1)ブレア政権、終わりの始まり?
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英国内の政治がどうなっているのかということについて興味のない方はご存知ないかもしれませんが、最近ブレア首相は「ひょっとして辞任?」ということにもなりかねない状況にありました。一つはむささびジャーナルでも報告した大学の授業料値上げ問題、もう一つはイラク戦争に関係する政府の公式文書(サダム・フセインが大量破壊兵器を所有しており、それを45分以内に発射できるという内容が書かれている)に絡んで政府対BBC放送の対立の問題です。
大学の授業料については「3000ポンドを上限として大学に授業料を設定する権限を与える」という政府提案の法案が辛うじて(5票差)下院を通過した。与党である労働党は野党に対して161もの議席数の差があるのに、今回の投票はわずかに5票差。いかに多くの労働党議員が反対票を投じたかということです。
もう一つのイラク戦争についての問題ですが、簡単に経緯を説明すると、2002年9月に政府が報告書を発表し、その中で「サダム・フセインが大量破壊兵器を所有しており、45分以内に発射することが出来る」と主張した。つまり「だからこの際イラクを叩いた方が国際社会のためになる」というブレア首相の主張の根拠になったのが、この書類だった。ところが2003年5月になってBBCのアンドリュー・ギリガンという記者が「45分以内云々は政府のでっち上げ(フセインの危険性を誇張するための)である」という趣旨の放送を行った。彼の主張の根拠になった取材源がデイビッド・ケリーという国防省の兵器専門家で、この人は7月17日に自殺してしまった。
政府はBBCのいう「でっち上げ」は断固否定、ハットンという人が率いる独立調査団がことの真偽を調査した。その結果、BBCの報道には「根拠がない」(unfounded)という調査報告がなされ、BBCの上層部が誤報責任で辞任。ブレア政府の全面的な勝利となった。
確かにBBCが誤報を犯したのかどうかという点については、ハットン調査団の報告はブレア首相を「シロ」としているのですが、どうも政治情勢は必ずしもブレア首相が願うような方向にはいかないかもしれないようです。例えばハットン報告書が発表され、BBCの幹部が辞任したあとの世論調査によると、31%がBBCを信用すると答え、政府を信じるという答えはたったの10%(49%が「両方とも信じない」)という結果が出ています。
またBBCの幹部辞任については35%が賛成しているのに対して、41%が国防大臣の辞任を、37%がブレア首相の辞任をそれぞれ求めている。 それから何と言ってもブレア首相にとって困るのは、イラクにおいて大量破壊兵器そのものが見つかっていないということですよね。ブッシュもアメリカの世論も「大量破壊兵器があってもなくてもサダムを追放したのだから戦争は正しかった」となるようですが、英国の世論はちょっと違っていて、それの有無は「どうでもいい」ことではない。
ブレア首相がこのままブッシュ路線を続けると、ただでさえ厳しい労働党内部の反対意見がますます厳しくなってきて、党首としてのブレアがあぶなくなってくるというわけです。 The Economistの1月31日号は、ブレア政権は労働党の内部から崩壊するというニュアンスの記事を掲載しています。イラク問題といい、大学の授業料といい、労働党内部にはブレア首相が党との相談なしに物事を進めることについての不満は相当に高まっている。
このあたり何やら小泉さんと似ていなくもない。もう一つ小泉さんと似ているのは、ブレアという人の政治家としての成功は、もっぱらかつての労働党に抵抗するということがベースになっていたということ。自民党の「抵抗勢力」と闘って人気の小泉さんと同じ。ブレアが抵抗する「かつての労働党」は産業の国有化とか強力な労働組合などに代表される労働党です。
現在のブレア首相がブラウン蔵相の支持なしには殆ど何もできないという状況にあることは確からしく、ブレアが労働党の党首になった1975年、ブラウンの間で”ブレアの次はブラウン”という了解があったかどうかはともかく、ひょっとすると今がその時なのではないか(Whether or not ten years ago there ever was any agreement between the two men over Mr Brown’s eventual succession, it may be time for one now)というのがThe Economistの結論。
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2)子供をダメな親から救うには?
英国政府が1998年以来進めている政策の一つにSure Start計画というのがあります。訳すと「初めが肝心計画」ということになるか?要するに健全なる青少年育成計画のようなもの。子供の人生の始まりにおいては親子関係が極めて大切であり、「良好な親子関係」なるものに恵まれた人間は将来幸せな人生を送る確率が極めて高いので、政府もそのために予算を出していろいろとお助けしましょうというのが趣旨。特に貧困地域の家庭の児童40万人を対象にした政策で、そのために様々な地域活動を奨励しており、2004年までには500を超えるこの種の活動が行われることを目標にしています。
Sure Startの例としてTelfordというところにある地域における父親の子育て参加奨励グループの結成があります。BBCが伝えているのですが、男たちが集まって3歳以下の子供たちに対する「父親としてのあるべき接し方」なるものを身に付けるための話し合いとかトレーニングなどをするのだとか。「子供の発達にとって男女両方の親が果たす役割は大きい」とペギー・ハリソンという地元の議員さんは絶賛しております。
12月20日付けのThe Economistによると、子供問題への経済援助の充実は現在の労働党政権が最も力を入れてきた分野で、1997年に政権についてから今日までその種の予算が64%も増加して、現在では240億ポンドにのぼっているのですが、それにさらに10億ポンドが追加された。 The EconomistによるとSure Start計画の大切なポイントとして「子供の貧困」をなくすことにあるらしいのですが、同誌も指摘するとおり「貧困」の定義が簡単ではない。
政府は中くらいの所得層の60%(もしくはそれ以下)しか所得を得ていない家庭を「貧困」としているのですが、それだと「中くらいの所得」のレベルが上がれば「貧困」のレベルも上がらざるを得ない。それに経済的な貧困層が子育ても下手ということにはならない。ブレア政府は97年に政権について以来英国における一番貧しい20%の家庭の生活を「1年間で2900ポンド分」向上させたことを誇りにしており、いわゆる片親家庭への援助も十分に行ってきたとしています。
子供が幸福な生活を送れるような政策を推進するのはいいのですが、問題なのはそうした政策が却って事を悪くすることもあるということで、例えば離婚した母親の片親家族を援助するのに税金を使うということは安定した夫婦・親子関係を保っている人たちにとっては不公平ということにもなる。 そもそも子を持った両親がどうあるべきか、good parenting(いい親であること)とはどのようなことを言うのかという問題については、英国政府は親に遠慮して何も言わないというのがThe Economistの指摘であり、アメリカなどの例によると親に対してビシビシ言ったほうがいいという結果が出ていると言っています。
「Sure Start計画は家庭における子供のしつけなどについては何も言わない」(The Economist)とのことで、お金はかけるけれど本当に子供のためになるようなことが行われているのかが極めて疑問であるそうです。「貧しい家庭の子供でも寝るときに親に本を読んで貰うとか、いつも親に一緒に遊んで貰うという経験をしている子供たちは結局将来いい生活を送るようになる」と言っています。 子供をダメな親から救うためにという名目で英国はpaternalism(父親的)の方向に向かいつつある、というのがこの雑誌の指摘で、そういう政府を持った社会をNanny state(お節介国家)というのだそうです。
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3)マスター由の<親しければ親しいほどラストネーム?>
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前回僕は、アメリカでは「ユー」とファーストネームで呼ばれることを好むと書きましたが、人によっては「ハルミ」でもいいのです。何故「人によっては」なのかというと、どうやらアメリカでは、親しい友人であればあるほど、ファーストネームではなくラストネームを呼び捨てにするという傾向があるらしいのです。反対に日本人だと、相手が親しい人であればあるほどファーストネームで呼ぶ傾向がありますね。実際に僕は高校、大学時代の親しい友達からは「ユー」ではなく「ハルミ」と呼ばれていたし、僕も彼らのことを「クリスチャン」「ジェフ」ではなく「モネー」「ギーツェン」と呼んでいました。
ただ、大学卒業後にちょっとだけ勤めたことのある某会社で、よく知らない隣のオフィスの年上の社員の人に「おい、春海!」と呼ばれた時にはちょっとむっとしましたね。「てめえなんかに呼び捨てにされる筋合いはねえんだよ!」ってね。だから1ヶ月半で仕事を辞めたというわけではないのですが。大学院に来てから知り合った人たちには「ユー」と呼ばれていますが、これは大学時代に比べると大学院の友人関係というのはどちらかというと表面的なところがあるからでしょう。
反対にアメリカの大学で教授と接する時は、大学と違って大学院では教授のことは「ドクター云々」ではなくファーストネームで呼ぶのが通常です。これは大学院レベルともなると、教授と学生の関係は師弟関係ではなく、むしろ同僚のような関係であることを反映しているのでしょう。僕も大学時代のアドバイザーは「ドクター・サオ」でしたが、現在のアドバイザーは「ティム」と呼んでいます。気のせいか「ティム」の方が「ドクター・チャーチ」と呼ぶよりも心理的な距離が縮まるというか、より近づきやすい存在に見えるような気になります(さすがに彼を「チャーチ」と呼ぶ気にはなれませんが)。
前回僕が「ドクター春海」と呼ばれるのを嫌うと言った理由はこういうところからなのです。でも「ドクター由」ならまだ何となくギャグっぽくて許せるのですが。ということで、何年か先にはこのペンネームが「ドクター由」に変わっていることを願いつつ頑張っております。
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4)短信3点
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カエル持出しで逮捕:
ペルーのリマ空港で最近、あるドイツ人がカエルとカブトムシを大量に持ち出そうとして当局に逮捕されるという事件がありました。いずれも熱帯にのみ生息する珍しいものだとかで、カエル450匹、カブトムシは「数種類」持ち出そうとして見つかってしまった。それらの生き物を販売目的で持ち出したのではと疑われているらしいのですが、「犯人」は、フランクフルトの自宅付近で「動物園を開きたかったので・・・」と主張しているそうなのであります。
イヌにヒットラー敬礼を教えて逮捕:
これもドイツ人の話題で、自分が飼っているイヌに例の「ハイル・ヒットラー!(Heil Hitler)」を教え込んだビジネスマンが、反ネオナチ活動法に違反した罪で約2万円の罰金と13ヵ月の執行猶予付き有罪となってしまったということです。54歳になるローランド・タインなる人物で、自分のイヌにアドルフという名前をつけ、ヒットラーの顔が刷り込まれたTシャツを着たりするという趣味があったのですが、イヌのアドルフと散歩しながら、外人が歩いてくるのを見ると「お坐り、敬礼!(Sit! Give the salute!)」と大声で命令して怖がらせたという。有罪判決に対して弁護側は「イヌにハイル・ヒットラーを教えたら罪になるなんて・・・」とイマイチ納得いっていないのだとか。
不適切?な紙おむつの商標:
北京のビジネスマンがブッシュ大統領を髣髴とさせるブランドの紙オムツを商標登録申請して「多分受理されないのでは?」といわれています。新華社が伝えるニュースで、この人の故郷の方言として「ブッシュ(Bushi)」というのがあり、それは「濡れない(not wet)」という意味なんだそうです。で、この名前のオムツを売り出せばバカ売れ間違いなしというわけで商標登録の申請をいったのですが、名前が名前だけに受理はされないだろうというのが大方の意見。答えが分かるのは16ヶ月後だそうですが、中国では化粧品のブランドネームに「ルインスキー」(クリントン大統領のガールフレンド)というのが申請されて却下されたことがあるそうです。紙おむつに「ブッシュ」はまずいよな、やぱし。
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5)むささびMの<お母さんたちの英語・試み・その2> |
英単語がひとつひとつバラバラに引き出しに入っているような状態のお母さんたちによると、英語で何かを言おうとすると、せいぜい4つか5つの単語で出来たIt is fine today. My son went to school.のような 短い文しか言えないのがイチバン情けないと感じるとのこと。 そこで、高校時代に習ったように、英語はどんなに長い文でも5つの文型から成り立っているのだということを説明し、実感してもらうためにそこそこの量の英文記事を実際に分析してもらう作業をしてもらった。いわゆる(1)SV(2)SVC(3)SVO(4)SVOO(5)SVOCというやつである。
「うー・・・ワカンナイナ・・・」「あ、、アタマが痛くなる・・・」などと言いながら、確かに余り楽しそうにはしてくれなかった。しかし、それが終わった後で今度はbookと言う単語を私が一人の人に提示して、これを使って短い文を作るように言い、次の人はその文章のどこかに何かを付け加えてもう少し長い文にしてみる、という具合に次々に付け加えて文を長くしていくという作業に挑戦してもらった。メンバーは5人、2周半ぐらい回ったところでI bought a cake and an interesting book that my daughter wanted for her birthday when I went to Maruhiro for shopping by car last Monday. So she is very happy but she is worrying about being fat. . . .!! というところまで皆で長く作れた頃には、全員明らかに楽しそうな顔に変わっていたのは嬉しい驚きだった。
お母さんたちがこれを楽しいと感じる共通のセンスを持っていてくれたことが、私にはとりわけ嬉しかった。 これがお母さんたちの英語力進歩の何かのきっかけになってくれそうな気がする。この「お母さんたちのやり直し英語」を始めて6ヶ月が過ぎた。始めたばかりの頃を思い出してみると、彼女達の進歩(上達)は私の最初の予想より遥かに大きいと言える。
いわゆる「正しい英語」が口から出るようになったとは必ずしも言えないかもしれないが、少なくとも言いたい事をとりあえず口に出そう、そしてなるべく知ってる簡単な英語で言おうとする姿勢が着実に身に付いてきた事は感じるし、とにかく楽しそうに英語をやっていることが、彼女たちの更なる上達を約束してくれている何よりの証拠だと、私は確信している。
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6)編集後記 |
でもアパレルメーカーとしては必死でしょうね。ええ、ウォーキング・ジャケット開発の話です。考えてみると商品開発というのは面白いというか(場合によっては)非常に苦しい作業ではありますね。歩くことがブームである・・・特に爺さんたちが歩いている・・・彼らが飛びつきそうなものを開発せよ・・・というわけですね●で、あれほどウォーキングをイヤがっていた私がついに買ってしまったのが万歩計「奥の細道」。松尾芭蕉がたどった道を最後まで歩くことをテーマにしているもの。江戸・深川を出発して東北から裏日本を経て愛知県大垣まで約2000キロ、これを歩いてしまおうというわけです。せめて仙台くらいまではナントカしたい・・・なんちゃって、結構はまってしまったりして●奥の細道といえば、私が勝手思いついて、勝手に面白いと思い込んでしまっているのが「オークの細道」なる企画面白いから協力したい・・・という人はご一報ください。いないか、そんなヒマ人は!?●プロ野球のキャンプが始まって、もうすぐ春です。少しだけ日が長くなりました。 |