードの場合でアメリカのプリンストンやハーバードの教授の2倍もいるのだそうです。にもかかわらずアシスタントの数はアメリカの半分。というわけでオックスフォードの教授はゼロックスコピーも自分でとらなければならない。

現在政府が考えているのは、授業料は最高3000ポンドまで値上げを許すということですが、それにしたって足りないですよね。オックスフォードの場合、教育費用の58%が学術会議の開催とか寄付金によっているのですが、2008年には外国人留学生(授業料が高い)を7%から12%に、大学院生(これも授業料が高い)の数を現在の5400人から7000人にしようとしています。エリート教育もタイヘンです。


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3)幸せの値段
人間、金さえあれば幸せってもんじゃない・・・でもお金があると幸せですよね。というわけで、「幸せ」をお金で買うといくらかかるのか?Yahoo!が英国人2500人にオンラインで聞いてみたところ、答えは265万8144ポンド(約5億3000万円)であったとのことです。どのような質問をしたのかというと「理想の住宅」「理想の車」「理想の結婚相手」「理想のデートコース」「理想の飲み物・食べ物」「理想の休暇」等など、とにかくideal(理想的)なものを各自リストアップしてもらい、それを金額で表わしてみたというわけ。

要するに平均的英国人が「理想」と考えるライフスタイルを実現するための費用が約270万ポンドと出たということです。ちなみに、これをアンケート調査参加者の平均年収で割ると94年分になるのだそうであります。94年ですよ!つまり結局「幸せ」は金では買えないってことかな!?

で、興味深いのは幸せの値段が男と女では違っていて、女性の場合で270万ポンドですが、男になるとちょっと下がって260万。女の方が欲張りってことです。それから年齢によっても違うのです。24才以下の場合だと255万で済むのですが44才-55才のオジサン・オバサンは290万もかかるそうです。60を超えた私みたいな人間はどうなのかというと・・・調査対象にもなっていないみたいです。

結婚の値段 
一方、これとは別にWeddingplanという結婚式サービス会社の調べによると、英国における結婚式の費用が高騰しているとのことです。昨年の平均費用は15,244ポンド(約300万円)だったのですが、これは一昨年比で7・5%もの上昇なのだそうです。物価のインフレの3倍だとか。で、英国の場合、何にどれだけ使っているのか、主なものだけ挙げてみると、披露宴(レセプション)が5079ポンド、新婚旅行が4537ポンドときて、結婚指輪(1750ポンド)、花嫁のウェディングドレス(758ポンド)などと続きます。ちなみに花婿の衣装代は136ポンドでこれは貸衣装。それから教会で結婚する場合、平均357ポンドだそうです。

結婚式を挙げるのにイチバン高い町がロンドンの18、154ポンド。イチバン安いのがイースト・アングリアというところで13,860ポンドだそうであります。円換算は自分でやってください。1ポンド:200円あたりでやっておくと間違いないです。だいいち計算がしやすい!


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4)マスター由の<「マスター由」というペンネームについて>
むささびジャーナルでのデビューに伴い「さて自分のペンネームは何にしようか」と考えておりました(そう、格好だけは1人前なのです)。実名の春海由ではあまりにも芸がない。イチローのようにファーストネームをカタカナで「ユー」ではちょっと短すぎる。むささびJ、むささびMにならって「むささびY」または「むささびU」、うーん、僕の顔はどう逆立ちしてもむささびには見えないし、だいいち僕が「むささび」を名乗るなんて恐れ多くてとてもできない。

「グレート春海」「タイガー春海」というとまるでどこかのタレントかプロレスラーみたいでとても自分の柄には合わない(といいながらも自分にはタレントの才能があると周囲に豪語している僕ですが)。博士課程にいるということで「ドクター由」なんかいいかも。でもまだ博士号をとっていないのに自分をドクターと呼ぶなんておこがましい。だいいち僕は、博士号をとってからでも人からは「ドクター春海」とか「春海先生」「春海博士」なんて呼ばれるのは絶対に嫌なのです。何だかそれっていかにも「雲の上の存在」として普通の人とは距離をおくみたいで、いろいろな人と友達になりたいという僕にはどうも合わない。

それこそ日本だったら「春海さん(君)」「由さん(君)」、アメリカだったら「ユー」のままでいたい。 ところでペンネームの話に戻ると、僕の場合博士号はまだ取得していませんが、修士号だったら持っているので、「マスター由」はどうだろう、ということになりました。マスター、というとまるでどこかのバーテンみたいですが、まあそのほうが親しみがあっていいんじゃないですか?「マスター、ジントニック1杯!」なんてね。ということで「マスター由」として、近所のバーのカウンターで飲みながらこの原稿を書いております。「マスター、ビールもう1杯!」(あっ、日本語通じないんだっけ…。)

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 5)短信
 
水牛誘拐 
Asian News Internationalという通信社によると最近インド中部で水牛(バッファロー)泥棒が流行っていて警察を悩ませているそうです。1週間で何と213頭もの水牛を泥棒の手から解放したとか。「盗んだ水牛を返して欲しければ身代金をよこせ」というケースが多いそうで、泥棒というよりも誘拐ですね。被害にあったラム・シャライというお百姓は「あたしの牛を3頭盗んで1万ルピー(約2万円)よこせと言いやがった。断ったけどね」とコメントしています。断って水牛はどうなったのか?そのあたりのことは書いてありません。

女性差別発言で裁判官が辞任  
New York Postが伝えるところによると、アメリカのニューヨーク州にあるハンタービレッジという村の裁判所の裁判官が「DV(家庭内暴力)事件は裁くだけ時間の無駄。何故かというとたいていの場合、女の方がぶたれたがっているのだから」というニュアンスの発言をしてクビになってしまったとか。あるDV事件の裁判にあたって女性の被害者に対して「女はたいてい乱暴されたがっておる」発言をやってしまった(とされています)。これが問題になって裁判官資格審査会が開かれようとしている矢先に自ら辞表を出して辞めてしまった。「どうせパートタイムの裁判官だし、無理に続けたいとは思わない」というのが弁護士を通じた彼のコメント。

きれいな女性に口笛を吹くとセクハラ  
きれいな女性が歩いていると口笛を吹きたくなることってありますね。オランダのDe Telegraafという新聞が伝えるところによると、ロッテルダムの電車の駅で女性に口笛を吹いた男は場合によってはセクハラ行為として30ポンド(約6000円) の罰金を払わなければならないというとんでもない法律が出来たそうです。尤も女性が「不愉快だ」と訴えればのことなので、必ずしも口笛即罰金ということではない。警察によると中央駅というのがイチバンこの手の「セクハラ」があるところなのだそうで、女性をからかうためにだけ中央駅に来る男が結構いるのだとか。中には口笛だけでなくて、女性への嫌がらせにまで発展するケースが多いとのこと。これまでに5人の口笛男が罰金刑に処せられているのだそうで゛、「犯人」の一人は「ただガールフレンドになってもらいたかっただけなのに・・・」とぼやいていると報じられています。「物言えばくちびる寒し・・・」とか言いますが、オランダに行く男の人は気を付けたほうがいいと思います。

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 6)むささびMの<WINGのスタート>

WINGとはWe Introduce Nihon-Go.の頭文字をとって付けた我々の新しい日本語グループの名称である。言葉を身に付けることは「翼(Wing)」を身につけるのと共通した何かがあるような気もしたのでグループ名を考えているときに思いついたこの名前は自分でも傑作だと自負している。

Wings(複数形)ではなくあくまでもWing(単数形)であるという点も実は「敢えて・・・」と言いたいし、TeachではなくIntroduceというところも実はこのグループの最大の特徴なのだと言いたい。 日本語を母国語としている日本人が、日本語を使って外国人に教えるいわゆる「直説法」というものに、以前から疑問を持っていることは既に書いたことがあるが、それだけではなく、日本語を教えるのは日本語のネイティブ・スピーカーである日本人が絶対だという、いわゆる「(逆)ネイティブ信仰?」を、私にはどうしてもそのまま飲み込むことが出来ないのである。

それで、自分が少し出来るようになった日本語を自分と同じ国の出身者に、共通の母国語を使って使い方や意味を紹介(Introduce)してもらう場として、外国人にも我々のこのWINGの場を活用してもらえたらと考えた。「日本人が教えるいっぽう」というこれまでの日本語ボランティア・グループの常識を、一度変えてみたいと思ったのである。それに、人に何かを教える事によって新たに気付く事もあるし、既に身に付いていることをより一層確実にできることも大いにありうることなので、どちらにしてもプラスではないかと考えたのである。

人の心を表現する言葉は一通りとは限らないだけでなく、100%正しい言葉使いや正確な文法知識を、日本に住む外国人の皆がみんな求めていると思い込むこと自体、余りにも一面的な考え方ではないか・・・。料理のレシピを教え合うように、言葉についても自分のレシピを紹介しあってみてはどうか・・・というのがこのWINGの発想なのである。従って当然WINGのメンバーにはいわゆる資格や権威というものは不要で、必要なのは唯一「自分のレシピを分けてあげたい」という気持ちなのである。

1月19日、いよいよWINGの具体的な活動が開始した。これからこの我々の実験的(?)な試みがどのように機能していくのか、じっくりと見てみたい。何よりも「楽しいと感じながら何かが身に付く・・・」をイチバンに心がけて行きたいと思っている。 

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7)編集後記
 で、そのウォーキングなんですが、何がイヤだったって、歩いている人たちの「健康さ」がイヤですね。中にはアタシに「おはようございます!」なんて明るく朗らかに声をかける人もいるんでありますよ。イヤですね・・・あのテの快活さ・健全さ。やってらんないな、はっきり言って●私がかねてより個人的にご尊敬申し上げておりました、あるジャーナリストなんか、そんな私の自己嫌悪に追い打ちをかけるかのように「健康を保つための歩き方」なるペーパーまで書いて送ってきて、「ウォークをするときは恥も外聞もない!」などとおっしゃる●そこで、私「オレだって人間なんだ、恥も外聞もあるっつうの!」と電話で怒鳴ってやろうかと・・・思ったんですが、それも出来なくて。多分明日も歩いているでしょうね、情けないけど●ではまた。

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